ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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10.I got bills, I gotta pay.(1)

「ぐぬぬ……ゴールリングが一つ100ガリオン。これじゃ予算がまったく足りんぞ、ハリー!」

「さすがマルフォイ家御用達の店のカタログだ、どれも高級品だなあ」

「そうだろう!」

「でも、今はちょっと困る」

「そうだろう……」

 

 いま、僕らは図書館にいるのはクラブリーダーのドラコと、ヘッドコーチの僕。

 結局結成書を届けにいくまでにリーダーを取り合う議論の結論は出ず、書類上のクラブリーダーとしてのドラコとゲーム内外を取り仕切るヘッドコーチとしての僕という珍妙な役職な振り方で妥協した。

 名を捨て実を取る……これが正しいことは歴史も証明している。たぶん。

 

 スネイプ教授が僕たちに「立ち上げから自主的な運営までを学習することをクラブの目的とする」としたのは本当のようで、旧競技場があった場所の使用許可まではとってもらったものの、道具などもろもろは予算の範囲内で僕らが用意することになった。

 

「ゴールリングでしょ、クアッフルでしょ、スニッチでしょ。一年生に学ばせるって名目だから共有の箒だっているだろうし、とにかく安く買いたいのにドラコが持ってくるのはぜんぜん予算に見合わないものばっかりなんだから。こんな値段でゴールリング買ってたら片側しか整備できないよ」

「仕方ないだろう! まさか世の中のクラブの予算とやらがこんなに小さいものとは思わなかったんだ!」

「うわー、それスリザリン生以外に絶対聞かれないほうがいいよ。マルフォイ家は人脈の家っていったけど、苦手な分野もあるんだな」

「うるさい! それだったら得意な奴に頼めばいいだろう!」

「得意な奴って誰?」

「……おい、僕をバカにしてるのか? それとも本当に知らないのか?」

「知らないよ。クィディッチ競技場作ろうと思ったことなんか一度もないし」

 

 ドラコは大きくため息をついて僕を睨む。

 いや、そんなため息つかれるようなこと言った? ホグワーツ一年生がクィディッチ用品に詳しい人を知らないなんて当然じゃないか。

 

「本当に知らないみたいだな、ブラッディ・ヘル! 任せたいところだが、ハリーに任せたら話が進まなそうだ。リーダーである僕も行かなければ」

「行くってどこに?」

「夕食中にグリフィンドールのテーブルに行く。そのとき話を合わせろ」

 

 

 ─────

 

 

「このどろどろしたスープみたいなやつ美味しいね。なんて言うんだろ?」

「ダールって言うのよ」

「へー! ありがとうパチルさん」

「パーバティでいいわよ。レイブンクローの妹と間違えられちゃいそうだし」

 

 昼休みにやっていたドラコのと打ち合わせを切り上げて午後の授業をこなし、約束の夕食の時間が訪れた。

 ホグワーツの夕食は結構日によって特色があって、今日はインド系の料理が並んでいるみたいだ。(もちろん苦手な人は欲しいメニューを唱えればそれが現れる。でも僕は結構このスタイルは好き)

 隣に座っているのはロン。いつも美味しそうに夕食を食べていて、今日も様々な料理を目の前に持ってきていて、今はバトゥーラと呼ばれているパンを口に詰め込んでいる。

 

「あ、ありー。おのひきんひっかあさらってあつおいひかったよ」

「知らない料理名だからわかんないのか、発音が悪いのかわかんないよ、ロン」

「……行儀が悪いぞ、ウィーズリー」

 

 空いていた向かいの席に、ドカッとドラコが席を下ろした。今日の昼休みにクィディッチ用品の手配のために誰かのところに行くって言っていたけど、誰に頼むんだろう?

 

「あんだよ、あるふぉい」

「飲み込んでから喋れ」

 

 もごもごとしているロンは、グリフィンドールのテーブルに加わってきたドラコを睨みつけている……が、口はもごもごとしたままなので締まりがない。

 

「ごくん……何の用だ、マルフォイ。夕飯がまずくなるから帰れよ」

「ほう? そんな味の些細な違いがわかるほど君の舌は繊細ではあるまい」

「うるさいな、スリザリンのテーブルに戻れ」

 

 ロンはドラコに対してしっしっ、と追い払う仕草で手を振る。

 スリザリン生が嫌いというだけではなく、どうもマルフォイ家の人間に対しては特に嫌悪感を示してるみたいだけど(実際、この前スリザリンのグリーングラスさんに声をかけられたときはデレデレしていた)、なにか入学前から因縁でもあるんだろうか。

 

「……ほら、ハリー。昼休みにした話をしろ」

「え。僕、なんもわかってないんだけど。誰になんの話をするの?」

「察しが悪いな! このウィーズリーにクィディッチ用品の手配を頼めって言ってるんだ!」

「え?」

「え?」

 

 僕とロンは同時にきょとんとした。

 マルフォイ家がウィーズリー家になにか頼む? 疑わしい。誰か別の人がドラコに化けてる可能性がありそうだ。

 

「なになに、なんの話? 君の家ならいくらでも箒屋やらなにやらにツテがあるだろ。僕の家は人脈が山程あって金庫にはガリオン金貨がうなるほどあるんだ! って毎日のように言ってるじゃないか」

「言ってない!」

「言った!」

「少なくとも毎日は嘘だ!」

「じゃあ毎週だ!」

 

 ため息が出そうになる。なんでこんなに顔を合わせただけでくだらない喧嘩ができるんだろう。どうやらこれは本物のドラコのようだ。

 仕方がないので割って入る。

 

「あー、よくわかんないけどさ。ロンはクィディッチの道具をどっかから調達できるわけ?」

「できるわけないじゃん! 家にゴールリングとかあるわけないし。箒だってお下がりだし」

「バカウィーズリー。お前の家になど期待はしていない。しかし……お前の家は顔が広いだろう。ある種のうちの競合者なのは知っている」

 

 ウィーズリー家の血族を軸としたコネクションは確かに僕も少しだけ聞いたことがある。

 マルフォイ家のように金と権力を源泉としているわけではなく、血の繋がりだけでやってもらえることといえばそれほど大きくはないだろうけれど……とにかく広いというのは重要なんだろう。

 

「……そういう話なら、まあ。つまりどういうものが欲しいわけ?」

「一年生のためのクィディッチクラブを作るって話はしたよね? そのためにゴールリングから共用の箒まで揃えたいんだけど、予算で足りるものを探してるんだ」

「なるほど……安けりゃ安いほうがいいってわけね。それって中古でもいい?」

「えっ、中古……? クィディッチ用品ってそういうのもあるのか?」

 

 ドラコが特殊な世間知らずを披露して固まっているのをスルーして僕はそれでいいと促す。

 中古で結構。どれぐらい安くなるか知らないけど、どうせ1年しか使わない予定だし。

 

「いいなら連絡しちゃうよ。夕食後に返事が来るんじゃないかな」

「誰に連絡するの?」

 

 さらさらと手紙を書き始めたロンは器用にペンで手紙を書きながらサモサをつまんでいる。

 

「便箋がカレーで汚れてるぞ!」

「ん? まあ気にしなくていいでしょ。僕の従姉妹に送るやつだし」

「信じられん……マルフォイ家だったら絶対にそんなこと許されん」

「僕はマルフォイ家じゃないもんねー。メグ姉さんの旦那さんは解体業をやってるんだ」

「解体業?」

「うん。主にクィディッチ競技場の。単に潰す場合もあれば、リニューアルする場合もよくあるし。ゴールリングだとかクアッフルだとかはそんなに需要があるわけじゃないから安く譲ってもらえるんじゃないかな。箒は別で買わなきゃいけないだろうけど……そうだな。マクラッケンおじさんが不良在庫をまだ抱えてるかも。僕も流れ星(シューティングスター)を譲ってもらったし」

 

 そう言って今度は二通目を書きはじめる。確かに箒も安く手に入るなら願ったり叶ったりだ。学校に持ってきてない人もいるし、そもそもスポーツ箒を持ってない人も大勢いるし。

 とはいえ、流れ星(シューティングスター)ってのはちょっと気に入らないけど。

 ロンは書きしたためた2通の便箋を呼び寄せた学校のふくろうに任せた。

 じゃあ夕食に戻ろう、と再び目の前の食事に手を付け始めて……数十分。夕食が終わる前にもう返事がどちらも届いた。

 ドラコは手紙に書かれていた僕らに提示された値段(まあ、親戚の子供向けということで割り引いてくれていた可能性もかなりあるけど)を見て信じられないと目を丸くしていて、ロンはそれに対して勝ち誇っていた。

 

「これなら予算の範囲内だよね?」

「ぐ……ふん! ウィーズリー家はこんなくだらない話のときにしか役に立たないな」

「助けられた直後にそんなこと言われてもなあ。用具一式は直接競技場に届けてくれるそうだよ。設営はこっちでやんないといけないけど」

「わかった。じゃあ明日の放課後までに興味の有りそうな人を集めてみようか」

 

 

 ─────

 

 

「……思ったより集まっちゃったね」

 

 現行のクィディッチ競技場はほとんど寮付きのチームによって専有されている。

 各々が自分の所属する寮のチームを応援している以上、それを邪魔したくないと思うのは当然のことだ。

 それを含めてスネイプ教授に相談したところ、今ある競技場は比較的最近(といっても、スネイプ教授がホグワーツに入る前とおっしゃっていた)移設したもので旧競技場の敷地自体は残っているということを教えてくれた。

 作業人員も含めてすべて手配することという条件ではあるが、そのための予算は割り当ててもらえた。

 というわけで、僕たちはその旧競技場へと向かっている。

 手伝ってくれる人、興味のある人というのは思った以上に多く、四寮から男女問わず集まっていた。

 スリザリンからはドラコの友達のクラッブとゴイル、その他にも数人。

 グリフィンドールからはロンやネビル、ディーンにグレンジャーさんあたり。

 もちろんハッフルパフ、レイブンクローの人間もいる。

 

「ふふん。マルフォイ家の威光は衰えていないということだ」

「うーん、まあそういうことにしといてもいいか」

「おい。どういう意味だポッター」

 

 副顧問のベクトル教授に引率され(「なにが名義だけよ! 普通に仕事回してくるじゃない!」と言っていたが、要求はなんとか通すことができた)、向かう先はホグワーツ城から伸びる木製の橋を渡って、禁断の森がすぐに見える僻地も僻地。

 ベクトル教授曰く「ギリギリホグワーツね」とのことだった。

 

「うわー、思った以上に……寂れてるなあ」

「建物もそうだけどこの木の橋、渡るの怖いよ。下にあるトンネルみたいなのなんだろう……」

「ホグワーツからホグズミード村近くの川までつながる下水道みたいなものらしいよ。とんでもなくデカくて、ヤバい怪物も住んでるってフレッドが言ってたけど本当かなあ」

 

 ネビルが弱音を吐くがそれも無理からぬことで、木製の橋は架けられた下の谷底が木の隙間を通して見える親切なつくり。実際僕も極力音をたてないようゆっくりと渡っていた。

 

「移設は私が入学してすぐだったかしら、それから一切手が入ってないなら寂れてるのは当然ね。まあ、新競技場も旧競技場もほとんど顔を出したことないけど」

 

 橋を渡って見えたのは……ほとんど原っぱのようなものだ。楕円形に内と外を仕切っているぼろぼろの柵だけがなんとかクィディッチ競技場としての唯一の面影だ。

 

「思ったよりも酷いな、ここで練習するのか……ん? 建物があるぞ」

「更衣室兼、箒置き場だったと思う。たぶん。たしか」

「箒置き場があるなら嬉しいけど……今でも使えるかな」

 

 僕は施錠すらされていない錆びついた扉を開けようとする……が、開かない。

 

ランバ・ラ・ワラ・ヘ?

「うわ! びっくりした!」

「え? 何語?」

 

 突然、扉が叫び始めたので、隣りにいるロンともども驚いて飛び退く。

 いや、よく見るとこれは単なる扉ではない。僕らのコモンルームの入り口と似たような形で(あちらは絵そのものが開閉を担っているけど)絵画が扉に備え付けられているようだ。

 その絵に映っているのは貴族然とした長身の男。かなり古い時代の人物のようだ……服装的には12世紀ぐらいの人物かな? たぶんヨークシャーあたり。

 

ランバ・ラ・ワラ・ヘ?

「何度言われてもわかんないよ!」

「ふーん。たぶん古ゲール語ね。発音がほぼ失われている言語を合言葉に使う。賢明な仕組みね」

「え!? ベクトル教授わかるの?」

「意味まではわからないわ、こういうのはバスシバの専門ね。しょうがないから私の専門分野でぶっ壊すわ」

 

 そう言ってベクトル教授は杖を扉に当てる。

 

「あー、ベクトル先生の専門ってなんだっけ?」

「アホウィーズリー! 失礼極まりないぞ!」

「別にいいわよ。一年生には教えてないしね。今から魔術の根幹であり、原理であり、機構である数秘術の実演をしてあげるわ」

 

 ベクトル教授は目を瞑り、ぶつぶつと言い始める。

 

「絵画保護呪文……吸着呪文……盗人避けの呪い……接着呪文と切断呪文。なるほど、施錠じゃなくて破られないように基本的に常に壁と扉を接着してるのね。耐性自体はほとんどこの絵画に依存してるから、扉に絵画を貼り付けてる呪文さえ剥がしてしまえば、あとは力押しで吹っ飛ばせそうね」

「待て、やめろ。子どもたち、この邪悪な試みを止めてくれ!」

「あ、普通に英語喋った」

「わたしはクィディッチの守護者グッドウィン・ニーン。不届きから箒を守るためにいる……君たちはホグワーツの箒乗りか? 合言葉を知らないのか?」

 

 扉についた額縁が解け始めたところで、絵の中の人物が僕たちにわかるように話し始めた。

 みんなが目配せをしてきたので、場の代表者として僕が返答する。(ベクトル先生は容赦なく魔法の解析を続けていた)

 

「あー。ここの競技場を使おうと思ってて、箒置き場が使えたらいいなとは思ってます。でも合言葉? ってのはよく知らないです。ごめんなさい」

「謝ることはない、子どもたちよ。私も君らの姿を見るのは実に十数年ぶりだ……しかし、この隣の人物は?」

「ベクトル教授です」

「ベクトル教授、私のことを知る者はもう学園に居ないのか!? ミネルバやホラスあたりは!?」

「あー。そういえばマクゴナガル教授なら知っていそうね。でも聞きに戻るのも面倒だし……」

「わかったわかった、特例として今回は開けよう! 中に盗むものなどもはやありはしないのだしな!」

 

 ガタン! という音がして扉が開く。中は……埃っぽいけど意外としっかりした作りだ。

 風雨に晒されていた外と比べると中は少し掃除すればそのまま使えそうだ。

 

「ドラコ、中のチェックをしてくれる? そのまま使えそうなら使おうか」

「別にそれはいいが……なんで僕に頼む」

「うん、ちょっと気になることがあって……あの、すみません! たぶん12世紀ごろの方だと思うんですけどどこの出身ですか!? 古ゲール語をちょっと教えてもらっていいですか!?」

「うむ……わたし自身は合言葉として使う程度だからな。教えられるかというとなかなか難しいかもしれん」

「ああ……ハリーはそういうやつだったな」

 

 ドラコが行かずとも、好奇心旺盛な生徒は多いようで先を争うように入っていく。

 いつのまにかグラウンド側に取り残されたのは僕とベクトル教授だけになっていた。

 なので、到着した男が僕に話しかけたのは必然と言える。

 

「あー。そこの坊っちゃん。注文を受けた品を持ってきたが」

「……あ! あんたフレッチャーじゃない! よく入ってこれたわね、ホグワーツの敷地に」

「げ! 見つかっちまった」

「またなんか盗みに来たの!? ちょっとあんた、私の『ゲマトリア大全』盗んでったでしょ! 返しなさいよ!」

「誤解だ、誤解! ……たぶん!」

 

 なので、突然ベクトル教授が襟首を掴んで締め上げはじめたのを止めるのも残念ながら僕の役目になる。

 なんか今日、くだらない喧嘩の仲裁ばっかりやらされてる気がする。

 




 
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