ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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102.君は世界の反対側(Half The World Away)(3)

 その日の昼食は、お世辞にもみなご機嫌とは言えなかった。

 各コースで分けられる、と説明されていたはずの食事だが、数日前に特進(プロモーション)コースのためのダイニングがなにかの悪戯で潰されたらしく(詳細は説明されなかったが、副学長が怒り狂っていた。もっとも、犯人は未だに見つかっていない)、今日は「極めてごく稀にしかありえない、非常事態ゆえの特例」ということで通常コース(わたしたち)と食事の場を共有している。

 食事の時間はズラしており、私たちが後に入る形になってはいるけれども、食事なのだから早いものもいれば遅いものもいる。パッと見た形、3割程度は残っていた。

 

 もちろん、学園によって丹念に区別された我々は、和やかに交流を楽しむ……という空気ではない。

 特進の連中からしてみればトラブルで場所を動かされたのだから優先されるのが当然、という態度だし、通常コース(わたしたち)からしてみれば貸してやってる、という気持ちが強くなる。

 案の定、そこらで揉め事が起き始めた。

 

「おい、とっとと食ってどけよ!」

「何勝手に俺の隣りに座ってるんだ、このマグル生まれが!」

 

 今のところ、杖を抜くものは現れていないもののそこらでこのような言い争いは発生しており、教員スタッフも(特進の人間に肩入れする形で)、場を収めようとしているが、一向に収まらない。

 

「グリーングラスさん、ここに座ってもいいかい? 今はトラブルの中心から離れたくてね」

「ああ、ディゴリーさん。トレフル=ピックさんは?」

「謹慎中だ。なんでも密輸がバレたとか」

「あら。お気の毒に」

 

 そんな光景にうんざりしはじめたところで……ディゴリーさんがいくつか食事の載った皿を持って現れた。どうやら避難してきたようだ。

 私もとっとと食事を終えてこの場を離れようと、食器を掴んだタイミングで……部屋の入り口のほうから、紙飛行機が数個、入ってきた。

 

 周囲に居る人間のうち何人かが、自分の皿を覆いながら咄嗟に伏せた。なんだろう、と怪訝に思った瞬間……その紙飛行機は破裂し、盛大に花吹雪を散らし始めた!

 と、同時に……紙飛行機は吼えメール(ハウラー)の要領で形を変化させながら大きな声で歌いはじめた。

 

 ル・シェミン・ドゥ・ボーバトン(ボーバトンのやり方)

 

 テーブルは花びらまみれ。どうも香水か何かも含まれていたらしく、しかもその匂いには当たり外れもあるようで、ある箇所はマロニエの香りがしたかと思えば、ある箇所では腐った魚の匂いがした。もちろん、テーブルの上の料理は花びらまみれ。食事どころではない。

 

「なるほどね。僕らのとこでもクソ爆弾を撒き散らす双子がいたように……これはボーバトンでは定番の手というわけか」

「ああ。それで何人かは紙飛行機を見た途端伏せたのね」

 

 お互いに花びらまみれになりながら、私とディゴリーさんは呟き、同じタイミングでため息を付いた。

 

 

 このイタズラについても副学長が大層お怒りになっていた。どうやら歌に乗せられた犯行声明? から察するに、特進の連中のダイニングが潰されたことの報復である、と話していた。

 どうやらそちらの攻撃はホグワーツ生によく知られた手口……飛ぶ魔法の花火(ホグワーツ生はハチドリから風船まで、飛んでいるものが大広間に入ってきた場合、なにはともあれアグアメンティで水を呼び出す習性が身についている。目の前で変身術が解け、花火に戻った瞬間に消さなければ顔が煤で真っ黒になる……私も入学当初、きれいなアゲハチョウに()()()())を使ったイタズラのようで、どうやら双子ほど手慣れていなかった犯人は発生する煤の量を相当過剰に設定したらしく、簡単に綺麗にできない呪われた煤で部屋が真っ黒になったらしい。

 

 食事を切り上げてディゴリーさんと部屋を出た私は……廊下でドヤ顔しているパーキンソンと出くわした。人気のない道の方に手招きしている。

 

「あら? セドリックさんもいるの? まあいいわ。ねえ、連中の報復見た? ずいぶんと怒ってくれてるじゃない! ここまで派手に反応してくれると気がスッとするわ! あの出っ歯女の考えに乗るのはちょっと癪な部分もあったけど、確かに気持ちいいわね、癖になりそう」

「ちょっと。あんたさっきの元ボーバトン生のイタズラ、なにか心当たりあるの?」

 

 嫌な予感がしながらも尋ねてみると、ドヤ顔でこうのたまい始めた。

 

「もちろん犯人は私よ……そう! 犯人とバレないように私の上に立つ特進コースの連中を嫌な気持ちにさせる! これがスリザリン流のグレンジャーのやり方で……あれ、グリーングラス。なんでそんな変な顔してるのよ」

「あんただったの!? バカじゃないの!? 『ハーマイオニーさんのやり方』をどう解釈したらそうなるのよ!」

 

 私が呆れ果てている一方で、横にいるディゴリーさんはくすくす笑っている。

 

「なるほどね。君らの見方ではグレンジャーさんのやり方はこう映ってるわけだ」

「君らはやめてよ。一緒にしないで」

「ちょっと、グリーングラス! あの女がやってるのはこうやって自分の声が届かない人間の頬をビンタして顔を向けさせることでしょ!? 合ってるじゃない! だいたいね、あんたが役に立たないのが根本的な原因でしょ? ほら、グリーングラス家の影に潜む伝説の暗殺者『芝刈り鎌』を呼び出して、悪いやつ全員倒すとかしてくれりゃいいのよ!」

「いるわけないでしょ! おとぎ話よ、それは!」

 

 パーキンソンの言い方は乱雑だが、確かにそういう旨であることを話し合って合意した。

 だからって、上の人間のダイニングを煤まみれにしてなにか解決するわけ無いでしょ!

 

「しかしあれだね。スリザリン生って全員その手の策謀が好きだけど、得意なのは1割もいないってのは本当で……おっと、これは失言だったかな」

「あ!? あんたそんな風に思ってたの!?」

「まあ、意趣返しさ。ハッフルパフ生に古くから伝わる陰口でね」

「へえ。ハッフルパフ生も陰口を叩いたりするのね」

「僕らは陰口のバリエーションが乏しいから、数少ない貴重なものとして大事に伝えてるのさ」

「はっ! 私達なら毎日、飛んでるフクロウの数よりも多く編み出してるわよ!」

 

 なぜか自慢げなパーキンソンを冷ややかな目で見据える。

 そうすると褒められてるとでも勘違いしたのかウインクしてきた。バカじゃないの?

 

「偉そうにアドバイスするなら……僕ら(ハッフルパフ)はミス・グレンジャーのやり方をそう解釈はしていないね」

「はあ? 私らの解釈が間違ってるっていうの!?」

「物事は色んな見方がある。僕らが正解でもないし、君らが間違いでもない……でも、助けにはなるかもしれない」

「……まあ、聞くだけ聞くから言ってみてよ」

 

 なだめられたパーキンソンは耳をそばだてている。

 

「思うに、彼女は最終的にどうなるかはさておいて……まず、調べ、聞くところから始める。図書館の本に、あるいは責任者である誰かに問う。ロックハートのときもそうだったよね? 彼女はひたすらに言葉で勝負していた」

「それが? 言葉だけで勝負するより、言葉と暴力の両方を使ったほうが強いに決まってるじゃない!」

「うーん……一理はあると思うけど……」

 

 ディゴリーさんは苦笑した様子で、話を続ける。

 

「まずコミュニケーションからはじめるのが彼女のやり方だと思うよ。もっとも、僕らからすれば対話ではなく説得に寄りすぎていると思うけど。まあ、なにはともあれ『蛇のように賢く、鳩のように素直であれ』さ」

「鳩? アナグマじゃなくて? ……まあ、要旨はわかったけど説教はいらないわよ。具体的に誰となにしろっていうの?」

 

 不機嫌そうにパーキンソンは首を振る。

 

「うん。だから……責任者に話をつけてみよう。それで断られれば、また新たな手を考えるしかないけれどね。実は、ちょっと話をする場がこのあとあるんだ」

 

 

 ディゴリーさんに連れてこられたのは……職員の部屋の前。

 暑苦しい、すべての週末をスポーツで消費してそうな「魔法具学」のヒッグズ教授の部屋だ。

 

「はあ? よりにもよってこいつ? 話の通じない典型的なグリフィンドールって感じのあいつ?」

「ちょっとパーキンソン、聞こえるわよ。言ってることはそれなりに同意するけど」

「ああ、なるほどね。確かにそうも見えるかも」

 

 しかし、と前置きしてディゴリーさんは指を振る。

 

「でも事実を言うなら……彼は君らの先輩だ。つまり、スリザリン生」

「え、そうなの!?」

「まあ、実際に話すほうが早いだろう。ヒッグズ教授、いらっしゃいますか?」

「ああ、セドリックかい? 入ってくれ」

 

 ディゴリーさんがドアをノックすると中から返事がある。それを受けてディゴリーさんは淀みなくドアを開けた。どうやら、この教授の部屋を訪れるのは初めてではないようだ。

 

「やあ、これは……君たちか。もしかして室内クィディッチクラブの入部希望かな?」

「違います」

 

 私が即座に首を振ると、ヒッグズ教授は愉快そうに笑った。どうやら本気で言っていたわけではないらしい。

 

「セドリックが目をつけたのは彼らか。なるほど、妥当な人選に見える」

「そうでしょう?」

「ちょっと。話が見えないんだけど」

 

 パーキンソンが口を尖らせながら話に割り込む。私も同感だ。

 

「ほら、今……外出禁止ゆえの暇を持て余して、学校内が荒れに荒れてるだろう」

「う……」

 

 パーキンソンが目を逸らす。あんた、やましいことがあるにしてももうちょい堂々としてなさいよ。

 

「小鬼は手空きのやつに目をつける、という。まあ、僕も学生時代はヤンチャだったから気持ちはわからないでもないけどね。この学校の第一号生徒であり、実質的なオーナーでもあるトム・リドル氏に心酔している副学長はその手の言説を毎日ガミガミと言っているが、学生からしてみりゃ憤懣やるかたないのはまあわかる」

 

 椅子に座ったヒッグズ教授は手元で羽根ペンを回しながらそう呟く。

 なるほど、現状自体はスタッフのほうでもきちんと理解はしてるのね。

 

「まあ、とはいえ。外出禁止令はトム・リドル氏が出したお触れとはいえ、マジカル・ロンドン全域にわたるものだ。僕ら教員にどうこう言えるものでもない……とはいえ、それを出したトム・リドル氏に文句を言うのすら禁じるというのはどうかと思うけどね」

 

 パーキンソンがぐっ、と息を詰まらせる。私も正直なところそう正論を言われると不満をハーマイオニーさんのやり方でぶつけてやる、などと息巻いていたのが少し恥ずかしくはなる。

 しかし、だからといって現状維持が好ましいわけではないだろう。私は反論を試みた。

 

「では、現状のままでいろということですか? そちらがどういうつもりかしれませんが、学校指定のフクロウは業務過多でパンクしています。家族とやり取りも満足にできない状態ですよ?」

「怒るのはわかる。しかし、それも僕らに動かせるものじゃない……トム・リドル氏はずいぶんと職務熱心で、学校に通う子弟にもスタッフにも外部と連絡を自由に取らせたくないらしい。とはいえ、僕としてはそいつは少し困る。なので、学長にも副学長にも秘密裏の形で独自の通信ルートを確立することにした。セドリックにはこちらの要求を解決できたら、その通信ルートを提供すると約束した」

 

 なにそれ。そんなものがあるの?

 というか学長と副学長にも秘密って、ずいぶん食わせ者みたいね。熱血スポ根教師の裏の顔かしら?

 パーキンソンはどうやらその通信ルートというのに興味津々のようで、話に食いついた。

 

「うわ! なにそれ、もしかしてホグワーツとも連絡取れちゃったりする?」

「取れちゃったりするんだな、これが。副学長には内緒だぞ? まあ密告されても足がつかないようにはしてるけどね」

「いいじゃない! ならとっととディゴリーに伝えた要求っての私にも教えなさいよ」

「今日ダイニングであったトラブルでもわかるように……学校が始まって数ヶ月ではあるが、未だに元ホグワーツ生と非ホグワーツ生とでは隔意があるだろう? そこで有能で真面目だけど、周囲の人間を操作する(マニピュレータ)なんてハッフルパフらしからぬところもある彼が適任だと思い、こっそりと僕の使える駒にしてみることにした」

 

 確かに。バカ真面目な部分もあるけど、典型的ハッフルパフかというとそうでもないかも。スリザリン生からみても話が通じやすい相手、とされてたのが彼のホグワーツの立ち位置だったし。

 しかし、ディゴリーは駒と言われるのはさすがに違和感があるようだ。スリザリンだと珍しくない言い方だけどね。

 

「駒と言われると、さすがにちょっと抵抗がありますね」

「そう気を悪くしないでくれよ? 駒は駒でも大駒(メジャーピース)だ、捨て駒になんてしないさ……そして、セドリック君は追加の協力者を入れることを交渉してきた。君らってわけだね」

「まあ、私にとっては渡りに船だけど……ヒッグズ教授はなんでそんなことしたいの?」

「それはシンプルな話だ。ここの学校の運営上、隔意があるままだとやりづらい。わかりやすいだろ?」

「なるほどね! よし、私に任せて……」

「ちょっとパーキンソン。あんた丸め込まれてるわよ。肝心な点が一つ……副学長にも学長にも秘密なこと、そこを説明してもらってないわよ」

 

 パーキンソンが口車に乗せられかけたので、慌てて制止する。

 

「ああ、確かに……ちょっと失礼?」

 

 ヒッグズ教授は指を鳴らすとパタリと扉が閉まった。おそらくこれもただの扉ではなく、防音だのなんだのの魔法がかかっているのだろう。

 つまり、外に漏れては困る話をするというわけだ。

 

「まあ、学長に関しては実のところどうでもいいんだ。どういう形だろうと、近いうちにここから姿を消すだろうし……おおかた、君が学長から受けた話は海外へ逃がすとかそのあたりだろう?」

「ああ、そうかも知れないわね」

「さすがグリーングラス家のご令嬢。サイラスによく鍛えられてるね、素晴らしいポーカーフェイスだ」

 

 ズバリと言い当てられ内心ドキリとするが、おくびにも出さない様子で返答すると、ニヤリと笑って話を流してくれた。

 

「さて、我らが恩師であるホラスがどこへ行くかはさておいて……彼がここから姿を消したタイミングで起きるのは空いた学長のポスト争いだ。通常であれば副学長がそのままスライドするものだけど、学内のトラブルを収められず、囲っているはずのホラスが逃げ出したとなればかなり立場は悪くなる。そうなったときにお鉢が回ってくるのは僕の可能性が高い、と思っていてね。その幸運を逃さず、生徒という僕が操れる数少ないリソースを使って地盤を固めようとしているわけだ。できれば上司二人にバレない形でね」

「なるほどね。スリザリン卒業生、ってのは間違いではないみたいね」

「その言い方だと、ミスパーキンソンにもミスグリーングラスにもグリフィンドールあたりと勘違いされてたかな? ちょっとショックだなあ。サイラスとヴィオラとは在学中に何度も顔を合わせてたのに、話もしてくれてないとは」

 

 ヒッグズ教授は大げさに肩をすくめて見せる。

 この人を食った態度。たぶんだけど、私のパパ(サイラス)パーキンソンの父(ヴィオラ)は意図して知らせなかったような気もする。そういう類の人間だ。

 

「ここまでが全容だ。そして、さきほど話した秘密の通信ルートという報酬は一部前払いしようと思う。僕が話した目的を達成するためのリソースとしても大いに使えるだろう。ただしもちろん内密に。そして油断もしない」

「……? 油断? ええ、わかったけれど」

「では同意は得られたみたいだ。セドリック、案内してあげてくれ」

 

 そう言ってヒッグズ教授は再び指を鳴らすと、背後の扉がガタン、と勢いよく開いた。

 セドリックさんは身を翻して、無言で歩き始める。どうやら3人で特定の場所に向かっているという風に周囲に捉えられたくないようで、私達もそれを察して若干の距離を取りながら彼の背を追う。

 彼は廊下を抜け、階段を降り、校舎の外周部のほうへと進んでいく。人気のない建物の角のあたりまで進んだあたりで……彼は足を止め、私達にちらっとアイコンタクトしたのちに、壁にかけられた「廊下を走るな、陰口叩くな、飯は残すな、挨拶忘れるな」と書かれたポスターをめくって……その裏にあった壁のシミを三回ほど杖で叩いたのちに壁の中へと体を滑らせていった。手順付きの9と4分の3番線の柱みたいね。

 私達もその手順に従って壁の中に入ると……やや薄暗い建物の中に出た。どうやら、校舎と隣り合っている建物とあそこでつながっていたみたい。

 

 中には、人影が2つ。1つはセドリックさん。もう一つは……ずいぶんと小さい、特定の場所では見慣れた背姿。

 

「これはディゴリー様。利子がつく間もない再会をこのミンガスは嬉しく思っております。そして新しいお客様も。グリンゴッツ・ロンドン本店の頭取であった私めが心より歓迎いたします……手数料はお持ちですかな?」

 

 英国の銀行業務から離れて久しいだろうに。良い仕立てのダブルのスーツをしっかりと着こなしたままのグリンゴッツのゴブリンがへりくだった様子で頭を下げながら、目と歯をキラリと光らせた。

 

 

 

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