ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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33.The Beginning and the End

 広間はグリーンとシルバーのスリザリン・カラーで飾られていた。

 ヘビの横断幕がバルコニーに掲げられ(伝統を感じる格式ある絵柄のものもあれば、今朝思いつきで描いたとしか思えない落書きのような蛇の絵までさまざまだ)、スリザリンのテーブルはお祝いムードだ。

 

「ちぇっ。この前のクィディッチの試合が練習試合じゃなかったら、うちが寮杯もクィディッチ杯も取ってたに違いないのに。ハリーもそう思うだろ?」

 

 グリフィンドールのテーブルでぶつくさとロンが呟いている。スリザリン寮の寮杯獲得が気に入らないらしい。

 

「あなたが授業でもう少し頑張ればよかったんじゃない?」

「何言ってるんだよハーマイオニー。そんな授業でちまちまちまちま稼いだって逆転は狙えないよ。一発逆転を狙うならもっとビッグなことをやらないと!」

「あらそう。ちまちま稼ぐだけでごめんなさいね」

「……い、いや! 待って! そういう意味じゃなくて!」

 

 ロンは軽率な発言でまたハーマイオニーを怒らせている。この一年変わらないことがあったとすればこれかな。

 

「あなたが私の言う通り、『声真似魅力(イミテーションボイス・チャーム)』の勉強をしてたら、5点は稼げたわよ!」

「わかった。わかったから」

 

 とはいえロンもハーマイオニーを怒らせるだけではなく、春休みが明けてから試験が近づくにつれ気が立っていくハーマイオニー(ロン曰く、春先の噛み付き妖精(ドクシー))を宥める役目を担っており、グリフィンドールの一年生はハーマイオニーのいるテーブルに極力近づかないことで被害を一人に抑えることに成功はしていた。

 騒がしいのはロンやハーマイオニーだけではなく、どこの寮のテーブルでもみんな好き放題おしゃべりしていて、ガヤガヤとうるさい大広間だったんだけど……その声が次第に小さくなっていった。どうしたんだろう?

 

「あれ、ダンブルドア校長じゃないかしら?」

「本当だ。なんでバルコニーなんかにいるんだろう」

「ダンブルドア校長は偉大な人だけど、変な人でもあるからなあ。大広間に詰め込まれた僕らを一番観やすいところから見物しに来たんじゃないか?」

 

 ダンブルドア校長が座るはずの席は空のまま。その反対側に備え付けられたバルコニーに、おなじみの髭の校長の姿が遠目に見えた。

 どうやらこの思いつき? の登場を教授陣も知らされていないようで、マクゴナガル先生とスプラウト先生がひそひそと話しているのが見えた。

 

「また一年が過ぎた!」

 

 バルコニーから声が響く。どうやら拡声呪文(ソノーラス)を使っているようで、大広間からかなり離れたバルコニーからでもしっかり声が聞こえた。

 

「一同。ごちそうにかぶりつく前に、わしのたわごとを聞いてもらおう。今年一年、ホグワーツはいくつかのトラブルに見舞われたが、それでも諸君らは多いに学び、多いに遊び、多いに食べたものと思う。その成果が今日、表彰される。寮対抗杯の点数を挙げていこう。四位、ハッフルパフ。452点。三位、レイブンクロー。466点。二位、グリフィンドール。482点。一位、スリザリン487点」

 

 この場に集まっている大半にとっては周知の事実ではあるが、寮対抗杯の結果が発表された。

 スリザリンの席からは歓声があがり、周囲のテーブルからは拍手が聞こえる。ロンはテーブルに肘をついて如何にも嫌そうな顔をしているがそこまで露骨な態度の人間は1年生には多くなく、僕も含めて周囲の生徒はだいたいが周囲に合わせるようにして手を叩いた。

 

「よしよし。よくやった、スリザリン。しかし……いくつかの出来事を勘定に入れねばならぬ」

 

 不穏なダンブルドア校長のセリフ。

 湧き上がっていたスリザリンのテーブルが静まり返る。

 

「よしっ! 来たぞ、ダンブルドア校長のサプライズだ!」

「ちょっとロン。グリフィンドールにとっていい結果とは限らないわよ。例えば、あなたのご兄弟から点が差っ引かれるとか」

「いやいや、ダンブルドア校長は悪戯好きのグリフィンドール生だぜ? この土壇場でジョージやフレッドから減点したりしないよ。もし今更大減点されるようなことがあるなら、二人はとうに退学になってる」

「それはそれで嫌な話ね……」

 

 静まり返り、再び注目がバルコニーに集まったのを確認したのか……ゆっくりと校長は話し始めた。

 

「まず、グリフィンドールのネビル・ロングボトムを評価せねばならぬ。素晴らしい武装解除術(エクスペリアームス)と、同級生を守る勇気。100点に値する」

 

 スリザリン生が困惑しはじめた。482プラス100点だから、582点。既にグリフィンドールが1位だ。

 

「次に、グリフィンドールのジョージ・ウィーズリーとフレッド・ウィーズリー。ピーブズも抑えて今年のホグワーツのいたずら大賞(ベストオブミスチフ)を獲得したのは間違いない。100点の授与が適切じゃろう」

 

 ハーマイオニーがポカンと口を開けている。そりゃそうだ。減点されることはあれど、まさか悪戯に対して100点の加点になるなんて誰も想像していなかった。

 

「最後に、グリフィンドールのハリー・ポッター。練習試合ながら、非常に印象的かつ鮮烈なスニッチのキャッチ。500点がふさわしい」

 

 みな、明らかに困惑している。平然と「ついにボケたか?」などという声が周囲からも聞こえてくる。え? 練習試合でスニッチを取ると500点? どういう審査基準なんだ?

 

「したがって、飾り付けを……」

「皆のもの、遅れて申し訳ない。突然校長室の前に携帯沼地が仕掛けられてな、少し来るのに手間取って……む? バルコニーに…………わしがおる」

 

 全員が振り向く。

 馴染み深いダンブルドア校長の声が、今度は正面から聞こえた。

 バルコニーと、正面のスタッフ席。ダンブルドア校長がふたりいる。

 次の瞬間、どうやら真実に気付いたらしいマクゴナガル先生が激怒した様子で大声をあげた。

 

「これは……ジェームズ! あなたの仕業ですね!」

 

 隣のフリットウィック先生が杖を振ると、後ろにいた校長に扮した男の口元から付け髭が飛び去っていく。多少シワが目立つが……僕のパパだ。

 

「フムフム! 印象的な『老け薬』と『声真似魅力(イミテーションボイス・チャーム)』、それに古典的な変装のあわせ技ですな!」

 

 愉快そうにフリットウィック先生は笑っているが、隣のマクゴナガル先生の顔は真っ赤、カンカンだ。

 

「ようやく今年こそ大人しくしていると思っていたのに……あなたは!」

「いやいやいや、ちょっとまってくれ、誤解だ! 俺はルールを一つも破ってない! ただちょっとバルコニーに付け髭をつけて現れて、大広間のデザインの変更を進言しようとしただけだ。点数についても『500点がふさわしい』とはいったが、『グリフィンドールに500点』とは言ってない。その証拠に、寮点の砂時計は一ミリも動いてない。みんなが勘違いしただけだ」

「そのような言い訳が……通じると思っているのですか!!」

「ほっほっほ、今年もジェームズがやらかしおったのう。ではあらため……スリザリン生の諸君。割と本気の殺意を飛ばさんでほしいの」

 

 何事もなかったかのように仕切り直そうとしたダンブルドア校長に、スリザリン生から殺意が飛ぶ。

 もちろん、僕のパパにはその10倍の量の視線が突き刺さっているだろう。

 

「待て待て待て! スリザリンのみんな! ほら、ホグワーツにはアレだろ、悪戯がつきものだろ!?」

「……うむ。ではこうしよう。ジェームズもああいっていることであるし、今から来期のホグワーツの始業まで、ジェームズに対するあらゆる悪戯についてのホグワーツからの罰則はナシとする。これぐらいでいいかの?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ校長! それは割とシャレに……」

 

 校長の裁定に最初に乗ったのはいたずら大賞(ベストオブミスチフ)を授与されたばかりのウィーズリーの双子(ジョージとフレッド)。なにやらロケットのようなものをバルコニーに向けて発射した。綺麗な花火。バルコニーが炎上しているなど些細なことだろう。

 それをきっかけに(主にスリザリン生が)バルコニーに一斉に攻撃をはじめた。

 どこから出したか、クソ爆弾や臭い玉や殴り続けブーメランが飛びまくっている。たまらずパパは退散したが、一部の悪戯少年少女、および僕のパパに復讐する絶好の機会と見たスリザリン生がそのまま大広間から出ていった。

 

「うむ。一部の生徒とスタッフが欠けてしまったが、スリザリンおめでとう。この一年よく……シルバヌス?」

 

 校長が仕切り直して生徒たちに話しかけようとして……失敗した。ベタ、ベタとやや重い足音がバルコニー側から聞こえる。

 

「ちょっとした退職前の最後の余興のつもりだったのじゃが……どうやらバルコニーの炎上に釣られて早めに出てきちゃったようじゃの」

「シルバヌス?」

 

 壊滅し炎上したバルコニーの下を闊歩しているのは大きな……トカゲのような生き物だ。数体、うろついて近くにいた生徒を睨みつけている。

 

「うむ。あれは殺人火蜥蜴(マーダー・サラマンダー)じゃ。危険度はXXXXじゃから、おおよそ無害と言っていいじゃろう」

「わしの見解では、無害な生き物に『殺人』とは冠せぬと思うのう」

「わあああ! スリザリン寮に三世紀前から伝わる歴史ある横断幕が! 燃えてるわ! なんとかしてセブルスくん!」

 

 しっちゃかめっちゃかだ。

 どうやら点数発表もスリザリン寮の表彰もそれどころではなくなったようで、諦めている(あるいはホグワーツに適応している)上級生は儀礼的な態度をもはや放棄して、テーブルに料理を出して食べ始めた。

 

「おい! ハリー、お前のパパだろ! なんとかしろ!」

 

 スリザリン寮のテーブルのほうから僕に直接向けた言葉も聞こえるけど……知るもんか。聞こえないフリをして、僕も開き直って食事を始めることにした。

 ホグワーツらしいといえばらしいけど、まったくもう。パパはこれだから。

 

 

 ─────

 

 

 ホグワーツの外周部。誰も近寄らない領域に、ひっそりと墓を作る。

 彼らに尋ねたところ、このような物が残る形で仲間を弔うことはないらしい。なので、これは私の勝手な自己満足ということになる。

 

「む? セブルスか。こんな辺鄙なところでなにしとる?」

「それはこちらの台詞です、ケトルバーン教授」

「もう教授などと呼ばんでええわい。気軽にシルバヌスとか呼んでよいんじゃぞ?」

「では、ケトルバーン容疑者」

「……」

 

 じっとりとケトルバーンが睨みつけてくる。そう呼ばれるにふさわしいほど、つい先日ホグワーツの一年を締めるイベントでやらかしたのを忘れたのか?

 

「ふむ……これは、屋敷しもべ妖精の……いや、ヒトが満足するための墓じゃ」

「手厳しいですな」

「事実じゃもの。この墓に仲間の屋敷しもべ妖精が訪れることはあるまい。これはヒト、もっといえばセブルス・スネイプのためにだけある墓じゃ。決してカトラリーと呼ばれる屋敷しもべ妖精のための墓ではない」

 

 ばっさりと切り捨てられる。まあ、このご老人ならそう言うだろう。

 

「しかしまあ、別にそれでええんじゃないかの。弔いなんぞヒトのものもケンタウロスのものも死体じゃなく生者のもんじゃし。屋敷しもべ妖精に対するヒトのエゴなんて今更問う必要もなかろう」

「まあエゴというならエゴですな。単に負け逃げされたのが悔しいだけです」

「負け逃げとは、なかなか奇なる言葉を使う」

 

 カトラリー自身が『相手を楽しませることこそが真髄』と言っていたのだからこれぐらいの扱いは甘受してもらおう。

 茶を出せすらしない身で、よくも私にゼロ点など言い放てたものだ。

 

 

 ─────

 

 

「アンブリッジですが、どうも消されたみたいです、校長。シリウス曰く、『魔法警察に引き渡したあとの身柄の足取りが追えなくなってる。それどころか、そもそも身柄を引き渡した記録自体がなくなってる』、と」

「あまり同情できる相手ではないとは言え……秘密裏に殺されるほどの罪でもあるまいのう。躊躇せんな、トムは」

 

 終業式から一夜明けて、校長室で俺と対面しているダンブルドアは大きくため息を付いた。

 ダンブルドア校長は優しいねえ。俺なんかはハリーとその友人に手出しした以上、同情しようにもできねえけどな。

 

「ついでにいえば、カローの兄貴の死体もあがってません。例のトイレから繋がる部屋の調査をしてますが……血痕はあったものの、死体そのものは行方不明です。普通に考えれば生きてるはずはありませんが」

「あれ、わしらのほうで開閉できんもんかの?」

「セプティマの姉さんに解析を頼んだが、お手上げだと。トム・リドルがこのために用意した部屋というよりはホグワーツにもともとあった隠し部屋を使ってたみたいです、それも伝説級のやつ。奥にもう一個扉があって、こっちはにっちもさっちも行きませんでした」

 

 調査にあたって、セプティマは「は? 意味分かんないんだけど」「出入り口ごときにこんな複雑な暗号化かける意味ある?」「私に解けない問題とかあるはずないんですけどぉぉぉ!?」とトイレの床に何時間もベタリと座りこんで頭をかきむしっていた。

 今もちょくちょく訪れているようだが、解析はどうもかなり難しそうだ。

 

「セプティマで無理なら無理じゃのう。ちなみに妹さん、アレクト・カローのほうの公判は昨晩行われた。アズカバン行きの判決で、まあトムはあっさりと切り捨てたと見るのが妥当じゃろうな」

「そのアレクト・カローって名前は……旧称じゃないんですよね?」

「うむ? 特にそのあたりは触れられなかったの」

 

 在学中の俺たちが知らず、地図に乗せなかったトイレに隠された部屋や、外と繋がる下水道を利用され、侵入にあたってカローという姓を隠蔽している。向こうは役所を抑えてるんだ。書類上の偽装結婚ぐらいは可能だろう。

 一つ一つは偶然かもしれないが、すべてを合わせると……

 

「あんまり考えたくはないですが……情報が漏れている可能性があります。敵は『忍びの地図』のことを知っていて、対策を打ってきていた可能性が高い」

「心当たりは?」

「トム・リドルが開心術を使えるとしたら、まず俺から漏れた可能性は捨てられないですね」

「彼には開心術の高い適性があった。使えると思って臨むべきじゃ」

 

 闇祓いの見習いをしていた頃の俺は当然省の中を警戒せずに歩いていたし、トム・リドル、ないしはその仲間に情報を取られた可能性は捨てきれない。アラスター局長に閉心術を叩き込まれて以来、そうした侵入の兆候を感じたことはなかったが、それ以前は保障されない。

 

「ふむ。しかし昨年もセブルスを狙った粗雑な刺客のようなものはいたが、その撃退に『忍びの地図』は一役買っていた。かなり近い期間に漏れたと考えるのが妥当ではないかの」

「ですかね。まず確実に『忍びの地図』の存在を知っているのは作成者の4人に、ダンブルドア校長とスネイプ」

「そうじゃの。わしから漏れた可能性をケアするのは君の仕事じゃ」

「知っている可能性があるのはアラスター局長、リリー、ホグワーツのスタッフ……フィルチさんも含めます。この地図を実際に持っていた時期がかなりあったので。あと、うちのハリーも可能性で言えばあります」

「ただし、開心術で漏れたというケースで考えるならば高いレベルの閉心術を修得している君とセブルス、それにアラスターやシリウス君は外せるのう。一応、わしも」

「逆に言えば、それぐらいしか外せないってことではありますね」

 

 考えなければいけないことが多すぎる。ハリーが休日のあいだ自由にダイアゴン横丁を歩けないなんて考えたくもないが……考えたくもないことを考えるのが闇祓いの仕事だ。願望を危機管理に取り入れてはいけない。

 たとえばホグズミードの飲み歩きもやめるべきか? いや、いいんだよ。俺の場合は。例外的にヨシ。

 

「悪くない知らせを挙げるなら……猛烈な抗議によってホグワーツ高等監督官のポストは消滅した。まあ、そのポストの当人の評判が激烈に悪く、失踪したのだからそれをかばってまで存続させる価値はないと考えたのじゃろう」

「お、そりゃいい。来年からは羽を広げられそうだ」

「まあ、そういうわけにもいかなそうじゃ。今度は空いた教職員ポストに省が人員をねじ込もうとしとる。わしが後任を見つけられないのもあって、どうやら受けるしかなさそうじゃ」

「魔法生物飼育学か?」

「うむ。狙ってたんじゃろうなあ。ほぼ内定しておったグラブリープランクさんは突然省から緊急で専門性が高くより高給のポストのオファーを受けたそうで、申し訳無さそうに辞退していった」

「シルバヌスをこき使えよ」

「さすがにこの土壇場で引き止めるのも気が引けてのう……いや、引き止めたいか、引き止めたくないかで言えば引き止めたくないに傾くのじゃが」

 

 そうやって重い話から離れて、雑談に興じ始めたところで、校長室にノックの音が響いた。

 

「失礼いたします、校長。お……おや、ジェームズも」

「クィリナスか。これは席を外したほうがいいかな」

「いえいえ、別に大した話ではありません。ミス・バーベッジへの引き継ぎが完了した旨と、退職のご挨拶を」

 

 校長室に訪れたのはクィリナスだった。二人目の退職者だ。

 

「休職じゃなく退職とは。寂しくなるぜ、クィリナス」

「え……ええ、私もです。しかし、服従の呪文(インペリオ)を一度受けた身で生徒たちを教えるなど出来ませんから」

「アレクト・カローにおびき寄せられて、その兄貴から服従の呪文(インペリオ)を受けたんだろ? その兄貴はほぼ確実に死んでる。そんな気にする必要もないだろうに」

「ジ……ジェームズ。あなたもわかって言っているのでしょう? その証言は、あくまで私の口からのものにすぎません」

「……ああ。そうだな」

 

 服従の呪文(インペリオ)が術者の死によって解けた……そう装っているだけかもしれない。

 そういった可能性を排除できないのがあの呪文の怖いところだ。

 

「私自身も自分を信じられないのです。いつか突然生徒を人質にとって、再びあなたに危害を加えるかもしれません」

「そうなったらまたしばいてやるよ。でも、銃はちゃんと処分しておけよ?」

「…………ええ! もちろんです!」

「処分しとけよ?」

 

 意外と執着心というか、収集癖があるからな、クィリナスは。

 そりゃまあ、こっそりヤバい生き物を隠れて飼ってるとかよりは安全だろうが。

 

「こ……校長には既に話しましたが、しばらくはトム・リドルの手から逃れるためにグレートブリテンを離れ、か……海外で研究を行う予定です」

「ああ。その辺りも話したのか」

「うむ。立場はセブルスとそれほど変わらん。直接ではなく部下とはいえ、許されざる呪文を使った生きた証人じゃ。率直に言って消すリストとしてはかなり上にあるじゃろ。話しておいたほうがいいと思ってな」

「ええ。どうも研究にあたって、校長が共同研究者を紹介してくれるそうでして。その相手もトム・リドルに関する事情については聞いているということで、お互いに身を守りながらほとぼりが冷めるのを待つべき、という風に伺っております」

「その共同研究者じゃが、今日お呼びしておる」

 

 パチン、と校長が指を鳴らすと、少ししてから暖炉に人が現れる。

 それはよく見知った人物……隣に住んでるバチルダ婆さんだった。

 

「ばばばばバグショット師匠!?」

「クィリナス……あんた、服従(インペリオ)に負けるなんて大やらかしをしたそうだね?」

「むむむむ無理がありませんかそそそその責め方は!?」

 

 バチルダ婆さんの顔を見たクィリナスがめちゃくちゃどもり始めた。めっちゃ面白い。

 

「あんたはちょっともう一度叩き直す必要があると思ってねえ。志願させてもらったよ」

「いいいいえとんでもないだだだだダンブルドア校長!! 私を謀りましたね!!!」

「ほう? まるで私との共同研究が嫌みたいな態度とるんだねえ? クィリナス?」

「あわわわわわわいえそんなことはわわわわ」

「バチルダ婆さん、数年前まで半ば隠居してたのにずいぶんエネルギッシュになったな」

 

 俺とリリーが一緒に暮らし始めた頃、バチルダ婆さんはおとなしい普通の老人で(今から思えばヨソ向けの猫かぶりだった)、海外で新しく研究を始めるなんて様子は微塵も見えなかった。

 

「そりゃ、ハリーのおかげだよ。あんな教えがいがある生徒がいることを知ったのならせめてもう少し恥ずかしくない程度の業績は残そうと思ってね。数年前に学問の上っ面だけで自慢気にしてたクィリナスを叩き直したのも、少しはマシな教師をホグワーツに送ってやろうという思いからだね」

「……ジ、ジェームズ! あなたのせいでしたか!」

「俺のせいにすんな!」

「しばらくあの子に会えないのも、あの子に教えられないのも残念だねえ。ビンズに教えさせるなんてもったいないと思うんだが、ホグワーツの伝統を変えるつもりはないのかい? アルバス」

 

 バチルダ婆さんの矛先は今度はダンブルドア校長に向いた。

 とっさに校長は目をそらそうとしたが、バチルダ婆さんは一切譲らなかった。

 ため息をついて校長も答える。

 

「そう言わんでおくれ、バチルダ。魔法史の教授が純血派からも融和派からも狙われる陰惨な歴史を存じておるじゃろう。今はちと、トム・リドルという問題を抱えておっての」

「じゃあ、その問題とやらを早く片付けな」

「気軽に言ってくれるのう」

「最近は若手の論文を漁ってるけど、なかなか見どころある子はいるよ。そういう才能が埋もれるのも問題だね」

 

 ああ、そういえば今年のうちの寮(グリフィンドール)の卒業生にも魔法史に興味がある秀才がいた。

 最年少の教授も夢ではないと教授陣の間では話していたし、ダンブルドア校長も興味を持っているようだったのでついにビンズ教授に引導が! とも噂されていたが、そうもいかないようだ。

 

「わかったわかったバチルダ。老いた身ではあるが精一杯やってみるよ」

「あんたもだよジェームズ。やらかしてハリーを泣かせたりすんじゃないよ」

「うおっ。今度は俺かよ。狂犬か?」

「ホントに噛み付いてやろうかい? ええ?」

 

 バチルダ婆さんは今度はこっちを睨みつけはじめた。まったく忙しい婆さんだ。クィリナスの気が滅入る。

 そういえば気になったことがある。まあ、聞いたことのない人間の可能性が高いし、聞いても仕方ないかも知れないが……

 

「そういや、さっき言ってた省から送られてくるシルバヌスの後任ってのはなんて人なんだ?」

「おお! そ……それは私も気になりますぞ。あのシルバヌスの後始末を誰がやるのかと」

「クィリナス、人の不幸を喜んではおらんかの?」

「とんでもない」

 

 まったく、クィリナスもいい性格になったもんじゃ、とダンブルドア校長は呟く。

 

「魔法省が指定した次期魔法生物飼育学教授は、レギュラス・ブラックという。シリウスの弟さんじゃの」

 

 

 ─────

 

 

 ホグワーツからキングズクロスへと向かうプラットフォーム。

 終業後は冬期休暇や春休みと違って全員が一斉に帰路につくから、比べ物にならないぐらい人でごった返している。

 

「うわー。急いで乗り込まないと僕らのコンパートメントなくなっちゃうんじゃない?」

「そうね。というかハリーは私達とでいいの」

「っていうと?」

 

 ロン、ハーマイオニーと一緒にホグワーツ特急を待つ。

 ネビルとは朝食を食べたんだけど、いつのまにか居なくなっていた。どこにいったんだろう?

 

「そりゃ……ダフネさんのところよ」

 

 そんな風に友だちを探している最中に……ハーマイオニーが突然ぶっこんできた。

 

「ゲホッゲホッ!」

「うわっ、ハリー。いくらなんでも動揺しすぎだぞ。ディーンを見習えよ、今からキングズクロスまで一緒に乗って帰る女の子を探してるぞ」

「あれもどうかと思うけどね」

 

 どこにもいないと思ったら、ディーンはそんなことしてたのか……ハーマイオニーの発言に対する返事に悩んでいると、後ろから見知った姿が歩いてくるのが見えた。

 ネビルとデイヴィスさんだ。

 

「あ! ネビル。どこ行ってたの?」

「終業の日だし、少し散歩に行ってたんだ」

「新学期までなかなか会えなくなるものね」

 

 どうやら二人でホグワーツを歩いて回ってたらしい。

 この二人もいつのまにか仲良くなってたなあ。

 

「あー。そうだ、手紙で伝えようと思ってたんだけど。毎年僕とハリーで合同誕生プチパーティみたいなの開いてもらってるよね?」

「そうだね。今年はずっとこっちにいたから、どうするか何も決めてないと思うけど」

「僕の都合で申し訳ないけど、今年は出れないって伝えてくれる?」

「ごめんなさいね。ハリーくん」

 

 そりゃ、もちろんいいんだけど。でもなんでデイヴィスさんが謝るんだろう?

 ふと見ると二人は……ぎゅっと手を繋いでいる。

 

「なにか用事でも入ったの?」

「うん……えーとね。その、僕の誕生日なんだけど……」

「ネビルくんを誕生日デートに誘ったの! ごめんねハリーくん、ネビルくんを取っちゃって!」

 

 ペロ、とデイヴィスさんは舌を出した。

 ……え!? 誕生日デート!?

 

「ネビルとデイヴィスさん、付き合ってるの!?」

「うん。まあ、その、結構前から……」

 

 ロンがビックリして問い質す一方で、ハーマイオニーはあーやっぱりねーと呟いている。

 でも、冷静に今までのことを思い返してみると……クリスマスのときは僕とダフネさん、ドラコとパーキンソンさん、ロンとハーマイオニーが同じ馬車に乗っているのが見えた。つまり、ネビルは僕たちよりも早く、真っ先にデイヴィスさんと一緒に乗っていたことになる。

 クィディッチの練習試合のときも、観戦に来ていた二人はいつも隣り合って座っていたし、この前ドラコがさらわれたときの騒ぎでも二人は率先して一緒に行動していた。

 こうして振り返ってみると明白に思える。なんで気付かなかったんだろう?

 

「そういうわけで、帰りの列車でもネビルくん貰っていくわね! それじゃあまた新学期に! あ、あとハリーくん。ダフならもうすぐ来るところよ」

「わ! それじゃあみんな、また来学期に!」

 

 そう言ってデイヴィスさんはにこやかに手を振りながら、ネビルを引っ張っていった。

 

「おったまげー……」

「あら、ロンもハリーも全然気付いてなかったの? 男の子って本当にニブいわね。ほら、ハリー今度はあなたの番よ」

 

 ハーマイオニーがやれやれと手を振りながら、位置を譲るようにして動くと……そのすぐ後ろにダフネさんがいた。

 気恥ずかしいから手紙で尋ねようと思ってたけど、こうやって機会を与えられたなら……仕方ない。意を決して今言おう。

 

「ダフネさん!」

「はい」

「手渡されたバレンタインカード、何度も読んだよ。結局、僕のせいで春休みは遊びには行けずじまいだったけど……その分の埋め合わせというか、えーと僕にずいぶん都合のいい話だと思うんだけど」

「僕のせいで、なんていらないわよ。それで? 要点は?」

「もしよかったらこの夏休み、どこか行かない? ……えーと、二人で」

「簡単に言えるじゃない」

 

 二人のやりとりをロンとハーマイオニーが見物客のように見ている。

 ロンめ。自分のことじゃないからって好き勝手いいやがって。「ポップコーン持ってきて見物したいね」じゃないよ。

 

「それで、お返事の方は……」

「……喜んで」

「やった!」

 

 思わずガッツポーズすると周囲の視線が集まる。

 顔をさらに赤くすると、ダフネさんから苦言を呈された。

 

「その。私も恥ずかしくないわけじゃないんだけど」

「ご、ごめん……でもよかった! それじゃ、詳細はフクロウ便を送るね」

「うん。待ってる」

 

 そう返事して、ダフネさんは走って向こうに行ってしまった。帰りはスリザリン寮の友達と一緒に帰るんだろう。少し残念ではあるけれど夏休みは長い。話したいことはフクロウで送るまで取っておくことにしよう。

 その一方でロンとハーマイオニーは、僕をニヤニヤ笑いながら背中をバシバシ叩いてくる。普通に痛い。

 

「あら、あんた一人なの? 友達も彼氏もいなくて可愛そうね。しょうがないから私が一緒の席に……アイタッ! グリーングラス! 私の足踏んでるわよ!」

 

 なにやら向こうから声が聞こえたけれど、ホグワーツ特急がホームに入ってくる騒音でかき消されてしまった。

 ホグワーツ生はその喧騒のボリュームを更に上げて、先を争うようにして乗り込んでいく。僕たちも行かなくちゃ。

 

 

 一年が終わる。

 一年が始まる。

 




 これで1章、1年目は終わりとなります。ここまでお付き合いありがとうございました。
 一区切りということで、自己満足ではありますが作中で使っていた音楽を元にした小ネタについての記事を残しております。
 あくまで小ネタについての解説ということで作中の設定、解釈などには触れておらず、興味がなければスルーして問題ありません。それでもよければご一読ください。

https://note.com/taku1531/n/n2e3a827dc504

 それでは、2年目も引き続きよろしくお願いいたします。
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