遅れたけどおめでとうございます。
折角なので、こっから連続投稿しちゃいたいと思います。
金剛たちと戦艦水鬼が戦いを繰り広げる裏で、卯月たちと顔無したちが激突していた。中口径主砲と小口径主砲が飛び交い、大小様々な水柱が乱立される。
「そこだ! 死ね、沈め!」
卯月の攻撃が、偶然死角から放たれた。
反応が遅れた顔無しが、攻撃をくらう。装甲で防いだものの、亀裂が入った。
特効は健在だ。前の出撃と同じ、顔無しに対して『特効』がある、威力が何倍にも上がる。
だが、まったく嬉しくない。仲間の死体を媒介にした繋がりなんて反吐が出る。
「待ってて、すぐに殺してあげるぴょん」
顔無しに対して、卯月ができることは、それだけだ。一刻も早く沈めて、解放しなければならない。
視界に入れてるだけで、発狂しそうになる。主砲を握る力が強くなる。
『お前 が殺した のに』
幻が、耳元で囁いた。
「──うるさいっ! 全部、水鬼のせいだぴょん!」
悪夢を振り払おうと、更に攻撃を振り撒く。卯月は一瞬錯乱しかけた。隙を見せた獲物に、顔無したちが一斉射を放つ。
雨霰のような砲弾が迫る。
爆音に気づき、背筋が凍った。回避できない。隙間がない。
その弾幕へ、球磨が主砲を向けた。
「卯月、そこを、動くなクマ!」
言われるがまま立ち止まる。その攻撃が、弾幕の一部を弾き飛ばす。
そこが隙間になった。弾幕に穴が空き、潜り抜けることができた。
仕留め損ねた顔無しは、すぐに追撃をしかけようとする。
「させないわよ、全機爆装、さあ、飛び立って!」
リロードの隙を突かれた顔無しは逃走する。しかし、艦載機がしぶとく追い回す。
前科メンバーで、最大火力を出せるのは飛鷹だ。顔無しでも耐えられない。
だから、庇うように、戦艦の顔無しが現れた。
「ル級flagshipかクマ!」
「普段はただのイロハ級、だけど……!」
そもそも戦艦だ。それだけで強い。それが顔無しに変異している。
ル級の攻撃は、ほんの一瞬で飛鷹に迫った。
すぐに身体を捻り回避する。風圧で艤装が軋む。
「凄い、威力ね!」
制空権を担う飛鷹が、一番危険と判断したのだ。ル級が次々に砲火を浴びせかける。
視界が埋まるような弾幕を掻い潜り、艦載機を飛ばし続ける。長年戦ってきた彼女にとっては、ありふれた芸当だ。
だか、そうなれば、他の顔無しが動き出す。
戦艦の砲撃が作る爆発や水柱を盾に、砲撃を放ち、魚雷を密かに放つ。
「戦艦級は、前はいなかった気がしますが!」
「水鬼に呼応して、イロハ級も強化されているのでしょう」
「
いつだって戦艦は面倒な相手、内部にダメージを与えても、大きいせいで中々沈まない。狙撃手からしたら最悪だ。ポーラはやる気なさげにぼやいた。
だが、やることは変わらない。頭数を減らすのは戦いのセオリーだ。攻撃から逃げつつ、顔無しを沈める。できないことはない。
爆炎で視界不良なのは相手も同じ。熊野とポーラは狙いを絞り、追い込むように砲撃を重ねる。より飛鷹に近いところへ、より弾幕が激しいところへ──誘導されていると気づき、向きを変えた時だった。
「手遅れなのよ、アンタは」
満潮が現れ、主砲を突き付けた。
向きを変える為、速度を落としていたから、回避できない。トリガーが引かれ、爆炎が視界を覆った。
「なっ!?」
その顔無しは死ななかった。
満潮の前には、ダメージの入った、別の顔無しが立ち塞がっていた。攻撃から庇ったのだ。
「仲間を、守ったって言うの!?」
二隻の顔無しが、逆に攻撃を仕掛けてきた。逃げながら、満潮は気持ちの悪さを感じる。
深海棲艦が仲間を護るなんて。
艦娘を取りこんだ影響なのか。そんなものは仲間意識ではない。ただの真似事だ。
そして、満潮以上に、キレているのが、卯月だった。
「ふざけんなぴょん」
満潮に気を取られていた隙を突き、卯月の攻撃が、守った側の顔無しに直撃した。
傷が重なり、装甲が砕ける。
距離を離そうとするが、ダメージのせいで速度が落ちる。攻撃を更に重ねる
しかし、それ以上は破壊できない。内部骨格が前より強化されている。
だから背中を、誘発材ナイフで切り付けた。
傷口が泡のように膨れ上がる。再生能力が暴走して、爆発する。剥き出しになった体内へ、主砲を捻じ込む。
「お前が、お前達が、化け物が、艦娘らしく、すんなぴょん!」
体内に直接撃たれたら耐えられない。火を噴いて沈むところに、更に攻撃する。
「死ね、死ねっ、死ねっ!」
何度も何度も撃たれ、自爆する暇もなく、木端微塵になった。残骸も沈んで、やっと攻撃を止めた。
息を荒らげながら、怒りと憎悪に表情を染め上げる。
ここまでキレるのは、艦娘らしい行動が、認められないからだ。死んだはずの仲間が、艦娘のように、庇ったり助け合うのが許せない。まるで、生前の仲間を侮辱しているように、思えるから。
実際は、取り込んだ艦娘の行動パターンを、模倣しているだけだろう。それでも侮辱に変わりはない。そうに違いない。憎悪に壊れていく思考では、そうとしか考えられない。
「無駄弾を使わないで」
「うるさい、半端な殺し方じゃ、自爆するだろぴょん」
可能性はある。満潮は、卯月の行動を否定できない。
だが、これで、暴走していないと言えるのか。
満潮はそうとは思わなかった。こんな不安定な兵士は普通死ぬ。特効の補正で、助かってるようなものだ。
警戒する満潮を他所に、卯月は、戦艦の顔無しを睨む。
そいつは爆撃から仲間を庇うように、強烈な砲撃を浴びせかけていた。満潮にも、仲間を
「まさか」
卯月は、突撃をしでかしていた。
「満潮、行って下さい」
「わたしが!?」
「命令です」
「クソが」と叫びながら、満潮は卯月を追い駆ける。いくら特効持ちでも、戦艦の攻撃を喰らったら死ぬ。護衛として付いていけということだ。
なんて面倒な。耐えかねた満潮は叫ぶ。
「あんたなんかが突撃して、どうなんのよ!」
「戦艦を殺せば、飛鷹さんが動けるぴょん! 特効があるから、殺せる、これが最適解だぴょん!」
仲間に迷惑をかけたくない──その思いは、とっくに憎悪に塗り潰されていた。
なぜ、ここまで怒り狂えるのか。
命令を聴かない奴なんて、邪魔なだけだ。
*
戦艦へ襲い掛かる卯月を眺め、水鬼は呆れかえる。
「ヤッパリ、アノ子ハ、私ニ隷属スベキヨ」
「世迷い事を!」
駆逐隊総がかりで、雷撃を放つ。金剛たちの砲撃で逃げ道は塞いである。
だが、艤装の剛腕が海面を叩き付け、小規模な津波を起こした。魚雷が引っ繰り返り、竹たちの方へ進路を変えた。
「嘘ー!?」
「デタラメか!?」
まさかの反撃に逃げ惑う松たちを、狙い撃とうとする。それを金剛と比叡が止める。今、彼女達がやられるのは不味い。身を挺してでも、駆逐隊を守らなければならなかった。
「残念、失敗ネ」
「仲間はやらせません!」
「ソレハ、夜戦ノ為?」
比叡は言葉を詰まらせた。答えを言っているようなものだった。
「ソウヨネ、壊ヘ至ッタ私ヲ沈メルナラ、ソレガ一番、確実ダモノ」
「私たちの
「実際、ソウジャナイ」
何発か当たっていた。さすがに戦艦の速度では、回避できない攻撃がある。
しかし、艤装にも本体にも、掠り傷しかない。金剛たちの攻撃では、トドメを刺せないと、証明されていた。
「ツマリ、彼女達ヲ片付ケレバ、私ノ勝チ」
「貴女なんかに、私たちは沈められません!」
「ソノ台詞ハ、生キ残ッテカラ、言ッタラドウカシラ?」
戦艦水鬼の艤装が、唸り声を上げて動き出す。
主砲、副砲、機銃の全てを動員した一斉射。やっていることは前と変わらない。だが、密度が桁外れに上がっている。
金剛たち藤提督の艦娘は、大規模作戦への参加が初めてだ。
つまり、追い込まれた姫級──『壊』との交戦は、初めてだった。提督を含めて、まだ、戦い慣れていないのだ。
それでも、普段通りなら、最悪撤退でも構わなかった。また来れば良いのだから。しかし既に、作戦のリミットタイムは近づいている。もう一度来るだけの、時間的余裕はない。
失敗したって、提督が首になる訳でも、鎮守府が解体される訳でもない。だが、初参加の作戦が失敗するかもしれない。そのプレッシャーは、確かに彼女たちの動きに現れていた。
「ソコヨ」
金剛の動きが、ほんの一瞬、プレッシャーで鈍った。
砲撃が叩き込まれる。足が固まり、咄嗟に逃げられない。装甲を正面に回して、防ぐしかない。
艤装が変形し、巨大な盾が形成された。
「ぐうっ……!」
だが、防ぎきれるような威力ではなかった。踏ん張りきれず、紙切れのように吹っ飛ばされる。
「お姉さま!」
「比叡、
「余所見ハ禁物」
動揺した比叡が狙われた。一撃で死を齎す攻撃が、真正面から飛来する。
バルジで防いでも、衝撃波は防げない。ダメージは不可避だ。
ならば──
居合い切りのように、艤装に手を添える。
「これが、比叡の、隠し玉!」
手を振るうと、艤装が分離し、一振りのブレードが『抜刀』された。
その一振りが、迫る砲弾を、見事に切り落とした。
「切ッタ。ソンナギミックガ」
まさか切られるとは。
想定外の攻撃に水鬼は驚く。
「追撃、行きます!」
立て続けに砲撃が放たれる。水鬼は冷静に後退しながら、攻撃を叩き落とす。
砲弾が爆発し、視界が塞がれる。
「更に! 一撃です!」
視界不良を突いて、比叡が懐に潜り込んだ。高速戦艦の速度だから、後退する敵に追従できた。
ブレードが
「ヤルワネ、デモ、無防備ヨ!」
殴り飛ばそうと片腕を振り上げる。そこへ金剛の砲撃が命中した。
「命中デース……!」
金剛の艤装からは黒煙が上がっている。中破以上の損害がある。そんな状態でも正確に当ててきた。ダメージはないが、動きを止めるには十分だった。
「でりゃぁぁぁぁ!」
比叡が、更に、渾身の力で叫ぶ。
ザンッ──と、鋭い音が鳴る。
丸太よりも太い、獣型艤装の剛腕が、両断された。
「コレハ……」
切断面から火花が飛び散り、オイルがポタポタと零れる。いつ引火してもおかしくない危険なダメージ。しかも内部構造が剥き出し、狙われたら不味い。万一夜戦に成った時、かなり不利になる。
「やりましたよ、お姉さま!」
「Nice! このまま、一気にAttackネ!」
ここぞと言わんばかりに、金剛たちの攻撃が激しくなる。反撃をしても姿勢が崩れ、狙いが定まらない。片腕を失ったせいで、バランス感覚が変わっている。
「仕方ナイ──再生シマショウ」
水鬼の声は、金剛たちにも届いた。
なんて言った──再生?
艦娘の攻撃なら、簡単に再生できない。だができないことを言うような相手ではない。嫌な予感が駆け巡る。
「自爆」
戦場が、突然輝いた。
二隻の戦艦級と交戦していた卯月は、意外に善戦していた。砲撃をギリギリで回避し、特効付きの攻撃を浴びせる。その度に装甲は砕け、着実にダメージが累積する。そうなったら、満潮の攻撃も通る。
少なくとも、卯月が攪乱しているおかげで、後方の飛鷹は楽になっていた。
だが、それでも、これが良いとは、満潮には思えない。
「うがぁぁぁ!」
知性の欠片もない絶叫を上げて、卯月は突撃を繰り返す。艦娘とは呼べない。いや深海棲艦とさえ呼べない。これではただの獣だ。
それでも戦えているから、文句も言えない。こんなのと一緒に戦わなきゃいけないのか。嫌な現状に苛立つ。そのストレスは敵にぶつけた。
突如、背後から、爆風が押し寄せた。
「ぴょんっ!?」
「なに、今のは!?」
二人同時に振り返ると、後ろが、目が潰れそうな程の光に包まれていた。
あの閃光、この衝撃。
まさか、自爆したというのか。
と、言うことは。
真正面にいた、戦艦が、急速に光り出す。
「ざ、ざっけんな!」
すぐに全力で逃げ出した──直後、二隻のル級は自爆した。
ただの自爆とは訳が違う。威力の範囲も、桁外れだ。明らかに別の力が働いているとしか思えない。
直撃こそ免れたが、爆風に吹き飛ばされた。海面を何度も転げまわったせいで身体が痛い。
「なんで、自爆を……」
今、自爆する理由はなんだ。水鬼が命令したのは確かだが。
戦艦水鬼を、遠くに見つけた。艤装の片腕がなくなっている、深刻なダメージに、卯月は喜んだ──のも、つかの間だ。
紅く染まった海面が波打ち、水鬼を中心にして波紋が浮かぶ。纏う赤いオーラが強まる。
「フゥー……ハァッ!」
艤装の腕が、ズルリと生えた。
再生しない筈の腕が、あっさりと再生した。
「……なに、今の」
満潮は絶句する。戦闘中にも再生する姫級なんて、聞いたことがない。
しかし、卯月は、その所業を理解していた。
「取り込んだんだ」
「吸った? なにを……いや、まさか、あの自爆」
「みんなの命を、取り込んだんだぴょん……!」
バカな、そう否定しかけるが、そうとしか考えられない。
破壊された腕部再生のために、配下の力を取りこんだのだ。
荒唐無稽極まっているが、そもそも連中は、沈んでも海のエネルギーで復活する連中だ。あり得ない話じゃない。
「やりやがったな……良くも、良くもッ! また、皆を、弄んで、命を侮辱してっ!!」
心にヒビが入った。理性の壁が壊れる、卯月が破壊される。今までとは比較にならない憎悪が溢れ出す。
『水鬼を殺す』。
それ以外の感情が塗り潰される。
「──殺ス」
機械のような声に、仲間である筈の満潮は、戦慄した。
「満潮さん!」
「不知火!? 大丈夫なの!」
「そんなことよりも、
取り付けておいたセンサーが、確かに反応を示していた。
ブラックボックスが、たった今、起動したのだ。
不知火の叫びに、卯月は立ち止まった。
「大丈夫、分かってるぴょん、敵は、水鬼だぴょん」
仲間を安心させるために、卯月は答えた。脚部艤装のコーティングは機能している。深海に意識を蝕まれずに済んでいる。しかし、今の一言は、最後に残った、僅かな『心』だった。
艦娘としての心が消える、誰かを思うが破壊される。
そして、憎悪だけが残った。
「沈メ」
感情を全部破壊するような怒りが、身体を勝手に動かす。限界を超えた怒りに、肉体も限界を超える。
凄いパワーだ、この力なら、あいつを殺せる。
あきつ丸の言った通りだったと卯月は納得する。確かに怒りが足りなかった。
自分を根こそぎ破壊する程の、狂った怒りが、必要だったんだ。
だが、その姿は、到底艦娘のそれではなかった。
Gガンダムで言うところの
勝ったな、風呂入ってくる。