ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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35.ナイスな茶の間

 ウェルシュ・ラビットはママの得意料理だ。ポッター家の朝ごはんとしてはかなり日常的なもの。僕もパパも大好きだ。

 言ってみればそれは単なるチーズトースト(あるいはチーズソースをかけてしっかりと焼いたトースト)なんだけど、なかなか奥が深い。

 ママ曰く、コツとして「チェダーチーズをケチらない!」だそう。バターとチェダーチーズをボウルで混ぜたあとにバタービールを少し入れるのがうちの秘伝のレシピだ。

 

「うまいなこれ。リリー、おかわりある?」

「はいはい。あるわよ」

「さすがシリウス。朝から人の家で傍若無人」

 

 朝食をたかりに……じゃなかった、朝からうちに遊びに来てくれているのはシリウスおじさんとトンクスお姉さん。

 ママはテーブルの真中にある大皿に焼きたてのウェルシュ・ラビットを積んでいった。

 トンクスお姉さんがそれをさっと横取り。シリウスおじさんがジト目で睨む。

 

「入省してから口が悪くなってないか? ニンファドーラちゃん。ついでに手癖も」

「そう呼ばないでって言ってるでしょ!」

 

 シリウスおじさんとトンクスお姉さんは(シリウスおじさん曰く、唯一の)親しい親戚だそうでよくこうやってうちに遊びに来る。まあ、割と似た者という印象で親戚というのも頷ける。

 

「あ、リリーさん。ラジオつけていい? というかつけるわ」

「お前もたいがい傍若無人じゃねえか」

「うるさい。ラジオが聞こえない」

 

 トンクスお姉さんは棚の上にあるラジオに手を伸ばし、電源を入れてボリュームを大きくする。

 魔法ラジオネットワークニュース(W W N)だ。

 

「……ニング! 全イギリスの美しい魔女、あるいは魔法使いの皆さんお待ちかね! ギルデロイ・ロックハートがあらゆるニュースをお伝えします! ここのところグリンゴッツではゴブリンが騒がしかったけれど、皆さん心配ご無用! 魔法省はしっかりと……」

 

 トンクスお姉さんがお馴染みのラジオパーソナリティの声を聞いて、うっとりしたように耳を傾ける。ラジオから流れる声を聞き、シリウスおじさんはその様子に額を叩いた。

 

「そうか。この時間はロックハートがパーソナリティやってる時間帯か。忘れてたぜ」

「うわー、ついにうちの家にもロックハートファンの波が押し寄せちまったか」

「なによジェームズ。その言い方」

 

 トンクスお姉さんがパパを睨みつける。

 まあ、好きなものを揶揄されると嫌だよね。

 

「いや、別に他意はねえけどよ。ホグワーツで教師やってるともうなんかある度に授業中ロックハートの話しかしないような女子生徒が大勢いてよ。うんざりしちまう」

「ジェームズが舐められてるだけじゃないの?」

「そうだそうだジェームズ。クソ爆弾でもぶち込んでやれ」

「シリウス! 食卓でそんな話しないの!」

 

 みんなの要求を満たすためチーズソースの第二陣を作っているママが、キッチンとダイニングを仕切るカーテン越しにシリウスおじさんを叱り飛ばすが当人は素知らぬ顔だ。

 

「というかあれだな。シリウスもこういうのチェックしてるのは意外だ」

「こういう流行は抑えといたほうがモテるんだよ。意外性ってのは大事だ。ハリーもしっかり聞いとけよ? 今魔女の半数はロックハートの話を聞いてあげて相槌打つだけでだいたい一晩は……」

「シリウス、そろそろ殺すわよ! 魔女のもう半分はあんたを憎んでるからね!」

「うおっ、リリー怖っ」

 

 シリウスおじさんがママにまた怒鳴られてる。あの声は割と本気で怒ってるやつだ。パパは怒りに油を注ぎたくないのか知らぬ存ぜぬを貫き通してる。蜂の巣をつつくな、眠った犬に触るなというやつだ。

 

「はい。おかわり。ほら、これ食べたらとっととハリーのプレゼント置いて帰りなさい」

「リリーが冷たい……」

「ママ、さすがにもうちょっと優しくしてあげてもいいと思う……」

「うおお! ハリー、なんて優しい子なんだ! 流石俺のゴッドチャイルド!」

 

 シリウスおじさんが抱きしめてこようとするのでサッとかわす。

 暑苦しいし、ヒゲが痛いんだよね。

 

「うわ……ちょっと離れて」

「ほら見なさいハリー。少し優しくするとシリウスはすぐこうなるのよ」

「ジェームズ。お前んとこの家族ひどいぞ。なにか言ってやれ」

「今日もリリーは素敵だ。でも笑顔のほうがもっと素敵だよ?」

「露骨に保身に走ったな、ジェームズ」

「そんなことはない。今のは俺ができる最大限の言及だ」

「……よし。あーそういえばトンクス、よくお前今日休めたな。俺が新人のときは祝日休みなんて一切貰えなかったぞ」

 

 シリウスおじさんが露骨に話をそらす。

 いい大人のはずのシリウスおじさん(と闇祓い見習いのトンクスお姉さん)が朝からうちにいられるのは今日がソーブリッジデーという祝日だからだ。わざわざ休日の朝から彼らが来ていたのはなぜかというと……今日が僕の誕生日だからだ。

 毎年恒例でやっていたネビルと僕の合同誕生日パーティを僕の誕生日のほうに合わせて行っていたのは、僕の誕生日と魔法界の祝日が一致していてみんなの都合が良かったからでもある。

 

「スクリムジョール局長が気を遣ってくれたんじゃない? ムーディのジジイのときのスケジュールは……まあ、確かに地獄だったわ」

「ああ、そうか。アラスターは引退したんだったな。うーむ、未だに実感がない……」

「今や引退して悠々と隠居生活だぜ? あのボスがよ」

「悠々? 隠居? アラスター・ムーディを形容する上でこれほど似合わねえ言葉もねえな」

 

 パパ、トンクスお姉さん、シリウスおじさんと闇祓い関係者で職場談義をしている最中に、外からフクロウがうちの窓の桟に降り立ってコツンコツン、とつついた。

 

「あ、エロールだ。ってことはロンからかな」

「ロン? もしかしてアーサーの子か?」

「知ってるのか、シリウス」

「ああ。マグル製品に詳しくてな、いろいろウマがあうんだ。ちょっと融通してもらったりもしててな。バイクとか」

「バイク? なんだそりゃ……まあ、お前は実家が嫌いそうなものは全部好きだもんなあ」

 

 窓を開けるとかなり年を召した様子のフクロウはフラフラと宙を舞った。多少危なっかしい様子ではあったが、きちんと床に荷物を置いていってくれた。

 ロンからのプレゼントは……真紅のスポーツ用ハンドタオルだ。グリフィンドールの紋章が大きく真ん中にあしらわれている。

 

「よし。そろそろお楽しみにプレゼントタイムと行くか。ほらハリー!」

「あ、じゃあ私からも。誕生日おめでとう」

「ありがとう! 二人とも!」

 

 シリウスおじさんからはシーカー用の滑り止めつきクィディッチグローブ。トンクスお姉さんからは僕が応援するパドルミア・ユナイテッドの選手の模型だ。(開封した途端部屋中を飛び回った)

 

「もちろん今年はグリフィンドールチームのレギュラーにだよな、ハリー! 2年生からレギュラーなんて俺たちもできなかったぜ!」

「そのつもりだよ。ありがとう、シリウスおじさん」

 

 まあ、グリフィンドールの寮チームには今まともなシーカーはいない(先輩のマクラーゲンには悪いけど。あいつは箒に乗るのもそんな上手くないし、かなり嫌なヤツ(git)だ)。

 ウッドキャプテンも僕の技術と度胸を認めてくれていたし、何もなければレギュラーを獲れるはずだ。その自信があった。

 その後、順次届いたプレゼントも含めてチェックしていく。パパからは杖のホルスター。保護魔法のほか付着呪文がついていてどこにでも付けられるらしい。曰く「どこに杖をしまっているか知られないのはそれだけでアドバンテージになるからな」とのことだった。ママからは財布。天馬の革でできた手触りのいいやつだ。「女の子と遊びに行くならそれぐらい持っておきなさい」ってことだけど、今まで使ってたパドルミア・ユナイテッドのロゴが入った財布、そんなにダメなのかな?

 他にもハーマイオニーやディーン、ドラコやネビル……思わぬところだとスネイプ先生からも届いていた。

 ダフネさんからはメッセージカード。「プレゼントは直接渡すわ。お楽しみに」と書かれていた。

 

 そう。僕は今日の午後からダイアゴン横丁でダフネさんと待ち合わせしている。メッセージカードを見てそれを否が応でも意識してしまい、少しそわそわしてしまう。

 

「お、それが噂のガールフレンドからの手紙か?」

「シリウスおじさん! 覗かないでよ!」

「いいか。俺が初心者向けのアドバイスを教えてやる。まず花だ、花束を持っていけ。女の子はみんな喜ぶ」

「ハリー。ママからもアドバイスよ。『女の子はみんな喜ぶ』みたいな雑なアドバイスを信じちゃダメよ。『女の子』じゃなくてその子個人を見て喜びそうなことを考えるの。デートの冒頭でいきなり花束渡されても邪魔なだけって私は思うし」

「えっ……俺の渡した花束そう思われてたの……?」

 

 なぜかパパに流れ弾が行った。

 シリウスおじさんのほうは苦笑いしている。

 

「別に花が悪いってわけじゃないわよ。ただ、そういうのを喜ぶ人もいればそうでない人もいるの。相手を見てきちんとリサーチして考えてあげるの。いい?」

「うん。わかった」

「あー。降参だ、降参。リリーママのほうのアドバイスに従っとけ」

 

 でもな、と拳を上げてシリウスおじさんが立ち上がった。

 

「男のためのかっこいい服装! これは俺たちのほうが詳しいはずだ!」

「そうだそうだ! いや、俺は最近の流行とかぜんぜんわかんねえけど」

 

 なぜかパパまで立ち上がる。

 

「よしハリー。俺がイギリスで今一番流行ってるパンクファッションてのを教えてやる。超かっこよくなるぞ。とりあえずチェーンをぶら下げるだけでかっこよさが2割増しになる。後はやっぱり黒いジャケットだな」

「ええ……? 今真夏だよ……?」

「だからこそだよ! なんかそういう感じの精神がパンクらしいんだよ!」

「よし。ハリーのためだ。古着コレクションを掘り出してこよう。ハリーのために買ったものもあれば俺の子供の頃の服もあるはずだ。よりどりみどりだぜ」

 

 パパもシリウスおじさんもやる気だ。

 いや、今から古着を掘り出してどうにかなるの……?

 

「不安そうだが心配するな……パンクの精神の一つはDIY精神! 身の回りのものを加工して身につけるのがカッチョいいんだ。ほら、この安全ピン。とりあえずボトムスを破いた上で刺しまくっておけ」

「刺して……どうするの?」

「どうもしない。針が刺さっていてカッコよくなる」

「ほんと……?」

 

 パパが何か怪しげな木箱を家の奥から持ってきた。

 

「どうだ、シリウス。使えそうか?」

「これなんかどうだ? このシャツなんかは……一周回って最高にかっこいい気もしないでもない」

 

 パパが広げたのはドクロの模様が大きく書かれた黒い半袖のシャツ。

 ドクロの下には「MAX FXXK ALL KILL」と書かれている。意味はまったくわからないけど……なんかかっこいい気がする。

 

「なるほどな……最近の流行ってのは奥が深い」

 

 パパがそう呟くので、僕も頷く。

 僕は服装にはあんまりこだわらないタイプだし、僕らのファッションもマグルのファッションもまったく詳しくないけど……まあ、パパもシリウスおじさんはこういうところでふざけたりしないはずだ。大真面目に格好いいと思って考えてくれているんだろう。

 その期待にしっかりと応えて、かっこよくキメてダイアゴン横丁に向かえるようにしたい。僕も二人の間に飛び込んで、山のように積まれた服を見比べ始めた。

 

「ねえ、リリーさん。止めなくていいの?」

「うーん。まあハリーが嫌じゃなければいいんじゃないかしら。失敗するのも大事だわ」

 

 

 ─────

 

 

 少し早く着きすぎたかしら。

 

 定番の待ち合わせ場所である、ダイアゴン横丁の噴水の前には私と同じように他の人を待っている魔女や魔法使いが大勢いた。

 自然体の人が半分、私と同じようにそわそわしている様子を隠せていないのがもう半分。その中には名前までは覚えていないけれど、ホグワーツで顔を合わせたことのある人もいた。向こうの、確かひとつ上のレイブンクロー生の魔女は、私よりもよほど気が散っているようで会釈しようとした私に気付きすらしていないようだった。

 

 そういう私も人のことは言えない。別にすれ違ったとしても、5分か10分程度お互いに探し回る程度だろうに。

 頭ではそうわかっているのだけれど私はベンチに腰掛けることすらせず、きょろきょろと辺りを見回しながらちらちらと手元の腕時計に目を落とす……このルーチンをひたすら繰り返していた。

 まだ待ち合わせ時刻の15分前だ。もっと落ち着いているほうがいいのはわかってるんだけど。

 そう思っていたところ……後ろから待望の声が聞こえた。

 

「ダフネさん! ごめん、待たせちゃったみたいだね!」

「! ……いえ、別に。少し前に来たところよ」

 

 早く来すぎて気を遣わせちゃったかしら。でもできるだけ早く会いたかったし……などと考えながらパッと振り向く。

 そこには、サングラス、黒のレザージャケット、チェーンをぶら下げたレザーパンツのハリーくんがいた。

 全身黒ずくめのパンクスタイル。今は7月末、真夏も真夏よ。暑くないのかしら。

 そう思って観察してみると、じっとりと額に汗をかいてるのが見えた。

 どうやらふざけてるのではなく、色々真面目に試行錯誤してこの格好になったらしい。頑張ってくれたらしいのは嬉しいけど、別にカジュアルな普段の服装で別にいいのに……

 

「えーっと……やっぱり変かな。前見えないし」

 

 見えないんだったらサングラスはやめなさいよ! と思わず突っ込みたくなる。

 とはいえ、ファッションというのはある種の主義主張のようなものだ

 当人が真剣ならそこに踏み入って否定するのはやっぱり極力避けたほうがとは思う。

 でも、あくまで私の好みの話とはいえ、一日一緒に歩く相手の格好として限度は……などと考えながら口に出す。

 

「その、ハリーくんが好きで着てるならとやかく言うつもりはそんなにはないけど……」

「いや、パパとシリウスおじさんのアドバイスに従ったんだけど……」

「はー……あの教師、スリザリン生だから私へ嫌がらせでもしてるの?」

「い、いや、たぶん違うはず、たぶん……」

 

 どうやら想像通りそれは怪しげな大人どもの入れ知恵のようで。

 ため息をつきながら返事をすると、申し訳無さそうにハリーくんは頭を下げた。

 そう言いながらハリーくんは自分のメガネに杖を振ると、いつもの普通のメガネに戻った。どうやら魔法でレンズの色を変えていただけらしい。

 

「というか、服ぐらい自分の好みで決めたほうがいいわよ」

「いや、あんまりその辺りこだわりとかないんだよね」

「……そういえば、ホグワーツでもそうだったわね。休日のあなたの服、変だったし」

「えっ!? そんな風に思われてたの!?」

 

 これだから男の子は。

 まあ、別にハリーくんだけがひどいわけじゃない。ゴイルくんなんかは体型に明らかに合っていないピチピチのパジャマとか着て談話室を歩いてたし。

 でもせっかく細身でスタイルいいんだからブカブカのジャンパーとか着なくてもいいのに、とは思っていた。

 

「そうね……この後ランチの予定だったけど……」

「ご、ごめん。また後日にする?」

「服屋さんに行きましょうか」

 

 今日はとりあえずハリーくんを着せかえ人形にできるらしい。

 正直言って、すごい楽しくなってきた。

 

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