ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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134.見よ、勇者は帰る

 

 ロンドンからのホグワーツ特急を使った脱出劇を終えた私とジェームズは、避難民を下ろす諸々の手続きもそこそこに(そのあたりは心苦しいけどクィレル教授に押し付けてしまった。ごめんなさい)、箒にまたがってアイルランドに向かっていた。

 ハリーを探すために、アイルランドから超特急で手紙を飛ばしてくれたふくろうのヘドウィグにもうひと仕事頼むことにした。

 彼宛の手紙を渡した私たちは、その手紙を運ぶヘドウィグの背を追って飛び続けている。

 ヘドウィグのほうも意図を理解しているのか、人間を撒くための複雑なルートを選ぶこともなく障害物のない素直なルートを巡航速度で飛んでくれているようだ。

 

「ん……? ヘドウィグが降り始めたな。まだアイルランド島は遠いよな?」

「ええ。だいたいちょうど中間地点ぐらいだけど……待って、あそこに一隻船が見えない?」

 

 夜明け前のまだ薄暗い洋上を……灯りを消して進んでいる船がある。

 明らかに不審だ。

 

「……マグルの船じゃないな。動力が魔法だ」

「ヘドウィグが向かっているのは、あの船ってこと?」

 

 私が呟いた言葉にヘドウィグが返事をすることはない。

 無言でそのまま高度を落としていく。辺りには他に降りられるような場所はない、目的地はやはりあの船のようだ。私たちはヘドウィグを追い抜いて船に近づく。

 

「俺が乗り込む。リリーは上から哨戒していてくれ」

「わかったわ」

 

 ジェームズがほとんど足音も経てずに、甲板に降り立つ。

 杖を構え、外から船室の様子を探ろうとして……

 

「何をやっているのだ、お前は」

「うわあああぁ! す、スネイプ!?」

「やかましい。静かにしろ」

「な、なんでお前が。ハリーはどこだ?」

「聞こえなかったのか? 静かにしろと言っているのだ」

 

 船室から出てきたのは、私達の代わりにアイルランドに向かったセブだった。

 なんでセブも船に乗っているかわからないけれど、ハリーもここに乗っている可能性が高いことをあわせると危機的状況は脱したと見ていいのだろう。

 ほっと安堵の息を吐いて、私も箒から降りて甲板に降りる。

 

「セブ、無事でよかったわ。子どもたちは?」

「リリー! 君も来ていたのか。船室の中にいる、皆大きな怪我もなく無事だ」

「へいへーい、スネイプくん、そういう露骨に態度を変える男はモテないからやめたほうが」

黙れ(シレンシオ)

「……!」

 

 セブの沈黙呪文にジェームズが無言呪文で反撃しているのを尻目に、私はセブが教えてくれた通り船室に歩を進める。

 中にはハリーも含めて子どもたち、皆船室のソファやら床やらでぐっすりと眠っている。

 なるほどね、だからセブは静かにしろって言ってたわけか。はっきり意図を言わないあたりがセブらしいわね。

 私達が箒で追い抜いたヘドウィグも追いついたようで、船室に入って私の肩に止まった。主人たちを起こさないためか飛翔音まで消している。

 

「賢い子ね。ジェームズより賢いかもしれないわ」

 

 当然だ、と言わんばかりにヘドウィグは胸を張る。さて、肝心のハリーは……船室の奥にあるソファにいた。

 そこで……グリーングラス家の娘さんと肩を寄せ合って眠っていた。

 

「おおっと……確かにこりゃ起こすわけにはいかねえな」

「あら。あんた来たの」

「俺だって大人だぜ。こんな場で本気で揉めたりしねえよ」

「じゃあなんであんたとセブの顔が腫れてるの?」

 

 後ろから、どうやら決着をつけてきたらしいジェームズとセブが近づいてくる。沈黙呪文も解いてあげたらしい。

 私の言葉に返すこともせず、ジェームズはハリーの寝ているソファをを見つけて……指さしてニヤニヤしはじめた。

 

「うわ! おいおい、めっちゃ仲良しさんじゃねえか、スキーター記者からカメラ借りてきてたりしないか?」

「あんたそういう態度だからウザがられるのよ、ハリーに。それにしてもセブ、ハリーのこと助けてくれたんでしょう? ありがとうね、本当に感謝するわ」

「別に礼には及ばん。そもそも私はルシウスと共にドラコを助けるために行ったのであり、ポッターを助けたのは成り行き上のもので、そもそもポッターを救ったのはそこで眠っているミス・グリーングラスが出したオオヤマネコの守護霊であって……」

「おめーなあ、そこはごちゃごちゃ言わず『どういたしまして』でいいんだよ。素直に返事できなくなる魔法薬でも皮膚に染み付いてんのか?」

「これに関してはジェームズに同意見よ」

「あー……まあ、賛辞は受け取っておこう」

 

 二人でセブを責めると、頷きはしたもののちょっとうなだれてしまった。さすがにかわいそうなので話題を変えてあげる。

 

「それにしてもこの歳で守護霊の実体とはすごいわ、オオヤマネコなんてね。守護霊の呪文が役に立ったってことは、周囲に吸魂鬼がいっぱいいたの?」

「ああ。ドラコやクラッブ氏あたりから聞いた証言をつなぎ合わせた中での想像でしかないが、無人の地帯に放ってそこに追い込む算段だったらしい」

 

 なるほど、と頷いて聞いていると……ジェームズはなにか違うところで引っかかったようだ。

 

「オオヤマネコ、オオヤマネコかあ……」

「どうしたのよ、それが」

「いや、その……ハリーが守護霊の実体を安定して出せはしないが、俺と同じ鹿なんだよ」

「そうだったわね」

「オオヤマネコといやあ、凍土(ツンドラ)地帯の頂点捕食者だ。なんでそんなこと知ってるかっていうとな、まあ俺も鹿の動物もどきだからちょっとは鹿について詳しいわけで、その……オオヤマネコの主な獲物はな。鹿だったなあ、って、ふと思って」

「…………」

「ハリー、いろいろ苦労しそうだなあ……」

「まあ、いいんじゃない? 今どき女の子は砂糖やスパイスでできてるなんて時代じゃないでしょ。ハリーもグリーングラスさんもいい子なのは間違いないわ」

「いや、それはそうなんだけどさ、俺自身がちょーっとだけ苦労してるわけで」

「何か不満でも? ジェームズ」

「いえ。ございません。一切ございません」

 

 

 子どもたちを起こさないようにしながら船室を後にし、セブの案内に従って船主であるトレーシー家に挨拶をする。

 詳しく話を聞いたところ、行きで使った車は破壊されてしまったため、もともとグリーングラス家の脱出のためにベルファストに迎えに来る算段になっていたこの船に皆で同乗させてもらったらしい。

 ホグワーツからこちらに先んじて向かっていたアーサー・ウィーズリーさんもルシウス・マルフォイさんも無事。意外なところでは、ホラス・スラグホーン教授との久しぶりの再会もあった。

 年月を経てシワもシミも増えたことだけど、彼の中では「お気に入り生徒のリリー・エヴァンス」から一切変わっていないままらしい。ずいぶんと再会を喜んでくれた。

 こうして一通り状況の把握も済んだので、ホグワーツにその旨手紙で伝えることにする。

 船が近づくことで距離も縮んでいるとはいえ、今日はヘドウィグにはずいぶんと働いてもらってるわね。落ち着いたら素敵なおやつを用意してあげないと。

 

 こうしてホグワーツに情報を伝え、ゆっくりと船は進んでいき……日が昇った頃、ついに魔法界の港が見えた。スコットランドに到着だ。

 

「あれ……ママがいる!?」

「おはようハリー、パパもいるわよ。夜のうちに乗船させてもらったの、ああ、ちょうどスコットランドの港が見えたわ」

「もう、遅いよ。すっごい大変だったんだからね!」

「わかってるわよ……無事でいてくれて、ありがとうハリー」

 

 私はハリーを抱きしめる。いつもは恥ずかしがって抵抗しがちな息子も今回ばかりは素直に受け入れる。

 息子への抱擁が終わるのとほとんど時を同じくして、船が停止する。どうやら入港したようだ。

 マグルの世界に港があるように、魔法界にも港がある。ここからホグワーツはすぐそこ、そもそもスコットランド魔法界の一大消費地であるホグワーツ城とホグズミードのためにある港だ。

 岸壁へタラップが架けられると、向こうから誰かがこちらに乗ってくる。

 

「バチルダおばあちゃん!」

「ハリー坊や、ずいぶん大変な思いをしたそうだね。よく生き延びた」

「なんとかね。色んな人の助けを借りたけど……アイルランドではいろんなことがあってね!」

「ごめんね、坊や。それより先んじて確認したいことがあってね」

 

 いつもハリーを可愛がってくれているバチルダさんにしては、ずいぶんと態度がそっけない。

 

「何かお探しですか?」

「ああ、リリー。いいさ、自分で探すよ。事と次第によっちゃあ、あんたらに顔向けできなくなるかもしれないからね……」

「……?」

 

 なにやら意味深なことを言いながらバチルダおばあちゃんはつかつかと船内を歩いていく。

 そして船室の奥で、目標の人物を見つけたようだ。

 

「ああ、ちゃんといたね、スラグホーン。念の為この目で確認しておこうと思ってね」

「……バグショットのよぼよぼ婆さんか。遠路はるばるご苦労なことだ」

「阿呆言うんじゃないよ。ホグワーツから大して歩いちゃいないさ。だいたい、よぼよぼ婆さんって……あんたもずっと前からジジイだろうに」

「そうだな。だが私がジジイになるずっと前からバグショットの婆さんは婆さんだったものでな」

 

 どうやら、旧知の仲らしい。とはいえ、率先して探しに来るほど仲がいいようには見えないけれど……

 

「準備は整ってる。あんたが最後のピースだ」

「そうか。婆さんから届いた手紙を見たときはずいぶん迂遠な手を思いつくと思ったが……こうして連中の手先に追われてみてわかった。トム・リドルをこちらが用意した舞台に引きずり出すには、これぐらい大掛かりなトリックが必要だとな」

「そうとも。さあ、とっとときな。例の古い魔法具を動かす支度をしないといけない」

 

 バチルダお婆ちゃんはスラグホーン教授にそう言って、用は済んだとばかりに船を降りてしまった。

 なんのことなのだろう。

 前から手伝わされてホグワーツ……いや、ヨーロッパの魔法界に伝わる古い魔法具を学舎の奥底から引っ張り出したりしていた。アレを活用するつもりってこと?

 魔法学校対抗試合のために使われていた古きアーティファクト、炎のゴブレットを。

 

 

 ――――

 

 

「リドル様、ご報告です。その……今回のロンドンでの脱出阻止作戦、及びアイルランドでの襲撃作戦は……どちらも失敗いたしました」

 

 バーテミウス・クラウチが血の気の引いた顔で僕に報告する。

 恐れられていることはいいことだ。僕たちスリザリン生は長いようで短かかった7年間で必ず学ぶ――恐怖なき権威者は無力だと。

 

 だがまあ、ここまで震えられると……正直、怒ってやるという気力も失せる。そもそもバーティ君は今回の騒動にほとんど関わっていない。彼を責めるのは酷な話だ。

 

「顔を上げてくれ、バーティ」

「はっ……どのようなお叱りを受けようとも、このバーテミウス・クラウチはなお一層の……」

「そんな畏まる必要はないさ。まず第一に、君は自らの領分の仕事をしっかりとこなしている」

 

 今、彼に任せている仕事はイングランドの有力な魔法使いの掌握だ。

 今の僕が恐れているのは暗殺。呪いが篭められた爆弾を大臣の執務室に仕掛けるとか。あるいはワンチャンスに賭けて死の呪文を唱えるとか。色々手は思いつく。

 もちろん僕だって()()()()はきっちりしているけれども、それでもこの世界から一時的にでも退場するのはノーリスクとはいえない。魔法というものがいかに強力かは僕が一番よく知っている。追い詰められた人間がどう動くかはわからない。

 

 だからこそ、バーティには昼夜を徹して働きかけをしてもらっている。主な対象は地盤の弱い中流階級の幹部クラス、あるいは経営者に対してだ。やり方は以前と同じ。古い時代に結婚などに使われていた魔法契約……契約者がお互いに致死的な攻撃を加えることを禁じる契約だ。

 それ以外の条件(つまり金銭を払わせるか、あるいはこちらが便宜を図るか)は力関係に依るとして……この部分に関しては、僕にとって損はない。なにせ僕には部下がいっぱいいて、もはや表に出ることはほとんどない。邪魔になったら部下を使って消せばいい。

 一方、彼らは違う。殺し屋の連絡先を知っている人間がどれだけいる? 他の人間を使えば、それだけ露見しやすくなるしね。

 ペナルティは、古い魔法契約にありがちなもの……魔法力を失う、というものだ。魔法族の根幹である魔法の力を手放せる人間などそうはいないし、なにより僕を殺すために杖を向けた時点で発動する。そうなればそこにいるのは棒を持ったマグルにすぎない。

 しかも、これらの条項は説明などせずとも契約書にサインさせた時点で発揮する。言い訳も特記事項もない。理不尽かつ強引、古い魔法契約は実に便利だ。

 

 そうした仕事をしっかりとこなしてくれているバーティを、僕は高く評価している。

 まあ、幹部で言えばベラは別枠だけどね。アレは天才だから。僕は僕に逆らわない天才が好きだ。

 ……そういう意味ではドロホフにはがっかりしたね。最強の決闘術師なんていうから期待してたのに、あっさり負けてしまうなんて。まぬけなことに吸魂鬼のキスを受けてしまったようで、彼の魂はもう戻ってはこないだろうけど……そもそも、戦いに負けた「最強の決闘術師」に価値はない。たとえ生き残っていても遠からぬうちに死喰い人でいる權利を剥奪されていただろうね。

 

「バーティ……今回の作戦はどちらも確かに失敗したが、僕は十分に収穫があったと思っている」

「と、いいますと?」

「ドロホフに関しては不幸な事故があったが、ベラとカローは戻ってこれる。こちらが失った手札はほとんどないと言っていい。一方、彼らは? ついにホグワーツは組織的に、明確に僕らに逆らったんだ! 大義名分ができた以上、思う存分戦力を動かせる。その間、僕たちはバーティがやっている魔法契約を進めてロンドンでの地位を盤石にする。更に、ホグワーツに向けて吸魂鬼と死を克服した死喰い人を使って繰り返し攻撃を仕掛ける。一方で、僕は執務室と自宅に座っているだけでいい。小心なマクベスのように、予言を乞いたり、恐れたりする必要はないんだ。時間はこちらにとって、今や最大の武器となった!」

「なるほど……さすが闇の帝王さま、なんと賢哲で狡猾なのでしょう」

「ああ。だからそう恐れる必要はない。ゆっくりと絞め上げていけばいいのさ……さて、今日の仕事はこんなところか。お先に失礼する」

「はい! お疲れ様です」

 

 省の執務室を後にして、暖炉をくぐって自宅に戻る。

 

 やはり、ダンブルドアのいないホグワーツなど恐るるに足らずだ。ダンブルドアの排除のために「逆転時計」を使うというリスクを犯しただけあったと言えるだろう。

 正直なところ、あれを使っている間は俺様でさえも冷や汗をかいていた。なにせ「逆転時計」によって因果を悪い方に歪めてしまえば(例えば自分と会ってしまうとか)、俺様が最強の魔法使いであることなど関係なく時間軸から消滅してしまう可能性がある。運命が広がる幅が多い未成年は比較的ローリスクで使えるとルックウッドは話していたが、俺様はもうとっくに壮年だ。足を滑らせただけで多大なリスクが伴う。なにより、ダンブルドアに「逆転時計」を使っていることを悟られたら……さすがに正面切っての戦いであれば俺様が不覚を取ることはないだろうが、過去の俺様と自分が鉢合わせするまでの足止めぐらいはあの老人もやれた可能性はある。連中に見せる回数は一回に留めたかった。

 

 その一回を、ばっちりと急所で使うことが出来た。やはり俺様は天才の上に、運命に愛されているに違いない。最強の魔法使いである俺様が幸運によって守られるのは当然のことなのだ。

 もうあとは寝室で眠るだけだが、こうした確信によってもたらされた高揚感で眠気は湧いてこない。ほとんど使いもせず埃をかぶっている枕元のラジオだが、今日ぐらいはつけてみてもいいだろう。

 ……そういえば、ホグワーツの連中もラジオ放送をしているらしいな。このあたりの情報収集はもちろん、普段は部下に任せている。だが、今日に限っては……仮初の成功をホグワーツの連中がどのように喜んでいるか、自分の耳で確認し、嘲笑してやりたくなった。

 俺様は杖を振り、ラジオの電源を入れ周波数を合わせる。

 

「……1792年、魔法学校対抗試合の歴史は幕を落としました。しかし今、歴史的な試みとして、再度その幕が開こうとしております」

「ミネルバ、いくらなんでも言葉が堅くないかの? どうせかつてのようにボーバトンとダームストラングを呼んだわけでもなし。そのように形式ばらなくとも」

「ホラスが崩れすぎなのです!」

 

 どうやら、放送に載っている声は俺様も存じている二人のようだ。一人は現在ホグワーツの校長を務めているミネルバ・マクゴナガル、そして……ああ、そういえば彼が逃げたという報告も今日来ていたな。あまりにも優先度が低い事柄のものだから放置してしまったが。俺様がロンドンに新たに用意した国立トム・リドル記念魔法学校(ナショナルスクール)の学長に指名したホラス・スラグホーン。恩師ということで目をかけてやったのに、職務を放棄し、ホグワーツまで逃げ延びるとは誤った選択をしたものだ。

 スラグホーンは「分霊箱」についての知識があるから囲い込むか、せめて消しておきたいとは思っていたが……分霊箱が俺様だけの秘術ではなくなった今、秘密を隠しておく意義は薄い。むしろ、積極的に広げて殺しても仕方がないという絶望感を味わわせるほうが統治の面では効果的だろう。

 しかし、彼らはなにをやっているのだろう? 式典などやっている余裕があるのだろうか?

 

「このようなものは、手短に済ませるほうがよい、薬の効果はそう長いものでないのでな……さあ、発表しよう。炎のゴブレットが選んだ魔法学校対抗試合、国立トム・リドル記念魔法学校(ナショナルスクール)の代表選手は……第一号生徒にして設立者、そして魔法大臣のトム・リドル!

 

 トム・リドルだと!?

 馬鹿な。なぜ俺様の名前が呼ばれるのだ。そんなホグワーツが開く式典に参加するつもりはないし、同意した覚えもない。ふざけるな、どういうことだ?

 

 俺様は魔法省の執務室にとんぼ返りし、残っていたバーティを問いただすことにした。

 俺様が到着したときには……すでにバーティの顔からは先ほど以上に血の気が引いていた。どうやら事態はしっかりと把握しているらしい。

 

「そのお顔だと……聞いてしまった、ということですね?」

「なんだ、あのふざけた発表は! 俺様はホグワーツで開かれる対抗試合とやらに参加するつもりはなどないぞ、そもそもそんなもの耳にしたこともない、ましてや参加すると意思表明したこともない!」

「お、恐れながらリドル様。参加せねばなりません

「なんだと!?」

「我々が利用している魔法契約と同じです。古いアーティファクトである炎のゴブレットは……既にリドル様と魔法契約を結びました。同意がなくとも」

「そんな……そんな理不尽な話があるか!」

「古い魔法契約とは、理不尽なものなのです!」

 

 バーティが悲鳴を上げる。

 そして、この様子から判断するに……俺様が炎のゴブレットと結ばされた魔法契約の対価は……我々が使っている魔法契約と同じ。魔法力だ

 

「ラジオによる発表を聞いてしまった時点で、リドル様は契約によって拘束されました。よって……お怒りはもっともですが、第一の重臣としてお伝えしなければなりません。ひとつ。ホグワーツが主催する魔法学校対抗試合の競技に出席しなければなりません。ふたつ。リドル様は代表選手としての振る舞いを強要されます。対抗試合の関係者、対戦相手……この場合はホグワーツに所属する人間、および観衆への危害は禁じられます。みっつ。リドル様の部下……炎のゴブレットがどう判断するかまでは不透明ですが、おそらくは魔法省に所属する人間も同様の振る舞いをすることが強要されます!」

「ふざけるな! それが真なら……単なるケチな犯罪者が観客席に紛れ込めば、魔法警察ですら手出しできないということになるぞ!」

「ですから、そうなのです! 当たり前ですが、対抗試合の代表が省のトップを務めた記録はありません。ですが……代表が所属する家族や血族、利益集団を動かしたことで同様に罰せられたケースがあります。炎のゴブレットは理不尽な審判なのです!」

 

 クソッ、クソッ、クソッ!

 毒づきながらも、内心はバーティの言い分のほうが正しいだろうとも思う。俺様がトップにつく前の魔法省であれば、魔法大臣であっても権力は制限されており、警察組織を自由に動かせるというものではなかった。だが、今はそうではない。ほぼすべてを俺様の手足にしてしまった。

 

「……組織を動かすぞ。このクソふざけた対抗試合に立ち向かえる組織づくりを即座に行わなければならん。もっとも重要なのは……暴力装置、すなわち警察組織だ。今となっては法執行部の部長をシックネスなんぞに任せてはおけん。バーティ、君がやれ」

「はっ。ですが……懸念が一つあります」

「わかっている。闇祓い局だろう? 俺様に従う気のないスクリムジョールを局長などというポストに置いておく余裕はない。消してしまえ」

「後任はどういたしましょう、シックネスでしょうか?」

「奴に闇祓いの局長などできるわけがない。それに、部長から局長への降任というのは外聞が悪い……別の人間を使うとしよう。闇祓いとしての経験があり、かつ魔法界で通りの良さそうな名家の人間……」

 

 適任がいるではないか、と俺様は気づいた。服従の呪文で長らく操り、情報源にしてきた奴が。

 バーティの部長就任とあわせ、新たな闇祓い局の局長についても大きく報じさせよう。手痛いトリックを仕掛けてきた、ホグワーツ側への反撃の意味も含めて。

 

 




次回、第三章の最終話です。
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