ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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40.不定職者

「ホグワーツ魔法魔術学校教員、ジェームズ・ポッター。ホグワーツ理事会の承認のもと、魔法省は2ヶ月の停職を命ずる」

「ぶっ……くくくく……」

 

 スネイプはその報を聞き、忍び笑いを……いや、違うな。笑いを隠しているフリが全員に伝わるように笑っている。器用な奴め。

 しかし俺だけ停職? いったい俺が何をしたって言うんだ!

 

「ちなみに期間は異なるが、セブルスにも同じ報が来ておる」

「は?」

「ぎゃははははは!!」

 

 ……と思ったが、俺だけではなかった。あの! スネイプが! 停職!

 もちろん俺は隠すなんてことはしない。派手に大爆笑を決めると……スネイプが無言で呪いを即座に放ってきた。ちっ、ユーモアのないやつめ。

 

「ストップじゃ。セブルス。ジェームズ」

「俺はまだ何もしてないですけど?」

 

 俺の反論に耳を傾けず、ダンブルドア校長は杖を抜くと……俺たち二人の杖がすっと手から離れて浮かび上がり、校長の手元に収まった。

 マジかよ、無言でこれか?

 

「まあ、もちろん普通なら省から直接停職の要請など出ぬからな。トムによる嫌がらせの一環なのは間違いない。とはいえ、ジェームズへの停職の陳情理由は、よくもまあこれだけ調べたもんじゃと思うぐらい長く用意されとる」

「素晴らしい。法執行部本部(ホンブ)の人間の勤勉さが正しく発揮されておりますな。常にこうあってもらいたいものだ」

「なに偉そうにしてんだ! てめーも同じ処分の身だろ!」

「まあ、一つ一つは小さいものじゃ。これが通ってしまった理由として最も大きなものは廊下でのマグル武器、銃の使用じゃな」

「俺じゃねえよ! クィリナスだよ、それは!」

「残念ながら、向こうさんにはそれは関係ないらしくてな。理事会も、その……君に関しては頷きながら大きな抵抗なくそのまま2ヶ月の停職の要請を受け入れた」

 

 理不尽だ。濡れ衣を着せられたなんて許せねえぜ、トム・リドル。

 

「セブルスに関しては、自室からバジリスクが出てきたことから……違法であるバジリスクの飼育の疑いがかけられた」

「我輩が――ケトルバーンと同類のような扱いですと――?」

 

 うわ、めっちゃキレてるよスネイプ。

 まあ、あいつからしてみればグリフィンドール(ルールは破るためにある)よりも、実際のところシルバヌスみたいなの(ルール? そう言えばそんな物もあるな)のほうがよほど価値観としては遠いからな。自分の利益のためには割と踏み越えるタイプだし。

 そういう人間だとほんの少しでも思われるのは我慢ならないのだろう。

 

「とはいえ、理事会もセブルスの実直さを理解しているメンバーが多く、ある程度の反論があった。とはいえ被害の大きさから、やはりインパクトは強くての……ある種の妥協案として2週間の停職が通ってしまった、という感じじゃ」

 

 スネイプは俺に対してやや勝ち誇ったような表情で冷笑してきた。

 いや。お前も停職は変わんねえからな。

 

「期限の始期は9月1日からじゃ。その間の闇の魔術に対する防衛術(DADA)の授業は、臨時講師としてアラスターにお願いすることになった」

「不本意ながらな。まったく、辞めてからもお前の尻拭いをさせられるとは……」

 

 アラスターは俺を睨みながら実に嫌そうに発言する。

 ……アラスター局長が講師!? 全生徒に!?

 

「ダンブルドア校長、少しお耳を貸してもらってもいいですか」

「うん? なんじゃ」

 

 校長の脇へと近づき、声を落として伝える。

 

「今からでも間に合うと思うんで、2ヶ月自習とかにしといたほうが……」

「ジェームズ。それは教育機関として流石にナシじゃ」

「しかし、自習で死人は出ないでしょう」

「わしは……アラスターをおおよそ信頼しておる」

「外向けの顔しか見ていない校長ですら『おおよそ』なんですよ。アラスターが生徒を身内とみなした日には……」

「ジェームズ! 一語一句聞こえとるからな!」

 

 アラスターが吠えるが、俺としては生徒を守るためにやるべきことはやらなければいけない。

 2ヶ月あればほとんど闇の呪いをにこやかに笑いながら一切止めずに急所に向けて連発する殺戮機械と化した生徒が、廊下に溢れかえるに違いない。

 

「だいたい、儂のほうが断りたいぐらいだ。講師としての仕事までやらされるなんて聞いとらん」

「本気で断ったほうがいいんじゃないですか? ホグワーツで臨時講師やって生徒を事故で殺したら晩年に泥を……」

「コホン。とにかくわしはアラスターを信頼しておるし、アラスターも相手するのは闇祓いを目指して入ってきた見習いではなく右も左もわからぬ生徒とわかっているはずじゃ」

「勿論だ。ひよっこでも2ヶ月もあれば相当叩き込める」

「……ジェームズ、引き継ぎを頼む。入念にの」

 

 ギロリ、とアラスターが俺を再び睨む。もう上司と部下でもないんだしこんな怖い顔しなくていいと思うんだがなあ。というかあれじゃないか。ホグワーツのスタッフとしての経歴は俺が上だろ?

 ……普段なら気にせず口に出す類の軽口だが、流石にこれは表に出せねえ。本気で殺されかねん。

 

「そして、2週間と短い期間ではあるが……魔法薬学の臨時講師はピーター・ペティグリュー氏にお願いする。彼は専門の魔法薬学修士(ポーションマスター)ではないが、聖マンゴの実務を通して極めて貴重な経験を有しておる。セブルス、こちらも引き継ぎを頼む」

「え、えーと……スネイプ。よろし……ひっ!」

 

 俺は代わりの臨時講師が睨んでくる立場だが、ピーターのほうは逆に睨まれている。

 うわー。スネイプ心底嫌そうな顔してるな。ピーターも気の毒に。

 

「セブルス。頼むぞ」

「……私には悪いニュースしかないようですな。それも心底」

「いろいろ申し訳なく思っとる。教員室も破壊されたしの」

 

 そう。セブルスの部屋はバジリスクが荒らしに荒らし回った結果、今もまだ復旧中だ。

 単に壊しただけなら魔法でちょちょいのちょいだとは思うのだが、薬品棚も容赦なくバジリスクは破壊し(そしてその強力な外皮は、実に効率的に複数の強力な魔法薬のカクテルを辺りに塗り拡げ)、結果として復旧は困難を極めている。私物は隣のセプティマの部屋に置いているらしい。

 トロール騒ぎのときも派手に壊されていたし、不運なやつだ。日頃の行いが悪いに違いない。

 

「ジェームズには停職中に多少仕事を頼もうと思っとる。まあ、その分の給与はわしのポケットマネーから出そう」

「というと?」

「ちょいと出張じゃな。まあ……トムが動き出すのにあわせてのスポンサー集めというとこじゃな」

「ああ、そりゃそうか。省の予算なんかアテにできねえもんな」

 

 ホグワーツの予算は省から降りてくる予算の他、寄付とホグワーツそのものが稼ぎ出す金で賄われており、近年はどんどん後者の割合が大きくなっている。

 

「9月の半ばになると思う。詳細は日が近くなったら改めて伝えよう」

「ほいほい、了解」

 

 まあ、しばらく暇になったから出張でもなんでも予定は空けられるだろう。

 なんか頼まれてたような気もするが、まあ平日暇になったし、どうにかなるだろう。

 一番の問題はリリーになんて伝えるかだ。うーむ……たった2ヶ月だ。黙っとけばバレないだろう。これで行くか。

 

「ジェームズ」

「なんですか、校長?」

「君は自分の息子さんも闇の魔術に対する防衛術(DADA)を受けてることを忘れとると思うぞ」

「なんで俺の考えてることがわかったんですか!?」

「馬鹿め。儂から見ても丸見えだ」

 

 マスター開心術コンビめ。開心術なしで開心できるとは。

 

 

 ―――

 

 手に入れたばっかりのオンボロバスを乗り回し、俺たちは闇夜に紛れてダイアゴン横丁の裏手に来ている。省がゴブリンどもを銀行業務から半ば追いやろうとしてるってんで、日中大騒ぎしているゴブリンどもも流石に深夜となれば静かだ。

 

「けっ。満月でもない日にも働かすとは。話が違うぜ?」

「しかしフェンリル、君にとっても悪い話じゃないだろう。なにせ狙いは……グリンゴッツだ」

「それを言われると弱いんだよなあ。箔付けの相手としては最上級だ」

 

 コーバンから仕事の依頼と聞いて、結局いつものお利口さんな仕事のときは締め上げようと思ったが……まあ、渋々受けることにした。

 グリンゴッツ襲撃となれば、金だけじゃなく俺たちの名を轟かせ、イギリス中の魔法使いに恐怖を刻み込める。

 

「ゴブリンは頭取以外は好きに殺していい」

「んな事言われても、見分けなんか付くかよ」

「……わかった。好きにやれ。生き残った中で一番偉いやつを説得するとしよう」

「説得ぅ? 俺の前でんなエクスキューズ使う必要ねえだろ。拷問って言えよ」

「拷問などするものか。もっとスマートな方法がある」

「ああ。アッチの方か。俺は好きじゃねえんだよな、確実じゃねえから。まあ、お前らのやり方にまで口は出さねえ。好きにやんな」

「そうさせてもらう」

 

 話はまとまった。

 あとはシンプル。中に入って殺して奪うだけだ。

 

「お前ら、ここがグリンゴッツだ。使ったことあるか? え?」

「いえ、ありません!」

「リッポール。お前はそうだろうな。小さい頃に狼人間になって、それからずっとまともな生活なんて送れなかった。だがなあ、明日からはそういうまともな連中は皆、お前を羨むことになる。金は唸るほどあるはずだ。好きに奪え!」

 

 まあ、奥の金庫まで手を付けれるわけもねえけどな。せいぜい入り口付近にある業務に使うための金貨がせいぜいだろう。

 どこまで行けるかは……こいつらに身を持って証明してもらえばいい。

 

「そんじゃ、行くぜ! アクセル踏め!」

「ちょ、ちょっと待てフェンリル! このまま行くのか!?」

「黙ってろ、コーバン! 行け! 加速しろ!」

 

 俺の合図で運転手は思いっきりバスを加速させる。

 道を切り開く移動用の魔法はオフ。

 すると当然……グリンゴッツの外壁にぶち当たる。

 

「ちっ。流石グリンゴッツ、物理エネルギーだけじゃなんともなんねえか。だがお前ら、表面の層はぶち抜けたぞ! 吹っ飛ばすぜ!」

 

 警備が厳重な施設の壁は一般的に対魔法と対物理の多重層のような構造になっている。事前に俺直々に調べた結果(というか、数秘術なんて扱える学のある狼人間なんて俺ぐらいだから仕方ねえんだが)、もっとも外側の層は破砕呪文(ボンバーダ)でもビクともしねえ強固なものになっていた。

 しょうがねえなあ、と思いながら半日考えた手がこれだ。あとは人海戦術。乗り込んでる連中で魔法をひたすらぶっ放し、穴をできる限り大きくしていく。

 手間はかかるし、間違いなく防犯の魅了だのなんだのはかかってるが、それを聞きつけて警備のゴブリンが来たらぶっ殺す。わかりやすいだろ?

 

「おら、コーバン。てめえも手伝え」

「ひっ! わ、私は顔を見られてはいけない事情が……」

「見たゴブリンは皆殺しにすりゃいいだろ」

 

 渋々といった感じでコーバンは杖を振ると、穴が広がっていく。

 さすがまともな魔法使いだ。学もねえし使ってる杖は盗品の手下どもより何倍も効率がいい。

 もっとコキ使いてえなあ、こいつ。

 

「おっ、来たぞ。ゴブリンだ。おいコーバン、顔見られてるぞ? いいのか?」

「フェンリル! やつを殺してくれ!」

「人頼みかよ。まあ初回サービスぐらいはしてやるか」

 

 かなり大きくなった穴に腕を突っ込んで……一気に腕を振って外壁を吹き飛ばす。

 そのまま詰め寄って、明かりをつけようとしたゴブリンを素手で縊り殺す。

 

「そら、いつもの流れだ! お前らなだれ込め!」

「ご、強盗だ! 警備システムを……」

「おっ、コーバン。お前が言ってるお偉いさんってあいつじゃねえのか?」

「……まあ。妥協も大事か。副頭取でも悪くない。インペリオ、服従せよ

 

 コーバンはどうやら目的を達したらしい。とはいえ、ここで帰してそのまま見捨てられると困るしな。もうちょい連れてくか。

 

「うおっし。じゃあ頭取がどこか教えてくれよ」

「はい……すでに海外に逃げています。手段と目的地は私にも知らせていません」

「だとよ。どうする?」

「やむを得んな。こいつを臨時のトップに仕立て上げて、そいつは敵前逃亡しただのなんだの糾弾させよう。元より手筈としては似たようなものだ」

「そうか。となるともうちょい荒らしておいたほうが説得力は増すってもんだ。手伝えよ」

「ああ」

 

 すでに入り口は制圧。そのまま周辺もほぼ抑えている。万事順調……かというとそうでもない。欲をかいた手下どもが何人かそのまま奥に行き、帰ってこない。トロッコで下るトンネルの奥からは悲鳴だけが聞こえてくる。嫌だねえ。グリンゴッツの警備は伊達じゃねえってか。

 使えねえ手下どもじゃなく俺とコーバンが行けばもうちょい奥まで行けそうではあるが、まあそこまでするこたねえだろ。どうせ金はたんまり貰える予定だしな。

 となると、もう一つの目的だけ達すればいい。

 

「さあ、もうひと暴れするぞ! ゴブリンども、怖い怖いグレイバックの襲撃だ! ブルブル震えてな、今殺しに行くぜ!」

 

 明日の朝刊の一面は俺たちが貰えるだろう。

 俺の名で全ての魔法使いが震え上がるようにする。その一歩だ。

 

 会議室のような部屋をぶち破ると、机の奥に隠れていたゴブリンが奴ら独自の杖なし魔法で抵抗してくる。

 こいつらゴブリンは単なるヒトの魔法使いと戦った経験はあるし、訓練も積んでいる。今はある種の協力関係ではあるが、こいつらがヒトを一切信じていないのは一目瞭然だ。

 

 だがこいつは狼人間のタフさを侮り、大した威力もねえ魔法を過信した。

 ゴブリンの頭を掴み、そのまま壁に叩きつける。叩きつける。強く強く、叩きつける。

 ゴブリンの小さい耳は引きちぎれ、額は裂け、無色の壁は真っ赤に染まった。そのまま窓から放り投げる。死んでても死んでなくてもいい。いや、生きてるほうがいいかな? 俺たちが如何に恐ろしい存在か触れ回ってくれるだろう。

 恐怖だ。グレイバックという名が恐怖を意味するまで深く、強く刻まねば。

 

 ある意味でゴブリンは俺ら、狼人間と同じ存在なのかもしれない、とは思う。

 ヒトどもに権利を奪われ、踏みにじられた連中。

 とはいえ、こいつらが間違えたのは――あるいは、1752年(ゴブリンの反乱)に諦めてしまったことは――踏みにじられたら、踏みにじり返さないといけねえ、ってことだ。

 いくらでも恨んでもらおう。いくらでも憎んでもらおう。

 

 どうせ慣れている。

 

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