ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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125.クレイジー・トレイン(4)

 

 わたし、リリー、リータ・スキーターの魔女3人と対峙すると……リリーの予想通り、ベラトリックスは杖を構えて、背後に現れたリリーとスキーターの間の突破をはかった。

 わたしがあっちにいたならともかく、素人二人でベラトリックスを止めるのは無理よね。本来なら囲んでボコボコにしたいとこだけど、無茶はさせられない。リリーも牽制に呪いを何発か撃ち合うのに留めたみたいね。もちろんスキーターは何もやらないで棒立ちしてた。

 さて、一旦2両目への後退をはかったベラトリックスだけど、その表情は冷静とはほど遠い。憎々しげにこちらを見つめている。

 

「三文記者風情が。楽に死ねると思わないことだね」

「ほ、報道機関への脅迫はやめるざんす!」

 

 リータにブチギレて注意が向こうに行っているうちに、リリーと次の動きについて話し合う。

 

「『トリプルファイヤー』計画はだめだったわね。次のプラン行くわよ」

「リリー、あんたネーミングセンスどうなってんの? というかまあ、同時に放つって決めたのにあのスキーターの呪文が遅れてた上に決定打になる威力がなかったから失敗したんだけど」

「失敗したものはしょうがないわよ。次善の計画でいくわよ……この3両目でがっつり準備する必要があるわ。スキーターさんは預けるからまた時間を稼いで……」

「稼いで?」

「そんで、最後……ひととおり準備ができたら、ベラトリックスをこの車両にふっとばすなりなんなりして押し込んで」

「はあ!?」

 

 リリーはわたしに無茶振りをする。三人がかりで奇襲してようやく呪いの一発を当てられたような相手なのにふっとばせとは。

 しかし、リリーの目は真剣だ。ベラトリックスを無力化する他の手も思いつかない。わたしは頭をフル回転させて手を考えてみる。まあ、やってみるしかない。

 2両目での「準備」はリリーに任せ、スキーターが身をかがめて遮蔽物にしている、半壊してる座席の影に転がり込む。

 

「ハロー、今日はよろしくね。横っ飛びしながら呪いを撃ったことある?」

「んな経験あるわけないざんす!」

「完全な素人かあ。時間稼ぎに使えって言われてもどう使ったもんか……ベラトリックスに罵声を浴びせながらまっすぐ行進してわたしの壁になるとかやってみる?」

「めちゃくちゃ言うざんすね、この娘!」

「ほらほら、どこに隠れてるんだい? 穢れた娘に記者女! 悪いけど、ここから先には逃さないよ」

 

 ベラトリックスはわたしらに声をかけながらも、常に周囲の状況を探っている。

 その上、辺りに転がっているかつて座席だった木の板を使って、1両目につながる出口を塞いでいる。

 

「3対1なのに自分が逃がす側だと思ってんの? 傲慢すぎるわね」

「実力差にもとづく客観的な評価だね」

 

 こっちが透明マントを使って移動していることは向こうにバレている。そのため、動ける範囲を制限しにかかったのだろう。塞いだ出口を背後にしている限り、今のような奇襲はできないと考えたみたいね。

 敵が乗り込んでこれないように姿あらわし・姿くらましなどの移動手段を制限する魔法を、ホグワーツの敷地同様かけたこの車両内で移動する手段は少ない。

 

「じゃあ、しょうがないわね……スキーター、さっきわたしが伝えた計画通りにいくわよ。あんたにかかってる」

「はあ……こんなアホな計画が成功するざんすか……」

 

 スキーターはため息をつくが、わたしのアイデアよりまともなものが思いつかない以上従ってもらうほかない。

 遮蔽物から顔を出し、ベラトリックスに話しかける。

 

「あー。おほん。記者としてベラトリックス・レストレンジ氏に話を伺いたいざんす」

「……何のつもりだい?」

「ズバリ、トム・リドル氏の魅力についてお聞きしたいざんす。加えて、ロドルファス・レストレンジ氏の男性機能についても」

「ふん。下世話な記者だね」

 

 言葉と裏腹に、ベラトリックスは満更でもなさそうだ。

 マジか。自分で思いついておいてなんだが、こんな時間稼ぎ通用するのか。

 

「リドル氏とお会いしたきっかけはなんざんしょ」

「レストレンジ家が主催したパーティだね。初めてあったあの日に、あの御方は私の耳元で特別な言葉を囁いてくれたのさ」

「な、なるほど。それは興味深いざんす。今気になっていることはなんざんしょ?」

「そうだねえ……この茶番がいつ終わるかってとこかしらね!」

 

 そう言って背後の壁を板で塞ぎ終えたベラトリックスはゆっくりと歩を進め始めた。

 あ、これちょっとマズいかも。

 もしかして向こうも板で塞ぎきるまで時間稼ぎしたかったのかしら? それが終わったら足手まとい(リータ・スキーター)がいるところを狙うと。

 トム・リドルから受けた命令を、リアルタイムで考える自分の脳みそより優先してる点を除けば、賢い魔法生物のように合理的な動きね。それも捕食者のヤツ。人間を頭からバリバリ食う類のヤツ。

 

 だけど、準備が整ったのはそっちだけじゃない。

 すでに、リリーは2両目への仕掛けを終え――リータ・スキーターが背後に回っている。

 

ステューピファイ! こ、今度こそクリーンヒットざんす!」

 

 どうやら、ベラトリックスはなにが起きたかもわからないようで、ぽっかりと口を開けて呪いを食らっていた。撮って明日の日刊予言者新聞の一面に出すべきね!

 まあ、驚くのも無理はない。なにせ、さっきまで正面で話していたはずのリータ・スキーターが背後、それも自分で塞いだ板の後ろにいたのだから。

 

 種明かしひとつ目――まず、木の板で塞いだぐらいじゃ、透明マントで移動するのは防げても虫の飛行は防げない。

 ふたつ目――そもそもさっきまで話していた相手はリータ・スキーターじゃない。そしてわたしは七変化。完全に騙されてくれて爆笑ね。

 

 さっきの三方向からの攻撃は当たってたけど失敗だった。なぜか? 3発目のスキーターの呪いが弱くて、一瞬体勢は崩せたものの決定打にならなかったから。

 じゃあどう修正するかは簡単よね。1発目をスキーターの呪いにして、決定打を後に回す。

 2発目は、準備が整ったリリー。

 

くらげ足の呪い(ロコモーター・ウィブリー)!」

 

 スキーターの呪いで体勢が崩れたところに、くらげ足呪いをモロに食らわせてベラトリックスの体幹を崩す。一応は呪文ですらない純粋な魔法の力で受けたみたいで、クリーンヒットとは言えないかもしれないけれど、呪いの効果自体はアリアリだ。

 そこにとどめだ。ベラトリックスはそんな状態でも杖を構えて、わたしの呪いをなんとか受けようとしてるけど(どうやらさっきまで話していたのがわたしだとようやく気づいたみたい、笑える)、その上から吹っ飛ばす!

 

吹き飛べ(ヴェンタス)!」

 

 これが武装解除呪文だとか、石化呪文だとか、あるいはもっと邪悪な致死的な呪文であっても防がれてた可能性もあるけど……これは呪いを直接ぶつけるわけではなく、魔法で風を起こして運びたい方向に吹っ飛ばす、そんな呪文だ。魔法の盾(プロテゴ)では防ぎきれない。

 私の目の前を通過して、ベラトリックスは3両目に吹き飛ばされていく。

 ベラトリックスが3両目に入ったことを確認して、リリーに合図を出す。

 

「入ったよ!」

「了解……完成させたわ!」

 

 これで、詰み(チェックメイト)だ。

 

 

 ――――

 

 

 魔法界を穢す連中の卑劣な策に嵌り……私の体は投げ出された。

 あの3人、殺してやる。

 とはいえ、致死性の呪いを当てられなかったのは幸運だ。そもそもまともな戦力として数えられていたのはアンドロメダの娘ぐらい。あの脳天気な女が死の呪文(アバダ・ケダブラ)やその他の素質が必要な呪文を咄嗟に唱えられるほど熟練しているとは思えない。ここまでの決定機を作っておきながら、私にとどめを刺せないのが連中の実力ということだ。

 

「あのクソどもめ、すぐにぶっ殺して……」

 

 だが、なにかおかしい。私は今すぐあのナメくさった連中を殺そうという殺意で満ちているというのに、肝心の連中がどこにいるかわからない。

 そして、この列車に乗り込んできて何度目かの奇妙な感覚に襲われる。

 私の頭が「これは絶対におかしい」と必死に考えようとするが、それをリドル様への忠誠心で塗りつぶす。

 リドル様が「認識できる最後尾の車両には入るな」と命令したのだ。私はそれに従うだけ。

 

 ただ、それにしてもおかしいことはある。そう命令された以上、絶対に自分の足で最後尾の車両に足を踏み入れるはずはない。

 にも関わらず、あの三文記者のスキーターが突然現れ、最初の奇襲攻撃を仕掛けてきた際……なぜか私は、自分が認識できる最後の車両に立っていたのだ。なにが起きていたのだろうか?

 そのときは囲まれていたのもあって、包囲を解くとともにリドル様の命令を遂行するためひとつ後ろの車両に移動した。だが、やはりあの感覚は奇妙だった。

 

 今もそれは同じ。心のなかではあのアンドロメダの娘と穢れた血、指先が筆もろとも腐っている記者を追いかけて殺したい気持ちでいっぱいなのだが……なぜか、突然やつらが認識できなくなった。

 また透明マントだのなんだの使っているのだろうか?

 どこに消えたのだ? いや、そもそも奴らだけではない。

 

 この車両の前後がなにも認識できない。

 

「……?」

 

 明らかにおかしい。

 だが……リドル様は奴らが逃げ隠れし姿を現さないときの指示もしっかりとくださっている。

 今いる車両を壊せ。

 私はリドル様の命令通り、杖を床に向け、爆発呪文(ボンバーダ)を唱え――

 

 その瞬間。

 私の体は――いや、私がいる車両の内部、すべてが爆発で吹き飛んだ。

 

 

 ――――

 

 

「あーあ。ついに私も人殺しちゃった。ようこそ闇の魔法使いって感じね」

「そんな気に病むことないでしょ、リリー。ベラトリックスおばさんの頭が完全にイカれてなければ、分霊箱(ホークラックス)とやらで蘇ってくるはずなんでしょ? ノーカンじゃない?」

「うーん……すぐに戻ってくるわけでもないっぽいしねえ。後遺症が絶対残らない保証があっても、意識不明の病院送りにするような怪我させたら傷害罪じゃない?」

「あんたら、よくこの状況で生命倫理の話に興じれるざんすね」

 

 私とトンクスで練っていた策はばっちりハマった。

 使った魔法は主に二つ。「忠誠の術」と、ホグワーツ特急が通る線路を通すためのトンネル作りに使った「爆破内蔵保護呪文」だ。

 

 まず、スキーターさんを客車から見つけて戻ってくる前にやったのが……4両目に「忠誠の術」をかけることだ。狙いは一つ。4両目に足を踏み入れようとしないベラトリックスを動かすため。

 そりゃ、自分の脳みそより他人の命令を重視して認識できないとこにも攻撃仕掛けるのは厄介だけど、逆に言えばいくら奇妙なことが起きても自分の頭で考えて動かない、ということでもある。

 ベラトリックスは親切にも「最後の車両には足を踏み入れるなと命令された」「周囲に敵がいなければ車両を破壊する」という行動ルーチンを教えてくれた。

 このルーチンに従えば、4両目に「忠誠の術」がかけられたら(もともとすべての車両にクィリナス・クィレルさんがかけようとしていたみたいだから、私はちょっとの手間ですんだ)、ベラトリックスは自分のいる場所を「最後の車両」と認識して移動する。彼女はしっかり予測通りに動いてくれた。

 

 あとは簡単。3両目に押し込んだ段階で2両目の忠誠の術を完成させ、前の車両も後ろの車両も認識できなくさせた。

 こうなると「周囲に敵がいなければ車両を破壊」しはじめるだろう。そのために、トンクスに2両目で時間を稼いでもらっている間「爆破内蔵保護呪文」を車両の床、壁、天上に仕掛けておいた。念のため窓にも。

 で、どうなるかっていうと……トンネル作ったときと同じね。外枠である車両は保護して、中だけ吹っ飛ぶ。さすがのベラトリックスも防げるレベルじゃないわ。

 

 まあ、他人に考えを全部委任する人間は赤の他人からも簡単に操られる……いい教訓ね。

 

「すっげえ音したけど……お前ら無事か!?」

「あ、ジェームズだ。もう終わっちゃったよ」

「もう終わったわよ。一応全員で警戒しながら中は確認するけど」

「え、今の音ってお前らの仕業なの?」

「アンタの奥さんが3両目の内部をベラトリックスごと爆破したよ」

「なにそれ、超こわいこと言わないで」

 

 ジェームズまでちょっと引いた顔で私の所業を聞いている。

 まあ、ちょっとやりすぎた感じはあるけど。

 

「ああ、そうだ。いいか、死体でも油断するなよ。俺の相手は死んだはずのアミカス・カローでな。どうもリドルの親衛隊みたいな連中はクラクソンズとかいう不死の儀式をしてるらしくて……」

分霊箱(ホークラックス)でしょ?」

「そうそう、それそれ……って知ってんのか!?」

「ベラトリックスが親切に教えてくれたの」

「あ、そう……」

「っていうかあんたのほうが状態ひどいじゃない。指まで失っちゃって……ほら、こっち来なさい。マダム・ポンフリーの説教がマシになる程度の措置はするから」

 

 本職ではないけど、癒やしの呪文を知らないわけではない。

 切断面は綺麗なようだけど、保護して痛みをやわらげる。

 

「そうも言ってられねえよ。ホグワーツに戻ったらすぐにアイルランドまで行かねえと。ハリーを助けにな」

「……私も気持ちはわかるけど、その状態じゃ無茶よ。向こうに渡るための箒もまともに握れないでしょ、それ」

 

 そう。私達が今一番に心配してるのは……アイルランドから「襲撃された」という手紙を送ってきたハリーのことだ。

 とはいえ、マクゴナガル校長は私達に代えて別の人員を手配すると言ってくれていた。

 その仲間を信じるしかない。

 

 

 

 ――――

 

 

 

 ホグワーツに戻ってきたマダム・フーチは、残してきた子どもたちが襲撃を受けたと聞いて卒倒せんばかりのショックを受けていた。

 彼女は率先して再度アイルランドに渡ろうとしていたが、倒れんばかりだった彼女をベッドに寝かせたマダム・ポンフリーは「今の精神的状態で、戦闘の専門家でもないあなたが行っても何の助けにもなりません」とばっさり斬って彼女が出ることに強く反対した。

 マダム・フーチはかなり責任を感じていたようだが、正直なところ彼女の落ち度はそう大きくはないだろう。向こうに置いてきたのだってグリフィンドールのガキどもがくだらないトラブルを起こしたからだそうだし、れっきとした成人であるウィリアム・ウィーズリーやチャールズ・ウィーズリーに一泊の面倒を任せるぐらいは無責任とはいえない。襲撃など予測不可能だ。

 

 そこで、マダム・フーチに代わって向こうに行く面子を決めるにあたって志願した二人のお守り……もとい、運転手兼付き添いとして我輩に声がかかった、というのがことの経緯だ。

 アイルランドへ再度向かう魔法の自動車のハンドルを握る私の後ろで、志願した二人は疲れることなく悪態をつきあっている。

 

「ふん。こんな陰気なマルフォイ家のクソ野郎を私の車に乗せることになるとはな!」

「ああ、アーサー・ウィーズリー……私も君と同じ思いだ。こんなマグルのガラクタに乗せられて実に気分が悪い」

「嫌なら乗らなければよかったんだ、これは私の車だぞ! もっと客人らしく私を敬ったらどうだ?」

「ほう? それでは君はこのセブルスよりまともな運転手を手配できたのか? 自分の所有品だというのに知識が足りないどころか、免許も技能もないとは。聞いて呆れる」

「わ、私だってな。ここのところ多忙でなければ種族(トライブ)免許ぐらいすぐに取得するつもりで……ふん! だいたい、普段マグルの製品に嫌悪感を示しているのが貴様だろうが!」

 

 マグルとの連絡係になる可能性も考えて省にいたときにこの手の免許を取っておいたのは失敗だったか。

 ルシウスも我輩を使ってマウントを取るな。

 

「ああ、その通り。貴様の持ち物であるマグルの機械で移動するなど吐き気を催す。だが……ドラコの安全には代えられん」

「……まあ、その動機は理解できる。だから乗せてやったんだ」

「乗せてやった? 運転してもらったの間違いだろう?」

「なんでもいい! 私は息子も娘も向こうにいるんだぞ、全員だ!」

「……そこは、確かに心中を察する」

「いいだろう。まあ、一時休戦を認めてやる」

「利害の一致は認めよう。粗野な血の裏切り者であっても、マルフォイ家には利益のために許容する度量はある」

「誰が粗野だと?」

 

 アイルランドの生徒たちを襲撃した連中が、何者なのかは今のところわからない。しかし……アーサー・ウィーズリーとルシウス・マルフォイを同時に敵に回す。

 イギリス魔法界初の偉業に違いない。

 

 

 

 

 




アイルランド編もまた書き溜めを行いますので、少し間が開きます。
お待ちの間に本作に評価など入れていただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。
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