前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第217話 ガンビア・ベイMk.II"D"⑥

 ガンビア・ベイの艦載機を一斉に叩き落せるかもしれない。

 その上、本体を炙り出すことができるかもしれない。

 それは、卯月の見立てが誤っていなければの話。ガンビア・ベイの『能力』の原理が、予想通りならの話。

 

 睦月と如月経由で、藤提督に話が伝わる。

 殆どノータイムで返事が返ってくる。

 

「オーケーですって」

「まあ、そう言うと思ったけどね」

「マジかぴょん……」

 

 自分で言っておいて、提案が通るとは思っていなかった。無意識レベルに近いが、自分が信用される筈がないという思い込みがあった。

 

「いえ、人情とか、そういうんじゃないわ。ただ言ってることに矛盾がないからよ」

「藤提督が、そう?」

「うん。あの人あれで……あんなんでも……うん……冷静だから」

「歯切れが悪すぎるぴょん」

「そりゃ陣地が崩壊するの見たさに前線出る輩でありますし」

 

 ごもっともである。『とにかく!』と睦月が手を叩く。

 

「卯月ちゃんのしたいことは、睦月達に任せるにゃしい……でも、その後倒せる見込みは、また別なんだよね?」

「ああ、あの装甲をどう突破するかは……」

 

 そこまでは仕方がない。ステルスを解除し正面戦闘に持ち込めば、つけ入る隙を見つけられるかもしれない。

 憶測が多いがそんなものだ。

 このままいってもジリ貧だ。やるしかない。

 

「如月達は準備に入る。その間、ガンビアはお願いするわ、ムリしちゃダメだからね」

「……それは聞けない相談だけど、善処はするぴょん」

「素直じゃないんだから──っ!」

 

 その時、不意に虚像が現れた。

 カムフラで接近された、それも複数体。

 棒立ちだが全員攻撃体勢。爆発のように全身から機銃・爆弾が放たれる。しかし、接触する前に全て迎撃。

 

「秋月!」

「まだ、これぐらいなら、できますから……!」

「油断しないで、また何か仕掛けてくるに違いないわ!」

「その通り」

 

 あきつ丸が、邪悪に笑いながら、手をくくる。その手からはワイヤーが伸びていた。

 勢いよく引かれたワイヤーが何かを捉える。

 

「ちょっと、接近し過ぎたでありますな」

「──うぁ!?」

 

 想定外の事態が起きたことで、カムフラがブレる。虚空にいたのはガンビア・ベイだった。

 ステルスは関係ない。張り巡らせていたワイヤーに引っかかっただけのこと。

 

「その艦載機ワイヤーを()()のに丁度良かったであります。いやぁ大助かり。感謝するであります。それではこれをより強く引っ張り輪切りのガンビーをいっちょ拵えるとするでありまーす!」

「ヒィッ!? 狂人!?」

「あらよっとー」

 

 どの口が──いや狂人だわ。卯月は初めてガンビア・ベイに同意する。

 ただ、輪切りのガンビア・ベイは出来なかった。

 

「むっ!?」

 

 ワイヤーで強く縛り上げていた。それは確かだ。なのに()()()と抜けだされてしまった。

 同じだ。卯月は気づく。

 鎖でガッチリ拘束してたのを抜け出された時と、同じ何かが、今確かに起きた。

 

「ややややっぱりscared(恐い)! 迂闊に近づくのは、愚かでした……何か目論んでるようですが……Carelessness(油断)はしません。遠くから、削らないと……うう、やだよぉ……やだぁ」

「はぅ! 泣き顔が……そ、そそるであります!」

「狂人だぁぁぁぁ!」

 

 こいつら二人だけで戦ってくれねえかな? 

 卯月は割と真面目に思った。

 糞みたいな考えは放り投げ、戦闘状態へ帰還する。ガンビア・ベイはまた消えた。

 

「ふぅ。これで接近することは、そうそうなくなるでしょう。威嚇は完了であります」

「アンタは……」

「秋月殿の護衛はお任せを。タイミングに備え、キッチリ護らさせて頂くであります。さ、ガンビア・ベイの追撃を」

「じゃ、睦月達は行くにゃしい!」

 

 と言って、彼女達は去っていく。

 残ったのは、卯月と満潮の二人だけ。ここから『準備』が完了するまでは……自分達だけで持たせたい。

 単純に、戦力は温存しておきたい。

 今からするのは逆転の一手なんかじゃない。ガンビア・ベイを土俵に引き摺り込む為の作戦だ。

 

「今の、おかしいと思ったの、私だけ?」

「……気づいた、ぴょん?」

「気づくわよ。何あの抜け方。油でも身体に纏ってるの。引っかかってる感じさえなかった」

 

 満潮も、縄抜けもどきの謎に気づく。しかしそのカラクリは分からない。卯月から『多分ステルスを活用してる』と言われたが、疑問が深まっただけ。ステルスをどう使えばこんなことができるのか? 

 

「……纏う……?」

 

 呟く。そうしている間に、再び包囲されていく。

 虚像は虚像だ。

 迎撃したように見えても、実際は艦載機が蹴散らされているだけ。何機かは撃墜しているが大半は無事。再集結すればまた『虚像』は生まれる。

 

「また来るわ! 私は見えてる虚像を迎え撃つ。アンタは見えないのに集中して!」

 

 二人は主砲を構える。全身の機銃を旋回させる。

 残弾は残り僅か。相手が見えないせいでかなり無駄弾を使ってしまった。まともに残っているのは爆雷と魚雷ぐらい。

 それを惜しみなく使っていく。此処で抑えられなければ全部パアだ。

 透明であっても、性格上砲撃は避ける。四方八方へ撃ってた方が、まだ動きを抑制できる。

 

「本体は、どこだぴょん……」

 

 やはり本体を抑えたい。それが一番良い。しかし見えず徹底的に隠れ続ける『本体』をどう特定すれば良い? 

 考えなければならない。システムの力でゴリ押しはできない。そういう敵ではない。

 いや、一つ方法はあるのだが、それは睦月達に任せた方。別の方法を模索する。

 

「急がないと……ヤバいわよね」

「どうした満潮、急に」

「きっと、少しずつだけど、離れて行ってるわよね。睦月達から、何を目論んでいるか調べ、阻止する為に」

「そりゃそうだぴょん。だから急いでんだぴょん!」

「ええ、それ、ダメだわ」

「は?」

「ごめん。()()()

 

 時間が止まったような感覚になった。

 何て言ったコイツ? 

 弾切れ、弾切れだと? 

 冗談じゃない──悲鳴を上げたくなった。戦力が一人分減ったも同然だ。

 

「だから、ちょっと、無茶をするわ!」

「何を!?」

「残ってる武器を使う。それしかないってことよ!」

 

 彼女が取り出したのは残る武器、『爆雷』だ。

 それを、辺り一面に、滅茶苦茶に投げ出した。

 次々に爆発が起きる。

 当然そんなんでは当たらない。爆雷は意味もなく消費されていく。こいつは何がしたいんだ。卯月は一瞬訝しむ。

 

 けど、満潮は何かを狙っている。

 そういう性格だし、そういう目をしている。

 けど、辺りが爆炎で更に見にくくなった。これに意味があるのか。危機に陥っただけじゃないのか。

 

「いいえ、これでいい」

 

 爆炎を背に満潮が立つ。

 

「こうだからこそ、ガンビア・ベイを見つけられる」

「……何を言ってるぴょん」

「透明、それがアイツの能力。音さえないから失念してた……『実態』が消えた訳じゃあない。移動するときは、実態が動く!」

 

 満潮は、爆炎ではなく、発生した黒煙を凝視する。探照灯を点火し辺りを観察している。それを見て卯月も観察をする。

 

「……あ!?」

 

 煙が動いた。

 ただそれだけだが、それが重要だった。

 

「実態が動けば煙も動く! 何もないのに煙が動いていたら……そこにガンビア・ベイはいる!」

「いや、待って、でも虚像もいるぴょん!?」

「プロペラで掻き回されるのと、人が動いてるの。煙の動き方は当然違う。仮に艦載機を纏ってたとしても、中に人がいれば違いは出る!」

 

 それはガンビア・ベイにとって予想外のアクションだった。卯月のしようとしている『策』に意識を向けていて、思考を巡らせ損ねていたのだ。動いてはいけない。その事に気付いた時には、もう補足されていた。

 

「──見つけた」

 

 主砲が放たれた。

 弾切れというのも嘘だった。

 予想外の重ね掛け。ダメージは一切通らないとしても──砲弾はガンビア・ベイに着弾。その衝撃でカムフラが剥げる。

 

「嘘です、こんな、Systemも積んでない、ただの艦娘に!」

「逃がさない。隠れさせないッ!」

 

 爆炎を突っ切り距離を詰める。

 そして満潮は、魚雷を握りしめた。

 駆逐艦が出せる最高火力は、これしかない。

 

「自爆、する、つもり……頭、おかしいですよ!?」

「冗談じゃない。くたばるのは、アンタだけに決まってんでしょうが!」

 

 突撃銃を構えるより早く、懐へ魚雷を捻じ込む。

 

「ヒィ!!?」

 

 金切り声を上げながら彼女は突撃銃でガード。

 瞬間、魚雷が作動。

 至近距離での爆発に二人共巻き込まれた。そう卯月は思ったが──実際は違っていた。爆発はただの眼晦ましだ。

 

「入った!」

 

 本命は『鎖』だ。スライディングの要領で足元を潜り、鎖を足に絡めたのだ。満潮は背中に火傷を負っただけ。

 更にスライディングの勢いで鎖を引っ張り、ガンビア・ベイを転倒させる。

 海面に俯せになった彼女へ、トドメが迫る。

 

「そして、魚雷はまだある!」

 

 予め放っていた魚雷が迫っていた。

 転倒している位置関係上、魚雷はガンビア・ベイの顔面に直撃する。

 

 この瞬間を卯月は見逃さなかった。

 金剛達の一斉射を受けても、陸上砲台に狙われても、眉一つ動かさなかったガンビア・ベイが、本気の恐怖に顔を染めた。

 しかし、それはつまり、絶対に回避しようとするということ。

 

「逃げられると思わないで、パワーの差が大きいとしても、この一瞬逃がさないぐらいの力はあるわ!」

「う、あ、ぁあぁっ!?」

 

 足元の鎖は依然拘束中。転倒した彼女を逃がさない。

 その姿勢で何とか突撃銃を構え、鎖を撃ち抜こうとするが、すかさず卯月が援護。銃を砲撃し、その照準を逸らす。

 

「そんな!?」

「させねーぴょーん」

「直撃まで、3,2,1……!」

 

 その時である。ガンビア・ベイは意を決した。

 

「……一手、遅れました……Mistake(不覚)です」

 

 鎖が抜けた。

 ガッチリ拘束していた筈なのに、足元に絡まっていた鎖がズルリと抜けた。

 一瞬で姿勢を立て直し、海面へ立ち直す。

 直後魚雷が直撃。

 しかし、結果は無常だった。

 

「着弾確認、けど損傷皆無、クソッタレ!」

 

 だけど、漸く良い結果を得れた。

 

「……分かった、なら、こうだ」

 

 そう呟くと、鎖とワイヤーを持ち、一気にガンビア・ベイへ肉薄。少しだけ立て直しに時間がかかってたお陰で、消える前に追いつく。

 

「ふぅん、すげぇ顔だぴょん」

「は?」

「まるで別人だ。予想外の危機に陥ったからかな、怒り狂った怖い顔。やはりビクビクしてるのはポーズだったっぴょん?」

 

 海面に映るガンビア・ベイの顔は、醜悪に歪んでいた。

 卯月の指摘通りの顔。

 隠しきれない憎悪が滲み出た顔。

 

「それが本性って訳だっぴょん。悲劇のヒロインの皮が剥げちゃったねぇ、もう誰も可哀想なんて、いや、元々思ってなかったぴょん」

「顔が剥げたから何だと言うんですか? 貴女達は全員hell(地獄)へ堕ちるんです。安心してください、Partsが残ってる方は丁重に活用させて貰います。取引先を潰された今、顔無しは貴重ですので。卯月さんも如何ですか。大切にしますよ?」

「返事はこうだ、fuck you(くたばれ)!」

 

 卯月は至近距離で魚雷を投擲。ガンビア・ベイの顔面を狙う。

 

「満潮さんのパクリじゃないですか」

 

 手早く艦載機を発艦。爆発の有効射程に入る前に撃ち落とす。直撃ではない爆風、ダメージは皆無。卯月は構わず爆雷を投げつける。結果は同じ。艦載機が撃ち落として終わる。無駄に黒煙が増えるだけ。

 

「……視界不良でも狙ってんですか、Uselessness(無駄)ですが」

「いいや違う。逃がさない方が優先だぴょん……満潮!」

「合図は送ってあるわ!」

 

 満潮が──探照灯を空へ掲げる。

 ガンビア・ベイは見た。

 陸上砲台の照準がこちらへ向いているのを。

 一門だけでなく、全てが、一斉に、ガンビア・ベイを補足している。

 

「あれは、効くんだよなぁ!?」

「──ッ」

「逃がすか、その為の準備は完了済みだぴょん!」

 

 そう言って卯月は手を引く。すると海中から鎖が現れ──ガンビア・ベイの足元を縛り付けた。満潮が戦っている間に、周りをグルグルしながら援護してると見せかけ、準備を整えていたのだ。黒煙が煙幕替わりになってくれた。

 

「いや、これも、二番煎じゃないですか」

 

 足元の鎖がズルリと抜けた。

 

「嘘!?」

Predict(予想)していれば、転倒なんてしませんよ……ああ、卯月さんの周り包囲してます。動けなくしたので、どうぞ陸上砲台の餌食になって下さい」

「満潮ーっ!」

「分かってる!」

 

 背後から強襲した満潮が、探照灯を照らしながら、鎖を投げつける。一瞬の眼晦まし。その一瞬で上半身を鎖で包む。

 

「これで道連れだぴょん!」

「……事前に、何かreserve(準備)してると思ってましたが、これですか……タイミング良く狙う為だけ……ああ、くだらない」

 

 上半身の鎖もズルリと抜けた。ガンビア・ベイの拘束は完全に解除された。

 そして卯月は笑った。

 

「嘘……だっぴょんッ!」

 

 卯月は再び手を引いた。

 その瞬間、ガンビア・ベイは──『ワイヤー』によって再び拘束された。

 また同じ拘束。

 爆雷を投げてるタイミングで張っていたのか。

 

 ──まさか卯月は。

 ガンビア・ベイは嫌な予感を感じながらも、()()()()()()で脱出を試みる。

 しかし、ワイヤーはズルリと抜けなかった。

 拘束から脱出できなかった。

 

「抜けない!?」

「……漸く理解できたぴょん。お前の縄抜けの原理が、それを利用させて貰ったぴょん。ワイヤーが絡まってるのは何か、()()()()、見たらどうだ!?」

「──最悪ですっ!」

 

 ガンビア・ベイは『能力』を解除する。

 その瞬間、顕れたのは『艦載機』だった。

 但し()()()()()()

 ベッタリと彼女の体表にくっついていた。それも夥しい量。全身にくまなく艦載機が張り付いていた。

 

「そんな活用方法思いつかなかったぴょん。お前は体表にカムフラ艦載機をくっつけていた。拘束してたのは本体じゃなくて、ひっついてる艦載機の方。その状態で発艦させれば、鎖もワイヤーもズルっと飛んでいく。ヤモリやトカゲの脱皮のノリで拘束を解いていた……利用されて貰った。もう艦載機は飛べない!」

 

 彼女は自分の艦載機を見る。

 

「プロペラの基軸にワイヤーが!?」

「これでも飛べるだろうけど……直ぐには不可能だぴょん」

 

 卯月は飛んだ艦載機へワイヤーを絡めていた。

 黒煙はこの為に広げた。

 拘束解除の際、飛び立った艦載機を、空気の動きで捕捉する為だった。

 プロペラ部分に絡め、動けなくした上で引っ張れば──艦載機諸共拘束できる。

 

「全力で締め付けてやる。逃げられないように……いい加減、直撃してしまえ、死ねとまでは言わないけど……ちょっと地獄の淵を観光してくるぴょん!」

 

 拘束されてない艦載機を外す。しかし拘束済みの艦載機が外れない。一瞬だけの全力。艦載機事の拘束が外れない。

 

「嘘、です、こんな展開!!」

 

 陸上砲台の一斉射が、漸く──直撃した。

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