ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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27.ラン・アンド・ガン

「ジェームズ、銃とは恐ろしい――いや、素晴らしい! マグルの武器などは敬意を払うべき――いや唾棄すべきもので――甘く見て――ジェームズ、血が出ていますぞ! 私が! 私が撃ったのです!」

「黙れと言ったではないか! クィリナス・クィレル!」

 

 カローがクィリナスに叱責する。

 ああ、クィリナス。あんた普段はあんなおどおどしてるのにな。必死に服従の呪文に抵抗してやがんのか。泣けるぜ。

 クィリナスは泣いているような笑っているような、どちらともいえないような表情で銃と杖を構えていた。

 闇祓い、魔法警察、神秘部門機動部隊……そういうプロが銃を持つことは、少なくとも今のところはない。

 だが、それは銃の危険を過小評価しているわけではない。

 

 銃に撃たれたのは初めてではない。

 マグル世界と魔法世界を反復横とびしているような、魔法使い崩れとでも言うような連中はしばしば持ち歩いていて、当然俺たち闇祓いが取り押さえにかかればそれを振り回すことも珍しくない。

 あのときはイングランド中部の、セーフハウスに逃げ込んだチンピラを追っているときだった。

 「居るのはわかってんだ! とっとと投降しろ!」と叫びながら木製のオンボロドアを力強くノックしたタイミングで、中にいたやつはそのドア目掛けて撃ち放ちやがった。

 その時は腹に一発。ビーターが持つバットで思い切り殴られたような衝撃だった。

 ドアを貫通していたことから威力はやや抑えられており、即死の憂き目にあうことはなかったが、少なくとも杖を握るどころではなかった。

 すぐに俺は聖マンゴに運ばれて(中の犯人は俺の後ろにいたアリスが即突入してボコボコにしていた)、1日ほどお泊りするハメになった。まあ、つまり言いたいことってのは、油断大敵ってことだな。

 

 右腕の出血は止まっていない。長引けば、まず間違いなく失血で気を失うだろう。

 銃弾の人体を破壊する威力というのを舐めてはいけない。本来ならこの状態で3人相手にするなんて御免こうむるところだが、なんとかしねえとそれはそれで死ぬんだよなー、俺。

 

 プロが銃を持たない理由はシンプルで、魔法を使って銃口を塞ぐだの雷管をマーマイトに変えるだのなんだのいろいろあり、それで至極簡単に暴発を誘発させられるからだが、いまそれをやると(おそらく服従の呪文を受けて操られている)クィリナスが最悪死ぬ。

 即死を免れても、こいつらがクィリナスを優しく扱ってくれるとは思えん。廊下に放置していくだろう。

 どうしたもんかね。

 

「フハハハ! さっきまでの威勢はどうした!」

 

 クィリナスとカロー兄が二人がかりで俺を攻め立ててくる。

 

 多対一のときの基本は手数をどこかで稼ぐことで、一つの(プロテゴ)で二つの攻撃を弾くなどを狙っていくことになる。

 クィリナスからは銃弾、カロー兄からは呪いと性質が異なるものを同時に受けるのはなかなかしんどいが……射線を絞ってなんとか粘っている。しかしこれではジリ貧だ。

 多対一のときのもう一つの基本と言えば、片方をできるだけ素早く落とすことなのだが……カロー兄はそれをわかっているのかかなり守備的だ。妹の動きも見張りつつ牽制を入れて杖を拾うのを妨害はしているものの、拾い直されれば形勢は一気に向こうに傾くし、そうでなくても俺はそのうち失血で倒れる。

 クィリナスのほうもなかなか動きが堂に入っていて、右手の杖で(プロテゴ)を張りつつ左手で銃を操作している。賭けてもいいがあれだな、凝り性のクィリナスのことだ、もし魔法使いが銃を使って戦うなら……こうするのが理にかなっておりますぞ! などと考えて密かに練習してたに違いない。迷惑なやつだ、ぜんぶ終わったら3杯はおごってもらわねえと。

 

「そういうカローさんもなかなか消極的じゃねえか、え? そんな遠くでコソコソやってよ」

「その手には乗らん。ジワジワと削り殺してやる」

 

 片方を無理に落としに行くのは可能だろうが……そうなると大きな隙ができる。しかし、こっちは流血してる身だ。リスクを取ってでもやらないとな。

 悪いな、クィリナス。寝ててもらおう。

 

麻痺せよ(ステューピファイ)!」

 

 杖を振りかぶり、あえて有声で呪いを放つ。

 無声よりも威力が少しばかり高くしたそれを、(プロテゴ)で受けにくいようにクィリナスの足元に向けて撃つ。

 普通は体の芯に当てなきゃ効果は薄いもんだが、思いっきり威力を上げたからな。結構効くだろう。

 それはしっかりとクィリナスの脛にぶち当たり、クィリナスは廊下に倒れ込んだ。

 とはいえ、振りかぶったところから下に向けて撃ったもんだから……身体は大きく開いてしまった。つまり、有り体にいえば隙だらけになる。

 

武装解除(エクスペリアームス)!」

 

 その機をカロー兄は逃してはくれない。あちらもお返しとばかりに有声で武装解除呪文を放ってきて、なんとかかわそうとはしたもののしっかりと胴体に食らってしまった。

 威力は十分で、吹き飛ばされる。もちろん杖も手放してしまった。

 

「ふははは! 万事休すだな、ポッター!」

「いや、ほんとだよ。頼むから近づかないでくれ」

 

 尻餅をついた状態でなんとか後ずさりして距離を取る。

 ここで油断してくれてればいいんだが……あちらさんはしっかりと俺の杖と体を見張っていた。

 

「もちろん近づくわけがなかろう。お前が杖なしで動物もどき(アニメーガス)になれることは知っているのだ。一発逆転を狙っているんだろうが、その手は食わんよ」

「うわー、勘弁してくれ。見逃してくれ」

「無様な醜態のフリか? それとも杖なし呪文でも食らわしてくるか?」

 

 一定の距離を保ちながらも、カローはこちらに杖を向けた。なんとか廊下の彫像などを使って射線を切ろうとするが、カローはこっちの射程圏内には入って……いや、そうでもないな。

 そこは、いい位置だ。

 

「ああ、そうだった。杖なし、杖なしね」

「は。お前はあのシャックルボルトではあるまい。できるとしても大したことは――」

「その通り。大したことはできねえな……例えば、チョークみたいに軽いものを動かすぐらいだ」

 

 1年生の授業で軽く見せておいてよかったぜ。こんなお遊びみたいな杖なし呪文を実戦で使うことはねえからな。自分でもできるって忘れかけるぐらいだ。

 倒れているクィリナスは、未だに銃を握っていた。大したものは動かせないが……ちょっと拳銃の銃身を傾けて引き金を引くぐらいはできる。

 

「ぐあああっ!」

 

 廊下に銃声が響いた。弾丸はしっかりとカロー兄の右肩を貫いたようだ。思わず杖を取り落とす。

 おいおい。どんな痛めつけられても杖だけは握っておけってムーディ局長がブチギレるやつだぞ。素人さんはこれだから。

 カローは血走った目で俺と、自分の杖と、俺の杖の距離を一瞬見計らった――いや、一瞬迷った。

 

 悪いがその隙は逃さない。

 俺は自分の杖にも相手の杖にも目をくれず、四本脚で走り出し――カロー兄に向けて時速60キロメートル、体重200キロのタックルをくれてやった。

 洗面台と床や壁のタイルを破壊しながら、女子トイレにカロー兄が吹き飛ばされる。近くにいた妹は――おっと。自分の杖を拾いに行ってるな。

 

 ひとまず後ろ脚で俺の杖を上に弾く。くるくる周りながら杖は宙を舞い、それと同時に動物もどき(アニメーガス)を解いて……華麗にキャッチ。決まったな。

 

「ポッター……貴様、貴様!」

「おっと妹さん。悪いな、あんたに杖を取らせないようにする牽制はブラフだ。だいたいの魔法使いってのは杖を一時的に失うと、それを取り戻す以外のことを考えなくなるからな。気付かないで固執してくれて助かったよ」

 

 カロー妹はこちらを睨みつけている。まあ、怒る気持ちもわかるけどな。そもそも相手の杖をそのまま転がしておくこと自体がミスなんだ。

 まあ、遠目には折れているのがわからないようにしたのは、ちょっと性格が悪かったかもしれん。

 そんなことを考えながら、兄のほうの杖もしっかりと踏み折った。

 今この場で生きている杖は俺の杖とクィリナスの杖だけだ。クィリナスのほうは流石に取りに行くのは遠すぎる。そう考えたのかカロー妹は懐からナイフを抜いた。

 

「ふん! 貴様はもう失血でフラフラだろう、そのまま刺し殺してやる!」

「マジで困るんだよなあ、そうやって開き直られるの。実際フラフラだしな」

 

 動物もどき(アニメーガス)になるのは結構な大技だ。流血した状態で強行したのは流石にちょっと拙かったか。目の前のカロー妹にもそれがわかる程度にはフラついているみたいだ。

 とはいえ、さすがに杖も持ってない素人に負けるほどでは――

 

「ポッター教授! 大変です。マルフォイが……きゃああああ!」

 

 まずい。タイミングが悪すぎる。

 廊下に生徒が一人、走り込んできて……血まみれの俺を見て悲鳴をあげた。ハリーの友達の女子生徒、ミス・デイヴィスだ。

 それを見てカロー妹は目の色を変えて飛びかかり、首元にナイフを当てた。

 

「余計な動きをするな。杖に触れるな。両手を挙げて目を瞑れ」

「ああ、わかったわかった。やらせて頂きますよ」

「口も動かすな!」

 

 カロー妹は首元に押し当てたナイフをスライドさせた。血がほんの少ししたたり始める。

 くそっ、こいつ子供を殺すのに一切抵抗がねえな。

 今度こそ手詰まりか? とも思う……しかし、子供の命には変えられねえ。

 言われたとおり従い、杖を置く。そうしている間にも血は流れ続けていて、正直なところ立っているだけでもつらくなってきた。

 

「ふはは……そうだ、そうやって私にひれ伏せばいいのだ! お前もスネイプも地獄で私とあのお方にひれ伏し――」

武装解除(エクスペリアームス)! トレーシーさんから手を放せ!」

 

 半ば諦めそうになっていたところで、思わぬ助けが来た。先ほどミス・デイヴィスが走り込んで来た側の廊下の角から走り込んで来たネビルによって、見事な武装解除(エクスペリアームス)がカロー妹の背中にクリーンヒットした。

 

「素晴らしい武装解除(エクスペリアームス)術だ、ネビル。縛れ(インカーセラス)

 

 すかさず俺は杖を拾い直して、カロー妹を縛り上げる。これでほぼ完全な無力化だ。

 ついでに転がっているクィリナスも同様に縛る。

 

「トレーシーさんもポッター教授も大丈夫!?」

「うわー! ネビルくん、すっごーい……」

「あー、見事な呪文を決めてもらったところ悪いが、グリフィンドールに点数をやる余裕すらないのでちょっと早口だが聞いてくれ。今、俺は気力で立ってるだけで、いつ出血多量で倒れるかわからん。なので他の先生に引き継ぎを頼む。そこのクィレル教授は服従の呪文を受けていたから、悪いが捕縛はそのままにしておいてくれ。んでもって廊下にこの女の兄貴が転がっている。ミス・グリーングラスを石化させたのもこいつらの仕業だろうから、こっちも同様に縛り上げて、スネイプが用意した怪しい薬をしこたま飲ませてあらゆる秘密を吐かせる必要が……」

「ふん。そんな目にあってたまるか」

 

 嘘だろおい。死にはしないけどほぼ死ぬぐらいの威力で体をぶつけたぞ。

 俺以上のフラつき具合で、杖すら持っていないが(まあ俺が折ったからね)、それでもこちらを強く敵視して睨んでいた。

 なにか覚悟を決めている目だ。しかし、いったいその状態から何を?

 

「お前たちの尋問など受けてたまるか。任務は一部失敗だが、せめてあのお方に最後のご奉公をせねば」

「……! おい! バカ! やめろ!」

 

 カロー兄はよろめきながらではあるが俺たちに背を向けて走り出す。とっさにネビルが再び武装解除(エクスペリアームス)を撃ったが、むしろそれは奴の狙いを助けることになった。

 武装解除(エクスペリアームス)をモロに受けた奴は、その食らった勢いのまま、女子トイレの中に現れていた謎の大穴に向けて頭から飛び込んでいった。

 グシャッ。

 鈍い音が響いた。

 

「間違っても覗き込むなよ」

「うん……」

「そんでもって……俺を医務室に運んでくれると助かる」

 

 ようやく全員片がついて気持ちが切れたのか、足にまったく力が入らなくなった。意識も薄くなっていく。

 

「ポッター教授!」

「ど、どうしよう。ここから医務室に運ぶにも、この先の階段で繋がるものは……」

「ホグワーツに告げる。これは呪文学教授による命である! 階段よ、医務室への道を開きたまえ。(スカーラエトータム・ロコモーター)

 

 特徴的な甲高い声と、階段が大きく動きはじめた音が聞こえた。

 ああ、これはなんとかなったかな。

 そう思いながら俺は意識を手放した。

 

 

 ─────

 

 

「スネイプ教授。一年生のお坊ちゃま、お嬢さまたちに指示を出して参りました」

「ご苦労。カトラリー。なにか問題は?」

「今のところ一切ございません。勤勉でよい子供たちです」

「君から見て勤勉とは褒め過ぎだろうに」

 

 屋敷しもべ妖精の働きぶりは皆知っている。彼らに比べて勤勉などと言える魔法使いはほとんどいないだろう。

 

「勤勉というのは仕事の量の多寡ではなく、労働の喜びを知っているかどうかなのです。我々屋敷しもべ妖精はそれを皆知っているにすぎません」

「私は省の時代にそれを知りすぎた。もう御免被りたいがね。……彼らが戻ってくるまで少しあるだろう。適切な休憩の歓びも知っておけ」

 

 私が紅茶を入れて持って行くと、カトラリーは少し驚いた顔をした。

 

「我々に気さくに接して頂ける教員方は長い歴史で幾人もおりましたが……紅茶を入れて頂いたのは初めてでございますな」

「……自らの家の屋敷しもべ妖精の素晴らしさについて事あるごとに熱弁する旧友がいてな。影響を受けたのかもしれぬ。加えて言うならば、そのような教員が今まで存在しなかったのは、今や自信を持って紅茶を淹れられる魔法使いが稀というだけだろう。グレートブリテンに生まれておきながら、嘆かわしいことだ」

「ほう。ではスネイプ教授のお手並み拝見と行きましょうか」

 

 カトラリーはニコニコと笑いながらも、ポットにお湯を注ぐ私の動きを油断なく監視している。

 やれやれ。私の試験を受ける生徒はこのような気持ちなのか?

 とはいえ、私の紅茶の淹れ方は完璧と自負している。棚にあったお茶菓子とともに出す。

 

VAHDAM(ヴァダム)のプレミアム・ダージリンだ。ご賞味あれ」

「なるほど。ポットの扱い、お湯とミルク、そしてカップへの注ぎ方。手慣れたものを感じさせました。茶葉もVAHDAM(ヴァダム)のブランドのものは素晴らしい品質で知られており、間違いなく美味しい紅茶が注がれていることでしょう」

「そうだろう」

 

 自信ありげに頷く。まあ、魔法薬の調合とさほど変わらない。準備と正確な分量。それこそがこの作業の真髄だ。

 ところが、思わぬ評価が下された。

 

「それ以外は我々の基準ではゼロ点です。よくこれで屋敷しもべ妖精と張り合おうと思いましたな」

「なっ……なんだと?」

「まずマグカップではなく、ティーカップとソーサーを使うべきです」

「味は別に変わらんだろう!」

「香りの立ち方が変わります。次にお茶菓子ですが……せめて皿ぐらいは……」

 

 私が袋のままで出したダイジェスティブ・ビスケットも気に入らないらしい。皿に盛れだと? 洗い物が増えるではないか。

 

「また、茶葉との格の釣り合いもかなり悪いです。マクビティのダイジェスティブ・ビスケットは美味しいものですが、最高級の茶葉であるVAHDAM(ヴァダム)のプレミアム・ダージリンと組み合わせるとなるとやはりちぐはぐさが際立ってしまうでしょう」

 

 細かい奴め。美味しいものと美味しいものを組み合わせて何が悪いというのだ?

 

「また、最後に……いくら最高級の品物と言えども、ブランドを口頭で伝えるのは論外です。鼻につきます。総じて言いますと、ティータイムは魔法薬の調合と違い、もてなすこと、相手にもてなされたと感じさせること、という本来の目的を見失い気味かと思われます。相手を楽しませることこそが真髄です」

「……」

「とはいえ……私めとしてはここ数年でも稀に見るほどの楽しいティータイムとなりましたので、満点をつけてもいいでしょうな」

「私がこの校内で皮肉を飛ばされることになるとはな」

「いえいえ。素直な感想ですよ。スネイプ教授の全力がしっかりと伝わりました」

 

 そう言いながらカトラリーはビスケットをつまみ、紅茶を飲み干した。

 

「それはそれとして、ここまで言ったからにはお手本を見せないといけないでしょうな」

「……ああ、わかった。存分に腕をふるってくれ」

「私物の茶葉を頂いても? 同じ茶葉を使うほうが、実力の差というのがはっきり見えましょう」

「ええい、好きにしろ! ミスが少しでもあったら容赦なく減点してやる」

 

 そう言い返すと、ニヤリと笑ってカトラリーは紅茶をがしまわれている棚のある奥の部屋へと姿を消した。

 手持ち無沙汰の間、自分の注いだ紅茶とともにビスケットをつまむ。味は最高だというのに、不満を抱くとは……などと考えていたところに、突然私の名前が読み上げられた。

 

「セブルス・スネイプ教授。在室のようだな」

「これは……フィニアス様。いったい?」

「現校長から緊急にも関わらず曖昧な通信だ。『わしは省に釘付けにされておる。最大限警戒せよ』とのこと」

「校長が?」

 

 絵画を使った通信はホグワーツに対する情報の伝え方としては最速のものだ。

 校長がそう判断したのであれば、なにか起きる前提で動き始めなければいけない。まず他の教員と合流し、生徒をまとめ上げて安全を確保する必要があるだろう。

 主要なスタッフには同じように校長からの伝達が届いているはずで、一部の無能を除けばすでに動き始めている可能性が高い。

 残念ながらティータイムを楽しむとはいかなくなった。断りを入れるため呼びかける。

 

「カトラリー! 校長からの緊急の指令だ。申し訳ないが……」

 

 返事がない。

 

 返事がない?

 返事がないなどということは……通常ありえない。

 なぜなら彼は、優れた屋敷しもべ妖精だからだ。

 

「カトラリー!」

 

 奥の部屋を覗き込むと、笑顔で湯気が立っているティーカップをトレイに乗せて運ぼうとしている状態のカトラリーが見えた。

 石化ではない。一目でわかる。

 

 彼は絶命していた。

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