前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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昨日は球磨の進水日だクマ。
おめでとうだクマ。
球磨は作者の初めての嫁艦だクマ。改二実装時は卒倒したクマ。めでたいクマ。


第29話 夜戦

 戦闘開始の合図は、駆逐棲姫の魚雷で始まった。

 一瞬で大量の魚雷が展開された。泊地棲鬼のものとは比較にならない。とんでもない密度の攻撃に回避だけで手いっぱいだ。

 

「どーするのよこの状況、撤退!?」

「ダメです~、撤退して後をつけられたら、それこそ前科戦線の位置が特定されちゃいます」

「簡単だぴょん、殺せばいいんだぴょん、今此処で!」

 

 ブチブチと、血管の千切れる音がする。

 わたしのキレた音だ。泊地棲鬼の部下って時点で、あらゆる怨嗟をぶつけるに十分な敵だ。

 

「殺ス? 私ヲ? ヤッテミルト良イ……ヤレルモノナラ」

 

 また魚雷が撃たれた。同じぐらいのとんでもない高密度、回避するには更に距離をとらなきゃいけない。

 

 昼なら、それで良い。

 だけど今は夜だ。距離を離せば姿を見失う。

 

「逃ゲロ逃ゲロ、ソレダケ私ハ有利ニナルノ」

 

 駆逐棲姫がまた夜の帳に隠れてしまった。

 一度見失ったが最後、なにも見えない。どこから攻撃が来るのか分からなくなってしまった。

 

「てか満潮、お前レーダー持って来てんじゃぁねーのかぴょん」

 

 よく考えたら、最初の奇襲の時なんで満潮は反応しなかったんだ。

 さぼってたとしか考えられない。何て奴だ任務もまともにこなせないとは。真の敵は味方にいたってことだ。

 

「サボリか!」

「サボってないわよ、今はちゃんと捕捉してるわよ!」

「じゃあなんで最初の奇襲に気づけなかったぴょん!」

「レーダーの射程距離外から魚雷を撃ってたのよ、それしかないわ」

 

 嘘だ、こいつは嘘を言っている。

 夜間でレーダーもなく、あんな正確に魚雷を当てられるものか。そんな遠くから撃っても外れるだけだ。

 

「今捕捉できてるんだから良いでしょ!?」

「許してやらないこともないぴょん」

「ああ、そう、感謝するわ!」

 

 満潮が耳に手をあててレーダーに集中する。これで居場所が分かる。なんとかなりそうだ。

 

「そこ、三時の方向よ!」

Ricevuto(了解)、では~Fuoco!」

 

 三人揃って、レーダーの方向へ一斉射。当たるかどうかは分からないが、牽制ぐらいにはなる筈だ。

 

 と、油断していたのは確かだ。

 わたしが相手しているのは、泊地棲鬼よりも遥かに格上の姫、それを失念していた。

 

「嘘、全弾ハズレ!?」

「はぁ!? この無能ポンデリング!」

「言ってる場合じゃないですよ~雷撃が来てます~」

 

 また回避、しかもさっきより魚雷が増えてる。どうなってんだこれは、さっきのは全力じゃなかったってことか。

 いや違う、例え姫でもこの量はおかしい。

 

「ヤバい……これは」

 

 満潮の顔が蒼ざめていた。ちょっとこれはふざける場合じゃなさそうだ。

 

「どーゆことだぴょん」

「駆逐棲姫は、先行していたんだわ」

「先行?」

「そう、先に来てたのよ。そして今、後続の『本隊』と合流した!」

 

 戦場に、奇妙で不気味な音が響き渡った。

 ()()()()()()だ。重なり合って混ざり合った、寒気を感じさせる狂った声が反響する。

 

「最悪だわ、なんで夜に、こいつらが」

「戦闘トハ、ソウイウモノデショウ」

「ッいつの間に!?」

 

 背後に駆逐棲姫が現れた。移動速度も折り紙付きってわけだ。

 さっきと違い、駆逐棲姫は随伴艦を連れていた。満潮の言う通りだ。そして随伴艦は、この夜戦で最悪の敵だ。

 

「PT小鬼群っ!」

「行キナサイ、私ノ可愛イ子供達」

「え、その年で子持ちって、お前どんだけお盛んなんだぴょん、ドン引きぴょん」

「ミンナ、夜食ハ兎鍋ヨ」

 

 PTの殺意が全部わたしに向いた。

 

「しまった」

 

 異常な機動力で小鬼群が包囲してくる。そこら中出鱈目に砲撃をして牽制する。しかし小鬼群はあっさりと回避してしまった。牽制にもならない、このすばしっこさがこいつらの特徴だ。

 

「なんであんたは無駄に煽るの!?」

「いや、つい、泊地の仲間だと思うと!」

「バカなの?」

 

 なんも言い返せない。満潮は文句を言いながらも手伝ってくれてるが、小鬼群には中々当たらない。

 

 最悪だ、この機動力と小ささに、夜まで味方している。

 一番当てられるのは、小型主砲とレーダーを持ってる満潮だが、如何せん数が多過ぎる。

 

「卯月さ~ん、手伝いまーす」

「貴女ノ相手ハ、私ヨ」

「あ~、ダメみたいです、In bocca al lupo(頑張ってください)

 

 駆逐棲姫とポーラが仲良く夜へ消えた。緊張感のない喋りかたに脱力しそうになる。

 

「ボサッとするなアンタも戦いなさい!」

「うるせーぴょん!」

 

 幸いなことに攻撃は通る。わたしの貧弱な武器でもPT小鬼群の装甲は抜ける。当たりさえすれば倒せる。

 

 しかし、そんなことは小鬼たちも自覚している。

 当たれば終わり。()()()()()当たらない。背水の陣ってやつだ。回避にかける覚悟が違う。

 

 小鬼は焦っていない。時間をかけて確実に仕留めようとしている。攻撃は確実に回避、当たる確率が高い時だけ攻撃する。そんな厄介なのが15隻もいる。面倒なことこの上ない。

 

 だが時間をかけることは、危険な行為でもある。

 相手に動きのクセを見る時間を、たっぷり与えてしまうのと同じなのだから。

 

「いつまでもチョロチョロと、鬱陶しいのよザコども!」

 

 満潮の機銃が、一隻の頭部を貫いた。

 脳漿が飛び散る。子供のような見た目のせいだ。ただでさえエグい光景が悪化している。

 

「悪趣味ぴょん」

「それは同感するわ、さっさと片付けるわよ」

「へいへいぴょん」

 

 一隻が爆発すれば、爆風が起きる。その風圧でよろめいてしまうのがPT小鬼群だ。その隙を見逃さず、姿勢を崩した他二隻もいっきに撃ち抜く。

 

 流れが変わった。良くも悪くも。お互いに動き方を理解してきた。こっちの攻撃も、小鬼の攻撃も命中率が上がってきている。

 

「隙ありぴょん!」

「バカ後ろ!」

「ぴょんっ!?」

 

 撃とうとした、その瞬間を狙って魚雷が来ていた。体を捻って回避するが、こっちの主砲が変な方向に行ってしまった。

 

 代わりに満潮がカウンターを放った。見事命中、更に煽りを受けた個体も破壊。これであと9隻だ。

 

 喜んだのも束の間、満潮が怒りに満ちた目で睨んでくる。なんだコイツは喧嘩を売ってんのか。

 

「でしゃばりすぎよ、自分がトーシローって自覚を持ちなさい!」

「なんだと、このうーちゃんは泊地棲鬼のキルスコア持ちぴょん!」

「特効のおかげでしょうがそれは!」

 

 ぐうの音も出ない。

 とても悔しいが全く持ってその通り。まだまだ『改』にもなってない素人だ。やれることに限界がある。

 

 だが、なにもしない選択肢は選びたくない。

 だって相手は、あの泊地棲鬼の仲間だ。わたしが仇を打たなくて誰が打つというのか。

 

 不甲斐なさをぐっと飲み込む。

 だからって沈んだら元も子もない。今できる戦いをやろう、満潮に言われたのは特に悔しいが事実だ、堪えよう。

 

「もうお仕舞いよ、見切ったわ」

 

 満潮が機銃と主砲を構えた。打ち漏らすかもしれない、そのサポートをしよう。わたしも武器を構える。

 

 しかし聞こえてしまった。

 

 とんでもない速度で迫る、風を切る音が。

 

「引っ込め満潮!」

「は? うるさいわねザコのクセに」

「おいバカ!」

 

 信じられない。制止を聞かず、主砲を構えた! 

 そんなにわたしが嫌いか、わたしも嫌いだけどさ。そんなこと言ってる場合じゃないのに。

 

 もう遅い、手遅れだ。

 満潮の足元に、一瞬で魚雷が現れた。

 声を上げる暇もなかった。爆発が視界を覆い尽くしてしまった。

 

「満潮!?」

「私ノ子供ガ……6隻モ沈ンダ……ヨクモヤッテクレタワネ!」

 

 駆逐棲姫が再び現れた。

 加速しながら魚雷を撃って、到達速度を速めたのだ。

 暗闇のせいで満潮は確認できない。

 

「あ、ああ……そんな……」

「少シハ理解デキタ、大切ナ仲間ヲ失ウ悲シミヲ。ダケド許サナイ、貴女ハ確実二殺ス。コレハ決定事項ナノヨ」

「うあ、あぁ、あああ……」

 

 うめき声を上げてうずくまるわたしを見て、駆逐棲姫は真底嬉しそうに笑う。途方もない悲しみと絶望で動けなくなったと思っているのだ。

 

「フフ、ザマアナイワ。大丈夫ヨ、直グニ後ヲ追ワセテアゲ」

「あーっはっはっはー!」

「!?」

 

 だからこそ駆逐棲姫はフリーズした。泣いてたんじゃなく、笑いを堪えていたのだから。

 

「エ?」

「よくやったぴょん駆逐棲姫、表彰モノぴょん。あの! 悪き淫売満潮が! 遂に今宵沈んだぴょん! こんなに嬉しいことはないぴょん! ありがとうありがとう!」

「仲間ジャ、ナイノ?」

「は? あんなポンデリングは魚の餌がお似合いぴょん。いやもうホント最高、これから駆逐棲姫はうーちゃんのベストフレンドぴょん」

 

 紛れもない本心であった。

 いやぁ沈んでよかった。もうあいつに会えないと思うと心が踊る。最高の気分だ。

 

「……あれ、どしたぴょん」

 

 なんか駆逐棲姫がプルプル震えている。呆れるか唖然とするか、どっちかと思ってたがこれは予想外だ。

 

「卯月、私ハオ前ヲ侮ッテイタヨウダ」

「へ?」

「マサカ、コレホドマデニ憎イトハ思ワナカッタゾ!」

 

 声を荒げて主砲を構えた。

 怒っていた! 

 なぜだ満潮が死んだのを喜んだからか?

 深海棲艦らしくない反応だ。化け物らしくしてれば良いものを。

 

「モウ容赦シナイ、絶対ニ殺シテヤルゾ!」

「なぜぴょん、仲間が死んだのを喜んでそんなに悪いかぴょん」

「外道メ!」

「てめぇらに言われる筋合いはねーぴょん」

 

 煽られた駆逐棲姫は更に怒る。周囲のPT小鬼群も呼応する。今のあいつは釘付けだ。わたしを殺すこと以外、考えられなくなっている。

 

 理想どおりだ、とても良い流れだ。

 

 駆逐棲姫に合わせて、カウンターのように主砲を発射した。二人分の爆音が響く。

 

「ソンナ豆鉄砲無意味ダ間抜ケメ」

「バーカ! 間抜けはてめーだぴょん!」

「ナニ?」

 

 わたしの主砲はあっさり弾かれた。しかし無意味ではない。

 

 駆逐棲姫は気がついた。わたしがどこを見てるのか。

 わたしが見てたのは『後ろ』だ。あいつの背後だ、このタイミングで、あいつも動く。

 

 振り返った先には、満潮がいた。

 

「生キテ──」

「死ぬもんですかあんなんで!」

 

 満潮は生きていたのだ。

 わたしが囮になっている間に死角へ回り込む。そういう作戦だ。アドリブだったけど、上手く意図を汲んでくれた。

 満潮にしてはやるじゃないか。

 

 そう思ってました。

 

「卯月もろとも沈め!」

「ちょ、おま!?」

 

 だがあいつは、わたしも巻き込む攻撃をした! 

 駆逐棲姫もわたしも纏めて殺すつもりだ。あの目はマジだ、殺意しかない。

 

 発射された魚雷を回避する暇はない。

 瞬間、駆逐棲姫は爆発と立ち上る水柱に呑み込まれた。

 

「バカヤロー!」

 

 叫びながら、どうにか回避する。

 駆逐棲姫が盾のようになってくれた。おかげで逃げる時間ができた。

 

「なんてことするぴょん!」

「あああんたなら回避するって信じてたから無事でなにより良かったわー」

「コノヤロウ」

 

 清々しい棒読み。いっそ感心する。今すぐ殴りたい。けどまだ戦いは終わっていない。まだあいつの動く音が聞こえる。満潮のレーダーもあいつを映してる筈だ。

 

「コノテイドデハ死ナナイ、コンナモノデハ……!」

「……あんま効いてないぴょん」

「小鬼が盾になったみたいね」

 

 とはいえ小鬼はあと6隻。この調子なら……と、上手くいくなら苦労はない。

 子供を殺されたせいで、駆逐棲姫の怒りはピークになっていた。

 

「殺ス殺ス殺ス殺ス……」

「こわっ」

「道ヅレニシテデモ……!」

 

 ホント、なんであそこまで怒ってる。

 泊地棲鬼を殺したことがそんなに憎いか。ふざけてる。存在ごとふざけた連中だ、嫌悪感しかない。

 

「イクゾ」

 

 目と鼻の先に駆逐棲姫が現れた。

 

「え」

「死ネ」

 

 死が見えた。

 有言実行だ。

 特攻だ。

 本気で動いたらこんなに早かったのか! この速度でぶつかられたら、全身が砕けて死ぬ! 致命打を覚悟した、その時だった。

 

「ダメですよ~それは~」

 

 ポーラが助けてくれた。

 わたしと駆逐棲姫の間に砲撃が刺し込まれた。突っ込んだら自爆する。駆逐棲姫はブレーキをかけて回避し、すぐさま距離をとった。

 

「なにしてたぴょん!」

「ごめんなさい~様子を伺ってました。でもじゅーぶん見れたので、働きます~」

 

 ポーラが敵に向き直る。全ての主砲を動かし狙いを定めた。

 得体のしれない不気味な仕草に、駆逐棲姫は身構える。こっちも思わず唾を呑む。北上はポーラが強いと言ってたが、本当なのか。

 

「では行きますよ~それぇ~」

 

 主砲が一斉に火を吹く。

 駆逐棲姫たちを狙った攻撃は、まるでクジャクが羽を広げたように飛んでいった。

 大きな扇状に飛んでいった。

 

 具体的に言えば1()8()0()()()()に飛んでいった。

 

 うち一発はわたしの鼻先を掠めていった。わたしポーラの真横にいたんだけど。

 

 改めて言うまでもないが、駆逐棲姫たちは『真正面』にいた。

 

 そう、当たってない。

 一発も当たってない。掠りもしてない。

 全弾明後日の方向へと飛んでいった。かなりの至近距離だったのに、真っ直ぐ向かう弾は一発もなかった。

 

 超絶的なノーコンであった。

 

「……ぴょん?」

「……は?」

「……ナ?」

 

 わたしも満潮も。それどころか駆逐棲姫まで固まっていた。

 

「何カノ作戦カ?」

 

 あまりの惨劇に、駆逐棲姫があらぬ警戒心を抱いている。なんか申し訳なくなってくる。これはどういうことなのか、ポーラを睨み付けた。

 

「あら~やっぱり、此処だと調子が悪いですね」

 

 ポーラはおもむろにワインを取り出し、ラッパ飲みで呷る。

 プヒャーと叫び顔を真っ赤にした。主砲を降ろし、酔っぱらった足取りで歩きだした──前科戦線の方向に。

 

「良い気分ですのでぇー、ポーラはAndare a casa(帰ります)

「ぴょん?」

Buona fortuna un po'(ちょっと頑張ってください)!」

 

 と言い残して、ポーラは暗闇へ消え去った。

 あっと言う間にレーダーの索敵圏外まで消えた。かなり早いので後を追跡される恐れはない。でもそういう問題ではない。

 

「満潮、これは?」

「帰ったみたいね、マジで」

 

 え、帰った? 

 本当に帰ったのあいつ? 

 すんごいノーコンを披露して帰ったの? 

 

 圧倒的放心状態。酒だけ飲んで帰っていった。

 その事実を理解し、現実を直視する。オーケー理解した、もう大丈夫だ混乱していない。

 

 だけど言わせてほしい。

 

「なんじゃそりゃあぁぁぁっ!?」

 

 どうすんだコレ。絶望的な戦況を前にわたしは叫ぶしかなかった。




今気づいたけど、この卯月全然ぷっぷくぷーって言わないですね。いや言ってる状況じゃないですけど。
でもアーケードのうーちゃんはとってもあざとくて可愛いと思います。ぴょん。
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