ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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101.君は世界の反対側(Half The World Away)(2)

 あらゆる通信手段には漏洩のリスクがある。

 一番マシな手段は、会って話すこと……そう、父から教わった。

 

「うっわ、どんだけ荷物抱えてんのよ、グリーングラス」

「あんたも人のこと言えないわよ、パーキンソン」

 

 そのため、スラグホーン学長から受けた私の家への依頼は私自ら口頭で伝えると決めた。

 なにせ、もう年の暮れは近い。ホグワーツのときとはスケジュールは異なるが、新年は魔法使いにとっても伝統的に重要な休日だ。もちろん、私も実家に帰る予定で、私とパーキンソンは持ち込んだ荷物やここ数ヶ月の間に調達したもろもろを小さなトランクになんとか詰め込もうとしていた。

 うちに帰ったらもっと強めの拡大呪文をかけてもらうよう得意先の魔法具屋さんに頼もうかしら。

 

「休みが短いのって憂鬱になるわね。ホグワーツだったらとっくにもう休みなのに。今頃連中はクリスマス休暇でしょ?」

「帰ってもまた戻ってきてこうやってあんたとすぐ顔合わせなきゃいけないと思うと、ほんと憂鬱ね」

「あんたはそうやってすぐ憎まれ口を叩く。というかあんた、なに? 荷物多すぎでしょ。なにこれ、グレンジャーが撒いてたビラ?」

「ああ……確か、こっちに持ち込んだ呪文学の教科書に挟んだままだったのよ。まあ、いい思い出の品だし取って置いてるわ」

「そのビラが?」

 

 一旦整理のため机やトランクやベッドの下のに詰め込んでいた諸々をベッドに広げたところ……私も、自分で思っていた以上の物があることに気付き、どう持ち帰るか思案していたところだった。

 

「ホグワーツなら大半は置いてけばいいんだけどね。ほら、ここって……マグル趣味だと思われてるものと、ホグワーツに関係する物への当たりがえらく強いでしょ? 置いていくのはリスクだわ」

「ああ、もしかしてクリスマス休暇がないのもそういう理由? 中産階級(ミドルクラス)の妬みって嫌ね」

 

 今のマジカル(魔法使いの)・ロンドンは、マグル文化を楽しむにはずいぶんと息苦しい。

 理由はシンプルだ……今、もっとも影響力を拡げている中産階級(ミドルクラス)(大半が自称純血か、半純血)にとって、その手の文化を内心疎んでいた人間は少なくなく、その忌避感をトム・リドルとバーテミウス・クラウチ・ジュニアが大いに利用したからだ(と、父が話していた)。

 

 マグル生まれの人たちの影響も多いけれど、金がなければ文化なんてそう広げられるわけもなし、かといって2代目の成金半純血とかではマグルとのツテがなく、手は届かない。

 結局のところ、表向きはどうあれマグルの文化や技術を利用、提供できるのはビジネスなどでマグルのサプライヤーたちと繋がりを持つ上流階級(アッパークラス)が主となる。

 うち(グリーングラス家)も含めてこの手の純血名家が影響力を落としたり、あるいは脱出したことによって潮目は大きく変わってしまった。

 

「うーん……どうやっても全部は入んないわね」

「そのトランクで持ってきた以上はトランクに入るはずじゃない」

「それがそうでもないのよね」

 

 魔法に縁のないマグルの人たちはこんなことに悩まされないだろうけど、魔法界では詰め込まれていたはずの箱から中身を取り出すとなぜか入らない、という現象が頻繁に起こる。魔法って理不尽よね。

 

「じゃあもう、いくらか捨てるしかないじゃない?」

「……まだ使えるわよ。もったいないわ」

「ホグワーツではあんたと同室じゃなかったからわからなかったけど、もしかしてあんた片付けられない女?」

 

 パーキンソンはズケズケと私の悪口を言ってのける。

 まあ、かさばる物がいっぱいあるのは認めるけれど……

 それからも私が迷いながらトランクに入れたり出したりするばかりで、いっこうに不要物の箱にしまわないのを見て業を煮やしたか、パーキンソンは大きなため息を付いた。

 

「ああもう、埒が明かないわね! あんたホグワーツではどうしてたのよ!?」

「トレーシーが引き取ってくれてたわ。二束三文ではあったけどトレーシーは使える場面が多いマグルの通貨(英ポンド)で取引してくれるし、なにより大切に使ってくれるのを知ってるからね」

「じゃあ、売るのはいいのね!?」

「まあ。適切な取引であれば」

「なら行くわよ! 不要そうな物をトランクにでも入れて持ってきなさい!」

「どこに?」

「闇市よ!」

 

 パーキンソンは私の腕を掴んで引っ張り上げる。闇市? 校内に?

 

 

 パーキンソンに引っ張られるようにして廊下を進むと、突然壁際で歩みを止めた。

 壁に向かってパーキンソンがノックすると……小さな物音を立てて、壁の下部に扉のようなものが浮き出てきた。

 

「驚いた……隠し部屋なんてあったの! まるでホグワーツみたいじゃない。動く階段とか、近道になる絵画とか、そういうのはここにはないと思ってたわ」

「ここの主が勝手に作ったみたいだからね」

 

 扉はかなり小さい。大人であれば通り抜けるのは相当難儀するだろう。パーキンソンの弁によると無許可で作られた隠し部屋みたいだから、教員対策のセキュリティも兼ねているのだろうか?

 私もパーキンソンも難なくくぐり抜け、かなり薄暗い未知の空間に出ると……そこにはいけ好かない男がいた。ギヨーム……なんとかトレフル=ピックだ。

 

「ああ、これはもしやグリーングラス嬢! もしや私めに会いに!?」

「ほら、連れてきてやったわよ。約束どおりふくろう便の代金をタダにしてくれる?」

「もちろん。約束は守るさ。それに……ちょうどいい、返事を受け取ったところだよ」

「ああ、ドラコ様!」

 

 そう言ってパーキンソンはトレフル=ピックから封筒を受け取り、封蝋を手で剥がして取り出した手紙に愛おしそうに頬ずりしている。

 

「ちょっとあんた、もしかして私を騙して売ったの? というかドラコ様って! 遠距離恋愛は続かない、とか言ってたのあんたじゃない!」

「あんたみたいな冷血女の場合はそうだけど、私とドラコ様の場合は違うわ」

「というか! ホグワーツと手紙でやり取りできるなら教えなさいよ!」

「あんまり信用度は高くないわよ。傍受されていいような内容しかやり取りできないし。それに、あんたが使うと空きが減るじゃない?」

 

 しれっとパーキンソンは言ってのける。

 学校付きのふくろうは傍受されているし、なにより全生徒で数羽を共有してるから使うのは一苦労だ。

 

「まあでも、校内でいろいろ取引してるってのはホントの話よ」

「まあ、ここのところは専ら物々交換ばっかりだけどね。僕ら特進(プロモーション)コースの人間も自由に外出できるとは言えないのに、通常コース以下の生徒なんかは外出はほぼ不可能だ。実家から送ってもらうにも限界がある……というわけで、こうやって皆の需要を満たしている、というわけだ」

「ふうん? つまり外出できる特権を活かして阿漕な利益をせしめてる、ってわけ?」

「嫌味な言い方はよしてくれよ。トレフル=ピック家ではこういうのを『機会を活かしてる』というのさ。それに大儲けしてるってわけでもないしね。最初は見るに見かねて譲っただけだった」

 

 確かに隠し部屋の中には……ごちゃごちゃと色々物が置かれており、時折値札がついてるものもある。

 突然、トレフル=ピックの背後から鳥の羽音がした。

 どうやら、これが隠して飼われている秘密のふくろうらしい。真っ黒だったから闇に紛れていて気付かなかった。

 トレフル=ピックは商品の瓶をひとつ開け、中の生肉をそのふくろうの口へと運ぶ。

 

「ほら、ミーカ。あんまり食べ過ぎないでくれよ? 商品がなくなってしまう」

「驚いたわね、禁止されてるふくろうをこっそり飼ってたなんて」

「別に僕だけじゃないよ。こっそり飼ってる人間は実際のところそれなりにいた。拡張呪文をかけたトランクの中とかでね。でも、そこで困るのが彼らのエサだ。最初のうちはこっそりと別のコースの生徒に譲るだけだったんだけど……ちょっと話が大きくなっちゃってね」

「じゃあ、この場所はなんなの?」

「君は覚えてる? 9月の半ばぐらいまではここは掃除用具入りのロッカーが置かれてる行き止まりだったんだけど」

「……覚えてない」

「だろ? 今年創立だからスタッフもみな新任だしね。ロッカーが廊下に動いて、行き止まりに突然壁ができてT字路がただの廊下になっても、意外や意外、誰も気付かなかった」

 

 軽く言ってのけたけど、多少準備したとしても自然な形で通路の形を変形させて、そこに隠し扉をつけるというのはなかなか高度な変身術だと思う。少なくとも私にはできない。

 どうやら、ホグワーツ屈指の優等生だったディゴリーさんが見込むだけあって確かに魔法の才能はあるらしい。

 

「隠蔽呪文に長けているのはトレフル=ピック家の伝統さ。とはいえ、君の知人にはイギリスきっての隠蔽の大家といえる家の人間がいるみたいだから、比べられたらさすがに彼らに一日の長があるだろうけど。それで、今日は何の取引に?」

「帰省前に処分しときたいの。見てくれる?」

「……いやいや、これは。なかなかの量だね」

 

 私がトランクの中を見せると、その量にトレフル=ピックは少し顔をひきつらせた。

 

「まあ、かさばらないものに替えたいっていうなら……やっぱり消えものかな? シャーベットレモンなんかどう?」

「けっこうよ」

「私もパス」

「なんでだい? 美味しいのに」

 

 トレフル=ピックが取り出した甘味に二人して難色を示すと、残念そうにしながらしまっていった。別に甘いものは嫌いではないけど、それに限ってはホグワーツ生はみんな飽き飽きしてるのよ。

 

「それなら……」

「全生徒に告ぐ! 居室へ速やかに戻り、待機せよ!」

 

 トレフル=ピックの話を遮るように、突然副学長の声が響いた。

 一瞬ここがバレたかなにかしたかと思ったけど、どうやら学校中に拡声呪文(ソノーラス)を使って呼びかけているみたいだ。

 

「うん? なにか起きたのかな……とりあえず従っておいたほうがよさそうだ。僕がまず出て外の様子を伺うから、問題なさそうならノックで知らせるよ」

「おねがーい」

「頼むわ」

「……感謝ぐらいしてくれてもいいんだよ?」

 

 彼が出口から出ていき、少ししたらノックが返ってきたため、私達もここを脱出する。

 出るところは見られなかったようだが、そもそもこの辺りは通常コースに所属している私達にとっては来る理由が明確にないはずの場所だ。手早く離れるに越したことはない。

 

「それでは失礼」

 

 そういって逆方向にトレフル=ピックは去っていく。特進(プロモーション)コースの生徒の個室のほうだ。

 私達も寮のほうへ、と思って踵を返したタイミングで……間が悪いことに、曲がり角を曲がってきた体育会系の汗臭い男、ヒッグス教授と目があってしまった。

 

「ふむ、君たちは……通常コースの子だったね? こんなところで何を?」

「あー……その……」

「……うむ! みなまで言わずともいい、君らぐらいの年代なら皆探検が大好きだからね! しかし、聞いての通り寮に戻れとの副学長のお達しが出てる。切り上げて戻ってくれ。さあ、駆け足!」

 

 そう言って汗臭い教授は私達を行かせてくれた。

 

「意外と手ぬるかったわね」

「それか、本当にそれどころじゃない状況とか」

 

 その後、私たちは何事もなく部屋にたどり着くことが出来た。

 十数分後に一度、副校長が訪れた。二人とも在室であることを確認したのち、なんと部屋の鍵を外からかけられてしまった。(そんなことできるようになってたの?)

 2時間ほど軟禁状態に置かれたのち、再び拡声呪文(ソノーラス)で呼びかけがあった。

 

「全生徒へ! 現時点を持って寮室からの退室を許可します。ただし、校外への外出、および年末の休暇に伴う帰省を無期限に凍結いたします、許可証がある生徒も全てです!」

 

 その声とともに、カチャリと扉の鍵が開く音がする。どうやら外に出れるようにはなったようだ。

 

「パーキンソン、外出できないってどういうことかしらね。実家に帰れなくなったってこと?」

「……!」

 

 話しかけた私に返事することすらせず、無言でパーキンソンが早足で部屋の外へ出ていった。

 15分ほどでパーキンソンは、何事もなかったかのように戻ってきてすました顔で私の前に座り直した。

 

「で? なに話してたっけ?」

「……あんたねえ。子供じゃないんだから一言ぐらい言ってから部屋を出なさいよ!」

「『ああ、ごめんなさいダフネさん。今あなたと話したいのは山々なんだけど、お昼にレモン・ポセットを飲みすぎたみたいで、お手洗いにできるだけ早く行きたいの! だから、あなたと話す余裕はないわ!』みたいに言えばよかった? 生憎、あのグレンジャーみたいに思ったこと全部口から出るような人間じゃないの」

 

 ハーマイオニーさんを毛嫌いしているパーキンソンは、彼女の口調を真似しながら肩をすくめた。

 

「あんたねえ……」

「それに、わかったこともあるわ。どうやら、この騒ぎの原因は学校じゃなくて外の事情みたいよ。なんでも、魔法省が外出禁止令を出したって。お手洗いの前の行列で噂してるのを聞いたわ」

 

 魔法省が外出禁止令!?

 そんなの聞いたことがない。そもそもそんなことができる、ということすら知らなかった。

 情報を仕入れるため、ラジオをつけ、魔法ラジオネットワークニュースにあわせる。

 

「……アズカバン収容所での囚人の集団脱走があり、みなさまの安全のためにイングランド全域で戒厳令を敷いています。みなさま、外出を控えてください。許可証がない状態で自宅の外にいる魔法使いは警告なしで吸魂鬼(ディメンター)のキスを執行する可能性があります。速やかに指示に従ってください。なお、アズカバン収容所の責任者であるジョー・ストラマーは罪状は現状不明ですが、既に拘束されており……」

吸魂鬼(ディメンター)の、キスですって……」

「信じられない……」

 

 さすがのパーキンソンも絶句する。

 イギリスの魔法使いはなんでもジョークのネタにすると言われているが、吸魂鬼(ディメンター)だけは絶対にしない。それほど恐れ、忌み嫌っているのだ。

 魔法界で生まれ育った人間は、みな吸魂鬼(ディメンター)のキスがどれほど残酷な処置なのかを知っている。

 

「どうすんのよ、グリーングラス。外は吸魂鬼(ディメンター)が歩いてる、その上学校は異を唱えるどころか、年末の休暇を取り消して閉じ込めようとしてる。ふくろうは監視付きで、用事もなく廊下を歩いてるだけで目をつけられる。こんな状況で……私のパパとママと連絡すら取れない、なんて信じられないわ」

 

 こんな事があれば、ただでさえ空きがほとんどなかった学校付きのふくろうはパンクするだろう。中身をチェックされることを甘受してもなお連絡すら取れないということになる。

 

「もしグレンジャーがいたら烈火の如く怒ってたでしょうね。見ものだっただろうに」

 

 パーキンソンがハーマイオニーさんを揶揄してそう呟く。

 だが、その言い方は置いといて……パーキンソンですら、こういう状況では彼女の考え方に分があると認めているということでもある。

 

「つまり……今必要なのは、ハーマイオニーさんのやり方ってことなのかしら」

「ああん? あのいけ好かない女の? ……まあ、確かにね」

「この状況で、ハーマイオニーさんならなんて言うかしら」

「んー、グレンジャーなら……『これは学校による私達への弾圧です! 断固として権威に抵抗すべきです!』とかかしら?」

「あんたの似てないモノマネは置いといて、完全に同意するわ」

「私でさえそうね」

 

 なら、と一呼吸置いてパーキンソンに提案する。

 

「やりましょう。ただし……正面から(グリフィンドール)ではなくて、狡猾(スリザリン)なやり方で」

 

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