スネイプのやつは停職期間も終わり、復職したようだが……俺はまだ先。
というわけで、その間はホグワーツをうろついたりしつつ合間にダンブルドア校長の指示に従って、スポンサーをやってくれそうなところに伺っている。
……正直言って、成果は芳しくない。支援を約束してくれたのは
めげそうになるが、ダンブルドア校長は俺に失望したような気配は微塵もみせない。横にいたスネイプは「元より期待されていないからだ」と言っていたが。やかましいな、あいつは!
今日来たここは、その中でもダンブルドア校長に「ジェームズ。ここはぜひ君が行ってくれ」と直々に頼まれたところだ。なにか、嫌なことを押し付けたような気配も感じたが、おそらく気のせいだろう。そうに違いない。
「へえー……あのダンブルドア先生が無心のためによこしたのがあんたみたいな若造なのね。本人が来るのがスジってもんじゃないの?」
「いや、確かにおっしゃる通りなんだがダンブルドア校長はお忙しくて……」
「嘘ね。どうせ私のいないところでこう言ってるんでしょう……『ババア編集長マートル』だの『惨め屋・うめき屋・ふさぎ屋マートル』だの!」
「言ってねえよ!」
ここは『週刊魔女』の編集部。
さすがダンブルドア校長がアポイントメントを取っただけあって、めんどうな手間を省いて直接編集長のマートル・ウォーレンさんと面会させてもらった。
が……とんでもない曲者の婆さん……お姉さんだな、こいつは。
「だいたいあんたみたいなのを寄越したのも気に食わないのよね……あんたアレでしょ、学生時代は人気者で、スポーツで活躍して、そのくせ裏で気に入らない別の寮の人間をイジメてたりしたクチでしょ」
「ぐっ……」
的確に俺の古傷をえぐってくる。いや、言い訳させてもらうと当時のスリザリンの連中は決していじめられっ子なんていうような可愛げのある存在ではなく、先制攻撃も辞さない抵抗を見せてくる連中だったのだが……それでもこちらに落ち度がなかったとは到底言えない。怯んだ様子を見せると、一転して面白そうな表情を見せて俺の背後に回り込んで肩にもたれかかってきた。絶妙に素早い。
「あら? 面白い反応ね。あの手のことを言うとだいたい自覚はないけど無意識で認識はしてるから怒って誤魔化そうとしてくるか、『学生時代のことだ』とか言いだすのが常なのに。あんたは結構意外な反応ね」
「うるせえ。日々悩まされてる身なんだよ、こちとら」
「いいわねいいわね! 面白くなってきたわ! なになに!? 同僚か上司にそういう相手がいるとか? ちょっと聞かせなさいよ、ねえねえ!」
「がああああ! うるせえ!」
メモを取り出して俺の耳元でぶつぶつと呪詛のように聞き取りを始めてきた。くそ、記者ってのはこれだから。
とはいえおだてて乗せなきゃいけねえスポンサー候補だ。振り払うわけにもいけねえ……と思っていたらずけずけと俺の懐にまで手を突っ込んでダンブルドア校長からもらったリストを目の前で悪びれる様子もなく目を通し始めた。
「おい! 勝手に読むなよ!」
「いいじゃない、減るもんじゃないし。むしろ私が目を通せば増やすこともできるわ」
「増えたら困るんだよ!」
「わたしは困らないわ、それが飯の種だもの……なになに、あー。これだけ行って返事貰えたのは一箇所だけ? ダッサいわねえ。仕事できてんの? あんた」
ズケズケと踏み入ってきてザクザクと人の心を刺していく。
わかったぞ! こいつ、ヤなやつだな!
「だいたいねえ、うちら営利企業よ? 手紙だけ持って顔だして頭下げるぐらいで金出してもらおうって見通し甘すぎるんじゃない? そりゃ、協力するのもあの半巨人のとこだけになるわよ」
「レモンキャンデーならあるが……」
「いつのよそれ。絶対ダンブルドア先生から貰ったやつでしょ」
ポケットの底に入れたままのレモンキャンデーを渡そうとすると引かれた。
うん。まあこれは俺が悪い。
「というか、ハグリッドのことを知ってるのか?」
「在学期間かぶってるのよ。別の寮で別の学年だったけど、まああいつはグリフィンドールの有名人だったし。一度チェイサーとして試合に出たのはケッサクだったわねえ! 誰もあいつからクアッフルを奪えないけど、まともなパスも出せないから試合が膠着して。そのうち乗ってる箒がへし折れてたわね」
楽しそうにホグワーツの思い出を話す。
とはいえ、ダンブルドア先生に対して恩を感じている様子だったハグリッドと違って、ダンブルドア校長が恩師の一人なのは間違いなさそうなものの、強く借りを感じている様子ではなさそうだ。こりゃ、ここも期待薄かな……
「まあ、いろいろ興味深い話は聞けましたが……お忙しい様子なら仕方ない。また出直して」
「なに勝手に諦めてんの? 協力しないなんて言ってないでしょ?」
こんだけ俺の手はずが悪いだのなんだの罵ってきたくせに、リストにサラサラと署名をしこちらに返してきた。え? どういうこと?
「え? どういうこと?」
「どんだけ困惑してんの? だから最初から言ってんでしょ、やり方が悪いっての」
「つっても、対価もなしにカネだけ出せなんて、誠意をこめて頭を下げるしか……」
「それが間違ってるつってんのよ。あんたがやるべきは脅迫よ脅迫」
「脅迫!?」
カネをせびるために脅迫。
本当にやったらどこに出しても恥ずかしくない犯罪者だ。
「リスト見ればわかるけど、愛しきリドル先輩が魔法大臣になった暁には漏れなく潰される所リストでしょ、これ。アンタみたいなバカが来たなら仕方ないとこもあるけど、断ったところは大バカね」
「そ、そうなの?」
初耳だ。しかし、納得できる説明でもある。
ダンブルドア校長、秘密主義だからなあ。ぜんぜん教えてくれねえんだよなあ。
「というか、リドルの話をもう嗅ぎつけてんのか」
「当たり前でしょ。あんたもしかして『週刊魔女』のことバカにしてる? しょせん預言者の後追いだって陰でぐちぐちと……」
「わーっ! 言ってねえって! 俺が悪かった」
やりづらいな、どうも。
ダンブルドア校長が俺に押し付けたのも理解できる。
「あの優等生ちゃんにとっちゃウチみたいなのは邪魔以外のなにものでもないだろうからねえ。潰すか、骨抜きになるか。どっちにしろわたしはクビね。物理的にクビなくなっちゃって、あんたんとこの職場にゴーストとして居座ることになるかも」
「なんでだよ! 取り憑くならせめてこの建物にしとけよ!」
「とはいえタダで協力するのもシャクねえ。なんかないの、あんたが出せるもの」
「つってもなあ……」
そう言われても、カネがないからここに来てるわけで。
スクープのネタ? なんかチクりたいようなことあったかな……
考えながら周囲を見渡すと、一枚のポスターが目に入った。『
「あー。ラジオか、『週刊魔女』もなんかやんのか?」
「
「それだったら……なんとかなるかもしれん」
「ふうん? というと?」
「うちの生徒で校内放送にラジオを使ってるやつがいてな、まあ非公式の活動なんだが」
「あらあらあら。そりゃおあつらえ向きね。借りれる? 借りれるわよね借りるわ」
「ちょ、待ってくれ! 俺のでもホグワーツの持ち物でもないからそういう空手形は切れねえって!」
「生徒の持ち物ってんなら、生徒数人丸め込めばいんでしょ? わたしが行ってもいいけどちょっと忙しいし、ホグワーツは嫌な思い出ばっかりだからあんまり行きたくないわねえ。とはいえ、ウチってフリーライターを引っ張り込んで成長したところだから取材以外に能があるやつがほとんどいないのよ。器用にいろいろこなせるのは数えるほどで困っちゃうのよねえ。そうよね、リータちゃん」
社員に向けて声をかけたようだが……返事はない。
ここにいないのだろうか?
「リータちゃん?」
「……」
「リータちゃぁぁぁあん?」
ガタン、と編集長からもっとも遠い席でメガネの女性が立ちあがった。
「この……その気色悪い猫なで声をやめろざんす! クソババア!」
「あらあら。聞こえないフリはよくないわよ、でも陰口じゃなくて真正面から言うのはわたしやっぱリータちゃん好きねええ!」
「あああああ! 脳が破壊される!」
リータと呼ばれた女性は頭を抑えている。リータ……聞いたことある名前だな。確か、リータ・スキーター。『週刊魔女』の看板記者だったはずだ。
「というわけで、どうせ聞いてたでしょ? ホグワーツにちょっと行ってラジオ部門スタートさせておいて。よろしく」
「編集長、ご存知の通りわたくし新しい取材企画を立ち上げたばっかりざんす。これを放棄してラジオ部門も携わるなんて一記者としてできないざんす!」
「放棄して、なんて言ってないけれど?」
「……並行してやれと言ってるざんす?」
「そうざんす」
ニコリとマートル編集長が笑うと、リータ・スキーターは顔を真っ赤にして、こちらにドシドシと足音を立てて……上司に猛抗議をするかとも思ったが、俺の腕を掴んで、そのまま足早に扉へと向かった。
「ああなったらあのクソババアにはなにを言っても無駄ざんす。それなら急いだほうがマシざんす! 時はガリオンなり、時間が足りないざんす!」
「聞き分けが良くていい子ねえ。いってらっしゃーい」
「お、おう……マートル編集長! ご協力感謝します!」
「いえいえ、どういたしまして」
─────
「……というのがここまでの経緯だ。悪いな、お前らに話し通さないままなし崩しになっちまって」
「いいってことよ、ポッター先生。面白そうだし」
「リーにも後で話さないとな」
秘密の放送室に入り込んだ俺は二人に頭を下げる。
そうやって俺は義理を通しているというのに……フィリウスもセプティマも目をキラキラさせながらウィーズリーの双子が用意した機材をいじくり回している。
「ここをこうすれば……出力20倍はいけますぞ!」
「イギリス全土と言わず大西洋覆うぐらいまでいっちゃおうかしら!」
「ふむ……確かに人体への影響を考えなければいけそうですな」
「やっちゃおうかしら? 試しにやってみるだけよ、試しにね」
「フィリウス! そこは止めてくれよ!」
「ああ、すみませんジェームズ。あまりに興味深い課題だったもので」
フリットウィック教授は温和で、生徒のことを熱心に考えているからこういう側面はなかなか(レイブンクローの外の)生徒は見ることがないけど、結局のところ彼もレイブンクロー生だ。
ストッパーなしで放置してもひどいことを巻き起こすタイプのスタッフでないが、横に
「まあ、技術的な部分は先生方が解決してくれるなら」
「俺達としてはやることは変わらないしな」
「とはいえ、全国放送になるからな。まあ、どれだけ聞かれているかとかが目に見えるわけではないからお前らが意識するのは難しいだろうが……」
「ジェームズ! 視聴率を測定できる機能を実装できましたぞ!」
「……あー、意識できるようになったみたいだ」
「血眼で数字をうなされながら見つめる市場競争の世界にようこそざんす」
セプティマとフィリウスがハイタッチしている。
この部屋に押し入って数時間だが、どんどん機能が積み上げられている。もしや、もう
「設備は揃ったみたいだね、おねえちゃん!」
「アストリア。あんたなんかやる気なの?」
「せっかく番組枠貰ったんだから、なんかやらないと! 例えば全世界に向けてラブレターを読み上げるとか……」
「あ・ん・た・は! 次から次へと余計なことを思いつくわね!」
「……でも、いい線いってると思うざんすね。マグルのスポーツニュース、およびホグワーツ内のスポーツニュースは間違いなく需要があるからそのまま使うとして、ただ学生がダベってるだけの現行の番組じゃ客はとれんざんす。その点、現役学生の恋愛ネタってのは悪くないざんす」
「ほら! 週刊魔女の記者さんもこう言ってる!」
「む。待て待て。今この場にいないリーの名誉は守らないとな」
「学生がダベってるだけとは失礼な」
「こうなったら……俺達と勝負だ!」
ノリノリのウィーズリーの双子がこちらに向かってビシッ、と指をつきつけてくる。
丁重にお断りしようとした私を遮って、アストリアがドン、と胸をたたいた。
「よろしい! 受けて立つわ! 曜日を分けての視聴率勝負でどうかしら!」
「妥当なところだろう」
「とはいえ、そうなるとパーソナリティは一人じゃ足りないぞ?」
「入学して一ヶ月の君が人を揃えられるかな?」
問い詰められると、意外にもアストリアは不敵に笑った。
「フフフ……大丈夫。わたしにはいい考えがあるわ。この勝負、もらったわ!」
そう言い放って笑い出すと、ウィーズリーの双子も同じように笑いはじめ、去っていった。
「ちょっと。いい考えってなに?」
「確かにわたしは入学して一ヶ月。人脈も乏しい……でもね!」
「でも?」
「既に一年ホグワーツで暮らしているおねえちゃんなら! なんとかできるはず!」
そう言ってアストリアは私に丸投げを宣告した。
頭が痛い。