「スリザリン!」
私の頭の上に乗った帽子さんはすぐにそう宣言した。
やった! ダフおねえちゃんと同じ寮だ!
小走りで緑色のローブが固まっているテーブルに近づく。
「おねえちゃん、よろしく!」
「よろしくじゃないわよ全く。お父さまにどうやってワガママ通させたの?」
「なんの話かなー? 私はダフおねえちゃんの一つ下のかわいい妹ですけど?」
ダフおねえちゃんは少し嫌な顔をしてみせる。まあ、結構ギリギリまで私が1歳ごまかして入学するとダフおねえちゃんは知らされていなかったから拗ねているのだろう。
ほんとは私が同じ寮にきて嬉しいくせに。素直じゃないんだからー。
別に私も隠していたわけじゃなくて、私に対してもお父さまが教えてくださったのがかなり遅かったからだからなんだけど……うそ。驚かせたほうが面白いと思って結構隠してた。
「それで、例のハリーくんってどれ……もがもが」
ダフおねえちゃんに手で口をふさがれる。
「急になにを言い出すのよ!」
「えー。気になるじゃない。休みの間うちでおねえちゃんはその話ばっかりで……」
「アストリア。そろそろ黙りなさい。あとその話ばっかりなんてことないから」
「ちぇー。後でトレーシーさんに聞こうっと」
スリザリンの席に座ると他の先輩がたが「可愛い!」「グリーングラスさんの妹さんね!」と話しかけてくれた。
むふふ。可愛いと言われるのはやっぱり嬉しい。目立つのっていいよね!
特例で1年早く入学するということで、授業に追いつけない……なんてことはないようにパパや家庭教師さんに相当叩き込まれた。順当に行けば『優等生のアストリア・グリーングラス』として大量に寮点をもたらせるだろう。そうなればわたしの可愛さも相まって一年を通してちやほやされることだろう。そうに違いない! 今から楽しみだ。
そんなことを考えながら周りのスリザリン生達に対してはにかみながら挨拶をしてみせる。最初が肝心だ、ここで可憐で純真な少女だと印象づけてしまえば、イタズラしても私の仕業だとバレにくい。バレないからその印象は強まる。印象が強まればもはや私の欠点に気付く人は居なくなる。完璧だ。
「ふうん。あれがお前の妹か、グリーングラス」
「見た目に騙されないでよ、マルフォイ。あの子かなり曲者だから」
……その完璧なプランを崩そうとしている身内がいる。許せないわね。そういえば聞いたことある、こういうときは初日に仕掛けるのが大事だと。なぜなら相手は「まさか初日から動かないだろう」と思っているからだ。よし! おねえちゃんの部屋を調べてなにか仕掛けてやろう。確かトレーシーさんと同室って言ってたわね。
そうやってニコニコ笑いながら内心ではおねえちゃんへの企みについて考えていたところ、組分けの儀式は終わっていた。
キラキラとした目のダンブルドア校長が拍手を終えて立ち上がる。
「おめでとう! 新入生の諸君。歓迎会をすぐに始めたいところじゃが、今年はいくつか伝えねばならぬことがある。1年生にとっては退屈な話じゃから、こっそりテーブルの上のビクトリア・サンドイッチをつまんでいてもよろしい」
ダンブルドア校長がそう言うので、遠慮なくテーブルに手を伸ばそうとすると……おねえちゃんに手をはたかれた。肩をすくめてみせると、ダンブルドア校長がこちらを見てにっこりと笑いかけたように見えた。さすがにここまで見えてないよね?
「新しいスタッフの紹介じゃ。聖マンゴ魔法疾患傷害病院で
「ピーター・ペティグリューです。皆さん、よろしく……」
あまり覇気のない挨拶に呼応するかのように拍手もまばらだった。スリザリンのテーブルではヒソヒソ声がそこかしこで生じており、「ペテュグリュー家? 聞いたことある?」「私のおばが親戚だったかも……」「スネイプ教授はどうしたの?」「心配ね……」などの声が漏れ聞こえてきた。
「続いて、新設されたセキュリティ・スーパーバイザーとして、長年魔法省の闇祓い局で局長を務めてきたアラスター・ムーディ氏を招聘した。アラスターには今後、ホグワーツ内の警備を統括管理にあたってもらう他、
「……」
アラスター・ムーディさんは挨拶のために口を開くことはなかったが、目立つ義眼で私達をギロリと睨み回す。
今度は、先程の比ではない大きさでざわめきが起きた。どうやらアラスター・ムーディというのはなかなか名前が知れている人らしい。「マジかよ! マッドアイがホグワーツに!?」「どこかに隠れてるのかと思ったら
「最後に、新しい魔法生物飼育学の教授として、魔法省の推薦を受けたレギュラス・ブラック氏」
「初めまして。魔法生物飼育学を選択している生徒の皆さん、よろしくお願いいたします」
他のテーブルからは拍手が多少起きた程度だが……スリザリンのテーブルからはどよめきが大きく広がっていった。そりゃそうだ、ブラック家といえば名門も名門。びっくりするよね。
「以上、校長のながったらしい話は終わりじゃ。さあ皆のもの、かっこめ!」
校長がそう言って杖を振ると、わたし達の目の前のテーブルに豪勢な料理が一気に出現した。わあ、すごい精緻な出現呪文! さすがダンブルドア校長だ!
「はじめまして、ベイジー家のワンスだ。よろしく」
「ガルシア家のヌバイアよ。初めまして」
「こちらこそよろしくね、同じ部屋になるかもしれないしね。グリーングラス家のアストリアです。早速なんだけど、私の姉の部屋にイタズラしにいかない?」
「あー……えーっと、そういうグリフィンドールみたいなことはするべきじゃないんじゃないかな」
「……もちろん冗談よ、冗談。あなたはご兄弟がいたりするの?」
ちっ。こいつはつまらんやつだ。仕方がないのでさっと話題を変える。
入学してそうそうグリフィンドールだのなんだの言うってことは、兄弟からなにかしら影響を受けているに違いない。
「ああ、兄がいる」
「なるほどね。ヌバイアさんは?」
「私はいないわ。だからその、グリフィンドールみたいなとかはわからないんだけど……しっかり授業を頑張って、スリザリン寮を支えたいわね」
この子は真面目ちゃんっぽい感じかな。悪い人ではなさそうだけど、つまんないなー。
「よろしくね。スリザリン寮の女子は基本的に二人部屋らしいよ、同じ部屋になれたらいいね!」
「そう言ってくれると嬉しいわ、ありがとう」
こうして同じテーブルの1年生でおしゃべりしているうちに歓迎会もいつのまにか終わりの時間を迎えたらしい。
卓上のデザートは消えてダンブルドア校長が立ち上がり、校歌の斉唱が始まる。
そんな急に校歌とか言われても……と新入生のわたし達は思ったのだけど、どうも上級生も校歌の歌詞なんか覚えていない生徒がほとんどなのか、ダンブルドア校長が杖を振ると歌詞がホールに大きく映し出された。
その上歌うテンポすら自由らしい。音楽として成立してるの? これ。
とはいえ、テンポも自由で歌詞も目の前に出ているのだから間違えようがない。わたし達新入生も思い思いの形でホグワーツの校歌を歌い終わる。
全員が歌い終わると、ダンブルドア校長が涙ぐみながら(ほんと?)歓迎会の終了を合図した。
その合図とともに、各寮の上級生さんたちが立ち上がり、わたし達に移動を促す。
「知事のテレンス・ヒッグスです。さあ、皆さんスリザリン寮に行きますよ」
ホールから外に出て階段を下り、掛けられているタペストリーに頭から突っ込んで(知事の人曰く、スリザリン生なら必修レベルの隠し通路だそうだ)、廊下を歩いていくと……突然なにもない壁で上級生たちが立ち止まった。
「新入生のみんな、ここがスリザリン寮の入り口です。どの壁かわからなくなったら上を見てください」
上を見ると……なるほど、普通じゃ視界にいれないところに小さなランタンが3つぶら下がっていた。ランタンには蛇の模様があしらってある。
「この壁のとなりの区画の上部にはこの『蛇のランタン』が2つ。更に離れた区画には1つぶら下がっています。道に迷ったら上を見て、『蛇のランタン』が増えるルートを探せばたどり着けるはずでしょう。では、今から合言葉を言いますから、場所ともどもきちんと覚えておくように。
パタン! と音がして石の壁に隠れていた扉が開く。
「はいはいー、テレンス君おつかれさま。さあ、新入生は部屋割を決めるわよ」
「あれ、今年はベクトル教授がやるんですね」
「私だってやりたくないわよ! でもセブルスくんがいないから若手の私に回ってくるの! さすがに省から派遣されてきたブラック家の人に仕事は振れないし……知らない人こわいし……」
「……今更なんですけど、スネイプ教授はどうされたんです?」
「うーん……どう言ったらいいのか……セブルスくんはポッター教授と相打ちになった……?」
辺りの上級生がざわめき出す。「ポッター教授を仕留めたのはスネイプ教授らしい!」「そんな……スネイプ教授、かわいそう……」「俺達が休んでいる間に激闘があったんだな……」「正義は勝った!」
うーん。ポッター教授ってダフおねえちゃんの話してたポッターくんのお父さんよね。なんかおそろしく嫌われてる……こういう理由でわたしの口を塞いだのかしら? 禁断の恋……燃えるわね!
「なんか恐ろしく誤解されてる気がするけど……私のことじゃないからいいわね! さあ、新入生ついてきなさい、部屋を決めるわよ。早いもの勝ちよ」
ベクトル教授が先導していき、早いもの勝ちというので……とりあえず先程話したヌバイアさんの手を引きながら、空室のうち一番入り口から近いところに走り込んでみる。
「じゃあここ! ……でいいかしら、ヌバイアさん」
「え、ええ。ちょっと面食らったけどいいと思うわ。よろしくね」
そんな風に争うようにして部屋を取ったのは私ぐらい。スリザリン生には活気が足りないんじゃないかしら。
とりあえず荷物を置いて、ダフおねえちゃんの部屋を探しに行く。
今は知事の人を含めても、数えるほどしか上級生はいない。他の寮の生徒と歓談したり、あるいは上級生向けのガイダンスかなにかがあるのだろう。
つまり! バレずにイタズラするなら今がチャンス! ということだ。私はローブの裏側に『
新入生は寝るように促され、明かりが消された頃……ダフおねえちゃんの叫び声が聞こえた。くふふ。
―――
「つまんなーい」
「つまんないじゃないわよ。というか、初日に私の部屋にいたずら仕掛けたのあんたでしょ」
「そう……そうなのよダフおねえちゃん! いたずら、わたししかしないのよ!」
「なんか前のめりに自白されたわ」
そう。わたし達の世代のスリザリン生は大人しく、イタズラなんかに誰も目もくれないのだ。別にこれはスリザリン生の特性というわけではなく、上の世代には(ダフおねえちゃん曰く)とんでもない連中もいるそうだが、これは非常に困る。私の悪巧みを共有できる相手が居ないのだ。
「授業も大活躍って感じで目立てなかったし」
「そりゃ、あんたより賢い人なんていっぱいいるわよ」
「でもよりにもよってマグル生まれになんか負けたのよ! 納得いかないじゃない!」
入学式の翌日、早速授業が始まった。最初の授業はフリットウィック教授の呪文学。私は何度かの試行ののちに、素早く
フリットウィック教授のセリフは「素晴らしい! 一年生の中では2番めに早い成功です! スリザリンに5点!」だった。
続く
「くやしいいいい!」
「言ったでしょ。私の同学年にもハーマイオニー・グレンジャーさんっていうすごい人がいるんだから、マグル生まれだからって侮るなって」
「あ! その名前聞いた! 『ミス・グレンジャーの再来かもしれませんな!』『いやあ、それはまだ言いすぎでしょう』とか教授が話しているの聞いたし」
イタズラ仲間も居ないし、グリフィンドール生のマグル生まれに先を越される。思うようにいかなーい!
……ん? 待てよ。冷静に考えてみれば、別にイタズラ仲間はスリザリン生である必要はない。にっくきマグル生まれの男の子を狙うなら、それこそグリフィンドール生の協力者が居たほうがやりやすいぐらいだ。
よし! こうなったら他の寮にも手を広げて仲間を作ってやる!
「……あんた、なんか企んでるでしょ」
「ぜんぜん?」
「まったく……ちなみに、そのマグル生まれの男の子はなんて名前なの?」
「えっとね、なんだったかな……マグル生まれの人って名前が珍しいから、覚えにくいんだよね」
スリザリン生なんかは苗字は聞いたことあるような人ばっかりだから、そんなに苦労しないんだよね。確か……
「思い出した! コリン・クリービー!」
そう。休み時間はマグルの機械を抱えて走り回っている変なやつだ。