前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

212 / 221
第212話 ガンビア・ベイMk.II"D"①

 藤鎮守府の艦隊と合流し、高速で迎撃拠点設営を行った卯月達。

 彼女達は今、塹壕の中で息を潜めていた。

 拠点設営は完全には終わらなかった。流石に30分は無茶だった。しかし70パーセントは出来たと、藤提督(責任者)は言う。

 これから来る敵──ガンビア・ベイに対する、最低限度の迎撃態勢は整ったのだ。

 

 卯月達だけでなく、他メンバーも塹壕の中に隠れている。

 まだガンビア・ベイは来ていない。

 果たして、この作戦を察知されているのか否か。知らない筈だが、彼女は直感がやたらと鋭い。本能的に気づく可能性はあり得る。

 

 既に取引の予定時間は過ぎていた。

 たった数分だが過ぎた。

 気付かれてしまったのか。どうなのか。戦闘とは別ベクトル。待つしかできない緊張が走る。

 

 一分経過──一分半経過──とても長く感じる。

 

 だが、やがて時は来る。

 

「──ッ!」

 

 取引場所に、ガンビア・ベイが()()()()

 

 やって来た、ではない。

 虚空から突然、ガンビア・ベイが出現したのだ。

 ステルス迷彩だ。接触した事がある卯月は、即座に理解する。

 

 けどコレ、他の知らない艦娘は、対応できるのか? 

 卯月はそう思ったが、その心配は無用に終わる。

 

「遅かったようですが」

「す、すすすすスミマセン……ちょっと、普段より、警戒してまして。色々なことを」

 

 制圧した鎮守府から、取引の資料はある程度手に入った。

 引き渡し役は、何時も変装した提督自身だった模様。今更感が強いが、身バレの可能性は怖かったらしい。

 なので、艦娘の一人に同じ変装をさせた。ちなみに中身は比叡だ。

 

「じゃ、ちゃっちゃと、済ませましょう……えっと、ブツは?」

「ここです」

「何時も迷惑をかけます……中身確認して、回収しますね……」

 

 何か、低いな、腰が。

 いや救いのないド外道に違いない。ガンビア・ベイの性根が腐りきってるのは知っている。それにしても……なんか、敵っぽさが感じ難い。

 だが油断はならない。

 常に被害者面。そういうメンタル。性質の悪さはどの洗脳艦娘よりも上かもしれない。卯月はそう思った。

 

 事前情報で本性を知っている比叡も、眉一つ動かさない。ガンビア・ベイの言う通りに、ブツを並べていく。ぱっと見何だか分からないよう、白いシーツでグルグル巻きに。

 ガンビア・ベイはそれを詰め込む為に、何処かで待機していた輸送艇を呼び出す。

 このまま取引が成立、ガンビア・ベイは顔無しの材料を多く手にして帰投。それが何時もの流れだろうが、今回はそうはいかない。

 

「──え」

 

 中身を確認したガンビア・ベイ。

 彼女が見たものは、箱一杯にこれでもかと詰め込まれた、爆薬の山。

 比叡は既に離れていた。

 騙したな──と言いたそうな、非難の表情。

 それは、直後起きた大爆発に呑まれて消えた。

 

 爆発に呑まれて消える。待機していた輸送艇も呑まれて塵になる。深海棲艦にも有効なそれは、爆雷を回収したものだ。

 さながら、纏めて点火してしまった花火のように、絶え間なく爆発音が鳴り響く。

 

 しかし、これで終わるなら何の苦労もない。

 

「──いないっ!? Extinct(消えた)!?」

 

 比叡が叫ぶ。彼女の言う通り、ガンビア・ベイが姿を消した。

 視界を晦ませるような爆発の中、彼女はどう姿を消したのか。

 恐らく、奴は。

 

「比叡! その爆心地を、もう一度砲撃するんだぴょん!」

「え? んっ、分かった!」

 

 もう変装の必要はない。隠れている必要もない。卯月達が塹壕から飛び出ると同時に、比叡が何もない所へ砲撃。

 なのに、砲弾は()()()()()()()

 衝撃を受けて何かが動く。

 それこそがガンビア・ベイだった。

 

「あぁぁぁあ!? バレた!? どうして!?」

 

 やはり、ガンビア・ベイは爆心地に留まっていた。

 カメレオンのように体表の色を変え、さも消えたように装っていたのだ。

 だが問題はそっちではない。

 

「……傷一つ付いてないってのは、どういうことだぴょん」

 

 相当量の火力をぶつけた。しかも不意打ち。なのに彼女にダメージはない。せいぜい服の端が焦げてる程度。

 今もそうだ。戦艦主砲の直撃を受けたのにダメージが確認できない。

 

 これは、相当面倒な戦いになる。

 この戦いは総力戦、それだけの戦力をぶつけないといけない。高宮中佐達の判断は正しかったと、卯月は思い知る。

 

「に、にに、逃げないと……!」

 

 ガンビア・ベイが、文字通り脱兎の如く走り出す。

 戦いの火蓋が切れた。

 

 

 

 

 その速度は知識として共有されていた。

 しかし、実際に見た衝撃は、相当なものだった。

 

「どういう逃げ足なの……」

 

 まさに風。ガンビア・ベイは瞬きする間に地平線へ消えようとする。

 空母にしては珍しく、彼女は『低速艦』。システムで強化されているとはいえ、ここまで変貌するのか。松達は絶句する。

 

 だが、それを分かっていたからこそ、待ち構えていた。

 

「海域封鎖第一段階、実行、お願いするわ」

「了解にゃし!」

「任せてね!」

「……地味な仕事であります」

 

 安全地帯から、藤提督が無線で指示を出す。

 それを受けて、睦月達とあきつ丸、他何人かの駆逐艦が飛び出す。彼女達は外海との境界線辺りに潜んでいた。

 

 全員が大発動艇と、特二式内火艇を、引っ張っていた。

 

 そして、それを境界線の中央付近に()()()()()

 

 しかしこれでは、中央以外は、塞げていない。海域封鎖は成立していない。

 ガンビア・ベイは当然、左右へ逃れようとする。

 

「第二段階、実行」

 

 外海への境界線。

 そこは、切り立つ崖に挟まれていた。

 取引の現場を、物理的に、少しでも見えにくくする為に。

 それが、今回ガンビア・ベイには、仇になった。

 

「起爆装置、作動」

 

 仕掛けられていた爆弾が作動する。藤提督の指示の元設置されたそれは、崖を効率的に、狙い通りの形で崩落させる。

 大規模な土砂崩れが、流れ込み、海が埋め立てられる。

 大発動艇との組み合わせにより、出口が塞がれる。

 

 ガンビア・ベイの逃げ道が、無くされた。

 

Lie()、こんなの聞いてない!」

 

 と叫びながらも、ガンビア・ベイは逃亡を諦めない。

 陸地なら登ればいい。それに、大発動艇と土砂崩れで無理やり塞いだだけ。隙間はある。

 だが、多分ダメだ。

 逃亡のプロフェッショナルの彼女は、()()()()()()と気付いている。

 

「海域封鎖第三段階、基地航空隊、爆弾投下」

 

 藤提督の合図と同時に、空を航空機が覆う。

 

 それを見た卯月は戦慄する。取引場所の目星はついていたとはいえ、彼女はこの短時間で、航空基地まで設置していた。どういう手腕なのか。彼女の鎮守府の艦娘達は、どういう訓練を積んでいるのか。

 

 しかもこの航空機は、爆撃機ではない。爆撃機にしては速度が遅い。一体何をする気なのか。ガンビア・ベイは嫌な予感を覚える。

 これを何とかしないと、逃亡が極めて困難になる。

 

「何か、する前に、止めないと……止めます、来ないでーっ!」

 

 泣き叫び、金切り声を上げながら、空へ突撃銃を向ける。

 それが彼女の発艦機。

 銃に設置されたカタパルトから、矢継ぎ早に艦載機が繰り出される。

 

 瞬きする間に、艦載機はネズミ算式に増大、すぐさま空が暗雲に覆われる──前に止めなければならない。

 

「させないのねー!」

 

 海を塞ぐのに、特二式内火艇を使ったのは、数合わせではない。睦月、如月達、大発要員により、特二式内火艇(水陸両用戦車)の砲撃が始まる。戦車についてる機関砲も使い、艦載機を撃ち落とす。

 勿論、コントロールしている睦月達も、対空砲火を絶やさない。

 基地航空隊を、全力で支援する。本格的な戦いは、それからだ。

 

「ガンビア・ベイを行動させない! 砲撃を一発でも良いから叩き込んで! 兎に角動きを止めて!」

 

 ハッキリ言って、リンチだった。

 この海域に集結した全艦娘が、ただ一隻の艦娘へ砲撃を加えていく。駆逐艦から戦艦まで。対空戦力は非参加。そっちは彼女の艦載機を押し留めている。

 

 だが──誰も油断していない。

 僅かにだが、藤鎮守府の艦娘達も、D-ABYSS(ディー・アビス)の猛威を知っている。

 ()()()()()()()()()()()()

 

 その予想は、残念ながら、正解だった。

 

「……逃げたい、隠れたい、戦いたくない、何で、私に、構うの……あっち、行って下さいーっ!」

 

 ガンビア・ベイが()()()

 

「なっ……」

「またアレか!」

 

 卯月はもう何度も見ている。艦載機を足場にしての空中移動。

 

「艦娘の概念を何だと思ってんだぴょん!」

 

 しかし、分かっていても、空中へ移動するのは半ば想定外。射線を合わせ直す必要がある。その間にガンビア・ベイは、大量の艦載機を発艦させる──しかも、それを足場にして、海域封鎖を抜け出そうとしている。

 

 ついでに言うと、やはり傷一つ負っていない。あれだけの集中砲火を浴びておいて、焦げ目すらついていない。どうすればダメージを与えられるのか。卯月には全く分からない。

 

「不味い。航空隊の意味がなくなる。早く艦載機(足場)を崩して!」

「一々叫ばんでも、全員分かってますってご主人様! それよりさっさと作戦を進めてってば!」

「ごめんってばー」

 

 何だ、この、やる気の削がれる会話は。

 いや、高宮中佐みたいに、鬼畜シリアスなのもアレだけど……調子が狂う。

 尚、漣は万一の護衛として、藤提督の所にいる。

 

 各員が艦載機目掛けて集中砲火。足場にしているそれを破壊しにかかる。しかし彼女の逃亡への執念は想像以上。破壊されるよりも早く、次の足場へジャンプを繰り返す。艦娘と言うよりニンジャみたいな挙動だ。

 

 もっと対空砲火を強化しなくてはならない。誰かが声を張り上げ、弾幕密度を上げる。

 しかし、当然と言えば当然だが、ガンビア・ベイは『準備』をしていた。

 万一の場合に備えた『準備』。

 

 警戒されるのを嫌い、結構離れた場所に待機していた()()が、このタイミングで到着してしまう。

 

「──増援だ!」

 

 外海から、イロハ級の群れが殺到する。

 否、それだけではない。

 その中には『顔無し』まで混ざっている。

 援軍は一様に、ガンビア・ベイを助ける為、攻撃を開始する。

 

 これにより、艦隊は援軍の分の、攻撃や艦載機への対処を迫られる。ガンビア・ベイに回せる手は否応なしに削られる。

 尤も、彼女の狙いは、正にそれだ。

 

「このまま、このまま頑張れば、逃げられる、後、ちょっと、後少し……」

「な、わきゃねーだろぴょん」

「ひっ!?」

 

 ガンビア・ベイの眼前に、卯月が立っていた。

 即ち、艦載機の上に立っている。

 

「な、何で!?」

「何で? この曲芸を何度見せられたってんだぴょん。そりゃ覚えるわ」

「見ただけで……覚えられるものじゃ」

「それができるのが、このうーちゃんの凄い所だぴょん」

 

 嘘である。実の所『空中歩行カッコイイな!』、とド安直に思ったので、真面目に頑張ったのだ。まあ実戦で使うとは思ってなかったが。

 

「逆に利用されることまでは、想定外だったかなー……っ!」

 

 攻撃が始まる。艦載機を足場にしたまま、砲撃を繰り出し、ガンビア・ベイに近づいていく。この足場で、回避運動は困難なのか、普通に当たる。

 

 だが──なんかもう予想通りだけど──やはり傷一つ付かない。当然だ。戦艦主砲でダメなのに、駆逐艦でいける訳がない。

 

 それでも、この状況なら無意味にはならない。ダメージはなくても、衝撃はある。この空中から叩き落すことはできる。かつ、落下しても途中で留まれないよう、下の艦載機を機銃で破壊する。

 

「来ないで、来ないで下さい!」

 

 ガンビア・ベイはより逃亡する。下の艦載機が減らされた事で、より上へと昇る。ならば私も追撃を。そう動いた矢先、()()()()()()

 

「っ自爆か!」

 

 足場にされるぐらいなら不要、ということだ。ガンビア・ベイは艦載機を自爆させ、卯月から次の足場を奪った。

 爆発を避けたせいで、一気にバランスを崩す。足場もなかったせいで、卯月は転倒、一気に落下していく。

 

 その時初めて、ガンビア・ベイは敵意を向けた。

 

「消えて、ください!」

 

 空中では身動きが取れない。その隙を狙う。他の艦載機が殺到し、卯月へ大量の爆弾を叩き込んでくる。落下している卯月に逃げる手段はない。

 

 但し、足場があれば別だ。

 

 落下していた筈の卯月は、『瑞雲』へ着地、すぐさま跳躍し、爆撃を回避する。

 

「まさか──ぁあ、ええ!? Why(どうして)!?」

「む……あ、そう言えば、生きてること、知らなかったかぴょん」

「裏切ったんですか、最上さん!」

 

 ガンビア・ベイの目線の先には、車椅子に座った最上がいた。

 全身麻痺で、まともな戦闘はできない。

 だが、瑞雲のコントロールは別。少しでも航空戦力を稼ぐ為に、参加したのである。安全の為一番後方にいる。

 

 艦載機での空中歩行は、最上もできた。その彼女の支援は完璧、卯月の足場を即時構築する。

 だが、距離は離した。後は思いっきりジャンプすれば、逃亡は成功だ。

 ガンビア・ベイは、生の喜びを感じ……る直前、止まる。

 

 最上が、生きていた。裏切っていた。

 なら、()()もいるのなら。

 

「あ゛」

 

 瞬間、艦載機(足場)の大半が、蒸発した。

 

 その眼下、大発動艇と土砂によってできた仮の陸地。

 そこに、彼女はいた。

 

「漸く、やっと、お姉さまの役に立てる日が来ました。見てて下さいお姉さま。たかが軽空母一隻の艦載機なんて、あっという間に枯らしてみせます!」

 

 長10センチ連装砲ちゃんの眼が、ギラリと光る。

 防空駆逐艦(天敵)はそこにいた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。