……とんでもないアイデアが浮かんだが……いけるか……?
ステルス迷彩&カムフラ迷彩を駆使し、あの手この手で姿を隠すガンビア・ベイ。海上封鎖突破のタイムリミットが迫る中、卯月達はどうにか彼女の位置特定に成功する。
「喰らいデース!」
その瞬間を逃しはしない。ずっとチャンスを伺っていた金剛と比叡が、一斉攻撃を叩き込む。
戦艦二隻分の集中砲火。海面に張った布に浮かんだ、ガンビア・ベイのシルエットが、一瞬で粉微塵になる。
しかし、粉微塵ではなかった。
霧散しただけだった。
「これって──」
おかしい。手応えがない。今撃ったのは本当に彼女なのか?
比叡の疑問は、直ぐ解消される。
砲撃で破けた布から、出てきたのは、艦載機の残骸だけだった。その意味を卯月は理解する。
「違う! 当たってない! 騙された、艦載機で人型のシルエットを作っただけだぴょん!」
布越しに居場所を特定しようとした。それを逆に利用された。彼女は布が人型に浮かび上がるよう、艦載機を使って、布の一部を持ち上げたのだ。
なら、本体は今何処に?
卯月は布を凝視する。そして気づく。とても小さいが、布を押しのけて動く『何か』がある。
理解した。ガンビア・ベイは艦載機を囮にした。その上で匍匐前進で逃げている。一手遅れたがまだ間に合う。
金剛達はリロードタイムが必要だ。待ってたら逃がす。ダメージにならずとも、時間稼ぎはできる。
卯月はナイフを構え、彼女の所へ飛び込む。渾身の力で振り下ろす。
そして、布を割いたその瞬間。
大量の黒煙に襲われた。
「うっ!?」
同時に炎が噴き出す。
「何だコレ! まさか、燃えてんのかぴょ──」
「『二手』。遅れましたね」
「ッ!?」
声が聞こえた瞬間、卯月はそこへナイフを振るう。しかし虚空を切る。もう彼女はいない。
ガンビア・ベイは、何かの手段で布を燃やしていたのだ。改めて探そうとしても、大量の黒煙が邪魔をする。やむを得ず距離を取り、砲撃で煙を蹴散らす。
「お姉さま。これは……」
「逃げられ。あ、そこまでじゃない。けど、クソ面倒な。また探し出すトコからスタートかっぴょん!?」
既に影も形もない。ガンビア・ベイは再び姿を消した。
そして、再捜索の難度は間違いなく上がっている。卯月に対し攻撃するのさえ、慎重にやるだろう。
その時、味方がやって来るのが見えた。アレは……満潮か。
「テメー、今更何の用だぴょん」
「ガンビア・ベイを探す目は、少しでも多い方がいいでしょ。私は此処からアンタを援護する」
「それ、何時通りでは?」
「そうなるわ。他の連中は、周りから捜索してる」
この位置一点から探すより、多角的に探した方が、ガンビア・ベイは発見し易い──筈だ。多分だけど。
そして、満潮は卯月の背中についた。
「背中合わせにして。お互いの背後を補って。全方位を見ないと、アイツには対応できないわ!」
その指示に従い、この辺りにいる者達は、それぞれ背中合わせにくっつく。
卯月は満潮、金剛は比叡、秋月は……卯月を暫く見つめた後、悲しい顔で桃にくっついた。桃は極めて不服そうである。
「……情報によれば、アイツがステルスになれるのは、動かない時だけって聞いたが」
「そうよ。だけど、カムフラージュなら動きながらでもできる。でも激しく動いたら、当たり前だけど見つけやすくなる」
「この煙幕がなければ、だけどね」
「ステルスじゃなくて十分なんだ。この煙があれば、カムフラでも十分姿は隠せるって訳だ」
さっき布が燃えた分の煙も加わり、視界はより悪化した。
声がするので、近くにいるのだろうが、松と竹の姿もぼやけてる。竹の言った通りだ。ガンビア・ベイの姿はまるで見えない。
「透明になってる訳じゃあない。動けば必ず痕跡が残る。注意深く観察して、見つけ出す。現状それしかないぴょん!」
卯月は叫ぶ。実際それしかない。本来なら透明化の原理を突き止めないといけないが、今のままではそれさえできない。
だけど、必ず仕掛けてくる。
海域封鎖はまだ継続中。機雷は残っている。その間に少しでも頭数を減らそうとする筈だ。
「せめて、空爆の援護が加わってくれれば……!」
チラリと、空を見る。
飛鷹や赤城の航空隊は、ガンビア・ベイ&イロハ級の航空部隊と交戦中。
艦載機のパワーアップも尋常ではない。ほぼ拮抗。ギリギリ優勢と言った所。爆雷を投下した基地航空隊が、補給を終え帰ってくれば、状況は変わる。
逆に言えば、そこまでに仕掛けてくるということ。
……多分だが。
逃げ特化のスタイルのせいで、向こうから攻めてくるイメージが皆無だ。本当に攻撃して来るよな。でないと困る。
「来るなら来やがれってんだぴょ──」
その時、寒気を感じた。
気のせいとか、第六感的なものではない。
背中越しに感じていた、満潮のぬくもりが、消えた。
「な……」
振り返る。
脇腹から血を流し蹲っている。
満潮が既に攻撃されていた。
「何でだぴょんッ!?」
内臓に到達している可能性さえあり得る。深い傷を満潮は負わされた。
それだけの攻撃なのに、発砲音一つしかなかった。
艦載機の飛ぶ音もなかった。機体の影も見えなかった。
なのに攻撃されていた。
「バカな、どうやって、何時、どう攻撃が来たんだぴょん!」
「大声出すな……傷に、響く……!」
「っだ、大丈夫かぴょん」
「節穴なの……眼球機能してんの……無事に決まってんじゃない」
皮肉は言える辺り、一応大丈夫っぽい。しかし深い傷に変わりはない。卯月は周囲に警戒しながら、応急処置を始める。
急いで傷を塞ぎながら、卯月は確証を持った。
来る、攻撃が、今此処で来る。
治療中の隙を突いて、必ずガンビア・ベイは仕掛けてくる。
周りの仲間もそれを察知し、警戒心を一層高める。
殺意を感じた。
「──ッそこか!」
治療を中断し主砲を構える。やはり死角からの攻撃。真後ろから『何か』が来る。振り返った卯月が見たのは──無音で飛行する戦闘機。
その機銃は、卯月へ向いている。
予想はしていたが、こっちも無音。ガンビア・ベイ本体同様、艦載機まで音を消せる。一体どういう原理なのか。
「けど、撃ち落とせば、関係ないぴょん」
この距離だ。狙いをつけるとかは要らない。撃てば終わる。
トリガーを引く、その寸前。
秋月が悲鳴を上げた。
「違いますお姉さま! そっちじゃない!」
何を? その疑問は直ぐ解消される。
「
そう言ってくれたから、卯月はギリギリで気づけた。
今、撃ち落とそうとしていた艦載機。
──その隣に、もう一気に、透明な艦載機がいた。
気付かなかければならなかった。
ガンビア・ベイは、自分だけでなく、艦載機も透明化できる。
同じ要領で、艦載機もカムフラージュできたのだ。
透明って訳ではない。集中すれば見える。しかし、煙幕の中、縦横無尽に飛行する、小さな艦載機を補足し続けられるかは、全く別の問題。
今、卯月の眼前にいるのは、正にそれだ。
「痛いぴょん……!」
満潮のようなダメージは回避した。しかしノーダメージはダメだった。機銃をギリギリで防いだものの、跳弾に肩を抉られた。
「何てこと。これに気付けなかったなんて、防空駆逐艦失格です!」
「わー、これ、ヤバいね。でも、やるしかないよ……ね?」
上空では制空権争いが続いている。
きっと、それも囮だった。
ガンビア・ベイはずっと、卯月達を艦載機で包囲しようとしてたのだ。
それが今、完成してしまった。もっと早く気付くべきだったのに、策に嵌ってしまった。後悔しても遅い。
「
それを合図に攻撃が始まった。
不可視かつ、電探にかからず、かつ無音の艦載機が突っ込んでくる。
咄嗟に金剛が指示を出した。
「注意して観察するネー! 完全な
彼女の言う事は間違ってない。確かに見えるっちゃ見える。迎撃はできる。だが、とんでもなく見にくい。そこが問題だった。艦載機は手の平サイズしかない。それが周囲の色と同化した挙句、煙幕の中を飛翔する。
見える訳がない。
見えたとしても凄まじい集中力が要求される。
しかしやらなきゃスクラップにされる。
それを分かっているから悲鳴も上げず、全員が対空砲火を始めた。
これもまたガンビア・ベイの狙いだ。対処困難だが不可能ではない攻撃を続け、集中力を削いでいく。そうしておけば海域封鎖が破壊された時、楽々と逃亡できる。殺すのは二の次。自分を生還させることが至上目的だ。
「秋月ちゃん……で、いいんだよね。もうちょっと狙いを定められない!? 正直、秋月ちゃんが頼りなの!」
秋月は桃と背中合わせで戦っている。偶々そういう組み合わせになった。
彼女は他の防空駆逐艦と会ったことがある。本来の性能を知っているが故に、もう少し何とかならないかと声を上げる。
「すみません。でも、全盲の身ではこれが限界で……」
「全盲かぁ……全盲!? 嘘でしょ!? それで戦闘に参加しちゃったの!?」
「はい、お姉さまの役に立ちたくて!」
「お姉さま?」
「あ、卯月お姉さまです」
その瞬間、金剛達の意識が卯月へ向けられた。
「まあこういう空気になるわよね」
「何だこの空気。言いたい事があるなら言いやがれってんだぴょんッ!」
「あ、うん。後で聞くね」
聞かれるんですか。そうですか。生き残っても地獄が確定した卯月。やけくそ気味に鬱憤を対空砲火へぶつける──が上手くいかない。
実際問題、秋月が要になり得るのは確かだ。
彼女は防空駆逐艦。空母の天敵。しかも包囲する為艦載機はかなり近くに降りている。上手くいけば一網打尽にできる。
しかし全盲なのが此処で足を引っ張る。
長10センチ連装砲の視界経由では、肉眼で見るより、余計にカムフラ戦闘機を見つけ辛い。対空砲火は中々当たらず、苦戦を強いられている。
それを打開できるスペシャルな策が浮かべばいいのだろうが、そう都合の良い展開はあり得ない。卯月は思考を切り替える。秋月はあくまでサポート。やるべきことは艦載機殲滅ではなく、ガンビア・ベイの撃破。
このままでは埒が明かない──その状況を認識したのは、卯月だけではない。遠くから状況を聞いている藤提督も同じ。
戦場全域に彼女の声が響いた。
『追加の指示です! 今から少しの間、ガンビア・ベイ捜索を中断。戦闘部隊を包囲する艦載機の殲滅に集中してください! 全員です、イロハ級の迎撃や航空隊も全員です、よろしくお願いします!』
……それでいいのか?
疑問に思った卯月に向かって、意味ありげに金剛が目配せをする。
そういうことか。
何となくだが藤提督の意図を察する。
「対空戦闘へ突入だぴょん! でも、背中合わせは継続すべきだぴょん!」
「そうですね。奇襲への警戒は、怠ったら不味いですから!」
わざわざそれを口に出した。そこがミソだ。
藤提督は『嘘』を吐いた。
艦載機殲滅に集中はする──但し私達以外。戦闘部隊である卯月達は、集中する『フリ』をしてるだけ。やってることは逆。ガンビア・ベイ補足に集中する。
そうすれば、彼女は姿を現す筈だ。艦載機処理に集中する今を逃す手はない。
重要なのは『殺意』だ。
ガンビア・ベイであっても、攻撃には『殺意』が伴う。
その瞬間カウンターを当てる……いや当ててもダメージにはならないが、策はある。
卯月は懐にナイフを潜ませている。そこには、鎮守府攻略戦でも使った、細いワイヤーが通されている。攻撃と同時にこれを絡めれば、再度逃亡されても追跡できる。
さっさと出てこい。
攻撃を仕掛けてこい。
「ガンビア・ベイです!」
だからその意味が分からなかった。
声を上げたのは『弥生』だった。
「What!?」
「うーちゃんじゃない。弥生達の方に!?」
確かにそこにガンビア・ベイはいた。見辛いが間違いなくいる。艦載機に集中していた弥生と望月の方へ出現したのだ。
ガンビア・ベイがライフルを構える。攻撃の姿勢だ。
「まさか……倒しやすい方から、狙ってるってこと……舐められてるねー、アタシ達」
「だとしたら、弥生は怒ります。舐めるなと」
艦載機の処理は中断を余儀なくされる。
攻撃を仕掛けんとするガンビア・ベイに主砲と雷撃を同時に発射。更に二人が左右に分かれ、どちらへ逃げても追撃できる状況へ。
それに対し彼女は──無防備に食らった。
「え」
回避行動さえ取らなかった。主砲も魚雷も直撃。けどダメだ。駆逐艦程度の攻撃ではダメージにならない。
そう思っていたのに。
「どうして」
ガンビア・ベイの半身が千切れ飛んでいた。
何なら頭部も半分消し炭だ。
どう見ても、再起不能に陥っている。
おかしい。卯月の全てが警鐘を鳴らす。明らかに何かがおかしい。
「……え、勝った、の、あた」
「『
「──っ!?」
ここからがガンビア・ベイの攻撃だった。
卯月達の眼前にある光景。
それは、半身が千切れたまま動くガンビア・ベイと──血飛沫を上げて倒れる弥生の姿だった。
「弥生っ!!」
更に攻撃は続く。次の標的は。
「自分への『殺意』じゃなきゃ鈍い。私の
「が……っ!?」
卯月の艤装にライフル弾が撃ち込まれた。
──真正面から、脇腹諸共。
彼女の視界が、鮮血と臓物で染まった。