ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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116.Close to the Edge

「ヴォくがイギリスのチームに所属するにあたって、一番不安だったのは生活でした。でも、少なくとも食事に関してはすぐに馴染むことができました。フィッシュアンドチップスのようなフィッシュフライはブルガリア人もよく食べています。ブルガリア料理は食べたことはありますか、ハーミイ-オウン?」

「い、いえ……まだ味わったことはないわ」

「ぜひ食べてみるといいです。もしブルガリアに来るのであれば大歓迎です、案内します……黒海に面した透き通った陽が射すブルガリアのビーチを歩くと、必ず香ばしいフィッシュフライの匂いがしたものです。ハーミイ-オウン、あなたの料理を前にした時、鮮やかな青色である母国の海を思い出しました」

「あ、あらやだ。お上手ね、おほほ」

 

 僕たちの残念会に訪れたビクトール・クラムとクラブの関係者さん。

 クラブの関係者さんとフーチ先生は顔見知りだったようで、今はコテージの外に出てなにやら話し込んでいた。その間にあっさりと僕らの間に入って溶け込んだクラムは……ずいぶんとハーマイオニーが気に入ったみたいだ。熱心に話し込んでいる。

 ハーマイオニーは少し顔を赤くして、彼の話に耳を傾けている……少し拙い英語ではあるけど、それが逆に素朴で丁寧な印象を与えているかもなあ。今の彼は世界レベルのスター選手には見えない。

 そんな彼女らのやり取りを眺めていたら、ちょっと不満げな表情の娘が僕の隣に来た。ロンの妹のジニーだ。ウィーズリー兄弟一同が揃って来たこの遠征に彼女も帯同していた。

 ちらっとしか見てはいないけど、彼女の飛行を見た限りでは今後のメンバーの有力候補でもある。

 

「私だって料理は作ったのにね」

「あ、ジニーも手伝ったんだ。どれを作ったの?」

「そこのジャケット・ポテトとか。ママから教わったレシピで作ってみたの……どうかしら?」

 

 彼女が指さしたジャケットポテト――皮付きの切り込みを入れたジャガイモを鉄板で焼いて、その上にトッピングを加えた料理だ――を見ると、トマトソースで煮込んだビーンズが山盛りで乗せられており、その上にこれまたたっぷり刻んだチェダーチーズをまぶしてあった。これは確かにおいしそう。

 僕はその料理にかぶりつくと、ジニーはにっこりと笑った。

 

「うん! すっごく美味しいよ」

「ありがとう、ハリーさん」

「それにしてもお兄さんがたもいるとはいえ、まだメンバー入りしてないのに応援で来るなんてすごい熱心だね。クィディッチは好きなの?」

「大好き! だからついていけば勉強にもなると思ったし、あとはトラブルのときにベンチ入りぐらいはできたかもしれないと思って」

「確かに。練習中の怪我だってあるもんね」

「『キャンセル待ち』でもなんでも、諦めなければチャンスが訪れるかもしれないからね」

「……? そうだね」

 

 そう言ってジニーは僕を見て意味深に笑った。うーん、すごいやる気を感じるなあ。僕の正シーカーの座を狙ってるのかな。

 そんなジニーの笑顔が急に険しくなった。隣に来たロンに対してのものだ。僕は一人っ子だからわかんないけど兄妹ってこういうとこあるよね。

 

「邪魔しに来たの?」

「なんだよジニー、僕はハリーと話に来たんだよ。なあハリー、気に入らないと思わないか?」

「え、なにを……? というか、なんか顔が赤いけど」

「いいんだよそんなことは。なあ、見ろよハーマイオニーとクラムを。あんな長々と話し込んで……ハーマイオニーもハーマイオニーだよ、たどたどしい喋りが逆にかわいいみたいな顔しちゃって!」

「そんな顔してるかな……というか、どんな顔?」

 

 なぜかいつもより饒舌なロンに怪訝な表情をしながらも相槌を打っていたが、ロンはどんどんヒートアップしていく。

 

「学生のうちにちょっとプロチームに所属してるぐらいで、偉そうに……いや偉そうではないか、偉いんだからマルフォイみたいに振る舞えばいいのに、謙虚な言動しやがって!」

「言ってることが無茶苦茶になってきた……」

「うおーっし! こうなったら直接言ってやれる! おい、クラム! その……ハーマイオニーを……く、口説くのはやめろ!」

 

 ついにロンは立ち上がってクラムの方向へ歩いていき直接話し始めた。周囲の人間も止めるでもなく、むしろウッドやアンジェリーナさんはそれを囃し立てている……ただ、ちょっと気になったのは部屋の隅にいるジョージとフレッドだ。こういうときは一番騒ぎそうなものなのに、なぜか顔を青くして戸惑っている。なんでだろう?

 

「あー……君はどなたですか?」

「僕か? 僕はロン・ウィーズリーだ! 聞こえなかったなら何度でも言ってやる! ハ、ハーマイオニーを、口説くのはやめろ!」

「口説く! そうです、すっかり忘れていたんですが、ヴォくは今日、口説きにきたのでした」

「へ!? く、口説きに!?」

「な、なにをーっ!」

「ハーミイ-オウン、ありがとうございました。実に素敵な時間でした」

 

 堂々ととんでもないことをロンに言い返し、ハーマイオニーを赤面させながら立ち上がったクラムは、のしのしと人と人の間を抜けて歩いてきて……もしかして、僕に近づいてきてる?

 

「君もです、チェイサーのミスター・マルフォイ」

「ぼ、僕?」

 

 途中でドラコも捕まえてきたクラムは僕の向かいにニコニコしながら座り込んだ。

 

「ヴォくが推薦します。ユースチームと契約しませんか?」

「ああ、なるほど。口説くってそういうことね、びっくりした……」

「ヴォくはホグワーツのことはよく知らないけれど、学内のリーグが盛んな代わりに、ホグワーツ生のプロ入りは珍しいと聞きました。もし、君たちが望むのでしたら、事務方(フロント)としては今年の夏季休暇に実施されるテストにぜひ呼びたいと。僕としても、君たちとプロの舞台で再戦したい気持ちは強いです。難しい決断ですから、今すぐに返事しなくても構いませんが」

「なるほど……うん、僕は参加したいです!」

「ハリー、軽いな!?」

 

 ドラコは驚いた表情で僕を見た。え、そうかな。

 そりゃバッツは僕が応援してるチームじゃないから第一志望ではないけれど、ユース生が別のクラブに移るなんてよくある話だし。テストに参加するだけの話なんだから夏にまた事情が変わったらそう伝えればいいし。なによりパパもママも、まあ反対することはないだろう。たぶん。

 

「まあでも、さすがに家に連絡とったりもあるし、返事は数日あとでもいいかな? 一日ぐらいは考えたいし」

「もちろん。もっと条件のいいとこを探してもいいでしょう……バッツファンには申し訳ないけれど、僕はこのクラブにこだわりがあるわけじゃないですからね」

「ドラコはどうする?」

 

 そう問い返すまで、ドラコは考え込んでいる様子だった。

 正直、僕はドラコこそ即答すると思っていた。一年生のときからフーチ先生の地獄のしごきすら受け入れて、クラブまで作っちゃうぐらいクィディッチにこだわってたのがドラコだ。僕よりも思いは強いでしょ、絶対。

 

「僕に目をかけてくれたのは嬉しいが……お断りする」

「え!?」

 

 だから、ドラコが断った時僕は心底驚いた。

 

「僕はマルフォイ家の世子だ。将来的に当主となる……プロになるつもりはない。従って、ユースチームにも興味はない」

「そうなの!? ていうか、家の跡継ぎだからってクィディッチのプロになっちゃいけないってこともないんじゃ?」

「ポッター家とは違う。マルフォイ家は……イギリス魔法界の政を操る存在なのだ。父上は僕にそう望んでいる」

「……実際にお父さんにクィディッチのユースに入っちゃダメ、って言われたの?」

「いや、そうではないが……」

「というかドラコ自身はどう思ってるの?」

「僕個人がどう思っていようと関係ない。これは家の問題だ」

 

 明言はしないけど、ドラコ自身はどうみてもやりたいみたいだ。

 そりゃ、仕事につくとかそういう段階になったらまた色々問題が生じるのも当然だけど、13か14である僕らがそこまで先回りにして気にかける必要はないと思うけどなあ。

 だが、こうまで頑なならば僕がドラコの考えを動かすのは無理だろう。

 

 ……と、思ってた矢先に。現れてドラコの考えを揺らしにかかったのは、変な様子のロンだった。

 

「なーにが家の問題だっての、お前がクィディッチバカで、時間さえあればクィディッチしたいなんて僕からみても明らかだってのに」

「僕に向かってバカとはなんだ、ウィーズリー」

「バカはバカだよ、やりもしないうちに自分への言い訳を並べてさ! お前がやりたいのは何だよ! 百味ビーンズを一年分賭けたっていい、マルフォイ家のなんたらじゃなくてクィディッチで大活躍して褒められたいんだろ、違うか!」

「そんなこと……」

「ほら、言葉が詰まった! 僕の言う通りだよ、大人しく自分に正直になって……」

 

 言葉が詰まったことを指摘したロンだけど、突然自分も言葉を詰まらせて……突然後ろの壁に向かってしゃがみ込んだ。

 

「おえええええ……」

「うわ! ロンが吐いたぞ!」

「何をやっているんだ、ウィーズリーは……」

「これに関しては俺たちが悪そうだ」

「ロニーには悪いことしたな」

 

 ばつが悪そうな表情で頬を掻くのはフレッドとジョージ。なにかお得意のいたずらグッズでも弟に仕込んだのかと思ったけど、そうではないらしい。

 

「アイルランドのバタービールは……ホグズミードで買う物とはちょっとばかし成分が違うらしい」

「おいロニー、水を持ってきてやったぞ。ほら飲め」

 

 双子の二人がロンを介抱してやってるところで、コテージの扉が再び開き外からフーチ先生と、バッツの関係者さんが入ってきた。

 

「ホグワーツとの提携のご提案はわかりました。しかし、一旦持ち帰りにさせて頂きます。この提案を他のクラブにも……いったい何の騒ぎです、これは!?」

「あー……フーチ先生。俺らがバタービールをロンに飲ませたんだけど……アイルランドのバタービールは、ちょっと成分が強いらしい」

「この……大バカもの! 未成年になんてものを飲ませるのですか!」

 

 怒鳴りながらロンに近づき、吐瀉物を魔法で消したフーチ先生はロンの様子を伺っている。

 当のロンは赤い顔のまま促されるままに水を飲んでいる。

 

「はあ。飲んだ量が大したことはなかったのか、今のところ別状はなさそうですが……たとえ過誤であってもあなたがた二人は猛反省するように! この件はアーサーとモリーに伝えておきます!」

「そ、そんなことしたら大騒ぎになるぜ!」

「月曜の食事の時間が吠えメール(ハウラー)で邪魔されるのは、フーチ先生にとっても愉快ではないよな?」

「お黙りなさい! これでも極めて寛大な措置です。もし、同じことが二度あれば……それが過誤でも極めて重い罰をあなたがたに課します、覚悟しておくように!」

 

 フーチ先生は頭に手を当てている。

 そりゃそうだろうな。帰る間際のトラブルだ。

 

「この食事後にホグワーツに帰るつもりでしたが……こんな状態の人間を連れていくわけにはいきませんね……ウィリアム! チャールズ!」

「ああ、弟たちの面倒をみろって話ですか?」

 

 フーチ先生は、トラブルの対処のため、すでに成人しているロンのお兄さん二人、ビルさんとチャーリーさんを呼び出した。

 

「ええ。このコテージ自体は帰りの悪天候なども考えて明日まで取ってあります。メンバーの半数は私が引率して今日のうちに帰しますから、申し訳ありませんが残った中で大人としてきちんと責任をもって保護するように。まあ、チャールズはともかくウィリアムはそのあたりソツなくこなせると思いますが」

「ええ? ひどいな、先生。まあビルは確かにそういうタイプだけど」

「承った。まあパースもいるし、なんとかなるだろう」

「箒を始めとした貴重品だけは先に帰る車に乗せておきましょう。忘れ物などしたら面倒ですからね」

 

 大人組が帰り支度を始め、クラブの関係者さんとクラムもそろそろ戻るということで頭を下げた。

 

「ポッターさん、君たちはとても楽しそうです。ダームストラングではこんな愉快なこと、めったに起きません」

「うーん……僕らも別に日常茶飯ってわけでは……いやそうでもないな……? 結構あるな?」

「マルフォイさんもぜひ、考えるだけ考えてみてください。まあ、アイルランドのチームに所属するという体裁の問題であったり、あるいはイングランドのほうから離れて練習しづらいという事情があるのでしたら、別のところへの紹介もできるかもしれません。クラブには内緒になりますが」

「……まあ、考えてはみる」

「ぜひとも! また競技場で会える日をお待ちしています!」

 

 そう言って笑顔で手を振って、クラムはその場を後にした。

 

「……さて、今日はどうするんだ、ハリー。先発の便で帰るのか?」

「うーん。少しこっちで考えたい気持ちもあるしなあ。残るつもりだよ。ロンも心配だし」

「まあ、結論を出すなら確かにアイルランドにいる間のほうが良いか。僕も残るとしよう」

 

 どうやらウィーズリー家一同、およびドラコは残るらしい。ハーマイオニーはどうするのかなと思ったけど彼女は顔を真っ赤にしながら、先発便に乗り込んでった。他の人も先発便の様子。僕らは先に出るほうの拡張魔法がかかった車のトランクに、箒を詰め込んで彼らが発つのを見送った。

 

 

 

 ――――

 

 

 遠くでなにか物音が聞こえた気がして……僕は飛び起きた。

 そのまま耳を澄ませてみても……騒がしい音は聞こえない。どうやら気のせいのようだ。まあ、それも当然だろう。こんな粗末な小屋で寝るなど、僕は初めての経験だ。

 寝袋が敷かれただけの床。マルフォイ家の寝室どころか、スリザリン寮のベッドとすらかけ離れた寝心地だ。いい眠りができるわけがない。

 なんとか眠りにつこうと試みるが、一度覚めてしまいなかなか寝入ることができない。

 仕方ないので僕は、起き上がってできるかぎり音を立てないようにしながら、外の空気でも浴びるためにコテージに付属しているウッドデッキに出た。

 するとそこには先客が。フクロウに餌をやっているハリーだ。

 

「ほら、ヘドウィグ。餌を忘れてたのは謝るからあんまり騒がしくしないでね……あれ、ドラコ。もしかしてうるさかった?」

「なにかの物音で起きたのは事実だが、寝心地が悪いから眠れなかっただけだ」

「僕も狭いところで寝るのは苦手だなあ。別にそういう経験が今まであったわけじゃないんだけど、閉じ込められてる感じがして……その浅い眠りのところをヘドウィグがつついてきてさ」

「お前だけ起こしたのか。賢いフクロウだな」

「まあね」

 

 ウッドデッキのベンチに腰掛け、ハリーの腕で餌を貪るフクロウを眺めていたところ……どうやら寝入れてなかったのは僕たちだけではなかったらしい。

 湖の方向から二人、歩いてきた。

 

「うえー……気分悪い。なに、晩の僕はそんなヤバいこと言ってたの?」

「そうよ。私とハリーが話してるとこに割って入ってきて邪魔するし、全員の目の前でハーマイオニーさんにとんでもないことを言ってたし」

「とんでもないこと!?」

「……おい。騒がしいぞ、ウィーズリー。皆眠っていることを考えろ」

「うわ、嫌な奴と……ハリー」

 

 その二人とはウィーズリーの兄妹(ロンとジニー)

 どうやら惨めにもゲロを吐いていたウィーズリーはようやくマシな状態になったらしい。

 水を飲まされたあとは部屋の隅に放置され眠りこけていたから、変な時間に目が覚めてしまったのだろう。

 

「気分が悪いからさあ、せめて外の空気を浴びようと思って。そしたらジニーまで起こしちゃったんだけど」

「起こされたんじゃなくて、いびきがうるさいから眠れなかったの」

「うるさいなあ、もう。ママに似てきてるぞ」

「あと、なんか外で音が聞こえた気がして……ちょっと不気味だから、ついてきてもらおうと思って」

「だから気のせいだって。僕は何も聞こえなかったし」

「待て、ウィーズリー。その音は僕も聞いたかも知れない」

「え、マルフォイも? ハリーは?」

「うーん……僕は翼をバタバタさせてヘドウィグが騒がしかったからなあ。聞き逃しちゃ――」

 

 その瞬間、独特の風切音のようなものが聞こえた。

 ハリーが目の色を変え、杖を抜く。これは……()()()()()()だ。

 

 次の瞬間、轟音をたててコテージは燃え盛り始めた。

 木製の小さな建物は黒い煙を周囲に吐き出している。

 

「えっ!? ちょっと、何が……」

「みんな、杖を構えて。声はできるだけ小さく。これは事故じゃない。間違いなく意図して誰かが火を着けた」

 

 ハリーがその場にいる人間に指示を出す。

 僕たちは目を凝らして周囲を見渡すが……湖の反対側は鬱蒼とした森だ。隠れる場所はいくらでもある。

 大きな音とともに燃え盛るコテージで、中にいたウィーズリーの兄弟たちも目を覚ましたようで、彼らは杖を構えてぞろぞろと出てきた。

 

「身を伏せて! 誰かがここを攻撃してる!」

 

 何が起きたかも把握できていない彼らに声をかけるのは、居場所が知られるとしても優先すべきだとハリーは考えたのだろう。

 その瞬間……森の奥から何発かの呪いがこちらに飛んできた。幸いにして狙いは大雑把だったようで、僕らにかすりもしなかったが……呪いを唱えた連中は森の木陰から姿を出し、こちらににじり寄り始めた。

 そんな中、身を伏せたハリーは懐から取り出したメモに素早く「襲撃された(Raided)」書いている。

 

「何をしている?」

「逃げる前に誰かに知らせないと。ヘドウィグ、これをホグワーツへ」

 

 そう言ってハリーはフクロウにメモを手渡し、フクロウも状況を察してか素早く離脱し舞い上がっていった。

 燃え盛るコテージから発される煙で視界が悪く、こちらもあちらもお互いに位置をうまく認識していないようだが……それでも構わず撃ち込まれる呪いが着弾し、辺りの物が吹き飛んでいく。

 どうしたものかと思案していたところで……コテージの入口側で固まっていたウィーズリーの兄弟連中が先に動いた。パーシー・ウィーズリーだ。

 

「プロテゴ! ……全員、一箇所に固まれ! この盾の裏だ!」

「……!」

 

 僕はその指示に従い、駆け込もうとするが……ハリーに腕を掴まれて止められる。

 

「今行っちゃダメだ、間に合わない! プロテゴは煌めく盾の呪文だ、こういう悪い視界の中では……すっごく目立つ! 一旦逆側に離れ――」

 

 ハリーが指示を出す間もなく、何発もの呪いがこちらめがけて飛んできた。

 僕はハリーに腕を掴まれて横っ飛びのような形でその場を離脱する。ここから見る限り、あの盾は遺憾なく効果を発揮し完全に後ろにいる人間たちを防ぎきったようだが、僕たちは逆に離れてしまった。

 

「クソッ、散り散りになるのは良くないけど……今は足を止めるほうがマズい。ドラコ、体を屈めながら湖の方へ走るよ!」

「ジニー!」

「ロン! 何が起きたかわからないけど逃げて!」

 

 少し離れたところで、ウィーズリーの声が聞こえる。だが、煙も濃い中でお互いに位置すらつかめない。

 その時、急に風が吹いた。

 まずい。僕たちの位置が露見してしまう! 奴には遺憾ながら一年のときの借りもあるものだから、手を貸せるものなら貸してもいいところだが……状況が悪すぎる。

 僕とハリーは身をかがめて、湖に沿って走り出した。

 一刻を争う危険な状況。まずは奴らから逃げるしかない状況だ。

 

 だというのに……僕は一瞬、足を止めてしまった。

 なぜなら振り向いた先、攻撃してきた連中の中に……僕の友人の一人、ビンセント・クラッブがいるのを見てしまったから。

 彼の顔は再び巻き起こった黒い煙に包まれ、見えなくなった。

 

 

 




次話からこの章の締めまで連続投稿となります。
書き溜めのため少し間が開きますがお待ちいただけると幸いです。
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