前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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ラスダンなにあれ……先制雷撃四本……?


第47話 共闘

 戦艦水姫討伐任務前夜。感情が入り混じって寝付けなかった卯月は夜の鎮守府をウロウロする。その時久々に墓石を見つけ、明日の出撃を話していた。

 結果、石に向けて話すかなり恥ずかしい行為を、竹に見られてしまった。ついでにおでこをぶつけた。痛い。

 

「こんな時間になにしてるぴょん、夜間外出は違反だぴょん」

「お前は良いのかよ」

「道連れにしてやるぴょん」

 

 竹は心底めんどくさそうな顔していた。

 卯月は嬉しかった。

 やった嫌いな奴を不快にしてやったぜ。模範的深海棲艦の思考パターンである。

 

「で、なんか用かぴょん」

「お前が廊下をダッシュしてっから起こされんだよ間抜け」

「そりゃ悪かったぴょん」

 

 さすがに睡眠妨害は悪いことだ。素直に謝る。なお満潮にわさびを塗ろうとしてたのは例外だ。だって満潮だし。

 

「なにしてんだ? つーかこれはなんだ? 墓……にしちゃ名前がねぇな」

「なにかは知らんぴょん、なんとなく祈っているぴょん。見ててください頑張りますーって感じぴょん」

「なんなのか分からないのに、良くそんなことができるな」

「分からなくても良いんだぴょん」

「そうか」

 

 別にこれが何だって卯月からすればどうでもいい。雑に扱ってるわけでもないんだし。このお墓にどんな意味を見出すのもわたしの自由だ。

 

 卯月と竹は、二人揃ってそれを見ていた。いったいいつまでいるんだうっとおしいな。そう卯月が思い始めた頃、竹が口を開く。

 

「神補佐官は、お前を相当憎んでいる。当たり前だよな、お前のせいで仲間は死んで、補佐官も出世コースで転んじまった」

「ふーん、そっかぴょん」

 

 反応してはいけない。これが冤罪だと竹には知られてはならないのだ。卯月は無関心を貫く。

 

「だが、本当にそうなのか、分からなくなってきた」

「はぁ? お前バカかぴょん? うーちゃんは造反者。それが真実だぴょん」

「かもな、だけどよ、戦友の艤装を前に泣く奴が、根っからの極悪人とは思えねぇ。さっき祈ってる姿を見て、余計そう感じた」

 

 卯月は割と露骨に冷や汗をかき始めた。ここに来てから余り嘘をついていないせいだ。本来『卯月』が得意な嘘が苦手になりつつあった。

 

「まああれが演技で、俺たちの同情を引くためだってんなら、俺達がマヌケだったって話だ」

「へー、で、なにが言いたいんだぴょん」

「松姉や桃とも話した。で、お前を一旦、信用すると決めた……だがな」

 

 竹は卯月に顔を近づけ、脅すように告げる。

 

「後ろから撃ってくるような奴に、俺たちは背中を預けるって決めた。どれだけの覚悟かは分かるよな?」

 

 そんなの、言われなくたって分かっていた。

 

「もしもそれで、裏切ってみろ。その時は神補佐官に変わって、俺達がお前を八つ裂きにする」

「はん、裏切る? それは深海棲艦の仲間になるってことぴょん、絶対にありえないぴょん」

 

 妄言もいい加減にしてほしい。わたしが深海どもの下僕になるなんて天地が引っ繰り返ってもあり得ない。もしそうなったら自決するだろう、即座に。

 

「仮に深海棲艦になったとしても、この怒りで変異したとしても、うーちゃんは深海棲艦を殺すぴょん。深海棲艦を殺す深海棲艦だぴょん!」

 

 それはそれでカッコいいかもしれない。卯月は割とのんきしていた。

 

「何とでも言え、行動で確かめさせてもらう」

「どーぞどーぞご自由に、だぴょん」

「じゃぁな」

 

 竹は言うだけ言って、さっさと立ち去っていった。しかし演習以前のような、接触その物を否定する強い拒絶はなかった。ある程度は信用されたのだろうか? まあなんでもいいか。

 と思いつつも、卯月は少し嬉しかった。

 

 少し話して気が紛れたからか、一気に眠気が湧いてきた。明日も早いし寝よう。卯月は自分の部屋へ戻っていった。

 

 

 

 

 翌朝、まだ日も昇っていない早朝から艦隊は広間に集められていた。中央には少し大きなモニターが設置されており、海域のマップが表示されている。

 それを挟み込んで、高宮中佐と不知火、金剛が立つ。出撃直前のブリーフィングだ。

 

「どのような作戦かは概ね聞いていると思いますが、改めて周知させていただきます」

 

 カンペを見ながら不知火が話し出す。

 内容は本当に知っていたものだ。泊地棲鬼、駆逐棲姫のいた海域の『ボス個体』、戦艦水鬼の討伐を目的とした出撃。

 

 ただ、随伴艦の戦闘力が想定以上だったため苦戦が想定されていた。そこで随伴艦に()()特効を持つ卯月及び、前科戦線の参加を求めてきた。

 

 高宮中佐はこれを了承、海域調査は終わったが、引き続き出撃することに決まったのである。

 

 不知火はそこで話を区切る。球磨が首を傾げながら手を上げた。

 

「随伴艦が強いって言うけど、そんなに強いのかクマ? 金剛たちだけじゃ対処できないのかクマ?」

Unreasonableness(無理)ネ、だから頼んだんデース」

「それもそうかクマ」

 

 不知火がスクリーンの画像を変える。海域図から深海棲艦の写真に変わった。金剛たちが撮影した戦艦水鬼の随伴艦だ。写っているのはどれもイロハ級。姫個体はいない。

 

「見た感じだと、強そうには見えないけど?」

「強かったの! ホントだよ那珂先輩、桃たち以外のみんなはそいつらにやられたんだから」

「随伴艦に? 水鬼じゃなくて?」

「いえやったのは水鬼です、ただ随伴艦の妨害が激しかったのが一因です」

 

 桃の話を比叡がフォローする。直接ではないが、間接的に艦隊がやられる原因になったのだ。

 

「具体的に言うと?」

「まあ固くて早いのはともかく、なんか、やたらと攻撃が当たるんです」

「あんたらの練度不足じゃないの?」

「おいコラ満潮」

 

 あんまりな発言に卯月が突っ込んだ。ただその可能性は否定しない。言い方が悪すぎるだけ。それが致命的なんだけど。

 

「ありえないデース」

 

 満潮の考えは金剛が否定した。絶対にありえないと強く確信している言い方だ。自分の仲間にかなりの自信を持っているからだ。

 逆に、それだけの自信があっても、特効持ちに頼らないといけない敵なのか、卯月は少しだけ怖くなる。

 

「イロハ級ナノニ、alignment(連携)tactics(戦術)が高度に組まれてましタ。それにやられたんデース」

「その、金剛さんのお仲間は来れるのですか?」

「イエス、と言っても、水鬼までのルート確保までですガ」

 

 前回の戦いでのダメージがまだ尾を引きずっていた。戦いへの本格参戦はできない。

 それでは戦力不足ではなかろうか。不安そうな空気が立ち込めた。

 

「まあそこはNo problem! 最大戦力の私と比叡がいるデース!」

「その通りです! お姉さまと比叡がいれば、水鬼は恐るに足らず!」

「随伴艦がいないっていう前提条件つきだけどね」

 

 満潮はなにか言わないと気が済まないのだろうか。いやこれは満潮なりのジョークではないだろうか? 気づかなかったわたしが悪い。卯月は心から後悔する。

 

「ごめんぴょん、満潮」

「は?」

「大丈夫、お前のギャグセンスを分かってくれる人はいつか現れるぴょん」

「あんたわたしをバカにしてるでしょ」

「はいそこ私語禁止」

 

 不知火に言われて卯月は口を閉じた。哀れな満潮を見ると優しい気分になれる。露骨な見下しである。最低のメンタルをしていた。

 

「水鬼はすでに一度は撃破しています。また他鎮守府の部隊も多大な損害を追いながらも何度か撃破しています。あと数回沈めれば討伐できるでしょう。速やかな作戦遂行のため、不知火たち特務隊はあなた方を全力でサポートします」

「一つだけ、良いか?」

 

 竹が手を上げる。彼女は一瞬卯月を横目で見た。前ほどの嫌悪感はやはり感じられなかった。

 

「もしも、卯月が前科を繰り返しそうになったら、あんたらはなにか対処してくれんのか」

 

 とんでもない質問に場が凍りつく。

 卯月には信用するといったものの、無意識レベルで信頼できるとは限らない。心のどこかで警戒していたら上手く動けなくなる。

 竹は背中を『安心』して預けたかった。だから安心するための保険が欲しかった。卯月に対して信じると言ったのとは別問題である。

 

「この不知火が、監視としてつきます。万一貴女方に危険が迫った時には、不知火が対処します」

「できるのよね? 返り討ちにあったりは……」

「ありえません、不知火は圧倒的に強いので」

 

 卯月と満潮は顔を見合わせた。『ホントか?』という思いが滲み出ていた。無論戦闘力は分かってるが、ちょこちょこ高頻度で披露されるポンコツ具合を思い返すと、なんとも言えなくなる。

 

「わたしが保証する」

 

 不知火の発言を、高宮中佐が支持した。

 

「不知火であれば卯月だけではなく、前科持ちは全員対処できる。不知火だけではなく飛鷹も出撃する。二人がかりなら一切の不安はいらない」

「それでも、もしもが起きたら、なにか手はあるのでしょうか?」

「自爆装置を全員つけている。お前たちは先の出撃でこいつらの『首輪』を見ただろう。あれがそうだ。起爆装置は不知火が握っている」

 

 正規メンバー二人に加え自爆装置。前科組は信用されにくい。造反者の卯月は一層難しい。高宮中佐はその中で安心して戦ってもらうために、可能な対応は全てしていた。

 

 ここまで言わせといて、なお不安だというのは過剰だ。全く信用してないのと同じだ。

 金剛たちだけの問題ではない。彼女たちの提督の問題にもなる。

 

「我々の目的は、化け物の残滅だ。この部隊の存在自体に言いたいことはあるだろうが、その目的は変わらない」

「ここまで言わせちゃって、sorryネ。でもThank You。これでみんな安心して戦える」

 

 金剛に全員が同意した。

 疑惑はなくならないが今は信用できる。同じ目的のために戦える。それで彼女たちは自分を納得させた。

 

 過剰に見えるが、これが外から見た前科戦線の評価だ。

 どんな犯罪行為をしても、艦娘どころか人道に外れた行為をしても、実力があれば平然と免除する。そう見られているのである。

 

 むしろ、手伝ってほしいと言ってくるだけ、まだマシだ。本当に嫌悪する鎮守府などは会話さえ完全に拒否する。

 

「良い戦果を期待している」

「任せるネー!」

 

 高宮中佐と金剛の握手で、ブリーフィングは締め括られた。

 泊地棲鬼から続く戦いにケリがつく。卯月の体は震えていた。緊張か武者震いか。

 それとも、体に収まらない程の憎悪か。

 

 

 

 

 前回は緊急事態だったので、基地から直接出撃したが、今回は別に緊急ではない。

 なので泊地棲鬼の時と同じ、いつも通り(前科戦線限定)の出撃方法が採用された。

 

「いつもありがとうございます秋津洲の二式大艇へようこそかも!」

 

 ヘリからの空中降下である。

 輸送艇の格納庫に秋津洲の元気な声が響く。コンバットタロンは二式大艇ではないが、口に出すと狂気めいた目で詰め寄ってくるので、誰も言わないのである。

 うっかり口に出した金剛が犠牲になったが。

 

「コンバットタロンは二式タイテー? でも秋津洲のタイテーはコンバットタロンじゃないネ。タイテーって?」

「お姉さま、気を確かに!」

 

 狂気に当てられたのだ。可哀想に。そんなアクシデントがあったものの、移送は問題なく順調に進んでいた。

 

 だが、空中降下が無事にいくかは分からない。

 卯月にとっては久し振り……どころか二回目の空中降下。やり方はほとんど覚えていなかった。艤装にくっつく特殊なパラシュートを使うところまでは覚えているが、からだの使い方とかはもうサッパリである。

 

『今日はお客さん一杯で嬉しいかも!』

「まさか秋津洲さんの飛こ二式大艇に乗れるなんて、桃感激!」

「え? そうなの桃ちゃん」

「えー? 那珂先輩知らないのー? 遅れているなぁ」

「流行ばっかに乗ったアイドルってー、すぐ廃れるんだよー?」

 

 もはやこの二人のバトルには誰も関わろうとしない。別の世界が展開されている。勝手にやってくれと全員考えている。

 

「ねぇ松、秋津洲って有名なのかぴょん」

「外の鎮守府じゃ有名よ秋津洲さん。操縦技量が凄いから、大本営のお偉いさんや政治家の御用達らしいわ」

「へー、あんな狂人でも、凄いとこあるぴょん」

『狂人言わないでー、聞こえてるよー』

 

 そう何てことない話をしている内に、作戦海域が近づいていた。秋津洲の連絡を合図に各々準備を始める。

 

 卯月は、改めて自分自身の艤装を見つめた。

 まさか今までのが菊月の艤装とは思わなかった。あれにも愛着はあったが、自分のものとは違う。艤装は艦娘の半身と言える。ほかより愛着が沸くのは当然だ。

 

「卯月さん、これもお忘れなく」

「……自爆装置かぴょん、分かってるぴょん」

「万一の時は、不知火は躊躇なく起動させます。お忘れなく」

 

 ありえないが、そうしてもらえるとありがたい。深海棲艦側につくぐらいなら死んだ方が何億倍もマシだ。

 

「それと、今更ながらこれを」

「薬?」

「注文した向精神薬がギリギリで届いたので、今使えば、水鬼との交戦時に丁度効果を発揮するとのことです」

 

 あくまで気休めなので、効果の弱い薬らしい。それでも十分だ、多少でも怒りにくくなればそれで良い。

 卯月は自分の艤装をつけ、自爆装置の首輪を装着する。最後に神提督から貰ったハチマキで髪の毛を纏めて、準備完了だ。

 

「金剛さんの仲間が、戦艦水鬼までの道は拓いてくれています。一気に中枢まで突入、速やかに水鬼を叩きます」

「場所はわたしが探るから、皆お願いね」

 

 飛鷹の索敵なら心配いらない。空母の索敵能力を疑う者は誰もいない。

 前科戦線はほぼフルメンバー。ポーラ(酔いどれ)だけお留守番である。もしもの為の防衛戦力は一隻は必要である。

 

 更には金剛たちもいる。水鬼に負けるイメージは全くない。

 必ず勝つ。絶対に殺す。

 仇をとったら、神提督は喜んでくれるだろうか。再会も難しい身だが、そう思うと気合が上がっていく。卯月のやる気は最高潮になっている。

 

「時間です、各員降下!」

 

 不知火が合図を出し、次々とヘリから降下していく。降下経験のない金剛たちには前科戦線のメンバーが助けていた。

 やり方をほぼ忘れていた卯月だけ、格納庫に棒立ちだった。

 

「あれ、うーちゃんは? 誰か手伝ってくれないぴょん? これで二回目なのに」

『一度経験してれば十分かも、秋津洲離脱時間だからさよならかも』

「え、なんで急に上昇するぴょ──」

 

 コンバットタロンが急激に傾いた。卯月は格納庫から落下した。秋津洲はタイムスケジュールに厳しい性格なのを、卯月は忘れていた。

 

「ああああ糞だっぴょおぉぉぉん!」

『がんばるかもー、狂人秋津洲が応援してるかも』

「根に持ってたチクショウぴょん!」

 

 悲鳴と涙を空にばら撒きながら、卯月は水鬼の海へまっしぐらに落下していくのであった。




艦隊新聞小話

 前科戦線もとい第零特務隊ですが、そのルーツはかなり初期……艦娘出現からの黎明期にまで遡ります。
 当時はまだ、艦娘の運用方法が全く確立されていませんでした。
 食事を与えなかった場合の影響は人間とどれぐらい違うのか? どれだけのダメージを負えば轟沈するのか? 轟沈したらサルベージはできるのか? 痛みへの耐性はどれぐらいか?
 黎明期の戦争は悲惨そのものでした。大本営はいかなる犠牲を払ってでも、艦娘の確実な運用方法を確立させなければならなかったのです。
 そんな非人道的実験を行う場所として、人目につかない場所が選ばれた……前科戦線の使っている基地は、その為の場所だったようです。
 やがて運用方法が確立し、実験の必要がなくなっていき、前科戦線としてのひな型が当時の責任者主導で作られて行ったとか。あ、高宮中佐より前の人ですからね。
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