ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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110.みんな寂しいけどさよなら、街は世紀末

 

 夜間の外出禁止令が出された魔法界のロンドンは静かだ。

 

 ロンドンからの脱出経路のほうはグリーングラスの女房さんがなんとかするらしい。彼女とグリーングラス家の邸宅で別れ、俺とグリーングラスの旦那は人の目を避けて深夜の街を歩きながら(こういうのは得てして慌てるほうが目立つってもんだ)ナショナルスクールへと忍び込もうとしていた。

 侵入経路は建物の壁の中を走っているダクトだ。

 

「ぜえ……ぜえ……こ、腰が……」

「あー、大丈夫ですかい? グリーングラスの旦那」

「こ、これしきで息が上がるとは……ここのところ省の連中に目をつけられ、まともに散歩もできなかったせいだろう。一時的なものだろうな」

 

 息を切らしながらも、旦那はキリッとした顔で開き直る。

 目くらまし術で塀を乗り越えて侵入した俺たちは、そのまま学舎の壁にクアッフルにかけられているような「握り呪文」をかけよじ登り、ダクトへと侵入した。

 よじ登るのは俺にとっては"慣れた"手順だったもんだから大した苦労もなかったが、齢40前後の旦那には酷だったらしい。

 

「本当のことを言ってもいいですかい?」

「マンダンガス・フレッチャー。お前は私のことを知らないだろう。私に一番詳しい人間が言うのだから事実の可能性が最も高い。この体力の低下は一時的なものだ……おい。待て、置いていくな。少し待て。ほんの少し待て」

 

 現実逃避しているグリーングラスの当主から視線を外し、屈んだ姿勢のまま前進することにする。

 予めくすねておいた新しい学校の設計図とやらがこんなとこで役立つとはね。

 

「しかし、空調があるマグルでもなしに、なんでこんなダクトなんて付けたんでしょうなあ。ホグワーツにもパイプがありましたが」

「魔法界に専門の建築家などほとんどいないからだ」

「というと?」

「この学舎といい、魔法省の建物といい……作りを一から当事者で決められる個人邸宅と違い、公の建築物は発注者と受注者がいる。その受注者が建物をどう設計するか? 一番手軽なのは自分がカッコいいと思ったマグルの建物のデザインをそのまま持ってくることだ」

「パクりってわけですか」

「発注者が知らぬことをいい事にな。だが、その建物のつくりには我々魔法使いには不要な部分がある。それを取っ払って再設計するなど、一から作るほどの手間になる。それならばそのまま持ってきたほうが遥かに楽だ。工期も短くなる」

 

 さすがグリーングラス家の当主。この手の事情には詳しいらしい。

 壁の中のダクトを這い回るなどまるで蛇かなにかにでもなった気分でうんざりではあるが、使われもしない新品同然ともなれば気分もマシに……

 突然、俺の鼻をとんでもない匂いが刺激した。悪臭と薬品臭が混じり合ったような奇妙な匂いが……

 

「だが、このダクトはどうも完全に無用の長物というわけでもないようだな。おそらくは悪臭を吸い上げる魔法でもかけたのだろう。各部屋の悪臭は凝縮され外に排出されるというわけだ」

「つ、つまり……これは魔法薬の実験で生じた蒸気だとか、あるいは不届き者がぶちまけたクソ爆弾とかの匂いの混合物、ってわけですかい!?」

「だろうな」

 

 流石に気分が悪くなってきた。失敗した魔法薬の蒸気ともなれば有害な成分が含まれていてもおかしくはない。俺が吐き気をこらえながら進む中、意外にもいいとこのご当主であるはずのグリーングラスの旦那は、ハンカチを鼻にあてながらも平然としていた。

 

「旦那は平気なんですかい?」

「グリーングラス家は薬と毒を扱う。この程度は慣れたものだ」

「さ、さすがです」

 

 なるほど、と頷くが……いや、待て。あのグリーングラスのハンカチ。単なる上等な品か? 俺の盗人の勘が告げている……ありゃ、下手すりゃ一財産だぞ、と。

 

「旦那が平気だというなら……もしよければ、そのハンカチをあっしに貸してくださっても」

「ダメだ」

「いやいや、ハンカチの一つぐらいケチケチしちゃだめですよ、グリーングラスの当主とあろうものが」

「ダメだ」

 

 取り付く島もない。となると有害な気体をシャットアウトするなどの高度な魔法がかけられている、という俺の読みはおそらく当たっているだろう。どさくさに紛れてスリ取れねえもんかね。

 となると、あんまり拘る様子を見せるのもマズい。俺は肩をすくめて、悪臭に顔をしかめながら前に進んでいく。

 手元の図面をちらっと見ると、そろそろダクトは廊下の端に繋がるところ。校長室などの重要な部屋に関しては侵入禁止魔法だのなんだのがかかっている可能性もあるそうだが、そこには警備員が一人いるのみ、と事前の情報では掴んでいる。

 

「旦那、30分後に警備員は交代です」

「それがどうした? 交代なのだから、隙が生まれるわけでもあるまい」

「まあ、そう考えるのが一般的でしょう。ですが、重要な場所でもない限り……安い給料で雇われてる魔法使い、場合によっちゃスクイブの警備員のやる気なんて百味ビーンズの美味いビーンズの割合ぐらいなもんです。終業時刻前になったら勝手に立ち去るのなんかいい方で、ひどいのによっちゃあ自己判断で5分も10分も前に上がるやつもいて……」

「30分も待っていられるか。行くぞ」

 

 そう言ってグリーングラスの旦那は勝手に進んでいく。

 ああ、ちょっと。この手の事に関しては俺のほうが本職なわけで、でもそういうことを言うと純血名家のご当主様ってだいたい機嫌を損ねちゃうんだよな。ああ、もうどうしたら……

 俺がそんな風に考えていた一瞬の間に、止める間もなくグリーングラスの旦那は飛び降りていった。

 オオオオオイ!? 無茶にも程が!

 俺は慌ててダクトから廊下を見下ろすと、事前の情報通り降りた先には警備員がいた。

 ああ、言わんこっちゃない! 下手すりゃ呪いの撃ち合いが始まるハメに……

 

 だが、一向にドンパチは始まらなかった。明らかに、立った警備員の視線の先に飛び降りてきたグリーングラスの旦那がいるというのに。

 

「何をしている? とっとと降りてこい」

「な、何が起きてるんでさあ? これは……?」

 

 グリーングラスの旦那の命令に従って飛び降り、正面から警備員を見ると……彼は、立ったまま眠りについていた。

 どうやら、俺たちがここに来る前から。

 

「嘘だろ……え、これ旦那が予めやってたってこと? 俺たちが降りてくるタイミングの前後で、ピンポイントでこの警備員さんが眠るように? 誰がここの警備に付くか調べて?」

「さてな。校長室は右だな?」

「怖ぇ、グリーングラス家超怖ぇ……」

 

 俺はブルッと体を震わせながら旦那に付き従い歩いていく。

 あのハンカチは……今度にしておくとするか!

 

 

 ――――

 

 

 真っ暗闇の寮の一室で、明かりも付けずに私は起き上がる。

 ベッドに入る前にまとめておいた手回り品を入れたハンドバッグを、できるだけ音をたてないように小脇に抱える。そして、忍び足で歩を進め、静かにドアを――

 

「行くの? グリーングラス」

「……お手洗いにいくだけよ。パーキンソン」

「別にいいわよ、言い訳しなくて。だいたい察してたわ。今日逃げるんでしょ?」

「そんなばつの悪そうな顔しなくていいわよ。連れ出されたいわけでもないし。単に一声、かけたかったの。悪い?」

 

 寮の部屋に窓はないけれど、外光を取り込む"透け壁"はある。か細い月の光が私の顔を照らしていた。

 

「どうやって逃げるかの詳細は聞かされてないけれど……あんた一人ぶんぐらいのスペースは空けられると思うわよ」

「あら? なに、気を遣ってるの? あの氷の女王のグリーングラスが? 気味悪いわね」

「状況はたぶん、もっと悪くなりそうよ。あの副学長のオバさんは喜んでトム・リドルの子飼いの連中を招き入れようとしてる」

「私だけ逃げたって仕方ないもの。家族はそのトム・リドルに媚びを売ってる側だわ。あのオバさんと同じポジション、マジウケるわね」

 

 そう言って肩をすくめるパーキンソンは見えるが、表情まではわからない。

 

「それに、こういうとき逃げ出すやつが痛い目みるってむしろ歴史全体で言えばあるあるじゃない? 案外、残る側がしぶとく生き残ったりして」

「はあ。優しくして損した」

「いいじゃない、損得で優しくする相手を決めなくていいって。素敵じゃない?」

 

 パーキンソンは私に手を振る。こちらに時間がないのを察しているのだろう。どうやらもう、お別れのようだ。

 外の様子を扉越しに伺う。足音などはしない……行くなら今だろう。

 

「次会ったときも、今みたいにあんたらしくいなさいよ、パンジー」

「あんたこそ。あんたらしくいなさいよね、ダフネ」

 

 私は背を向け、扉を開けて廊下に身を翻した。

 合流場所は校長室、と予め打ち合わせしてあるが、その前にアストリアも回収しなければならない。

 廊下を進み、下の学年の寮室のほうへと歩を進めると……奥の曲がり角で人影が見えた。念のため杖を構える。

 あの人影は……アストリアのものだ。

 

「おねえちゃん、満月と?」

「黒猫。トリ、うまく出てこれたのね」

 

 グリーングラス家に伝わる合言葉の1つをお互いに言い合い確認が取れたので、手を握って校長室へと向かう。

 さしたる障害もなく真夜中の校舎を進むことができ、校長室へとたどり着いた。

 手筈通り、ノックを4回すると……中から問いを返された。

 

「私小説家と」

「黒カラス!」

 

 私とトリで声を合わせて返事をすると扉が少し開かれた。その隙間に身を滑らせ、すぐに扉を閉める。

 中にいたのはパパとスラグホーン学長、それに後ろには小汚い男の人……?

 謎の男に若干警戒しながらも、私は近づき、トリはパパに駆け寄っていった。

 

「パパー!」

「ママは?」

「案ずるなダフネ。外で待機している」

「えーと、その男の方はどなた?」

「マンダンガスと言うんだが……あれ? 俺顔あわせたことあるよな? ホグワーツで。ほら、一昨年クィディッチ競技場の設営とかで出入りしてたし」

「ごめんなさい。興味のないことは覚えない性質でして」

「グリーングラス家怖いよう。こんなんばっかなのか? おい」

 

 うーん……クィディッチ競技場の設営ってことはハリー君とかのほうが詳しそうね。まあ、どうでもいいけど。

 私がマンダンガスという男と顔合わせしている間に、パパとスラグホーン学長はここを去る準備を進めていた。

 

「君には何から何まで手間をかけるな、サイラス」

「ここを去る予定は考えておりましたから、渡りに船ではありました。もっとも契約を値引きするつもりはありませんが」

「君のとこに依頼するとずいぶん高くつくのー! ほら、あれじゃよ。次に繋げる感じで安くしてもらっても」

「正規価格です。警備に気取られる前に行きましょう。今日を逃せば、今度こそ連中はここの中に手の者を送り込んでくるかもしれない。強硬手段で」

「学長の権限は君が思うほど弱くはない。しかし、早く去るに越したことはないだろうな」

 

 どうやら、スラグホーン学長は自らの権限を使ってトム・リドルの手先が入り込むのをブロックしていたらしい。

 でも待って。学長が去るということは……その権限はあのリドル派の副学長に移るということじゃないかしら?

 

「あの……今話すことではないかもしれませんが、副学長にその権限が移ったら……ここはどうなるのでしょうか?」

「ダフネ。そんな問答は今……」

「いや。これは大人がしっかり答えねばならぬ問いだ。はっきり言おう。わしは学長にも関わらず、恥知らずにもここの人間を見捨てるつもりだ。副学長は事務仕事に長けておりその手腕を信頼はしておるが、バランス感覚に欠けてはいる。ここの自治権は失われ、学術機関としての評価は地に落ちる。トム・リドルが失脚した日には、即座に廃校になるだろう」

「……私もそう考えていました。そして、トム・リドルが勝ったとしても、ここに喜んで通う人間はいなくなるだろう、と」

「その予測は正しいだろうの。職員を決める権限を失った学校で高い質の授業は不可能だ」

「なら……せめて、学長の権限をヒッグズ教授に譲ってからここを去るわけにはいきませんか?」

 

 私がヒッグズ教授の名前を出すと、スラグホーン学長は納得した表情を、パパは驚いた表情をした。

 

「ヒッグズ? あいつか? あんな外面だけいい胡散臭いやつを信用してるのか、お前は?」

「外面だけいい胡散臭いかたであることを承知の上で、まあ一応は」

「君の娘の見る目はそう悪くないであろう、彼はよくやっている。まあ、わしのクラブにいた輝かしい面々と比べると多少落ちるとは思うが、それでもなかなかだ」

「あれほどここに入りたくないと言っていたというのに。数ヶ月の間に心変わりしたのか?」

「変わってないわよ。私自身は選べるなら絶対にホグワーツよ。でも……この数ヶ月の間に、そうでない人がいる、って気が付いたわ」

 

 ホグワーツに通うのは難しい、と言っていたトレフル=ピックもそうだし、ミリセントあたりは実家からの距離が近いのを歓迎していた。

 

「私が選ばない選択肢であっても、誰かが求めているなら、それを残すために少しだけ骨を折るだけですむなら……そうすべきだと思ったの」

「ふむ……」

「ダフネ。あまり駄々をこねるな。比喩抜きに我々の命がかかっているのだ」

「まあ待て、サイラス。依頼人はわしじゃろう。わしは今の言葉で……思い浮かべた話がある。既に亡くなった男の話だが」

「学長……といいますと?」

 

 パパはすぐにでもここを発ちたい雰囲気だったけれど、どうやらスラグホーン学長はある程度心動くものがあったらしい。彼は私の話に耳を傾け、話をしてくれるようだった。

 

「もしグリンデルバルドがホグワーツに入学していたら、スリザリンに組分けされていた、とな。君はもちろんグリンデルバルドを知っているじゃろう?」

「は、はい」

 

 グリンデルバルド。

 「より大きな善のために」というフレーズを掲げ、マグル社会を破壊することで機密保持法の破棄を狙った男だ。

 

「大義を掲げて、多くの人を戦争に巻き込んだ。その思想が育まれたきっかけの一つは……妹がマグルの若者に暴行を受け、激昂した父親は彼らに復讐し、逮捕された……そういった話だそうだ」

「グリンデルバルドの生い立ちがそのようなものだったのですか? それは確かに気の毒に思いますが……」

「違う。彼の生い立ちではない。彼と親しかった人間の生い立ちなのだ……グリンデルバルドの生い立ちはマグルに脅かされるようなものとは程遠かったと聞いている。だが、それでも、彼はその出来事を聞いてマグルを本気で憎んだそうだ」

「……」

「こうした性質は我々スリザリンの欠点でもある……つまり、マグルに関わるものすべてを知りもしないうちから嫌うのは、まさにこの性質の悪い面だ。グリンデルバルドのそれも、善いものだったとはとても言えない。しかし、それでも……自分と共通点を持つ見知らぬ人間を同胞と位置付け、自身の利害を超えて行動しようとするのは、我々のもっとも気高い点だと考えておる」

「そ、そんな。大げさな。私はここに残る人たちがどうなるか不安になっただけで」

 

 パーキンソンを置いてきたのが罪悪感としてしこりになっていたのもある。自分の利害を超えて、とまで言われると自信がない。結局自分かわいさではないか、という気もするし。

 

「それはわしも同じであろう。ミス・グリーングラス。わしにも罪悪感はあった。その罪悪感から逃げようとしない点で、わしよりも君は気高いだろう……スリザリンの精神はしっかりと受け継がれているようだ。君のいたときの寮監はどなたかね?」

「セブルス・スネイプ教授です」

「あー……セブルス・スネイプ、セブルス・スネイプ。覚えておる。わしの教え子じゃ。えーと、教え子じゃったのは確かで、しかしあの時代はミス・エヴァンスなどずいぶんとキャラの濃い子が多かったもので、えー……確か、他の寮とも分け隔てなく接する愛されキャラの子で、合唱部ではエースを……」

「絶対にそれは違う人だと断言できます」

「そ、そうかの? いや、意外と知らぬ面があるものだ、人には。さて、こうしてはいられぬ。ヒッグズ教授のところに行って手早く済ませねば」

「それにはお呼びませんよ」

 

 学長室の扉が突然開く。

 外には……このタイミングを待っていたのでは? と疑いたくなるぐらいに都合のいいタイミングで、噂の本人であるヒッグズ教授が立っていた。

 

「やあ、我らが先輩、サイラス! お元気ですか?」

「相変わらずだな、お前は。どこで察知した?」

「やだなあ、私はそんな凝ったことをするタイプではないのはご存知でしょう。毎日ここをこっそりうろついていただけです。シンプルでしょう? タイミングが合えば学長の権限をねだれるかなと」

 

 どうやら、なにか起きるとしたら学長室と目星をつけ……毎晩巡回していたようだ。手間はかかるがシンプルで、手を凝らしても防げる手ではない。100回中99回は睡眠時間を無駄にすることを覚悟すればの話だが。

 

「うまく鉢合わせれば、面倒事を避けるためにそれぐらいくれるかもと思いましてね」

「ダフネ。見ろ、こいつはこういうやつだよ」

「知ってるわ。いろいろ面倒事を押し付けられたから。単なる学生なのに」

「ひっどい言い様だなあ」

「君が裏でいろいろやっとったのは知っとったが、彼女まで使っていたとは。まあいい、手を出したまえ」

 

 スラグホーン学長に促され、ヒッグズ教授が手を出すと……スラグホーン学長は杖を当て、呟いた。

 

「ヒッグズ教授を学長代理に任ずる」

「ええー、学長のポストくださいよ」

「副学長より上なら用は足りるだろう。生きてここを出る前に全部の権限を渡すほど油断はしとらん」

「まあ、確かに。ではついでに学長にご報告を……ちょいと外がうるさいですね。まだ完全に警戒モード、というわけではないですが、寝入ったディゴリーさん家のご当主様が叩き起こされてる可能性大です。早めにロンドンを離れたほうがいいですね」

「先に言え、血まみれの(ブラッディ)後輩め!」

「先に言ったらこの儀式を省かれる可能性があったでしょう。ま、というわけで……ご武運を!」

 

 用は済んだとばかりに、パパは私とトリの手を引いて学長室を飛び出た。後ろからマンダンガスさんとスラグホーン学長もついてくる。

 正門を開け(警備員はなぜか居眠りしてた……同時にみんな?)、外に出ると扉はすぐに閉まった。

 

「ヒッグズが気を利かせてすぐに閉めてくれたのだろうな。外に出た瞬間、権限は彼にも移ったからの。とはいえ人の出入り自体は副学長の知るところでもある。これから状況を察して動くだろうからある程度時間を稼げるとは思いたいがの」

「現場から離れるのが一番です。彼らが予想しづらい脱出経路を用意しました」

 

 私たちは小走りで学校から離れながら、脱出経路についてパパから説明を受ける。

 

「ほっほう! もしやマグルの乗り物とやらかの?」

「公道か? 今はそこも省はきっちり見てるって話だぜ」

「マグルによる経路ではある。しかし、公道ではない」

「なんだそりゃ? なぞなぞか?」

 

 マンダンガスさんが首を傾げている……私も正直、同じ気持ちだ。パパとママはいったいなにを用意したのだろう?

 

「さあ、この下だ」

「下? っていったらここは橋だぜ、道なんか……ああーっ!」

「ママ!」

 

 驚いているマンダンガスさんにあわせて、私も下を覗き込む。同じように覗き込んだアストリアが歓声をあげ、下にいるママに手を振る。

 普段、ぜんぜん意識してなかったけど……そりゃそうだ、橋の下には川がある。ロンドンにはこのような形で無数に川があり、無数に橋があり、そして……無数の運河がある。

 

「魔法で動くナローボートだ。これでまっすぐ運河と川を西進し海に出る。そこで大型の船に乗り換える手筈だ」

 

 

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