ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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124.クレイジー・トレイン(3)

 

 ジェームズを無視して、ギラついた目でアタシを見るベラトリックス・レストレンジ。

 どうやら、ターゲットはリリーでもジェームズでもなく、わたしらしい。

 

「あは……あんた、知ってるよ。マグルに性欲を持つ異常な女から産まれたがために、血が穢れてしまった娘だね? かわいそうに」

「ああ、頭おかしい家の頭のおかしいおばさんでしょ? わたしも知ってる」

「死ね」

「あんたこそ!」

 

 ベラトリックスのおばさんは魔法を小手調べのつもりなのだろうか? 呪文ではなく、単純な魔力の塊をこちらに飛ばしてきたので、わたしも同じように対応する。

 ……おっも!? なによこれ! 相殺を狙って魔法で受けた杖腕がびりびりしびれる。

 あんまり認めたくないけど、魔法の質でははっきりあの女のほうが上みたいね。

 

「逃げるわよ、トンクス!」

「ええー……まあいいけど」

 

 リリーは一瞬杖を構えたけど、プロとプロの戦いの間に割って入るのは難しいと判断して、わたしに撤退を促した。

 正直言ってあのムカつくオバサン相手に逃げるのはいい気分じゃないけど、現状逃げるのが理に適ってるのは間違いない。呪いをベラトリックスにぶつけるとみせかけて、視界を奪う閃光を炸裂させる。これは(プロテゴ)とか魔法による相殺じゃ防げないからね。

 それとほぼ同時のタイミングで頭に肌触りのいい布がかぶさる。透明マントだ。わたしら二人はそれを被ってそのまま後ろの車両へと移動する。

 

「じゃあねー! オバサン!」

「逃さないよ!」

「プロテゴ!」

 

 連結部の扉を開けた瞬間に呪いが飛んできたけど、それはちょっと攻撃が単調すぎだね。無言呪文の撃ち合いだと分が悪いけど、強力な有声呪文であれば対応可能だ。

 

 あえて声を出したのは理由がある。

 ベラトリックスに追わせるためだ……今のわたしらの仕事は、機関室の機械を司るのに加えて、客車の秘密の守人であるクィレルさんを守ること。そして、フードの男を倒して戻ってくるであろうジェームズを待つ間ベラトリックスを引き剥がすことだ。

 そのため、できるだけ前の車両からベラトリックスを誘導して遠ざける必要がある。あのオバサンがこちらの目論見をどこまで看破しているかはわかんないけど、今のところは乗ってくれている。

 

「ママからあの女は執念深いって聞いてるからね。死なない限りは引きつけられそう」

「死なない限りはね」

 

 次の車両に乗り込んできたベラトリックスは、その執念深さを遺憾なく発揮し始めた。

 突然、わたしらじゃなくて横の座席に杖を向けたかと思うと、その木製の座席を破壊して粉々の木片に変えて、宙に浮かせた。

 

「どこに隠れてるんだか知らないが、この車両全部やっちまえば問題ないね!」

 

 粉々の尖った木片はベラトリックスの杖が操るままに広がり……針として車両全部を攻撃しはじめた! 単なる木の欠片のはずだけど、威力はかなりヤバい。遮蔽物に使っている座席をその木片はあっさりと貫いてしまった。あれが人体に刺さったら、穴だらけのスイスチーズみたくなっちゃうわね!

 死ぬのはともかく、透明マントをかぶったまま刺さって死んだら誰にも見つけてもらえなさそうね。

 ここは、ベラトリックスに今いる位置がバレるのは承知の上で、二人がかりで防護呪文(プロテゴ)を掲げて木片を防ぐ。

 

「そこだね! クルーシオ!」

「わひゃあ! ちょっとあのババア、元気すぎでしょ。いい歳なんだから編み物でもしてて欲しいわ」

 

 位置がバレると、もちろんベラトリックスはこちらに呪いをぶちこんでくる。とはいえ、直接視認したわけじゃないから狙いは大雑把だ。

 なんとかひらりとかわしてリリーをかばいながら、再びわたしらは後ろの車両へと後退する。扉を接合呪文(コロポータス)で固めてなんとか時間稼ぎはしているものの、突破されるまで幾ばくもないだろうなあ。

 

「トンクスもむやみに煽らない!」

「いやいや、こんなの煽らないとやってられないでしょ。リリーはなんかいい手ある?」

「私が扱う魔法って、だいたい準備が必要なのよね」

「そりゃしゃあないか。わたしが引き受けるしかないよね」

 

 戦いに長けた魔法使いとそうでない魔法使いの差として一番に上がるのは……リアクションの早さだろう。リリーも一応、呪文を研究してる人間として無言呪文ぐらいは修めてるそうだけど、あくまでナメられないための余技と話していた。

 そりゃそうだよね。無言呪文(こんなもの)、日常で必要になる場面はそうないし。

 一方で、闇祓いみたいな仕事の人間は無言呪文を徹底的に叩き込まれ、実戦で使って体に覚えさせることになる。わたしもリリーも使うのは同じ呪いだけど、そこで生まれる差は非常に大きい。多少の知識や魔法の力ではひっくり返せないほど。

 だからこそ、ベラトリックスは厄介なのだ。魔力は莫大で反応はプロに準ずるほど。あのオバサン、純血のいいとこのご令嬢のはずでしょ? 普段なにしてたんだか……考えたくもないわね。

 

「どうする? このままどんどん後ろに下がってく? なんなら『忠誠の術』で認識不能になってる車両まで逃げ込んじゃうとか」

「悪くないわね。さすがに認識外から呪文飛んできたらそうそうかわせないでしょ、つうか当てる。そこで一方的に呪文撃って凌がれたら闇祓い廃業よ、廃業」

 

 そう考えて、二人で透明マントをかぶって後退していったが……忠誠の術で保護されていない最後の車両である4両目まで下がったところで……ベラトリックスはその手前、3両目でピタリと足を止めた。

 

「……?」

「へいへーい、ビビってんの? ベラおばさ……いや、ちょっと待って。それは洒落にならない……」

「穢れた血に売女の娘。あんたらを追って殺したいとは思うんだが、リドル様から指示を受けていてね。認識できる最後の車両には足を踏み入れないこと、って。そして……」

 

 ベラトリックスは足元に向かってなにかしらの破壊の呪いを唱え始めた。

 エクスパルソにコンフリンゴ、レダクトにボンバーダとありったけだ。

 

「ちょっとおおおお!? あんた馬鹿じゃないの、そんなことしたらあんたが真っ先に死ぬわよ!」

「はっ。素敵な事実を教えてあげる。私達死喰い人は、リドル様の手によって不死を賜ったの、分霊箱(ホークラックス)の力で! あんたらを巻き添えにして死んでも、私の魂は地上に残り……蘇ることができるのよ!」

「い、イカれてる……」

「あの女がイカれてることには異論はないけど、言ってることは……もしかしたら嘘ではないかも。ホグワーツ湖に流れてきたケトルバーン教授の涙に込められた記憶の調査に携わってたことがあるんだけど、確かにその中で、相対していたトム・リドルも『分霊箱(ホークラックス)』って単語を出していたわ」

 

 リリーは頬に手を当てて考え込みながら、そう呟いた。どうやら思い当たるフシがあったようだ。

 

「なあにそれ?」

「とても暗い、闇の儀式よ。細かい手順まではわからなかったけど……魂を地上になんらかの形で残し、それを元に蘇るという記述はあったわ。今のベラトリックスの話と調べ上げた内容はわかった範囲では一致してる」

「うわ、マジ最悪」

 

 わたしらが次の動きについて作戦会議をしている間にも、ベラトリックスは3両目の車両の底を破壊しようとしている。単純に車両をぶった切ってしまえば、後ろの車両は機関部と切り離されて大事故になる可能性が高いわね。

 ベラトリックス自身は後ろの車両を認識してないから(もしわかってたら喜々として、もっと手際よく車両を破壊しているだろう)、なにが起こるかまでは理解してないみたいだけど。

 

「どっちにせよ、止めないとマズいわ。後ろに山ほど人がいる」

「つっても茶々入れするだけじゃ手詰まりよ!?」

「時間作ってちょうだい、ちょっとなんとかしてみせるわ!」

 

 クソッタレ(ブラッディ・ヘル)

 作戦会議は終了。リリーには考えがあるらしい。わたしは時間をリリーに与え、ベラトリックスを倒す準備に専念させるために遮蔽物から顔を出してベラトリックスに呪いを撃ち込んだ。

 先制攻撃のはずだけど、ベラトリックスは難なく対応。待ってましたとばかりに撃ち込まれた倍の数の呪いで返される。威力も手数も多いとか反則でしょ。

 とはいえ、精度が甘いわね。この呪いの嵐の中を進むのは怖いけど……向こうにだってリスクを負わせないと隙は作れない。

 透明マントをリリーに預けて、わたしはベラトリックスがいる3両目に前進した。

 

「はっ! 2対1でも敵わなかったっていうのに、立ち向かうのはあんただけかい? もうちょい歯ごたえのある相手がいいんだけどねえ!」

「言ってなさいよクソババア、ここで仕留めてあげるから」

 

 ここに釘付けにするのがわたしの仕事。

 挑発でもなんでもして気を惹かないとね。

 

「だいたいさあ、あんたは魔法界の貴族まがいの家出身であることを誇ってたんじゃないの? 今のあんたの立場を客観的に言えばトム・リドルにこき使われてる鉄砲玉じゃん。それでいいわけ?」

「ああ、そうだね。あんたの言う通り、私はいまリドル様の命令で動いている」

 

 私の挑発に対して、話には乗ってきたものの返答は意外だった。なんか意味不明な持論をぶつけてくるかと思ったら認めるなんて。

 

「でも、私は悟ったのさ。誰しもがなにかの命令、指示、圧力を受けて生きてる。純血名家の人間は魔法使いを従える立場でもあるけど、親族や社会的責任から逃れられない。あんたの母親みたいに全て無責任に捨てて逃げない限りね」

「ああ。純血とやらの社会がクソって部分は同意するわ」

「違うのは、あんたみたいな吹けば飛ぶような木っ端魔法使いと違って、私のような立場の人間は何に従うか選べるってことよ。かわいいかわいいお嬢ちゃんは私のことを『客観的に言えば鉄砲玉』と言ってくれたけれども、省の命令で動く闇祓いのアンタも客観的に言えばこき使われてる鉄砲玉、じゃないかしら?」

「は? 全然違うけど」

 

 ドヤ顔であんまりにも的外れなことを言ってのけるもんだから、ちょっとカチンと来てしまった。

 

「そりゃ、こき使われてるのは間違いないわね。しかも今の魔法省は最悪だし、かつてだって健全で完全だったとはとても言えない。それでも……わたしらは個人の意向じゃなくて魔法省っていう、部分的には民主的な組織の下で動いてた」

「それのなにが違うって言うんだい?」

「大違いよ。コックニーに住んでる武装した凶悪犯を捕まえにいくためには、まず法執行部本部(ホンブ)の立法に基づいた地下10階(ウィゼンガモット)令状(フダ)がいるわけ。そんでもって令状(フダ)を取るには魔法警察パトロール局(マケイ)への訴えと事前捜査が必要で、そっから闇祓い(オーラー)案件だと課長級が認めてようやく闇祓い局(ウチ)の部署に降りてくんのよ。クソめんどくさいと思うこともあるけど、それがあるからこそわたしらが合法で暴力ふるっていいことになってるワケ」

「ああ、聞くだけでうんざりしてくるね。好きに呪いも撃てないなんて」

「ええ、まったくもってそうよ。あんたと違って必要最低限の呪いしか許可されないし、相手が犯罪者であっても無用な苦痛は与えない。案件が終わったら聞き取り調査、それに杖を調べて直前呪文まで確認される。ぜんぶ終わったと思っても書類仕事が残ってる。でも、このうんざりするほどめんどうな部分がないと暴力を行使できない。そして、最終的にはわたし個人に『暴力を行使しない自由』がある。だからこそわたしは休職してここにいるわけだしね。これが……アンタとわたしのとってもとってもデッカい差よ」

 

 わたしはそう心底思ってるし、それが理解できるようわかりやすく言葉にしてあげたつもりだけど……育ちが悪いベラトリックスのオバサンは心底理解できなかったらしい。

 なぜかわたしに共感して哀れみはじめた。下手にキレられるよりダメージデカいわ、それ。

 

「かわいそうに、自由じゃないことを自己弁護するのにそんな理屈をこねくり回さないといけないなんてね。ああ、哀れだわ。私にもそういう時期があったからわかるけどね」

「うわ、最悪。勝手に見当外れの共感された。それはあんたの育ちがゴミだったからが理由で、今の話と関係ないから」

「そうね。おしゃべりはこれぐらいにしとくわ。楽にしてあげる」

 

 時間稼ぎはここまで。ベラトリックスとわたしでの呪いの応酬が始まった。

 とはいえ、先ほどよりも状況はよくない。なんせ3両目まで前進したから距離が近く、遮蔽物も少ない。なにせここは、さっきベラトリックスが木片の嵐を放った車両だ。あたりはほぼ更地になっている。

 しかも放つ呪いが邪悪極まりないのばっかり! ちょっと当たっただけで戦闘不能になるようなのばっかしじゃない、勘弁してよねもう!

 

「おやあ? さっきあんな堂々と啖呵を切った割に……ずいぶんとキツそうじゃないか?」

 

 押され始め、そろそろ苦しいか……と思ったタイミング。その様子は向こうにも伝わってしまったようだ。おそらく、この呪いの撃ち合いは長続きしないだろう。

 だが……ベラトリックスの背後でちらりと合図が見えた。

 どうやら、首尾よくリリーは位置につけたようだ。

 

「はあー? まだまだ平気ですけど、武装解除呪文(エクスペリアームス)!」

「教えてあげるよおちびちゃん、なんの呪文が飛んでくるかバレバレじゃあ、効果なんて……」

 

 もちろん、有声呪文にしたのはあえてだ。わたしに注意を向けさせるため。

 狙いは挟み撃ち。リリーは透明マントでこっそりとわたしの脇を抜けて、ベラトリックスの背後に回ってもらっていた。この移動は間違いなく気付かれていなかったはずだ。さすがその辺で売ってる安物の透明マントとは違うね、足音すら認識できなかったわ。

 

 こっちの武装解除呪文(エクスペリアームス)で説明せずともリリーに狙いは伝わったようで、わたしの唱えた呪文にあわせて、リリーも背後から呪いを放つ。

 完璧な初見殺しだ。誰だってこんなの食らうはず……にもかかわらず。

 

「おおっと!? ああ、なにか仕掛けてきそうなフシは感じ取っていたけど、こういうこったい。今のはすこーしだけ危なかった……けど、どうやらやっぱり2対1でも私のほうが上みたいだね?」

 

 ベラトリックスは威力の強い私の呪文を大きく動いて回避することを選択、いっぽうリリーの呪いのほうは無言の(プロテゴ)によってギリギリで受け止めていた。

 ウソでしょ。どんな勘してんの? 野獣かなんか?

 

「はっ。これが切り札かい? 生憎だけど通用しなかったみたいだね。今のあんたらの状況がなにかわかるかい? 挟み撃ちじゃない、分断さ! 一人ずつ痛めつけてやるよ、まずはガキンチョ、あんたから……」

ス、ステューピファイ!」

 

 ああ、でも。リリーがしてくれた準備の一つはしっかりと成功したようだ。

 わたしやベラトリックスの呪いに比べると弱々しい呪いではあるけれど、それでもしっかり直撃。ベラトリックスは悔しそうな顔で一旦かがみ込む。

 斜め後ろ、さらなる死角からのもう一撃は……さすがにベラトリックスも対応しきれなかったようだ。 

 ザマミロ! 最高の顔だったね、今の? 記者は記者でもライターじゃなくてカメラマンだったらよかったのに。 

 

「ああ、こんなの業務外ざんすよ!」

「ごちゃごちゃ言わない。車両が切り離されて大脱線したら記者の仕事どころじゃないでしょう?」

「だいたい、なんであたくしの仕事のタネを知ってるざんす?」

「旦那が動物もどき(アニメーガス)でね。その上、あの人は数年前まであんたみたいなやつの仕事の種を見抜くのを仕事にしてたの」

 

 リリーがしてくれた準備の一つというのは……後ろの客車にいる協力者としてリータ・スキーターを引っ張り出し、コキ使うことだ。どうやら彼女は超小型の動物もどき(アニメーガス)だそうで透明マント抜きでも背後に回れる存在だ。わたしは全然知らなかったけど。

 呪いの威力は弱く、杖の構えもへっぴり腰でてんでなっちゃいない。

 それでも……背後を高速で飛び回る動物もどき(アニメーガス)は間違いなく厄介な魔法使いだ。2対1で敵わないなら3対1でやる。それが戦いってもんでしょ?

 

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