ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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55.This Charming Man(1)

「さあ今日のホグワーツ・ニュースのトップを飾るのはもちろんこちら! クィディッチ寮対抗戦でグリフィンドールがスリザリンをぺしゃんこにした話だぜ!」

 

 ウィーズリーの双子の『キング・ジェームズ』は週末の夜に放送されている。

 主な理由は、もっとも注目を集めるホグワーツの寮対抗クィディッチもまた、週末に行われるからだ。率直に言って、彼らが改めて伝えなくてもクィディッチに興味のある人間はとっくに結果について知っていると思うけれど、どうもそういう話ではないらしい。

 わたしの同級生、スリザリン1年生のワンス・ベイジーは「贔屓のチームが勝ったニュースは何度だって聞きたいし、負けたニュースももしかしたら勝ってるかもしれない、と願いながら聞くんだ」と言っていた。何度スポーツニュースを聞いても結果は変わらないと思うけどな……

 

「まずは……おっと、今日は抗議のお便りが大量に来てるな。ぜんぶスリザリン生からかな? どれどれ……『俺は観客席にいたから、ポッターが体当たりするのがしっかり見えた、卑劣な反則だ!』はっはっは。負け惜しみが上手いな。むしろ言うべきは『うちのヘボシーカーが肘打ちしたようでごめんなさい』だろ?」

 

 むう。クィディッチにそんな興味があるわけではないけど、そこまで言われるとやっぱり嫌な気持ちになるなあ。マルフォイさんはなにかと面倒をみてくれるし。

 

「審判の判定は絶対なんだから、こんなことをグチグチ言うのはやめて負けを認めるべきだぜ! ライバルを下した今年のグリフィンドールは強い! 今日はそんなグリフィンドールチームのレギュラーからゲストとしてフレッド・ウィーズリーをお迎えしているぜ」

「まあ、いっつも裏にいるけどな」

「もちろん俺もいるぜ。俺もそっち行っていいか?」

「もちろんいいともジョージ。裏方のスタッフがゼロ人になるぐらい些細なことだ……うわ、ホントに来るやつがいるか?」

 

 ゲストとして迎えた、というかフレッドさんはスタッフだからそのまますぐ出せて便利だね。

 いつもは楽しく眺めてられるこのやり取りも、今回の二人はいつものノリのままスリザリン生をこき下ろすほうに回ってて……今日はあんまり愉快とはいえないなあ。

 とはいえ、このあとの時間帯はわたしとダフおねえちゃんの番組の時間帯だ。一応中の状況ぐらいは把握し続けないといけない。

 どうしようかな、と考え込んでいたところでダフおねえちゃんが早足でこちらに訪れた。珍しく焦った様子だ。

 

「パーキンソンが出演をキャンセルしたわ。『グリフィンドールの連中とつるみたくない』って」

「えっ! じゃあ次の番組のパーソナリティいないじゃん!」

 

 わたしたちが携わっている、次の番組は「ラブ・トゥデイ」というタイトルのもの。ターゲットはハイティーン~20代前半の女性で、収録放送メインで扱っているわたしたちとしては数少ない生放送形式の番組だ。

 リスナーからのふくろう便による相談に答える形の番組でホグワーツ生でも1~3年生という下級生にパーソナリティを担当してもらっている。これによって、初々しさを感じてもらう……? 正直よくわかんないや。ダフおねえちゃんもあんまりわかってる様子じゃないし。

 リータさんのアドバイスを受けて始めた番組で(全体として好調ではあったものの、10代の支持はウィーズリーの双子のほうに偏っていた。なんとかシェアを奪えないかと相談した結果出てきたのがこれだ)、とりあえず手探りながら聴取率(すうじ)は好調を維持している。

 

「今から急に頼める人っているかしら?」

 

 ダフおねえちゃんは心底困った様子でわたしにそう問いかけたけれど、なかなか難しい。

 

「うーん……正直言うとスリザリン生はみんなダメかも。パーキンソンさんみたいに怒ってる人、少なくないし」

「個人としては怒ってなくても、全体として今はそういう空気だから請けづらいわよね……私達は表に出ないからなんとかやれるけど」

 

 いっそお姉ちゃんがやれば……いかん。ダメだ。いまダフおねえちゃんに恋愛相談をやらせるよう勧めるなんて地雷原にダイブしてアザラシのように転がって移動するようなものだ。

 

 わたし? 恋愛なんてぜんぜんわかんないよ! いえーい!

 そうやって考え込んでいたところ、一人思い当たる人がいた。

 

「あ、そうだ! スリザリン生以外から探せばいいのか!」

「アテがあるの? 喋れる人なのかしら?」

「喋りは間違いなく達者だよ。あ、でもどうだろう。恋愛相談となると、どっかで固まる可能性もそこそこある」

「固まる……? まあいいわ、今回は多少とちってもまあよしとしましょう。連れてきてくれる?」

 

 ダフおねえちゃんの了承を得たので、グリフィンドール塔へと駆け出す。まだ起きてるかなー。まあ寝てたら起こしてもらおう。

 

 

「次のお便りです。ペンネーム『恋する殺人ウサギ』さん。『どうして人を好きになるとこんなにも苦しいのでしょうか? 苦しい原因を消したいです』とのこと。そうよね。苦しいわよね。でも消せばいいってもんじゃないと思うわ。確かに苦しいんだけれど、それを抱えていることで周りの出来事が違ってみえるようになると思うの。例えばなんてことはなく通り過ぎていた湖畔も『あの人と一緒にここで巨大イカを眺めたいなあ』って印象が大きくなっていって……」

「代打なのにノリノリね……」

「うーん、まさかジニーがここまでばっちしハマるとは……」

 

 放送席に座ってリスナーからの手紙を読んでいるのは、わたしの友達のジニー・ウィーズリー。

 急なお願いにも二つ返事で引き受けてくれたジニーだけど……思った以上にハマってる。レギュラー起用してもいいかもしれない。

 うーん……でもなあ。ジニーの恋愛となるといろいろややこしいからなあ。ダフおねえちゃんが冷静でいられない可能性も考慮して呼ぶ前に一応聞いてみたけど「別に。ハリーくんを誘うのは自由だし」と言っていた。ジニーに対して怒ってるとか嫉妬してるとかそういう感じではないっぽい(表面上かもしれないけれど)。

 まあ動揺してるかしてないかでいうと「それをハリーくんが受けるのは……受けるのは……自由……だと思うし、そんなに重く考えずに受けたはずだし……」と続けたのでめちゃくちゃ動揺はしていた。

 

「はい、では名残惜しいですがここまでです。また来週!」

 

 そうこうしているうちに番組は終わりの時間を迎えた。

 カンペを出してそれを伝えると、ジニーはしっかりとした口調で番組を締めた。わたしとダフおねえちゃんで拍手する。

 

「ジニー、おつかれさまー!」

「ありがとう、アストリア。こちらこそおつかれさま」

「遅い時間に申し訳ないんだけど、もうちょっとつきあってもらってもいい? あ、ダフおねえちゃんは後片付けよろしく!」

 

 抗議の声も聞かずジニーを部屋の外、廊下の曲がった角まで連れ出す。人はいないはずだ。

 

「今日はありがとう! 完璧なパーソナリティだったわ!」

「どういたしまして。それで? なにかあるの? わざわざこんなとこまで連れ出して」

「ラジオとはぜんぜん別件で、ジニーとしては断ってもらってもいいんだけど……」

「なに? あなたにしては珍しく迂遠なお願いするわね。いつも有無を言わさず引っ張り込むのに」

 

 だっていつもは私が楽しいと思うことだし……私が楽しいのは正義だし……

 今回は違う。正直いっておせっかいだ。でもまあ、ジニーも好きだけどダフおねえちゃんも好きなのだ。身内を優先してなにが悪い! 開き直っちゃえ!

 

「こんどのハロウィンの日の土曜日ってホグズミード行ける日じゃない? もう誰か誘った?」

「なに? 一緒に行きたいの? 申し訳ないけど、前に言ったグリフィンドールの先輩を誘おうと思ってるの。素敵な人なのよ、迷子で私が心細いときに颯爽と現れて、私を寮まで送ってくれたの……きっと運命に違いないわ」

 

 どうやらまたポッターさんを誘うようだ。とはいえ、まだ誘ってはいないらしい。

 

「ジニーのその話は何度も聞いたから。えっとそれでさ、それって2年のポッターさんだよね?」

「あら、耳が早いわね。そうよ」

「えーっと、ちょっとアレな頼みだとは重々わかってるんだけど……今回は誘わないって、ダメ?」

「…………嫌だけど」

 

 かなり長い沈黙のあとに、ボソっと拒否の意を示した。まあそうだよね。私も同じこと言われたらいやだと思うし。

 

「そこをなんとか」

「なんでアストリアにそんなこと命じられなきゃなんないのよ」

「えーっとね。私のおねえちゃんが好きな人もポッターさんだから。その、ジニーが誘いに行ったのって夜にジニーを連れ回した私のアシストみたいなもんだし、ちょっとお姉ちゃんに申し訳ないかなって……」

「前に言ってたのってお姉さんの相手の人って、ハリーさんだったの!?」

 

 ダフおねえちゃんの話は鉄板レベルに面白いので脚色しまくって事あるごとに流してるけれど、これもその一つだ。

 今年の夏にダフおねえちゃんは同級生の男の子と火を吹くドラゴンバスに乗って世界中を回ったことになっている。

 

「前回は何? 誘ってなかったの?」

「うん。ダフおねえちゃん、そういうところでズボラだから」

「じゃあ今回は? 私に先んじて誘うとかそういう気概はないの?」

「うん。ダフおねえちゃん、そういうところでヘタレだから」

 

 後ろからくしゃみが聞こえた。ダフおねえちゃんの無駄に鋭い勘が働いているようだ。それをポッターさんに使ってよ。もー。

 ジニーはすごく長い溜息をついた。義理とか友情とかいろんなものを考えているのだろう。あんたらの都合なんて知らないわよ! とか吠えないあたりグリフィンドールって感じだね。割と理不尽なお願いなんだけど。

 

「……明日、明日は誘わないでおいてあげるわよ。その間になんとかするのを試みるなら好きにすればいいと思うわ。だいたい、向こうからはイエス貰ったわけじゃないんでしょ? チャンスぐらいあげるほうがフェアだと思うしっ」

「あーりーがーとー」

「こら! 抱きつくな!」

 

 まったく。ああいうおねえちゃんを持つと世話が焼けるなあ。

 

 

 ―――

 

 

「うーん……」

 

 穏やかなまどろみ。騒がしい声もなく静かな空間だ。

 グリフィンドール寮で寝起きしていると深夜でも早朝でもひっきりなしになんらかの騒音がするから、こんな静かなところでまどろんでいられるのは久しぶりな気がする。

 

 うん? となるとここはどこだろう。目をうっすらとあけ、頭を揺らそうとすると、若干首が痛む。

 ……そうだ! クィディッチの試合の最後に無理に僕が体を入れにいって、ドラコの肘に頭をぶつけたんだった!

 となると、ここは医務室だろう。また気を失っちゃってたのかな。

 右腕の側からほのかに人のぬくもりを感じる。誰かが僕をつきっきりで見てくれていたんだろう。ドキドキしながらゆっくりと、痛まないように首を動かすと――

 

 若干ながら無精ひげを生やしたおっさんがいた。

 

「うわあ!」

「うわあ! ってハリー、起きたのか!」

「なんだ……パパか……」

「はっはっは、いくら大人でもそうやって露骨にがっかりされると傷つくんだぞ、ハリー」

 

 ベッドの横に腰掛けていたのは僕のパパだった。

 見ててくれたのは嬉しいけど……まあ、今暇そうだからなあ。

 時計を見ると9時半を指し示している。

 

「僕ってどれぐらい寝てた?」

「半日だな。今は翌日の朝だ。おーいポピー! ハリーが起きたぞ」

「聞こえています! 騒がしいですよジェームズ!」

 

 奥から出てきたのは医務室の顔、マダム・ポンフリーだ。

 

「念の為額を見せなさい……よし、応急処置がしっかりしていましたからね。傷跡も残りません」

「はっはっは。そりゃそうだろうとも。そんでピーターは? 随分朝早くにでかけてったみたいだが」

「レイブンクロー塔で事故です。まあ、あの寮ではよくあることですから彼に任せました」

「ああ、またなにかしら実験してるやつが居たのか。ドンか? それともキャバレロか」

「お察しの通り。キャバレロのほうです」

「あいつも懲りねえなあ」

 

 レイブンクロー寮ってそんな事故が多発してるんだ……僕を手当してくれたらしいピーター魔法医に感謝しつつ、体を起こす。

 

「あー、まだいいって。寝てろ寝てろ」

「ええ。少なくとも午前中は安静にしているように。様子を見て問題なければ午後からは授業にも出れるでしょう」

「ハリー、今日の午後の授業はなんだ?」

「えーと……魔法薬学」

「なんだ、スネイプの授業か。んなもんここで寝たフリしてサボっちまえよ」

「ジェームズ! あなたは他に言うことがあるでしょう!」

 

 サボりを推奨するパパ(教員でしょ?)を見るに見かねてか、マダム・ポンフリーが怒声を飛ばす。

 

「あー。えー。その。ああいう危ないプレイはやめたほうがいい、ってポピーが言ってたぞ」

「いやあ、ドラコが相当上手かったから熱くなっちゃって」

「でもナイスキャッチだったぜ! いいか、ポピーはうるさいがクィディッチで勝って一晩医務室送りなんてのは名誉ってもんだ。まあ、今回はちょっとばかし騒ぎにはなってるが……」

「煽れなんて誰も言っていませんよ、ジェームズ!」

 

 どうやらマダム・ポンフリーは相当おかんむりのようだ。まあ、去年に引き続きの医務室送りだしね……

 まったく、と呟きながらバックヤードに引っ込んでいった。どうやら忙しいところを縫ってでもパパを通して僕をたしなめたかったらしい。

 

「ちなみに見舞いは今回はナシだ。2年連続医務室送りのハリーくんには面会謝絶絶対厳禁のご褒美が与えられている。まあ、俺はなあなあにして無理やり入ったんだが……かわいいガールフレンドのほうがよかったか? やっぱり」

「か、かわいいガールフレンドって……」

「あのスリザリンの子だよ。どうだ? 去年アンブリッジが禁止してたからホグズミードでのデートは初めてだろ? どうだったんだ?」

「……行ってない」

 

 陽気だったパパからさーっと冷や汗がでてくるのが見えた。

 急にどうしたんだろう。

 

「す、すまん。いや、あの日は出張で出ててな。お前の動向まで把握してなかったからてっきり続いてるもんだと……軽口叩いてすまんな、いや、元気出せよほんと! 俺は学生時代モテてたし、ハリーもきっと」

「なんかすごい勘違いされてる気がする……ダフネさんとは今も仲良しだよ。この前はロンの妹さんのジニーさんにホグズミードの案内してほしい、って頼まれたから一緒に行ったんだ」

 

 パパはあんぐりと口を開けて僕の肩をがっちりと掴んだ。

 

「ま、まさかお前……シリウスみたいになる気じゃ」

「どういうこと!?」

「そんな、この歳で既に二股なんて……罪な男すぎるぜ、さすが俺の息子」

「違うけど!?」

 

 なにか勝手に勘違いしている。迷惑なおっさんだな、もう。

 

「ほんとに案内しただけだって!」

「あっちはたぶんそう思ってないぞ。いやしかし、これがもしママに知られたら、とんでもないことになるぞ。ダフネさんは誘ったのか?」

「いや、特になにもしてないけど……」

 

 ピシッ、とパパが自らの額を叩いた。

 なんてこった、と肩をすくめている。オーバーリアクションがうざい。

 

「まずい。これは『糖蜜(トリークル)タルト1ヶ月禁止』級の失態だ」

「そんなに!?」

 

 糖蜜(トリークル)タルトはゴールデンシロップ(サトウキビから生まれるイギリスの名物だ)とレモン果汁をベースにしたイギリスの伝統的なタルトだ。シンプルなタルトだけあってご多分にもれず、家庭の数だけレシピがあるタイプのデザートで、ママが作るラズベリージャムを乗せたものは僕とパパの大好物でもある。

 一方で、ママもそれを知っているから僕たちを叱りつけるときに禁止する旨をよく持ち出してくる。1週間、2週間ならたまにあったけれど……『糖蜜(トリークル)タルト1ヶ月禁止』といったら相当だ。僕は受けたことはない。

 パパはまあまあの頻度で受けている。僕が食べている横で紅茶だけ飲んでいることもよくあった。

 

「いいか、女の子はな。記念日みたいなのを非常に大事にしてるんだ。最初のホグズミード訪問日なんてのを放っといて他の女の子と行ったなんて、これはもう一生言われる。俺が保証する」

「そ、そうなの……?」

「ハリー。悪いがもうこれは取り返しがつかない。諦めてくれ。もうこうなったら改めて誘うぐらいじゃダメだ。ホグズミード訪問以上のインパクトを残すなにかを考えないと」

「インパクト……」

 

 そう言われても、どうしたらいいだろう。

 

「例えば暴れ柳の幹にあるコブをつつくと叫びの屋敷への道が開くんだが……」

「なにそれ、初耳。でもそういうのはいいかな……」

「うん。俺も自分で言っててデート向きではないなと思った。となると……」

 

 パパが拡大呪文のかけられたポーチを台に置いて、中を探り始めた。ほどなくして目当てのものが見つかったようで、冊子とホグワーツ周辺の地形図を僕の前に置いた。

 

「ハリーも何度か連れてったよな」

「……え、もしかして校則をやぶれってこと!?」

「おっと。それは流石に俺の口からは公言できねえ。ちょうどハロウィン明けからは俺も復帰するしな。とはいえ便利なマントもあるだろ? ちなみに俺のパトロール時間は18時までで、それ以降はスネイプと交代するからそれまでに戻るほうが賢明だ」

 

 パパが取り出した冊子には確かに魅力的な行き先が書かれていた。しかし、ここに週末を使って行くとなるとかなり豪快に校則を破ることになる。

 普通なら、まったくパパはこれだから……と言って聞き流すような話だが、このアイデアに僕は目を奪われてしまった。

 

「言うだけ言っても損はないんじゃねえかなあ~? 頑張って取り返すアイデアをいろいろ考えました、みたいなアピールにもなるしなあ~?」

 

 うん。やっちゃおう。

 少なくともダフネさんに提案する分には損はないはずだ。決してパパの悪影響を受けているわけではない。

 

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