ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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15.ワンダフル・クリスマスタイム

 クリスマスといえば、ダイアゴン横丁のクリスマスマーケット!

 

 ……といっても、歴史的には浅いものらしい。

 クリスマスマーケットの起源はドイツ圏だそうで、その文化がグレートブリテン島にも持ち込まれたのはごく最近。

 僕からすると物心ついた頃には既に存在していたもので、毎年のように行ってるから実感はないけど。

 マグル由来の文化というのは嫌う人も多くてなかなか定着しない傾向があるけど、そもそも中世のクリスマスマーケットは魔法使いが始めたものだという説があり(諸説ある中でもかなり胡散臭いものだがね、とバチルダお婆ちゃんは言っていた)、比較的速やかに受け入れられたんだそうだ。ダイアゴン横丁の人間がそういったビジネスチャンスに目ざといからでもあるだろうけど。

 

 そんなこんなで、僕は今年友だちを誘ってクリスマスマーケットに行く予定を建てているのだけど……

 

「絶対誘いなさい」

「絶対誘うべきだぞ、ハリー」

「絶対誘うんだよ、坊や」

 

 クリスマス休暇で一旦ゴドリックの谷に帰省した僕はパパ、ママ、隣の家のバチルダおばあちゃんに囲まれて詰められていた。

 うちに泊まりに来てたロンが(ロンのご両親はクリスマスはルーマニアに行くということで、ホグワーツに残るぐらいならどう? と僕が誘った)暇してそうな友達を誘ってクリスマスにどこかに行こうぜ! というので、僕はネビルや他寮の人間を誘おうかなと思いながら「ドラコはともかく異性のグリーングラスさんやデイヴィスさんを誘うのはどうしようかなあ」と漏らしたのが運の尽きだ。大人3人に囲まれてるハメになった。

 

「いやだってさ、ホグワーツにいたときにそういう話をしたわけでもないし、思いついたようにふくろう便で伝えるのもどうかなって。向こうだって予定があるだろうし」

「その予定を聞くために送るのよ。早くしないとママが送っちゃうわよ」

「それだけはやめて」

 

 そうは言うけどどんな文面にすればいいかな、と書き始めた横で「ハリーもそういうお年頃なのね」「俺の若い頃を見てるようだぜ」「いや、あんたの若い頃はハリーと比べ物になんないぐらい最悪だったわよ」などとやり取りしてるのだから気が散ってしょうがない。

 結局30分ほどかけて(ロンはすぐにハーマイオニーへの手紙を書き上げていた)なんとかそれらしい文面ができたのでネビル、ドラコ、グリーングラスさん、デイヴィスさんにクリスマスマーケットに誘う手紙を送る。

 

 ネビルからはすぐに返事がきて了解の旨、ドラコからはスリザリン寮の人と偶然にも同じようにクリスマスマーケットに出かけるつもりだったらしく、一人増えても問題ないだろうかと丁寧に問い返してきた。

 決まっていないのであれば時間と待ち合わせ場所はここが都合がいい、という旨もあり、ほとんど何も決めていないところだったからむしろ渡りに船。二つ返事で受け入れる。

 デイヴィスさんからは「さすがハリーくんね!」と返ってきて、グリーングラスさんからは「まさか聞き耳立ててたんじゃないでしょうね?」と返ってきた。二人とも何のことを言ってるんだろう……

 

「待ち合わせ場所はダイアゴン横丁の端のレイ・デイヴィス広場で待ち合わせらしいけど……パパとママはどこか知ってる?」

「……ああ! 思い出した。レイ・デイヴィス広場だな。学生時代ママとデートで行ったところだ。懐かしいな」

「そうだったっけ?」

「行ったろ! 7年の夏のとき」

「うーん……確かにレイ・デイヴィス広場で誰かと待ち合わせした記憶はあるけど……あれアンタだったかしら。ハッフルパフの誰かだったような」

「ちょっと待て。知らないぞその話は」

「言ってないもの」

 

 さすがにホグワーツ城ほどではないけれど、魔法界の建物や町並みは不安定だ。

 ダイアゴン横丁の地図もまあ、一応あるけれども十分に役立つかというと怪しいところで、結局指示された場所に行くためにはその場所を知っている人が同行しているのが一番早い。(暖炉が設定されている場所なら別だ。煙突飛行粉(フルーパウダー)を使えば知らない場所でもたどり着ける。10回に9回ぐらいは)

 

「まあ、そういうことだからロナルド君とハリーは俺が待ち合わせ場所まで連れてくよ。確か周辺に暖炉はなかったから……最寄りはスクリブルス筆記具店のとこだな」

「そっちのほうだったかしら。バチルダさんはわかります?」

「申し訳ないけど、ダイアゴン横丁まで足を伸ばす機会はこの年になってるとめっきり少なくてね。確かにジェームズの記憶が怪しいのは事実ではあるんだがね」

 

 即座にパパの記憶に対する疑問が二人から呈される。

 パパは不服そうな顔で断言した。

 

「そっちだよ。俺の記憶に間違いはない」

「ジェームズの記憶なんて全然アテにならないでしょ。N.E.W.T.(イモリ)も暗記科目ボロボロだったじゃない」

「あんたの魔法史の点数を今ここで再通知するかい? 忘れてるようだけどわたしゃあんときの試験官だからね」

「昔の話はよせ。もう忘れた。というかリリーも魔法史は自慢できるような点数じゃなかったろ」

「ビンズの授業が悪いのよ」

 

 魔法史、楽しいのに……いや、ビンズ先生の授業は確かにバチルダおばあちゃんの話と比べるとずいぶんと退屈だけど質問すれば一応答えてはくれるし、僕とハーマイオニーは楽しんでいる。(僕とハーマイオニー以外の全員が退屈しているという意味でもあるけど)

 広場の記憶に関してはかなり不安だけど、そもそも僕もロンも待ち合わせ場所の広場はどこだか知らないし誰もいないよりはマシだろう。

 

「せっかくだから広場に行く前に筆記具店を見てくか。クリスマス休暇明けに授業で使うもろもろを買い足していいと思うぞ。明日の朝、ちょっと早めに出るがリリーはどうする?」

「そうね。アリスとフランクもネビルくんを連れてくるみたいだし、せっかくだからみんなでお茶ぐらいしたいわね。待ち合わせの時間には間に合うように後から行くわ」

「決まりだな! お前ら寝坊するんじゃないぞ!」

「ジェームズ、あんたが一番危なっかしいだろうに」

 

 

 ─────

 

 

「ジェームズ、杖忘れてるわよ」

「そんなことはない、持ってるぞ! ……いや、すまん。俺が持ってたのはゾンコで買ったひっつきびっくり杖(パニックボンド・マジックワンド)だった。これどうやって杖ホルダーから外すんだ?」

 

 半ば予想してたけど、パパは自分で宣言した時間に僕らの冷たい視線を浴びながら大慌てで身支度していた。

 

「パパ、まだ?」

「わかってるわかってるハリー! いま行くぜ、いやもう少し、あと5分」

「ハリーのパパ、家でもこんな感じなんだね……」

「ちょっと待ってくれ、ロナルド君。いつもはこんなんじゃないんだ、こんなんじゃ」

「学校でもこんな感じって聞こえたんだけど? ジェームズ?」

 

 くそっ、全然取れやしねえと悪態をついたまま右往左往している。僕の友達がいるタイミングでこんな無様晒さないで欲しいな……

 

「準備完了、ほぼ予定通り! 行ってくるぜリリー」

「ちゃんとパパの面倒みるのよ、ハリー」

「はーい。パパ、煙突飛行粉(フルーパウダー)を使う時はちゃんとはっきり発音してね」

「クソッ、親をからかうもんじゃないぞ!?」

 

 そう言いながら3人は順番に「スクリブルス筆記具店」と唱えて煙突飛行していく。

 目を閉じながら粉をふりかけて……目を開けたときには少し埃っぽい店内に移っていた。

 

「いらっしゃい……なんだ、ジェームズか。どうせ通り過ぎるだけなんだろ? 早く行きな」

「毎度すまんな、店主」

 

 父は店主にそう言って手を振りながらそそくさと店を出ていってしまった。

 

「あれ? 筆記具店で学用品を揃えてくんじゃなかったの?」

「……おいおいハリー、休暇の間に学用品を揃える? そんなんじゃグリフィンドールの男子とは言えないぜ! へへへ、煩いママがいない間に男だけの楽園に行こうぜ」

「なんでパパがグリフィンドールの男子の代表面してるの?」

「でもいいね。確かに僕も筆記具店で暇つぶしなんてガラじゃないし」

「さすが! 代々グリフィンドールのウィーズリー家だけあってわかってるな! ささ、こっちだ」

 

 そう言ってパパは筆記具店を通り過ぎて、路地に抜けていった。

 狭い路地を進むと……派手な赤色の扉がすぐに目に入った。

 横の看板には「スニッチは金製ではない。血と汗と根性で出来ている」「相手の死を願うことは、スポーツマンシップに反しない」などと書かれている。

 ……なにこれ。

 

 パパはその扉を躊躇いなく開けると……中から一気に喧騒が路地に響き始めた。

 打撃音、悲鳴、歓声、叫び声が一気に押し寄せてくる。

 

「ジェームズ、久しぶりだな。とっととドアを閉めてくれ。開けとくと近所迷惑なんだ」

「結構気合入れた防音呪文だな。儲かりだしたのか?」

「バカ言え。赤字ギリギリは変わんねえよ。店に来るバカどもが煩くてクレームが入るようになったんだよ」

「迷惑なやつもいたもんだなあ」

「お前はその筆頭だよ」

 

 中は拡張呪文で見た限りかなり無秩序に広げられていて、表示板とロープで区画が区切られている。

 ブラッジャーを投げつけあっているコート、中で大量にスニッチが飛んでいる数立方メートルのガラスの箱、デイヴィスさんに教えてもらったクォドポットっぽいコートもある。そしてその中で殴り合う無数の魔法使いたち。

 どうやらここは魔法使いのための室内競技場のようだった。

 

「うわあー! すっごい楽しそう!」

「ロンって結構クレイジーだね?!」

 

 正面で棍棒で殴られてノックアウトしている光景を見ながら「すっごい楽しそう」って……なかなか出ないと思うんだけど、正直なところああいうのに喜んで飛び込みそうな大人はいっぱい思い当たる。

 僕は少数派かもしれない。

 

「さすがに未成年に『ブラッジャー投げ合戦』をやらせるのはやめたほうがいいかな……なかなか楽しいスポーツなんだが」

「あたりめえだよジェームズ。店主としてはなんであんなんが流行ってるかわかんねえぐらい危険だぞ、あれは」

「だから面白いんだろ。他にオススメはあるか」

「そうだな……子供も交えるってんなら『ゴールスニッチ』とかどうだ?」

「その辺にしとくか」

 

 パパが何シックルかカウンターで払うと、店主からブレスレットのようなものが手渡されていた。

 正直、どういうルールのスポーツかわからないからこれらの使いみちもさっぱりなんだけど、パパは承知のようでブレスレットをはめてコートの方へと進んでいった。

 

「ほら、ハリーとロナルド君も付けてくれ」

「なんなの、このブレスレット?」

「プレイヤーは試合中は必ずこれを身に着けておく必要がある。これには目隠し(オブスクーロ)呪文とかがかかっててな、試合開始のホイッスルが鳴ると視界が失われる。スニッチは小鳥のさえずりをする魔法がかかっているからその音を頼りに先に捕まえたほうが勝ちってルールだ。もちろんクィディッチのスニッチほど速くはないぞ」

 

 なるほど。目の前のコートで別のチームが試合してるけど、確かに飛んでるスニッチは随分と遅い。

 早歩きぐらいのスピードでふよふよと低空を、チチチ、と小鳥の鳴き声を出しながら漂っている。

 

「面白そう! あれ、このブレスレット、紐が垂れてるね」

「ロナルド君、いいところに気がついた。これがこのゲームの面白いところでな。このブレスレットには変幻自在術もかかっていてな。紐を引っ張ると……」

「あ、ブレスレットが冷たくなった」

「そうだ。暖かくなったり冷たくなったりくすぐったくなったり……この感触の違いでリーダーが指示を出せるようになっている。例えば暖かくなったらコートの東側にスニッチがいるぞ、とか事前に示し合わせておくわけだ」

 

 そうやってパパがルール説明をしている間に……どうやら僕らと対戦してくれるチームが来たようだ。

 あっちは随分大柄な魔法使い3人。子供だから手加減をしてやらねえとなあ! とかなんとか言っている。

 

「相手さんに随分ナメられてるなあ」

「まあ仕方ないよ。ホグワーツ1年生2人だし」

「何いってんだよハリー! そんな弱気じゃ勝てないぜ!」

 

 やってやるぜー! とロンは闘志を燃やしている。

 前から思ってたけどロンって結構乗せられやすいよなあ。

 

「その通りだぜロナルド君。グリフィンドールの天才クィディッチプレイヤーが3人いるんだ、余裕で勝たないとな!」

 

 天才は言いすぎだけど、来年はグリフィンドールのシーカー代表をしっかりと取るつもりだ。確かに、そう簡単に負けたくはないかな。

 

 

 ─────

 

 

「悔しいなー! 最後、僕のすぐ脇にスニッチがいるの気付いてたのに!」

「いやー、ごめんロン。僕は気付いてたからちゃんと的確に指示を出せてれば」

 

 最初のゲームは取れたけど、それで相手もこっちの力量がどんなものかわかったようで2戦目はほとんど緩めずに勝負をしてきたようだった。こちらはその緩急の差もあり、あっさり落とした。

 最後の3戦目はこちらも慣れてきて、かなり白熱した試合展開になったんだけど、惜しくも負けを喫してしまった。

 少し名残惜しいけど、待ち合わせの時間も近いということで切り上げて行くことになった。

 身だしなみを整える魔法をパパが僕らにかけてくれたのち(流石に汗まみれの格好で行くわけにいかないだろう)、店の出口に向かう。

 

「よう。坊主ども楽しかったか?」

「すごい楽しかったよ!」

「うん。僕も楽しかった」

 

 ロンが店主に元気よく返事する。

 まあ、率直にいって僕もすごい楽しめたし、今日は連れてきてくれたパパに素直に感謝できる。

 あとは待ち合わせ場所に向かうだけだ。

 

「そりゃよかった。もう数年もしたら一人で来たとしてもやれるスポーツは山ほどあるだろ。その日を楽しみにしとくよ」

「ありがとう、店主さん。リストバンド返しますね」

「確かに貸し出し制だが……ホグワーツで使ったっていいんだぜ。そこのジェームズにねだって買い取ってもらいな」

「ちぇっ、おやっさん、商売が上手いな。じゃあ追加で3個くれ。対戦相手の分もいるからな」

 

 そう言ってパパは何シックルか差し出すと、追加のリストバンドとゴールスニッチ用のスニッチを箱に詰めてよこしてくれた。

 パパはそれを拡大呪文付きのポーチにしまい、クリスマス休暇が終わったら部室に置いといてやるよと言った。

 

「毎度。おまけでスニッチをつけてやるよ。しかしジェームズの割には短い滞在だったな。お前のことだから夜までいるのかと思ったが」

「俺はそれでもいいがね、今日はこの子たちに予定があってな。もうすぐレイ・デイヴィス広場に向かわないといけないんだ」

「レイ・デイヴィス広場? ずいぶん遠いな。ここから真逆だぞ」

「おいおいおやっさん、そこの路地出たところにあるだろ」

 

 突如、会話が不穏な雲行きになる。

 待ってよ、もう待ち合わせ時間までほとんどないんだけど!?

 

「あそこはデイヴ・デイヴィス広場だ」

「……やべえ!」

 

 どうやら、記憶はママのほうが正しかったようだ。

 筆記具店まで戻って暖炉をくぐるのが最短ルート……なんだろうけど、レイ・デイヴィス広場に近い暖炉はどこかわからない。

 どうしよう。

 隣に立っている汗ダラダラの大人はあまり役に立たなそうだ。こんなパパに内心でも感謝するんじゃなかった。

 

 

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