わたしたちは絶句していた。駆逐棲姫も含めてだ。
超絶ノーコンを披露して、ポーラは帰ってしまったからだ。本当に帰ったのか。後はつけられてないが信じられない。
ただの酒クズじゃなかった。
真正のクズ野郎だったのだ。戦略的撤退とかなら話は違うけど、だったら酒を呑んだりしない。
戦場に二人取り残されて、わたしたちは立ち尽くす。どうするのだこの状況。
「ナンテコト、信ジラレナイ。コンナコトガアルナンテ」
馬鹿にした笑みを張り付けている。
ポーラの行為を嘲笑い、そして仲間のわたしたちを笑っている。
「マサカアンナノガ仲間ダッタナンテ。イッソ同情デキルワ。可哀相ナ卯月」
なにが悔しいかって、一言も反論できないことだ。
こいつの言う通りだ。
わたしだって信じられない、まさか見捨てて逃げ出すなんて。
「デモオ似合イカモネ。貴女ミタイナ外道ニワ」
「なに言ってんだぴょん」
「分カラナイ? 貴女ハ、仲間ニ捨テラレテ当然ノ人間ナノヨ」
言ってる意味が分からない。なんでわたしが外道なんだ。見捨てられて当然だって? そんな行為したこともない。意味不明な世迷いごとだ。
「アホかぴょん、このうーちゃんは清廉潔白、常に睦月型として誇り高くあるぴょん」
「ウソついてんじゃないわよ」
「ポンデリングはお口チャックぴょん」
やかましいな満潮は。
今言った言葉にウソはない。というか冤罪でこんな目にあってるので、嘘は嫌いになってる。
「──貴女、ヨクモソンナ事ガ言エタワネ!」
しかし、いや理由は分からないが、この反論は駆逐棲姫の『逆鱗』に触れた。
「地獄へ落チロ!」
駆逐棲姫が消えた。
ということは、もう加速は終わっている。
懐から攻撃が来る!
姿を見てからじゃ間に合わない。すぐさま横へ飛び退ける。横目で見るとさっきいた場所に駆逐棲姫がいた。
セーフ、と思ってしまった。
「逃ガスカッ!」
また、姿が消えた。
訳の分からない超加速は連発できたのだ。いくら自爆覚悟の無茶だからって、ここまで速くなるとは。これが姫級の力か。
まずい、いまわたしは宙に浮いている。逃げられない!
「ならば、こっちも相討ちぴょん!」
とっさに、残っていた魚雷を全てばらまく。魚雷の弾幕だ。触れれば爆発する。真っ正面からの突撃は阻止できた。さらに背後には爆雷、これで簡単には接近できまい。
かに見えた。
だけど、甘く見ていたのかもしれない。
駆逐棲姫は本気の本気で、わたしを憎んでいたのだ。
「コノテイド!」
魚雷を回避せず、突っ込んできた。
「嘘ぉ!?」
「言ッタハズダ、貴様ハ、殺ス!」
魚雷の爆発が駆逐棲姫を直撃する。
けど本来魚雷は刺して使う兵器だ。ただの爆風じゃ効果は薄い。それは分かってた。
「ソモソモ効カナイワ、コンナ威力デハ」
だが、火傷さえないとは!
原因は知ってる、
わたし自身の攻撃力が低すぎるのだ。睦月型の中でも特に弱いわたしの火力では、こいつにダメージを通せない。
「捕マエ……タッ!」
「うげぇっ!?」
駆逐棲姫はわたしの首根っこを掴んだ。自爆用の首輪を上手く避けて掴んできた。
途端に、骨が折れかねない衝撃が走る。喉にダメージを受けて息が上手くできなくなる。凄まじい加速の乗せた掴み技は、それだけで大きなダメージになった。
「コノママ、圧シ折ッテアゲルワ」
「なにやってんのよザコ卯月!」
「邪魔ハサセナイ!」
近づこうとした満潮を、主砲と魚雷で牽制する。残ったPT小鬼群も一斉に攻撃を仕掛けた。満潮は全て回避しているが、わたしには近づけなくなっている。
それでもチャンスだ。ここしかチャンスはない。満潮へ意識を向けた今しかない。艤装の出力を最大へ上げる。
一瞬の隙を突き、卯月は『鎖』を振り上げた。
「このうーちゃんの罠が、これで終わると思ったかぴょん!」
鎖は、
わたしはそれを引き上げたのだ。魚雷の爆風を目隠しに、事前に下ろしておいたのだ。無理矢理突破された時の保険として。
沈めておいた罠、それは。
「ッガ!?」
「錨のハンマーだっぴょん!」
それは船の『錨』だった。
事前に沈めた錨は勢いよく引き上げられ、そのまま水上へ飛び出した。
引っ張られた『錨』は、駆逐棲姫の後頭部を直撃したのだ。
「貴様……!」
それでも姫は死なない。この程度では少しのダメージにしかならない。それは承知している。攻撃はまだ終わっていない。
錨を喰らい、駆逐棲姫は隙を晒した。
この至近距離、動きの止まった相手なら外しはしない。
首を掴まれ、酸欠にあえぎながらも主砲を構える。
狙いは、こいつの『眼球』ただ一つ。
「くたばれぴょん!」
砲弾が向かっていく。眼球に吸い込まれるように。ダメージの残る駆逐棲姫には回避できない。
回転する砲弾が眼球を抉り取り、頭蓋骨に突き刺さる。
爆発の放ったエネルギーは、駆逐棲姫の頭の中を焼き尽くす。逃げ場のない衝撃は、致命的なダメージを与えた。
爆発の炎と煙が視界を塞ぐ。沈んだか確認できない。
「やったか!?」
いや、やったに決まってる。
姫がどれだけ固くても、柔らかい場所は絶対に存在する。
例え化け物でも、人の体をしてる以上は、必ず弱点がある。
だから眼球へ砲撃を当てたのだ。目だけじゃない、脳味噌にもダメージがある。もうまともには戦えまい。
「ゲホッゴホッ、ちきしょう、ゴリラみてえな力で、握りやがったぴょん!」
とても首が痛い。後少しでヒビが入って、折られていた。改めて姫級の凄まじいパワーを思いしった。
しかし、あの高速移動はヤバかった。
わたし自身の練度不足もあるが、ほとんど見えなかった。自爆上等なら、あそこまで加速できるとは。
まー死んだからどうでもいい。無念に満ちた顔を拝んでやろう。そろそろ煙も晴れてきたし。
その油断が命取りと知らずに。
「え」
再び首根っこを捕まれる。
渾身の力だ、さっきの予想通りになった。
ピシリと、亀裂が走る。まずい本当にまずい、だいたい──なんで生きてるこいつ!
「痛イジャナイ……デモ、コレジャア死ナナイ」
「う、うそぉ……」
片眼は爆散していた。
片眼を中心に顔半分も消し飛び、頭蓋骨が一部剥き出しだ。
それでもこいつは生きてる。信じられない。無茶苦茶過ぎる。
「貴女ノ主砲ジャ、私ノ装甲ハ抜ケナイノ」
「装甲……どこが……?」
「全部ヨ、姫級ハ、『骨』モ鋼鉄デデキテイル。ダカラ効カナイワ」
絶句するしかない。
なんだそりゃ、骨まで装甲になってるって? 酷い、こんな理不尽が許されるのか。
「トイウカ、コレハ座学デ習ウヨウナコトヨ。コノ戦争ノ常識ヨ」
……そう言えば神鎮守府で習った気がする。しまった、忘れてたぜ。
「ドウセサボッテトカ寝テタトカ、ソンナトコロネ」
「やかましいぴょん、この化け物」
「化ケ物? ソレハ、貴女デショウ!」
また逆鱗に触れたらしい。首を締める力が強まる。骨の亀裂がどんどん大きくなっている。
それでも、今のには言い返したい。
「このうーちゃんの、どこが、化け物だぴょん。お前になにが分かるぴょん!」
「
「んなこと何時やったぴょん!?」
「知ラナイワ、デモ確信シテイル。本能デ理解デキル、オ前ハ私達以上ノ下衆野郎ダ!」
本当に分からない。意味不明だ。
本能で確信? 言ってることが滅茶苦茶じゃないか。正気とは思えない。いや深海棲艦にまともさを求めること事態、間違いだろうけど。
「無駄話モコレデ終イ、地獄ヘ堕チテイケ」
止めを刺そうと、一層力が強まった。
息が完全に止まる。酸欠で視界が暗くなり体の感覚が消えた。満潮は間に合わない。なんてこった、こんなところで死ぬなんて。
がむしゃらに暴れてみるも、駆逐棲姫はびくともしない。駄目だ、わたしの力じゃ何も通じない。主砲も魚雷も効かないなんて。
骨の亀裂が大きくなった。ベキベキと砕ける音が聞こえる。もうダメだ。どうにもならない。わたしは死を覚悟した。
悔しいけど、無念ばっかりだけど、これがわたしの限界だったのだ。
死ぬ寸前、最後に聞こえたのは、誰かの撃った砲撃音だった。
「ギャッ!」
悲鳴が聞こえた。
誰のだ、これは駆逐棲姫の声だ。
なんで悲鳴を上げている?
酸欠で消えてた視界が戻ってくる。駆逐棲姫は手を放していた。わたしは海面に倒れ込んでいる。なんで手を放したんだろうか。
理由はすぐに分かった。
駆逐棲姫の両目が、潰れていたのだ。
「誰ダ、クソ、見エナイ!」
片目はわたしが潰した。ならもう片目を潰したのは誰だ。さっき聞こえた砲撃音なのか。
困惑している間に、また砲撃音が鳴る。
今度は連続で、三発発射された。視界を潰された駆逐棲姫も、音で砲撃を警戒している。
しかしそれでも、警戒してても、弾は当たった。
駆逐棲姫の左足に一発当たる。よろめいた先で二発目が、転倒した先で三発目が当たる。
全てが直撃弾だ。姿勢が崩れるのを見越して、狙いを定めていたのだ。
「馬鹿ナッ、何ダ、コノ命中率ハ!?」
狙撃主の姿は見えない。
暗闇の中でこの命中率。どういうスキルを持っていれば、こんなことができるんだ。
更に六発、砲撃音が響く。
今度のターゲットは駆逐棲姫ではない。満潮を包囲するPT小鬼群だった。
「ピギィッ!?」
爆発が起きる。
瞬殺だ、牽制さえない。
暗闇の中、動き回る小鬼群を、六隻全てを一撃で撃ち抜いた。
「シ、沈ンダノカ? 全員?」
駆逐棲姫が震えた声で呟く。
両目が潰されたせいで、小鬼が死んだか確認できない。悲鳴だけが聞こえて混乱しているのだ。
そこでわたしは理解した。
いまの狙撃は『フェイント』だ。PT小鬼が死んだことで、奴は隙だらけだ。
ズドン、最後の一撃が放たれる。
最後のターゲットは、駆逐棲姫の主砲だった。
稼働部位の隙間を抉り、主砲が中の砲弾ごと爆発する。
ついでに魚雷にも誘爆。連鎖爆発で駆逐棲姫は派手に吹っ飛ばされていった。
「殺ス、殺ス! ヨクモ子供達ヲ、卯月ダケジャスマサナイ、全員沈メテヤル!」
「し、しつけぇぴょん!」
信じられない、まだ生きてる。
木の葉のように宙を舞いながら呪詛を吐いている。タフ過ぎる。そんなにわたしが憎いのか。いっそ感心できる。
だが、それ以上呪詛は続かなかった。
駆逐棲姫が海面に着地した瞬間、謎の大爆発が起こったのだ。
「ナッ!?」
ぶっ飛んだ先でまた爆発が起きる。主砲や魚雷を上回る大火力に、からだがどんどん千切れ飛ぶ。
「そうか、あの位置は」
「なんだぴょんさっさと言え」
「うるさい、あそこは『機雷源』よ!」
そうか、あれは機雷か。
前科戦線の防衛兼逃亡阻止のための機雷源だ。駆逐棲姫はそこへ突っ込んだ──否、突っ込まされたのだ。
最初からあそこへ追い込むために、攻撃をしていたのだ。
ゾーッと鳥肌がたつ。
じゃあわたしもすぐそばにいたってことか。気づかない内にそんなところまで。下手したら巻き添えだった、運が良い。
「沈マナイ、マダ、殺スマデワ……!」
「ってまだ生きてる!」
「だぁぁもう、いい加減沈めっぴょん!」
ここまでボロボロなら、わたしの攻撃も通る筈だ。
満潮とともに、頭部へ狙いを定める。首の激痛を気合いでこらえ、トリガーを引き絞った。
「終ワラナイ、マダ、私ハッ!!」
そして、頭部が弾けた。
頭を丸ごと失い、残った身体が倒れる。
また機雷に接触し、爆発に呑み込まれる。闇夜が明るく見える程の炎、バラバラになる駆逐棲姫が確認できた。
「勝った、わね……」
周辺を警戒しながも、満潮が膝をつく。
無理もない。ダブル足手まといを連れての戦闘だ、とても疲れたに違いない。
「根性なしぴょん」
「あ゛あ゛!?」
でも嫌いだから労ったりしないもんね!
と緊張が抜けた瞬間、とんでもない激痛が全身を貫いた。
「!!!?!?」
言葉にならない。背骨を裂けるチーズのように千切られる痛みだ。
首の骨がもう限界だった。粉砕骨折一歩手前の極限状態。痛すぎて涙が出て来る。やばいよこれ死んじゃうよ。
「あ~、卯月さんに満潮さーん、大丈夫ですか~」
「大丈夫なわけないでしょこのド阿呆沈んでしまえ」
「酷いです」
今更になってポーラが帰ってきた。ホントだよこのドアホ。今までなにやってたんだ。
と文句を言いたいが、口を動かすこともできない。マジで痛すぎる。激痛でショック死しかねない。
「ま、まーまー、卯月さんがかなーり危険ですし、帰投しましょー」
「卯月はアンタが背負いなさいよ」
「かしこまりました~」
ということで、ポーラにヨイショと背負われた。
とんでもなく酒臭い。ワイン一気飲みが後を引いている。
こいつホント何の役にも立たなかった。なんで前科戦線にいるんだよ。真面目に疑問だ。
「……アレ?」
一つ気づいてしまった。
さっきの狙撃手は、駆逐棲姫を機雷源へ誘導して倒した。
でも機雷源の位置は誰も知らない。わたしも満潮も知らない。分かったら脱走防止にならない。
機雷源を知ってるのは一人しかいない。
じゃあ、まさか。
「さ、さっきの……狙撃って……」
「
開いた口が塞がらない。
え、じゃあなに。重巡級の主砲かつレーダー無しで見張り員なしで夜のPT小鬼群六隻を瞬殺したのこいつ?
「ポーラは
「嘘言わないでよ、酒飲んでたじゃない。あのノーコンはなんだったのよ」
隣で聞いてた満潮も突っ込んだ。その通りだ無茶苦茶だ。まさか酔ってる方が調子が良いなんてこと言うんじゃねえぞ。
「適度に酔ってた方が
「……なによそれ、ふざけすぎでしょ」
「い、インチキだぴょん」
「えへー、良く言われます~」
朝呑んでなかったのは、酔い方を調整してたってことか。
そして、命中率と距離が
んな訳あるかい。
自分で自分に突っ込む。しかし実際そうなってるのだから認めるしかない。
ただ、ポーラが狙撃手だった以上、一つの事実が浮き彫りになった。
今回一番役に立ってなかったのは誰か。
わたしだ。このうーちゃんが一番足を引っ張っていたのだ。
「……ちくしょう」
駆逐棲姫は倒した。
けどわたしは負けた。なんの貢献もできなかった。装甲も抜けなかったし行動の妨害もできなかった。何一つ活躍できず、むしろ足手纏いになっている。
仇討ちの続きを成し遂げたにもかかわらず、胸の奥には敗北感が渦巻いている。
完全敗北。
わたしの二戦目の結果は、凄惨たるものだった。
艦隊新聞小話
今日は姫級の基礎スペックについて纏めてみました!
・筋肉はしなやかかつ強靭、力を入れれば機銃ぐらい弾けちゃいます。
・骨格は頑強な合金と同じ硬度、貫通は超困難です。
・起動力も高い。自爆を覚悟すれば目視困難な速度で動けますよ。
・火力と雷装、動体視力は言わずもが。
・途方もない再生能力持ち。体内を高速修復材が循環してるから。艦娘の攻撃は有効――ってか、艦娘が運用されてる理由はこれしかありません。通常兵器の傷じゃ秒で再生しちゃうとか。
・海そのものを汚染する能力持ちです。一度死んでも海のエネルギーを糧に復活できます。
・陸を汚染したさあ大変、核汚染が自然に治るよりも尚長い時間、土地を蝕み続けます。
以上です、ちょっと設定盛り過ぎじゃないですかね!