ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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115.努力は影 光を浴びるのはずっとその後(3)

 スタジアムの熱気は最高潮だ。

 下部組織対アマチュアの対決などでここまで人が入るのは珍しい……まあ、相手がなんてったって今をときめくホグワーツ合同チームだからね!

 愛しの母校の選手たちをひと目見たいというだけで来た観客も少なからずいるのだろう……もっとも! そんなぬるい気持ちのお客さんも、スタジアムに足を踏み入れれば、一瞬でゴール裏のホームサポーターの熱狂が伝染し、周囲の声に合わせて叫び散らすことになる。それがクィディッチだろう?

 

「いやあ、これはバッツいい入りじゃないかな? 開始直後のドロップされたクアッフルを奪って前進! いつもの攻撃態勢を敷いた!」

「本日の解説には元イギリス代表のルード・バグマン氏にお越しいただいております」

「ええ、皆さんよろしくお願いします! 省はちょっとしたトラブルでクビになってしまったからね、しっかり稼がないとね!」

「ちょっとしたトラブル? 競技場の建設についてのトトカルチョを魔法ゲーム・スポーツ部の長が主催したのはさすがにちょっとではないのでは?」

「それはいいっこなし! だいたい、今の省じゃあ賄賂もらってない人間のほうが少ない有様なんだ。そんな中公平な賭け事でちょっとばかしテラ銭をいただいたぐらいで……そんなことはいいんだ、試合に集中しよう! 早速バッツのデヴィッド・バルフェが得点! ホグワーツ代表はやはり苦しい立場か!」

 

 横の実況の人間が余計なことを話し出す前に、バッツが決めてくれて助かったね。

 ホグワーツはシーカーを縦横無尽に飛ばせ、チェイサー陣も頻繁に周囲を見回しながらハンドサインを送っている。

 スニッチをできるかぎり早く見つけて短期決戦を狙う弱者の典型的な戦略を採用したようだ。

 

「バッツのメンバーに関しては入場時散々言いましたからね! では、試合が始まってからとなりますがホグワーツチーム側の注目選手についても触れておきましょう。まずは一人目! このゲームの鍵になる……かもしれないのがキーパーのオリバー・ウッドです。パドルミア・ユナイテッドへの加入が既に報じられています」

「ユナイテッド? あんなチームに入るのが正解とは思えませんね」

「スタジアムのサポーターの声の代弁、ありがとう! とはいえ彼のクオリティが拮抗していることに触れないわけにはいかないね」

 

 実際は拮抗ではなく、上回っている……と私は思うのだが、ここでアウェーチームの選手を褒めすぎるのは自殺行為だからね。

 とはいえ、ホグワーツのポジションのうち、個々の質で上回れているのはここだけだ。

 ビーター陣もチェイサー陣もやはり全体で見れば劣っている。シーカー? 相手はビクトール・クラムだぞ?

 

「そして、チェイサー陣を率いてると見られるのがこちらもプロ入りが盛んに報じられているマーカス・フリント! この試合の内容如何で市場価値が動くと見られていたけども、どうやら下がることはなさそうだ」

「試合の展開で少し驚いたことがあるのですが……ホグワーツのチェイサー陣はかなり攻撃的ですね? これぐらい力の差のある対決だと、たいがいチェイサー側はがっちり守備を固めて『お祈りシーカー』するのが一般的だと思いましたが」

「その通り。しかし……なぜ守備を固めるかといえば、点差が開くのを遅くするためだ。0対30も200対230も30点差なのは変わらない。どうやらウッド選手の強みは前線に投げ込む荒っぽいが鋭いロングパスのようだ。これをフリント選手が恵まれた体躯を生かしてこれまた強引に収めて起点にしてしまう。この二人の選手を軸として粘るなら合理的な戦術に思えるね!」

 

 そして、声に出しては言わなかったものの、一番の理由は個として唯一の優位点がキーパーにある点だろう。

 この差を最大限拡張するためにどうしたらいいか? 必要なのは10分あたりシュート数本の消極的な試合ではない。お互いにシュートを打ち合う乱打戦に持ち込むことだ。

 実によく練られている作戦だ。

 ハードワークの次にマーリンを崇めている、懐かしき愛しきロランダ・フーチ女史が考えた作戦とは思えない。元プロチームのコーチでもバックにいるのかね?

 しかし、よく設計されたチームが勝つとは限らないのがスポーツってもんだ。

 

「なるほど。ホグワーツチームも食らいつき点数を重ねていますが……やはりプロが上手に回っています。バッツU-18がリードを保っています、40対30!」

「まあ、長引けばこのリードはどんどん開いていくでしょうな。攻撃的なホグワーツチームにいささか面食らい、多少の混乱はあったようですが対応し始めましたね」

「となると、あとはシーカー次第?」

「とも言えないのが現代クィディッチの面白いところだ。ホグワーツチームのチェイサー、ドラコ・マルフォイがいい動きをしてるね」

 

 器用に動き回る若きチェイサー(シーカーと並んで最年少かね?)の名を上げると、実況の男は少し驚いた様子で問い返してきた。

 

「そうなのですか? 先ほど彼のパスミスから失点に繋がるシーンがありましたが」

「チェイサーの点の取り合いだけ見ると確かに及第点とはいえない。ただ……ビクトール・クラムに対して細かな動きでうまくプレッシャーを与えている」

 

 確かにパスは粗く、クアッフルを持ったときの動きが手慣れているとはいえない。だが。

 

「プロのシーカーが試合中、もっともよく見るものはなんだと思うね?」

「はあ、それはやはり……金のスニッチでしょうか?」

「はっはっは、シーカーが試合中に金のスニッチを何度も眺めることがあったらプロとして失格だよ、じっと見る前に手を伸ばさないとね。答えはブラッジャーだ。いいシーカーは皆ブラッジャーの位置を常に把握しようとする。当然、クラムにもなればビーターの位置も頭に入れているだろうな。私はプロのときビーターとしてプレイしていたが、良いシーカーはひと目でわかった……今も名前が知られているような名シーカーとは試合中、よく目があったものだ」

「なるほど。確かにスニッチが見つかるまでの間のシーカーの主な仕事は、ブラッジャーによるダメージを回避しながらできるかぎり高速でスニッチを探索し続けることですからね」

「そういうこと。だが、この試合に限ってはそれを邪魔している選手がいる。それが彼、ドラコ・マルフォイだ」

「ああ、確かに! 今も位置をコントロールして、味方のビーターとクラムの間を飛んでいますね! 視界を遮る動きをしています」

「それだけじゃない。ほら、今度はこうやって距離を詰めて……背中に張り付く。それを見たホグワーツチームのシーカー……ポッター選手だね、彼はクラムの背後に向けてフェイントを入れた。さすがクラムだ、後ろに一人敵選手がいてもうまくかわしてターンしてみせたが、それでも一瞬動き出しが遅れたのは否めない。こういうことを何度もやっていると……後ろに常に彼がいるように思えてくる。シーカーによる短期決戦に備えたいい動きだね」

 

 こういう動きが自然にできるということはシーカー経験者かね? それにしても飛び方が堂に入っている……13歳とは思えないね。

 シーカーの視線を遮る、とは言ったもののそれは言うほど簡単なテクニックではない。なにせビーターもシーカーも当然常に動いているんだ。その間を飛んでシーカーの視線を切るにはかなり繊細な箒のコントロールが必要だ。相当長い時間を飛行の練習に費やしたに違いない。マルフォイというのだからマルフォイ家の倅で、となれば十中八九スリザリンだろうが……こういう()()()はまるでハッフルパフの連中のようだなあ。

 嫌な時代になったもんだ。俺の時代で、生まれたときから魔法界の名家の人間(いけすかない奴)が反復練習を苦にせず打ち込んでたら、俺はプロで食ってくなんてとてもできなかっただろうな。俺自身、練習に熱心とはとてもいえない選手だったし。

 箒の才能さえあればクィディッチで食える時代の終焉を見てるのかもしれないな。

 だが、気張れよホグワーツ学生諸君? お前らが相手にしてるのはその時代の最先端、箒の才能だけで海を渡ってきたやつだぜ。

 

「とはいえ、クラムももちろん無抵抗ではないようだね。加速と減速、ターンを繰り返して振り切ろうとしている。マルフォイ選手も負けじと食いつこうとするが……うおう! スタジアムの壁でとんでもないターンを決めやがった! ……いや、しかしターンを決めて視線が切れた瞬間! バッツのマガウアンがスイングする直前のブラッジャーをホグワーツのビーター、赤毛のジョージ・ウィーズリーがインターセプト! クラムのほうめがけてぶち込んだ!」

「これは……マズいですね! ターンして態勢が崩れているところ、しかもブラッジャーの出どころをクラム選手は把握できていません! もしシーカーが序盤でノックダウンとなれば、ホグワーツ側にもチャンスが……」

「ああ。もちろんその可能性も……うんわぁ、たまげたな。完全に反射だけでかわしやがった。しかも手放しで? こんなことされたらビーターは全員廃業になる日も近いぞ。引退しててよかったぜ」

 

 クラムはホグワーツが連携して作ったシーカー潰しの狙いを、個人技だけで避けやがった。

 いやあ、これが天才ってわけか。今日スタジアムに来たファンは、まばたきしてなけりゃあ今のだけでも元が取れたね。

 

「難を逃れたクラム選手、味方のビーターに対してちょっとイライラした様子で怒鳴っています」

「俺がビーターだったから肩入れするわけじゃねえけど、怒られるほど悪いプレイじゃねえと思うけどな。とはいえ、クラムからすればもっと集中してくれと言いたくなるのは間違いない」

「さて、仕切り直しです。先ほどまでと似た形になりました。今のブラッジャーのやり取りの間にもスコアは進んで90対50。徐々に差は開いております」

「とはいえホグワーツ側は態勢を変えません。チームのシーカーを信じているようです。再びチェイサーが一人クラムに寄せて……いや! ホグワーツ側のシーカーが猛然と動き始めました! 真か偽か!?」

 

 これがフェイントじゃなく本当にスニッチを見つけたとしたら……肝心のクラムをブラッジャーで牽制し、チェイサーが一人体を当てて抑えられている状況でスニッチを先に見つけられたということになる。ホグワーツ側としては理想的な形だ。

 多少の実力差があっても、普通ならこれは負けを覚悟しなきゃいけない。

 そこに存在しているのが多少の実力差……であるならば、だけどね。

 

 

 ――――

 

 

 フェイントじゃない。本気だ。

 僕はスニッチを見つけた合図を司令塔であるハッフルパフのアップルビーさんに出すと、こちらのチェイサー陣が動いてクラムの進路を塞ぎに行く。

 一番近くにいたドラコは反則にならない範囲でチェックに行く。だが……

 

「ああっと! マルフォイ選手をクラムが払いのけてそのまま前を向いた! 加速を始める!」

「これは反則の可能性はありますか?」

「いやあ、肘打使用(コビング)にはならないね。肘より上しか使っていない……手首だけで相手の体の重心を見抜いて動かしたんだな。惚れ惚れするね」

 

 実況の声によると、どうやらドラコをかわしてこちらに迫っているらしい。ただ、もう振り返って確認する余裕はない。姿勢を小さくし加速させる。

 亜音速の世界で箒体は熱を持ち、風は刃となり、思考は波となる。天地と水平さえ歪な世界。実況の言葉すらも雑音だ。目に映るもの以外の情報を頭から追い出す。

 一瞬でクラッシュする緊張感。スニッチから目を離さないままに壁とブラッジャー、他のプレイヤーをかわしていく。このスピードになると咄嗟にかわすなんて無理だ。頭の中で視界の情報を絶え間なく処理しながら、当たらないギリギリのコース取りを予めしていかなければならない。修正の余地はごくわずかだ。

 ニンバス2000の先端をわずかに揺らして減速を最小限にしながらコーナリングしていく。目前のスニッチに対して手を伸ばしたい気持ちをぐっと抑えながら(姿勢を崩すと速度もコーナリング性能も落ちる。理想はキャッチの瞬間だけ、だ)、小刻みに動くスニッチへ距離を詰めてにじり寄っていく。

 

 だが。

 ついに風切り音が聞こえた。真後ろ。その音は一切揺らぎがない……つまり、コースの修正も減速もなく、まっすぐに加速して近づいてきているということだ。

 普通はそんなことできない。選手とブラッジャーの位置と速度を完全に把握し、自分の出せる加速度も計算して絶対にどれにも当たらない確信がない限り……それはできない。

 

「とんでもない速度でクラムが迫っていく! 距離をぐんぐんと詰めていくが間に合うのか、あの大差を詰めて間に合ってしまうのか?!」

 

 いや。クラムがすごいのは知っている。彼の箒の加速力も知っている。それでも、僕が前にいる優位は変わらない。背後から風切り音がするということは完全にコースがかぶっているということだ。そうなれば前にいる側が圧倒的に有利。どんな名選手もキャッチングの瞬間は減速しなければならないのだ。

 スニッチは目前。僕はついに手を伸ばした。

 指先に金の冷たさが伝わる。あとほんのちょっと、1インチほど――――!

 

 

 そのスニッチは後ろから一切減速せずに僕の頭上を通過していったクラムによって弾き飛ばされた。彼の足の先がスニッチの翼に触れたのだ。

 まずい。分が悪いとみてやり直しを狙って来たか!? 減速せず突っ込んでいったクラムは勢いよく飛び去っていく。僕は彼から視線を外し、スニッチを探す……あった! スニッチはどうやら弾き飛ばされた勢いで外周部、客席と競技場を隔てる壁にぶつかったようだ。

 超高速で乱反射するスニッチを掴むべく。僕は急ブレーキをして、腕を伸ばす。

 

 その腕が払われた。

 指先一本。反則ではまったくない――けれど、これまでやりあったどのシーカーの競り合いよりも力強い。

 クラムは減速しきっておらずくるくると回転している。超高速で突っ込んだシーカーが無理やり急減速してきりもみ回転。普通ならキャッチングどころか墜落コースだ。

 だが、クラムは回転しながらキャッチの態勢に入り……そのまま指2本でスニッチの翼を引っ掛けた。そのままスピードをほとんど緩めずに外側に流れていき……壁にぶつかって競技場の地面に投げ出され、彼は止まった。

 

 当たり前だが、ゲーム中に競技場の地に足を着けるのはクィディッチでは反則だ――ゲーム中であれば。

 土だらけのクラムは、高々と右手を掲げた。

 

「試合終了――!! 240対50 バッツU-18の圧勝です!」

 

 審判が試合終了の笛を吹くと実況が試合終了を告げた。

 一歩及ばなかった……とはとても言えない。これだけのサポートをチームのみんなにしてもらったのにそれでも競り負けたのだ。

 悔しい気持ちのまま箒を降り、グラウンドにへたり込む。

 そんな僕の肩を叩いたのはチームメイトではなく……対戦相手だった。

 ビクトール・クラムは少し訛った英語で僕に声をかけた。

 

「ヴォくが君ぐらいの年のとき、プロと戦えと言われたら……これほど戦えなかったです、と思う」

「……」

「立ち上がって胸を張ろう。観客はそれを望んでいる、と思います」

「……勝者が敗者にかける言葉にしては、ずいぶんと厳しくない?」

「一瞬遅れていたら、僕の名誉と実績は粉々でした。ライバルを子供扱いはしません」

 

 そう言って手を差し伸べてくれたので、僕はその手を掴んで立ち上がった。

 そして観客席に手を振ってみると、歓声が沸き上がる。入場時はひどいブーイングだったのに調子がいいなあ。

 そんな中でクラムはというと……ユニフォームを脱いで、僕に手渡した。なんで?

 

「実は、これが目的でした……こうしないと他の選手に君のユニフォームが取られてしまいそうで」

「……あ! ユニフォーム交換か! うわ、初めてだよこんなの」

 

 プロの試合を見に行けば毎試合やってて僕だって見たことがあるのに、実際自分がやる場面になるとすっかり頭から抜けていた。慌ててユニフォームを僕も脱ぐと、にっこり笑いながらクラムは交換してくれた。

 それを見ていたのか、後ろからドラコが僕に叫んできた。

 

「汚いぞポッター! 僕だって欲しかったんだ!」

「ふふ……彼もいい選手でした」

「ああ。ありがとう、ドラコにもあのクラムが褒めてたって伝えておくよ」

「いえ、その必要はありません」

「……?」

 

 意味深な言葉を残して、クラムは去っていく。

 僕たちはその背中を見ながら、スタジアムを敗者として後にした。

 

 

 

「えー……この度は残念な結果となりましたが……」

「おい! 相変わらず堅いぞパース!」

「だいたいなんでパーシー・ウィーズリーが音頭を取ってるんだ? ウッドが音頭を取るのも気に食わないが」

「それは僕が首席だからだ!」

「理由になってるか、それ?」

 

 僕たちはネイ湖のコテージに戻り、ささやかながら残念会を開いていた。

 夕食を食べたら今日のうちにホグワーツに戻る予定の僕たちは、アイルランドキャンプでの最後の食事を過ごしていた。

 

「いやー……でも悔しいなあ。あれだけお膳立てしてもらったのに負けちゃうなんて」

「なーに生意気言ってるのよ、ハリー」

「うわ! アンジェリーナさん!」

「あのジョージなんか一回しかブラッジャー触れてないのよ? ウッドも偉そうにしてるけどかなりの数のゴールを許したし。あんたみたいな青二才が全部背負ってうなだれるなんて勘違いも甚だしいわよ」

 

 グリフィンドールのチェイサーで姉貴分のアンジェリーナさんは僕の頭を荒っぽく叩きながらも気を遣ってフォローをしてくれた。ちょっと手荒ではあるけど。

 

「おいロニー、実はこっそりとアイルランドのバタービールを手に入れてきたんだ」

「フーチ先生にバレないように飲もうぜ。俺たちに譲ってくれたクィディッチファンによると、ホグズミードで買えるものとはアイルランドのバタービールは味がかなり違うらしい」

「ほんと? そりゃ気になるね」

「それじゃあ開けちまおう。試合中一度しかブラッジャーにさわれなかったジョージを祝して!」

「レギュラー争いに負けたフレッドを祝して!」

 

 僕以外のグリフィンドール勢はというと……ロンと双子のお兄さんがたは相変わらずの大騒ぎ。一番奥のテーブルにいるフーチ先生もその騒ぎは目に入ってはいるものの、止めるつもりはないようだ。

 キャプテンのウッドはなぜかドラコを挟んでフリントさんと負けた原因を押し付け合う口喧嘩をしているもんだから、間のドラコは気の毒そうに縮こまっている。

 うーん、ドラコもこういう敗北に責任を感じちゃうタイプだから、そういう気持ちを吹き飛ばすための配慮なのかも……いや、そんなことないな。あれは二人とも素か。

 そんなこんなで残念会が始まったところで……突然、入り口の扉がノックされた。

 

「来客ですか? そのような予定はありませんでしたが……」

 

 怪訝そうにしながらもフーチ先生がコテージの入り口を開けると……滑らかな外国語――たぶんブルガリア語の挨拶なのだろう――が、全員の視線を引き付けた。さすがスター選手だ。オフでも注目の的は変わらないね。

 

Добър вечер(ドバル ヴェチェル)……こんばんわ、突然の来訪ですみません。もしよければ僕も混ざってもいいですか?」

 

 僕らのコテージの戸口には……(おそらく)クラブの関係者と、手土産を持ったビクトール・クラムが立っていた。

 

 

 

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