ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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本日から9話連日投稿予定です。


126.Ready or Not(1)

 

「いいか、魔法界には……ドラゴンの尾ってやつがある。ほんとのドラゴンじゃあねえぞ? 怖い怖い御方がいる、って話だ。俺の言ってることわかるか、ロナルド・ウィーズリーくん?」

「……」

「ポッター家やマルフォイ家はそのしっぽを踏んづけちまった。となると、だからちょっとばかり警告しにきた、ってわけだ。で、俺たちは親切に尋ねてる。その二人がどこにいったのかをな。もう帰っちまったのか? それともアイルランドにいるのか?」

「親切に尋ねてるだって? 僕を縛り付けて、妹を眠らせておいて? おっどろきだね」

「ああ。このまま聞かれたことを答えないままでいたら……あのときは実に親切だった、と思い返すことになるだろうな」

 

 僕とジニーは、突然現れた謎の連中によって攫われて……薄暗い明かりだけが灯された粗末な小屋に連れ込まれていた。二人とも杖は奪われて、僕は縛られ、ジニーは眠らされている。

 

「試しに少し痛い目を……」

 

 杖を奪って縛ったことで強気になった(いい大人が子供相手にどーなのさ、それ)横のブ男は、突然言葉を失って口をパクパクさせはじめた。

 ジニーの脇に立っていた、この場のリーダーのような雰囲気の男がそのブ男に杖を向けていた。どうやらなにか呪いでもかけたみたいだ。

 

「失礼をした、ウィーズリー君」

「なんだよ、急に。仲間割れか?」

「そのようなものだ。私は決して君たちに手荒な真似をしようとは思っていない。探しているポッター君、マルフォイ君についてもそうだ」

「そうは思えないけどね」

「まあ、確かに君らぐらいの年齢からすると、理不尽にも思える出来事かもしれない。しかし、これぐらいの出来事は実はありふれているんだ。君が適切に対応してくれれば、なにごともなく穏便に話は終わるだろう。一方で……我々は集団で動いており、一枚岩ではない。我々以外にも同じ目的の人間はいて、彼らは極めて野蛮だ。事態を素早く、平和裏に収拾するためには、君の協力が必要なのだ」

 

 絶対に嘘だ。

 ただ、黙らされたブ男と比べると、役者はちょっとは上みたいだ。だからこそ、これはデタラメだ。巧みなチェスの打ち手は、攻撃を悟られないよう心がけるものだからね。

 ただ、ここで黙り込んだままでいるべきかというと……それは難しい。

 僕が今やるべきいちばん重要なことは、妹のジニーを守ること。次いで友達のハリー……ついでにマルフォイについてもこいつらの手が及ぶまでの時間を稼ぐこと。マルフォイはまあ、どうでもいいっちゃいいけど、いけ好かない具合で言えばこいつらよりはだいぶマシだ。

 

「さあ、早く決断するといい。私の上の人間も今この小屋に向かっている。今のうちに喋ったほうがお互いに利があるはずだ」

 

 どう動くべきか決めるには……まず状況を判断する必要がある。

 とあるチェスマスターが気持ちを落ち着けるために「四隅のルークを見よ」なんて言ったとか言わないとか。ともあれ、僕もその格言に倣って部屋の周囲を確認する。

 どうやらここは僕たちを閉じ込めるために用意した部屋のようで、誰かの居室という感じではない。僕みたいなのを尋問したり拘束するための間取りのようで、入口から視界が取れない奥まったところにジニーが寝かされている。

 それに加えて小さな暖炉、あと……少し奇妙な空間がある。狭くて椅子やら机やらの置き場所もないぐらいなのに、なぜかその壁だけは前になにも置かれていない。なんでだろう?

 

 こうやって僕は部屋の中にいる人数、人間の様子、位置関係、そして物……そのあたりをつぶさに観察する。その結果……木の扉を背にして立ち、陣取っている男の足元にあるものを発見した。

 扉の下の隙間を通したのだろう、ほんの少しだけ見えている。あれは……事態の打開の鍵になりそうだ。となると……僕がやるべきことは決まった。

 

「……協力が必要だって? そこの黙らされたおっさんは言うが及ばず、ドアを背にして立ってる奴だって僕をここに運ぶ時小突きやがったんだ。暖炉の前にいるやつも似たようなもんさ、僕の後ろで寝ているジニーに手荒な真似をしてたこと、忘れるわけないよ。向かいの壁際からずっと僕を睨んでるやつも気に食わないね」

「重ね重ね部下が失礼した。では、私にだけ話してはくれないか?」

「ふん。あんたがその乱暴な部下をまとめてたんだろ、嫌なこったい。ああ、でも……ジニーの横にいるやつに関しては、一応なりとも僕の妹をはたいたりしてないみたいだからな。そいつにだったら、少しは話したっていい」

 

 そう僕が言ってのけると、そのボスみたいなやつはジニーの横に立っていた男に対して無言で頷いた。

 読み通り、そいつは立ち上がって僕の近くに寄り、屈んで僕の横に耳を近づけた。これで……眠らされているジニーの周辺からは人がいなくなる。

 

「ああ、ありがとう。僕のところまで寄ってきてくれて」

「ふん、皮肉か? 縛られてるんだから、俺が寄る以外ねえだろ」

「いや、こういうのはちゃんと口に出して言わないと、伝わらないからね。そんでもって僕が言いたいことは……」

 

 杖がない僕にできる攻撃手段は、これぐらいだ。

 できる限りお腹に力を入れて、めいっぱい叫ぶ。

 

「お前らみんなマヌケ野郎(Tosser)だ! マーリンのパンツよりくっさいね!」

 

 僕の横にいた連中は耳を抑えて一瞬うずくまり、他の連中は全員杖に手をかけて僕を見た。

 完璧に読み通り。連中の気を完全に逸らすことができた。

 僕に杖が向けられる前に――木の扉は、その前に立っていた男とともに勢いよく吹き飛んだ。

 

「スーダンの地下遺跡に入るときと同じぐらいの威力で吹っ飛ばすのはさすがにやりすぎだったかな? 前に立ってた人はご愁傷さまだが、ウィーズリー家の弟と妹に手を出したんだ。諦めてくれ。ロン、よくジニーを守ってくれた」

 

 この声は……ビルだ!

 呪い破りは宝を守る魔法生物が待ち受けている古代遺跡の一室なんかに突入することもある。そんなときにわざわざノックして入ったりはしない――いや、ある意味これもノックかな?

 

「よく言ったぜロニー、ナイスアシストだった! 今日の『ヒンヤリきゅうり(Cool as a cucumber)賞』を進呈しよう」

「かわいい弟と妹に手出しした連中は覚悟したほうがいい、今からとっても嫌な目に合うことになる」

 

 聞き馴染みのある双子の兄の声も入ってくる。次にジョージとフレッドがどう動くかなんて……まあ、なにせジョージとフレッドだ。予想しきれるわけがない。

 けど……この状況で、パーシーでもチャーリーでもなくジョージとフレッドが2番手で入ってくるってことは……僕は次に起こることを予測して目をつぶる。

 予測はあたった。部屋は爆音と閃光に包まれ、中の連中の視界を奪う。たぶん……「暴れバンバン花火」だ。

 

「連中は怯んだ、行くぞ!」

「お前ら何やってる! 相手はガキだ、とっとと反撃しろ……沈黙せよ(シレンシオ)!」

 

 他の連中はあらかた怯んでいたけど、ボスのような振る舞いをしていた奴だけはなんとか奪われた視界の中でも反撃を試みていた。

 さっき僕の横にいたやつにもかけていた呪いだろうか? 麻痺や武装解除とかとは違うっぽいけど、呪文が唱えられなくなるのはかなり手痛い呪いだ。食らいたくないところだけど……

 その呪いは、入れ替わって先頭に立ったパーシーが掲げた(プロテゴ)によってあっさりと弾かれた。

 

「大した呪いじゃない! 呪文学のNEWTはなさそうだ!」

「いい(プロテゴ)だ、パース。そら、ロニー。動けるか?」

 

 ビルが僕とジニーの縄を魔法で切ってくれたので、眠ったままのジニーを背負って脱出する……ついでに僕の大声でやられてうずくまったままの悪漢の股間に一発蹴りをいれておく。

 削れるときに敵は削っておかないとね。

 さすがに縛り付けていた僕らが逃げ出すのを看過してはくれないようで、まだ戦意のある連中がパーシーの盾をかいくぐってこちらに攻撃しようとするが……その前にジョージとフレッドがポケットから筒状のものを連中の足元に転がした。

 これは……煙幕だ。

 

「ゴホッ、ゴホッ!」

「ペルーからの輸入品だが、なかなかの質だな」

「お買い求めはウィーズリー……会社名を早いとこ決めないとな」

 

 ついでとばかりに部屋中が煙でいっぱいになる直前に2人は各2つの手を使い、合計5つの顔にクソ爆弾をぶつけてみせた。ん? 計算がおかしいかな?

 僕はジョージとフレッドに手(すごいべたべたしていた)を引かれ、煙に乗じて脱出する。

 

「クソッ! 一旦外に逃げるぞ、隠し扉だ!」

 

 どうやら、不自然になにも置かれていなかった空間は隠し扉だったらしい。

 ボスの先導でまだ気力の残っているやつは慌てて逃げようとするが……その出口に、待ち受けている人間がいたようだ。

 

「ああ、やっぱり。なんとなくこのあたりが臭いと思ってたんだよね。麻痺せよ(ステューピファイ)

 

 浮足立った連中は隠し扉の出口で待ち受けていたチャーリーによってあっさり倒され、連中は全滅したみたいだ。

 

「突入に参加しないでふらふらしたかと思えば……最後のいいところをもっていったな?」

「いやあ、その辺をまとめるのはビルのほうがうまいだろ? 任せたほうがいいと思って。ドラゴンの巣穴の入り口みたいな感覚のところがあってね、チェックしておきたかったんだ」

「チャーリーのいつもの野生の勘ってやつだな」

「外れた試しがない」

「それにしてもナイスアシストだったな、ロン」

「ああ。木の扉の下の伸び耳が見えたから」

 

 パーシーが褒めてくれたので、少し照れながらも頷きながら理由を話す。

 ジョージとフレッドが作った試作品として伸び耳を、僕もちらっと見せてもらったことがある。あれを建屋の中に入れて音を聞くことで状況を伺っていると察した僕は、中にいる人間の位置関係を声に出して伝え、奥まったところに寝かされていたジニーのところについていた人間を引き剥がして……最後は大声で合図を出した。まさか兄弟勢ぞろいでいるとは思ってなかったけど。

 

「ロニーとジンジンをいじめていいのは俺たちだけだよな」

「フレッド、お前も大概にしろよな……」

 

 フレッドとジョージをお小言を言うパーシーが追っかけ回す。

 普段のグリフィンドール寮やウィーズリー家のような光景だ。

 けど……助かって安堵している場合じゃない。

 

「あいつらの狙いはハリーと、あとついでにマルフォイらしいんだ! 助けに行かないと!」

「なに? どういうことだ?」

 

 ビルが首を傾げる。もちろん、足は止めない。この場から離れるの先決なのだろう。

 

「詳しくはわかんない。ただ、あいつらは『ポッター家やマルフォイ家は魔法界のドラゴンの尾を踏んだ、だから警告する』とか言ってた。上に誰かがいて指示を受けてて、しかもあいつら以外にもいっぱい手下がこのあたりにいるって」

「ヒトがドラゴンの尾を踏んだって、大型種なら気付かれもしなかったりするけどね」

「その話は後で頼むよ、チャーリー。ふむ。とにかく周囲にまだあいつらの仲間がいるのか。ハリーくんたちとは散り散りになってしまったけど、なんとか合流を目指そう。ジョージかフレッド、彼らがどっちの方面に逃げたか見たりしたかい?」

「慌てて小屋を出たもんだから、はっきりはわからないな」

「たぶん俺たちと逆側だ。湖に沿って走ってた」

「よし、ではこの木立を抜けて湖に近づいて……」

「みんな……止まって」

 

 木立のふち、湖を見渡す見通しのいい場所にでようとしたところで、ビルの話を遮ってチャーリーが僕らを制止した。

 

「嫌な感じがする。捕食者が獲物を狙う地形だ」

「どういうことだい?」

「パーシーも念のため(プロテゴ)を。角度は少し下向きに構えておいてくれ……月の光の反射で気づかれないようにね」

 

 チャーリーとパーシー、加えてビルで揃って(プロテゴ)を構える。

 そのままゆっくりと歩を踏み出した瞬間……脇の岩陰に閃光が見えた。杖先の光だ。

 

「屈め!」

 

 チャーリーが大きな声で叫ぶ。僕たちは慌ててその指示に従うと、僕らがいるあたりにたくさんの呪いが着弾した。いくつかの呪いは盾に直撃し、土埃が上がる。

 暗くてよく見えないけど、何人もいるみたいだ。さっきの小屋にいた人間よりも遥かに多い。どうやらこっちが本隊みたいだ。

 

「おいおい、ガキんちょども。お前ら俺の部下どもが報告よこしたウィーズリーの連中だろ? 勝手にほっつき歩くとはどういう了見だ」

「なんだお前! あいつらが言ってた『魔法界のドラゴンの尾』ってお前のことか!?」

「俺がドラゴンの尾? わはは、なかなか面白いことを言うじゃねえか。俺なんかせいぜいドラゴンの毛ってとこだよ。あいつらの上の人間には違いねえが、もっとこわーい御方は他にいらっしゃる」

 

 背負ったジニーの位置を調整して、連中の杖が当たらないように動かしながら僕が問いかけてみると、そいつは少し面白がった様子で返答した。

 僕たちを捕まえていた連中を知っているということは、話に出てた『今この小屋に向かっている私の上の人間』とかだろう。

 その上更にこわーい御方がいる? もっとわかりやすい仕組みにしなよ、ナイトを通しての指示じゃないと言うことを聞かないポーンがいるチェスボードみたいだ。おじいちゃんから貰ったやつ。

 

「まあ、お前らも殊勝にしてりゃあ痛い目を見ることもなかったものを。お前ら、放て! 油断すんなよ、逃げるような隙を与えんな!」

 

 月明かりを背にした連中が、杖を振るのが見える。

 なんとか今のところはパーシー、ビル、チャーリーの(プロテゴ)で凌げているけれど……正直言って決壊は時間の問題に見える。

 僕らは、再び木立のほうへ後退しようとしたが……残念。キングに攻撃を仕掛けるときは、網のように(メイティング・ネット)包むように寄せるのが基本だ。どうやら今度の相手はさっきの小屋の連中ほど手緩くはないらしい。

 

「へっへっへ、ガキども。呪いがいいか? 殴られるのがいいか? どっちもおすすめだぜ」

 

 背後から近づいてきたのは、一方の手に鈍器を、もう一方の手に杖を持った悪そうなやつらの集団。

 

「おいおい、なんて凶相だ? 悪党やると顔つきがこうなるって教えたら、犯罪率も下がりそうだ」

「もっと見た目に気を遣えよ。そんなツラじゃ買い物行くたびにポリジュース薬が必要になる」

 

 ジョージとフレッドはいつもどおり冗談を飛ばしてみるが、心なしか声が上ずっている気がする。こんな冗談が通じない相手だとわかっているのだろう。

 

「ご心配には及ばずだ。この顔も役立つときがある。これから痛い目にあうやつから恐怖をめいっぱい引き出すときとかな!」

 

 僕の正面に相対した男の武器は……鉄球だ。

 もう片方の手に持っている杖は極太。まるでビーターが使うバットみたいに太い。

 男はその杖の根本に鎖を繋ぎ、その先は逆側の手に収まっている鉄球につながっている。男はその鉄球を口元に近づけ、僕を恫喝するようにペロリと舐めた。

 はっきりいってバカみたいな杖だ。こんな状況じゃなきゃ、見た途端に吹き出してたに違いない。

 ただ、それは間違いなくバカみたい、いやバカそのものの加工が施された杖なのは間違いない……間違いないけど、まあ、そいつが言うとおり僕をすこーしだけ怖がらせるという点で、貢献したというのは認めるよ。

 

 

 

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