前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第215話 ガンビア・ベイMk.II"D"④

「何ィ──ッ!?」

 

 卯月の絶叫が戦場へ響く。全員の眼がそちらへ向かう。

 状況を認識する。

 卯月の目の前にガンビア・ベイは現れた。腹部を撃ち抜かれていた。

 そして思う──何故かと。

 

「漸くdamage(ダメージ)、ですね。疲れました。もう二度としたくないです、こんな怖い思いは」

「テメェ! だけど迂闊だな、姿を現したなら、逃がす道理はないぴょん!」

 

 激痛は気にならない。『殺意』とはそういう技術だ。すぐさま錨を取り出し、それを投げつけ、片手へ巻き付ける。

 凄い時間が掛かった気がするが、これで拘束できた。後は純粋なパワー勝負になる。

 

「逃げさない、絶対に!」

「ヒッ、腹を抉ったのに、動くなんてあり得ない。気持ち悪いです、この駆逐艦!」

「一々煩い卑怯者!」

 

 何とでも言うが良い。一時的だが拘束できた。これで漸く攻撃を叩き込める。既に周りも動き出した。

 いの一番に動いたのは──攻撃の機会を伺い続けていた、金剛と比叡。

 発射準備はできていた。

 

「お姉さま!」

「一斉射、受けるデーッス!」

 

 二回目の僚艦夜戦突撃がガンビア・ベイを捉える。

 卯月は鎖を離さない。

 爆発に巻き込まれようが構わない。此処で必ず仕留めると、覚悟を決め睨みつける。

 

 そして、気付いた。

 

 ガンビア・ベイの顔色が変わってないことに。

 

「着弾!」

 

 爆発が二人を包む。手応えがあったと比叡は手を握る。金剛は卯月が無事かと汗を流す。

 煙が晴れるのを待つ時間はない。

 二人は偵察機を飛ばし、その回転で煙を飛ばす。

 

 砲撃の結果に比叡は呟く。

 

「──嘘でしょ」

 

 ガンビア・ベイは無傷だった。

 

「痛ってぇ! こいつは無傷!? ざけんな!」

 

 拘束していた鎖はギリギリ繋がったまま。しかし卯月が片腕を負傷してしまっていた。

 結果は見ての通り。

 戦艦二隻の一斉射さえ、ガンビア・ベイには通らない。

 

『ぼんやりしない! 金剛達は再装填、空母たちは制空権の維持! 陸上砲台部隊動いて!』

 

 そう、まだこの場所での最高火力は叩き込めていないのだ。

 金剛と比叡ではない。

 即興の迎撃拠点に設置された──そんなものを数分で用意できるのが大概だが──陸上砲台。

 

 船に乗せる物ではないので、当然火力は更に高い。

 弱点として、狙いを定めるのに若干の時間がかかるが、今ガンビア・ベイは拘束中。命中させる最大のチャンスになる。

 

『卯月ちゃん巻き添えになるけどごめんね!』

「雑な扱いは慣れてるぴょん!」

 

 言ってて悲しくなるが事実である。

 そう言ってる間に、陸上砲台が狙いを定める。この瞬間の為発射準備はできている。声を上げる事さえなく、大口径砲弾が放たれる。

 

 誰もが願う。

 頼むからダメージになってくれと。

 これ以上の火力は、ここにはないのだから。

 

 しかし、結果は意外な所から齎された。

 

「それは、傷がつきます」

 

 ガンビア・ベイが口を開く。

 

「なのでescape(逃走)です」

「逃がす筈が」

「違いました、すいません、もう()()()()()

 

 何を言っている? 

 その意味を卯月は直ぐ理解した。

 

 鎖が()()()と抜け落ちた。

 

「な!?」

 

 ギチギチに縛っていたのに、蛇の脱皮みたいにズルリと抜けた。

 意味が分からない──理解する間もない。拘束から抜けた以上、ガンビア・ベイは逃げる。

 あっと言う間に煙幕の中へ消え、カムフラージュで景色と同化する。直ぐに音も何も聞こえなくなる。

 だが、だが、混乱している場合ではない。

 

『回避してぇ──ッ!!』

 

 卯月は分かっている。

 自分の目前に、放たれた陸上砲台が迫っているのを。

 ガンビア・ベイの拘束は失敗した。この場にいる理由はない。卯月はすぐ回避行動へ移る。

 

 だが動けなかった。

 正確には、身体が重くて動かなかった。

 絡まる鎖のせいで。

 

「錨!? 足元に、いつの間に!?」

 

 誰がやったのかは言うまでもない。ガンビア・ベイだ。彼女は何らかの方法で、卯月に気付かれず自身の錨を巻き付けたのだ。

 卯月は気づく。

 自分は捕まえたのではない、()()()()()()のだと。

 

 味方の砲撃が、卯月を爆炎で吹き飛ばす。

 そう誰もが思った。

 

 しかし爆発は、もっと後方で起きた。

 

「…………?」

 

 目を閉じていた卯月は、そっと目を開ける。

 

「未熟です。また特訓しますか?」

「……赤城さん? どうやって」

「切りました。まさか味方の攻撃の妨害をする羽目になるとは、思いませんでした」

 

 切ったって。砲弾を切るって、そう簡単に言って良いことじゃないと思うけど。

 いや助かったんだから文句はないけど。

 と、落ち着いたのが悪かった。

 激痛が走った。

 

「──っ!」

 

 抉られた脇腹が痛む。痛いどころじゃない。内臓まで少し飛び出てる。『殺意』で不快感を無視してるから、気絶せずに済んでる。

 

「治療が必要です。向こうで弥生さんが治療を受けています。一緒に応急処理をして貰いましょう。急いで下さい。こうしている間にも、彼女は追撃を試みてる筈」

「まだ、もうちょっと」

「ガンビア・ベイは逃亡しました。優先すべきは」

「まだ、逃がしてないぴょん……」

 

 卯月が手を開く。そこにはワイヤーがあり、何処かへ繋がっている。

 

「ナイフを投げたのは、鎖を絡ませる為の布石。だけど同時に、こういう意味もあったんだぴょん」

「あの時、ワイヤーを繋げていたと?」

「うん、この先に、あいつはいるぴょん!」

 

 まだ繋がってる感覚はある。辿れば攻撃ができる。痛みを堪えながら卯月は立ち上がる。

 

「……いえ、ダメでしょうね」

「何でだぴょん」

「引っ張ってみて下さい。それを、全力で」

 

 赤城の警告。『まさか?』と汗を流しながら、卯月はワイヤーを引く。

 結果、ガンビア・ベイを引き寄せ──無かった。

 ワイヤーは()()()()()()()

 引っ張った途端、引き寄せられたワイヤーによって、全身が雁字搦めにされてしまった。

 

「何で!?」

「気づいていたという事です。だから逆に利用した。引いた途端、私達に絡みつく形に再配置したんです」

「って事は、次に来るのは!?」

 

 一瞬の事だった。ガンビア・ベイはこれを何処かで待っていたのだ。カムフラージュを解除した爆撃機が、夥しい量の爆弾を、卯月達に向けて放り投げる。

 ワイヤーのせいで直ぐに逃げられない。

 

「大丈夫、解けます」

 

 赤城がそう言った途端、ワイヤーが『切れた』。

 細切れになって落ちていく。

 

「絡みつく前に、切っておきました。そして攻撃が来ることも予想済み。考え方が少し甘いですね、ガンビア・ベイ」

 

 赤城は跳躍、上から弓矢を放ち、一気に大量の艦載機を展開、爆弾を始末する。

 しかし爆撃機は健在、直ぐ次のが襲来するだろう。

 だが、それを許さない者がいる。

 鬼の形相で突っ込んできたのは、秋月だった。

 

「ちゃんと目視できるなら、こんなの落とせるんですよ!」

 

 長10センチ連装砲ちゃんが火を噴く。追撃を目論んでいた爆撃機は、あっという間に鉄くずへ成り果てる。

 

「助かった、ありがとうだぴょん!」

「お礼はいりません! お姉さまを助けられること自体が至福の極みなので! もっと頼っていただけると!」

「うん、でも無茶はしないで。秋月はとても大事だぴょん!」

「……ふぇ!?」

 

 そう、秋月は重要だ。

 防空駆逐艦である彼女がいなくなったら、戦いは更に不利になる。決して無理はして欲しくない。卯月のはそういう意味合いの発言だ。

 秋月はそう捉えなかった模様。

 

「へへ……大事? とても、うふ、ふふふ、えへへへへ」

「……秋月はどうしたんだぴょん?」

「卯月さん。生還したら、不知火に頼んで国語の授業もパワーアップしますから」

「ゑ?」

 

 自業自得であった。卯月はまた罪を一つ重ねた。

 

「とにかく治療をしましょう」

 

 ワイヤー作戦は失敗。そうするしかない。弥生の所へ行くと、秋月と望月が警戒する中、桃が弥生の治療を行っていた。

 

「桃さん」

「分かってる! 卯月ちゃんもね……って酷過ぎない!? 内臓出てるよ!? 何で動けてるの!?」

「気合」

「バカーっ!」

 

 桃に怒られながらも応急処理を受ける。

 そうしている間にも、ガンビア・ベイの攻撃は続く。機雷源は着実に削られている。ステルスとカムフラージュの戦闘機で負傷者は増えていく。

 何時も間にか形成された艦載機包囲網は、未だ健在だ。

 

「……ヤバくないですか、コレ」

 

 弥生の言葉が、状況を物語っている。

 

「……逆だったんだ。あたし達はあいつを誘い込んだと思っていた。けど、誘い込まれたのはアタシ達だった」

 

 負傷者を積極的に増やすのは、最後の準備。

 対空戦力を削り、体力を削り、気力を削り。

 機雷源を越えて突っ込んできた、イロハ級と顔無しの部隊で、一気に圧し潰す為の布石だ。

 

「狩られていたのは、あたし達だったのか」

 

 全員、反論できなかった。

 追い込まれているのは、間違いなく()()()()()

 

「いいえ、狩りをしているのは私達です」

「え?」

 

 赤城の否定に、気の抜けた返事をしてしまう。

 

「『狩り』とは知恵のある者達が『集団』で行うもの。ガンビア・ベイはせいぜい群れを率いているだけの『獣』。ちょっと知恵が回るだけの『獣』に過ぎません。ケダモノ風情に負ける道理はありません」

 

 それでも尚負けるバカはいませんね? 

 と赤城は挑発する。

 そんな言われ方をして、気合の入らない者はいない。言われてみれば腹が立つ。スペック差のゴリ押しで負けるなんて、屈辱でしかない。

 

「……でも、あの能力は何なんだぴょん。偽物が出てきたり、絡めた鎖がヌルって抜けたり。あいつの能力は『ステルス』と『カムフラージュ』。まさか、他にも隠している能力があんのかぴょん」

「それについて、熊野さんから伝言を預かってます」

「熊野から?」

「ええ、最上さんの傍を離れられないそうで。ですが、その状態で観察を続けていたようで。能力について……推測が」

 

 ガンビア・ベイに集中していて分からなかった。

 当のガンビア・ベイも卯月達に集中していて気付かなかった。

 弥生のところへ一瞬出現したタイミングからずっと、熊野は観察していた。最上が一気に動かした瑞雲の視界を借りて、『観察』していた。

 

「時間がないので簡潔に、全て『カムフラージュ』の応用です」

「……どこまでが?」

「全部」

「嘘だろ。いや、そうだとして、攻撃を受けて霧散したりは、どうやって」

「艦載機もカムフラージュができるのをお忘れで?」

 

 弥生の前に現れたのが、攻撃を受けた瞬間霧散した。

 その正体は『艦載機』だった。

 複数機を一か所に集め、カムフラージュで模様を描き、ガンビア・ベイに擬態していたのだ。霧散したのはその為。攻撃を受けた瞬間、艦載機を飛びだたせれば、そう見える。

 

 その隙に、カムフラージュで隠れていたガンビア・ベイが、別行動で攻撃を仕掛けてきた──という原理だ。

 

「カムフラってそこまでできるものだったっけ……」

「システム搭載艦に常識を求めないでください。卯月さんが獣化したのも、ご存じでしょう」

「あぁ……」

 

 その通りだった。

 

「……なら、腕がズルリと抜けたのは」

 

 あれもカムフラージュと艦載機の応用なのか。一体どうやって。

 

「説明していて何ですか、私は結構焦ってます。持ち場を離れてしまったので」

「持ち場? そういえば、赤城さん今まで何処に」

「藤提督の護衛です」

 

 彼女が前線にいたのは趣味(だけ)ではない。突貫工事で作った迎撃拠点を動かせるのは彼女しかいなかった。藤提督もこの戦いにおける要。故に赤城が直衛についていた。しかしこの膠着状態を崩す為に、前へ出ざるをえなくなった。

 

「まさか、司令官、危ない……!?」

「その通り。私は直ぐ藤提督の護衛へ戻ります。伝言はしましたので、ガンビア・ベイを仕留めるのはお願いします」

 

 弓矢を飛ばし、赤城はワープ。

 初めて見てしまった弥生達は、目を白黒させていた。

 

「考えたら負けだぴょん」

「世界って広いんだね。あたしは驚いたよ」

「むしろ極一部じゃないかな……」

 

 極一部の変態の挙動だ。まともに取り合ってはいけない。

 

「応急処置終わったよ! でも、その傷でまだ戦うつもりなの、卯月ちゃん!」

「当然だぴょん」

 

 きつく巻かれた包帯は、止めようがない出血で滲んでいる。

 どう見ても重症。

 その身体を押して卯月は立つ。

 

「この中でシステムを積んでんのはうーちゃんだけ。倒せるなんて思っちゃいないけど……何とか、良い感じにまでは、しなきゃいけないぴょん──ッ!」

 

 背中に『殺意』が走る。再び攻撃が迫る気配。卯月はその場からダッシュで離脱する。突然の動きに弥生が叫んだ。

 

「卯月!?」

「距離をとるべきだ、負傷者同士、纏めて始末しに来る筈。離れていれば同時は来ない、そっちはそっちで、何とか頑張ってぴょん!」

「……気を付けて!」

 

 一瞬弥生の方へ振り返り、Vの字サインを返す。

 純粋に嬉しかった。カミソリをぶち込む程恨まれていたのに、今は少しだけど、心配して貰える。そして嬉しいと思えることが嬉しかった。まだ『私』は死に絶えていない。そう実感できたから。

 

「来るなら来い……カムフラージュってことは理解した、やりようはある!」

「お姉さま、背中は秋月に!」

「……いや、秋月は少し離れてて。遠くからの方が対空砲火やり易い筈」

「でも、それでは背中が」

「大丈夫、アレが来てる」

「アレ?」

 

 指を刺した先にいたのは、満潮だ。

 

「卯月! その傷で、ムリしてんじゃないわよ!」

「はいはい。背中をお願いするぴょん。聞いてるかもしんないけど……」

「能力の秘密はカムフラ、聞いたわ!」

「ヨシ、秋月、頼む!」

「……はいっ!」

 

 こう言ってしまうと悪いけど、背中を合わせて安心できるのは満潮だ。なんやかんやで相方をやっていた事が大きい。

 

「で、どうすんの、策はあるの」

「フフフ……聞きたいかぴょん?」

「別に」

「……そう」

 

 背中預けるのやっぱ秋月の方が良かったかな。あっちの方が反応良さそうだし。卯月は少し悲しみに包まれる。

 

「真面目に作戦あんの」

「現状ないぴょん。どうにかして陸上砲台を命中させるのが、良さそうだけど……」

 

 カムフラ艦載機は相変わらず卯月達を包囲している。なのに中々襲ってこない。それがかえって不気味だ。無駄玉さえ嫌い、確実に始末できる瞬間を狙っている。そう思えて仕方がない。正に狩り。狩られる側の気持ちを卯月は味わう。

 

「……そもそも、何でカムフラができる。どうしてステルスが。D-ABYSS(ディー・アビス)をどう使えば……」

「う、卯月……!」

「出たか!?」

 

 遂に出たかと卯月は叫ぶ。

 しかし満潮の声は、驚愕に満ちていた。

 

「出た、けど、これじゃ!」

 

 その時、卯月も同じ光景を見た。

 

 ガンビア・ベイが立っていた。浮いていた。飛んでいた。

 前に、左右に、後ろにいた。

 大量にいた。

 全方位にガンビア・ベイが現れた。

 

「えぇ……」

 

 非常識極まった光景に、何かアレな声が漏れた。

 

「Logicには気づきましたか。なら……誤魔化しは不要ですね。Application(応用)で追い詰めます」

 

 無数のガンビア・ベイが卯月達を取り囲んでいた。

 その正体が、艦載機の塊に映像を映した虚像に過ぎなくとも──戦慄するには十分過ぎる光景だった。




航空戦とか、防空以前のシチュエーションに持ち込むスタンス。
ガンビア・ベイを端的に言えば。スケスケの実とナギナギの実を食わせた半天狗です。どうやって勝てばいいかな?
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