前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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ぼざろの小説を書きたい衝動がヤバくなってきた。同時並行で執筆できる方を尊敬する。


第207話 呪詛

 D-ABYSS(ディー・アビス)の実態を知った卯月達。

 しかし説明の過程でトラウマを思い出し、ナイーブな空気に。

 特に秋月の落ち込み方が酷かった。

 

 なので膝枕をし、頭を撫でて彼女を落ち着かせようとした。

 その効果は抜群。

 不安なんて何処へやら。安心しきった顔で寝息を立て始める。

 

 ちゃんと寝てる事を確認して、秋月を布団へ運ぶ。

 ちなみに加古はとっくに寝てる。

 ある種幼児退行している影響が、良い方向で働いていた。

 

「……ふぅー、一段落だぴょん」

「アンタはまだ寝ないの」

「それはオメーもだぴょん。うーちゃんは日課だけ済ませたら直ぐ寝るぴょん」

 

 と卯月は簡素な机に向かい、中から一冊のノートを取り出す。

 以前、日記として購入したノートである。

 

「……気のせいかしら。それすっごい久々に見た気がするんだけど」

「別に、毎日書いてる訳じゃないぴょん。紙代もタダじゃないし。書きたくなった時に書いてるぴょん」

「今日は書く日だってこと。そんなビックリするようなイベントあったかしら」

「出撃前だからだけど」

 

 日誌、とは称したが、半分くらいは遺書も交じってる。

 ガンビア・ベイ以降で特に感じたが、システム搭載艦の戦闘能力は異常極まる。その辺の姫級を相手取るのとは訳が違う。

 

 しかも固有の『能力』まで持ち始めた。

 ステルス化に、イロハ級の無限生成。今までより更に手強くなるのは必然。

 

 何時こっちが殺されても全然不思議じゃない。

 ここからはそういう戦いだ。

 

「遺書ねぇ……」

「満潮は書かないのかぴょん。書いてる艦娘はそれなりにいると思うんだけど」

「死ぬ前提で出撃する輩はいないわ。むしろ不吉がられる」

「そういうもん? 何も残さない方が後悔しそうだけど」

 

 この辺り、人の心が分からない。

 卯月は合理的に考えている。死ぬ可能性はゼロではない。なら遺書ぐらい残すのが妥当。

 それを残す、つまり死を前提に動く。

 これを嫌がる人の心理が、今の卯月には分からない。

 

「ま、何でもいいけど」

 

 分からないし興味もない。さっさと書いて寝よう。卯月は日誌に向き直る。

 

「…………」

 

 満潮は何とも言えない表情。

 人の心が分からないと言っておきながら、日誌はちゃんと書いている。

 一体どんな日誌を書いているのか? 

 案外、こいつの不安や絶望とかが吐露されてたりするんだろうか。

 

 卯月に気付かれない──は、聴覚によりムリなので、遠くから動かく覗き見る。幸い字が大きい方だったので、楽に確認できた。

 

『〇月〇日 今日は出撃前日。それの景気づけとしてこのうーちゃんが主役のパーティが開かれました。大御所艦娘も誰もが私を持ち上げ敬うのは最高です。夜になっても祝杯は終わりません。この私の武勇伝に誰もが耳を傾け』

 

 日記を読むのはそこで中断。

 速やかにコブラツイストを卯月に掛けた。

 

「急に何すんだぴょん!」

「台無しだからよ!?」

 

 ド正論であった。

 

「何もかもが吹き飛んだわ何を書いてんの!?」

「日誌を覗き見るなんて最低だぴょん!」

「三流妄想小説以下の代物じゃないのっ!」

 

 尚秋月達が寝てるので小声だ。

 

「まさか嘘八百を書いてるとは思わなかった! しかも何この内容! 今日の何がどうすればこうなるって言うの!?」

「そ、そこまで過剰反応することかぴょん!」

「するわよ! 半ば遺書とか言っといて内容コレ!? 黒歴史って単語知ってる!?」

「自分の鎮守府壊滅させた以上の黒歴史はないぴょん!」

「それは別ベクトルじゃない!」

「まぁ待て! それ以降は一気にマトモな方向へ転がるぴょん!」

「あ!?」

 

 コブラツイストを掛けたまま、腐れ日誌の続きを読む。

 

『──しかし! その時窓を割り、完全武装集団が私達を包囲したのだ! リーダーの赤城が言う。『この基地は我々が完全に包囲し』『イヤー!』完璧超人卯月は、卯月イヤーで襲撃を察知していた。くだらない口上を聞き終えるよりも素早く、テロリスト達を制圧! ピガーッ! ピガーッ! 次々に放たれるビームにより結晶化大爆発! 誰もが卯月を褒め称え』

 

 首を絞めるパワーを更に上げた。

 

「がががが何でだぴょん!」

「教室襲撃を夢想する中学生か! 赤城さん首謀者にすんなバレたら半殺しよ! それにビーム撃つな獣のパワー惜しいの!」

「いや……だって、ビームカッコ良いし……」

「シャラップッ!」

 

 ゴキッとヤバい音が鳴る。

 ぐりんと白目を剥いて、卯月は卒倒した。

 出撃前夜だと言うのに閉まらない主人公であった。

 半分ぐらい自業自得だが。

 

 しかし満潮は、再び日誌に目を通した。

 

 大半のページは同じ様に、超絶くだらない妄想小説で埋まっている。

 紙が勿体ないとか、どの口で言ってたんだろう。

 呆れ果てながらも、ページを捲る。

 予想が正しければ、多分──

 

「……やっぱり」

 

 最初の方のページ。

 初めて給与(金券)を貰い、この日誌を買った頃。

 まともな内容が書かれていた。

 

 つまり、カムフラージュである。

 まるでの嘘ではない。書きたいから書いている。

 けれども、妄想小説は、()()()()()()()を隠す意味合いが強かった。

 

 何故隠すのか。

 読めば理解できた。

 

 呪詛が綴られていた。

 

「……嘘つき……じゃないか、言わないだけか」

 

 それは、普段の様子からはとても考え辛い内容。

 しかし、冷静に考えれば、そう思って当然の内容。

 深海棲艦だけではない。

 人に対しても、艦娘に対しても、この世界の構造に対しても──執拗なまでの罵詈雑言。呪詛が書かれていた。

 

 口に出そうものなら(鎮守府によっては)不穏分子と解体処分されそうな文面。

 それを自覚してるから、こうやって日誌に吐き出したのだろう。

 

 けど、満潮はそこまで驚かなかった。

 当然だ、とさえ思った。

 あんな目に遭って、一切の不平不満が無い方がおかしい。

 

 満潮はその一ページだけ見て、日誌を閉じた。

 これ以上は見てはならない。

 本人が隠している事を、勝手に暴き立てるのは許されない。誰かに言う気もないし、心の中に留めておくつもりだ。

 

 それでも一ページだけ見た理由は。

 

「何やってんのかしら、私」

 

 満潮自身にも分からなかった。

 

 

 *

 

 

「何故か首回りが異常に痛むぴょん……何故だぴょん? 昨日はぐっすり眠れた筈なのに。何かの攻撃を受けたような」

 

 翌日、飛行艇のカーゴの中で卯月は唸っていた。

 ちょっと久々の登場。

 秋津洲ご自慢の二式大艇(輸送艇)である。

 日が昇る前に召集命令が下り、卯月達は目的地へと運ばれていた。

 

『特務隊の皆は久々かも! 秋津洲の二式大艇へようこそ! 短いけど快適なフライトを楽しむかもー!』

「ねぇ熊野。僕には輸送艇に見えるんだけど」

「シッ最上さん。考えてはいけません。正気を削られますわ」

 

 そこに触れてはいけない。共通認識である。

 

「秋月、ナンデそんな渋い顔してんだぴょん」

「……いえ、ちょっと、前の記憶が」

「前って、嫌な記憶あったっけ」

「ゲロ浴びさせた時でしょ」

「ああ」

「言わないで下さい……幾ら敬愛するお姉さまの物質とは言え、そういう趣味は……いえそれを越えてこそ」

「ヘイ秋月そこまでだっぴょん」

 

 頭をガクガク揺らし正気へ戻す。

 R-18Gタグは許されない。

 と、さっくり茶番を済ませた卯月は、改めてカーゴを見る。

 

「……全員ぴょん」

 

 卯月達前科組、秋月と最上、正規艦娘の不知火・飛鷹。

 前科戦線にいる全メンバーがカーゴ内にいるのは珍しく、錚々たる面々。

 更には──赤城までいる。

 

「……(ニッコリ)」

「遺書書かなきゃ」

「何で?」

 

 赤城に目をつけられた。条件反射的にそう思う。

 あの訓練で何回半殺しにあったのか。

 死の恐怖が本能まで叩き込まれた気がする。ぶっちゃけ仕事以外で顔を見たくない。

 

「まあ、うん、それだけ大事な任務って事でしょ」

「その通りです」

 

 スクっと不知火が立ち上がる。

 

「いつも通りになってきましたが、これから行われる作戦概要は今此処で説明します。ただ

 時間もそうないので、簡素に」

 

 理由の説明は要らない。防諜上とか、内通者を警戒したとか、説明の時間が惜しいとか、そんな理由だ。

 

「本作戦のターゲットはガンビア・ベイ。但し秋月さんや最上さんと違い、『撃沈』を裁定目的とします」

「捕獲じゃなくていーの?」

「はい。捕獲は余裕があったら。基本的に抹殺を想定してください」

 

 ガンビア・ベイの戦略的脅威度は尋常ではない。

 始末に失敗し、以降近海に出てこなくなったら、冗談抜きで国家転覆が想定される。

 大袈裟かもしれないが、それだけの敵だ。

 

「その上で本作戦は、他鎮守府との合同作戦となります」

「何処が参加するんだクマ」

「そこにいる通り、坏土大将の艦隊から赤城さんと三日月さん。あ、三日月さんは後で合流。憲兵隊からあきつ丸さん。藤鎮守府の全戦力です」

「え、ってことは、桃ちゃんにも会える!?」

「はい、会います」

「やったー! 久々にアイドル談義ができるよー!」

 

 遊びに行くのではないのだが? 

 と言いたいが、藤鎮守府のメンバーと会えて思う所があるのは卯月も同じ。

 嬉しいかもしれない、気まずいかもしれない。

 金剛達や松達は兎も角、殆ど接点のない面子も多い。

 

 神提督の話の結果、返って卯月を恨んでいるのもいる。

 睦月達なんかがそうだった。

 また顔を合わせた時、どういう反応が返ってくるか、不安なところがある。

 

「簡単な質問、いい?」

「どうぞ満潮さん」

「今まで、他部隊との連携はしてこなかったじゃない。何で今回はやるの?」

D-ABYSS(ディー・アビス)の正体が明らかになったからです。少なからず無差別感染するようなシステムではなかった。かつて警戒した様に、まるで知らない間に洗脳される事はあり得ない」

「後ろから~、撃たれないって分かったって事ですね~?」

「ポーラさんの仰る通りです。ただそれでも内通者を警戒するので、大規模作戦クラスはムリですが」

 

 なので参加しているのが、前科戦線を知る部隊だけなのだ。

 

 知ってるってだけで、敵視されてないかは別問題だが。

 ……まあ、会ってみなければ分らない。

 最悪作戦に支障をきたすことはないだろう。卯月は自分を納得させた。

 

 と決めた覚悟。

 直ぐに雲行きが怪しくなる。

 

「しかし作戦の第一段階は、貴女方前科組のみで行います。正規艦娘や赤城さん、藤鎮守府メンバーは非参加。状況によって憲兵隊を投入します」

 

 前科組だけでやれ。

 たったそれだけで、不穏さがビンビンになるのは何故か。

 この空気に相応しい爆弾を、不知火が投下した。

 

「まず鎮守府を制圧します」

 

 ほらね? 

 もしくはやっぱりね? 

 と全員思った。

 

「はい詳しい説明を求めるぴょん!」

「えー、時間ないんですが」

「いや流石にそれを説明なしはキツイクマ。こっちだって罪悪感があるクマ。特に卯月とかトラウマを踏んづけてるクマ」

「そうだぴょん! 厳重に抗議するぴょん!」

 

 マジで面倒そうな顔をする不知火。

 けどこれは譲れない。

 球磨の言った通りだ。鎮守府襲撃なんて卯月のトラウマを精密に抉り出す。戦ってる最中にフラッシュバックが起きかねない。

 

「分かりました。じゃあとりあえずこれ被って下さい」

「……ガスマスク、と、ローブ?」

「装備しなきゃ言いません」

 

 何でこんなのを付けるのか? 

 首を傾げながら装備する。

 顔がすっぽり覆われる。服もローブでぱっと見分からない。

 

「着たから説明するぴょん」

「その鎮守府が内通者である可能性を掴んだんです」

「今すぐ私を出せ! 艦娘だろーが人間だろーが関係ないね! 毛という毛を毟って殺してやる!」

 

 卯月の手首がドリルめいて大回転。

 そういう改造怪人っぽい。

 不知火は呆れた。

 

「……それマジなの」

「憲兵隊が必死で掴んだ情報です」

「あの~、それにどう、ガンビア・ベイが関わってくるんですか~?」

「胸糞悪くなりますよ?」

「構わないぴょん」

「『敵』に艦娘を売却しています。顔無しの原料として。その取引の回収役としてガンビア・ベイが現れる」

 

 今度こそは全員口を開いた。

 こういうのは何だが、前科組は全員最低限まともだ。

 

 底辺の倫理観。

 しかし、それでも分かる。

 単なる裏切りどころではなく、非人道的兵器に仕立てる為の人身売買。

 最低の行為だ。

 

「……ガンビア・ベイが?」

「獣の暴走で瑞鶴とウォースパイトは負傷しています。現場の痕跡から判断したのですが、あれは特殊な傷で、簡単に再生とはいかない。まだ治療に専念している筈。動けるのがガンビア・ベイしかいないのです」

 

 補足すると、万一の時ガンビア・ベイは最適である。

 何かあると即刻逃亡、逃げ足も速い、あまつ防御力も異様に高い。トドメにステルス迷彩装備。獣化しきる前に逃げたのもある。

 

 一番捕まりにくい。

 だから適任。

 

「敵は憶病です。取引がパアになるより、取引役が捕まり情報が洩れる方を恐れます。よって現れるのはガンビア・ベイ。しかも他二隻はなし。彼女を仕留める事ができる最初にして最後にチャンスが今です」

「……それは分かったんですが、何故前科組だけで?」

「そんなの万一失敗した時全責任を擦り付ける必要があるからですが?」

「いや酷くないですか?」

「秋月、気にしちゃダメ。これで通常運転ぴょん」

 

 元からして前科持ちだから問題ないね? 

 という理屈である。

 ちなみに憲兵隊は、『前科戦線が反乱したから制圧します!』という名目で乱入予定。現場からの逃亡者を抑えるのが仕事になる。

 

「一応聞くけど、最初から憲兵隊はダメなの」

「……考えたくないのですが、鎮守府内部に深海棲艦がいる可能性を否定できません。呪いを何かしらの方法で封じて、囲っている。そうだった場合憲兵隊は逆に足手纏いです。よって作戦の目的は二つ」

 

 不知火は指先を二本立てた。

 

「取引の首謀者である『提督』の確保。深海棲艦の有無を特定する為『鎮守府制圧』」

「提督は殺していいぴょん?」

「あまり良くないです。場合によっては尋問して取引場所を特定しないといけないので」

「……ん? 待つクマ。取引場所分かってないクマ?」

「はい。候補は絞りましたが、特定はまだです。鎮守府を制圧後、憲兵隊の捜索や尋問で確定させます。更にこの作戦は『時間』が鍵です」

 

 不知火は指先を三本立てた。

 

「制限時間は30分です」

「……ありゃ、なんか、短いですね~」

「内通者が一人だけとは限らない。この襲撃も黒幕に知られるでしょう。黒幕はガンビア・ベイに帰還命令を出そうとする……ですがそれは叶わない。自分に辿り着かれる事を恐れる黒幕は、逆探知のリスクがある無線ができない」

 

 勿論、それでもと無線した時の為、逆探知部隊が展開済みだ。

 

「無線が来ず、状況を知らないガンビア・ベイはそのまま来る。しかしその時迎撃体勢が出来ていなければ作戦は成り立たない。これまでの敵の出撃の出現タイミングから逆算した到着時間までの猶予が30分。その時間でないと準備が間に合わない……作戦第二段階は、第一段階が成功した時に説明します」

 

 その瞬間、カーゴが一気に傾きだした。

 非出撃組のシートベルトは締まったまま。前科組のベルトだけが外れる。

 あ、これ覚えがある。

 

「あ、そうだった。鎮守府にいる大半の艦娘や人間は、自分のところが内通者だと知らないと思うので、よろしくお願いします」

「それギリギリで説明する事!?」

 

 卯月の抗議は届かない。

 既に彼女達はカーゴから叩き出されていた。

 

 ガンビア・ベイ討伐作戦。

 第一段階。

 鎮守府制圧が始まった。

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