授業を終えて訪れた年明け最初の週末。
今日は待ちに待ったレイブンクローとの練習試合だ。12月のうちにクラブリーダーである
「あなたがハリーくんね! 年下のシーカーって初めて会うから新鮮だわ……ご
「ええと、朝はトーストだけ……」
「こんなに細いんだからちゃんと食べないとダメよ。シーカーだって多少のブラッジャーでは怯まないフィジカルはあるに越したことはないんだから」
「はい、わかりました。これからは意識してみます。チャンさん」
「よしよし。チョウお姉さんでいいのよ」
「チョ、チョウお姉さん! えーと、僕姉とかいないからなんとなく気恥ずかしいかも」
「まあまあ。そういうところも可愛いわね」
そしてその試合前にハリーは、レイブンクローの新鋭シーカーであるチョウ・チャンの愛玩動物になっていた。
「ハリーは割と甘えたがりだからなあ。パパとママには甘えたくないみたいだけど」
応援に来たロングボトムがポツンと呟く。
割と意外だな。むしろ反抗期気味なタイプだと思っていた。
「うーん。僕の見立てだとハリーはああいう女の人好きだからかも」
「ウィーズリー、適当なことを言うな」
「いやいや。ホントの話だって。この前泊まったときにハリーは髪が綺麗な人っていいよねーって言ってた。だよな! ってハリーのパパも同意してた」
「まったく……ウィーズリー、他人のことを平気で好き勝手並び立てて。失礼だと思わないのか」
しかし、僕からハリーの様子を見ても確かにまんざらでもないように見える。
僕もハリーと同じ一人っ子だし、父上は……厳格であられるからちょっと気持ちはわかる。
年上の同じポジションのお姉さんか。
「へえ……」
その光景を腕を組んでグリーングラスが眺めていた。
こころなしか目が険しい気がする。
「今日は出る予定はないのに思ったより熱心だな、グリーングラス」
「マルフォイ、まだ始まらないの? はやく準備したら?」
「やけに急かすな。いや、
「なに? サボり?」
「まあ、そうだろうな……とにかく、おかげでビーターが揃ってない。とりあえず一人はグリフィンドールのトーマスが代役でやる予定だが、もう一人の手配がつかなくてな」
今日、来ない予定だった他の寮のメンバーにも声をかけてなんとか代役を探している。
ロングボトムは顔を真っ青にして首を振るし……ハッフルパフのアーニー・マクミランあたりが捕まればいいのだが。
と思っていたところ、話は意外な成り行きをみせた。
「ビーターが一人いればすぐ始められるの?」
「まあ、そうだな」
「なら、私が出るわよ。今ちょうどいろいろぶっ叩きたい気分なの」
グリーングラスが? ビーターを?
ぶっ叩きたい気分……なにかあったんだろうか。おそらくトレーシー・デイヴィスがなにかやらかしたんだと思う。
鋭い目をしたグリーングラスは、ビーターのバットをブン、と強振した。
─────
競技場(今日は僕らのお手製競技場ではなく、綺麗でしっかりしている正競技場だ)に両チームが整列し、フーチ先生がホイッスルに手をかけている。
メンバーはクラッブとゴイルのスリザリン・ビーターコンビが揃って休みということで、ディーンとダフネさん(マジで?)がビーターを務めることになった。
メンバーは僕が考えた最強のメンバー! で挑もうと思ったがドラコに止められた。なんでも来年の寮チームへの参加こそが目的と考える人は多く、レイブンクローとの交流試合をやるなら、やる気のあるレイブンクロー生のメンバーを優先してアピールの場にしてあげるのが無難だとかなんとか。
とはいえ、戦力を大きく落としているわけではなく、今回参加しているレイブンクロー生のマイケル・コーナーはなかなか悪くない腕前のチェイサーだ。
「練習試合ですが……お互いに悔いの残らないよう正々堂々と行うように」
フーチ先生がそう言って笛を吹き、僕らは大地から離れ、競技場の空に飛び上がった。
中央サークルで放されたクアッフルを掴んだのは……ドラコだ。なかなか幸先がいい。
とはいえシーカーの僕の仕事は中央の攻防を眺めることじゃない。相手のビーターとブラッジャーの位置を把握しつつ周囲を眺めると……敵シーカーのチョウお姉さんがすでに動いていた! ブラフじゃない、実際スニッチのきらめきが僕からもかすかに見えた。レイブンクローのゴールエリア周辺、キーパーのすぐ近くだ。
「まずい!」
距離はそれほど差が開いてないけど、動き出しが早かった上に……チョウお姉さんの箒は非常に器用にくねりながら人混みを抜けていく。
僕のニンバスは加速力には優れているけど、ああいう動きはあまり得意じゃない。とはいえ泣き言も言ってられず、無理やり突っ込んでいく。
僕を妨害するために敵チームが放ったブラッジャーはさっとダッキングしてかわせた。あとはなんとか追いつくだけだが……純粋なスピード競争じゃ間に合わない。
できればうちのチームのビーターが妨害してくれれば……と思っていたところ、もう一つのブラッジャーを臨時ビーターであるダフネさんが打ちぬくところだった。
それでチョウお姉さんを止めてくれれば……と思ったが、ダフネさんが狙ったのは敵のキーパーだった。
しまった。不慣れだろうし、スニッチキャッチング・フェイズなのに気付いてなかったか!?
敵のキーパーにブラッジャーが当たり、よろめいてるその脇にチョウお姉さんが突っ込んでいく。
高速で移動している僕からだと人とボールが入り混じっていてなにが起きてるかわからない。
取られたかな? と思っていたところ、フーチ先生が強くホイッスルを吹き、宣告した。
「スニッチニップ!」
スニッチニップ……シーカー以外の選手がスニッチに触れることで発生する反則だ。
ようやく僕は気付いた。これはダフネさんのファインプレーだ。警戒してないキーパーにブラッジャーを当てて体を動かさせることでスニッチニップを起こさせ、試合を止めてスニッチを飛ばし直させる手だ。
臨時のビーターなのにめちゃくちゃしっかりと頭が回っていて、競技場全体を見れている。さすがダフネさん、冷静だ。
ナイスプレイ! のつもりでニコリと親指を立てて見せたらダフネさんからは睨まれた。なんで。
「まったく! 練習試合だというのにどうしてこんなに怪我できるのですか!」
医務室を出て、競技場に赴いてきたマダム・ポンフリーはそう怒鳴りながら周囲の人間の治療にあたっていた。
レイブンクローのチームはかなり満遍なくどこか怪我しているが、勝利を飾ったためにこやかに笑っている。
一方で1年生チームで薄汚れてるのは僕ぐらい。
理由? 競技時間の半分ぐらいはブラッジャーに追われてたからかな……
今回の練習試合の展開としては、開幕でダフネさんがキーパーにブラッジャーをぶち当ててくれたおかげで、これを好機とみて僕らはチェイサーで点を稼ぎにいく戦略を取った。
チェイサー戦に力を注いだ僕らだけど、やはり経験不足がたたって序盤に稼いだリードはすぐに追いつかれてしまう。
ここで慌ててビーターはブラッジャーでシーカーを狙い始める……が、チーム内でその意識の疎通がうまく取れず、ブラッジャーを敵チームのすべてのポジションに散らしてしまった。
一方で点数が追いついた時点でレイブンクローチームはシンプルに唯一の負け筋はシーカー戦の負けと見て、僕にブラッジャーを集中させた。ひどいよね。
ゲームはそのままレイブンクローチームの勝ち。展開がごちゃごちゃしたところでスニッチに集中しきれなかった僕が一瞬スニッチを見逃しちゃって、チョウお姉さんにスタート差もつけられた上での文句なしのキャッチ負け。
まあ、その時点で150点差だったから捕まえに行くか進路妨害してでも止めに行くか迷っちゃったのが悪かった。かなり厳しい状況だったし取りに行く一択だよなあ。
「なかなかいい線行ってたぞ!」
「はい! 来年はぜひレギュラー争いに挑戦させてください!」
「ははは、楽しみにしてるよ」
ゲームにも勝ち、マイケル・コーナーという期待の若手も見いだせたレイブンクロー生たちはホクホク顔だが、僕らはもちろん仏頂面だ。
ハーマイオニーがまず口を開き、ドラコがそれに応じた。
「率直に言って……あんまりうまくいってなかったわね。もちろん私も」
「チェイサー戦で追いつけなかったのは仕方ないが、せめてブラッジャーをチェイサー側かシーカー側、どちらに集中させるかはちゃんとチームで決めておくべきだったな。あるいはビーターをノックダウンしてハリーに任せるか」
僕に任せるって言ってくれるのは嬉しいけど、さすがに荷が重いかも。
「うーん。結局ビーターが100%シーカーの妨害にあてるとスニッチのキャッチはかなり難しいからなあ。シーカーの僕としてはチェイサー側である程度リードを得るか、せめてプレッシャーを与えられる点差を維持できるほうがいいかな。シーカー勝ちよりは勝ち筋が複数あるほうがいい」
「そうだな。とはいえ、今回は急造の割にはビーターはかなり上手く動けてた。ここの連携を強めるのはアリかもしれんが……レギュラーは
「フィジカル面では劣るかもしれないけど、試合をサボるような奴に任さなくてもよくない? 私自身結構動けるのがわかったし」
「……」
クラッブのことを責めるような発言に、ドラコが目を伏せる。
言われて当然のことだからしょうがないんだけど、友達のことをそう言われるとやっぱり言葉をなくすよね。ちょっと空気を変えるため割って入る。
「ってことは、ダフネさんは今後も結構やる気ある感じ? 層が厚いのはいいことだよね」
「そうね。ストレス解消にはいいかも」
「ただ、根本的な問題として1年生チームでアピールの場を兼ねるとなると選手の入れ替えが激しいのは避けようがない。チェイサーに複雑な作戦を要求したりはできないぞ、どうするハリー」
ドラコの分析は間違ってない。
そもそもそういう制限ナシでも各寮チームには経験やフィジカルで基本的に負けているのだ。そんな状態でチェイサー戦で優位を取るなんて魔法はそうそうない。
「チェイサーが相手より一人多ければなあ」
「うーん、レネ・イギータみたいなの?」
「え? 誰?」
「え、何の呪文?」
僕が無理な願望を呟くと、ディーンが謎の呪文をつぶやいた。
─────
ホグワーツの地下に目的があるものは少ない――スリザリン生を除いて。
そのため、スリザリン寮に入る手前の廊下は、当然のようにスリザリン生だけがたむろしている場になる。
そこはスリザリン寮内ではないホグワーツ城の公共のエリアではあるけれども肩肘張らずにいられる場所で、スリザリン生の外向けの建前をほんの少し崩して皆が話せる場でもある。
「マルフォイ家も墜ちたものだよ。あんな家は遅かれ早かれ潰れる。おこぼれ狙いはごめんだね」
「そうそう。グリーングラスの令嬢もずいぶん生意気だし……今年の一年生はまったくハズレばかりだ。それに比べるとクラッブ君。きみはなかなか有望そうだね」
「は、はい。光栄です」
スリザリン生の先輩のモンタギューさんは少し前から俺のことを目にかけてくださっている。
俺は廊下を憧れの上級生と肩を並べるようにして(この表現は少し嘘かも、実際は置いていかれないように必死に)歩いていた。
「それに比べて……君の隣によくいるゴイル君は落ちてるものを食べて腹痛になったそうだね? ずいぶん滑稽な話だ」
「は、はい。確かにあいつはマヌケですけど……悪いやつじゃありません」
「クラッブ君。スリザリン寮では良い奴か、悪い奴かで付き合いを決めるべきではない。言ってることがわかるよね?」
「……」
グレゴリーは確かにマヌケだが……だからといって別にそれは友達付き合いをやめる理由ではない……と思う。
でも、今後クラッブ家の継承者としてスリザリン寮で生き抜いていくには、そういう判断も必要なのかもしれない。
そう思っていた矢先に、廊下で鉢合わせする形で目に入ったのはドラコだった。
「おや。マルフォイ家の一人息子じゃないか……どうやら君に用事があるらしい」
「は、はい。そのようですね」
「クラッブ君。まあ、言ったとおりだが……友人は選ぶべきだぞ」
そう言って先輩がたは去っていった。
まったく! 間の悪いところに来やがって。今日こそははっきり言ってやるしかない。
「ビンセント。今日の試合どうして来なかったんだ」
「申し訳ありません。少々急用がありまして」
「おい、そんな雑な言い訳が僕に通用すると思うのか?」
そう言ってドラコに詰め寄られる。
ふん。たかがクィディッチの練習試合をサボっただけじゃないか。あんな仲良しクラブにいても先はない。スリザリンの上級生と親睦を深めるほうがどう考えても正しい判断だ。
いつまでも手下と思われていてはたまらない。ふてぶてしい態度を崩さずに応対してやる。
「ドラコ、まるで問いただすような口調だけど……俺はもう、あんたの手下じゃない!」
「なっ、なにを言う! 僕はビンセントのことを手下だなんて思ったことは……」
「うるさい。幼い頃からマルフォイ家の威光を笠に着やがって」
こう言い返してやると、やはり思うところがあるらしく口を閉ざした。いい気味だ。
「いいか、もうマルフォイ家なんて大した威光はない……と先輩がたはおっしゃられていた!」
「知るか! そんなこと僕とお前に関係は……」
「否定しないってことは認めるんだな!」
「揚げ足を取りやがって!」
「うるさい、お前なんか……絶交だ!」
そう言い放って廊下を駆け出す。
少しでも早くさっきの先輩がたに追いつけば、また話に混ぜてもらえるかもしれない。
後ろにいるドラコの顔なんて……絶対見るものか。