ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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107.悪そうな金持ちだいたい友達

「まったくもって遺憾である……我々がこのようなマグル技術に頼る羽目になるとは」

「マグル技術じゃないぜ、マグルアイデアだ。機構はマジカル100%」

「マルフォイ家も安心、という宣伝文句で売り出す予定だ」

 

 瓜二つの赤毛(ウィーズリー)の二人が、ホグワーツの一室でガチャガチャと機械を弄っている。ここは私がホグワーツに通っていた頃は人気がない一角にある物置だったはず(ナルシッサと時折訪れた)だが、今は放送室と呼ばれているらしい。

 手を組む相手が選べる状況ではないが、これほど不愉快な状況はないと信じられる――マグル狂い・アーサーが無計画に作ったガキどもの手を借りなければならないとは。

 

「やめろ。名誉あるマルフォイ家の名前を勝手に使うな。不愉快極まりない」

「俺たちは愉快極まりない。一緒に愉快になろうじゃないか、ルーシーちゃん」

「あるいはルールー? おウチでなんて呼ばれてるかドラコお坊ちゃんに尋ねておくべきだったな」

「アーサーは私を不愉快にさせる訓練をお前たちに施したのか?」

「その通り」

「幼少期からたゆまぬ努力を積んできた」

「お前ら……よくほぼ初対面の大人にそんな無礼なことが言えるな。すみません、マルフォイ卿」

「ありがとう、パーシー君……ああ、まさかウィーズリー家の人間に心から感謝する日が来るとは」

「自家中毒のようなものですけどね」

 

 唯一、彼らの中でまともに会話が通じる……そして、私の英語をウィーズリー語に翻訳し伝達してくれるのが三男のパーシー・ウィーズリー君だ。

 半年前の自分に言ったとしたら信じないだろう。私がウィーズリー家の人間を抜擢し扱うことになったとは。

 だが彼は極めて有能で、学生ながら事務的な仕事や調査を片っ端からこなしてくれている。

 今日、この放送室には普段存在しない額縁が置かれているのも彼の発案だ。前例のない突飛なアイデアに関してはグリフィンドールに一日の長がある。

 

「では、そろそろ時間です……ジョージとフレッド、いい加減静かにしろ!」

「的確な指摘をありがとう、ミスター・モラルくん」

「家の名誉をマルフォイに売った初めてのウィーズリー一族として永遠に名を残すことだろう」

「タペストリーも作らないとな」

 

 双子たちはカオスの極みだが……流石に自分の仕事に関しては最低限はこなすつもりはあるのか、オンエア直前になると声量を落とした(もちろん、声量を落としたというのは黙ったという意味ではない)。

 彼らを無視し、マイクロフォンと呼ばれる装置に向き合う。音を規則性のある魔法の波に変換する魔法具らしい。

 ホグワーツからの放送はとっくに大臣になったトム・リドルによって非合法化された。チャンネルさえ知っていれば聞けるとはいえ、我々が放送を再開したことを知らなければ誰も耳を傾けないだろう……

 だが、根回しは済ませた。グリーングラス家の御令嬢によって提供された屋敷しもべ妖精による通信ネットワーク。彼らは姿を見せることはないが、置き手紙の形で興味があると見込める人間に情報を伝えた。

 トム・リドルに全張りしない人間たち。留保し反対の陣営の意図を知りたい人間たち。つまりまあ……狡猾に都合の良い側につくことで利益を得て力を高めることを欲する人間だ。大半は私のように高名な人間だが、後ろ暗いところがある人間も含んでいる。

 表向きはどうであれ、省に逆らうことになんの抵抗もない連中だ。幸いにして、マルフォイ家はそういう人間の所在を山ほど把握している。

 もちろん、その中には我々の情報を売る人間もいるわけで、遅かれ早かれ情報は漏洩するわけだが……それも折り込み済みだ。そもそも、このラジオという媒体自体が秘密の放送という性質の媒体ではない。反対者に対しても情報が浸透することは歓迎だ。

 

 加えて連絡をしたのが海外だ。フランス、ドイツ、スペイン、イタリア。私の人脈を使って海外のメディアに話を通した。彼らがどのような形で報じたかはわからないが、通信を聞くぐらいの手間はかけてくれることだろう。現状、ロンドンにおいても海外の放送を聞くのは非合法化されていない。彼らが私達の主張にニュースバリューがあると認識してくれれば喜んでロンドンに向けても報じてくれるだろう。

 

 私が主に扱っていた仕事はこのあたり。一方、仕事がすべて片付いたわけではない……具体的に何を主張するか、という課題が残っていた。

 マクゴナガルの要求は省との決定的な対立を可能な限り避け、合法性に拘ること。その上でトム・リドルを排除するべきという主張を築けという話なのだから難題も難題だ。

 だが、これに関しては議論を重ねた上で、セブルスとそこにいるパーシー君がまとめ上げてくれた。彼には素晴らしい官僚の素質がある。

 私は彼らが用意してくれた原稿を取り出して手元に置き、マイクロフォンに近づいた。

 

「ホグワーツより、ソールズベリー魔法領の擁護者ルシウス・マルフォイが全ヨーロッパの魔法使いに呼びかける」

 

 第一声。ちらりと横目で見ると裏手にいる双子が大きく二人でマルをつくって見せている。問題なく放送できているということなのだろう。

 

「まず、もっとも重要なことを伝えようと思う……我々が現魔法省に反対する立場を取っている、という報道があったようだが、事実無根だ」

 

 我々が最も伝えたい、そして意外性のある発言を冒頭に入れる。そう。我々は反魔法省という立場を取らないことを決定した。

 

「我々の主張は一つ。トム・リドル魔法大臣は選挙の当日、正当な当選者であるアルバス・ダンブルドアを殺害したということだ。我々はこの調査が中立的な立場から行われることを要求する。つまり、国際魔法使い連盟から調査団を派遣して行うのが妥当と考えている」

 

 今や奴ら自身でももはや済んだこと、と考えているダンブルドア殺害を掘り起こす、ダンブルドア自身も殺されたことを考えた際の保険としてこのアイデアが機能する、と考えていたフシがある。

 ……いや、既に半ばボケていたあの老人の頭がそこまで回っていた? 考えすぎだろう。

 私はマイクロフォンを、パーシー君が持ち込んだ額縁に近づけた。

 

「この事件について私は証言者をいくつか提供できる――まずは、()()()()()()()()()()()

「うむ、いかにも……わしがアルバス・ダンブルドアじゃ……おっと、ルシウスくん? 殺人事件の被害者が喋っていてはそもそも事件が成り立たないんじゃないかの?」

「ああ、生命を失ってもダンブルドア節は変わらぬというわけか」

「むしろ、わしに残っているのは記憶と語り節ぐらいじゃからのう。こうして肖像画になるにあたりずいぶんと厚みを失ってしもうた……文字通り。とはいえ、記憶は明瞭じゃ。生きていたときよりもよほど明瞭かもしれぬ」

 

 ホグワーツの校長室には歴代の校長の肖像画が飾られている。

 どの肖像画を飾るかはその代の校長の意思に委ねられているそうだが、この肖像画が通常と異なるのは一点。これらの肖像画は、ホグワーツの校長として認めた人間の肖像画をホグワーツ城自ら生成したものだということだ。

 通常、魔法界の肖像画は画家に依頼することで制作する。だが、ホグワーツ城は、自らの肖像画が校長室に未来永劫語られるなど望まない人間であっても校長に就任した途端に絵画を作成し始め……最終的に死後数ヶ月後にリリースされる。死の瞬間までの記憶を保持する形で。

 この事実はあまり知られておらず、歴代の校長と副校長ぐらいしか知られていない話ではある。生前のダンブルドアなんかはこれに関して定期的にでらためな冗談を飛ばしていたものだから、デマを信じている者も多い……マルフォイ家は知っていたがね。考えてもみろ。気難しいことで知られるフィニアス・ブラックが自らの肖像画を校長室に飾るなど誰が思う? それはホグワーツ城の意思なのだ。

 とはいえ、通常は肖像画などの話など皆話半分で聞くものだ……それはあくまで生前の記憶によって生まれた影のようなものにすぎない。

 

 だが、自らが殺された際の証言となれば話は別だ。

 

「では本題に入ろう。儂は殺された――その通り。魔法省の選挙管理室での。開票結果が出た直後じゃった。儂の勝利の報せを聞いたトムは死の呪文をわしに放った。立候補者はお互いに殺せない魔法契約を結んでいたはずなんじゃが、それは破られた。わしが死んだあとじゃからはっきりと確信はしておらぬのじゃが、逆転時計(タイムターナー)を使ったトリック、ということでいいんかの?」

「それに関してはその場に居合わせた元闇祓い局長アラスター・ムーディ、並びにポッター家の当主であるジェームズが確認している」

「まあ、中立的な調査が必要ということじゃから……わしに近い二人の証言は使えんじゃろう。もちろん、肖像画の証言も使った先例はないじゃろ?」

「ああ。その通り」

「だからわしはトム、並びに魔法省に務めている方々にお尋ねしたい。選挙には必ず選挙管理局の立会人が必要で、立会人は嘘がつけないという形で魔法契約をしているはずじゃ。儂のときの立会人は、選挙管理局長のアデル・ビンズ氏であった……彼女は今、どこにいるのじゃ?」

 

 十中八九、その立会人の小娘は消されている。それでも人一人の身体はともかく生まれ育った経緯まで消せはしない。

 省内の記録は消せるだろうが、小さい部署とはいえ局長級ともなれば予言者新聞の社会面に何かしらの記事で名前が出たことはあるだろう。大量に印刷された公開情報だ。外国の調査員は容易に見つけるに違いない。

 

「もし、所在がわからぬということなら……これは一大事じゃ。わしとしてはきちんと捜査すべき事象の一つであると思う」

「私も同意する。であるから、再び我々の主張を繰り返そう……我々はトム・リドル氏の殺人容疑が、中立的な立場の人間によって捜査されることを求めている」

 

 

 その後十数分、我々の現況や主張を話し……放送は終わった。どれだけの人間が聞いたかはわからないが、予め放送について伝えていた人間たちが耳にしていたら……彼らの反応が手にとるようにわかる。

 今ごろ大慌てでフクロウを各所に飛ばしていることだろう。

 

「素晴らしい弁舌だった、さすがマルフォイ家。偉そうに難解なことを喋らせたら右に出るものはいない」

「しかし、もっと簡潔かつ楽しく話せないものかね?」

 

 そこに、双子どもが低レベルな絡み方をしてくる。私は大きくため息を付いた。

 

「今の話が理解出来ないとは……私のスピーチに込められた意図は実に明確だったというのに。君らは卒業後ビジネスを始めると聞いたが、それでは先も暗いな」

「おいおい、俺らの秘密の計画がどっから漏れた? パースか?」

「そして聞き捨てならないな」

 

 この双子が卒業後、いたずらグッズ屋などという確実に需要はあるが市場の規模が小さいビジネスを志している、というのはパーシー君から聞いた。そのニッチを突いてどう商売するつもりかはしらないが、それでも今私が話した内容は大いに商売に影響する。

 

「まず、第一に……今回のラジオ放送はいわばゲリラ的なものであった。聞いてくれる人間は基本的に事前に声をかけておいた知人だけと考えるべきだろう」

「まあ、それは仕方ない」

「俺達のラジオもそこからだったからな」

「だからこそ、初回でガッチリと心をつかむような愉快な話にすべきだったんじゃないか?」

 

 なるほど。確かにエンターテインメントと捉えるなら彼らのほうが経験があるのかもしれない。そう思わせる意見だった。

 だが、私は首を振る。なぜならこのラジオを聞く目的は娯楽ではないからだ。

 

「一度聞いた人間を逃さない。確かにそれは重要だ。だが、我々はできるだけ短期間で聞く人間を増やさねばならない。つまり、我々のラジオ放送についての情報を興味のある人間が積極的に探るように仕向けなければならない」

「今の小難しい話がそうできるとは思えないけどな」

「娯楽ならな。だが、私はそれ以上に強力なインセンティブをぶつけてやった。彼らにとって明確な利益――金だ」

 

 そう私が言うと、おぼろげながらに理解したのか双子は頷きながらおどけた。やりづらいことこの上ないな……

 

「あらやだ。そういうことだったのね。でもお金目的なんてルシウスさんたらお下品」

「品位を疑っちゃうわ、おほほ」

「……魔法省は我々を反政府組織と銘打っていたフシがある。我々はそれを否定し、ひとまず武力の行使をしない旨明言した。この情報を持っているかどうかで短期的な投機利益が変わる……先物市場は動き、予備杖メーカーへの投資は控えられるだろう」

 

 本来であれば、私は逆のことをやろうと考えていた……つまり、明確に反政府勢力であることを明言することで市場を動かし、我々の発言を察知することが利益に繋がることを利用しようと考えていた。

 その方針は180度反転したわけだが、それでも構図自体は変わらない。

 

「金目的ならその情報を売るやつだって出るだろうし、金で情報を買うのを嫌って情報源を積極的に探る人間も出てくるってわけね」

人間も出てくるってわけね」

「そうすりゃ放っておいてもこのラジオのことが広まると。さっすがルールーちゃん、勉強になった」

「このアイデアは俺たちの宣伝戦略にも使えるかもしれないな。フィルチを使うとか」

「いいね。こうしちゃ居られない。それじゃマルフォイのおっさん、また次回」

 

 そういって双子共は脱兎のような勢いで去っていった。嵐のような連中だ。

 

「本当に申し訳ない。彼らは僕ら一家の恥です」

「そんなことはない、パーシー君。気にすることはない」

 

 私の見解ではウィーズリー一家がそもそも恥なのだ。今更印象は大して変わらん。

 

「しかし一先ず一段落といったところでしょうか」

「いや。むしろここがスタートラインといったところだ。我々はクィディッチで言えば遠目からシュートを放った……相手チームのキーパーがどう動くか、どこから展開するかを見定め、我々はそれに更に対応する必要がある。準備の時間が今回のように与えられるとは限らない」

 

 トム・リドルは魔法省とホグワーツという対立構造に落とし込みたかったに違いない。

 だが、我々はそれを拒否し、複雑化させる方策を採用した。我々も一枚岩ではなく、調整しなければいけない立場は多いが……それでも奴らも手を焼くに違いない。

 

「私はヨーロッパの魔法界で最も強力な組織を動かすつもりだ。彼らは決して我々の味方ではないが……私の見立てでは、トム・リドルは彼らのことを理解もしていないし軽視している。大いに摩擦を引き起こしてくれる可能性が高い」

「い、いったいなんなんです? それは。グリンデルバルドの残党とか、あるいは闇の秘密組織とか……」

 

 パーシー君があまりにも夢見がちなことを言ってのけるので鼻で笑ってしまう。

 そんなものは物の数ではない。もっとグリンデルバルドの支持者などよりも狂信的で情熱的な連中だ。

 

「国際魔法使い連盟クィディッチ委員会を動かす」

 

 クィディッチファン。それはヨーロッパ魔法界最大の巨人に違いない……理性がないという点も含めて、まさに巨人だ。

 

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