前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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ついに……ゲッターが……来るぞ…


第24話 帰還

 卯月の眼前で、泊地棲鬼が炎に包まれていく。

 燃料に引火した炎が、砕けた装甲の隙間から溢れ出す。高熱に晒された血は気化して、赤い水蒸気に変わる。

 

 ひしゃげた装甲は機能を失い、逃がすべきエネルギーが逃げなくなる。内部爆発の衝撃をモロに受けて、花火のように泊地棲鬼の体が弾け飛んでいく。

 

「きたねぇ花火ぴょん」

 

 しかし、塵一片の同情も湧かなかった。

 

「ワ、タシガ、コノヨウナ、雑魚ニ……」

「さっさとくたばれぴょん」

「ガハッ!?」

 

 燃える体に爆雷を投げつける。引火して爆発すると、泊地棲鬼の体が抉れた。死体蹴りというやつだ。

 とても()()()()()()()行為だと自覚している。

 でも関係ない。こいつは泊地棲鬼だからだ。

 

 どれだけ痛めつけても足りない。殴っても蹴っても、暴力的衝動が止まらない。一方的になぶっても満足できない、嫌悪感がむしろ膨れ上がってく。

 

「……ク、クク」

「笑ってんのか? 気でも狂ったかぴょん?」

「ソレデ、仇討チノ、ツモリカ……?」

 

 燃えてんのによく喋れるな。いっそ感心できる。嫌悪感はより増えたけど。早く死んでくれないだろうか。

 

「イイダロウ、今回ハ、ワタシノ『敗北』ダ……ソノ報酬ニ、『警告』ヲヤロウ」

「『警告』ぅ?」

「ソノ仇討チノ、果テニアル、『敵』ハ……」

 

 なんだ、果てだと? 

 泊地棲鬼では終わらないって意味か? 顔をしかめる卯月を見て、泊地棲鬼は、もっとも邪悪に嗤った。

 

「ソウダ、『敵』トハ──」

「うーちゃん、危ないわっ!」

「ッ!?」

 

 飛鷹さんが、とつぜんわたしと泊地棲鬼に割り込んできた。同時に大量の爆撃を、泊地棲鬼に浴びせたのだ。

 

 凄まじい爆炎だった。泊地棲鬼はいっさい見えない。衝撃波に転んでしまう。

 

「なにすんだぴょん!」

「いま、泊地棲鬼は雷撃を撃とうとしてたわ。うーちゃんあなたに向けて」

「……まじかぴょん」

 

 ということは、最後のアレは、()()()()だったんだ。

 

 意味深な言葉で気を引いて、雷撃を確実にぶち当てようとしてたってわけだ。最後までクソみたいなやつだった。

 

 そう、最後だ。

 

「……終った、ぴょん?」

 

 わたしの仇討ちは、これで終った。

 神鎮守府を襲った泊地棲鬼はどう見ても沈んだ。突然の戦いは、もう終った。

 

「いいや、まだクマ」

 

 独り言を聞いてた球磨が否定した。

 

「まだ、海が赤いクマ」

「……で、まだってのは?」

「泊地棲鬼はまだ健在だクマ」

「出てきやがれクソ女! 首をぶっこぬいてやるぴょん!」

 

 言ってみたけど出てこなかった。そりゃそうだ、さすがに分かる。これで出てきたら苦労が台無しだ。

 

「中枢の姫──今回は泊地棲鬼を沈めれば、海は青に戻るクマ」

「でも、赤いままぴょん」

「そう、だから泊地棲鬼は生きてるクマ」

 

 嘘だろ。あんな派手に燃えたのに生きてんのかよ。なんて意地汚い奴、早く死ねばいいのに。

 

「まあ、姫はだいたいそうクマ。なんどもなんども、何回も何回も叩いてやっと『浄化』できるクマ」

「なんでそんなしつこいんだぴょん」

「死んでも、支配してる海のエネルギーで復活しちゃうんだクマ。それが枯渇するまで沈めないと……」

 

 姫は『心臓』であり、海は『体』だ。

 けど、そこには怨念が『血肉』として循環している。それがこの巨大な怪物の生命を維持しているのだ。

 

「じゃあまた殴りにくるぴょん」

「いや、こっからは本隊の仕事クマ。今回はなし崩しで戦ったけど」

「……もう殺せないぴょん?」

「球磨たちの任務は、あくまで強行偵察クマ。仇討ちはこれで打ち切りクマ」

 

 ダメってことだ。

 なんとの歯がゆい。仇がすぐそこにいるのに帰るしかないとは。いや、本来戦えなかったのが、なし崩しでも戦えただけマシと考えるべきか。

 

「いまの状態で復活されたら、勝ち目がないクマ。目的は達成、今日は帰投クマ」

 

 全員ヘロヘロだった。予期せぬ戦闘に体力も燃料もギリギリだ。かくゆうわたしも全部限界だ。気を抜いたら気絶しかねない。もう一戦、なんて力は残ってなかった。

 

 しかし、やりたいことが、もう一つだけあった。

 

「あの、球磨、ちょっとだけなんだけど……」

「どーしたクマ」

「鎮守府、寄っちゃダメぴょん?」

 

 できれば行きたい。あそこで大勢の仲間が殺されてしまった。近くでその跡を見て、こころに刻みたい。みんなの平穏を祈りたかった。

 

「……あいにく、それは不可能クマ」

「……不可能? 『ダメ』じゃなくて?」

 

 妙な言い回しが引っ掛かる。規則が理由ならダメとか、許可できないって言うもんだ。

 なのに不可能と言った。どういうことだ。

 

「あれを見るクマ」

「あれって、鎮守府を?」

「そうクマ、どう見えるクマ」

 

 渡された双眼鏡で見てみた。鎮守府は鎮守府だろう。廃墟だけど。けど、その実態を見た。

 

「ひっ!?」

 

 生理的嫌悪感が、込み上げる。

 

 鎮守府は『真っ赤』だった。

 どういえばいいのか。案外建物とかの原型は保ってる。でも真っ赤だった。

 

 全部が全部、赤錆に覆われている。もしくは剥き出しの腐った肉片に変わってる。悪性の腫瘍が、全身に転移したように。しかも蠢いてる。ウネウネニチャニチャと。

 

 こんなんじゃ、ない。

 わたしのいた場所は、絶対にこんなところじゃなかった。どうしてこんなホラーな光景に。

 

「これが、深海棲艦クマ」

「ど、どーゆーことぴょん」

「深海棲艦に侵食された海は赤くなるクマ、陸地は()()()()クマ」

「そんな、あんなことに」

「浄化できても、人が住めるまでには……早くて半世紀かかるクマ」

 

 核汚染のほうがまだ早く除染できるのに。あんまりな光景に絶句するしかない。

 

「艦娘もヤバいクマ、あそこはいま、ありとあらゆる呪詛の温床クマ」

「トンでもねえクソ生物ぴょん……歩く核汚染って……」

「と、言うわけで、いま鎮守府跡地は重汚染立入禁止区域、入ったら即死……できりゃ幸福クマ」

「運が悪いと?」

「深海棲艦に変異するか、半端な状態で永遠に辺獄をさ迷うか、あっちに連れてかれるか……」

 

 エクストリーム過ぎる。ヤバすぎるだろ深海棲艦。土地を汚染しただけでこの被害って。これを相手に人類は戦ってきたのか。色んな意味で感心する。

 

「不可能って意味が、分かったクマ?」

「ショボーン、だぴょん」

「こっからでも冥福は祈れるクマ、しょうがないクマ」

 

 その通りだ、このさい距離は関係ない。卯月は目を閉じて、みんながせめて、穏やかに眠れることを祈った。

 

「さて、ちょっと、いやだいぶ急がないとヤバいクマ」

「……げ、これかなり不味いわよ!?」

「泊地棲鬼と戦ったロスタイムが、響いてるクマ」

 

 満潮が時計を見て声を荒げた。アレが焦るのは珍しい。しかし、戦いが終ったのになにを急ぐのか。

 

「全員急いで撤退クマ、このままじゃランデブーポイントまで間に合わないクマ!」

「あ、ちょっとだけお待ちを!」

「待たんクマ、追ってくるクマ!」

 

 熊野を置いて、球磨が動き出した。満潮や飛鷹さんも同じだ、かなりヤバそうな顔をしてる。わたしも合わせて、機関出力全開で走り出す。

 

「お待ちくださいなー!」

 

 遅れてた熊野もすぐ追い付く。なにしてたのか知らないが。

 

「熊野、なんでこんな、急いでるぴょん」

「え? ああ、わたくしたち帰るときも、秋津洲さんに回収していただきますの」

「へー」

 

 そりゃそうだ。直で帰ってもお迎えは機雷だけ。お帰りの代わりに爆発を浴びる羽目になる。

 行きと同じく、空路で帰るって訳だ。

 

「で、回収時刻は事前に決まってますの。その時間が迫ってるから、急いでるのですわ」

「なるほど」

「ただ、秋津洲さん、一分でも時間過ぎたら、行ってしまうんです。わたくしたちを置き去りにして!」

 

 酷ぇ! 

 と思ったけど、しょうがないんじゃないか。秋津洲が飛んでるのは危険な空域だ。のんきに飛び続けて撃墜なんて方がシャレにならない。

 

「言っときますけど、安全が確保されたエリアでも、あの人帰りますからね!」

 

 そう思ってた時期がうーちゃんにもありました。

 

「なんで!?」

「知りませんわよ! 『大偵ちゃんを危険に晒すことは許せない』とか言ってましたが!」

「だからあれは大偵じゃないぴょん!」

「知りませんわ、とにかくそういう理由ですの! 前置いてかれて、酷い目にあったんですのよ!」

 

 あとで聞いたが、その時は三日三晩深海棲艦に追い駆けられた末に、近くの陸地に這い上がって生き残ったらしい。食料もなくなり、その辺の無人島にいた虫とか鳥とかを喰う羽目になったとか。

 

「ちなみに遅れた理由は?」

「ポーラさんが泥酔して迷子になったのを探したからですわ」

「ポーラァ!」

 

 またポーラの知らないところで評価が下がった。すべて自業自得であった。

 ちなみに今現在ポーラは浴場で酒を呷りながらお昼寝タイムである。緊急入渠となったのはもはや言うまでもない。

 

 更に速度を速め、秋津洲とのランデブーポイントが見えた。しかし、輸送艇は既に上昇を始めていたのだ。

 ギリギリ間に合わなかった。具体的には50秒の遅れである。周囲に敵はいないが、秋津洲は躊躇なく帰ろうとしていた。

 

「やばい! 秋津洲ちゃん離陸してるよ!」

「全員碇を投げつけるクマ! 絶対に逃亡を許すなクマー!」

「うおおお!」

 

 下手すりゃ泊地棲鬼戦より鬼気迫る様子で、秋津洲を引き摺り降ろそうとする面々。卯月も半ばノリで碇を投げる。

 とても復讐を終えたとは思えない、グダグダな空気を背負い、初陣は終わった。

 

 

 *

 

 

「気持ち悪いぴょん」

 

 秋津洲の輸送艇で、卯月は顔を青くしていた。行きと同じだ、そう簡単に慣れない。

 

「早く帰りたいぴょん、全然進んでない気がするぴょん」

「けっこう進んでるけど」

「下痢気味のお腹を抱えて電車に乗るサラリーマンの気分だぴょん」

「やけに細かい例えだね……」

 

 どうすることもできない。那珂に膝枕をしてもらってるが、それでも吐き気は収まらなかった。

 

 なにか、なにか気をまぎらわすものはないのか。卯月は周囲を見渡す。

 

 球磨は寝てる。熊野はなんかソワソワしてる。那珂ちゃんは膝枕、満潮は知らん。飛鷹さんは──折り紙みたいなものを飛ばしていた。

 

「ひよーさん、なにしてるぴょん」

「お仕事」

「へー」

 

 会話は終った。短い会話だった。

 

「えいっ」

 

 飛鷹さんが指を動かすと、人形の紙が飛んだ。わたしのおでこにぶつかった。微妙に痛い。

 

「痛いぴょん」

「どう、わたしの『式神』は」

「し、式神?」

 

 式神ってのは、たしか使い魔みたいな存在だ。細かいところは知らないけど。

 

 意外……ではない。そもそも艦娘がオカルト極まってる。使い魔なら妖精さんがいる。そういうのもあるか。というのが正直な感想だ。

 

「これが一番大事な仕事なのよ。わたしたちはこれで『特効』を調べてるの」

「なるほど、分からん」

「例えばね、これを見て」

 

 式神は何体かいた。そのなかでも一番光ってるのがいる。キラキラしてるようにも見える。

 

「これはうーちゃんよ」

 

 飛鷹さんはどうしたんだ? さっきから変なことばかり。飛鷹さんが狂ったらわたしは誰を頼りにいきればいいんだ。危機感が溢れだしてきた。

 

「飛鷹さん、ごめんぴょん、うーちゃんもっとちゃんとするから、お願いだからまともでいてぴょん」

「うん、まずわたしの話を聞いてね?」

「……ぴょん」

 

 流された。ちょっとつまらん。プーと頬を膨らませて不満を表現した。それも流されたけど。

 

「『特効』を確かめるって言っても色々あるわ。姫の大元、戦場になった海域。それらを調べれば、誰が特攻持ちかはおおむね分かる。

 でも、実際に行ってみないと確証は得れない。だからって大艦隊で押し掛けるのも難しい。

 そこで、この式神の出番ってこと」

 

 式神は光ってたり、光ってないもの、光り具合の違うものなど色々あった。一番輝いてるのは、わたしこと卯月の式神だ。

 

「こうやって、特効候補の艦娘の因子を、式神に宿らせる。それを持ち込めば、特効の度合いも分かるってわけ」

「なるほど、ついでに特効艦が誰か敵には隠せる。一石二鳥ってやつぴょん」

「できるのは一部の艦娘しかいないわ、これは自慢よ」

「凄い! 天才! エリート! オカルト! 奇っ怪! 面妖!」

「後半誉めてないわよね」

 

 手を叩きながら激しく煽てる。実際凄いんだから誉めても問題ない。言い方は知らぬ。

 

「この情報を持ち帰るために、前科戦線はあらゆる犠牲を払うわ。最悪死んでもいいけど、情報を持って帰れるように」

 

 聞いた話だ。前科戦線はそういう部隊だと。死んでも構わない実力者による懲罰部隊。飛鷹さんはこの部隊で一番重要な役柄だったのだ。

 まあ確かに、前科持ちに大事な役を任せるわけはない。納得の人選だ。

 

「ちなみに、うーちゃん以外の特効艦って、誰かいるぴょん?」

「そうねぇ、この人かしら……」

 

 特徴的な式神だ。弓矢をもってるような見た目をしてる。

 

「空母かぴょん」

「ええ、『翔鶴』に、姉妹艦の『瑞鶴』、五航戦の縁で『朧』や『秋雲』……大きな特効持ちはこの辺ね」

「翔鶴かあ、なんか泊地棲鬼と因縁あるぴょん?」

「泊地棲鬼を撃破したとき、翔鶴がドロップしたらしいの。その繋がりかもね」

 

 当然、()の泊地棲鬼ではない。それ以前の別の泊地棲鬼だ。同じ見た目の深海棲艦が現れるのはよくあることだ。

 

「本体は、彼女たちを中核にした艦隊で泊地棲鬼を叩きにいくはずだわ」

「その中心にいるのが、一番の強特効を持つうーちゃんとゆーことだっぴょん!」

「え、ええ、そうね」

 

 きっとではない。絶対だ。

 最弱最弱と呼ばれる『卯月』に突如として舞い降りた強特効。これぞ神のおぼみめし。わたしが行けなくても、別の卯月が泊地棲鬼を殺してくれるなら気も晴れる。

 

 なんと装甲を抜ける。同じ卯月があいつをボコボコにしてくれる。そう考えればちょっとは嬉しくなる。

 

 なので飛鷹さんの曖昧な返事は聞こえていない。きっと無数のうーちゃん軍団がMVPを増産してくれる。

 

『そろそろ着陸かも、全員シートベルトをしめるかもー』

 

 秋津洲のアナウンスに従いベルトを締める。卯月が活躍できる。嬉しさで酔いも収まった。泊地棲鬼も殺せたし(一回だけど)、今日はなんだかんだで良い日だった。グッスリ眠れるに違いない。

 

 なお、卯月が艦隊の中心になったかは、言うまでもないのであったとさ。




改めて書いても、深海棲艦とデスストの親和性は高いと思う。
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