前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第218話 ガンビア・ベイMk.II"D"⑦

 漸くだ。

 この戦いに参加した艦娘達はそう思った。

 迎撃拠点に建設された陸上砲台が、漸くガンビア・ベイに直撃した。

 今自分達が出せる最大火力だ。これがダメだったら、『作戦』が上手くいっても勝ち目がない。

 

 お願いだ、どうか、ダメージがあってくれ。

 

 爆発の煙幕が晴れる。ガンビア・ベイのシルエットが見えてくる。果たしてその結果は。

 

「……痛い、よぉ……うぅ」

 

 ガンビア・ベイはまだ健在。死んではいない。だから歓喜の声は上がらない。けど小さくガッツポーズをとるぐらいは許される。

 ダメージがあった。

 全身から、決して少なくない量の出血をしている。止まる流れではない。

 

「有効だ。陸上砲台を撃ち込み続ければ、勝ち目があ──」

 

 満潮が叫んだ通り。

 これなら『勝てる』。追い込まれていた戦場に希望の糸が垂らされる。全員の顔に気力が戻っていく。

 

「は?」

 

 糸が切られた。

 

「痛かった……本当に、死ぬかと、思いました」

「嘘、何で、いや……早すぎる!?」

 

 何が起きている? 

 何人かの艦娘は遠くから覗き込む。

 そして絶望した。

 

「どうして、傷が、治ってんのッ!?」

 

 再生し終えていた。

 

「そりゃ……systemの基本性能も、updateされてますから……再生能力は基本ですよ」

 

 秋月にしろ最上にしろ、深海棲艦でも見られないような、強力な再生能力を持っていた。

 だがガンビア・ベイは早すぎた。

 瞬きしている間に、傷口が全て塞がってしまっていた。

 

「こいつは、無敵なの!?」

 

 あれだけ苦労して、やっとつけた傷が、一瞬で治療完了。

 ガンビア・ベイを倒すには、それを押し切って攻撃をしなければならない──不可能とは言わないが。

 余りにも困難だ。

 戦場に再び絶望が広がる。艦娘達はそれを意識して無視しながら、『作戦』の作業へ戻っていく。

 そのほうが、余計なことを考えなくて済む。

 

 しかし、その中で、目をギラギラさせる艦娘がいた。

 

「ビックリした。そこまで早いのは予想外ぴょん」

 

 紅い目を光らせるシステム搭載艦、卯月である。

 

「どうしますか。続けますか。勝ち目がないのは、理解いただけた。私はそう思ってますが……」

「んな選択肢、ある訳ないぴょん。ならばもっと拘束して、もっと火力を集中させる──だけだっぴょん」

「……あっそう」

 

 縄抜けの方法は見破った。少しずつだが勝ち筋が見えてきた。

 それに卯月にはまだ『疑念』があった。

 たった二回しか見ていない『疑念』。それがもしも正解ならば、勝算はまだ十分残っている。それまでに逃亡させないことが大事だ。

 

「でも、これが、最終roundですよ」

「何?」

 

 ガンビア・ベイはチラリと後方を見る。

 そこは海域封鎖の境界線。外界へ逃がさない為の機雷地帯。そこで起きている爆発の規模が、大分小さくなっていた。

 無尽蔵に特攻してくるイロハ級により、機雷は数を減らされていた。

 それがもう残り僅かだ。

 

「……では、始末します」

 

 満潮が作った黒煙が消えた頃、ガンビア・ベイがカムフラで姿を消す。

 卯月と満潮は、それぞれ姿勢を低くする。

 ハッキリ言って状況はヤバい。二人共受けた傷は回復しておらず、応急処置をしただけ。もう血が滲んでいる。

 尤も、その為のダメージだ。

 最後の最後で、動きを鈍くする為に、少しずつ負傷を増やす。そういう戦術だ。

 

「…………」

「…………」

 

 待つ、待つ、汗をにじませながら待つ。

 

「…………」

「…………あれ?」

 

 来ないんだけど? 

 まさか──と思った瞬間、夥しい量の爆弾が、頭上へ落下してきた。

 見えないので断定できないが、ほとんどの艦載機をこっちに回した。

 卯月達を集中して、しかも、自分自身は動かずに始末する気だ。

 

「マジか、このタイミングであいつ、動くことを諦めたのかっぴょん!?」

 

 卯月の予想通りだった。再生したとはいえ、自分に傷をつけられたことを、ガンビア・ベイは強く警戒していた。

 後少しで海域封鎖は破られる。

 それを踏まえ、彼女は、残り時間を隠れ続けることに決めたのだ。

 

「どうすんの、爆雷はもうない……というか、私はもう何も残ってない。攻撃も爆炎でのあぶり出しもできないわ!」

「そんなの、うーちゃんだって同じだぴょん」

「ヤバいでしょ……どうすんの、これは!」

 

 と、言ったその瞬間。

 

 海域封鎖エリアから、一際大きな爆音が轟いた。

 そこから──傷だらけのイロハ級と、顔無しの軍勢が殺到する。

 それが意味することはつまり。

 

「海域封鎖が……破られた……」

 

 時間切れ。

 海域封鎖の時間が終わった。

 これ以上、ガンビア・ベイがここに留まる理由はない。

 

「卯月!」

「うーちゃんに叫ばれても。慌てる理由が分かんないぴょん」

「は!?」

 

 ガンビア・ベイが逃亡するというのに何故必死にならないのか。満潮は思わず叫ぶ──だが彼女も直ぐ察した。

 卯月の目線の先。陸地の方の奥。

 そこで、探照灯が点滅していた。

 

「合図だ」

 

 本当なら、タイミングをみてやる予定だった。

 けどガンビア・ベイが逃げ出そうとする今、躊躇する時間はない。今こうしている間にも、脱出しようと走っている。

 今だ。今しかないのだ。

 

「そして、これも、合図!」

 

 卯月は空へ主砲を掲げ、ドン、ドン、ドン……と撃つ。

 ()()()を刻む。

 それが合図になる。

 そして、四発目が響いた時。

 

 夜の帳が下りた。

 

 

 

 

 カムフラ迷彩を纏い、ゆっくりだが確実に脱出へ向かうガンビア・ベイ。

 卯月達は追ってこれない。間もなく雪崩れ込むイロハ級の餌食になる。それを潜り抜けても今までも負傷がある。十分逃げ切れる。

 この状況へ持っていく為に、嫌々ながら戦闘していた。

 手間が無駄にならなかったことへ、ホッと胸を撫でおろす。

 

 その瞬間、夜の帳が下りた。

 

 ──この戦場は、夜でありながら、明るかった。

 常に大量の大型探照灯が光っていた。自動発射装置から定期的に照明弾も飛んでいた。藤鎮守府の艦娘たちも、各々探照灯を使っていた。

 

 陣地構築の一環で、藤提督が設置したものだ。

 態々設置したのには理由がある。

 飛び交う深海の艦載機へ対処する為、イロハ級へ正確な砲撃を浴びせる為、ステルスやカムフラで隠れるガンビア・ベイを発見する為だ。

 

 それが何故か全て消えた。

 一斉に、同時に、探照灯を含めたあらゆる光源が消えた。

 eliteやflagshipのオーラはあるが、光源と呼べるものではない。

 時間は夜。

 光がなくなれば、暗闇に包まれる。

 

 尤も見えなくなることはない。

 ()()()()()との兼ね合いもあり、ガンビア・ベイは暗黒の中でも、周囲を近くできる。周りが分からないということはない。

 

 だが、ガンビア・ベイの本能は、凄まじい警鐘を鳴らしていた。

 

「吸収だ」

「!!」

 

 暗黒に卯月の声が響いた。

 

「ステルスの原理は『吸収』だ。D-ABYSS(ディー・アビス)は……エネルギーと同時に別のものを取り込むことがある。うーちゃんの場合は『音』だった。で、気付いたんだぴょん。音が取り込めるなら……別のを取り込めてもおかしくない」

 

 死刑宣告のように卯月は確信へ迫る。

 

「『光』だ。吸収してたのは」

 

 返事はない。出せる訳がない。構わず卯月は続ける。

 追い詰められていると、確信しているから。

 

「厳密には吸収じゃない。その()()だ。それを細かく制御して……光の角度や、反射の仕方を変えたり、吸収しながら通したりして……ステルスや、カムフラを実現していた。人は……光で物を見る。それを変える事ができるから、擬態したり、艦載機を集めて虚像を映すこともできたんだ。うーちゃんの考えは、正解ぴょん?」

 

 ガンビア・ベイは汗を流していた。

 だから、正面戦闘は嫌なのだと、内心愚痴る。

 勘のいい奴はこうして気づくからだ。

 けど、今後は問題にならない。近海に二度と近づかなければいい。向こうから確実に見つける手段はないのだから。

 

「お前はこう考えてる。能力が割れても問題ない。どうせ見つけられない──と。その通りだぴょん。だからこそ、ここで確実に仕留めるぴょん!」

 

 卯月が再び、ドン、ドン……と主砲を撃つ。

 

「素直に凄いと思う。そんなことできるんだなって……でもさ、それ、かなり精密なコントロールで成り立ってるんでしょ?」

 

 リズムを刻み、ドン……と三発目。

 そして、四発目が撃たれたその瞬間。

 

 夜の帳が剥がされた。

 

「暴き出してやる、その本性を含めて!」

 

 戦場全域が光に呑み込まれた。

 

 消えた探照灯が、照明弾が、再び同時に点火する。

 更に──同時に、再出撃していた基地航空隊が、空中から照明弾を投下した。

 深夜から真昼間への急転直下。

 

 そこに見えたのは、カムフラ迷彩が剥げた艦載機たち。

 そして、丸見えのガンビア・ベイだった。

 

 

 

 

 重要なのはタイミングだった。

 全てが同時でなければ、恐らく失敗する。

 卯月はそう考えていた。だからこそ、睦月達だけでなく、藤鎮守府の艦娘全員の協力が不可欠だった。

 

『ステルスにしろ、カムフラにしろ、かなり精密な制御で成り立ってる。だから逆に、一瞬で強い負荷を掛ければ『エラー』を起こせる筈……だぴょん』

『つまり?』

『真っ暗闇の状態から、一瞬で、かつ同時に、過剰な光を浴びせるんだぴょん』

 

 何をするのか、どうタイミングをとるのか。予め周知しておかないといけない。第一段階で、光の消し忘れがあってもいけない。第二段階で点灯にズレがあってもいけない。しかし逆に、大規模艦隊を組んでるからこそ、この作戦が成立する。

 

 作戦は実行された。

 結果は見ての通り。

 ステルス迷彩は暴かれた。

 

「光を利用して迷彩をかけてるのなら、その光を過剰に浴びればエラーをおこす。予想通りだったぴょん!」

 

 ガンビア・ベイは丸見え。カムフラをかけていた艦載機も丸見えだ。こうなっては──普通の姫クラス一体と交戦しているのと変わらない。十分脅威だが『無敵』でも何でもない。()()()()だ。

 

「透明になれない、camouflageができない……っ!?」

「そして、予め伝達していた今、スムーズに第三段階へ移行する。対空砲火開始、見えてさえいればどーにかなるぴょん!」

 

 このタイミングまであきつ丸に護られていた秋月を筆頭に、全艦娘が対空砲火へ参加する。艦載機は悪足掻きに駁撃を繰り出すが、陣地構築で作られた即席トーチカの前に阻まれる。艦載機は膨大だが、卯月の言った通り、見えていればどうにかなる。

 

 ガンビア・ベイ(ついでにイロハ級の分)の艦載機が全滅するのに、時間はそうかからなかった。

 

「……信じられません。こんな……ことが」

「間髪入れずに第四段階だ、お前をぶっ飛ばしてやるっぴょん!」

 

 今までは見えなかったから苦戦を強いられた。見える様になった今、ガンビア・ベイの危険性は半分以下まで下がった。

 ──後は、あの超重装甲をどう突破するかだ。

 しかし彼女は背中を向けた。

 

「いえ逃げます。不利になったので」

 

 ガンビア・ベイは逃げ出した。海域封鎖は破壊された。逃げようとすれば逃げれる状態。ある意味で五分五分になっただけ。

 

「あああやっぱそうなるかっぴょん! 追撃を──」

「待って、でも、そうなると、あの雪崩れ込んで来るイロハ級へ突っ込むことになる!」

「んなこた承知だぴょん!」

「けど、手数が……!」

 

 逃がしてはならない。全員が承知していることだ。しかし雪崩れ込むイロハ級と顔無しの対処にも、人数を割かなくてはならない。

 ステルスをどうにかしたら、今度は戦力が分散。

 本当に……本当にクソ面倒な敵だと、卯月は今日何度目か分からない愚痴を溢す。

 

「とにかく攻撃だ、攻撃して、逃がさないよう留める他ない!」

「そもそも追いつけないんだけど!」

 

 だが、速度的問題があった。

 ガンビア・ベイの逃げ足は『能力』と言っていいぐらい早い。駆逐艦──それも負傷している卯月と満潮では追従できない。

 だから()()()()()()()()()()()()

 

「誰か、いる」

 

 逃げるガンビア・ベイは、イロハ級の群れの中に、艦娘が何隻かいるのに気付く。機雷除去部隊と戦っていた連中だ。消耗は激しい。無視しても良い。

 と思った瞬間。

 鼓膜をぶち破るような、大声が響いた──()()()

 

「酷いよ!!!」

「ヒッ!?」

 

 声の主は那珂だった。

 

「あの中から、抜け出て」

「何今の何今の何今のー! 真っ暗な所から、いきなり灯りを浴びて登場って!? アイドルじゃん、それアイドルじゃん!」

「え、え……え?」

「まさかガンビーちゃんも狙ってただなんて。アイドルの座を。でも艦隊ナンバーワンアイドルの座は渡さないんだからね☆」

「???」

 

 ああ狂人枠か。ガンビア・ベイは冷静だった。よし足止めから可能なら殺してとっとと逃げようそうしよう。

 突撃銃を構え、手早く艦載機を発艦させる。

 そのまま至近距離で、半ば自爆同然で爆弾投下。二人共爆炎に呑まれるが、ガンビア・ベイは無傷だ。

 

「何だったんですか……今の……scary(恐い)

 

 死んでないだろうが、どう転んでも回避の為距離は離れた。今の内にさっさと逃亡だ──とその時、肩を叩かれた。

 

 那珂が笑ってた。

 正面にいた那珂が隣にいた。

 

「え」

「ちなみに那珂ちゃんは夜戦専用のアイドルだよ。探照灯とかで明るいけど、夜は夜だからねー、はいどっかーん!」

 

 那珂は魚雷を持っていた。

 それをそのまま、ガンビア・ベイの耳に向けて叩き込む。

 半ば意識外からの攻撃。

 彼女の頭部は、見事爆炎に呑み込まれた。




暗闇の状態から、一気に照らして光学迷彩を破壊……これ元ネタあります。分かる人にはクリスマスにドリル処刑される権利をプレゼント!
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