前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第46話 艤装

 松たちとの演習中に卯月の艤装は機能停止を起こした。一歩間違えれば大事故に繋がりかねない緊急事態だ。原因を突き止めるべく、北上による解析作業が行われた。

 

 解体しても問題はなかった。それでも機能停止は実際に起きている。なんらかの原因は存在する。

 北上は、原因の正体がなんなのか、予想できていた。

 

 しかしそれは、とんでもない内容だった。

 

()()()()()()()()()()()()

「…………は?」

 

 北上の言ったことを、卯月はたまらず聞き返す。

 

「いやだから、他人の艤装なんだって」

「他人のって、誰のが?」

「卯月の艤装が」

「うーちゃんの艤装が?」

 

 困惑する卯月。北上はそうなるよなと納得する。こんなことを聞いて驚かない奴はいない。

 

「卯月が今まで使ってた艤装は、()()()()()()()()()。それは()()()()()なの」

「それが、機能停止を起こした原因かぴょん?」

「それしか考えられない。他人の艤装を無理やり繋げて動かしてたけど、とうとう限界が来たってことだね。今このタイミングで限界になった理由は分からないけど」

 

 練度が上がり過ぎて艤装側がついてこれなくなったか。もしくは『卯月』として成長したせいで、艤装との縁が途切れてしまったのか。

 まあ今更理由はどうでもいい。北上にとっては、今後の方が重要だった。

 

「ちょっと待ってなー」

 

 と言って北上は腕を動かす。工廠内の機械が遠隔操作される。大きな音と共に、機械に乗って一つの艤装が運ばれてきた。

 

 ランドセル型の主機に、単装砲と魚雷発射艦。卯月が今まで使っていたものと違わない。標準的な睦月型の艤装だ。

 

「これ、確か、工廠に置かれてたやつぴょん」

 

 卯月は形見のハチマキを奪還すべく泥棒をした。その時一瞬だけ見たことがあった。艤装の予備パーツと思っていたものだ。

 

「これが、卯月の()()()()()だよ。装備してみな」

 

 卯月はさきほどと同じように、艤装へ背中を押し付ける。瞬間、ピリッと電流の走る感覚がした。いつも感じている艤装と繋がる感覚だ。

 そっと立ち上がると、今度は背中にくっついてくれる。問題無く艤装とリンクできた。

 

「どう?」

「違和感が全然ないぴょん、全身にパワーが巡ってくるぴょん」

「そりゃー、良かったねぇ。じゃぁ今後は本来の艤装を使うってことで、話は終わりー」

「んなわけないでしょこのアホ」

 

 満潮はうやむやな終わり方を許さなかった。隠し事隠蔽工作陰謀。目的のためならバッチコイが前科戦線のスタンスだが、目の前でこんなことされて、見て見ぬふりは流石に無理だった。

 

「えー、言わなきゃダメ?」

「言えぴょん、うーちゃん場合によっちゃ溺死だったぴょん」

「じゃあしょうがないか」

 

 危うく死ぬところだったのだ。曖昧なまま流すのは卯月としても許せない。北上は若干面倒だったが、話すつもりだった。

 

「いい、不知火?」

「問題ありません、隠していた理由もなくなったので」

「じゃあ言うけど、そんな大した理由じゃないよ。ただ単に、卯月の艤装が完璧にぶっ壊れてたから」

「え、なんで壊れてるぴょん」

「いやあんた、なんで前科戦線行きになったか忘れたの」

 

 そうか、あの時か。卯月は思い出す。

 半年前卯月のいた神鎮守府は泊地棲鬼の襲撃を受け壊滅した。その時卯月も多大なダメージを受けてしまった。

 

 結果前科戦線に運び込まれてから、覚醒まで半年もの時間がかかったのだ。本体がそれだけのダメージを受けたのだ、艤装も同じだ。それどころか本体以上の損傷を受けたのだ。

 

「あの汚染エリアからなんとか卯月の艤装は回収した。したんだけど損傷が激しくて、修理と浄化には時間が必要だった。でも修理完了より前に、卯月が起きちゃった」

「ってことは、修理が完了するまでの繋ぎってこと?」

「そゆこと、で、別の艤装のガワだけ卯月のに変えて、あんたのだよーってしたわけ」

「隠す必要あったの?」

「あるよー、艤装とリンクするのに、『自分のじゃない』って思ってたら支障が出かねない。他人の艤装と接続するんだから、不確定要素は減らさないと」

 

 卯月は最初の頃を思い出していた。

 艤装を最初に装備した時のことだ。あの時体に違和感を感じた。今思えばあれも『他人の艤装』だったからだ。

 違和感がなくなっていったのは、卯月自身がその違和感に慣れていったからだ。

 

 その時北上が嘘をついたのはさっき言った通り。他人の艤装を認識したら、リンクができなくなる危険があるからである。

 

「ま、本来の艤装の修理の最近終わったし、遅かれ早かれ交換しよーと思ってたの」

「そもそもだけど、良く他人の艤装をリンクさせられたわね」

「いやぁ普通は無茶だよ? 一部のパーツをニコイチするのはあるけど、他人の艤装はそうそう上手く繋がらないよ」

 

 艦娘は艤装と一緒にこの世に顕現する。一心同体だ。それを他人に繋げようとしてもうまくいく筈がない。

 しかし稀に上手くいくケースがある。今回のもそうだ。だから北上は()()()()と言ったのだ。

 

「なんでうーちゃんは繋がったぴょん」

「近かったからだよ、他人つっても赤の他人じゃない。付き合いもあったし、身内のものだ。だから繋がった」

 

 つまり、面識のある身内(睦月型)の誰かということだ。

 卯月は少し考えて、ハッと気づいた。該当するのはたった一人しかいなかった。北上は少しだけ言い難そうに、艤装の元々の持ち主の名前を告げた。

 

「卯月が今まで使っていたのは、()()の艤装だ」

「……あいつの、か」

「神鎮守府跡地から菊月の艤装も、回収できたんだ。そっちは損傷が軽くてさ、卯月の艤装の修理が終わるまでの間、繋ぎに使えないかって話になったの」

 

 うんともすんとも言わなくなってしまった、元の艤装(菊月の形見)に目をやる。なぜ気づかなかったのか、ガワは変わっていても、菊月の艤装の名残があった。

 

「ついでに聞くけど、同じ艦(卯月)の艤装はなかったの? こいつとは別の卯月もいる筈でしょ?」

「ないんだよー、そもそも艤装だけ残ってるケースは稀なんだよ。沈んだ艤装をサルベージしてもだいたい重度の汚染が残っているし」

 

 卯月が菊月の艤装を得たことは、とてつもない幸運だったのである。

 同型艦の艤装が無事な状態だったこと、汚染も少なかったこと、無事リンクできたこと──全てが起こったからこそ、卯月は初めから戦えた。

 

 その事実を理解した卯月は、少し泣きそうになった。まるで菊月が応援してくれているような気がしたからだ。

 艤装が繋がらなくなったのは、自分の艤装が使えるようになったからだろう。それまで支えてくれていた。死んでも尚、傍にいてくれた。

 実際は偶然なんだろうが、卯月はそう信じたかった。

 

「お前、泣いてんのか?」

「はぁ? このうーちゃんは涙を流さないぴょん。んなカッコ悪いことする訳ないぴょん」

「お、おう、そうか」

 

 嫌悪感を抱く竹も、卯月の様子には若干引き気味だ。

 ただ、卯月の前科に僅かな疑問が芽生えた。

 松たちは卯月の前科が冤罪とは知らない。実際にやったと思っている。けれども友人の艤装を前に、目を腫らして泣きそうになっている卯月が造反者には見えなかった。

 

 が、そこはやはり卯月なのである。

 

「よし、改めて雑木林をぶっ潰すぴょん」

「なんだって?」

 

 振り返った卯月の顔からは、涙の跡があった。あったんだが、顔が邪悪に嗤っていた。自らの艤装を得た今、敵はいないと確信していた。

 

「オイオイオイこのうーちゃんはお前たちからの侮辱は忘れてないぴょん、今度こそ白黒ハッキリさせて絶望に落としてやるぴょん」

「こいつ、やっぱ、叩きのめさねぇと」

「そうね竹、雑木林って何度も何度も、侮辱してるのはどっちよ」

「勿論お前らぴょーん」

 

 卯月は案外──いや泊地棲鬼に対してあれだけ怒っているので意外でもないが──執念深かった。一度受けた屈辱はまず忘れない性格だった。

 折角芽生えた疑問は霧散し、松たちの嫌悪感は再び跳ね上がる。

 

「疲れた……」

「頑張れ頑張れ、あたしは応援してるよ」

「北上さん……」

「あんたが勝つ方に熊野と賭けてんだから、負けたら承知しないよ」

 

 クズしかいねえよこの前科軍団。その一因の満潮も例外ではないのだが、自分を棚に上げて満潮は嘆いた。

 

「あ、そうだ北上さん!」

「どうした卯月?」

「お前全身全霊で呪うから覚悟しとけぴょん」

 

 マジトーンで卯月は告げた。そういえば艤装の不調について聞かれて嘘を言った時、『嘘だったら呪う』と言われた気が。そのことを思い出した北上は、引きつった笑いを浮かべるしかなかった。

 

 その後、メンバーを入れ替えながら演習を行っていった。

 卯月が混じった途端殺意マシマシになってしまうが、それでもお互いの動きを理解し、把握することはできた。

 色々アレだったが、演習の目的は達成できたと言えよう。

 

 

 

 

 午後中は全て演習に費やした。その疲労を抜くため夕食後は完全なフリーになった。

 とはいえ、特にやることもない。

 これが普通の鎮守府同士ならコミュニケーションもあったが、如何せん前科戦線ではやりにくい。

 

 松たちは前科持ちに対して距離があり、前科組もわざわざカタギに関わろうとはしない。

 

 例外は那珂と桃ぐらいだが、あれは例外中の例外である。

 そんなことから、だいたいは風呂にのんびり入り、翌日の出撃に備えて早々に眠っていた。

 

 卯月も同じだ。前科組の中でも特に悪印象なので、かなり距離を置いている(卯月主観で)。

 演習でも割りと殴ったりぶったりできたのでうっぷんも晴れていた。またストレスを溜める理由もない。

 

 他のメンバー同様準備を終わらせて、ベッドに潜り込んでいた。潜っていたのだが。

 

「寝れんぴょん」

 

 意識が冴えてまったく眠くならない。このままでは絶対に寝れない確信があった。

 

 原因は自覚している。今日一日で感情が動きすぎたからだ。神元提督が松たちの鎮守府にいたこと、今まで使ってた艤装が菊月のものだったこと。更に明日は戦艦水鬼との戦い。

 

 どれも感情が激しく揺さぶられるものばかり。それを引きずっているのだ。

 

「だーめだぴょん、どーにもならないぴょん」

 

 仕方がないのでベッドから起きる。向かいのベッドには当然満潮が寝ている。近づいても起きる素振りはない。

 

「そうだ、ワサビをとってくるぴょん」

 

 満潮の目蓋に塗ってやるのだ。

 卯月は素晴らしい目論見を実行へ移すべく、夜の廊下へ繰り出した。調味料なら食堂に置いてあるはずだ。

 

 と、卯月は思ったものの、そう上手くいくものではない。

 

 食堂は開いていた。閉まってはいなかった。しかし人がいた。

 

「演習の様子は、こんな感じネ」

「ああ、このレベルであれば、戦艦水鬼討伐も問題なく達成できる」

 

 高宮中佐と金剛だ。明日の出撃について話し合っているのだ。よりにもよって中佐かよ、絶対に入れないじゃんか。卯月はガックリ項垂れる。

 

「ちょっと心配なのが、卯月のことデース」

「だろうな、奴の練度はまだまだ下だ。もっとも実戦経験が足りていない以上、やむを得ないが」

「演習の時もだけド、足を引っ張る事の方が多いネ」

 

 話は卯月のことへシフトする。聞き耳を立てていた卯月はまた項垂れる。

 知ってらぁ、練度が足りてないのは。

 

「艤装をチェンジした後は良くなったケド、まだまだって感じデース」

「大きな問題ではない。取り巻き撃破において卯月の支援は我々で行う。だが水鬼に狙われたらただでは済まない」

「オーケー、分断するよう徹底するネ」

「取り巻きは全面的に我々に任せろ……お前も分かったな」

 

 卯月はフルダッシュで逃げ出した。振り返らずがむしゃらに走り抜けていった。

 バレてました。ヤバイかも。

 

 と、逃げ出してもまだ眠気はやってこなかった。気づけば外に出ていた。どうせ眠れないんだしと、卯月は夜風に当たることにした。

 

 ブラブラと基地内を適当に歩き回る。

 そういえば、泊地棲鬼撃破からあまりのんびりする暇がなかった。なんやかんやでドタバタし続けてた。

 

 ちょっとだけだけど、こうなにもしない時間も大事だ。だからって報復心は消えないし、癒すは欠片もない。ただずっと怒ってたら疲れてしまうと卯月は知っている。

 

 気持ちの良い夜風に当たりながら歩いていると、ふと、見覚えのある場所に踏みいった。

 

「ここは……久々、でもないかぴょん」

 

 泊地棲鬼前日に発見した、誰かのお墓が安置された場所だ。相変わらず誰のかか分からないけど、もしかしたら墓じゃなくモニュメント的な何かかもしれない。

 

 卯月は少し考えて、正体不明の象徴に向かって手を合わせた。

 

「明日、みんなを殺したクソカスの親玉と戦うぴょん。とりあえず決着だぴょん。菊月が、うーちゃんの友達が託してくれたんだぴょん。仲間もできたぴょん、クズが多いけど……みんなと一緒に行ってくる、だから、見ててくれぴょん」

 

 誰だか知らんけど、多分良い人、良い何かだ。でなければお墓は残らない。

 残したいものがあるから、それはあるのだから。

 

「なにしてんだお前」

「びょぇあぁっ!?」

「うるせえ」

 

 後ろから突然声をかけられ卯月は前のめりにスッ転んだ。そして墓石に顔をぶつけた。

 

「ぎゃぁっ!?」

「あ、悪りぃ」

「殺してやるぴょん」

 

 振り返りながら卯月は竹を睨み付けた。なぜこんなところに竹がいるのか。出撃前夜はもう少しだけ続くのである。




艦隊新聞小話

 艦娘の使う艤装は建造もしくはドロップした時に、艦娘と一緒に顕現します。艦娘は単体では人間ですし、艤装は単体ではただの鉄塊。艦娘と艤装が接続することで初めて妖精さんたちが動きだし、『艦娘』として戦えるようになる――即ち一心同体ってことですね。
 ただこの艤装との繋がりも、特効や羅針盤と近い技術、つまり『縁』によって成り立っています。
 なので駆逐艦は戦艦の艤装は動かせませんし、逆もしかり。同じ駆逐艦同士なら多少はいけますが、それでも稼働率はガタ落ちします。唯一無二の例外は武蔵さんぐらいらしいです!

 あ、沈んだ艤装の再利用とか絶対ダメですよ?
 繋いだ瞬間深海棲艦化して鎮守府が壊滅した事例があるので。
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