前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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タイトルの時点で3択に絞られているという事態。
そんなことより8周年の卯月書き下ろしを見ましたか。あれはきっと改二のお告げに違いない。


第5話 泥酔

 前科戦線に着任するかどうか、改めて聞かれたわたしは、着任を選んだ。

 地獄には違いないけど、生きることができる。

 

 わたしは生きたいのだ。

 また神少佐に会うため、そして深海凄艦に報復するために。

 この前科戦線で戦うと、もう決めたのだから。

 

 高宮中佐に着任を宣言したあと、わたしはすぐに眠ってしまった。

 なにせ半年間昏睡してたのだ、少し動くだけでもからだの負担は大きい。

 

 不知火に車椅子で運んでもらい、医務室のベッドに転がり込む。

 詳しい話諸々は、また明日してくれるとのことだ。

 急激に押し寄せる疲労に身を任せて、わたしは一瞬で眠りについた。

 

 

 

 

 その夜、夢をみた。

 見知った仲間たちと、間宮さんの朝ごはんを楽しむ。これは、前の鎮守府の記憶だ。

 

 このあとは、いつもどおり訓練に勤しむ。

 船のときと、人の体では戦い方がまるで違う。センスのある艦娘だと数日で慣れるらしいが、あいにくわたしにセンスはなかった。

 

 それでも一ヶ月後やれば、基礎訓練は終わる。

 ここからは、戦闘技術の向上がメインだ。今日からその訓練をする予定だった。

 

「卯月、提督が呼んでいる」

「提督が?」

「出撃だそうだ」

「ってことは、初陣かぴょん!」

 

 あわただしく、菊月と一緒に執務室に入る。

 いつもと違う、どこか緊迫した空気を感じる。神少佐は地図を広げて、一点を指差す。

 

「鎮守府近海に小型深海棲艦を発見した、駆逐艦数隻を軽巡一隻が率いている」

「珍しいな、こんな近くまでくるのは」

「本隊からはぐれたんだろうね。なんにせよ、卯月の初陣にはちょうど良いと思ったんだけど、どうかな?」

 

 遂に、きた。

 守護者としての使命、睦月型の力を見せる最初の戦いだ。

 

「うーちゃんにどーんと任せるぴょん!」

「頼もしいかぎりだ、でも、無茶は駄目だよ、分かっているね」

「当然、命大事に、だぴょん」

 

 戦闘訓練だけじゃない、座学もやった。

 まず教わるのは、『轟沈してはならない』原則だった。

 

 恐ろしいことに、艦娘が沈んでしまうと、そのまま深海棲艦に取り込まれてしまうのだ。

 開戦当初は知られておらず、それはもうボッコボコにされたらしい。

 

 だからいま、艦娘を沈めるような戦法はNGになっている。

 そんなことをする提督はクビ、どころか利敵行為で始末されることもある。それほど、深海凄艦は恐ろしい敵なのだ。

 

「万が一もおこらないように、護衛の子もつける。安心して戦ってきてほしい」

「了解ぴょん」

「それと、ちょっと良いかな?」

 

 手招きする神少佐に近づくと、なにやら白い布を手に取る。そしてわたしの右肩に結び付けた。

 

「これは?」

「願掛け……と言えば良いのかな、みんなしてるだろう? 帰ってこれますようにっていう願掛けだよ」

 

 そういえば、間宮さんも菊月も、同じものをつけていた。

 ようするに、決戦のときつけるハチマキみたいなものか。悪い気はしない。なんだか、やっと真の意味で、仲間になれた気分だ。

 

「提督、時間は大丈夫か」

「そろそろ、いやピッタリだね。艤装の準備もしてある、訓練の成果をぼくたちに見せて欲しい」

「ふっふっふ、目ん玉飛び出る戦果をあげてくるぴょん!」

「軽巡と駆逐艦しかいないがな」

「菊月はちょっと黙ってるぴょん」

 

 艦種の問題ではないのだ、そうに違いない。

 とにかく、これが初めての出撃だ。緊張以上に胸が高鳴る。工廠への廊下を走るわたしのこころは、これまで以上に昂っていた。

 

 どんな敵にも負ける気がしない、訓練で身に着けた自信に押されて、わたしは海へと飛び出す。

 

「駆逐艦卯月、出撃ぴょ──」

 

 目の前が真っ暗になった。

 

 

 *

 

 

「ッ!?」

 

 バッと目を開ける。さっきまで広がっていた海はない。

 装備していた艤装も消えている。というか、仰向けで寝ている。制服ではなく、白い病人服を着こんでいた。

 

「ゆめ、かぴょん」

 

 そう自覚すると、だんだん記憶が戻ってくる。

 ああそうだ、わたしの記憶は、あそこで途切れた。パソコンが落っこちたように、いきなり舞台の暗幕が降りたように。

 

 また幕が上がった時には、造反の罪で解体寸前だったことも。不知火に助けられて、前科戦線に着任したことを思い出す。

 ここは施設の医務室だ、昨日高宮中佐に改めて宣言して、そのまま爆睡してしまったんだ。

 

「こっちが夢なら良かったぴょん……」

 

 前科戦線に着任したのが悪夢で、神少佐のところで活躍する方が現実じゃないかと、今でも割と本気で思っている。

 

 しかし、現実だとは理解できている。そうでなければ、この胸の()()()()を説明できない。

 

 記憶も実感もないのに──確かに、憎悪だけは感じられるからだ。

 

 仲間を殺されたことへの怒りがある。記憶がなくても、それは消えていない。

 この憎しみが、現実だと証明している。まあそれでも、現状を信じ切れないわたしもいるんだが。

 実感が持てないのが、けっこう大きく影響している。

 

「うん、やっぱり夢に違いないぴょん」

 

 もう一回寝て起きたら、変わっているかもしれない。卯月は速やかに毛布を被る。

 

「おやすみなさーい」

「んなわけないでしょうが」

 

 速やかに毛布を引っぺがされた。不知火だった。

 

「酷い、悪魔だぴょん!」

「今日から忙しいんです、起きるぐらいはできますよね」

「うっ! 持病の冷え性が……」

 

 チラッと不知火を見る。

 

「…………」

 

 小動物なら目力だけで殺せそうだ。

 卯月は名の通りウサギ、小動物である。卯月は不知火に睨まれる。

 キュッと心臓が締め付けられる、生命の危機が迫っていた。

 

「おはようございますぴょん、今日も元気に頑張るぴょん」

「よろしくお願いします」

 

 なんとかからだを起こすも、からだのあちこちからピキピキと軋む音がする。

 半年間寝ていたのだ、からだもかなり鈍っている。まずは体力を取り戻さないといけない。

 

「どのくらい動けますか」

「……かなりキツイっぴょん」

「やはり、ですか」

 

 ぶっちゃけ立つこともままならない。

 顔を洗うどころか、トイレも難しい。かなり困った状態だ。時間的にも、もよおしておかしくない。いったい、どうすればいい。

 

「しばらくは補助が必要ですが、ずっとわたしがいることもできないですし」

「秘書官の仕事ぴょん?」

「ええ、そうです。まあ今日ぐらいまでなら時間はありますので、おいおい考えましょう」

「ほーい、で今日はなにするぴょん」

「まずは挨拶ですね」

「むう、清廉潔白を地で行く正直者うーちゃんが馴染めるか……」

「行きますね」

 

 不知火の目が冷たいのは気のせいだ。

 実際、前科持ちの艦娘とやっていけるかは不安がある。

 まあ、当たって砕けるしかあるまい。卯月と不知火は、医務室の扉を開く。

 

 なんか床に、全裸の女性が転がっていた。

 

「……うん?」

「あ~、シラヌイじゃないですか、Buona serata(こんばんは)~」

「朝です」

 

 気の抜ける間延びした声で、全裸の女はワイングラスを振る。

 空っぽだ。

 泥酔しているのは明らかだが、いやだからって全裸になるか普通。

 

 そこで卯月は冷静さを取り戻す。

 人と考えるから混乱するのだ。

 艦娘は元々軍艦、服なんて着ない。つまり彼女は、より元に近い存在ということだ。

 卯月は納得した。

 

「この物体も前科持ちかぴょん?」

「いやせめて生き物と認識してください」

 

 不知火に指摘によって、卯月は認識を改める。

 信じがたいが、これは真っ当な艦娘らしい。

 全裸だが。

 始めて会う仲間一号ということだ。

 全裸だが。

 

「あれぇ~、知らない子がいますね~、どなたでしょ~か?」

「半年前からいましたが」

「そうでしたっけ、ポーラ、忘れちゃいました~」

 

 この露出狂はポーラというのか。

 名前からして海外の艦娘だが、そんな先入観は簡単に吹っ飛ぶ。

 顔を赤らめ、二へラと笑いながらこちらへ這いつくばってくる。酔い過ぎて立てないのか。いったい何時まで飲んでいたんだ。

 

Buongiorno(おはよう)、わたしはポーラって言います~。あなたは誰でーすか~?」

「わたしは睦月型の卯月だぴょん」

「ウヅキ、ですね」

 

 ポーラはフラッフラの千鳥足で、なんとか立ち上がる。あいさつぐらいはちゃんとする気らしい。ちょっとだけ安心した。

 いくら前科持ちと言っても、そんな常識・礼儀もなかったら色々困る。

 

「ポーラ、覚えました、よろしくお願いしまオエッ」

 

 突発的に、赤らんだ顔が青くなった。

 

 爆発するまで、一秒もかからなかった。

 ポーラの口から、虹がスプラッシュする。不知火が直前でどついたものの、すべては回避できなかった。

 

 ようするに、ちょっとかかった。

 

「……おい」

Scusa(ごめんなさい)~で、でもポーラのせいじゃぁないです」

「じゃあなんのせいぴょん?」

「この体ですよ~、呑むと吐く人間の体が悪いんですよ~」

「片付けはしてくださいねポーラ」

 

 不知火の顔は見えなかった。

 けどポーラの顔がそりゃもう真っ青になっていたので、察することはできた。もちろん止める気はなかった。

 

「お風呂行きますか」

「わあい、うーちゃんお風呂大好きぴょん」

「わたしもです」

「あ、ポーラもです~」

 

 わたしたちは速やかにお風呂へ急行する。後ろから聞こえるポーラの声は気のせいだ。いや、そもそもポーラというのは、わたしが生み出した幻覚だったのかもしれない。可能性は高いだろう。

 

 だが、かかった液体が、現実だと突き付けてきた。あれが前科持ちの仲間という訳だ。まじかよ。

 

「あんなんばっかぴょん?」

「あれは最悪のパターンです、他はマシです」

「どのくらい?」

「……7.7ミリ機銃と12.7ミリ機銃ぐらいは違います」

 

 誤差じゃねえか。人間基準なら大きな差だが、艦基準だと誤差でしかねぇ。

 

「彼女はまあ、見ての通りアルコール中毒なので。あとは脱ぎ癖があるぐらいです」

「それを最悪って言うんだぴょん」

 

 初対面でシャワー(比喩)をかけられて良い印象があるわけない。いやもうホント最悪である。

 

「あれ、それだけじゃないぴょん?」

 

 アルコール中毒は病気だ、前科ではない。ここは前科戦線であり、病院船ではないのだ。まあ、病院船が逃げ出す気もするが。

 

「まあ、酔っぱらって暴力沙汰になったとか、露出で問題になったとか──」

「密造です」

「……ああ、梅酒とかかぴょん」

「いえガッチガチの、ワインとかウイスキーとか」

「生まれる時代間違えたんじゃないかぴょん?」

 

 禁酒法時代のアメリカでもあるまいし。そもそもなんで買わないで自分で作ろうと思ったんだ。不知火に聞くと、うんざりした様子で答えてくれた。

 

「飲みすぎて金が尽きたからです。なので自分で作ったそうです」

「クズだったかぴょん」

「いえ、それだけなら謹慎処分ぐらいだったんです。ただ密造が原因で……」

 

 ここ前科戦線は、解体寸前の重罪をおった艦娘しかいない。

 言っちゃ悪いが、密造はそこまでいく罪じゃないそうだ。謹慎とか減俸が打倒なところ。つまりポーラは、それ以上の何かをしているのだ。

 

「鎮守府爆発させたんです」

 

 どうやらわたしの耳が悪いようだ。酒作ってて鎮守府爆発なんて、何の話やら。

 

「作った酒の度数が高すぎて、気化炎上からの爆破沙汰を起こしたんですよ。鎮守府の四分の一が吹っ飛びました」

「どんな酒を造ったんだぴょん、どんなのを!」

 

 もう駄目だった。

 前科戦線送りしかなかった。

 テロを疑われてもおかしくないぞ。いや、実際疑われたに違いない。だからこんな地獄行きになっているのだ。

 

「一応鎮守府の端っこでやっていたので、怪我人はポーラ自身を除いていなかったんですが」

「許される訳なかったから、懲罰部隊行きかぁ」

「そういうことです、彼女の前科は『密造』及び『施設爆破』です」

 

 納得いった。爆破テロもどきをおこして、お咎めなしは無理がある。

 しかし、そんな経緯で送られたのに、あいつには酒を止めようという感じが全くない。現状を正しく理解しているのかも分からん。

 

「あれ、反省しているかぴょん?」

「少なくとも爆破事故は起こしてないです。ただ御覧の通り勤務態度がアレなので、お勤めの期間はほとんど減っていません」

「そんなことだと思ったぴょん」

 

 結局、アルコール中毒が治らない限りはどうにもならないのだ。卯月はわずかに同情した。病気は仕方がないのだ。

 

「入渠でアルコール依存症は治ってるんですけどね、肉体、精神依存どっちも」

 

 プッツンと音がした。主に吐かれたことへの恨みだった。

 

「……なんで解体しないぴょん?」

「戦力としては使えるからです」

「さいでっか」

 

 マジで、ここで戦うの?

 今更ながら卯月は絶望していた。どいつもこいつも前科持ちと言っていたが、しょっぱなから飛ばし過ぎていた。

 

「おそうじが、終わりました~」

 

 またアレが現れた。やはり全裸のままだった。ぶっちゃけ見るに堪えない。今気づいたがとんでもなく酒臭いし。

 

「まだ服着てなかったんですかあなた」

「ど~せお風呂入るんですし~良いじゃないですか~」

「良くないです」

「そんな~、これでもポーラ反省してウッ」

「二度目は本気で怒りますよ……?」

 

 他は多少マシとはいえ、大差ないに違いない。

 

「うーちゃん帰りたいぴょん」

 

 偽りなき本音だった。

 楽しいですと嘘を通せるほどわたしは強くなかった。

 ここは前科戦線、吹き溜まりの行きつく底の底。天井を見上げる卯月の目は死んでいた。

 あとポーラは結局吐いた。




ポーラの扱いがアレな気はしますが、元々ぶっ飛んだキャラに前科を加えるとなると、ああなるしかないと思います。
なお前科戦線にザラ姉さまはいません。
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