艦載機を使い、空中から逃亡を図るガンビア・ベイ。
しかし、その足場が一斉に破壊される。
それは、彼女の天敵の仕業。
防空駆逐艦、秋月が、対空砲火を次々に撃ち鳴らす。
「長10センチ砲ちゃん。頼りにしてるからね!」
秋月の呼びかけに、彼(?)等は嬉しそうに腕をパタパタ振る。
全盲となった秋月は、どう戦場で戦えばいいのか。
答えは案外単純だった。
視界を、長10センチ連装砲ちゃんに補って貰えば良かったのだ。
元々彼らは自立稼働ができる。その稼働をする為に彼等は彼等で視力を持っていた。その情報を受け取れば、周囲の状況把握は可能。
伝達のタイムラグこそ発生する。
それでも尚、防空駆逐艦に恥じない対空砲火が実現した。
「ひぃぃぃぃッ!?」
足場がなければ落下するのみ。空中にいたガンビア・ベイは、真っ直ぐに落下。しかも結構な高度から。海面に叩きつけられればダメージは免れない。
「ハッハー! 上へ逃げたのは判断ミスだぴょん!」
卯月はこれを狙っていた。
意図して、より高い位置へ逃亡させ、落下時のダメージを大きくするのが目的。
狙った通りに事が動き、卯月はゲラゲラと大笑い。確実なトドメを刺すべく、落下地点で待ち構える。
ちなみに邪魔なのでガスマスクは外した。事情をよく分かってない藤鎮守府の艦娘は引いていたが、前科持ちには今更という事でスルーされた。
「逃げないと逃げないと逃げないと逃げないと──!!」
ガンビア・ベイは、落下しながらも艦載機を展開。新しく足場を作り、逃れようとする。
しかし、艦載機は発艦した瞬間、破壊される。
秋月の対空砲火だ。
「発艦直後で、貴女自身が空にいるのなら、迎撃は簡単です。お姉さまに良い所見せますから!」
カタパルトから出た瞬間迎撃。出てくる場所が分かってるのだ、動きの予測の必要がない、狙いを合わせるだけでいい。
それにしても百発百中。
「う゛ー……
「直ぐ逃げる卑怯者に言われる筋合いはありませんね……お姉さま、今です!」
「よっしゃー!」
すれ違い様に、その首元にナイフを突き立てる──卯月は跳躍し、ガンビア・ベイへ修復誘発剤の塗られたナイフを構える。
自分が振るう勢い。彼女の落下の勢い。リミッターありだけどシステムの強化。
三つのパワーが合わされば、外殻を貫き、傷つけられる筈だ。そういう算段だった。
しかし、ガンビア・ベイも無抵抗ではない。
咄嗟に腕でガードする。
問題はない。それならそれで腕が溶解する。何かしらのチャンスに繋げられる。そう踏んで卯月はナイフを振るった。
そして砕かれた。
「──は?」
傷は付かなかった。
卯月は、逆に危機に陥った。
ガンビア・ベイが突撃銃をこちらへ向けていた。
「喰らって下さい」
放たれるのは弾丸か艦載機か。どちらにしても、この距離&システムの強化込み。喰らえば絶命は免れない。
しかし卯月は冷静だ。予想していた展開だからだ。
「チッ、分かってるぴょん。そんな簡単にはいかないって」
卯月は、予め投下しておいた鎖を引っ張っる。それにより一気に
それと同時に、味方の空爆が、ガンビア・ベイを捉えた。
大量の爆弾に晒され、爆炎に彼女は覆われる。
そう、爆炎でガンビア・ベイを見失った。なら次に起きる展開は決まってる。ステルスだ。
「また消えやがったぴょん……」
ガンビア・ベイの基本戦術が分かってきた。兎にも角にも逃亡全振り。一瞬でも目線から外した途端、ステルス迷彩──もしくは体表の色を変えて、姿を消す。そうして探している間に戦線離脱。
迷彩を活用して、暗殺とか奇襲をする様子はない。普通の戦闘ならありがたいが、追撃戦では最悪。それを承知でしてるのだろうが。
しかし、謎なのは、何故『波紋』すらないのか。
ガンビア・ベイは今、空中で空襲を受けた。その爆炎を利用し、ステルス迷彩で姿を消した。なら何処かに『着水』している。足場になる艦載機は秋月が全滅させた。空中にいられないのだから、『着水』しかない。
なら、『波紋』が立つ。
空から『着水』したなら、『波紋』が立つ。
それが、ないのだ。
「……漠然と、戦うだけじゃ、ダメかもしれない」
卯月は呟く。なら、それは私の役割だ。この中で一番システムを理解してるのは私だ。私がやらなきゃいけない。
だが、此処から逃がしたら元も子もない。
姿を消したガンビア・ベイを、再び探さなければならない。
尤も、もう簡単には、逃げれないけど。
『第三段階、完了。とりあえず一段落、お疲れ様ー、海域封鎖は完了だよー』
忘れてはいけない。今の空中戦も時間稼ぎに過ぎない。基地航空隊が任務を完了するまでの時間稼ぎだ。
何が何でも、ガンビア・ベイを逃がさない。
と、なれば、アレだ。
海域封鎖と言えばアレ。かつての海軍──ってか、この国が苦しむ羽目になったアレ。
基地航空隊は、アレを既に撒き切った。
そして、封鎖エリアに、大規模爆発が起きる。そこに、爆風で打ち上げられたガンビア・ベイがいた。
「──何で、機雷が!?」
『アレ』とは機雷のこと。
接触した瞬間、大爆発を起こす兵器。それを基地航空隊を使い、外海との境界線上に投下したのだ──山程の量を。それに触れ、爆発により彼女は打ち上げられたのだ。
大発動艇と、土砂崩れで物理的に封鎖。それでも残る隙間は機雷で封鎖。これで海域封鎖は成立した。もう簡単には逃げられない。
『今だよー! アイツをこっちへ引っ張って! 逃がさないでー!』
『その辺の指示は出さなくていいから大丈夫ですご主人様』
『あ、そう?』
僅かに宙へ浮いたガンビア・ベイ。回避行動は一切取れない。そのチャンスを見逃しはしない。さっきの航空隊が現れ、矢継ぎ早に爆弾を投下。その衝撃で、彼女を『内地』に押し戻す。下からも砲撃で支援。このまま『内地』まで引き摺り込めば──
「痛い、です!」
しかし、そこで抵抗が激しくなる。空中で転がされながらも、艦載機を発艦。その衝撃で纏わりつく爆発を吹っ飛ばし海面へ着水。
尚、無傷である。
相当量の攻撃を浴びせかけたが、無傷だった。
「……ちょっと、自信を無くすデース」
金剛のボヤキに誰もが同意した。
幾ら何でも
当然の疑問が、脳裏を過る。
「う、うう……酷い。何で、皆寄ってたかって、私を虐めるんですか……人の心がない。
全員『は?』と言いたげな顔で固まった。
その瞬間、機雷が次々と爆発を始めた。
何事かと視線を向けると──想定される事態だが、起きて欲しくなかった光景が見えた。
イロハ級が、特攻を仕掛けていた。
一匹が封鎖海域に入る。回避運動はしない。当然機雷に触れ、爆死する。次の個体も同じ様に突っ込み、触れて、自爆。
とんでもない方法で機雷掃海を始めた。物量ゴリ押しかよ。卯月は内心絶句する。
だが手段はどうでもいい。
問題は、タイムリミットが生まれたということ。
機雷はアホ程撒いたが無限ではない。いつかは掃海が完了する。艦娘一隻が通れる隙間が生まれた瞬間、ガンビア・ベイは逃げ出す。
そこまでがタイムリミット。
正面から戦える時間制限。
「そんな、手段をしたってことは、戦う気になったってことでオーケー、かぴょん?」
ガンビア・ベイの顔は青ざめていた。脂汗を絶え間なく流し、心の底から怯え切っている。卯月は苛立ちを抑えきれない。
「どうして、私がこんな目に合うの? とでも言いたげな顔だぴょん」
「そうです! は、恥ずかしくないんですか、こんな、か弱い私を、寄ってたかって、虐めて、騙して! 恥を、知りなさい。prideとか無いんですか!」
「安心するぴょん」
「へ?」
卯月は満面の笑みを浮かべた。
殺意全開。システム起動。こめかみに血管が浮かぶ。
今更だが、卯月は彼女が嫌いだ。
何なら、今まで会った敵の中で、ダントツで嫌いだ。
「これから、その性根が焼き切れるまで、虐め抜いてやるぴょん」
「ピエ」
自分の行為を認めすらしない外道を、嫌悪しない理由はない。
やっと、正面からの戦いが始まった──と思わせといて、そんな展開にはならない。
ガンビア・ベイが正面戦闘をする筈がない。
その点においては、謎の信頼がある。
「助けてぇぇぇぇ!」
悲鳴そのもの。泣きながら絶叫する。
同時に何かの作動音が聞こえた。
今の悲鳴が、何かの合図になっていたのだ。
「──何か、来る、警戒を!」
卯月は急いで音源を辿る。その先にあったのは──爆発で吹っ飛んだ輸送艦だ。
それらが突然、カッと輝き、一斉に爆発した。
「目晦まし!?」
複数隻あった輸送艦全員が、閃光を放ち自爆。
アレは単なる輸送艦ではない。
万が一の時、ガンビア・ベイの逃亡を援護する目的もあった。今の眼晦ましもその一環だったと、卯月達は理解する。
再び目を開けた時、ガンビア・ベイは姿を消していた。
だけではなかった。
あの輸送艦が放ったのは、閃光だけではなかった。
「……煙幕まで兼ねてんのかぴょん」
同じく戦場全域が、煙幕で覆われてしまっていた。
どれも、ステルス能力を補強するものだ。面倒なことになったと、卯月は舌打ちをする。
そうこうしている間にも、外からイロハ級は押し寄せる。機雷を除去する為の自爆を慣行し続ける。
『イロハ級の迎撃を優先! ガンビア・ベイへの攻撃は慎重にやって、下手にやったらフレンドリーファイアになるからー!』
藤提督の指示が飛ぶ。その声通り、砲撃や空爆により、掃討部隊の迎撃が始まる。しかし、相手は命も顧みない自爆特攻。押し切られる可能性は高い。そうのんびりしている時間はない。
「本当に、正面から戦ってくれんのかぴょん……」
このままずーっと隠れ続ける可能性も否定できない。それならそれで、しらみつぶしに探すだけだが。どっちにしても、彼女を探さなければ始まらない。卯月は聴覚に意識を集中させる。
色んな音が聞こえるが、彼女らしき音は何もない。
そんな筈はない、ステルスだろうが何だろうが、何かしらの音はあって然るべき。卯月はもっと、もっとと、集中していく。
しかし、何も聞こえない。
どれだけ集中しても、騒音以外聞こえない。
そんなに集中していては、隙を晒すようなもの。
「…………」
ガンビア・ベイは卯月の背後にいた。そして突撃銃を構えていた。近づかない。接近戦はリスクがある。ライフルで頭部を跳ねれば良い。
「……聞こえない、何も、何でだぴょん」
トリガーが引かれた。
薬莢の炸裂音さえ響かない。無音のままライフル弾が撃ちだされる。
「でも『殺意』は感じたぴょん」
「!!」
「見えないけど、そこにいるな、ガンビア・ベイ!」
真っ赤な眼光がガンビア・ベイを射抜いた。
ぐるりと上半身を回し、その勢いで主砲を振るう。幾ら艤装の補正があっても、ライフル弾と艤装では話にならない。
頭部を跳ねる筈だった弾丸が、主砲に殴られ、弾かれる。
「パターンが単調なんだぴょん。後ろに回り込んでくるって予想してれば、察知するのは簡単だ。赤城のクソ訓練が役に立ったぴょん!」
反撃の砲弾が迫る。ガンビア・ベイは思考する。当たってもダメージはない。だが、当たればいると確証を持たれる。まだ卯月は位置を完全特定できていない。それは避けたい。回避が望ましいが、大きく動けば『迷彩』がブレる。
と、なれば、選択肢はアレだ。
「着弾! そこかっぴょん!」
砲弾が当たり爆発が起きる。ガンビア・ベイがいるのはあそこだ。一点集中で砲撃する。ダメージは無くていい。奴が此処にいると、周りに気付かせるのが目的だ。次の砲弾を叩き込もうとして──手応えがない。
艦娘を撃ったにしては、手応えが小さい。
次の瞬間、卯月は判断ミスを理解する。
「違う、これ、艦載機だ、ステルスの!?」
何度か彼女が用いた、完全ステルスの艦載機。動き出さない限りは、迷彩が解除されない、厄介な代物。
卯月が撃ったのはそっちだった。
予め上空に待機させていた一機を、ここを目標として、落下させたのだ。
卯月に隙が生まれた。ガンビア・ベイは躊躇なくそこを突く。再び突撃銃を構え、頭に狙いを定めてトリガーを引く。
今度は防御できない。艤装よりも奥。顔の前へ弾丸が迫る。
けど卯月は別に、一人で戦ってるのではない。
「秋月! 最上! 助けてくれだっぴょんーッ!」
その声を聞いてか、事前に察知してか、卯月の正面を機銃が薙ぎ払った。
それは、上から降下してきた、瑞雲の機銃。
更に、秋月の長10センチ高角砲ちゃんが、ガンビア・ベイを補足した。
「最初から、弾丸がどう飛ぶか見れば、透明でも位置は特定できます。後は隙間なく連射するだけです」
卯月とは比較にならない。高密度の弾幕が、一帯を覆う。再びステルス艦載機でガードするも、防ぎきれない。一発がガンビア・ベイに着弾。
その衝撃で迷彩が一瞬乱れる。
ダメージはない。だが、秋月は目ざとくそれに気づく。
「発見しました!」
「よくやった秋月。後でよしよししてあげるっぴょん!」
ガンビア・ベイの迷彩は直ぐ復元される──が、卯月はもう目の前にいた。そして、彼女がどう逃げても、問題ない戦法を取る。ナイフを振るうと見せかけて、卯月は、大きな風呂敷を宙へ投げる。
「エネルギー吸収阻害用のでかい布。これで、巻き取ってやるぴょん。最上、またもお願いしますだぴょん!」
『任せてよ!』と声が聞こえる。
投げた布を、瑞雲がフロートで上手くキャッチ。からの急降下で、周囲を一気に覆う。
と、なればどうなるか。
ステルスだろうが関係ない。ガンビア・ベイがそこにいれば、彼女の形が浮かび上がる。
ガンビア・ベイの位置が完全に特定された。
その瞬間を待っていた人達がいる。
この場で最高火力を出せる二人組。金剛と比叡。
金剛型改二丙二隻。かつ夜戦でのみ、出せる大技がある。
「これの直撃なら」
「どうです、カーッ!」
僚艦夜戦突撃がシルエットに直撃した。