前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第211話 陣地構築

 トラブル、と言うにはアレ過ぎる事態はあったものの、卯月達は無事鎮守府の制圧を完遂。取引場所の特定も完了。再び輸送艇に乗り込み、現地へ向かっていた。

 

「やあやあやあ! ご同伴預かるであります!」

 

 拷問キチ(危険人物)を連れて。

 

「なんで」

「と言われましても、このあきつ丸も現地へ行きますから。これが一番早いであります」

「だったら、せめてその赤いの流しなさいよ」

 

 一体あの鎮守府内で何をしていたのか。

 黒い制服の半分が、返り血で赤黒く染まっていた。血の匂いまで漂ってくる。気分がいい物ではない。

 

「え? どうして? テンション上がるでありますよ?」

「せめて言い訳をしろッ! 何人か怯えてんじゃないの!」

「成程、光栄でありますな!」

「ダメだわコイツ」

 

 知ってた。相変わらずの狂人だった。

 

「まあ、後で拭くぐらいはするであります」

「今拭けぴょん」

「やだ」

 

 もうヤダこいつ。卯月は会話を断念する。

 しかし、あきつ丸の方は許さない。

 

「ところで卯月殿、お腹から深海機雷を出産した提督と鉢合わせたと聞きましたが」

「お前はアレが本当に出産に見えたのか?」

「似たようなものでは? で、マジでありますか?」

「マジだぴょん。うーちゃんは嘘が嫌いだぴょん」

「うーむ」

 

 とあきつ丸は手を顎に添え、考え込む仕草をする。

 

「前例があるであります」

「前例……って、え、つまり、その提督以外に、深海機雷を出産した人がいたってこと」

「最上さん。出産は訂正を」

「いたであります。提督ではありませんが」

 

 制圧戦中、輸送艇で待機していた。

 その最上の質問を、あきつ丸は肯定した。

 

 彼女は話した。

 昔、藤鎮守府に乱入した男の事を。

 その正体は反艦娘テロリストだったこと。

 尋問の最中、突然死したこと、体内にイ級が出来ていたこと。

 

「憲兵隊としては、当然関係あることと考えます。更に不要な人間を始末するなら他に方法は幾らでもある。それをせず、こんな孕ませをしている。何か目的がある……と」

 

 気持ち悪い。卯月の率直な感想だった。

 目的が何であれ、そんな行為に及べることに、吐き気が止まらない。この戦いが始まってから何度も知った、胸糞悪さを覚える。

 

「ま、これについては憲兵隊で責任を以って調査するであります。対人間相手なのが業務でありますから。それよりも今優先すべきは、ガンビア・ベイであります」

「自分から話を振っといて、変えるんですか」

「作戦要綱を知りたいでありまーす」

 

 秋月の突っ込みは無視された。

 

「やること、ですか」

 

 しかし聞かれた不知火は、ちょっと困った様子だった。

 

「どうしたのー? 不知火ちゃん?」

「いえ、特にないんですよね。やること」

「へ?」

「あるにはあるのですが、普段前科戦線でそういう訓練をしていないので……邪魔にならない程度に、雑用を手伝うぐらいでしか」

 

 何だそれは。この鬼畜部隊でやらないことなんてあるのか。卯月は疑問に思った。けど直ぐに疑問は解消する。

 

「陣地構築です」

「……じんちこうちく?」

「以前授業でやった所です。覚えていないですか。帰ったら勉強量増やします。もういい加減逃げないように」

「え」

 

 突然の死刑宣告。卯月はショックの余り心停止を起こし卒倒。

 

「おお、なんということでありますか! 、ここは、このあきつ丸必殺の蘇生術、その一つ目を試す時が」

「来ないで、永遠に」

「えー、したいであります」

 

 必殺蘇生術という高速矛盾には、もう突っ込む気力もない。

 これからガンビア・ベイとの戦いなのに、どうしてこうなるのか。満潮は深い深い溜息を吐く。

 

「まあ、今までにない大掛かりな作戦になるって分かってれば大丈夫よ」

「無理くり纏めたクマ」

「はい静粛に。これ以上のグダグダは許さないわ。ほら誰か卯月をさっさと蘇生して……ところであきつ丸、真面目な話を聞いときたいんだけど」

「何でありますか?」

「結局、あの提督は、何で人身売買なんてしてたの?」

 

 根本的な、しかし解明しなければならない疑念。

 深海棲艦は対話不可能な化け物、それが世界の共通認識。余程の理由がない限り、向こうに与することはない。

 

 それを、ここの提督はしていた。

 挙句、顔無しの材料として、艦娘を売り払う外道行為を。

 そのリスクを知ってまで、裏切った『利点』は何なのか。

 

「一先ず、金ではないようであります。帳簿類を鎮守府から本人のまで調べましたが、金に困っている様子はなく。ただ」

「ただ?」

「どっちにしろ、この提督に未来は無かったであります」

 

 あきつ丸は押収した資料を投げる。

 そこには、提督の体調が細かく書かれていた。

 

「……健康診断……って、これ」

「ガン。それも末期。検査のタイミングが悪かったのか、既に手遅れ。いやぁ不幸であります。悲しいであります」

 

 朗らかな笑いだった。飛鷹はドン引きだった。

 

「……これが理由だって言うの? 身体の中に深海機雷がいた?」

「さぁ? 本人が既に爆死していますからなー。残念であります本当に至極残念でありますなー」

 

 その残念はどっちのことか。多分考えない方がいい。

 

「憲兵としては、卯月殿が呪いを取り込んでくれて、良かった良かったって感じであります」

「それは、そうね。下手したら憲兵も感染してたし」

「流石に元同胞となると、始末するのもちょっぴり躊躇するし、卯月殿には感謝しかないであります」

「躊躇? 熱でもあるの? 大丈夫? 薬飲む?」

「自分を何だと思ってるでありますか?」

 

 心外! といった表情。しかし、全面的にあきつ丸の自業自得であった。

 

「まあ、あきつ丸の事はどうでもいいであります。それより聞いておきたいのですが」

「何だぴょん」

「その二人。訳に立つのでありますか?」

 

 あきつ丸が、最上と秋月を指さす。

 全身麻痺と全盲。それぞれ重い後遺症を背負っている。

 戦えない筈だ。なのに戦場へ来ている。それが不可解だった。

 

「大丈夫です。とりあえずは、何とかなるようになりました」

「僕も戦力……になるかは微妙だけど、足は引っ張らないから平気さ」

 

 ちゃんと戦う手段を確保した上で来ている。

 

「感動したであります」

 

 だから言ってる意味が分からなかった。

 

「ただでさえ過酷な心身を更に痛めつける……素晴らしい光景であります。まさに眼福。生きてて良かったと思うでありますなぁ」

 

 普通に屑だった。最上はキョトンとした顔で首を傾げる。

 

「……熊野、この人は何を言ってるんだい?」

「いいですか最上さん。ああいうのは、人間の屑って言うんですわ」

「酷いであります」

 

 むしろ至極当たり前の感想だろうが。

 もう何回思ったか分からないけど、憲兵隊は大丈夫か? 

 波多野曹長の胃を心配しながら、輸送艇は空を飛ぶ。

 

 

 *

 

 

 輸送艇(二式大艇)を全速力で飛ばしたお陰か、数分掛からず卯月達は、作戦海域となる取引現場へと到着。

 そして例の如く、空中から放り出された。

 曰く、『着地時間が勿体ない』とのこと。

 

 ただ、卯月も慣れたもので、特に文句もなくパラシュートを開き、味方のど真ん中へ普通に着地していた。

 

「ヘーイ! 何者ですか、手を上げなサーイ!」

 

 代わりに味方にホールドアップされたが。

 ちょっと考えたら当然だった。まだガスマスクとコートを装備したまま。これじゃ疑われて当然。慌てて卯月達はそれを外す。

 

「へ、へい金剛さん、久々だっぴょん」

「…………え!?」

「あれ、えっと、藤提督のとこの、金剛さんで合ってるぴょ」

「ウヅキー! 久々ネー!」

「おわぁ!?」

 

 金剛はダッシュ、からの強烈なハグ。

 バランスを崩しそうになるが、金剛がそのまま抱き寄せる。その反応に、自分の知る金剛だったと、卯月は安心した。

 

「ギギギギギお姉さまのハグお姉さまのハグ」

 

 何か異音を放つ比叡と目を合わせてはいけない。

 

「金剛氏ー、久々の再会って所済まないけど、時間がないっスよ」

「あ、ソーリー。感極まっちゃったデース」

「……誰だぴょん?」

「漣だよ。秘書艦の、忘れないでよ」

「ああ、そういえば」

 

 ちょっと顔合わせしたぐらいだったので、余り覚えていなかったのだ。

 卯月は改めて周囲を見渡す。

 金剛と比叡だけじゃない。不知火の言った通りだった。藤鎮守府で見かけた人達。見覚えのある艦娘が大勢だ。

 

「っていうか何で特務隊一行が?」

「え、知らないのかぴょん」

「情報は極力絞るべきですから。特務隊も作戦に参加する情報も含めて」

 

 藤鎮守府内に内通者がいる可能性もある。不知火の言う通りだと卯月は思った。

 

「この人数。本当にそっちの鎮守府総出かぴょん」

「そっすよー。まあ多少だけど、例のシステムに関わっちゃった鎮守府だからねぇ。まるで無関係のトコよかやり易いっしょ」

「それはそう」

「っと、駄弁る暇はないんだった。そっちの方々も手伝ってくれるってことで?」

「問題ありません。こき使って下さい」

「だそーだよ、ご主人様ー」

「わーい人手だ!」

 

 漣の呼びかけに藤提督が気づく。

 彼女は嬉しそうな声を上げ、手を振りながら走ってきた。

 しかし冷静になってほしい。

 此処は戦場である。

 

「え、何で藤司令官居るんだぴょん」

「え? 迎撃設備を作るからだけど?」

「え?」

 

 何だろ。この会話が成立しない感じ。

 

「あー、卯月氏。このご主人様は、元々提督じゃなかったのよ。軍事施設の設計士って前職でしてね」

「え。何それ。普通に凄い職だぴょん」

「どや」

 

 態々口に出す辺り、余程自信があるらしい。

 

「で、こういう基地を突貫で作るのが得意だから」

「現場に出てきてるってことなの!」

「…………」

 

 矛盾はない。筋は通ってる。けどどっか狂ってる気がする。

 まさかこの藤提督も狂人枠なのか。そんなことないさ大丈夫。卯月は自分に言い聞かせた。

 

「責任感があるって偉いぴょん」

「自分が設計した建物が、ぐっちゃぐっちゃ崩れていくのってとっても楽しくて! 出てきちゃった」

「さぁ仕事だぴょん! 漣でも誰でも良いから仕事プリーズ!」

 

 どうして私の周りには狂人しか集まらないのか。

 卯月は全力で現実逃避に勤しんだ。

 

 

 

 

 先に不知火が言ってた通りになった。

 簡易とはいえ、迎撃拠点の設営なんて、訓練なしにできやしない。他の人の指示の元、資材等を運ぶ。それぐらいしか仕事はなかった。

 

 それでも向こう的にはありがたかった模様。

 それもその筈。

 とてつもない短時間で迎撃拠点を構築しなければならない。人手は幾らあっても足りない。荷物持ちだけでも助かる、というのが本心だ。

 

「なのに、何故皆、このうーちゃんに訝しげな視線を向けるぴょん?」

「そりゃガスマスク付けっぱなしじゃ当然だろ。外せよそれ。息苦しくねぇの?」

 

 竹の突っ込みが深く刺さった。

 あの後、卯月はガスマスクを被り直していた。

 その上で、松&竹の指示で働いていた。

 

「苦しくはないぴょん。ただ外したらそれはそれで、面倒なことになりそうで……」

「どういうことなの?」

「こういうことだぴょん」

 

 少しだけガスマスクを外す。

 卯月の瞳は、異形感を否応なしに感じさせる程、朱く光っていた。

 それを見た松と竹は、『ああ……』と微妙な顔で納得。

 

「あれから、また凄まじい事があったみたいね……」

「まあねぇ。でも無事生きてるから、特に問題はないぴょん」

「大アリよ糞ボケ。問題しかないじゃない」

「は? 満潮は何言ってんだぴょん。この身体の何処に問題が」

「そっちじゃない……ああもう、いいわよそれで」

 

 同じく荷物を運ぶ満潮は顔を背ける。

 意味が分からず、卯月は困惑気味だった。

 

 折角の再会、もっと話したいことはあるが、時間が無い。

 後数分も待たずにガンビア・ベイとの戦いが始まる。できる限り設営を終わらせる為、全員急いでいる。

 

 ただ、それを承知で、竹が話しかけてきた。

 

「……大勢を、殺したのか?」

 

 ああ、知ってるのか。

 卯月は驚くほど冷淡だった。

 彼女は自分が『獣』としてやった蛮行を分かってるのだ。

 

「うん。街一個分は殺したぴょん。それが?」

 

 松は話さない。

 呆れたのか、信じたくないのか、驚いているのか。

 一般的な感性を持ってるなら忌避感を抱く。近づきたくないと思われただろうか。そうだとしても仕方ないけど。

 何となく気まずさを感じ、卯月はさっさと荷物を運ぼうとする。

 その時、後ろから『卯月』と声が聞こえる。

 

「何でそうなったのか、分かんないけど……見捨てたりはしない。虐殺をした狂人とか決めつけて、目を背けたりはしないからな」

「話を聞くぐらいは、私達でもできるから」

 

 冤罪を着せられ、苦しんでいた卯月を知っている。

 今回もそうだ。噂とは言え、『獣』と化して虐殺をしたと誰もが知っている。事実かもしれないが、表面上の理由だけで納得してはいけない。

 隠された理由。その可能性を考える。

 そうして残ったのは、卯月を案ずる気持ちだった。

 

「ムム、真正面からそー言われると、流石に照れ臭いぴょん」

「そんな心配しなくて良いわよ。調子に乗った挙句付け上がるだけだから。放置するぐらいが丁度いいから」

「テメェ」

 

 折角心配してくれてるのに何てこと言いやがる。この機に応じて悪ノリ極まった要求をしまくってやろうって思ってたのに。

 

「満潮もだからね?」

「え」

「卯月をずっと心配してんだろ? 好きでやってんだろうけど、共倒れなんて目も当てらんないからな」

 

 ここでまさかの流れ弾。満潮は硬直。一瞬の後、頭部からボッと蒸気を噴出。

 

「は!? 嫌々に決まってんでしょ!? こんな大アホの面倒見たくないわよ!」

「じゃあ変わる?」

「任された仕事を投げ出す訳ないじゃない」

「……ふーん。そっかー」

 

 分かってるよ私は? 的な表情で松は笑う。

 卯月と満潮は、疑問符を幾つも頭部に浮かべる。二人揃って何が何だか分からなかった。

 

「話変えるけど、何なら一番気になってたことだけど」

「どうしたの?」

「……『提督』は、来てるぴょん」

 

 卯月は複雑な心境で聞く。

 困ったような、気まずそうな笑みを松は浮かべた。

 何となく察しはついた。

 

「神提督は来てないわ」

「いやそれが普通なんだけどな。内の藤提督がヤバいだけであって……」

「そっか。分かったぴょん」

 

 残念、だとか、安心、だとか、どうにもしっくりこない。

 来ていて、自分の戦いを見て欲しかったとか、ちゃんと安全地帯にいてほしいとか。

 色んな感情が浮かんでは消える。

 ガンビア・ベイとの戦いまで、後数分。




藤提督も変態の類でした。ご愁傷様です。
久々に金剛達に会ったけど、会話シーンは殆どないです。喋ってる暇ないので。感傷に浸るのはガンビーに勝った後で。
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