「どうだった?」

ニヤニヤしながらこちらを見る友達に、カーディガンの下のダサTを見せつける。

「最高だった」





モブ視点の二次創作小説です。捏造しかありません。キンタウルスの新規ブロマイドネタバレがあるのでご注意ください。

おかえり、ガウガストライクス。ずっと待ってたよ。

pixivにも投稿しました。

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第1話

 

「バンド活動休止だって」

 

友達から放たれた一言は当時の僕の心へし折るのに十分だった。

 

 

 

MIDI CITYには数多くのバンドが存在する。正統派ガールズバンド『プラズマジカ』、中二病全開のヴィジュアル系『シンガンクリムゾンズ』、極東サウンド『徒然なる操り霧幻庵』、超売れっ子アイドル『トライクロニカ』などなど。多いからこそどれを聞いていいのか迷うことも多々あるが、必ず自分に合った推せるバンドが見つかるのがこの街の良い所だ。

 

そして、僕の最推しがフォーピースインディーズバンド『ガウガストライクス』だった。

Shibuvalleyで活動するこのバンドはメディア露出こそ少ないものの若いミューモンを中心に大きな人気を誇っていた。

オオカミ族のギターボーカル、キンタウルス。デビル族のベース、デーヤン。マウンテン族のドラム、ダイシゼン。

元はこの三人のスリーピースだったが、ギターに新メンバーのウチュウラーが加入したことで表現の幅が広がり、インディーズの中でもかなりの知名度だった。

 

友達に「最近のおススメ」と称して押し付けられたCDを聴いたとき、衝撃的過ぎて体に電流が走ったかと思った。

繊細な透明感を持った男性ボーカル。けれど印象が薄いわけではなく、隣で優しく背中を押してくれるような、そんな声。それに追随する鋭いギター、力強いベース、体に響くドラム。

今まで聴いてきたどのバンドとも違う、儚くて、激しくて、あまりにもきれいな世界観。

全部が僕にとって完ぺきだった。

 

そこからは早かった。片っ端からCDを買って、狂ったように聴きまくった。

スマホにもダウンロードしていつでも聴けるようにしたし、深夜の音楽番組に出ていようものなら必ず録画予約した。

 

でも、最後までライブに行くことはできなかった。

 

なんでと聞かれるとよく分からない。

そこまで好きならライブ行って生歌聴きなよ、と何度も友達に言われたのを覚えている。

ガウガのライブの箱はそこまで大きなところじゃなかったし、トライクロニカのようにサーバーが落ちるようなチケット戦争が起こっているわけでもなかった。

それでもライブがあると聞いても、「お金ないし」とか「もうすぐテストだし」とか何かと言い訳を持ち出して動けない自分を正当化していた。

 

バンドが活動をやめる理由は様々だ。

音楽性の違いから始まり、事務所とのいざこざ、ファンとのあーだこーだ、単純に金銭的に余裕がなくなったり、喉や腕といった商売道具の故障だったり。

要因こそ数あれど、どれもバンド活動においてありふれたリスクだ。

 

なんで、あの時「大人になればいつでも行ける」と無条件に信じられていたのだろう。

 

僕が大人になるまで、向こうが待っててくれるとは限らないのに。

 

 

 

そんな後悔を抱きながらいつの間にかバイトができる年齢になっていた。

別にお金を稼ぎたいとかではなかったけど、友達と遊ぶには何かと入用になるし持っていて損はない。

 

あれからCDは聴いていない。音楽大好きなミューモンとしてそれは良いのかとも思うが、どうしても再生ボタンが押せなかった。

 

お前にあの音楽を聴く資格なんてない。

 

そう言われるのが怖かった。好きだと言っておきながらライブにも行かず、表立った応援もせず、ただCDを聴いていただけ。

そんなのファンと呼べるのか。

そんなの推していると言えるのか。

昔の自分がこちらを指さして責めている気がした。

 

「君、そんなに根暗だったっけ?」

 

かつて僕の心をへし折った一言を放った友達とは今でも縁が続いている。

腹の底に堆積していたわだかまりを吐露すれば、そんな言葉と共に鼻で笑われた。

 

「だって、あまりにも今更なんだもの。だから散々行けって言ったのに」

「こういうときって普通慰めるものじゃないの」

「ヤダよ、面倒くさい」

 

辛辣なことこの上ない。そういうサッパリした性格が好ましいからつるんでいるのだが、どうにも容赦がなさすぎる節がある。

カフェのテーブルに突っ伏すと隣に置いてあったカプチーノの表面が跳ねた。

 

分かってる。今更僕にできることはない。

活動休止なんていうのは解散とほぼ同義だ。上手いこといったとしても活動を再開するのは休止の要因となった諸々の事情が水に流れてからだ。それに一体何か月、何年、何十年かかることだろう。

その間にメンバーの誰かが音楽を辞めてしまったら本当に終わってしまう。でも、それを止める権利はファンですらない僕はもちろん、ファンの人にも、メンバーの人にもきっとない。だからこんな言葉で誤魔化すしかない。

「寂しいけれど、これからも応援してます」と。

 

「よし、情けない君にラストチャンスをあげよう」

 

差し出されたのは一枚のペーパー。テーブルに頬をくっ付けているせいでよく見えない。

 

「なにそれ」

「ライブの宣伝だよ」

 

息を呑む。

 

「彼ら、帰ってきたよ」

 

立ち上がった衝撃で、さっきは持ちこたえたカプチーノは今度こそ中身をぶちまけた。

 

 

 

パソコンの前で深呼吸しても心臓の鼓動は落ち着いてくれない。

 

『午後8時からチケットPOAにて復活ライブチケット販売開始』

 

ペーパーが擦り切れるほど読み直した一文。開始時間まであと五分だ。

震える手で画面更新ボタンを押す。無駄な行為だと分かりつつも、何かしていないと落ち着かない。

買えなかったらどうしよう。もし回線が落ちたら?急に停電になったら?

嫌な思考ばかりが頭の中を占拠していく。傍らには初めて買ったCD。なんとなくお守りとして置いておいた。

音楽は聴けなくなったけれど、どうしても捨てることはできなかった。でも見えるところに置いておくのも辛くて本棚に仕舞い込んでいたのを引っ張り出したのだ。

よれて端が欠けたプラスチックのケースに手を合わせる。

お願いします。僕にあのとき出せなかった勇気をください。

 

時計の長針が12を指し示す。

無我夢中でマウスを動かした。初日、18時、一枚、支払いはコンビニ。

 

「購入完了」の文字が表示されてようやく呼吸ができた。

 

プリンターから吐き出されたA4用紙に印刷されたバーコードを見て胸に歓喜とも不安とも言える感情がこみ上げる。居ても立っても居られなくて、つっかけのままコンビニに走った。途中で財布を置いてきたことに気が付いてダッシュで戻る。支払いが終わるころには汗だくだった。

 

会える。彼らに。

 

 

 

端的に言って吐きそうだ。

 

開演一時間前、一人で物販列に並んでいる。手にはグッズ一覧のチラシ。今日のために口座の肥やしになっていた金をあるだけ下ろしてきた。

 

SNSでも復活ライブは大々的に宣伝された。タイムラインに回ってきたパンフレットやタオルの画像に心が躍り、全部リツイートしていたら友達にミュートされた。リプ欄で楽しげにやり取りする古参ファンたちの様子をコッソリ覗くのも楽しかった。

ライブの箱はガウガストライクスの原点、Shibuvalleyのライブハウス。収容人数はそこまで多くないはずだが物販に並ぶ人の数はそれを上回っているように思える。皆一様に目を輝かせながらBGMで流れている音楽に聴き入り、あれが懐かしい、これが好きだったと話している。

 

僕、場違いではなかろうか。

一人で、ライブ初参加で、ファンと呼べるかも怪しいのにここにいていいのだろうか。メッセージアプリで友達にヘルプを求めたが既読スルーされた。薄情者め。

 

「お並びの方ー、どうぞー」

「は、はい!」

 

声が裏返ってしまった。ガチガチに緊張しながら買うと決めていたグッズを伝える。

言いながらレジ横に掲示されているポスターを見ると他にも買いたい物が出てきてしまった。タオルとライブTシャツ、パンフレットは絶対と決意していたが、現地限定の「金T」の文字が目に入った。キンタウルスとお揃いデザイン、欲しすぎる。

結局、それ以外にもキーホルダーとラバーブレスレットも買った。

ライブ前に大荷物になってしまった。後でコインロッカーに入れておくしかない。

 

「ライブ久しぶりですもんねー。楽しんでいってください!」

 

お釣りの小銭と一緒に渡された言葉にうっかり涙腺が緩んでしまいそうだった。

 

 

 

さっきより吐きそうだ。

 

箱の中はぎゅうぎゅうだった。皆ガウガストライクスのことを心待ちにしている。

 

僕はというと緊張でそれどころではなかった。

ライブ中に途中退席はしたくないからトイレは会場前に三回行った。下痢止めも飲んだし、水分補給も控えめにした。ライブTシャツとタオルを装備して準備は万全。僕の心臓以外は。

開演までが異様に長く感じる。早く始まってほしい気持ちと、もういっそこのまま始まらないでほしいという気持ちがせめぎ合っている。さっきから止まらない手汗をタオルを握りしめることでなんとか誤魔化した。

 

なんというか、もう、楽にしてほしい。

 

ふっ、とライトが消える。

早かった心拍がさらに跳ね上がった。周りから歓声が上がる。

薄暗いステージの上で人影が動いていることだけが分かる。やがて、歓声が止む。

 

少しハウリングしたマイクの音。

 

 

「ただいま」

 

 

たった四文字。短い、しかし熱のこもったその言葉に涙が溢れた。

嗚呼。どれほど、この時を待っていたか。

 

「すごく待たせちゃったと思う。それでもここに来てくれた皆に本当に感謝しています」

 

ステージを照明が照らす。

ずっとCDのジャケットで見てきた姿がすぐそこにある。

 

「皆がいてくれたからガウガは終わらない…そう思うんだ」

 

涙をタオルで拭って必死に顔を上げる。目に焼き付ける。この光景はきっと忘れられない。

 

「お詫びじゃないけれど、この日のために新曲を持ってきたんだ」

 

大きな歓声に不器用なオオカミ族のボーカルははにかんだ。

 

 

「聴いてください。タイトルは…」

 

 


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