ガンビア・ベイの艦載機を一斉に叩き落せるかもしれない。
その上、本体を炙り出すことができるかもしれない。
それは、卯月の見立てが誤っていなければの話。ガンビア・ベイの『能力』の原理が、予想通りならの話。
睦月と如月経由で、藤提督に話が伝わる。
殆どノータイムで返事が返ってくる。
「オーケーですって」
「まあ、そう言うと思ったけどね」
「マジかぴょん……」
自分で言っておいて、提案が通るとは思っていなかった。無意識レベルに近いが、自分が信用される筈がないという思い込みがあった。
「いえ、人情とか、そういうんじゃないわ。ただ言ってることに矛盾がないからよ」
「藤提督が、そう?」
「うん。あの人あれで……あんなんでも……うん……冷静だから」
「歯切れが悪すぎるぴょん」
「そりゃ陣地が崩壊するの見たさに前線出る輩でありますし」
ごもっともである。『とにかく!』と睦月が手を叩く。
「卯月ちゃんのしたいことは、睦月達に任せるにゃしい……でも、その後倒せる見込みは、また別なんだよね?」
「ああ、あの装甲をどう突破するかは……」
そこまでは仕方がない。ステルスを解除し正面戦闘に持ち込めば、つけ入る隙を見つけられるかもしれない。
憶測が多いがそんなものだ。
このままいってもジリ貧だ。やるしかない。
「如月達は準備に入る。その間、ガンビアはお願いするわ、ムリしちゃダメだからね」
「……それは聞けない相談だけど、善処はするぴょん」
「素直じゃないんだから──っ!」
その時、不意に虚像が現れた。
カムフラで接近された、それも複数体。
棒立ちだが全員攻撃体勢。爆発のように全身から機銃・爆弾が放たれる。しかし、接触する前に全て迎撃。
「秋月!」
「まだ、これぐらいなら、できますから……!」
「油断しないで、また何か仕掛けてくるに違いないわ!」
「その通り」
あきつ丸が、邪悪に笑いながら、手をくくる。その手からはワイヤーが伸びていた。
勢いよく引かれたワイヤーが何かを捉える。
「ちょっと、接近し過ぎたでありますな」
「──うぁ!?」
想定外の事態が起きたことで、カムフラがブレる。虚空にいたのはガンビア・ベイだった。
ステルスは関係ない。張り巡らせていたワイヤーに引っかかっただけのこと。
「その艦載機ワイヤーを
「ヒィッ!? 狂人!?」
「あらよっとー」
どの口が──いや狂人だわ。卯月は初めてガンビア・ベイに同意する。
ただ、輪切りのガンビア・ベイは出来なかった。
「むっ!?」
ワイヤーで強く縛り上げていた。それは確かだ。なのに
同じだ。卯月は気づく。
鎖でガッチリ拘束してたのを抜け出された時と、同じ何かが、今確かに起きた。
「ややややっぱり
「はぅ! 泣き顔が……そ、そそるであります!」
「狂人だぁぁぁぁ!」
こいつら二人だけで戦ってくれねえかな?
卯月は割と真面目に思った。
糞みたいな考えは放り投げ、戦闘状態へ帰還する。ガンビア・ベイはまた消えた。
「ふぅ。これで接近することは、そうそうなくなるでしょう。威嚇は完了であります」
「アンタは……」
「秋月殿の護衛はお任せを。タイミングに備え、キッチリ護らさせて頂くであります。さ、ガンビア・ベイの追撃を」
「じゃ、睦月達は行くにゃしい!」
と言って、彼女達は去っていく。
残ったのは、卯月と満潮の二人だけ。ここから『準備』が完了するまでは……自分達だけで持たせたい。
単純に、戦力は温存しておきたい。
今からするのは逆転の一手なんかじゃない。ガンビア・ベイを土俵に引き摺り込む為の作戦だ。
「今の、おかしいと思ったの、私だけ?」
「……気づいた、ぴょん?」
「気づくわよ。何あの抜け方。油でも身体に纏ってるの。引っかかってる感じさえなかった」
満潮も、縄抜けもどきの謎に気づく。しかしそのカラクリは分からない。卯月から『多分ステルスを活用してる』と言われたが、疑問が深まっただけ。ステルスをどう使えばこんなことができるのか?
「……纏う……?」
呟く。そうしている間に、再び包囲されていく。
虚像は虚像だ。
迎撃したように見えても、実際は艦載機が蹴散らされているだけ。何機かは撃墜しているが大半は無事。再集結すればまた『虚像』は生まれる。
「また来るわ! 私は見えてる虚像を迎え撃つ。アンタは見えないのに集中して!」
二人は主砲を構える。全身の機銃を旋回させる。
残弾は残り僅か。相手が見えないせいでかなり無駄弾を使ってしまった。まともに残っているのは爆雷と魚雷ぐらい。
それを惜しみなく使っていく。此処で抑えられなければ全部パアだ。
透明であっても、性格上砲撃は避ける。四方八方へ撃ってた方が、まだ動きを抑制できる。
「本体は、どこだぴょん……」
やはり本体を抑えたい。それが一番良い。しかし見えず徹底的に隠れ続ける『本体』をどう特定すれば良い?
考えなければならない。システムの力でゴリ押しはできない。そういう敵ではない。
いや、一つ方法はあるのだが、それは睦月達に任せた方。別の方法を模索する。
「急がないと……ヤバいわよね」
「どうした満潮、急に」
「きっと、少しずつだけど、離れて行ってるわよね。睦月達から、何を目論んでいるか調べ、阻止する為に」
「そりゃそうだぴょん。だから急いでんだぴょん!」
「ええ、それ、ダメだわ」
「は?」
「ごめん。
時間が止まったような感覚になった。
何て言ったコイツ?
弾切れ、弾切れだと?
冗談じゃない──悲鳴を上げたくなった。戦力が一人分減ったも同然だ。
「だから、ちょっと、無茶をするわ!」
「何を!?」
「残ってる武器を使う。それしかないってことよ!」
彼女が取り出したのは残る武器、『爆雷』だ。
それを、辺り一面に、滅茶苦茶に投げ出した。
次々に爆発が起きる。
当然そんなんでは当たらない。爆雷は意味もなく消費されていく。こいつは何がしたいんだ。卯月は一瞬訝しむ。
けど、満潮は何かを狙っている。
そういう性格だし、そういう目をしている。
けど、辺りが爆炎で更に見にくくなった。これに意味があるのか。危機に陥っただけじゃないのか。
「いいえ、これでいい」
爆炎を背に満潮が立つ。
「こうだからこそ、ガンビア・ベイを見つけられる」
「……何を言ってるぴょん」
「透明、それがアイツの能力。音さえないから失念してた……『実態』が消えた訳じゃあない。移動するときは、実態が動く!」
満潮は、爆炎ではなく、発生した黒煙を凝視する。探照灯を点火し辺りを観察している。それを見て卯月も観察をする。
「……あ!?」
煙が動いた。
ただそれだけだが、それが重要だった。
「実態が動けば煙も動く! 何もないのに煙が動いていたら……そこにガンビア・ベイはいる!」
「いや、待って、でも虚像もいるぴょん!?」
「プロペラで掻き回されるのと、人が動いてるの。煙の動き方は当然違う。仮に艦載機を纏ってたとしても、中に人がいれば違いは出る!」
それはガンビア・ベイにとって予想外のアクションだった。卯月のしようとしている『策』に意識を向けていて、思考を巡らせ損ねていたのだ。動いてはいけない。その事に気付いた時には、もう補足されていた。
「──見つけた」
主砲が放たれた。
弾切れというのも嘘だった。
予想外の重ね掛け。ダメージは一切通らないとしても──砲弾はガンビア・ベイに着弾。その衝撃でカムフラが剥げる。
「嘘です、こんな、Systemも積んでない、ただの艦娘に!」
「逃がさない。隠れさせないッ!」
爆炎を突っ切り距離を詰める。
そして満潮は、魚雷を握りしめた。
駆逐艦が出せる最高火力は、これしかない。
「自爆、する、つもり……頭、おかしいですよ!?」
「冗談じゃない。くたばるのは、アンタだけに決まってんでしょうが!」
突撃銃を構えるより早く、懐へ魚雷を捻じ込む。
「ヒィ!!?」
金切り声を上げながら彼女は突撃銃でガード。
瞬間、魚雷が作動。
至近距離での爆発に二人共巻き込まれた。そう卯月は思ったが──実際は違っていた。爆発はただの眼晦ましだ。
「入った!」
本命は『鎖』だ。スライディングの要領で足元を潜り、鎖を足に絡めたのだ。満潮は背中に火傷を負っただけ。
更にスライディングの勢いで鎖を引っ張り、ガンビア・ベイを転倒させる。
海面に俯せになった彼女へ、トドメが迫る。
「そして、魚雷はまだある!」
予め放っていた魚雷が迫っていた。
転倒している位置関係上、魚雷はガンビア・ベイの顔面に直撃する。
この瞬間を卯月は見逃さなかった。
金剛達の一斉射を受けても、陸上砲台に狙われても、眉一つ動かさなかったガンビア・ベイが、本気の恐怖に顔を染めた。
しかし、それはつまり、絶対に回避しようとするということ。
「逃げられると思わないで、パワーの差が大きいとしても、この一瞬逃がさないぐらいの力はあるわ!」
「う、あ、ぁあぁっ!?」
足元の鎖は依然拘束中。転倒した彼女を逃がさない。
その姿勢で何とか突撃銃を構え、鎖を撃ち抜こうとするが、すかさず卯月が援護。銃を砲撃し、その照準を逸らす。
「そんな!?」
「させねーぴょーん」
「直撃まで、3,2,1……!」
その時である。ガンビア・ベイは意を決した。
「……一手、遅れました……
鎖が抜けた。
ガッチリ拘束していた筈なのに、足元に絡まっていた鎖がズルリと抜けた。
一瞬で姿勢を立て直し、海面へ立ち直す。
直後魚雷が直撃。
しかし、結果は無常だった。
「着弾確認、けど損傷皆無、クソッタレ!」
だけど、漸く良い結果を得れた。
「……分かった、なら、こうだ」
そう呟くと、鎖とワイヤーを持ち、一気にガンビア・ベイへ肉薄。少しだけ立て直しに時間がかかってたお陰で、消える前に追いつく。
「ふぅん、すげぇ顔だぴょん」
「は?」
「まるで別人だ。予想外の危機に陥ったからかな、怒り狂った怖い顔。やはりビクビクしてるのはポーズだったっぴょん?」
海面に映るガンビア・ベイの顔は、醜悪に歪んでいた。
卯月の指摘通りの顔。
隠しきれない憎悪が滲み出た顔。
「それが本性って訳だっぴょん。悲劇のヒロインの皮が剥げちゃったねぇ、もう誰も可哀想なんて、いや、元々思ってなかったぴょん」
「顔が剥げたから何だと言うんですか? 貴女達は全員
「返事はこうだ、
卯月は至近距離で魚雷を投擲。ガンビア・ベイの顔面を狙う。
「満潮さんのパクリじゃないですか」
手早く艦載機を発艦。爆発の有効射程に入る前に撃ち落とす。直撃ではない爆風、ダメージは皆無。卯月は構わず爆雷を投げつける。結果は同じ。艦載機が撃ち落として終わる。無駄に黒煙が増えるだけ。
「……視界不良でも狙ってんですか、
「いいや違う。逃がさない方が優先だぴょん……満潮!」
「合図は送ってあるわ!」
満潮が──探照灯を空へ掲げる。
ガンビア・ベイは見た。
陸上砲台の照準がこちらへ向いているのを。
一門だけでなく、全てが、一斉に、ガンビア・ベイを補足している。
「あれは、効くんだよなぁ!?」
「──ッ」
「逃がすか、その為の準備は完了済みだぴょん!」
そう言って卯月は手を引く。すると海中から鎖が現れ──ガンビア・ベイの足元を縛り付けた。満潮が戦っている間に、周りをグルグルしながら援護してると見せかけ、準備を整えていたのだ。黒煙が煙幕替わりになってくれた。
「いや、これも、二番煎じゃないですか」
足元の鎖がズルリと抜けた。
「嘘!?」
「
「満潮ーっ!」
「分かってる!」
背後から強襲した満潮が、探照灯を照らしながら、鎖を投げつける。一瞬の眼晦まし。その一瞬で上半身を鎖で包む。
「これで道連れだぴょん!」
「……事前に、何か
上半身の鎖もズルリと抜けた。ガンビア・ベイの拘束は完全に解除された。
そして卯月は笑った。
「嘘……だっぴょんッ!」
卯月は再び手を引いた。
その瞬間、ガンビア・ベイは──『ワイヤー』によって再び拘束された。
また同じ拘束。
爆雷を投げてるタイミングで張っていたのか。
──まさか卯月は。
ガンビア・ベイは嫌な予感を感じながらも、
しかし、ワイヤーはズルリと抜けなかった。
拘束から脱出できなかった。
「抜けない!?」
「……漸く理解できたぴょん。お前の縄抜けの原理が、それを利用させて貰ったぴょん。ワイヤーが絡まってるのは何か、
「──最悪ですっ!」
ガンビア・ベイは『能力』を解除する。
その瞬間、顕れたのは『艦載機』だった。
但し
ベッタリと彼女の体表にくっついていた。それも夥しい量。全身にくまなく艦載機が張り付いていた。
「そんな活用方法思いつかなかったぴょん。お前は体表にカムフラ艦載機をくっつけていた。拘束してたのは本体じゃなくて、ひっついてる艦載機の方。その状態で発艦させれば、鎖もワイヤーもズルっと飛んでいく。ヤモリやトカゲの脱皮のノリで拘束を解いていた……利用されて貰った。もう艦載機は飛べない!」
彼女は自分の艦載機を見る。
「プロペラの基軸にワイヤーが!?」
「これでも飛べるだろうけど……直ぐには不可能だぴょん」
卯月は飛んだ艦載機へワイヤーを絡めていた。
黒煙はこの為に広げた。
拘束解除の際、飛び立った艦載機を、空気の動きで捕捉する為だった。
プロペラ部分に絡め、動けなくした上で引っ張れば──艦載機諸共拘束できる。
「全力で締め付けてやる。逃げられないように……いい加減、直撃してしまえ、死ねとまでは言わないけど……ちょっと地獄の淵を観光してくるぴょん!」
拘束されてない艦載機を外す。しかし拘束済みの艦載機が外れない。一瞬だけの全力。艦載機事の拘束が外れない。
「嘘、です、こんな展開!!」
陸上砲台の一斉射が、漸く──直撃した。