ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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123.クレイジー・トレイン(2)

 

 戦闘で強い魔法? そんなのは簡単に説明できるもんじゃない。まず、二つの条件がある。

 一つは自分との相性だ。ハリーの同級生のシェーマス・フィネガン君はなぜか爆発呪文の威力だけやらためったら高かった。もちろん、その家に伝わる秘伝の呪文、なんかの場合相性は100パーセントの可能性が高い。

 もう一つは熟練度の問題。どんな魔法も、使って慣れてみねえと十全の効果を発揮させられない。麻痺呪文(ステューピファイ)は便利な呪文だが、俺もとっさのときは学生時代から愛用している武装解除呪文(エクスペリアームス)を撃つことが多い。その魔法を使った回数、頻度はそのまま能力を発揮する手際の良さや効率につながる。

 だから、闇の世界のボディーガードやそれに対抗する闇祓いは一つの魔法を突き詰めることが多い。そのほうが強力だからだ。

 

「私はリドル様に施していただいた分霊箱(ホークラックス)の儀によって、蘇ったのだ! 我らは死を克服した死喰い人(デスイーター)!」

「おいおい鏡みてみろよ、そんな羨まれるような風貌してないぜ」

 

 俺からするとどうみても正気を失った魔法使い(夜の闇(ノクターン)横丁によくいる)にしか見えないが、実際目の前に死んだはずのアミカス・カローがいるのだからこいつがいう分霊箱(ホークラックス)の儀式で死から逃れたのは事実のようだ。現場に死体が残っていなかったのも……そういう効果の儀式なのだろう。死んだ瞬間に脳も含めた肉体も魔力に変えて保存するとかそんな感じか?

 痩せこけた顔、血走った目でカローは矢継ぎ早に俺に呪いを放ってくる。正直なところ洒落になってない。メインの杖と指を失い防戦一方だ。

 地獄を見て強くなったというのがどういうことか知らねえが、素人丸出しだったあのときよりはっきり手強い。魔法の力もなぜか上がっているようだが、とりわけ手強いのはこいつが使ってくる謎の呪いだ。

 ずいぶんと使い慣れしているようだし、相性も抜群の様子。さっきあげた二つの条件をどうもばっちり満たしているようだ。おまけに俺はあの呪文を知らねえから、対策も対抗呪文も唱えることができない。

 なんとか貨物室にある椅子やら机やらを盾にして難を逃れているが、ジリジリと俺は車両の隅に追い詰められていく。

 

 くそ、(プロテゴ)で受けただけで杖にまで広がり、体に掠るだけですぐさま広がってく呪いとか厄介すぎんぞ。

 呪いの正体がつかめねえ。あの手の家に伝わる古い魔法ってのは種さえ割れちまえばたいがい弱点やらなにやらあるもんだが……

 

「逃げ惑うのは終わりのようだ。死ね、ジェームズ・ポッター!」

「いやいや、死んだらそんなブサイクになると知った今、より死にたくなくなったぜ」

「戯言を! 殺してや……」

 

 呪いの撃ち合いはこちらが不利。カローは一つの呪文しか使わないが……その威力は高く、こちらの無言呪文では太刀打ちできない。

 突然、カローの体が固まる。これは……クリーンヒットはしてないようだが、麻痺呪文(ステューピファイ)。クィリナスが扉にあいた穴越しに呪いを放ったようだ。

 

「ぐっ……肝心のところで邪魔しおって!」

「ジェームズ、仕切り直してください!」

 

 クィリナスは杖だけではなく拳銃も取り出し(捨てとけって言っただろ!)、カローに撃ち込む。

 とはいえ、まともな腕の魔法使いに対して銃は牽制にしかならない。カローはそれを難なく盾で受け、あるいは軌道を操作して俺の方に逸らしてくる。俺は更にそれをスズメバチに変えてぶつけてやったが、謎の呪いでまとめて殺された。

 

「仕留めやすいやつから仕留めるとしよう、食らえ!」

 

 今度は例の呪いをクィリナスに放つ。

 ああ、クソ。クィリナスは慌てたのか、かわすわけでも周辺の障害物を使うでもなく、手元の拳銃で受けてしまった。

 いい援護だったが、あんな手に近いとこで受けちまったらさっきの俺同様利き手がボロボロに……

 そう予想したが、意外にもその呪いは効果を発揮せず、クィリナスは無事のようだ。どういうことだ?

 

 ここにやつの呪いを解く鍵があるかも知れない。

 今一度考えろ。

 カローの呪いが大きく効果を発揮していた対象は、保護の呪文がかかった木の扉、木の杖、変身させたスズメバチ、そして俺の体ってとこか。

 

「木と生物がダメなのか? ……いや、仮説が外れたな」

 

 俺は革製の上着を投げ捨ててやつの呪いにぶつけてみたが……あっさりとボロきれにされてしまった。

 共通点がわからねえ、拳銃なら受けられるってことは……鉄か?

 カローは先にクィリナスを攻撃することに決めたようだ。さっきは単発の攻撃だったから手元の拳銃で受けられたが、さすがに数発連打されるとなるとあんな小さいものじゃ受けようがない。

 俺の仮説が間違ってたら大変なことになるが……仕方ねえ。賭けだが俺はクィリナスに俺の予想を伝えることにした。

 

「一発ならともかく、何発も受けることはできない。我がカロー家が相伝してきた秘術を食らうがいい!」

「……クィリナス! 金属だ、金属で受けろ!」

 

 俺の声が届いたか、それともクィリナス自身も同じ予想に辿り着いていたか。貨物室に置かれていた鉄のトレイのようなものを引き寄せて、呪文を受けた。

 うすっぺらな魔法もなにもかかっていない鉄のトレイだったが……どうやら、しっかりと呪いを受けることができたようだ。

 

「ほうほう、なるほどね。種が割れてきたな」

「この程度見抜かれてもなんの影響もない。どうやら、お前の近くには金属が少ないようだからな!」

「ああクソ、ホントだぜ!」

 

 貨物室に転がっているのは客車に置くための木の家具や、衣類や毛布などの布類がほとんど。たしかに機関室に比べると受けるものは少ない。

 もうちょいクィリナスを狙っててくれたら変身術でいろいろ用意できたんだけどな……特に、生物がダメっていうのは困る。自律移動する障害物を使って呪いを受けられるなら、一手は浮くんだけどな。

 俺は奴が放ってきた呪いをスズの鍋で受けてみたが、一発喰らっただけで呪いの威力そのもので底に穴が空いてしまった。

 

「クソ、安物だな。ちゃんと規格統一しとけ!」

「無様だな。イカロスの翼を知っているか? 余計な知識を得たがゆえに死んだ男の話だ。イカロスのように私は落下して死んだが、イカロスと違い蘇えることができた。それで、ようやく学んだ。最終的に生き残るのは無用な選択肢を知らず、迷わない人間だ。私はかつて……リドル様の命を受けていたにも関わらず栄達、家業、家族など余計なことに気を回していた。今やそんな迷うべき選択肢はない、ただただリドル様に尽くすのみ。お前は教卓で新しい呪文をガキに教えて得意がっているかも知れんが、私が放つ単一の呪いで死ぬのだ」

「ぐっ……」

 

 なにか言い返したいが、俺の知ってる呪いすべてがやつの呪いで打ち負かされている現状では返す言葉もない。

 俺の代わりに言い返したのは……機関室にいるクィリナスだった。

 

「ろ……蝋の翼は、め、迷宮から出るために必要な翼でした」

「焼け死ぬ自由を崇めるか? イカロスの誤りからなにも学ばないのか」

「わ……わたしの考えでは誤ったのはイカロスではありません。イカロスにだけ蝋の翼を与えた父、ダイダロスです。か……彼が迷宮に投獄される前に、蝋の翼の知識、技術を広めておけばよかったのです。どこまで高く飛べるか、どのような形状であればより長く飛べるのか。ひ、人々に予め広めておけば。その知見をいざというときに活用できたでしょう」

「だからなんだ? たかだか蝋の翼だ。権威や伝統に逆らうほどの理由はあるまい」

「それが……あ、あるのです。スリザリンに次いで純血がレイブンクローに多いのは、権威や伝統に逆らってきた先輩がたが数多くいたからです。イカロス同様の蛮勇、グリフィンドールの勇気ともまた違う意思の強さで」

 

 クィリナスはいつも通り少し吃りながらではあるが、それでも堂々と言い放つ。

 少し気圧されたのか、カローは吐き捨てるようにクィリナスを挑発した。

 

「ふん。言いたいことがあるならば扉の裏でガクガク震えていないで出てくればいいのだ」

「おい待てクィリナス、挑発に乗るなよ。絶対にそこは……」

「わ、わかっていますよ、ジェームズ()()

 

 クィリナスは機関室の制御を担っているだけではない、後ろの客室を保護する「秘密の守人」でもある。極論言えば、俺たちが全員全滅しても、クィリナスが生き残って避難者をスコットランドまで逃がせば目的は達成できる。うまくクィリナスが気を利かせればホグズミードで待ち伏せさえできるかもしれない。だから、今この列車の中で死守すべき人物はクィリナスだ。

 だから俺は制止したのだが、クィリナスもそれはわかっているようで……あえて俺のことを教授と呼んで返した。

 

「わ……わたしも、おそらく野心のために蝋の翼で飛ぶ類の人間の一人です。虚栄心に踊らされ、身の丈に合わない栄光を求める男です。今も……もし、背負うものがなければ挑発に乗っていたかもしれません」

「そうだな。クィリナスは……なんだかんだで野心のある奴だ。俺も知ってる」

「で、ですが……今のわたしは、マグル学の教授としてここにいます。ならば、わたしの仕事はマグルの乗り物をベースとしたこのホグワーツ特急を抜かりなく運行させることです。そ、そこにいる不審者の対処は……闇の魔術に対する防衛術(DADA)の教授の仕事のはずです。でしょう?」

「……これは一本取られたな。その通り。俺が全うすべき仕事だ。安心して機関室に篭っててくれ……クィリナス教授」

 

 クィリナスが少し弱々しく掲げた手に、俺はサムズアップで返す。

 さあて、俺も知恵を少し働かせるとしますか。グリフィンドールだって馬鹿の巣じゃねえんだ、それこそリリーとか、ミス・グレンジャーみたいな秀才、天才だっている。少しは頭が回ることを見せねえと……ん? ミス・グレンジャー?

 そして……あいつはカロー家。そうだ! その瞬間、俺はピンと来た。

 

「ごちゃごちゃうるさい……死ね!」

 

 俺は、カローの渾身の呪いを……変身術で受けた。

 手近にあった椅子をイノシシに変えて、そのイノシシに自分で動いてもらうことで受ける。こうすることで変身させたあとの引き寄せる一手が省ける。一方で、さっきまでの仮説に基づけば、スズメバチが一瞬でやられたのと同様、椅子だったイノシシは障壁にはならない。さて、どうなるか。

 半分は賭けだが、もう半分は読み。そして――賭けは、しっかり当たった。ジャックポットだぜ。

 

「ポッター、貴様……!」

「ああ、お前の魔法の種は割れたぜ。そういや飲んだことあったよ、カロー家の家業はビール醸造所(ブルワリー)だったな」

「……」

「ミス・グレンジャーに感謝しねえとな。アイルランド遠征に行く直前に、『発酵と腐敗は同じもの』だと教えてくれた。ついでにいうとな、知識がなけりゃ迷わなくて強い、なんてのは的はずれだぜ。変身術師にとって知識と経験こそが強さの源泉だぜ?」

 

 あの呪いが大きく効果を発揮していたものは、保護の呪文がかかった木の扉、木の杖、変身させたスズメバチ。

 俺の指に掠ったときにビビってすぐに切り落としたが、よく考えるとあれは人体の末端部だった。もちろんすぐに切り落としたのが間違いではないが、そのまま冷静に観察していれば明らかに呪いの進行が遅いことに気づけただろう。

 

「生き物ってのは元より腐敗への耐性ってのを持ってる。ただ、そこには強弱がある……カビや腐敗と戦うために俺たち人間の遠い遠いご先祖が身につけた魔法はなにか? 恒温性だぜ!」

「じ……自慢げに話していますが、シルバヌスが酒の席で話していたことの受け売りですよね? しかも魔法ではありませんし」

「うるせークィリナス、余裕ありそうだな! ならそのついでに拳銃で援護してくれ、派手にばら撒け!」

 

 クィリナスは即座にカローに弾丸をぶち込む。もちろん、カローもそれを簡単に弾き、あたりに鉛玉が転がるが……

 

「変身術師にとっちゃあ、攻撃したついでに辺りに物が転がるなんて都合のいいことこの上ねえな!」

 

 俺はカローが弾いてそのあたりに転がした鉛玉を変身させ、小さな鳥に変えてカローにぶつけてついばませる。

 先ほどまで、カローは一つの呪文で攻撃も防御も済ませていた。だが、金属である弾丸も恒温動物である鳥もあの呪いで止めるのは難しい。

 簡単に無言呪文で弾いたり逸らしたりできるとしても……練度が低く相性も良くはない呪文を大量に使うことを強いられる。

 

「ぐっ……余計な足掻きを……」

「足掻きじゃねえな。こいつは『形勢逆転』って言うんだ」

 

 大量に鳥を舞わせて自動で攻撃が続くようになると、俺の手も空き始める。ただでさえ攻撃の対処に追われているのに、そこに無言呪文で弾いたり逸らしたりできない呪文まで混じってくるんだ。人間、いつまでも集中力が持つものではない。

 案の定、少し呪いのやり取りがあった後に俺の武装解除呪文(エクスペリアームス)が突き刺さった。

 カローは杖を失いながら後ろに吹き飛ぶ。とはいえ完全に芯を食ったというわけでもないようで、一瞬手から離れた杖になんとかカローはしがみついていた。

 

 吹き飛んだ先は貨物室とその後ろの車両を繋ぐ連結部。

 俺は追撃のために、ここから見える範囲で後ろの車両の物も鳥に変身させて攻撃する機会を伺う。

 一方、カローとしては少し追い詰められた形ではあるものの、連結部まで退かされたことで対処すべき範囲は前後だけになった。この状況を活かして一息つこうとしているようだ。

 

「ぐっ……いい気になるなよ、ポッター。土壇場で私の呪いの対策をしたつもりだろうが、しょせんはちゃちな変身術。魔法生物でもないただの鳥になにができる? せいぜい俺の顔をついばむ程度だ」

「ああ、その通り。魔法生物に変身させることはできない」

「大した能力もない鳥をいくら生みだしたところで、俺を止めることは……!」

「そうか? 俺はそうは思わないぜ」

 

 カローのセリフは、最後まで紡がれることはなかった。

 俺が変身術で作り出した鳥のキックを背後から喰らい、連結部から外に叩き落とされたからだ。

 

「こいつは、シルバヌスのジジイいわく……謎の鳥でも魔法生物でもない。オーストラリアの怪鳥、ヒクイドリだそうだ」

 

 飛べない代わりに走るのに特化した脚を持つ全長6フィートの怪鳥。

 俺よりデカい全高から繰り出されるその蹴りを食らうと普通に人が死ぬ。魔法族なら即死というわけには行かねえけど、その衝撃を受けて車両に捕まってるのは無理だろうな。

 俺は悲鳴をあげて外に放り投げだされたカローを窓から眺めながら、ヒクイドリの不気味な鳴き声に耳を傾ける。

 ハッフルパフのジジイから学んだ知識も含めて、ホグワーツでの経験もしっかりと力になったみてえだな。

 

「普通なら死んでるけど、カローの話が真実なら生きて戻ってくんだろ? めんどくせえな、おい……まあいい、かなり時間はかかったがリリーたちの様子を見に行かねえと……!?」

 

 失った右手の指をさすりながら、車両の後方へ歩き出そうとしたところで……俺は車両の後方から巨大な爆発音を聞いた。

 なにが起きたかわからない。しかし当たり前の話だが、車両が一つ吹っ飛んで後方車両の連結が外れれば大惨事だ。ベラトリックスがなにをやらかしやがったかわからないが……俺は胸中に不安を抱えながら、車両の後方へと駆け出した。

 

 

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