ステルス・カムフラは無力化した。ついでに艦載機も大半を叩き落した。無敵装甲のカラクリも見破った。
倒せるのか──その状況から一転、絶対に倒せる状況にまで持ち込めた。あとは逃がさなければ良い。
しかし、追い詰められたガンビア・ベイは、信じ難い秘策に出た。
潜ったのである。
「どうなってんだぴょん!? 最近の軽空母は、潜水艦の機能も併せ持ってるのか!? これが近代の軍艦ってやつかっぴょん!?」
「ないわよ! そんなの!」
そんなことはない。
言うまでもないが、潜水できる空母など、昔も今も存在していない──潜水空母というややこしいのはいるが規模が違う。
「わめいている場合ではありません。ヤバい、超ヤバいですわ。このまま泳がれたら、逃走を阻止できません!」
熊野が叫んだ通り状況は深刻だ。
ガンビア・ベイの堅牢さの実態は、
しかし、潜水しているとどうなるか。
今のガンビア・ベイは、潜りながら泳いでいる。泳いでいるのだから、うつぶせの姿勢になっている。
つまり、水上にいる卯月達は、
だって爆雷を落とすしか方法がないから。
合切のダメージを弾いた背中しか狙えない。この時点でダメージを与えることは不可能と化した。
ガンビア・ベイもただ逃げる為ではない。その為に潜水した。けど同時に切り札でもある。これ以上後がない。だから確実に逃げるために、最後の悪足掻きもする。
「伏せなさい卯月!」
「えっ」
「さっきの、獣の残骸!? カムフラ艦載機だわ!」
時間経過により、少しずつステルス・カムフラ機能が復旧し出す。
「満潮もだクマ! 後ろに敵だクマ!」
「うっ!?」
「──残党が、最後に残ってた連中が、全部こっちに来てるみたいだクマ!」
戦場に残されたイロハ級が卯月達へ集結する。即座に迎撃態勢に入る。ハッキリ言って雑魚だ、すぐ始末できる。
だが、それにかかる時間が致命的だ。
艦載機とイロハ級の処理が終わった頃には、ガンビア・ベイはいなくなる。私達の敗北だ。
「どうすればいいんだぴょん!?」
何か作戦はないのか?
卯月は必死で脳を回転させる。
しかし、敵の猛攻はその余裕も与えない。与えない為の猛攻。ガンビア・ベイも生き残るのに必死だ。生への執念に彼女達は押し切られようとしている。
だが、必死なのは彼女だけではない。
彼女たちだけでもない。
抵抗する卯月達の横を、駆逐隊が突き抜けて行った。
「松、それに、竹や桃も!?」
「お前たちはそっちの注意を引いてくれ、後は俺たちに任せろ!」
「那珂先輩に負けない活躍、見せてあげるんだから!」
二人だけでない、更に別方向から、弥生と望月も突っ込んでいく。
「対潜戦闘なら、むしろあたし達、活躍できっからねー……めんどくさいけどさー」
「……さぼるの?」
「違うから、恐いから睨まないで」
『そういうことなんです! 私の部下たちは、皆優秀なんですから。そして私もそれなりに優秀です、それをお見せしましょう!』
パチンと、指を鳴らす音がした。
水底から──地鳴りのような音が響く。
眩い光が『水底』から現れた。
卯月はそれを見て衝撃を受けた。
「
『陣地構築は得意なんです。潜水艦が出た用に用意してました。まさかガンビア・ベイが潜るとは思いもよりませんでしたが』
だとしても、何時の間に。
此処はまだ陸地に近い方。人の手を使えば、海中設置が可能な深度だった。
水中の暗闇は探照灯によって剥がされた。下からの閃光に海中が照らされ、水面に向かって影ができる。
その中に、確かにガンビア・ベイがいた。
「見つけました!」
「うん……作戦通りに、仕留める」
夜の潜水艦を仕留めるのが困難なのは、暗闇のせいで位置が分からないから。逆言えば特定できれば攻撃できる。
探照灯だけではない。海底に仕掛けた複数のセンサーにより、位置だけでなく深度も特定。爆雷の深度調整は容易い。
「陣形配置完了、3、2、1……爆雷投下!」
松の合図と同時に、四人が爆雷を一斉投下。
逃走方向へ向けて全力で投擲。逃走経路を塞ぐ形で投下。だが意味がない。背面への攻撃ではダメージはない。仮に爆発が正面をとらえても、腕や艤装でガードされて終わりだ。
しかし爆雷は、ガンビア・ベイを通り過ぎて沈んだ。
直後、爆発が起きる。横から見たら
『…………』
それをガンビア・ベイは鼻で笑う。
海上で爆風をモロ浴びたのならともなく水中で? そんな軟な攻撃は通らない。顔や胴体への直撃は手足でガード。爆風で吹っ飛ばされもしない。僅かに速度が落ちる程度だ。
「成功だね、この、少しだけの時間が必要だった」
桃が呟く。水上からなので聞こえてない。ただ呟いただけ。
『!?』
直後、ガンビア・ベイに──『大発動艇』が衝突した。
『何が!?』
困惑は当然だ。彼女がいるのは水中。大発動艇は動けない。しかし来た。大発動艇が水底を這うよう来た。交通事故みたいに衝突してきた。
一体何をされた──疑問は直ぐに氷塊する。
チラリと鎖が見えた。
「うおー! このまま、陸地まで引きずり出してやるのねー!」
海上にいたのは睦月と如月だった。彼女達は水中に鎖を下ろしながら、内地へ猛ダッシュしていた。つまり
ガンビア・ベイはそれに巻き込まれた。爆雷は──囮だ。速度を落とすだけでなく、ガード体勢をとらせ、無防備なところで大発動艇を衝突させるのが、本当の目的だったのだ。
「んっ……ぐっ、やっぱり、辛いわね……!」
「泣き言は言わない! 距離的には直ぐだから頑張って!」
とは言えまともな引っ張り方ではない。艤装にかかる負荷は深刻そのもの。機関部から火が出てくる始末。それでも止める理由はない。ここで仕留めなければ人間社会に未来がない。
そして、その先では。
金剛と比叡、更に陸上砲台部隊が、照準を合わせていた。
「……急ぐデース、みんな」
「大丈夫ですよ、全員最前線張れるぐらい強いです。比叡はそれを信じてます」
「……うん、その通りデース!」
彼女達は信じている。必ずガンビア・ベイを水上へ叩き出してくれると。
『──こんな小細工で、私が逃げるのを、止められる筈が、ないでしょう!』
しかしガンビア・ベイは止まらない。大発動艇を破壊──いや内部に何か仕込まれているかもしれない。一瞬だけ後退し深度を上げ、突っ込んできた大発動艇を回避。すぐさま逃走を再開。
「手ごたえが消えたわ!」
「逃走再開にゃしい! 逃がしちゃダメ絶対に!」
「でも海面近くなら私達でも狙えます!」
準備していた金剛、比叡、陸上砲台部隊が、一斉に火を噴いた。海底探照灯のお陰で位置は特定。そこ目掛けて大量の砲弾が降り注ぐ。
しかし意味がない。
ガンビア・ベイはうつ伏せの姿勢で泳いでいる。上からの攻撃では、着弾箇所は背中。ダメージは一切ない。そもそも水面近くとはいえまだ水中、元の威力も減衰している。
それでも『鬱陶しい』とは思った。
ダメージはないが衝撃で水流は乱れ姿勢は崩される。大発動艇は超えた。水面に留まる理由は皆無。ガンビア・ベイはまた直ぐに水底へ潜ろうとする。
それが、ガンビア・ベイの運命を分けた。
『起爆!』
何て言った? 起爆? 何を──瞬間、海底が爆発した。
『──また
海底に敷き詰められていた探照灯が一斉に自爆した。
『小細工、です!』
一瞬だが判断を強いられる。
そう判断をして、爆炎をかき分けながら、水底へ潜って。
『どうも赤城です』
空母に会った。
『!!?!?!』
思わず水を大量に呑みそうになった。凄まじい混乱に襲われる。どうして空母が水中にいる。何時どうやって水底にやってきた。
『さようなら』
種明かしをすれば、ワープしてきたのだ。
探照灯が自爆した時、それに紛れて、水上から『矢』を発射。海底に刺さったそれに対し重心を移動、瞬間移動をし、見事ガンビア・ベイを正面に捉えた。
場所は正面。攻撃が通る箇所。赤城は居合の構えを取った。
『死なないぃぃぃぃ!』
ほぼ絶叫。ガンビア・ベイは水中に轟く金切り声を上げ全力で浮上。背中に砲撃の衝撃が来るがどうでもいい。赤城から逃げる方が優先だ──赤城は落ちてきた爆雷の爆発に乗って跳躍、眼前へ迫った。
『逃がしません』
殺される──ガンビア・ベイは、閃光のような一撃を、ギリギリ腕でガードした。水中で勢いが落ちてたこともあり防御は成功。逆に刃が折れる。
なら、危機に陥るのは、赤城の方だ。
『ゴボッ……っ!』
水中にもぐったせいで艤装が壊れる。浮上もできず溺れてしまう。それを見てガンビア・ベイは失笑する。尤も何も言わない。逃げる方が最優先。
『……それが、慢心と言うんです』
『は?』
『私は、マーカー、です。貴女を一瞬、この位置、この深度へ、固定するのが、私や砲撃部隊の、仕事です』
瞬間、ガンビア・ベイは、足に何かが絡まったのに気付く。
一本や二本ではない……七本だ。
それは松達三隻に、睦月達四隻、全員が投下した鎖。彼女を完全拘束し引き摺り出す為の装備。一隻ではパワー不足だが、七人全員でやれば。
「これで、トドメまで、持っていく……!」
弥生が呟くと同時に、全員が鎖を持って
このままでは、陸地へ引き上げられてしまう。鎖を切らなければ──ここで何も考えず切っていれば、助かる道はあった。
『え?』
移動方向がおかしいことに気がついた。
睦月達はガンビア・ベイを、
逃走し易い方向に運ばれていた。
何故なのか、間違えたのか──違和感を覚えたその瞬間、突然鎖が巻き上げられた。
「──いや関係ない!」
鎖程度なら力づくで切れる。無理やり切断。また水面まで引き上げられたが、潜り直せばいい。むしろさっきより外海が近くなった、脱出し易くなった──あの駆逐艦たちは何をしようとしていた?
そして、悪寒を覚えた。
さっきまで、そこにいた駆逐艦達が、四方八方に逃げてたからだ。
更に言えば
何かがこちらへ突っ込んで来る音だ。
潜り直せば問題ないが、一体、何が来て──
『最終兵器、最強の助っ人のパワー、思い知りなさい!』
事情を知らない人は全員絶句した。
ガンビア・ベイも当然絶句した。
そして理解した。
出口近くまで誘導したのは、高い威力のまま直撃させる為だったのだと。出口付近を狙えば、全部を直撃させられるからだと。
海面を吹き飛ばしながら、来る。
コークスクリューみたいに回転しながら、来る。
ドリルみたいに回りながら、三つ飛んで来る。
外海の方向。地平線から飛んで来たのは──
──護衛艦だった。
近代部隊が使っていた、護衛艦そのものだった。
対深海棲艦戦では役に立たず、埃を被っていた護衛艦が三隻、コークスクリューのように回転しながら、飛んできた。
『オーマイガ』
と呟いた直後護衛艦が直撃した。
海面を盛大に巻き込みながら飛んで来た。浅い水深も射程距離内。水面に誘導してきたのは、これを直撃させる為だと、ガンビア・ベイは気づく。
巨大質量体三つ分と、投擲に伴う加速エネルギー。
それを正面から喰らったガンビア・ベイは動けない。それどころか回転の勢いに呑まれ、海上に身体が出てしまった。
致命傷は避けた。あれだけの質量体の直撃は危険だ。とっさに背中で受け止め、護衛艦ドリルは防御したが……ヤバい。
護衛艦は、外海から飛んで来た。
ガンビア・ベイは背中で受け止めた。
つまり、弱点となる顔や腹は、内地側を向いている。
内地側には──
「がっ……!?」
「遠くからじゃ、また逃げる……気がします、なのでぇ!」
「これで、
金剛と比叡、二隻の砲身が、腹部へ突き立てられた。
そして、護衛艦に押し込まれる。
貫いてはいないが──串刺しだ。主砲で護衛艦に固定させられた。そんな状態。つまり『磔』である。
「
磔と化したガンビア・ベイは──もう、逃げられなかった。
「ズルをしたんだ、イカサマです!
「Firrrrrre!!」
「あ……あああぁぁぁぁぁ!!??」
二隻分の砲撃が、接射で放たれる。
但し──空砲で。
されど空砲。無防備な腹部は、戦艦級主砲の衝撃を100パーセント全身へ伝達する。
撃つ。
撃つ。
撃つ。
空砲だから、弾切れの心配はない。
気絶するまで、接射して接射して、接射し続ける。
衝撃波が体内を駆け巡る。護衛艦に固定されてるせいで、ダメージを逃がす術さえない──そして、ガンビア・ベイは。
「…………ぁ」
白目を剝き、泡を吹き、涙と鼻水を垂れ流し、全身を痙攣させて、やっとこさ崩れ落ちた。金剛と比叡はそれを見て、主砲を離そうとする。
だが、声を掛けられた。
あきつ丸だった。
「いやまだでありますな」
「へっ!?」
「いるんでありますよー、気絶したフリをして、拷問を回避しようとする輩が」
護衛艦の上からシュタッと降りたあきつ丸は、ガンビア・ベイの背後へ回り込む。
「なので、チェックだけ済ませでも?」
「あ、はい」
「えーっと、ああ、ここ、此処が良いであります。背骨の……脊椎の此処。ここは人体の急所でありまして、此処をゴリっとすると」
あきつ丸はそう言って、背骨の間辺りを、拳の骨で思いっきり押し込む。
「ギギェガッ!!?」
「ヒッ!?」
絶叫を上げるガンビア・ベイ。
そして、今度こそ崩れ落ちた。
「……気絶したフリ。だったでありますな」
もし気絶したフリに気付いていなかったら……背筋がゾっとする決着を、卯月達は遂に迎えたのであった。
最後のは、烈海王が寂海王にやったアレです。
ガンビア・ベイ戦漸く決着。秋月よりマシだけど、長い戦いでした。
残る洗脳艦娘は後2隻。