ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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31.Manoeuvres in the Dark(2)

 上昇。

 左旋回。

 警戒しながらすぐさま下降。

 ハリーの後ろにピッタリと張り付いたハーマイオニーが、矢継ぎ早に指示を出してくる。

 クィディッチの試合だと一つ指示を逃しても多少不利になるぐらいだけど、これはミスるとそのまま人食いワニ(ワニでよかったのかな、さっきのは。でもそうとしか形容できない生き物だった)の口に収まる羽目になりうる。怪我をしても止めてくれる審判はいない。

 

 リストバンドを利用した飛行は間違いなく慣れが必要ということで、申し訳ないけどネビルとトレーシーさんには先生がたに報告する役目をお願いした。(ついでにリストバンドを取りに戻る手間を省くために、上から谷底に落としてもらった)

 

 つまり、メンバーはクィディッチのプレイヤーとして参加していた僕にハリー、ロンにハーマイオニー、クラッブくんとなる。現状のフォーメーションはこうだ。

 まず、唯一この暗闇の中を見通せるハリーが先頭。その後ろにハーマイオニーがいて、全体に指示を出してる。(つまり、ハーマイオニーはこの中で唯一まったく見えないし指示もないまま飛んでるメンバーになる。ハリーを信頼してるんだろうけど、やっぱり彼女割とぶっ飛んでる)

 その後ろを飛ぶのがロンで、サブリーダーのような役目だ。ハリーがミスしたときやハーマイオニーの出す指示が遅れたときに代わって指示を出したり、あるいはリスクを承知でやむを得ず杖光り(ルーモス)をつけるのもロンの判断による。

 その両脇を飛ぶのが僕、とスリザリン生のクラッブくん。しんがりの役目で、走って追いかけているはずのゴイルくんが、どこかで脱落してないかどうか捕捉する役目、および下水道に住む謎の怪生物が僕らの箒の移動に驚いて追いかけてきたりしたときに、なんとかする役目を担っている。(なんとかってどうしたらいいんだろうね? 実際のところ)

 ほとんど視界のない状態で警戒に当たっているから、集中力の消耗が本当にキツい。キツいけど、気を抜けない。

 

 まあでも、うまく解決すれば女の子の気を引くいいエピソードになるかも……なんて楽観的に考えないとやってられない。下水道というぐらいだから、とんでもない悪臭だしね。

 なんとなく、その生臭い匂いは近づいている気がして……ほとんど視界がない中で後ろを振り向いてみると。

 ああ、謎の怪生物が追いかけてきたらなんとかする、なんて役目を安請け合いしなきゃよかった。

 とはいえ仕方ない。前方に向かって警告を出す。

 

「みんな! 後ろから吸血コウモリ! ……たぶん、群れだ!」

 

 アンブリッジに気付かれないために声も極力あげないように取り決めてはいるけれど緊急事態だ。仕方なくみんなに叫んで伝える。

 まあ、声が聞かれても、少なくとも明かりをつけない限りは向こうから狙うのは困難なはず。

 

「了解! でも、スピードは緩めないわ。ディーンとクラッブくん、なんとかして!」

「へいへい、了解」

「クソッ、グレンジャーめ。気軽に言いやがって」

 

 司令塔役のハーマイオニーによると、僕らでなんとかしろとのこと。まあハーマイオニーはハリーの背中にぴったりつくので精一杯、ロンも狭い視界で周囲を探ってるから手を回す余裕がないのだろう。

 

「どうする? 当てずっぽうに呪文を撃つ?」

「……いや。コウモリは確か音でこちらを探ってるって聞いたことがある。耳塞ぎ(マフリアート)

 

 クラッブくんが呪文を僕らにかけると……コウモリは僕らを見失って、一匹、また一匹と離れていった。

 

「やるじゃん! ちなみになにその呪文?」

「スリザリン寮に伝わる密談用の呪文だ。自分らにかけることで、コウモリの耳も混乱するかと思ってな。うまくいったようだ」

「そんな便利なのあるんだ! もしかして、僕ら全員にかけたらアンブリッジにバレずに話せる感じ?」

 

 僕の思いつきを話すと、少し間をおいて返事が来る。

 

「……確かに。耳塞ぎ(マフリアート)

「あれ? なにかやった?」

 

 僕らの会話はまさに雑音として処理されていたようで、事態を把握してないロンが異変に気付いて問いかけてきた。

 

「密談用の呪文だ。これでアンブリッジにバレずに話せる」

「え!? そんな呪文知らないわ!?」

「お前の知っている呪文だけでこの世界が出来ているわけではない、グレンジャー」

「なるほど、便利だね。ところで早速伝えたいことがあるんだけど……前に誰かいる」

 

 先頭のハリーから報告が入る。

 前に誰か? まさかアンブリッジ?

 いや、違う……ゴイルだ。下水道の横のメンテナンス用の通路に倒れていた。

 

「みんな! ゴイルが倒れてる、一旦降りるぞ!」

 

 ロンがそう叫んだので、それに合わせて全員一旦箒から降りる。

 

「グレゴリー!」

 

 クラッブくんが駆け寄る。どうやら追いかけている最中にアンブリッジに麻痺か何かの呪いをかけられたみたいだ。様子を見る限りは意識もあるけれど……ここに置いたままにするわけにはいかない。

 

「ゴイル君大丈夫?」

「あー……みんな、来てくれたのか。アンブリッジは向こうに走っていった、ドラコを助けられなかった……」

「大丈夫よ! 私達は箒で来たの。すぐに追いついてみせるわ」

「と言っても、ここにゴイルを置いてけないだろ。誰かが送ってやらないと」

 

 ロンの提案に、クラッブくんが頷いた。

 

「おい、グリフィンドールの連中。こいつは俺がホグワーツまで送る。……その、ドラコは頼んだ」

「わかった。アンブリッジはまだ遠いみたいだから帰る方向なら杖光り(ルーモス)を使って問題ないと思う。ドラコは任せて!」

「ふん。安請け合いしやがって。これだからポッターは嫌いなんだ」

 

 クラッブくんはほとんど動けない様子のゴイルを箒の後ろに乗せて、僕らに悪態を付きながら(照れ隠しだろう、女子はよくやるよね)後方へと飛んでいった。

 

 さーて、殿担当が一人減ったから更に忙しくなるな。なんとかできるかね。

 まあ、そうなったからってトラブルが起きるなんて限らない。そもそも、クラッブくんが後方に飛んでったんだ、彼には悪いけど普通は目に入ったそっちを追いかけるはずで、こっちに怪物が追いすがってくるなんてそうそう……

 

「……あー。ハリー、ハーマイオニー、ディーン。今すぐ箒にまたがって」

「どうしたの、ロン?」

「湖に住んでる奴らの巣はここにあるのか? グリンデローの群れだ! 逃げよう!」

 

 せめて牽制にと何発か呪いを打ち込むが、群れが押し寄せてくる音は一向に収まらない。

 

「うわあああ!」

 

 大慌てで飛び立つ。フォーメーションもクソもない。

 

「ハーマイオニー! 前! 前! 壁だ!」

「きゃあああああ!」

「壁を避けられたのはいいんだけど……僕の眼鏡に、グリンデローの親分みたいなのが映ってる。おおよそ正面、11時の方向!」

 

 正直、見えなくてよかったとさえ思った。ハリーがかなり焦った様子で声をあげるのはなかなか珍しいので、おそらく相当……ヤバい感じなんだろう。

 

「全員散開!」

 

 ロンの呼びかけに従い、正面に現れた怪物を避けるため一気に散り散りになる。

 スピードを上げてできるだけ高く跳びたいけど……ホグワーツの校内と同じように下水道も規則的なつくりとは言い難く、視界の狭い中で無理に天井スレスレを飛ぼうと試みたりすると間違いなく大事故になる。

 

「……かわせたかな、全員いる? 点呼!」

「ハーマイオニー・グレンジャー、無事よ!」

「ロナルド・ウィーズリーもなんとか活きてる。下水の水をモロに浴びちゃったけど」

「ディーン・トーマス、フォーメーションを修正中だよ」

「ハリー・ポッター。あー、かわせたのは間違いないけど……追っかけてきてるね」

 

 グリンデローたちは随分と興奮しているようだ。端的に言ってかなり怒っている様子。

 

「アンブリッジの奴、なんか派手にやったみたいだな。ここにも鉄格子があったみたいだけど、全部ぶっ壊してる」

「どうしよう、みんなで一斉に麻痺呪い(ステューピファイ)でも撃ってみる?」

「無理だよ、ディーン。まともに見えすらしないのに、一斉に撃っても効果はないよ」

「あー……でも、一斉に撃つってのはいいかも知れないわ! みんな、壊れた鉄格子に杖を向けて! 直せ(レパロ)!」

 

 ハリーが僕の提案を却下はしたものの、一斉に撃って威力を上げるというアイデア自体はそれほど悪くなかったようで、ハーマイオニーはアンブリッジが壊した鉄格子に向かって修復呪文(レパロ)を放ったので、皆がそれに倣う。

 狙いは大雑把だし、1年生の呪文なんてたかが知れてるけど、流石に動かない壊れた鉄格子に当てるのはそう難しくはない。

 4人分の修復呪文(レパロ)が当たった鉄格子はみるみるうちに修復されていき、グリンデローを締め出してくれたようだ。

 

 そのまま飛行を続ける。耳塞ぎ(マフリアート)呪文はクラッブくんが離れていったからか、効果はもう失われていて、再び口頭での意思疎通は取れなくなった。まあ、効果が切れるぐらい遠ざかったということは無事校舎に戻れたということかもしれない。ポジティブに考えよう。

 口頭での意思疎通が失われたと言っても、もともと箒に乗って高速で移動しているわけで、しかも相手の位置すらよくわからない状態でやり取りしようなんてなかなか難しいからリストバンド頼りなのは実際のところさほど変わらない。なにせ、口で伝えるよりハーマイオニーの指示は早く飛んでくる。

 

 そのリストバンドが熱を帯びた。

 この合図は……最重要警戒。つまり、アンブリッジだ。

 耳をそばだてると、確かに遠くに足音が聞こえる。

 

「エヘン、エヘン。まったく、こんなひどい目に遭うなんて……でもこの不遇を跳ね除けてこそドローレス・アンブリッジというもの」

 

 生徒を一人さらっておきながら、よくもまあいけしゃあしゃあと言えたものだ。

 怒りがこみ上げる。だいたいの位置は声からわかった。

 強烈な麻痺呪い(ステューピファイ)をぶちこんでやる!

 僕は箒を加速させ、後列から一気に追い越し(オーバーラップ)した。食らえ!

 

麻痺せよ(ステューピファイ)!」

「プロテゴ。あらあら、やっぱり小煩いガキどもが追いかけてきたのね。でも残念。大人に逆らったらどうなるか教えてあげるわ」

 

 マズい! わざとらしい独り言はこっちの攻撃を誘って位置を割り出すものだったか!

 独断での攻撃が仇になってしまった。

 

「いいです? 麻痺呪文はこのようにして撃つのです。麻痺せよ(ステューピファイ)

「うわああ!」

 

 アンブリッジの麻痺呪文がロンに命中。そのまま水中に落っこちていった。救出する余裕もないので、ロンが自力で浮き上がることを祈るしかない。

 ハリーとハーマイオニーはとにかく手早くアンブリッジを倒す道を選んだのか、即席の合図で同時に杖を構えた。

 となると……僕もそれに合わせるとしよう。

 

武装解除(エクスペリアームス)!」

麻痺せよ(ステューピファイ)!」

 

 ハリーの武装解除術と、ハーマイオニーの麻痺呪文がアンブリッジに飛んでいくが――プロテゴによって防がれてしまった。

 

「はっ。おチビちゃんたちの呪文じゃ大人は倒せないんですよ? 目上の人にはきちんと敬意を払う、来世までには身につけておいて――」

「あ、じゃあこうすればいいのかな」

 

 ロンから魔法使いの喧嘩……もとい決闘について聞いたことがある。いわく「杖なんか捨てちゃえ、鼻にパンチをくらわせろ」って。

 せっかく箒に乗っているんだ。呪文が効かないなら、腕じゃなく脚の方を使ってみよう。

 

「箒の風切り音で位置はバレバレですよ? こちらの盾は万端です。1年生坊やの呪いなんて……ギエアアッッ!」

「おっしゃ! 命中!」

 

 アンブリッジが監督官としてホグワーツに来て以来の恨みを込めて加速させて……思いっきり、顔面に足から突っ込んでやった。

 

「よし。気絶してるな」

 

 会心の一撃。僕がおもわずガッツポーズ……の間に、吹っ飛んでひっくり返った状態のガマガエルにハリーは油断なく武装解除(エクスペリアームス)

 これで完全にアンブリッジは無力化された。

 ハーマイオニーが浮遊呪文(ウィンガーディアム・レビオーサ)でロンを引き上げる。どうやら無事のようだ。

 

「ドラコはどこ!?」

「あそこに落ちてるのがクラッブくんが言ってたカバンだと思うけど」

「よし、開けてみよう。罠があるかもしれないから慎重に」

 

 ゆっくりと開けて……ひとまず何もない。手を突っ込むと柔らかい感触。

 

「たぶんこれだ! みんなで引き上げよう!」

 

 4人で鞄に手を突っ込んで……マルフォイを引っ張り上げる。

 

「息もしてるし……えーと、脈はここでいいのかしら。無事のようね」

「よかったー……」

 

 全員、安堵のため息をもらした。びしょびしょのロンは紐が切れたように座り込む。

 

「はー。まったく世話を焼かせるぜ。この、この。顔に落書きでもしとこうかな。『グリフィンドール最高』って」

「もう。ロン。子供みたいなこと言わないの」

 

 とりあえずミッションは達成。あとはどうやって帰ろうか、アンブリッジはどうしようかというところで……突然、上のほうから大きな物音がした。なにかを引き摺るような音。蓋をどかすような音だ。

 ハリーは再び杖を抜いて音のする方に向けた。ひそひそ声でハーマイオニーは僕たちに語りかける。

 

「もしかしたらここが出口で、誰かが助けに来る算段になってるのかも……」

「……ってことは、今上にいるのはアンブリッジの仲間ってこと?」

「かもしれないわ。でも、私達がいるってのは気付いてないはず。奇襲しかないわ」

 

 ズズ……ズズ……と少しずつ上にあるらしい蓋が動かされている音がする。

 全員息を潜めて、一撃で決めれるように杖を向ける。

 

 突然光が差し――人影が映った。

 

武装解除(エクスペリアームス)!」

麻痺せよ(ステューピファイ)!」

石化せよ(ペトリフィカス・トタルス)!」

浮遊せよ(ヴィンガーディアム・レビオーサ)!」

 

 僕らが同時に放った呪文は――あっさりと、上にいた人影による無言の盾の呪文(プロテゴ)で防がれて――いや、ハリーの武装解除(エクスペリアームス)だけは少し効いたようだ。相手がよろめいた。

 その隙を逃さずに全員で、上に向けて油断なく杖を構える。

 

「うおっ、ご挨拶だな……って、そこにいるのはハリーか?」

「え!? シリウスおじさん!?」

「……あっ! その制服、本で読んだわ、確か、魔法省の……」

 

 そこに立っていたのは何かしらの制服を着た髭の男。

 どうも、ハリーが知っている大人らしい。

 少し安堵した雰囲気になるが、ハリーは念の為杖の狙いを外していないので、それに倣う。

 

「1年生だってのに秘密の通路で学校を抜け出してくるとは……くーっ、ハリー、俺たちの後継者にふさわしい振る舞いだぜ!」

「えっと、いや、そうじゃなくって……いや、今シリウスおじさんの世迷い言につきあってる暇ないんだけど……というか本物ってことでいいんだよね?」

「世迷い言!? ……まあいい、ここから見える範囲で事情は大体つかめた、お手柄ってわけだな、ハリー? もちろん、俺の姿をしてても疑うのは大事だ。油断大敵!(CONSTANT VIGILANCE!) ってわけだな」

「まあ、そうだね。というか、なんで急に下水を覗きに来たの?」

「そりゃ、簡単だ。懐かしの母校でフリットウィック教授から通報を受けて、先回りした甲斐があったってもんだ。そこのアンブリッジに関しては、ここからは闇祓い(オーラー)のシリウス・ブラックが引き継ごう」

 

 そういって、シリウス・ブラックを名乗る闇祓い(オーラー)のおじさんは、チャーミングな笑顔を浮かべた。

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