前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第221話 悪逆無道

 艦隊は夜明けを迎えていた。

 誰一人欠けることなく、無事に朝を迎えることができた。それはとても喜ばしいことだ。

 しかし、全員ある意味では死んでいた。

 

「あ゛ー……」

 

 死んだ目で砲台に寄りかかり、呻き声を上げている。なんと松である。他のメンバーも似たようなもの。死んだ目でぐったり力尽きている。

 

「びょびょ……ん」

 

 前科戦線のメンバーも例外ではない。その辺に横たわり、溜息を何度も繰り返しながらぶっ倒れている。

 動けなかった。動きたくても身体が動かないのだ。

 

 対ガンビア・ベイは、あまりにも神経をすり減らす戦いだった。

 見えない攻撃に対処する、のは分かる。視界外からの攻撃を警戒するのは当たり前だ。

 だが、見えてない攻撃に対処したことはなかった。見えてる光景を疑いながら、死角からの攻撃にも備える。

 

 ハッキリいって、滅茶苦茶神経がすり減った。今までにないとんでもない疲労感に襲われたのだった。

 

『はーい、疲れてるところ悪いけど、撤収作業早めにお願いすねー』

 

 それでも、疲れた身体を引きずりながら、作業ができるのは、流石と言ったところ。普段からこういう作業を行っている証拠だ。

 尚、卯月を含む何人かは参加していない。

 特別待遇、とかではない。負傷が重い者は、絶対安静が命じられている。

 

 暴れ回っていたので忘れがちだが、卯月だって脇腹を抉られ、内臓へ到達するダメージを負っている。戦いに勝ったのに、事後処理に耐え切れず絶命なんてこと、誰も許さない。

 

「……とはいえ、眺めてるだけってのは、暇だぴょん」

「暇、じゃあないの。一応ガンビア・ベイが逃げないか、監視するって名目があるんだから」

「名目は名目だぴょん……寝たい、眠い、休みたい……けど戦闘のテンションのせいで、寝れない、ぴょん」

「はぁ……だったらそれで起きてなさいよ」

「ぬぅ」

 

 ちなみに、秋月とか他の何人かは、疲労と緊張に耐え切れず寝落ちしてしまった。他のメンバーもうつらうつらとしている。まともに起きて、監視しているのは卯月と満潮ぐらいだ。

 

「仮に目を覚ましても、逃げられやしないぴょん」

「……であって欲しいわ。コイツのことだから、何か想像もできない奇天烈な方法で、脱出しそう」

「ああ、分かるぴょん……」

 

 最後、金剛と比叡により、気絶したガンビア・ベイ。

 彼女は──まあ当然拘束されている。

 ほぼ繭。手足も首も、思い当たる箇所全てが、鎖でぐるぐる巻きになって、拘束されていた。

 これでも尚、足りないと思わせる辺り、凄まじい性質の悪さであるが。

 

「ヘーイ、二人共、お疲れ様デース!」

「お、大声出すなっぴょん……脳味噌に負担かけないで、だぴょん」

「オウ、ソーリーネ」

「む! 折角お姉さまが飲み物を持ってきて下さったのに、その態度は何ですか!」

「頭ァ……止めて……マジでぇ」

 

 でも飲み物はありがたいので頂く。ストロー付きで飲みやすい。ボトルの中身はレモン味のラムネだ。しゅわしゅわとした味わいは、疲労回復に良い……気がする。

 

「アンタ達は撤収作業しなくていいの?」

「戦艦まで必要な場面は殆どないですから。なのでこうして、優しいお姉さまは、皆を労っているんです」

「労うって、そこまでのことじゃないネー。お疲れ様って気持ちデース」

「ふーん、そう、ご馳走様……美味しかったわ」

「……フフ、センキューデース」

 

 空の容器を回収した金剛は、そのまま卯月達の横に座り込む。飲み物も粗方配り終え、本当に暇になった。

 なので、雑談だ。

 久々の再会なので、色々話したいとは思っていた。さっきまではガンビア・ベイへの準備があったが、今は時間がある。

 

「最後、空砲だったけど、あれは指示があったのかっぴょん?」

 

 卯月はそれがちょっと気になっていた。当初の目的では、ガンビア・ベイの抹殺が最優先。生きて確保するのは()()()()()()。そういう指示だった。

 

「いや、私達の独断……って言うのも変?」

「咄嗟の判断、と言ってください。あの場でそう決めたんです。まあ空砲にした理由は、それなりにありますけど」

 

 絶対に逃がさない為、砲身を突き立てた。

 だが、この状態で砲撃してしまえば、砲身がぐちゃぐちゃになってしまう。杭替わりの砲身が砕ければ、逃げ出すかもしれない。砲撃だと弾切れの心配もあった。弾が足りてもガンビア・ベイを殺してしまう。

 

 けど、空砲ぐらいなら、砲身は持つかもしれない。気絶するまで撃つ──という調整が効くかもしれない。

 だから、咄嗟に空砲へ切り替えたのだ。

 結果として、殺害することなく、捕縛に成功。金剛達の独断は正解だったと言える。

 

「……で、こいつ、どうするんですか?」

「まあ、とりあえず艤装……か体内にあるシステムを取り除いて、洗脳から解放してから、情報をあれこれ聞き出す筈よ」

「情報残ってない気がするぴょん」

「だとしても、しないよりマシよ」

 

 |D-ABYSS()()()()()()()にはどうも、記憶を改竄する機能が備わっている節がある。卯月も秋月以降の艦娘も、『黒幕』にとって都合の悪い記憶は消されている。

 

「んー、でも、残ってたら……かなりラッキーな気がするネー」

「どゆこと?」

「秋月や最上より、ガンビア・ベイは格上。顔無しの原料になる艦娘の確保っていう、重要任務を請け負っていたんだから、より大事な情報を知ってる筈デース」

「……確かに」

 

 現状、『黒幕』──もしくはそれに近い標的は、泊地水鬼だ。

 しかし、それは一人からの情報。確実とは言えない。ガンビア・ベイから情報を得れれば、より最終目的がハッキリする。

 残る洗脳艦娘は、瑞鶴とウォースパイトの二隻。

 彼女達を倒しても、『黒幕』を始末しなければ何の意味もないのだから。

 

「ま、今できることはないぴょん……する気力もない」

「それは同感……疲れた本当に疲れた。もうダメ動きたくない」

「うん、ケガも酷いし、休んでてください」

「いや、それは微妙デース」

「へ?」

「おしゃべりしてた方が、痛みが紛れる筈デース。という訳で、私達は引き上げるデース」

 

 金剛達はそう言って、撤収作業や他の仕事へ戻っていった。それと入れ違いで、何人かの影がやってくる。誰が来たのかは察せられた。

 

「おう、お疲れさま」

 

 竹が声をかけてくる。彼女と一緒に松も来た。

 

「寝たいのに傷が痛くて寝れない。ヘルプミーだぴょん」

「諦めろ」

「即答しなくても……」

「戦場では、その傷で動き回ってたじゃない」

「痛みを殺す技術があるからだぴょん……非戦闘状態で使うもんじゃないぴょん」

 

 完全なる殺意があれば、痛みを無視できる。痛みを感じないのではなく、『苦痛』として感じなくできる。

 だが、普段使いするものではない。

 前に言われたことを、多少なりとも覚えている。『殺意』の乱用は危険だ。控える時は控えるべきだ。

 

 でもやっぱ使いたいです。お腹凄い痛い。

 

「内臓がちょっと飛び出るダメージで、そもそも動かないで……って言いたいけど、今更しょうがないか」

「このアホはそんな注意聞かないから大丈夫よ」

「何てことを言うんだぴょん!」

「じゃあ、聞くの?」

「あっところで桃は何処だぴょん。見当たらないけど」

 

 露骨に話を逸らした。満潮も松も文句を言いたげな顔だ。けどそれは無視させてもらう。自覚はしているのだ。

 

「桃なら、那珂さんとアイドル談義してる。関わらない方が賢明よ。多分死ぬ」

「死ぬって、具体的に」

 

 松は悲哀に満ちた目線を向ける。

 那珂と桃の間に、何故か大井がいた。たまたま巻き込まれた模様。

 

 ちなみに──今回の戦闘だが、大井は後方で砲座担当だった。

 ステルス迷彩装備の敵。しかも乱戦確定。雷巡が活躍できる戦場ではなかった為の処置である。

 

「北上さん……わたしを、わたしを殺してください……」

 

 いったい何時持ち込んだのか。飛鷹は着せ替え人形と化している。どうしてこんな事になってしまったのか。飛鷹の眼は死んだ魚のよう。

 

「魔法少女の衣装なんてどうやって持ち込んだんだ……」

「どう?」

「うん。死ぬぴょん」

 

 飛鷹が死ぬ度に、那珂と桃の体力はみるみる回復していく。なんかキラキラしたオーラまで見えてきた。特殊な吸血鬼か何かだろうか? 触らぬ神になんとやら。飛鷹は犠牲になったのだ……卯月は近づくまいと誓う。

 

「……那珂、で思ったんだけどよ。あいつ大丈夫なのか?」

「何の話だぴょん」

「アレだよ。ほら、球磨さんとかが射線上にいたのに、あの人気にせずに……」

「ああ、そっち」

 

 確かに、あれはビックリした。

 雰囲気で感じたが、作戦とかそういうのではなさそう。那珂は本当に味方を巻き添えにするつもりで攻撃していた。

 あんな彼女を見たのは、卯月は初めてだった……いや、奇怪な存在を見るのは、これが初めてではないけど

 

 この事から考えると、那珂の『前科』の想像ができる。

 けど、追及の必要はない。

 

「何かしら問題抱えてるんだろうけど、気にするような事じゃないぴょん。それにこっちのルールだけど、そういうのは禁止だぴょん」

「ルールって?」

「相手の前科を探るのは禁止っていう、暗黙の了解。そういうのが特務隊(うち)にはあんの」

「ああ、なるほど」

 

 その意を汲んで、竹もこれ以上、前科については聞かなかった。

 少しの間、沈黙が流れる。

 言おうか言うまいか、ちょっと悩んでそうな雰囲気だ。

 

「あー、身体、大丈夫なんだよな……?」

「身体?」

「ほら、あれ、何かドラゴンになってた時。後遺症とか、目の変化以外に、特にないよなって」

「大丈夫……な筈だぴょん」

 

 情緒が死んだぐらい。人間性まで失ってないから大丈夫。

 多分だけど。

 

「卯月さんはどういう方向へ向かってるのかな……」

「言い返しにくいこと言わないで欲しいぴょん」

 

 んなこた自分が一番分かってる。なあなあに受け入れてるけど、なんだよ獣って。なんだよレーダーって。艦娘どころかまともな生命体からも解脱してる気がしてならない。

 

「平気よ」

「……満潮?」

「あの程度じゃ化け物とは言わないから」

「あれで化け物じゃないって」

「断言する。化け物ってのは、もっとしっちゃかめっちゃかな奴のことを言うの」

 

 何だろうか、断言したのが気になる。

 慰めの台詞ではない。『本物の化け物』を知っているかのような発言だ。

 

「まあ、いいさ、無事だってんならそれで。顔見知りが消えるのは嫌な気分だからな。艦娘になってからは、幸い未経験だけどさ」

「状況的に仕方がないとは思うけど、ムリはしないでね」

「……うん、ありがとぴょん」

 

 今のわたしは、ちゃんと悲しめるのだろうか? 

 獣化する前は喜怒哀楽があった。昔の鎮守府の仲間たち──菊月とか──と会えないのは、とても哀しいと思った。

 しかし、獣化以降私の情緒は死んだ。誰かが死んでも悲しめるか自信が持てない。

 試してみようだなんて、思いさえしないけど。

 

 ふと気づく。松と竹がコソコソ話してる。

 

「……あとはアレだよな」

「ええ、どうしようか竹。言うべき?」

「言わなくても、どっかで知っちまいそうだが……でもこの状況でなぁ……」

 

 そういえば、私の異常聴覚って、説明してたっけ。

 コソコソ話が全部丸聞こえ。

 いったい二人は何について話し合っているのだろう。

 

 暫く待っても会議は終わらない。自分から聞こうとした時、足音が四人分聞こえた。

 

「……いた」

「あー、やっと、見つけた……」

「弥生、と、望月?」

 

 やって来たのは睦月型ご一行だ。

 

「戦闘お疲れだぴょん」

「あ、うん、お疲れ……じゃ、なくて」

「ちょっと、卯月ちゃんとも、お話をしたくてね。そんなに時間はないけれど」

「……ああ、大丈夫だぴょん」

 

 彼女達は、前藤鎮守府を訪れた時、食事にカミソリを入れやがった連中だ。裏切者のクズ認識されていたが故に、仕方のないことだ。

 ……何を言われるのやら。

 松達は、冤罪だと知っている。

 

 しかし睦月達は、冤罪だと知らない──真実かに疑いは持っているが──本当に虐殺をしたと認識している。

 

 前は、身を挺して戦ったお陰で信じて貰えたが、今回はどうだろうか。

 獣となって、大量虐殺を本当にしてしまった。取り返しがつかないことだ。カミソリを食わされやしないだろうが、もう本当に拒絶されるかもしれない。

 

「悪逆無道の卯月に聞きたいことがあって」

「待って待って待ってストップストップストップ」

 

 それどころじゃなくなった。今睦月明らかに変なこと言ったぞ。

 

「睦月お姉ちゃん、もっかい言って?」

「悪逆無道の」

「それはなんだぴょん! 悪逆無道!? どっからそんな単語が出てきたぴょん!」

「えーっと」

「卯月氏の二つ名でっせ」

 

 スタスタ歩いてきた秘書官:漣が、苦笑いを浮かべて教えてくれた。

 

「あ、俺たち仕事だわ」

「じゃねー」

 

 松と竹は仕事へ戻った(逃亡した)

 

「ふたつな……?」

「うん。卯月氏だけど、そこら中の鎮守府で名前知られてる。『悪逆無道の卯月』って……いやぁ、クールな称号ですな!」

 

 よし、どっかで運の値再計測しよう。

 漣にパイルドライバーを決めながら、卯月は強く決意した。

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