前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

210 / 221
第210話 鎮守府制圧

 卯月の思考は停止寸前だった。

 足をぶっ飛ばし、提督の蹴りを阻止したと思ったのに、その足が瞬時に再生した。

 どうなってんだ、提督は皆こんな能力を持ってるのか。

 無論、そんな訳がない。

 この裏切者が異常なだけだ。

 

「くらうかぁ!」

 

 殺意が、卯月を突き動かす。

 止まりかけた思考を再起動、生存の為の一手を試みる。

 いけるか? いや、やるしかない。

 と、卯月は大口を開き、顔面で蹴りを受けた。

 

「何!?」

ふぉめふぁ(止めた)

 

 システムで身体能力は強化されている。

 そこには、咬合力も入ってる。

 歯が何本か軋んでいるが、文字通り喰らい付いて、蹴りを食い止めたのだ。

 

 形勢逆転、片足を止められた提督は、此処から動けない。

 卯月は無防備なら鳩尾に、両足で蹴りを叩き込んだ。

 

「──ッ!」

ふぁいふぉうふぁひへほ(内臓弾けろ)!」

 

 肉に圧力が掛かり、ミンチにされる触感。骨が折れて内臓を抉る音。駆逐艦であっても、艦娘の人間の差は歴然だ。ましてやシステムで強化されているなら、尚更だ。

 

「かーッ! 汚ねぇ! おっさんの足喰っちまったぴょん!」

 

 ゲーッとジェスチャーしながら咽る。

 制服越しとは言え生理的に気持ち悪い。口の中に足毛入ってないよな? 気になってしょうがない。

 それと並行して、警戒は失わない。

 予想通りなら、()()()

 

「……化け物、が」

 

 内臓をシェイクされた筈の人間が、血を溢しながらも立ち上がった。

 

「どの口で言ってんの」

「人間の、口、だが」

「ふーん。人間ねー」

 

 これが化け物なのは確定。それはそれとして、卯月はそれを凝視する。

 

「ところでお腹から飛び出てるそれなーに?」

 

 蹴りの衝撃で制服が弾けていた。

 結構なパワーで蹴ったので、腹も少し破裂して、内臓がまろび出ていた。

 手加減? 

 脚が再生した時点で不要である。

 

 問題は、再生した腹部だ。

 再生過程で飛び出たのだろうか? 

 ちょびっとだが『触手』が見えた。

 

「……何となくだけど、カラクリが、見えてきた気がするぴょん」

 

 何故、再生するのか。

 何故、深海の力が、この提督から流れてくるのか。

 しかし今は、無力化するのが優先だ。

 できればだけど。

 場合によっちゃ始末するけど。

 

「……はい、ええ、そうですか」

「あ?」

「始末、する」

「何だコイツ急に」

 

 突然提督は戦法を変えた。

 懐に持っていた拳銃を滅茶苦茶に撃ちながら、距離を詰めてきたのだ。

 致命傷にはならない。口径が小さい。けど余計なダメージにはなる。

 

「シールド投げまーす、使ってください~」

「感謝だぴょん」

 

 後方にいたポーラが、プラスチック爆弾で破壊した扉を投げ飛ばす。前衛の卯月、満潮はそれに隠れながら、砲撃を叩き込む。

 回避するならするで構わない、流れ弾が発電設備を破壊してくれる。

 

「それは、阻止、する」

 

 提督は徒手空拳で砲弾を止める。時折骨肉が弾けるが、どうせ再生するからとお構いなし。

 改めて見て、やはり異常だと卯月は思った。

 憲兵隊でも此処までは早々やらない、いや、やれない。

 

「ムリしてでも、急ぐべきだと思うぴょん。ダメージ覚悟で!」

「ダメよ、この後も戦闘あるのよ!」

「違う、さっきの様子変だったぴょん。あいつ誰かと話してたじゃん!」

 

 突撃してくる前。独り言のように聞こえたが、そんな筈はない。

 ただの突撃じゃない。

 何かを目論んでいる。

 しかし、此処までの時間経過が、提督に味方した。

 

「後ろからnemico()、来ますよ~」

「げぇ、止めてくれだぴょん!」

「あの~、それが人間の皆様です。どーしますー?私的には、やっちゃって構わないですけど~」

 

 挟み撃ちは阻止しなければ。そう思ったのに、やって来たのは武装した人間達。

 それも憲兵には見えない。

 ツナギを着た姿といい、単なるスタッフにしか見えない。

 

 その彼らも、通路でドンパチ撃ち合っているのを見て、その場で止まってしまう。此処までは来ない。安全地帯から見ているだけ。

 

 提督が呼んだのだ、だが何故呼んだ? 

 戦力にもならない面子を、どうして此処へ? 

 

「射程、距離、内、だ」

 

 卯月に予感が走った。

 最悪過ぎる単語が脳裏を過る。

 

 ()()()()()()()()()()

 

「始末で決定だぴょん!」

「は!?」

 

 躊躇している時間はない。卯月は拳銃の前に現れ、大量の爆雷をばら撒き、そこ目掛けて主砲を叩き込む。

 事情聴取ができない、拷問もできなくなる、けどしないと()()()()()()

 予想通りなら、無力化しても意味がない。

 

 しかし卯月は出遅れた。

 

 大爆発の直前、卯月は見てしまった。

 

 提督の腹部が弾けるのを。

 

「伏せてッ!」

 

 満潮の叫びは、事情も知らない整備スタッフ達に向けられていた。

 悲鳴とも言える絶叫に、彼らは指示に従う。

 直後、爆雷を巻き込んだ爆風が地下区画一帯を揺らした。

 

「……やったの?」

 

 対ショック姿勢の満潮が頭を上げる。

 と言いつつ、死んだと思っている。あの爆発の直撃では、流石に死んだだろう。

 しかし、これで拷問ができなくなった。

 情報を得にくくなった事に、満潮は顔を顰める。

 

「ああ、やったぴょん。()()()

 

 爆炎が収まる。

 後には何も無かった。服の切れ端と、提督の肉片、後は触手の残骸ぐらい。

 発電設備は多少破損した程度。

 鎮守府のものとなると、相当頑丈に作られている模様。やはり重巡級の主砲でなければ破壊は難しい──とまで思った所で、気付く。

 

「触手……?」

「……あれ~、そのtentacoli(触手)、見覚えが……えーと、んーと、よいしょっと」

 

 強いゼロの缶をプシュっとあけ、一気に飲み干すポーラ。

 これが彼女にとっての景気付け。

 彼女(の肝臓)は狂っていた。

 アルコールでプッシュされたポーラの脳味噌が答えを導き出す。

 

「あ! Mio! 機雷です!」

「機雷って、あ、あの深海忌雷のこと!?」

「へー、そんなのあんのかぴょん」

 

 タコっぽい見た目だが、通りがかった艦娘を触手で拘束し、零距離自爆を慣行するという普通の危険兵器、それが深海忌雷だ。

 疑問が解決した二人は、表情をスッキリさせる。

 

「待って、どうして、それが?」

 

 提督の腹部から覗いていた触手は、深海忌雷のものだった。

 彼の体内には、最初から深海忌雷があったのだ。

 深海の力は、この機雷から流れていたのである。

 

「直前、見えたぴょん」

 

 卯月の眼は紅く光ったまま。システムを入れたまま。戦闘状態を解除しないまま。

 

「機雷は、提督ごと自爆したんだ。きっと証拠隠滅と、戦力増強……時間稼ぎが目的だと、思うぴょん」

 

 発電設備に背を向け、入口へ砲を向ける。

 

「機雷も深海棲艦。爆発したのなら、より飛び散るのは当然」

 

 耳に届いている。

 骨が軋み、魂が悲鳴を上げながら壊れていくのが。

 肉が歪んで変貌する異音は、二人にも聞こえた。

 

 振り返った時見えた。

 

 通路入口にイロハ級が犇めているのが。

 

「スタッフを呼んだのは、この為だ!」

 

 本気で吠えた。

 冷や汗が止まらない。

 卯月の叫びを引き金に、事態は動く。

 呪いに侵され変容した元人間達が、イロハ級になり果てて襲い掛かってくる。

 

「急げ! 『感染』が始まるぞーッ!」

 

 目の前でトラウマが再現されようとしている。

 

 

 

 

 卯月を敵とみなしたのは、イロハ級の一部だけ。

 何隻かは廊下を上がり、地上へ出ようとしていた。

 それは深海棲艦の本能的行動。

 より呪いを拡散させ、被害を広げようとする生態行動に基づく。

 

 それに気づいたポーラの判断は、酔ってるのに誰よりも早かった。

 

「行き止まりにしちゃいましょー」

 

 廊下の天井目掛けて連続砲撃。

 辺りの壁を破壊し、地上への通路を瓦礫で埋める。

 無論、何発も砲撃すれば突破される。けど時間は稼げる。

 

「システムのパワーを全開だッ! 援護お願いだぴょん!」

 

 本当に時間がない。変異したての今なら、駆逐艦のパワーで始末できる。

 そして確実に始末する。砲撃では一撃で始末できない。狙うは絶対的な『致命傷』。

 満潮の返事はない、する必要もない。

 両手で砲を握り、心臓や頭部目掛けて乱射、当たんなくていい、動きを妨害できればいい、そうして距離を詰めた所で、勢いのまま──ナイフを突き立てた。

 

 修復誘発剤により、胸部外殻が融解。

 卯月はそこへ手を突っ込み心臓を引きずり出す。更に握り潰した心臓を投げ飛ばし、血飛沫で目潰し。今度は真上へ飛び、全体重を掛けて頭部を捩じ切る。

 

 しかし空中にいる瞬間は無防備、他のイロハ級が狙ってくる。

 

 その為に満潮が援護してくれる。

 

 狙いを定めた所へ砲撃し弾道を逸らす。再発射までの隙が生まれた。卯月は再び距離を詰め、ナイフで脹脛を切りつける。

 脚の筋が溶け、姿勢が崩れた、そこへ回転蹴りを叩き込み頭蓋骨粉砕。

 

 これで、こちら側のイロハ級は排除完了。

 問題は上へ行こうとしていた連中だが。

 

「あ、終わりました~?」

 

 既に始末し切っていた。

 何なら卯月よりも早く排除できていた。

 

「釈然としないぴょん……」

 

 酔っぱらいの癖に。酔っぱらいだから躊躇がないのか? 考えるの止めといた方がいい気がしてきた。

 しかしまた事態は収束していない。

 あとちょっと、後始末が要る。

 

「でも……どうするの、イロハ級を倒しても、呪いは残るわ……」

「それについては、このうーちゃんに任せるのだぴょん」

 

 卯月は瓦礫の山も含め、地下区画の壁や床をぺたぺたと触る。

 やがて、ある場所を念入りに触り、「見つけた」と呟いた。

 

「もう、(ビースト)にはなれないけど、あの経験はちゃんとうーちゃんの中で生きている」

 

 システムの出力が上がっていく、高まる負荷に──今までは身体の崩壊だったが──脳味噌が悲鳴を上げだし、鼻から血が垂れてくるのを卯月は感じる。

 勿論、そんなのおかまいなしで続ける。

 

「深海の力とは、つまり深海の呪いでもある。呪いは強いパワーなんだ。だからこそ捕捉ができる……見つけたぴょん、中心を」

 

 それは視覚的には見れない現象。

 しかし艦娘という種族故か、体感的に感じることはできた。

 

「呪いが、卯月に集まっていく……」

 

 満潮には何となくだが見覚えがあった。

 この力が集まっていく様子、呪いまでもが吸収されていく様子。

 あの時のようだ。

 卯月が、獣に変貌した時のよう。

 しかし、変貌はしない。

 

「ぎ……が……」

 

 快楽装置を切ったから、今の卯月はすさまじい激痛を感じている。

 けれども、苦渋の表情で堪え、拡散しかけた呪いを、一つも余さず取り込んでいき──プツリ、と糸が切れたように倒れ込んだ。

 

「か、完了……ぴょん」

「……マジで、やりやがった、コイツ」

 

 地上へ出た呪いを消す方法は殆どない。あったとしても大火力兵器で土地諸共消すぐらい。

 それをせず、卯月は単独で浄化を成し遂げた。

 表沙汰には決してならないが、戦史が変わるレベルの偉業である。

 尤も方法が方法なので、参考にはならない。

 

 それに実行者がこの始末。実戦では役に立たない。

 

「気持ち悪い……すっげぇ吐き気がする。頭もガンガンして割れそう……寒気までするぴょん……」

「まるで二日酔いですねー、お味噌汁呑みます?」

「いらねぇ……」

 

 インスタント味噌汁(アサリ)がポンと置かれた。

 こんなの常備するなら酒控えろよ。そう突っ込む気力も湧かない。

 

「……信じられないわ」

 

 満潮は呟いた。

 それは、呪いが消えたこと()()ではない。

 呪いを一身に受けて、卯月自身が平然としている事。

 二日酔いめいた症状で収まっている。それが信じ難かった。

 

 

 

 

 卯月が倒れている間、満潮とポーラは協力して発電施設を破壊。

 それとほぼ同時に、艤装保管室を制圧したと連絡。

 そのタイミングで憲兵隊が殺到。非武装の艦娘や人間を制圧することは、彼らにとっては赤子の手をひねるのも同然。

 

 間もなくして、裏切者の鎮守府は制圧された。

 そのまま憲兵隊は資料を片端から引っ繰り返し、取引場所の特定を急ぐ。本当に時間がないので、卯月達も資料探しに参加。

 

 本当なら、提督を拷問して情報を得る筈だったのだが。

 

「──意味はなかった。そう思いますわ」

 

 一緒に資料を漁る熊野が言い切った。

 

「拷問途中であっても、体内に潜んでいた深海忌雷が起爆。拷問していた憲兵が犠牲になっていたでしょうね」

「うーん、気絶させるべきだったぴょん?」

「遠隔起爆できそうな気がしますわ。何となくですけど」

 

 油断してはならない。相手は証拠隠滅の為に街一個を消しにかかる輩。だからこそ、鎮守府のスタッフを贄にした。

 

「生存者からの聞き取りはできてるぴょん?」

「はい。あきつ丸さんが主導でやってるようです」

「……普通の聞き取りだよね?」

「まず普通の定義から議論しましょうね」

 

 ダメっぽい。まあ、私の悪評が広まらなければ良いか。卯月はドライだった。

 彼女は知らない。

 益々悪化している事は、まだ知らない。

 その時、扉が開いた。

 

「卯月、熊野! 資料集めは終わりだクマ!」

「特定できたのかっぴょん?」

「できたクマ。その現場へ一気に急行するクマ、マジで時間がないから急ぐクマ!」

 

 走り出す球磨、彼女につられ卯月も走り出す。

 

「…………」

 

 疑問は憲兵隊に任せてきた。

 だとしても、何故、あの提督は、体内に深海忌雷を抱えていたのか。

 あの再生能力は、システムの恩恵だったのか? 

 ただの人身売買斡旋糞野郎だったのか? 

 

 それだけとは思えない。吐き気に加え、胸が焼ける感覚。それを丸ごと吐き捨てる。

 けれども、喉に残って取れない。

 

「気持ち悪い」

 

 ただ、そう思った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。