前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第216話 ガンビア・ベイMk.II"D"⑤

 艦載機で作った虚像で攪乱する──そういう戦術だった。

 しかし奇抜なだけ。タネが分かればどうとでもなる。そう思っていた。

 甘い考えだったと卯月は思い知る。

 

「マジかよ」

 

 数を増やすだけでも、十分攪乱になったのだ。

 

 周囲の全てを虚像に囲まれた卯月は、内心頭を抱えた。多分だがこの中に本物はいない。本物はカムフラージュで隠れている。奇襲のタイミングを伺っている。

 

「攻撃しないんですか」「じゃあ、正当防衛を、こちらから」「させて頂きます」

「ええぃ四方八方から話しかけんじゃない! 気持ち悪いぴょん!」

「叫んでる場合か! 来る!」

 

 虚像がライフルを構える。弾丸が放たれる。ライフルを上へ構える。次々に艦載機が飛ばされる。

 正確には違う。ライフル弾に見せかけた戦闘機の機銃。

 喰らえばダメージに変わりはない。

 

「げ、迎撃で良いのかぴょん……いや撃つしかないけど」

 

 しかし嫌な予感は的中する。

 着弾した際、数機は落とせる。ただそれだけ。残りは一気に霧散し、別の場所で虚像を再構成。

 尤も最初から偽物、着弾も何もないのが事実。

 挙句、それだけではない。

 

「──お姉さまッ! 上から爆弾が!」

 

 少し離れた所にいた秋月が警告。顔を上げると、影も形もなかったのに、爆撃機が出現。超至近距離から爆弾を落としに来ている。

 そっちはカムフラではない。

 完全ステルスの爆撃機だった。

 

「どうして、カムフラは兎も角、ステルス迷彩はエンジンが動いてたら使えないって、事前情報で!」

「自由落下だ! うーちゃん達の頭上までエンジンを切って落として、ギリギリの所で動いたんだぴょん!」

 

 ガンビア・ベイは両方を織り交ぜて攻撃をしかけてくる。使えるものは全て使う。当たり前の事だが、やられる側になると堪ったものではない。

 しかし、爆弾は一瞬で消滅した。

 秋月の対空砲火だ。

 

「爆弾は任せてください。お姉さまと満潮さんは、本体へ集中してください!」

「助かるわ……でも、どう見つければ」

「…………」

 

 虚像を全力で迎撃しながら、卯月は考え続ける。

 

 何故、カムフラができる? どうしてステルスができる? それだけじゃない。何で音まで消せる? D-ABYSS(ディー・アビス)は言ってしまえば、エネルギー吸収装置に過ぎない。それがどう作用すれば、そんな能力が実現できるのか。

 

 彼女が、意識を削る様な攻撃をしてくるのは、考える余力を無くす為だ。つまり、能力の『種』に気付かれたくない。つまり、『種』が分かれば対策ができる。そういう事ではないだろうか。

 

 それに、もう一つ気になる点がある。

 

 ガンビア・ベイにまともな攻撃は効かない。金剛達の一斉射さえ無傷。恐らく傷がつくのは陸上砲台級の一撃のみ。それも、彼女の態度から察したに過ぎない。

 けど、それ、本当なんだろうか。

 卯月には、ある挙動が引っかかっていた。

 

 疑念が溶ける前に事態は動く。

 

 虚像達の動きが急に変化した。空を飛んだり──実態は艦載機の集まりなので飛べる──背後へ回り込んだり、攪乱だった動きが、攻撃メインに変化する。

 

 言ってしまえば、やってることはシンプルなのだ。

 所詮艦載機の集まり。機銃を撃ったり、爆弾を落とす。それぐらいしかない。だが見た目がガンビア・ベイなのが問題だった。

 棒立ちの姿勢のまま、全身から機銃が飛ぶ。ライフルを構えた姿勢から、腕(艦載機)が発射され爆弾投下。

 

 戦場では咄嗟の判断が必要だ。相手の構えから、次の動きを予想してしまう。艦載機の塊と分かっていても反射してしまう。

 構え自体がフェイクとなっている。それだけで普通に戦うより神経が磨り減る。ただの虚像なのに消耗が凄まじい。

 

「鬱陶しい!」

 

 一言で言えば、そんな感じだ。

 

 勿論、ただの虚像ではない。カムフラを適宜纏ってる個体もいる。ステルスのもいる。見落とせば攻撃が直撃。

 艦載機の群れを相手してる方がマシだ。心底そう思う。

 

 泣き言ばかり言っていられない。何か打開策はないか。どういう原理で迷彩は成り立ってる? 

『殺意』のお陰で、半自動的に戦闘はできる。思考する部分をフル回転させながら、主砲を撃ち、虚像を散らし続ける。

 

「この中に、本当に本体がいるの? それさえ疑わしくなってきたわ……!」

 

 カムフラを纏った艦載機や本体の接近を警戒し、満潮と背中合わせのまま戦闘続行。

 兎に角必死だった。特に卯月はそうだ。システムの強化があってもダントツの紙装甲。攻撃を喰らえば死が見える。必死にならざるをえない。

 

 ガンビア・ベイは正にそこを突いた。

 

「ええい、一体何隻吹っ飛ばせばいいんだぴょん!」

 

 水上に立っている虚像がいた。今しがた突撃銃を構えたばかり。先手で攻撃ができる。すぐさま主砲を放つ。

 砲弾は着弾した。

 

「え」

 

 但し『手前』だった。

 

 卯月の放った主砲は、ガンビア・ベイの手前で『何か』へ着弾し、止まってしまった。

 しかし、手前には何もない。何もない空間に着弾した。

 

 虚空から、血が流れ出す。

 何もなかった空間に、『それ』が現れる。

 

「……な」

「……お姉、さま、なんで」

 

 被弾したのは『秋月』だった。

 

「何だってぇ──っ!?」

 

 システムで強化された弾丸が肩を抉っている。

 夥しい出血で海面が染まる。

 何故こうなったのか、卯月はすぐさま状況を理解した。

 

 あのガンビア・ベイは虚像ではない。『本体』だった。

 しかし、姿を現したのは攻撃を誘う為。

 ガンビア・ベイは、背後から秋月に、少しだけ接触。『能力』により秋月にステルス迷彩を施し、()()()()とした。

 

 卯月はそれに気づかず発砲。ガンビア・ベイではなく、その前にいるステルス化した秋月に着弾してしまったのである。

 

「何で気づけなかったのアンタ! 殺意の感知とかあったでしょ!」

「うーちゃんに向いてたならできる、けど、秋月へのだ、他人への殺意は感知できないぴょん!」

「ええ、だから、こうしたんです」

 

 動けない秋月へガンビア・ベイが狙いを定める。

 

「気づけなかった、ステルスにこういう使い方があったなんて、うーちゃんは間抜けか!」

「それより秋月を、助けないと──」

 

 既に手遅れだ。

 

「天敵は、優先して、始末します。でも、私には天敵なので……別の人に、任せるのがoptimal solution(最適解)。そう思いませんか。Heart(心臓)とかに、当たって欲しかったですけど」

 

 あらゆる意味で隙が生まれてしまった。ガンビア・ベイは秋月の後頭部へ、突撃銃を密着させる。

 秋月は防空駆逐艦。見えさえすれば多量の艦載機でも一瞬で撃墜できる。

 ガンビア・ベイはそれを脅威とみなし、優先して始末しにかかったのだ。

 

「裏切者の卑怯者は、さよなら、です」

 

 トリガーが引かれた。

 瞬間、閃光が放たれた。

 

 

 *

 

 

 トリガーとほぼ同時に放たれた閃光。

 その正体は、『瑞雲』の爆炎だ。

 二人の間に割って入った瑞雲が、別の瑞雲の機銃で、自爆したのだ。

 当然、秋月を助ける為だ。

 

「熊野!? いや、最上!?」

「どっちでもいい、救助に行ける、援護頼むぴょん!」

「分かったわ!」

 

 ガンビア・ベイから殺意は失われていない。瑞雲の自爆程度では傷もついていない。ズレた突撃銃の照準を合わせ直している。

 その刹那、再び手が秋月に触れる。

 秋月の姿が、ステルス化する。

 

「照準を誤らないように、次誤射したら、死ぬかもしれないわ」

「言われなくても──あ゛っ!?」

「な、なに急に!?」

 

 その時、卯月は見た。

 自爆し燃える瑞雲。そこから放たれる炎。照らされるガンビア・ベイと秋月。海に映るガンビア・ベイの影。

 ──いや、今は良い! 

 思考を止める、秋月救助へ集中。できれば使いたくなかったが止むを得ない。少しでも威力を高める為、酸素魚雷を放つ。

 

「効かないのは、知ってると、思うんですが」

「でも、爆発で吹っ飛ばすことは可能だぴょん。違うか!?」

「いえ、Right(正解)、です……届かなければ、意味ないですけど」

 

 ガンビア・ベイが手を振り上げる。放たれた艦載機が、魚雷を処理しに突っ込んでいく──だが発艦した瞬間、撃ち落とされた。

 

「──私の目の前で発艦とは、天敵を甘く見てないですか。ましてやこの距離で!」

「秋月!? その傷で、動くんですか……ですけど結果は変わら」

「吹っ飛ばすことはできる。そう言ったぴょん!」

 

 魚雷が着弾する前に、起爆させる為、卯月が主砲を撃った。

 

「但し飛ばすのは秋月だぴょん」

 

 至近距離での爆発。ガンビア・ベイは当然無傷だが、同時にジャンプした秋月は、空中へ吹っ飛ばされた。

 

「まだ、射程距離内、ですよ……!」

「いいえ、逃走は、成功です!」

 

 秋月はそう言い放つと、『主砲』を撃った。

 その反動で、宙を飛んだ。

 システムで洗脳されていた頃、秋月が奥の手としていた、反動による空中移動。それを一瞬だけやってのけたのだ。

 

「まだです、ギリギリ射程距離内──む、あれは、瑞雲」

 

 最後の逃走は、熊野&最上の瑞雲が支援。秋月はギリギリだが逃走に成功する。しかし重傷を負ってしまった。

 ガンビア・ベイの攻撃だけではない。瑞雲の自爆や、魚雷の爆発のダメージもある。ざっくり診て見たが、戦える様子ではない。

 

「……逃げられました。でもsafe(大丈夫)。あの怪我なら……直ぐに始末できる。もうちょっと待って下さいね、秋月」

 

 ガンビア・ベイが再び消えた。カムフラかステルスか。どっちでも関係ない。

 

「すみません、お姉さま、役に立つどころか、足を引っ張ってしまって……」

「気にすんなぴょん。むしろ、撃っちゃって悪かったぴょん。てか、あの空中移動、まだできたのかっぴょん」

「一瞬だけです……連続は、不可能です。ここぞという時に使いたかったのですが」

「ウジウジ煩いわ。動けるなら、さっさと戦線離脱しなさい」

「いや、ムリだぴょん」

 

 卯月が顔を上げる。本物は再び姿を消した。虚像のガンビア・ベイがまだ大量にいる。深手を負った秋月を逃したりしない筈。絶対に始末しようとする。その上で逃げおおせる気だ。状況は依然彼女有利で進んでいる。

 

「どうすれば……」

「どうにかする……ことは、できるぴょん。多分だけど」

「え?」

「声出すな。ガンビア・ベイに聞かれたくない」

 

 卯月は、漸く『能力』のカラクリを見抜いた。

 さっき、瑞雲が自爆した時に、気付くことができたのだ。

 だが、戦闘への活かし方となると話が変わる。

 

「そういう意味でも、やっぱり、秋月は離脱させられない。最後まで防空駆逐艦として、活躍して貰わなきゃいけないぴょん」

「何言ってんの……目が見えないのよ、姿を消したり現わしたりする奴、どう撃ち落とすの」

「やり方は浮かんだぴょん。だけど、これは……うーちゃん単独じゃできない。味方全員が連携して、初めて成立する」

「何を言ってんの」

「艦載機を、全て、始末できるかもしれない。本体を特定できた上で、ステルスもカムフラも無力化できるぴょん」

 

 そんな作戦があるのか? 

 満潮と秋月は言葉を失う。

 しかし実現は困難。

 卯月自身が言ったように、連携が非常に重要だ。それを伝達しなきゃいけない。そうしている間に、ガンビア・ベイに聞かれてもいけない。

 

「それ、本当なの?」

 

 この会話を聞いていた艦娘がいた。

 

「……睦月、と、如月?」

 

 大発動艇で海域封鎖をしてくれた、睦月型の姉妹である。

 

「そして更に加わるはこのあきつ丸でありますッ!」

「何でアンタまでいんのよ」

「大発要員で組まされたであります。大発の機銃や主砲であれこれしてた折、藤提督より秋月を護られたしと、要請が来」

「来たから、助けにきたのよ。卯月ちゃんや、満潮さんも含めてね」

「……セリフ」

 

 項垂れているあきつ丸は無視だ。

 

「卯月ちゃん、今言ったの、本当なの? この状況をひっくり返せるの?」

「引っ繰り返せはしない。でも、ギャフンとは言わせられる。今より何倍もマシになるのは確約できる」

「卯月殿の読みが誤ってなければ、でありますが」

「一々煩いんだけど」

 

 とは言っても不安は大きい。

 本当に私の読みが合ってるのか? 

 しかも全容を突き止めた訳ではない。気づけたのは透明化の原理だけ。無音飛行やレーダー無効の原理は……多分レベル。

 間違っていたら、全員を危機に晒す事になる──背筋がゾっとした。只でさえ嫌われているのに、危機に晒すような作戦を立案したと知られたら。

 

 情緒は死んでる。死んでも罪悪感はない。

 けど、そんなことをしたら、自分のプライドが許さない。

 

「ぬ」

 

 手に、温かい物が触れた。それも二つ分。満潮と秋月が、卯月の手を握っていた。二人は真っ直ぐに卯月を見つめてくる。

 

「……手、震えてんだけど」

「怪我のせいです」

「アンタの手を握ってるから、嫌悪感のせいよ、指摘すんな気持ち悪い」

 

 何なんだろコイツ等。そっちから握ってきたくせに。卯月は呆れた溜息を吐き、やれやれと首を横に振る。

 そして、空いてる手を、睦月と如月に出した。二人がそうしたように真っ直ぐに見つめる。

 

 異常と分かる真っ赤な眼。あれから、どれだけ大変な目に合ってきたのか、睦月と如月は察する。その上で卯月の手を取った。

 

「聞かれないよう、伝達すればいいのね?」

「任せて頂戴。鎮守府の艦娘たちは、こういう行動をとる為に、毎日訓練してるんだから」

「そうだにゃしい! ワンマンアーミーじゃできない事を、見せてあげるぞよ!」

 

 一発逆転、その一手となるのか。

 ガンビア・ベイを『狩る』為の作戦が、再び始まった。

 

 

 

 

「あのー、あきつ丸には握手ないでありますかー?」

「拷問キチの手を取るのはちょっと……」

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