前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第209話 鎮守府強襲

 結論から言って、やはり強かった。

 卯月──ではなく、敵方でもなく、ポーラが。

 時間制限の中、発電施設を探して走り回る侵入者ご一行。

 

 当然、異変を感じた連中や警備とエンカウントする回数も増えるのが道理。

 なのだが、実際はそこまで増大しない。

 接触前に始末されるから。

 

「ストップ、だぴょん」

 

 音を聞く。

 左の曲がり角から誰かが走ってくる。

 それを卯月が告げた途端、ポーラが艤装を構えた。

 

「うー……手が震えてきました。Liquore(おしゃけ)の補給が必要です。忙しい時はコレに限ります。えへへパック酒~、陳腐な味がお腹に染み渡りますねぇ、あっそうだcecchino(狙撃)

 

 パック酒をストローで吸いながら、いきなり発砲。

 こう書くと、拳銃を片手に泥酔する危険人物にしか聞こえない。

 なのに、こんな態度なのに。

 

「……命中よ」

 

 狙撃については完璧だった。

 飛び出て不意打ちを決めようとしたのだろうが、逆にカウンター。出た瞬間、頭に攻撃を喰らい、意識を刈り取られる。

 

「……どうしてアレで、あんな強いんだぴょん」

「逆に考えなさい。アレが許されるぐらい強いから、アイツは解体処分されてないのよ」

「私は、酷い苦労してんのにぃ」

 

 そんな愚痴言っても意味ないんだけどさ。

 卯月は溜息を吐く。

 ポーラの狙撃技術のお陰で、妨害は殆ど受けていない。

 警戒を怠り、慢心して出てくる輩は。即座に無力化されていた。

 

 警戒し、慎重に出てくる輩もいる。

 そいつらもどっちみち、一瞬で無力化されていく。

 こっちはポーラの狙撃ではない。

 それを始末していくのは、目を光らせる卯月だ。

 

「恨まないでおくれぴょん?」

 

 ガスマスク越しでも分かる程目を輝かせ、敵に詰め寄る。

 艤装も背負っているので、こちらが艦娘なのは分かる。

 同じ艦娘に襲われている。

 多少なりとも戸惑いがある。訓練してもゼロにはできない。

 

 卯月はそれがゼロだ。

 赤城との訓練で、卯月は直ぐ『殺意』全開で戦えるようになった。

 逡巡が一瞬ある相手と、ないこちら。

 

 その刹那に満たない一瞬で、卯月は距離を詰める。

 まともに艤装を使えない距離まで迫る。

 そうして格闘戦をすべきか選択を迫り──選ぶ間もなく始末する。

 

「今更だけど、D-ABYSS(ディー・アビス)はやっぱり強いぴょん……相手も搭載艦だから、最近実感なかったけど」

「……そうね」

「む、どうしたぴょん。寂しい返事だぴょん」

 

 満潮は何も言わない。

 ポーラは……尊敬などしないが狙撃は凄い。卯月も凄い戦闘力になっていると思った。

 じゃあ、私は──満潮は首を振る。

 くだらない、そんな事を思うのは二流の証拠だ。任務中に余計な事を考えてはいけない。

 

「──聞こえた! 発電機の音だぴょん!」

 

 その声に浮いてた意識が戻される。

 何やってんだ、ぼんやりするなんて。

 満潮は首を振り、雑念を叩き出す。

 

「どっちなの」

「あっちだぴょん」

「あっち? Ricevuto(了解)~」

 

 違う方向へ駆けて行ったポーラは完全無視。音のする方へ向かう。

 少し走ると、そこへ辿り着く。

 当初の推測通り地下区画に設置されていたが、そこへ行ける階段はかなり奥まった所にあった。こういう時の為に隠しているのだ。

 まあ、裏切ってるのは、この鎮守府の方なのだが。

 

「満潮」

「……ええ」

 

 しかし直ぐに下りたりはしない。

 卯月は耳で、満潮は経験則で理解している。

 基地が襲撃された時、何処から制圧されるのか。敵もそれを分かっている。

 

 下り階段の踊り場まで下りた、その時。

 

 駆逐艦の艦娘が現れた。

 

 襲撃は流石に気づかれている──大事にしたくないのか、寝ている艦娘を起こす気配はない──巡回の艦娘は、出会った次第に無力化している。

 手練れと判断し、仕留める可能性を上げる為、待ち伏せしてたのだ。

 

 三隻、狭い通路だが小回りが利く。

 驚きはない。予想通り。

 こんな所で戦うなら、駆逐艦を運用するのが定石。

 

「解放」

 

 ボソリ、呟く。

 システムが作動する。

 目が光る。卯月は踏み込み階段下へ一気に踏み込んだ。

 

 いきなり目が光り出したのと、発電区画へ接近された焦り、包囲網を抜けられたこと。同じ艦娘が発していると思えない殺意。

 敵艦娘の意識は卯月へ向いた。

 その背中へ、満潮が主砲を向ける。

 

「接近!」

 

 リーダーが指示を出す。

 三人の内、二人が卯月へ追従する。

 卯月の方が危険であり、迫れば、満潮が巻き添えを恐れ、撃てなくなると判断。

 

 彼女達は、ミスを犯した。

 卯月は悪意を以って嘲笑する。

 

「残念、作戦通り、だぴょん」

 

 卯月が腕を振るう。

 その手にはワイヤーが握られていた。

 

 突如、空中にワイヤーが張られた。

 

 まあ空中と言っても、足元から数十センチ程度。

 しかし、敵の足を引っかけるには十分な高さ。

 

 卯月へ追従しようとした二人の艦娘は、見事それに引っかかった。

 

「!?」

 

 何が起きたのか、気付いたのはリーダーの艦娘。

 卯月が階段を下りる前に、既に仕込みはされていた。

 弾丸を杭替わりにして、ワイヤーを固定。留め具を作った状態で、それを持ち続けていたのだ。

 緩ませたそれを一気に引っ張れば、ワイヤーが張られる。

 

「騙しの手品……って程でもないけれど」

 

 卯月はナイフで一人目の首を切った。

 切ったと言っても掠った程度。そうしないと殺してしまう。

 切断箇所が融解する。溶けたそれのせいで気道が塞がり、呼吸が上手くできなくなり、一人目が無力化された。

 

 それとほぼ同時、満潮は砲撃をする。

 ワイヤーに引っかかり、空中に投げ出されていた敵には回避不能。

 間にいたリーダーは間に合わなかった。

 卯月が近くにいるので、巻き添えを恐れて撃たないと思っていたからだ。

 

 しかし満潮は撃った。

 砲弾はリーダーの脇を通り抜け、艤装へ直撃する。

 その勢いのまま地面に叩きつけられ、二人目は気絶した。

 

 だが卯月も巻き添えに──傷一つ負っていなかった。爆発に巻き込まれたのに。

 その答えは卯月の片手にあった。

 先に無力化された一人目が握られていた。

 

 卯月はそれを盾にしたのだ。

 重度の火傷、早く治療しなければ、後遺症もあり得るかもしれない。

 

「お前!」

 

 リーダーは、この襲撃者に激怒した。

 ──原因は自分たちの提督にある訳だが。

 知らないのは結構不憫だなと、卯月は他人事に憐れんだ。

 

 それと、既に詰んでいるのに気づいていないのにも。

 

「ずぎゅーん」

 

 気の抜けたポーラの声。

 聴覚が鋭い卯月にだけ聞こえたマヌケな声。

 対象には届かない死刑宣告。

 

 ポーラの狙撃が、リーダー艦娘の喉を貫いた。

 

 彼女に油断はなかった。

 それでも狙撃を喰らった。

 ムリもない、と卯月は思う。

 跳弾を繰り返し、階段の踊り場まで到達させた挙句、喉に命中とか、完全に頭おかしい芸当だ。

 

 とは言え、普通の狙撃銃を用いたことには感謝して貰いたい。

 艤装の主砲を使っていたら、今頃頭部が弾けていたのだから。

 

「がっ……」

「おっと後始末」

「──ッ」

 

 呼吸ができなくても戦闘は可能だ。

 憂いは絶たなければならない。卯月は主砲を頭部へぶつけ、彼女を気絶させた。

 死んではいないようだ。

 ちょっと呼吸困難で瀕死なだけだ。

 

「……気絶させたから、応急処置はしとくわよ」

「えー、いる?」

「いるに決まってんでしょ。こいつらに罪はないんだから」

「不幸な事故でしたで済ませた方が楽だと思うぴょん」

「運の値がマイナスの癖に何言ってんの」

「今関係ないぴょん!」

Velocemente(早く)、行きませんか?」

 

 何時の間にか戻ってきたポーラに正論を言われた。

 あのポーラにである。

 余りの屈辱に落ち込みながら、卯月達は地下区画へ向かう。満潮は応急処置が終わってから飛んで来る。

 

 目の前まで近づいた事で、音は鮮明に聞こえた。

 間違いない、この部屋が発電区画だ。

 ただ、分厚いシェルターで護られていて、入れそうになかった。

 

「封鎖されてるぴょん」

「ノープロブレムで~す、その為に火力要員で来てるんですから。えっと、ちょっと待っててくださいね~」

 

 ポーラはトコトコ扉へ近づく。

 艤装にくっ付いていた黒い粘土状の塊を大量にくっつけていく。プラスチック爆弾だ。そして離れてから、主砲ではなく機銃を撃つ。

 盛大な爆発が起きた。

 

Bene(よし)

「重巡とか関係ないぴょん!」

 

 ポーラが付いてきた意味ないじゃん。卯月は叫んだ。

 

「え? いや、無駄弾は嫌じゃーないですかー?」

「どうしてお前そういう時真面目になるの?」

 

 本当にこいつ何なんだろうか? 

 どこまでいってもポーラは理解できない。いや四六時中アルコール漬けの脳味噌を理解する方が間違ってるか。

 

「それに~、Proiettile()は、とっといた方が無難ですよ。あ~、でもこれは……ちょっとInaspettato(予想外)?」

「え……あ?」

 

 相当量の爆薬を使用したお陰か、扉はちゃんと破壊されていた。

 しかし卯月は違和感を覚える。

 何かが聞こえる。

 今まで扉で音が遮断されていた、それだけ弱い音。

 いやけど、()()()()()()()()()()()()

 

「この、流れは──」

 

 言いかけた瞬間、爆炎の向こう側から──ナイフが飛んできた。

 僅かに察知していたお陰で、首を動かしギリギリで回避。

 何だナイフか。

 と思ったのも束の間。

 後ろへ飛んでったナイフは、ぶつかった壁を砕いたのだ。

 

「何この威力!?」

 

 追い付いてきた満潮は、偶々それに巻き込まれた。

 霧散した壁の欠片に被弾、僅かながらダメージを負う。

 軍事施設の壁を砕くナイフ投擲。

 直撃したら……卯月は震える。そして、それを投げた奴と相対する。

 

「……こーゆーの、何て言うんですっけー、ええっと一石二鳥?」

「藪から蛇とも言うぴょん」

「蛇……マムシ酒ってどんな味なんですかね~、呑んだことないです~」

 

 飲んだくれは無視。問題は目の前の敵。

 

「何故だぴょん。どうして、提督がここにいる?」

 

 人身売買をした裏切り者。

 最低の提督が、発電区画内で待ち構えていたのだ。

 

「まさか、自分が最終防衛ラインのつもりなの?」

「違うぴょん。きっとこれは窓際属レベル100とかだぴょん。執務室にすら居にくいから、こんな所で寂しく業務を……うっ涙が!」

「それ提督って言えんの……?」

「人身売買をするクズが提督だって?」

「言わなかったわ」

 

 茶番は兎も角、提督がここにいるのは、偶然ではない。

 卯月達を待ち構えていたのだ。

 油断もならない。先程のナイフは強烈だ。被弾箇所によっては致命傷となる。

 

「けど、分からないのが一点ある」

「……」

「このわたし、ちょっとした経験のお陰で、うっすらとエネルギーの流れが分かる」

 

 自分の名前は言わない。そんなマヌケなことはやらない。

 

「深海のエネルギーが、流れが分かる。でも分かんない。どーして、そのエネルギーが、()()()()()()()()()()()()()()

 

 態々説明するまでもないが。

 深海のエネルギーは、支配海域か深海棲艦そのもの。後は怨霊とかその辺りに宿る。

 生きている生身の人間から発生するなんてあり得ない。

 

 眼前の敵はあり得ていた。

 

 今作動しているD-ABYSS(ディー・アビス)の供給源は、目の前の提督だったのだ。

 

「……死ね、侵入者、共が」

 

 問いへの返答は、再びのナイフ投擲。

 この提督が敵だという、決定的な証拠であった。

 

「裏切者の癖に、よくそんな事が言えるわね」

 

 ナイフであろうと油断はしない。

 投擲されたナイフは壁も砕く。砕けた破片も攻撃になる。満潮は正確な連続射撃でナイフを撃ち落とす。

 その時、懐に提督が踏み込んでいた。

 

「早い──けどぉ!」

「油断すんな満潮、絶対何かあるぴょん!」

「分かってるわ!」

 

 しかし迎撃しない理由はない。

 角度を変え砲撃を放つ。ただし直撃ではない。掠める軌道──それでも人間を気絶させるには十分な衝撃。

 

 そこで予想外のことは起きた。

 

 提督は素手で砲弾を弾いた。

 

「!?」

 

 あり得ない事態に満潮は硬直。その隙に提督が隠していたリボルバーを撃つ。脇腹に当たれば艦娘でもダメージになる。

 

「油断すんなって言ったっぴょん!」

 

 そこへ卯月が割り込む。まだ残っていたワイヤーを引っ張りピンと張らせる。

 弾丸を弾くことはできないが、軌道変更なら可能。

 銃弾は脇腹を掠め、少し出血させるだけに留まった。

 

「これで貸し一つだぴょん。後でとんでもねぇ生き恥命令を下してやる、感動に打ち震えるが良いぞよ!」

「ごめん被るわ! それより敵見なさい!」

「ふふーん見なくてもこのうーちゃ、私の聴力は全てを捉えているんだぴょん。見よこの圧倒的パワー!」

 

 名前言いかけたのは気のせいである。

 よそ見をしたまま、卯月は主砲を鈍器代わりに振るう。

 勿論システムは作動済み、制限は掛っているが、人間をミンチにするには十分な膂力。

 

 蹴り込もうとしていた提督の足が、風船みたいに弾けた。

 

「これでうーちゃんの勝利となった!」

「名前!」

「あ、でももう勝ったし関係な――」

 

 これでも油断はしていない。ぱっと見信じ難いが真面目。

 表面上の態度は兎も角、心根は冷え切っている。それが殺意の力だ。

 だから慢心はしていない。

 

 だとしても。

 

「は?」

 

 いっそ漫画みたいなノリで。

 敵の足が──即再生したのは、予想外でしかなかった。

 

「あ!?」

 

 ガードは間に合わない。勢いを残したままの渾身の蹴りが、卯月の側頭部へ迫った。

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