前科戦線ウヅキ   作:鹿狼

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第97話 戦術

 気絶寸前ってか気絶するまで訓練。気絶したら入渠させて強制復帰。それを丸一日続けて、たらふくご飯を食べてたっぷり寝る。次の日も同じように馬鹿みたいな訓練をこなす。

 それが卯月にとってここ数週間の日常だった。

 最初こそゲロを吐き根を上げて泣き叫んでいたが、やってれば慣れていくもので、最近はかなりマシになっていた。

 

 訓練開始数日は数分で全身くまなくペイント塗れ。三十分以上動き回ったら体力切れ。それ以上行くと気力も切れて気絶。

 そんな状況だったのが、気絶は数時間に一回。一時間は動き回れるように。最終的にペイント塗れだが、そうなるまでに三十分以上はかかるようになった。

 

 そして今日に至っては、数時間戦闘を続けて、全身がペイント塗れに()()()()()()()()()

 

「むー、いい加減ダウンしてくださ~い」

「やなこった!」

「意見はぁ~聞いてませ~ん」

 

 球磨の砲撃と、熊野(軽空母版)の空爆でできた死角からポーラが狙撃する。しかしその狙撃音は卯月に聞こえていた。だからって簡単に回避できやしないが、攻撃を把握して回避行動に移ることができる。

 しかも、振り返らないままだ。

 まるで後ろに眼玉がついているような動きで狙撃を回避。反撃に砲撃をおみまいしようとする。追撃をそれで止めるのだ。

 

 だが、それは卯月の隙になる。

 球磨がその隙を突いて魚雷をばら撒こうとした。それに気づいた卯月はポーラへの追撃を即諦め──ず、適当に一発撃って魚雷から逃げる。

 あてずっぽうで撃った砲撃はポーラには当たらないが、多少の牽制にはなる。少しだけ狙撃が止まった間に雷撃を回避。

 

 回避運動中にも忘れずに空爆への対空砲火を行う。勿論それも()()()()()()。プロペラの音が聞こえている。見なくてもどこをどう飛んでいるかが卯月には分かった。

 

「ふははははは見える、見えるぞ、もはやこのうーちゃんに敵はいな」

「この動きの予想ができますか?」

「あ、無理だわこれ」

 

 けど、それと艦載機の動きの予想は別問題。

 数週間努力しただけの奴に負けるのはプライドが許さない。熊野もまた、卯月にはまだ予測できないであろう動きで艦載機を操作する。

 場所は分かるが対空砲火が当たらない。と、そのことに戸惑った時には、ポーラが再び狙撃体勢に。そして球磨が見当たらない。

 

「あ、死んだぴょん」

 

 意識が逸れたせいで近づく音を聞きそびれた。球磨の最接近を許したせいで一気にベアハッグを喰らう。動きを封じられた顔面にヘッドショットまで喰らう。熊野の爆撃が殺到。

 

「ぐぎゃぁ!」

 

 少し油断したせいで卯月はまだ全身ペイント塗れたになってしまった。爆撃の衝撃で海面をゴロンゴロン転がっていく。

 勿論球磨たちは容赦なく追撃をかける。

 分かっている、何回も同じことをやられたのでもう慣れた。痛みを堪え直ぐに受け身をとり体勢を立て直す。

 

「次は殺してやるぴょん!」

 

 そう息巻いてまた突っ込もうとする。

 しかしそこで、満潮からのストップがかかった。

 これからわたしの大逆転劇が始まるところだったのに。嫌がらせで中断しているに違いない。ならこっちにも考えがある。

 

「貴様から死ぬぴょ!」

「もう夜になるから訓練終了よ球磨さんたちもお疲れさま」

「がぁぁぁっ!」

 

 卯月の不意打ちは分かりきっていた。「貴様から~」と言い出した時にはもう反撃をしていた。

 その砲撃を頬に喰らい飛んでいく卯月。

 彼女を無視して球磨たちは少し疲れた様子で陸に上がる。風呂に入ったりご飯を食べて、プライベートタイムを過ごすのだ。

 

「うう、まだやれるぴょん」

「どこがよ。私の砲撃音聞こえてなかったでしょ。だって回避行動もできてなかったじゃない。そんなんでもう演習は無理よ」

「やだー、まだやれるー!」

 

 子供のようにダダを捏ねる卯月。満潮は汚いモノを見る目で一瞥。卯月は深く傷ついた。

 満潮は許さんいつか泣かせてやる。

 至極どうでも良い誓いをしながら、渋々立ち上がり満潮と並んで陸へ向かう。

 

「しかし珍しいわね。まだやりたいだなんて。アンタの性格上「ヤダヤダヤダもう帰りたいぴょん!」って言いそうなのに」

「「ヤダヤダヤダ」が下手。12点」

「物真似コンテストしてんじゃないんだけど?」

 

 しかし私の真似をしてヤダヤダ言う満潮は見ものだった。録音機を持ってこなかったことが悔やまれる。

 それはまあどうでも良い。

 確かにわたし自身珍しいとは思う。訓練は苦しいから嫌いだが、今は続けたいと思っている。その理由はちゃんと自覚している。悔しいからだ。

 

「さすがにさー、ここまでぼろ負けしておいて、一回も勝てないのは悔しいぴょん」

「驚いた。アンタに悔しいなんて感じるプライドがあったなんて」

「お前はうーちゃんをなんだと思っているぴょん?」

 

 本当に失礼な奴。

 見て分からないのか。わたしはどこからどう見ても気高く美しく愛らしい誇りの化身みたいな生き様を貫いているじゃないか。

 満潮の目は節穴だ。もしくは脳味噌が爆発しているに違いない。

 

「可哀想な奴だぴょん」

「なんかとんでもなく失礼なこと思っていない?」

「頭が腐って蛆虫の巣窟になっていると思ってるぴょん。む、腐敗臭が」

 

 脳天に強烈なチョップが叩き込まれ卯月は倒れた。無造作に首根っこを掴まれて陸へ運ばれる。

 

「悔しいってアンタ、その鬱憤は秋月にぶつけなさいよ。敵はあっちでしょ」

「うーちゃんを侮辱する連中は全員敵だぴょん。例外は水鬼さまだけだぴょん……ああ水鬼しゃま」

「気持ち悪い顔……」

 

 戦艦水鬼を思い出し恍惚としている表情は、ぶっちゃけ直視したくなかった。

 

 引き摺られて陸地へ。そこで入渠する前に北上さんへ艤装を預ける。

 この演習の目的には卯月の艤装を調べる目的もあった。数日前の拷問による『死』と『怒り』のテストは失敗した。なら原因は他にあるか、または複合的な理由か。そのどれかになる。

 起動条件を確かめるには、結局D-ABYSS(ディー・アビス)を何度も使ってデータを集めるしかない。

 

「はいお疲れさまー、でどーお、起動した?」

 

 卯月と満潮は首を揃えて横に振った。

 結局、数日間演習を続けても、その過程で瀕死に追いこんでもD-ABYSS(ディー・アビス)は解放されなかった。

 思ったような成果が得られなかったことに、北上は露骨に落胆。自分たちのせいではなないが、卯月たちも気まずそうにしていた。

 

「別の条件なのか、それともまだ見落としている条件があるのか。やっぱりデータが全然ないのがネックだねぇ」

「むー、力になれず申し訳ないぴょん」

「いや良いよー、下手に起動してまーた暴走されてもアレだし」

 

 また黒い欲望に呑まれて狂い、悍ましい醜態を晒すのは断固御免だ。このシステムの起動実験はいつもそことの隣り合わせ。今更ながら中々危険なことをしていると思う。

 まあ万一暴走したら首の強制気絶装置が作動する訳だが、それはそれで辛い。暴走しないのが一番だ。

 

「卯月の記憶が完全に飛んでんのが一番キツイんだけどねー、ない物ねだりしたって意味ないけどさ」

「アンタ本当に記憶ないの?」

「何度も何度も何度も言ったぴょん無駄な会話は嫌いだぴょん」

 

 毎度言うがその通り。D-ABYSS(ディー・アビス)解放前後の記憶は思い出せない。過度な精神ストレスで、消えてしまっているのかもしれない。理由はどうでも良い。結局記憶を思い出せないのは変わらない。

 

「やっぱし……何かあるよね……」

 

 北上が唸る気持ちは理解できる。

 もやもやしているのは卯月も同じだった。何かあるのは確実なのだが、その取っ掛かりが何処なのかが分からない。現状推測に推測を重ねている仮説とさえ言えない状態だ。さっさと真実を明らかにしてスッキリしたい。

 

「うん、引き留めてゴメンゴメン。入渠してきて良いよ」

「そう、じゃあ行くわね」

「あー、そうだ、もう一つ言うべきことがあったんだ、良いでしょ?」

 

 言いたいって何のことだろうか。卯月は北上の顔を見る。そして身が何故だか引きしまった。ちゃんと真剣に聞かないといけないような、そんな雰囲気を感じた。

 

「艤装にしても、卯月自身にしても、最初よか大分ダメージが少なくなってる。演習の成果は出ているから安心しな」

「……言いたいことって、それかぴょん?」

「うんそうだよ? 駆逐にとっちゃちょっとした被弾が命取りだからねぇ、これであたしも少しは安心できる。言うこと以上!」

 

 と言い切って北上は工廠の奥へ行ってしまった。

 成長を喜ぶ先輩。

 そういった感じだが、それわざわざ言うことか? 

 不思議だが気にすることないか。そう考えた卯月はそそくさと入渠ドッグへ向かった。

 

 

 *

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛~」

 

 肌に優しい丁度良い温度に温められたお風呂へ卯月は足から沈んでいく。極限まで酷使した身体が弛緩する。海水を浴びて冷え切ったのが温まる。あまりの心地よさに吹抜けた声が漏れてしまう。

 こうしてたっぷりに休んだ後は飛鷹さんの美味いご飯に舌つづみを打つ。この過酷な訓練漬けで唯一の楽しみはこれだ。

 今日はどんなご飯が出るのだろう。考えただけで涎が止まらない。

 

「てめバッチィ! 涎かけやがったわね!」

「あ、ごめん」

「クソが!」

 

 風呂に卯月の涎が若干入ってしまった。どうせ薄まるとしても生理的に嫌だ。この馬鹿なんてことしやがる。

 満潮は卯月を睨み付けた。

 相変わらず卯月は、満潮に半ば抱きかかえられた状態で入渠していた。

 

 お互いお互いが嫌いなのに、肌を密着させなくてはならない。最悪である。

 しかも卯月の頭は満潮の『胸』に当たる。否応なしにサイズ格差を思い知らされる。それもあって余計嫌だった。

 とは言え何度もこうして風呂に入っているので、一連の動作は慣れたものだった。

 

「ふぃー、疲れたぴょん」

「この程度で疲れないでよ。ザコ、ペイント塗れ、攻撃能力皆無」

「ぐぐぐ、やかましいぴょん」

 

 腹が立つが、涎をぶっかけた手前あんまり強く言えない。悪態を吐いて卯月はお風呂の心地よさに身を預ける。

 満潮も同じく温かさに身を任せる。

 少しの間静かな時間が流れる。穏やかでリラックスできる。

 こいつが傍にいなければな。

 二人は全く同じことを考えていた。

 

「……あー、卯月」

「なんだぴょんポンデリング、ツンデレ女、淫売」

「淫売じゃないんだけど」

「わざわざそれだけ否定した! つまりミッチーは淫b」

「話が進まないでしょうが!」

「たわば!」

 

 また脳天にチョップが叩き込まれた。頭部が捻じれて爆発しそうな悲鳴を上げる。

 

「要らないかもしれないけど、北上さんの為に言っておくわ」

「……北上さんがどうかしたのかぴょん?」

「工廠で最後に言ってたでしょ、それについて」

 

 工廠の去り際、被弾が少なくなっていることについて言及した件についてだ。

 あれは、演習でちゃんと成長できていることを自覚させるための褒め言葉だと卯月は考えていた。それ以外の理由を見出すことができなかった。しかし、実際はやや別のところに理由があった。

 

「ここ数日、アンタに回避特化の指導をしてるけど、それを言い出したのは北上さんなのよ」

「へー、そっかぴょん……えーとで、それが?」

「アンタのことをかなり心配してたからよ。ほら藤鎮守府に行く前もアドバイスしてたじゃない」

 

 そういえば、殺意の扱いどうこうで助言を貰っていた。ぶっちゃけその後、メンタルに来ることが多過ぎて忘れ気味だった。

 殺意の扱いを間違えれば、逆に自分が窮地に陥る。概ねそういった内容だった筈だ。

 

「要するに、アンタが()()()()みたいにならないか心配してんのよ。自分が傷つくのも厭わない戦い方を身に付けないように、気を使っていたの。ちょっと大井さんの戦いを思い出してみなさいよ」

 

 対秋月戦で大井は全身から出血するような、大破寸前のダメージを受けていた。それは弥生を庇ったためだが──その前も、卯月が機転を利かせなければ、至近距離で雷撃の爆発を浴びるような真似をしていた。

 

「どう思う」

「うーん、ちょっと無謀? まあ肉を切って骨を断つとも言うぴょん。軽巡の体格なら多少は持つし」

「でもアンタ、身体が抉られるのも構わず突撃したらしいじゃない。それで、その後出血で死にかけたじゃない。あれ鎮守府周辺だから良かったけど、外洋だったら死んでたわよ」

 

 完全なド正論。いかに満潮の言うことでも黙り込む他ない。大変不満そうにしながら卯月は無言となった。

 

「そういった戦い方はダメなのよ。北上さんが、人が心配するような戦い方は──それカッコ良いの?」

「……その言い方はずるいぴょん」

「だから回避特化の演習をしてたのよ。もう少し、『殺意』の扱い方を考えた方が良いとは私も思うわ」

 

 あの時は、秋月を殺すことしか頭になかった。

 結果殺せず、死にかけて周囲に迷惑をかけた。しかし……最弱であるわたしが勝機を掴むにはリスクを払わざるを得ない。

 だが満潮の言う通り。それで要らない心配をかけるのはプライドが許さない。

 

『完全なる殺意』に呑まれかけていたことに、北上は既に気づいていたのだ。

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