ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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114.努力は影 光を浴びるのはずっとその後(2)

 

 アイルランド島最大の湖、ネイ湖。

 もちろんこの湖はマグルにも知られていてるし、名産品のウナギはマグルと魔法使いを問わず魅了している。

 ママ曰く、ネイ湖のウナギは「ウナギのロールスロイス」だそうだ(「ロールスロイス」が何か知らない当時の僕がパパに聞いてみたところ「ハリー。それはな……えー……偉大な魔法使いの名前で、実はあのマーリンを一から育てたのもロールスロイスで」とホラ話を言ったもんだから僕は長らくそれを信じることになった)。

 

 ただし、その沿岸は決してマグルがすべて把握しているわけじゃない。

 なにせ、この湖が生まれた経緯は……かの騎士団長フィン・マックールが杖を振り、浮遊呪文で地面を浮かしてスコットランドに向かって飛ばしたときに生まれた、と言われている。この湖が生まれたきっかけ自体が魔法の為せる技だった、というわけだ。マグルの人たちは「フィン・マックールは何十フィートもある巨大な人間で、彼が土を放り投げたときにネイ湖が生まれた」って話を信じてるそうだけど、さすがにおかしいと思わないもんかな? 巨人だってそんな大きいわけじゃないよね。

 おっと、歴史オタクの悪い癖がでちゃった。なにが言いたいかっていうと……ネイ湖の周辺には、魔法使いしか知らない魔法の領域がいっぱいあるってことだ。

 そこには、クィディッチの練習スペースもあり、宿泊や炊事のためのバンガローがある場所もある。僕たちホグワーツ合同チームはそこでキャンプを行っている。

 

 僕たちはこのバンガローに到着した次の朝から試合前の最後の練習を行った。

 そして、昼休み前に監督の立場でもあるフーチ先生から試合に出場するメンバーの発表があるのだけれど……

 

「なにやってんの、ビル兄」

「やあ、ロンにハリー君。練習はもう終わったんだな。これかい? パパの車をバンガローから遠ざけて隠してるんだ」

「なんでそんな事を? パパは『99パーセント合法』って言ってたけど」

「パパの発言はちょっとだけ間違ってるね。正確には『99パーセント違法』だ……捕まらない限りはね! だからこうやって人目につかないように移動させてる」

「ああ……うん、手慣れてるね……」

「まあ、呪い破りの仕事は現地の当局に目を付けられるものもしばしばあるからね。余計なトラブルは起こさないに越したことはない。まあ、この辺はわざわざついてきたんだ、僕らでやっておくよ。フーチ先生のとこに行くといい。試合出れるといいな、ロニー」

「ああ、ありがとう……オリバーやフリートさんが5分以内に病気で倒れたら望みはあるかもね」

 

 ロンは肩をすくめながら正キーパーであるウッド主将(キャプテン)とハッフルパフ生、現ホグワーツ合同チームのセカンドキーパーであるハーバート・フリートさんの名前を挙げる。ロンの動きがすごい悪いわけではないんだけど、やっぱキーパーは経験の差がかなり大きいからね……

 ビルさんは爽やかな笑顔を浮かべて僕たちを見送ってくれた。僕とロンがコテージの中に入ると、パーシーさんやハーマイオニーなどの補佐してくれているメンバーが昼食の用意をしているのが見えた。

 

「うわ、美味しそう。ちょっと味見を……」

「ちょっとロン、行儀悪いわよ! 練習後なんだからせめて手ぐらい洗いなさい!」

「へーい……清めよ(スコージファイ)。この鍋に入ってるやつなに? マッシュポテト?」

「コルカノンってアイルランド料理よ。せっかくアイルランドに来たんだから作ってみようと思って」

「なるほど。うーん、ケールとフダンソウの香りが食欲を誘うね……痛っ!」

「何やってるんだロン。盗人避けにかかるやつがいるか?」

 

 こっそりと盗み食いをしようとするロンだけど、パーシーがかけた盗人避けの加護によって凶暴化した鍋の蓋に指を噛まれていた。

 さすが監督生と主席を務めただけあるなあ。この手の不埒者を懲らしめる呪文をいっぱい知ってるみたいだ。

 

「……何をやっているのです、ロナルド・ウィーズリー! キーパーの手先は命より大事ですよ!」

「フーチ先生、死んだらクィディッチの試合は出れないと思いますけど……」

「死んだぐらいで試合に出れないわけがないでしょう! さあ、皆さん集まってください! 明日のメンバーを発表しますよ」

 

 フーチ先生がメチャクチャなことをいいながらもメンバーを発表するために僕ら選手をコテージの中央のスペースに集める。

 

「ではキーパーから。オリバー・ウッド! 彼はゲーム内キャプテンも務めます」

 

 まずは当然のようにオリバーの名前が上がる。まあ、プロ入りも内定してる彼は正直言ってぶっちぎりだ。ロンには悪いけどここは鉄板。

 

「そしてシーカーは……ハリー・ポッター!」

 

 次に僕の名前が上がる。レイブンクローのチョ・チャンさんと交代で試合に上がっているけど、今回は僕の出番のようだ。

 

「視野や戦術理解度の点でチョは優れていますが、今回は純粋なキャッチングの能力で優れているハリーを選びました……次はビーター! ジョージ・ウィーズリーに、ダンカン・イングルビー!」

 

 チームが少しざわつく。ダンカン・イングルビーさんはレイブンクローで何年もレギュラーを張っていたビーターで、これまでも起用はあったから彼が選ばれたこと自体は意外じゃない。意外なのは、ジョージとフレッドの双子コンビを崩してジョージだけ起用したからだ。

 フレッドがフーチ先生に疑問を呈す。

 

「選ばれなかったのが不満というわけじゃないが……俺とジョージを切り離すのはホントに正解なのか? ビックリだぜ」

「確かに今回の采配が少しばかり奇妙なのは認めます。ですが、次の相手は下部組織チームとはいえプロ。勝つためには奇策が必要です……このあたりはメンバー発表後の戦術ミーティングでまとめて話します」

 

 フレッドの疑問にフーチ先生はある程度答えつつもメンバー発表を優先した。

 

「続いてはチェイサーです。マーカス・フリントにタムシン・アップルビー、そして……」

 

 名前が上がったのはまずスリザリンのプロ入りがほぼ確定的なフリントさん。それにハッフルパフのエース・チェイサーであったアップルビーさんの名前が呼ばれた。ここまでは順当。そして……

 

「ドラコ・マルフォイ!」

「僕!?」

 

 最後のメンバーで名前が挙げられたのはドラコだった。今までのホグワーツ合同チーム、先発の機会は今までゼロ。今までであれば僕としてはお馴染みのグリフィンドールのエース、アンジェリーナだったり、ハッフルパフのアルジャーノン・カドワラダーさんあたりが起用されることが多かった。

 

「呼ばれなかったメンバーもきちんと明日に向けてコンディションを整えておくように! なにが起きるかわかりませんからね。もっとも、交代枠を使う予定はありませんが」

 

 ホグワーツの中での寮対抗試合は学生向けのジュニアルールで、プレイヤーの保護のために重大な怪我のとき以外は選手の交代が認められていない。一方、これからの試合は最近プロリーグで運用されている英国クィディッチ協会ルールだ。若干の戦術的な交代が認められており、主に長引いた際のシーカーや負傷した選手の交代などに使われている。

 けど、フーチ先生はそのルールを使う予定はないらしい。

 

「まず、大前提を示します……バリーキャッスルバッツU-18。出場するのは18歳以下の選手ばかりとはいえ、相手はプロです。戦力や連携、戦術の面で大きく開きがあるのは認めなければいけません」

「となると……短期決戦か」

「その通りです、マーカス。ですからシーカーのタスクはまずシンプルです。ブラッジャーを引き付けるなどのチェイサー側のサポートは不要です。一秒でも早くスニッチを掴む、ハリー、あなたへの要求はそれだけです」

 

 それだけって、それが一番難しいんだけどなあ。とはいえ、フーチ先生もそれは重々承知だろう。

 

「次はビーターです。ビーターの皆には酷な言かもしれませんが……相手ともっとも実力差のあるポジションでしょう。ブラッジャーがこちらの主導権にある時間帯は少ないはずです。体格の面でプロに及んでいる選手は一人もいません」

「なんでそれだと俺たちの連携がいらなくなるんだ?」

「不要というわけではありませんが……優先度が落ちるということです。息を合わせての『ドップルビーター防衛』などは強力ですが、プロ相手にやれる機会はないでしょう。となると、必要なのはバットのスイング能力よりも、ブラッジャーの行く末を注視し正しいポジションに動ける視野と考えました。その点でレイブンクローのダンカンは素晴らしい能力を持っており、周囲を見る能力に関してはジョージがわずかに勝っていると私は判断しました」

「……さすがフーチ先生。俺と()()()()の見分けがつくんだな」

「当たり前でしょう。連携しやすいポジションへ飛び込むのに長けているのがジョージ、奇抜なトリックプレーをより好むほうがフレッド、あなたです」

 

 ちょっとした引っかけにも動じず答えたフーチ先生の言葉にフレッドは納得したようで、再び座り込んだ。

 フーチ先生はビーターへの指示の詳細を話し始めた。

 

「そして、ビーターの皆さん、最優先目標は言うまでもないことですが敵シーカー、ビクトール・クラムです。言うまでもないですが、彼はU-18の枠に収まらない世界レベルの選手です。全ポジションでサポートする必要があります」

 

 そう言われると、まるで僕が五分の条件だとクラムに勝てないみたいだけど……さすがにそれは口に出すと白い目で見られそう。スネイプ先生が居たら「さすがあの男の息子だけある。傲慢だな、ポッター?」とか言ってきそう。

 さて、次はチェイサーへの指示だ。現代クィディッチでもっとも難解で戦術の幅が広いのはこのポジションだ。ドラコはシュートやパスの精度の面では他の年上の選手たちと比較して劣るけど、すごい繊細なライン単位*1の飛行技術を持ってたりする。マーキングとかさせたいんだろうな。

 

「最後に……ここがもっとも重要かつ複雑です。それができるメンバーを揃えました……その前にマーカス!」

「なんです? フーチ教授」

「あなたは攻撃に専念してください、徹底的に縦の動きを繰り返すように。以上です。では、他のメンバーに複雑なタスクをお話ししますね。ミス・グレンジャー!」

「俺はそういうのできないと思われてます?」

 

 フリントさんの唸るような声をスルーして(横でオリバーが大笑いしていた)、後ろからプリントを持って現れたハーマイオニーがそれをドラコとハッフルパフのアップルビーさんに向けて渡す。

 

「はい! あなたがた二人のタスクは多岐に渡るわ。まず、最優先の課題は150点差つくまでの時間をできるだけ引き伸ばすことね。気を悪くするかもしれないけど……プロ相手にチェイサー側でリードを狙うというのは現実的でないわ」

「それは僕たちもわかっている、グレンジャー」

「なので、基本的にクアッフルはフリントさんに持たせることを狙うわ。クアッフルを前線に運ぶという意味では間違いなく一番優れてる選手が彼だから」

「向こうだって馬鹿ではないだろう。特定の選手にクアッフルを集めていることが看破されたらどう動けばいい?」

「それでも大きく作戦は変えなくていいわ。彼にマークがつくようになれば1人向こうの攻撃参加が減るわけで、それだけでも点差が開きにくくなるはずよ。まあ、あんまりにもフリーにさせてもらえたなら自分でクアッフルを持って上がるぐらいはいいと思うけれど。その辺の柔軟性も期待してお二人をフーチ先生は選んだんだと思うわ」

「……フン! グレンジャーに褒められても大して嬉しくはないな」

「そしてアップルビーさんは基本的に守備寄り。ブラッジャーの位置の管理と指示出しもお願いするわ。そしてドラコだけど……今言った仕事を全部しながら、ビクトール・クラムのマークについてほしいの」

 

 ハーマイオニーはドラコに対して、なかなかハードな任務を貸す。

 クィディッチは進路妨害をした側が反則になる。シーカーを体で止めるのはなかなか至難の業だけど……

 

「直接触れない、反則にならない位置でビクトール・クラムを止める……完全に止めるのは無理だけど、とにかく動き出しを遅くさせて彼の動きを妨害する。世界最高の箒をものすごい精度で操れるあなたが適任とみて、フーチ先生は抜擢したんだと思うわ」

「……まあ、マグル生まれの連中と比べて、ずっと僕は箒の練習をしてきたからな。9歳の誕生日のときから……いいだろう。やってやる」

「任せたわよ!」

「さあ、戦術ミーティングは終了です、昼食の時間です! そのあとはコンディション調整のミニゲームを行う必要がありますから……時間は有限! テキパキ動く!」

 

 

 

 翌日。

 僕たちはネイ湖のキャンプ地から北上し、海に面したダンルース城に近づいていた。

 マグルからは古城にしか見えない保護がかけられているここに、僕たちが試合を行うクィディッチのスタジアムがある。

 

「おいおい、ここからでも歓声が聞こえるぜ」

 

 まだ僕らはスタジアムの外にいるのだけれども、それでも肌が震えるほどの声量の歓声が響いてくる。

 バリーキャッスルバッツ。アイルランドに2つあるクィディッチチームの一つだけど、熱狂的なサポーターで知られているチームだ。そしてアイルランドの南側にあるケンメア・ケストレルズのサポーターとは激烈に仲が悪いことでも知られている。ホグワーツを出る前、ケストレルズのサポーターであるシェーマス・フィネガンからは「できればバッツをボコボコに打ちのめしてくれ、それができなきゃクラムの首の骨だけでも……」と本気か冗談かわからない声援をもらったのを覚えている。たぶん本気だ。

 僕たち選手が箒に乗ってスタジアムに入場していくと……思わず一瞬、耳を塞いだ。とんでもない量のブーイングだ。

 

「うわ、これホイッスル聞き逃しそう。ドラコは耳大丈夫?」

「ファイアボルトにはブーイング音声カット機能もついている……とはいえ、この光景だけでも精神には来るな」

 

 僕たちはなんやかんやでホグワーツ代表チームとしてどこに行って試合するときもかわいがられてきた。だってイギリスのクィディッチファンなんてみんなホグワーツで選手やったり観客席で声を張り上げてた経験があるわけだからね。

 だけど、流石にプロチームの(それも下部組織の試合もしっかり見に来る)サポーターの熱量は段違いだ。僕らにも容赦なく敵意を浴びせてくる。

 

「すげえ客だ!こんな客の前で試合するなんて本望だな」

「ウッド、お前の中ではこれがゴールなんだな。俺にとってはプロ入り前の練習と言ったところだが」

「ああん? ユナイテッド入りが内定してる俺と違ってフリントはまだ未定だろ。なにもうプロ確定みたいな顔してんだ」

「馬鹿言え。今は条件交渉中だ。プロ入りはまず間違いない……どこも俺を喉から手が出るほど欲しがってる」

「スポーツ紙で言うところの『まず間違いない』だな。信頼度はせいぜい3割ぐらいだろ」

 

 ……でも、最上級生二人は平然とその観客席を眺めていた。さすがだ。

 

「心臓に毛が生えてるのか? うちの主将とグリフィンドールの主将は」

「でも、ちょっとは緊張がほぐれたかも」

 

 ホグワーツで試合するときと大差ない光景(つまり、毎試合恒例のオリバーとフリントさんの口喧嘩)を見て、萎縮してた他のメンバーの緊張もかなりとけたらしい。コンディションは最高だ。

 もちろん、試合は厳しい展開になるだろう。相手はプロ。世界レベルのシーカーと勝負するのは初めてだ。

 いま観客席にいる人たちは学生のアマチュアチームに贔屓のチームが負けるなんてこと、想像してもいないだろう。

 

 でも、彼らの口をあんぐり開けさせるジャイアント・キリングは……クィディッチの醍醐味の一つだよね?

 僕は観客のブーイングの中で聞こえたもののうち、一番口汚い罵倒を飛ばしてきたほうに向かって手を振ったのち……地面を蹴って宙に浮かぶ。

 

 

 試合開始を告げる、ホイッスルが響いた。

 

 

 

*1
1/12インチ

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