ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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22.彼は欲しいがままに得点する

 2月13日。

 今日の午後は待ちに待ったグリフィンドールチームとの交流試合!

 

「ポッター! ウィーズリー! 私の授業でうわの空とはいい度胸ですね!」

「ひっ!」

「うわっ!すいませんマクゴナガル先生!」

 

 ……と思って変身術の授業中もニヤニヤしてたところ、それをマクゴナガル先生に見咎められた。

 

「まったく、ジェームズ教授から聞いた評判は本当のようですね」

「えっ……どんな内容の話を聞いてるんですか先生」

「みんなの前で話してもよろしいですか?」

「いえ。なんでもないです。授業に集中します」

 

 さすがに変身術の授業にボンヤリしているのは迂闊だった。

 ハーマイオニーがこちらを睨んでいるのがわかる。

 

「コホン。まあ、私も来年の新戦力がどれだけ期待できるかというのは気になりますし……よろしい。5分早いですがここで授業は切り上げとしましょう。応援したい人は競技場に向かうように」

 

 迂闊だったとか思ってたらなんか授業終わった。

 グリフィンドール生から歓声があがるが、一方でハーマイオニーだけはすごい複雑な表情をしていた。

 おそらくクィディッチ好きに洗脳……魔法世界の文化に触れて自然とクィディッチが好きになっていなかったら露骨に唖然としていただろう。

 

「頑張ってね、ハリーくん」

「負けるなよ、ロン」

 

 変身術の合同授業を受けていたハッフルパフからも応援の声をもらう。ミーガン・ジョーンズさんとジャスティン・フィンチ=フレッチリー。

 どちらもクラブの活動にちょくちょく顔を出している二人で、今回対戦するのがグリフィンドールチームということもあって、グリフィンドール生からメンバーを多く編成しているからメンバーからは外させてもらったけれどなかなかかなり上手く飛べるプレイヤーだ(特に、ジョーンズさんは来年のハッフルパフ寮チームのレギュラー争いに間違いなく絡んでくるだろう。従姉妹にプロのクィディッチプレイヤーがいるということで、小さい頃からかなり訓練してきたそうだ)。

 

 というわけで授業を少し早めに切り上げてもらったので、競技場に一足先に到着させてもらう。

 まだ授業中であるスリザリン組のドラコ、クラッブ、ゴイルや、グリフィンドールチームの先輩方はまだ姿を見せていなかった。

 

「おっ、僕らが一番乗りかな。今のうちに敵側のゴールリングを大きいやつと交換しとこうぜ」

「なんでロンはそんな汚い手ばっかり浮かぶのかしら?」

「そうだよ。そういうのはスリザリン生にやらせるべきだ」

「確かに。よし、ゴイルにやらせよう……ぐええ!」

 

 ロンの脇にハーマイオニーの肘が入った。

 とりあえずみんなリラックスできてるようだ。特にロンは緊張してる状態だと見て取れるぐらいにパフォーマンスが落ちるからね……

 ゴールリングの刺さり具合(風で揺れたりすると守り方が変わるから結構大事なんだそうだ、僕はキーパーぜんぜんやらないからわからないけど)など、競技場のコンディションを確かめていたところにドラコたちも到着する。

 

「ん。ハリーたちはもういるのか。早いな」

「マクゴナガル先生が少し早く授業を切り上げてくれたんだよね」

「……あ! そういえば箒、向こうのロッカーに入れたまんまだ!」

「アホウィーズリー。そうならないように昨晩のうちにこちらの控室に移しておいた。グリーングラスとデイヴィス、ロングボトムに感謝しておけ」

「うわっ! 気が利くなあ……待って、いまアホって言わなかった?」

「言った。アホウィーズリー」

「2回言った!」

「3回目も言ってほしいのか?」

 

 ドラコに続いて、1年生ビーターコンビのゴイル君とクラッブ君が入ってくる。

 クラッブ君はいつも通りむすっとしているが、ゴイル君は割とはしゃぎ気味で(この前腹痛で休んだしね)、観客席に手を振っている。

 観客はまだ入ってないけど、関係者は徐々に入ってきていて、一番前の席に既にネビルとデイヴィスさんが座っている。

 パパも手を振りながら入ってきた。

 

「マクゴナガル教授、今日は規則を曲げてハリーを入れなかったのを後悔する日だぞ!」

「規則違反を生徒の前で推奨し始めるとは……ジェームズ。あなた専用の寮を用意しましょうか? 気兼ねなく減点できるように」

「それぐらいでへこたれる俺じゃないぜ」

「いい大人なんですから、そろそろへこたれてください」

 

 マクゴナガル先生がため息をつくが、しかしなんとなく表情はいつもよりかなり緩い気はする。

 スネイプ先生、およびスネイプ先生に引きずられるようにしてベクトル先生も入ってくる。

 

「お、顧問が来たぞ。今日はお前のチームをグリフィンドールチームがぺしゃんこに……されたら困るな。あれ? 俺どっちを応援すればいいんだ?」

「……」

「あのー、私来る必要あった?」

「愚かなほうのポッターと私を遮る壁が必要でしてね」

「壁!? わたし無機物扱いなの!?」

 

 僕のパパの位置を確認したスネイプ先生は、教員席のうち一番パパから遠くのところに座った。

 

「ハリーくん」

 

 教員席を眺めていたところ、後ろから声をかけられて少し驚きながら振り向く。

 観客席から競技場に降りてきたダフネさんだ。

 

「今日も応援来てくれたんだね」

「もちろんよ。頑張ってね」

 

 そう言うとそそくさと手を振りながら戻っていき、デイヴィスさんの隣にちょこんと座った。

 すごい可愛い。

 

「これは頑張らないといけませんなあ」

「頑張ってね。ハリーくん」

「ハーマイオニー、試合前だけどしばいていい?」

「いいと思うわ」

 

 少し顔が赤くなっている僕をディーンとロンがニヤニヤしてからかってきたのでくすぐり呪い(リクタスセンプラ)をかけておいた。5分ぐらいはこのまま放置しておこうかな。

 そんなタイミングで向こうのチームの控室から二人、連携に優れるビーターコンビが競技場に歩を進めてきた。

 ジョージ・ウィーズリーとフレッド・ウィーズリー、ロンのお兄さんだ。見ての通りの一卵性双生児。

 

「んん……? 見ろフレッド。ポッター教授の息子が愚弟に呪いをかけているぞ、喧嘩かな」

「いやいや。ジョージ。もしかしたらキャプテンの座を奪い合っての内乱かもしれない」

「もしかしたら俺たちの知らない作戦かも」

「試合前のくすぐり呪い(リクタスセンプラ)は精神集中にいいのかもしれない。試してみよう」

 

 じゃれ合っている僕らを見てそう呟いた彼らは同時に相手にくすぐり呪い(リクタスセンプラ)を放ち、二人で大笑いをしはじめた。

 

呪文よ終われ(フィニート)。お前ら、試合前に何をやってる」

「おっ、キャプテンが来たぞ」

「……まあ、双子がおかしいのはいつものことか。今日はよろしくな、ハリー」

「そうとも。俺たち兄弟もよろしくな」

 

 そう言ってジョージさんが僕と握手すべく手を差し出した……が、隙間から何か手のひらがぬめっているのが見える。

 

「あー。えーと。お手洗いはあっちです」

「おっと。ヌメヌメ害虫ペースト(スリップ・ディップ・シュリップス)は見破られたか。さすがポッター教授のご子息」

「惜しいなジョージ。スニッチを掴みづらくできたかもしれないのに」

「おいジョージ! 下級生相手にそういうイタズラはやめろ!」

 

 ウッドキャプテンに怒鳴られた双子は高笑いしながら逃げ去っていった。

 

「まったく。まあ、ああやってからかいにくるのはあいつらが君たちをなかなか高く評価している証拠だ。あまり気を悪くしないでくれ」

「はい、もちろんです。来年はチームメイトになるはずですから」

「言ってくれるな。期待してるぞ! グリフィンドールチーム! 集合!」

「ハリー、一年生チームも集合だ!」

 

 試合開始時刻が近づき、観客席も徐々に埋まり始める。

 練習試合だけどなかなかの人の入り方だ。やっぱりグリフィンドール生はクィディッチが好きな人が多いからかな。

 

「来たな、ハリー。ブレスレットの付け忘れはないな? 番号も自分のポジションのものか確認しろ。グレンジャー、運用テストは?」

「もう済んでるわ」

「よし。とにかく相手がこっちの作戦に慣れるまでが勝負だ。短期決戦狙い、スタートダッシュで出来る限りアドバンテージを積み重ねるぞ。連中の度肝を抜いてやれ。さあ飛び上がれ!」

 

 ドラコの呼びかけで箒にまたがって飛び上がり、ポジションに付く。チェイサーはディーン一人が前めの配置。ビーターは両翼に広がり狙いを絞らせない態勢だ。

 

「ふうん、2バックか。守備的なチームなんだな。やあ、ハリー君。正シーカーのコーマック・マクラーゲンだ。なかなか生意気みたいだが、どっちが来年度の正シーカーにふさわしいか教えてあげるよ」

 

 どうやらウッドキャプテンにいった言葉がそのまま伝わっていたらしく、僕を挑発してきた。まあ、そういう態度ならもちろんこっちだって黙ってはいない。

 

「はい。よろしくお願いします。でも先輩、僕が来年の選抜試験を受けるまでクビが残ってるといいですね!」

「何だと?」

「はい! 試合を開始しますよ! お喋りやめ!」

 

 フーチ先生が笛を鳴らし、試合を始める旨を拡声呪文(ソノーラス)を使いながらアナウンスする。

 僕はペロッと舌を出してかなり上空まで上がる。これはシーカー定番のポジション取りでもあるけど、一方で挑発でもある。

 スニッチが飛んでいる高さはかなり低い。下降しながらでスピードも乗るとはいえ、高空からだとかなり距離が必要になる。つまり、先に見つけてしまえば、距離があってもお前に勝てる――そういうメッセージ込みのポジションだ。

 実際、僕のほうが速いと思うけど。

 試合開始が間近なのを察した観客席から、「ウッドは今日も不落城」「アンジェリーナにはゴールは大きすぎる」など、グリフィンドールの応援フレーズ(チャント)が聞こえ始めた。

 もちろん、僕たち一年生チームに対する応援は流石に聞こえ……叫び声が聞こえた気がしたけど、聞こえなかったことにしておく。本当にすごい恥ずかしいパパだ。

 

「それでは皆さん準備はよろしいですか? 各チームのチェイサー1人だけが入ってください。ホイッスルを吹くと同時にクアッフルをリリースします」

「了解よ。よろしくね、ディーン君。いいチェイサーであることを証明してね?」

「光栄です。来年は席を空けておいてください」

「補欠の席ならね」

 

 ディーンと相手チームのアンジェリーナさんが前進し、セントラルサークルに入っていく。

 競技場全体が緊張に包まれる瞬間。

 一呼吸おいてフーチ先生が笛を吹き、クアッフルが宙高く飛んだ。

 試合開始だ。

 

「よし!」

 

 最初にクアッフルを掴んだのはディーン。順調な滑り出しだ。

 それを見て残りのチェイサーであるドラコとハーマイオニーは勢いよく前に進んでいく。

 それだけではない。ほとんどハーフウェーライン近くまでキーパーであるロンまで前進した。

 

「嘘だろおい……」

 

 僕より少し低めの位置でシーカーを探しながらピッチ全体の状況を探っているマクラーゲンがそう漏らしたのが聞こえた。

 守備的だなんてとんでもない。これが僕たちのスタイルだ。

 敵陣で3対2の数的優位を作ったドラコは守備位置についていたケイティさんのマークを外しながらディーンからクアッフルを受ける位置に回り込み……キャッチできるように手を構えた。

 慌ててキーパーのウッドキャプテンはドラコからのシュートコースをブロックする位置取りをするが……これはさんざん練習した形。ドラコの姿勢はブラフだ。

 そのままディーンは高速でゴール前を突っ切り、ウッドキャプテンの届かない位置のゴールリングにクアッフルを放り込んだ。先制点!

 

「あんなのは長続きしないよ! こっちも取り返すわ!」

 

 攻撃的な位置取りをしているチェイサーのアンジェリーナさんがそう檄を飛ばし、中央サークルから寮チームによる早いリスタート。

 ……が、その出鼻をゴイルが打ったブラッジャーが潰す。

 

「あのスリザリン生のビーター、なかなか判断が早いわね……」

 

 まあ、判断が早いのはホントはハーマイオニーなんだけど。

 ゴイルは操り人形のようにブレスレットから来る指示に従って打ち分けてるだけなんだけど、かなりフィジカルが強いから打つブラッジャーの弾速はかなり速い。効果的にカウンターを潰すことができる。

 こぼれたクアッフルを抑えたのは……既に戻っていたドラコだ。そのまま前進する動きを見せると、今度はお返しとばかりにフレッドさんがバットを構えた。

 

 が、ブラッジャー1つでは攻撃モード(ドラコがクアッフルを手にした瞬間にハーマイオニーが指示を出して、切り替わっている)に入った僕らのチームは止められない。

 かなり前まで出てきているロンにクアッフルを預け、ドラコはブラッジャーを引きつける囮としてサイドに展開。

 ロンは、キーパーではあるけど……そのまま前進。寮チームが攻撃のために僕らのエリアにチェイサーをかなり置いてるからこのまま前に出てもリスクが低いと判断したんだろう。ロンらしい全体を見た好判断だ。

 寮チームのチェイサーが守備に戻ってくるのは間に合わず、ブラッジャーも遠くに誘導されている。そんな状態でロンとディーンが勢いよく前進したものだからキーパーとしてはたまらない。

 ゴール前で華麗にワン、ツーとパスのやり取りをして……手薄な側からしっかりとロンがゴールを決めた。20-0だ!

 

「やるじゃないか。ロニー坊や」

「思った通り、なかなか手強い」

「となると、俺たちのやることは教科書通りの打ち分けじゃないな」

「ああ。ロニーの可愛い友人には悪いが、司令塔から潰していこう」

 

 スニッチを探しながらではあるが、ゴール後のリスタート前に双子が近づいてなにか話しているのがみえた。

 

「そら、食らえ!」

 

 試合開始のクアッフルの投入とともに、(たぶん)ジョージさんがブラッジャーを打ち込んだのは……定跡どおりのシーカーやキーパーではなく、ハーマイオニーだった!

 

「うわ、わわわわ!」

「危ない! ハーマイオニー、逃げろ!」

「わかってるけど……そんな器用に躱せないわよ、ロン!」

 

 ブラッジャーに追われながらでは流石に指示を出す暇もなかったか。

 ドラコは自分の判断で戻ってきたもののディーンは少し遅れ、ビーターからの支援もなかった僕らのゴールはロンが一度はシュートを止めて弾いたものの、ルーズになったクアッフルを掴んでアンジェリーナさんがゴールリングに叩き込んだ。20-10。

 

 まずい。意外と弱点が見つかるのが早かった。となると僕の責任は重大だ。

 ブラッジャーにノックアウトされるリスクは高くなるが、スピードを上げて競技場全体を探しに行く。

 マクラーゲンはそれを見て慌てて僕を追従しはじめた……まあ、そう来るなら少し先輩には悪いけど。追いつけないスピードまで加速し千切らせてもらう。しかも上下運動も織り交ぜてだから目で追うので精一杯かもしれない。

 

「ハリーが加速しはじめたぞ! 悪いがグレンジャー、ブラッジャーを受ける囮になっていてくれ」

「やれるだけはやってみるけど……たぶん長続きしないわよ!」

 

 ブラッジャーを受ける囮になるときの定跡はできるだけ中央から離れること。かわしたあとのブラッジャーがすぐに他の選手に振り分けられないようにするためだ。

 とはいえ、ハーマイオニーの飛行はかなり危なっかしく、なんならブラッジャーが命中しなくてもいつかは落ちそうな雰囲気だ。

 あそこまでやらせてるんだから、僕が決めないと。

 そう思って必死にピッチを目で探ると……あった。わずかな金の煌めきが観客席側に見えた。

 探索モードの僕についていくのが必死のマクラーゲンはまだ気付いていないようだし、距離は向こうのほうが少し近いけど僕のほうが優位のようだ。ブラフも入れずに箒を急旋回。急降下してスピードを乗せ、スニッチへと一直線で向かう。

 

 僕の動きに気付いたケイティさんが進路妨害にならない範囲で体を入れに来ようとする……けど、僕のほうが速い。あっさりと追い抜いて、あとはスニッチとの勝負……というところで視界の奥にいる(たぶん)フレッドさんがニヤリと笑うのが見えた。

 ハーマイオニーを狙うと見せかけていたバットの方向を一気に変え、僕を狙って打ち込んでくる。

 さすがグリフィンドールチームの名ビーター。的確な判断、かつ軌道も正確だ。

 単に僕を狙うだけでなく、僕の姿勢から移動経路も予測して点ではなく線で当たるようにブラッジャーを打ち込んできている。このまま直進すれば間違いなく正面衝突だ。

 

 とはいえ、フレッドさんにはちょっと誤算があるようだった。

 このまま直進すればシーカーとブラッジャーが正面衝突、それは間違いない。素晴らしいスイングだった。

 

 でも、僕はたぶんその予測よりも、速い。

 

 ここだ!

 ここまでのスピードになるともうスニッチを目で追いきれるような状態ではないけど、位置は確実にわかっている。加速は緩めずに右手を広げ……しっかりと掴んだ! 手のひらに冷たい金の感触が伝わる。僕たちの勝利だ!

 

 次の瞬間、僕の顔面にブラッジャーが直撃。

 最後に耳にしたのは試合終了の歓声ではなく、観客席からの悲鳴だった。

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