前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第220話 ガンビア・ベイMk.II"D"⑨

 ステルス・カムフラは無力化した。ついでに艦載機も大半を叩き落した。無敵装甲のカラクリも見破った。

 倒せるのか──その状況から一転、絶対に倒せる状況にまで持ち込めた。あとは逃がさなければ良い。

 

 しかし、追い詰められたガンビア・ベイは、信じ難い秘策に出た。

 潜ったのである。

 

「どうなってんだぴょん!? 最近の軽空母は、潜水艦の機能も併せ持ってるのか!? これが近代の軍艦ってやつかっぴょん!?」

「ないわよ! そんなの!」

 

 そんなことはない。

 言うまでもないが、潜水できる空母など、昔も今も存在していない──潜水空母というややこしいのはいるが規模が違う。

 

「わめいている場合ではありません。ヤバい、超ヤバいですわ。このまま泳がれたら、逃走を阻止できません!」

 

 熊野が叫んだ通り状況は深刻だ。

 ガンビア・ベイの堅牢さの実態は、()()()()()()という珍妙なものだ。だから逆。顔面や腹部は返って脆い。正面からなら有効打が狙える──というもの。

 

 しかし、潜水しているとどうなるか。

 今のガンビア・ベイは、潜りながら泳いでいる。泳いでいるのだから、うつぶせの姿勢になっている。

 つまり、水上にいる卯月達は、()()()()()()()()

 

 だって爆雷を落とすしか方法がないから。

 

 合切のダメージを弾いた背中しか狙えない。この時点でダメージを与えることは不可能と化した。

 

 ガンビア・ベイもただ逃げる為ではない。その為に潜水した。けど同時に切り札でもある。これ以上後がない。だから確実に逃げるために、最後の悪足掻きもする。

 

「伏せなさい卯月!」

「えっ」

「さっきの、獣の残骸!? カムフラ艦載機だわ!」

 

 時間経過により、少しずつステルス・カムフラ機能が復旧し出す。

 

「満潮もだクマ! 後ろに敵だクマ!」

「うっ!?」

「──残党が、最後に残ってた連中が、全部こっちに来てるみたいだクマ!」

 

 戦場に残されたイロハ級が卯月達へ集結する。即座に迎撃態勢に入る。ハッキリ言って雑魚だ、すぐ始末できる。

 だが、それにかかる時間が致命的だ。

 艦載機とイロハ級の処理が終わった頃には、ガンビア・ベイはいなくなる。私達の敗北だ。

 

「どうすればいいんだぴょん!?」

 

 何か作戦はないのか? 

 卯月は必死で脳を回転させる。

 しかし、敵の猛攻はその余裕も与えない。与えない為の猛攻。ガンビア・ベイも生き残るのに必死だ。生への執念に彼女達は押し切られようとしている。

 

 だが、必死なのは彼女だけではない。

 彼女たちだけでもない。

 

 抵抗する卯月達の横を、駆逐隊が突き抜けて行った。

 

「松、それに、竹や桃も!?」

「お前たちはそっちの注意を引いてくれ、後は俺たちに任せろ!」

「那珂先輩に負けない活躍、見せてあげるんだから!」

 

 二人だけでない、更に別方向から、弥生と望月も突っ込んでいく。

 

「対潜戦闘なら、むしろあたし達、活躍できっからねー……めんどくさいけどさー」

「……さぼるの?」

「違うから、恐いから睨まないで」

『そういうことなんです! 私の部下たちは、皆優秀なんですから。そして私もそれなりに優秀です、それをお見せしましょう!』

 

 パチンと、指を鳴らす音がした。

 

 水底から──地鳴りのような音が響く。

 眩い光が『水底』から現れた。

 卯月はそれを見て衝撃を受けた。

 

Searchlight(探照灯)!? 水中に!?」

『陣地構築は得意なんです。潜水艦が出た用に用意してました。まさかガンビア・ベイが潜るとは思いもよりませんでしたが』

 

 だとしても、何時の間に。

 此処はまだ陸地に近い方。人の手を使えば、海中設置が可能な深度だった。

 水中の暗闇は探照灯によって剥がされた。下からの閃光に海中が照らされ、水面に向かって影ができる。

 その中に、確かにガンビア・ベイがいた。

 

「見つけました!」

「うん……作戦通りに、仕留める」

 

 夜の潜水艦を仕留めるのが困難なのは、暗闇のせいで位置が分からないから。逆言えば特定できれば攻撃できる。

 探照灯だけではない。海底に仕掛けた複数のセンサーにより、位置だけでなく深度も特定。爆雷の深度調整は容易い。

 

「陣形配置完了、3、2、1……爆雷投下!」

 

 松の合図と同時に、四人が爆雷を一斉投下。

 逃走方向へ向けて全力で投擲。逃走経路を塞ぐ形で投下。だが意味がない。背面への攻撃ではダメージはない。仮に爆発が正面をとらえても、腕や艤装でガードされて終わりだ。

 

 しかし爆雷は、ガンビア・ベイを通り過ぎて沈んだ。

 

 直後、爆発が起きる。横から見たら()()()になる形になった所で、ピッタリ爆雷が起爆。それは攻撃の為ではなかった。斜め下から爆風を浴びせることで、水中から叩き出すための爆発だったのだ。

 

『…………』

 

 それをガンビア・ベイは鼻で笑う。

 海上で爆風をモロ浴びたのならともなく水中で? そんな軟な攻撃は通らない。顔や胴体への直撃は手足でガード。爆風で吹っ飛ばされもしない。僅かに速度が落ちる程度だ。

 

「成功だね、この、少しだけの時間が必要だった」

 

 桃が呟く。水上からなので聞こえてない。ただ呟いただけ。

 

『!?』

 

 直後、ガンビア・ベイに──『大発動艇』が衝突した。

 

『何が!?』

 

 困惑は当然だ。彼女がいるのは水中。大発動艇は動けない。しかし来た。大発動艇が水底を這うよう来た。交通事故みたいに衝突してきた。

 一体何をされた──疑問は直ぐに氷塊する。

 チラリと鎖が見えた。

 

「うおー! このまま、陸地まで引きずり出してやるのねー!」

 

 海上にいたのは睦月と如月だった。彼女達は水中に鎖を下ろしながら、内地へ猛ダッシュしていた。つまり()()()()()()()。海域封鎖崩壊時、海中へ没した大発動艇に、鎖を引っかけた。せり上がった壁のように突っ込ませたのだ。

 

 ガンビア・ベイはそれに巻き込まれた。爆雷は──囮だ。速度を落とすだけでなく、ガード体勢をとらせ、無防備なところで大発動艇を衝突させるのが、本当の目的だったのだ。

 

「んっ……ぐっ、やっぱり、辛いわね……!」

「泣き言は言わない! 距離的には直ぐだから頑張って!」

 

 とは言えまともな引っ張り方ではない。艤装にかかる負荷は深刻そのもの。機関部から火が出てくる始末。それでも止める理由はない。ここで仕留めなければ人間社会に未来がない。

 そして、その先では。

 金剛と比叡、更に陸上砲台部隊が、照準を合わせていた。

 

「……急ぐデース、みんな」

「大丈夫ですよ、全員最前線張れるぐらい強いです。比叡はそれを信じてます」

「……うん、その通りデース!」

 

 彼女達は信じている。必ずガンビア・ベイを水上へ叩き出してくれると。

 

『──こんな小細工で、私が逃げるのを、止められる筈が、ないでしょう!』

 

 しかしガンビア・ベイは止まらない。大発動艇を破壊──いや内部に何か仕込まれているかもしれない。一瞬だけ後退し深度を上げ、突っ込んできた大発動艇を回避。すぐさま逃走を再開。

 

「手ごたえが消えたわ!」

「逃走再開にゃしい! 逃がしちゃダメ絶対に!」

「でも海面近くなら私達でも狙えます!」

 

 準備していた金剛、比叡、陸上砲台部隊が、一斉に火を噴いた。海底探照灯のお陰で位置は特定。そこ目掛けて大量の砲弾が降り注ぐ。

 しかし意味がない。

 ガンビア・ベイはうつ伏せの姿勢で泳いでいる。上からの攻撃では、着弾箇所は背中。ダメージは一切ない。そもそも水面近くとはいえまだ水中、元の威力も減衰している。

 

 それでも『鬱陶しい』とは思った。

 ダメージはないが衝撃で水流は乱れ姿勢は崩される。大発動艇は超えた。水面に留まる理由は皆無。ガンビア・ベイはまた直ぐに水底へ潜ろうとする。

 

 それが、ガンビア・ベイの運命を分けた。

 

『起爆!』

 

 何て言った? 起爆? 何を──瞬間、海底が爆発した。

 

『──またSearchlight(探照灯)ですか!』

 

 海底に敷き詰められていた探照灯が一斉に自爆した。

 

『小細工、です!』

 

 一瞬だが判断を強いられる。()()()()()()()()()()。上からは砲撃の雨。下からは爆風が来る──砲弾をガードすべきだ。爆発でダメージは受けるが再生できる。それより水底へ潜る方が優先。

 そう判断をして、爆炎をかき分けながら、水底へ潜って。

 

『どうも赤城です』

 

 空母に会った。

 

『!!?!?!』

 

 思わず水を大量に呑みそうになった。凄まじい混乱に襲われる。どうして空母が水中にいる。何時どうやって水底にやってきた。

 

『さようなら』

 

 種明かしをすれば、ワープしてきたのだ。

 探照灯が自爆した時、それに紛れて、水上から『矢』を発射。海底に刺さったそれに対し重心を移動、瞬間移動をし、見事ガンビア・ベイを正面に捉えた。

 

 場所は正面。攻撃が通る箇所。赤城は居合の構えを取った。

 

『死なないぃぃぃぃ!』

 

 ほぼ絶叫。ガンビア・ベイは水中に轟く金切り声を上げ全力で浮上。背中に砲撃の衝撃が来るがどうでもいい。赤城から逃げる方が優先だ──赤城は落ちてきた爆雷の爆発に乗って跳躍、眼前へ迫った。

 

『逃がしません』

 

 殺される──ガンビア・ベイは、閃光のような一撃を、ギリギリ腕でガードした。水中で勢いが落ちてたこともあり防御は成功。逆に刃が折れる。

 なら、危機に陥るのは、赤城の方だ。

 

『ゴボッ……っ!』

 

 水中にもぐったせいで艤装が壊れる。浮上もできず溺れてしまう。それを見てガンビア・ベイは失笑する。尤も何も言わない。逃げる方が最優先。

 

『……それが、慢心と言うんです』

『は?』

『私は、マーカー、です。貴女を一瞬、この位置、この深度へ、固定するのが、私や砲撃部隊の、仕事です』

 

 瞬間、ガンビア・ベイは、足に何かが絡まったのに気付く。

 一本や二本ではない……七本だ。

 それは松達三隻に、睦月達四隻、全員が投下した鎖。彼女を完全拘束し引き摺り出す為の装備。一隻ではパワー不足だが、七人全員でやれば。

 

「これで、トドメまで、持っていく……!」

 

 弥生が呟くと同時に、全員が鎖を持って()()()()へ進みだす。当然ガンビア・ベイは牽引される形で引き摺られる。

 このままでは、陸地へ引き上げられてしまう。鎖を切らなければ──ここで何も考えず切っていれば、助かる道はあった。

 

『え?』

 

 移動方向がおかしいことに気がついた。

 睦月達はガンビア・ベイを、()()()へ運搬していたのだ。

 逃走し易い方向に運ばれていた。

 何故なのか、間違えたのか──違和感を覚えたその瞬間、突然鎖が巻き上げられた。

 

「──いや関係ない!」

 

 鎖程度なら力づくで切れる。無理やり切断。また水面まで引き上げられたが、潜り直せばいい。むしろさっきより外海が近くなった、脱出し易くなった──あの駆逐艦たちは何をしようとしていた? 

 

 そして、悪寒を覚えた。

 さっきまで、そこにいた駆逐艦達が、四方八方に逃げてたからだ。

 

 更に言えば()()()がしていた。

 何かがこちらへ突っ込んで来る音だ。

 潜り直せば問題ないが、一体、何が来て──

 

『最終兵器、最強の助っ人のパワー、思い知りなさい!』

 

 事情を知らない人は全員絶句した。

 ガンビア・ベイも当然絶句した。

 そして理解した。

 出口近くまで誘導したのは、高い威力のまま直撃させる為だったのだと。出口付近を狙えば、全部を直撃させられるからだと。

 

 海面を吹き飛ばしながら、来る。

 コークスクリューみたいに回転しながら、来る。

 ドリルみたいに回りながら、三つ飛んで来る。

 

 外海の方向。地平線から飛んで来たのは──

 

 

 ──護衛艦だった。

 

 

 近代部隊が使っていた、護衛艦そのものだった。

 

 対深海棲艦戦では役に立たず、埃を被っていた護衛艦が三隻、コークスクリューのように回転しながら、飛んできた。

 

『オーマイガ』

 

 と呟いた直後護衛艦が直撃した。

 海面を盛大に巻き込みながら飛んで来た。浅い水深も射程距離内。水面に誘導してきたのは、これを直撃させる為だと、ガンビア・ベイは気づく。

 

 巨大質量体三つ分と、投擲に伴う加速エネルギー。

 それを正面から喰らったガンビア・ベイは動けない。それどころか回転の勢いに呑まれ、海上に身体が出てしまった。

 致命傷は避けた。あれだけの質量体の直撃は危険だ。とっさに背中で受け止め、護衛艦ドリルは防御したが……ヤバい。

 

 護衛艦は、外海から飛んで来た。

 ガンビア・ベイは背中で受け止めた。

 

 つまり、弱点となる顔や腹は、内地側を向いている。

 内地側には──

 

「がっ……!?」

「遠くからじゃ、また逃げる……気がします、なのでぇ!」

「これで、Absolutely(絶対)、完全命中ネ!」

 

 金剛と比叡、二隻の砲身が、腹部へ突き立てられた。

 そして、護衛艦に押し込まれる。

 貫いてはいないが──串刺しだ。主砲で護衛艦に固定させられた。そんな状態。つまり『磔』である。

 

Lie()、こんな、System(システム)も載せてない連中に……」

 

 磔と化したガンビア・ベイは──もう、逃げられなかった。

 

「ズルをしたんだ、イカサマです! Cowards(卑怯者)! 地獄へ堕ちて! 弱い物虐めのゲスのクズの──」

「Firrrrrre!!」

「あ……あああぁぁぁぁぁ!!??」

 

 二隻分の砲撃が、接射で放たれる。

 但し──空砲で。

 されど空砲。無防備な腹部は、戦艦級主砲の衝撃を100パーセント全身へ伝達する。

 

 撃つ。

 撃つ。

 撃つ。

 空砲だから、弾切れの心配はない。

 気絶するまで、接射して接射して、接射し続ける。

 

 衝撃波が体内を駆け巡る。護衛艦に固定されてるせいで、ダメージを逃がす術さえない──そして、ガンビア・ベイは。

 

「…………ぁ」

 

 白目を剝き、泡を吹き、涙と鼻水を垂れ流し、全身を痙攣させて、やっとこさ崩れ落ちた。金剛と比叡はそれを見て、主砲を離そうとする。

 だが、声を掛けられた。

 あきつ丸だった。

 

「いやまだでありますな」

「へっ!?」

「いるんでありますよー、気絶したフリをして、拷問を回避しようとする輩が」

 

 護衛艦の上からシュタッと降りたあきつ丸は、ガンビア・ベイの背後へ回り込む。

 

「なので、チェックだけ済ませでも?」

「あ、はい」

「えーっと、ああ、ここ、此処が良いであります。背骨の……脊椎の此処。ここは人体の急所でありまして、此処をゴリっとすると」

 

 あきつ丸はそう言って、背骨の間辺りを、拳の骨で思いっきり押し込む。

 

「ギギェガッ!!?」

「ヒッ!?」

 

 絶叫を上げるガンビア・ベイ。

 そして、今度こそ崩れ落ちた。

 

「……気絶したフリ。だったでありますな」

 

 もし気絶したフリに気付いていなかったら……背筋がゾっとする決着を、卯月達は遂に迎えたのであった。




最後のは、烈海王が寂海王にやったアレです。
ガンビア・ベイ戦漸く決着。秋月よりマシだけど、長い戦いでした。
残る洗脳艦娘は後2隻。
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