「おい、ロニー。なんとかするなら今だぞ」
「どうやってなんとかするかはわからないが、とにかく今だ」
1日おいてグリフィンドール寮に戻ってきた僕たち。その談話室でジョージとフレッドが無責任に僕をけしかける。その先にはハーマイオニーがいた。
「まあ、落ち込むのもわかるけどな」
「俺たちだってママからすごい怒られるのは聞き流せるが、泣かれるのはキツいからな」
「パパが元気そうだったのは良かったけどな」
グレイバックがうちを襲ってると聞いて不安なまま家に戻ったけれど、怪我したと言われてたパパはケロっとしていて、悲壮な雰囲気どころか「あのグレイバックをパパとママで追い返したんだ、あのグレイバックをだぞ!」と治療中の片腕をさすりながら武勇伝として話していた。
一方で、家が爆破されたというハーマイオニーとそのご両親はそんな明るい雰囲気ではなくて、僕の家に避難してきてる間、お母さんはハーマイオニーをずっと抱きしめていた。
うちのツテで呪いを受けた家修復の専門家を派遣して(費用はダンブルドア校長がもってくれた、やったね)、結局一日で家の大部分は戻せたようだけれど……直しきれないものもあったそうだ。幼い頃から一冊ずつ本を納めてきた、ハーマイオニーの本棚とか。
ラジオ事業はパーシーをベタ褒めしていた手前、単純なジョージたちの悪だくみとは言わなかったけれども、それでもあなたがたの安全には替えられない、と危ないことはしないでくれとママからは頼まれた。
さすがのジョージとフレッドもやや堪えているようで、ホグワーツに戻ってきてからも今は自重気味だ。
ハーマイオニーは……ずいぶんと落ち込んでいる。常に忙しそうにしている彼女が何もせず椅子に座ってるなんて相当だ。
「あー。ハーマイオニー、ご両親が危ない目にあったのはショックだろうけど……なんか気を紛らわせることでも見つけたほうがいいと思うよ。チェスでもする? 蛙チョコレート食べる?」
「別にいいわ」
「口に合わないんだったらバタービールとかも用意できるけどどう? 百味ビーンズもあるし」
「食欲がないの。その、魔法界でなにをしたらいいかわからなくなって……」
「えっ、ハーマイオニーならノートを一冊埋めるぐらいやりたいことがあるでしょ?」
ハーマイオニーの興味と関心は多様だ。
2年生どころか教育要領から外れた変身術の難解な専門書を読んでいると思えば、1時間あとには「こどものまほうつかいのためのビードルのおはなし」を読んでたりする。
ひと目見ただけでフリットウィック先生がグリフィンドールに5点くれるような精巧な魔法の財布を作っていたと思えば、談話室で魔法なしで鉛筆画を描いていたりもする。
そんな彼女からやりたいことが失われるなんて……ありえないでしょ。
「今まで通りさ。やりたいことがあれば本を読んで、勉強して、実際にやってみる。ハーマイオニーのやり方を通せばいいじゃないか」
「私もそう思ってたのよ。だからヘンリエッタ・バーネット公立校への合格を蹴ってここに来た。魔法を使うって選択肢が増えることは私のやれることを増やすと思って。でも……そうじゃないことがわかったわ。魔法界で私は大臣になれない。大経営者になれないし、メディアのトップにも立てない。パパとママを守ることも出来ない」
ハーマイオニーはそう言ってうなだれた。うーん……僕なんかが考えたこともない職業群だ。家で「ママ! 僕は大臣になれないかも!」なんて言ったら錯乱の呪文を受けたのかと心配されそう。
「うーん……そんな悲観的になる必要ないと思うけどなあ。マグル生まれの魔法大臣だっているし、『
「気楽に言ってくれるわね! じゃあどうしろって言うのよ!」
「それを考えるのが得意なのは君だろ? ほら、例えば。ハリーのパパが駆けつけられたのも、仕掛けてた『
「そんなことできるわけ……」
「できるわけ?」
「できそうね……? いや、大変そうなところはいっぱいあるけれど、手の届かないものではなさそうね。わからないところは詳しそうな教授に聞けばいいし」
「だろ?」
ハーマイオニーも、少しは元気を取り戻せたようだ。顔を上げて、心なしか血色もよくなっている。
頑張ってみたかいがあったようだ。
「うん。やることが一気に積み上がってきたわね。こうなると糖分が……ロン。蛙チョコレートもらうわね。百味ビーンズも。あとバタービールもちょうだい?」
いや、取り戻したのは少しじゃなかった。いつもの……あるいは、いつも以上のハーマイオニーだ。
ヤベっ。ちょっと火を豪快につけすぎたかもしれない。
ちょっと落ち着かせるために話題を変えよう。
「あー、ハリーのパパと言えばもうすぐ復帰後の初授業だね。夏休み挟んで、もう半年ぶりぐらい?」
「そうね。ムーディ講師が言ってたやつ、ちょっと狙おうかしらね」
─────
ガラガラとドアを開ける音がした。
今日、闇の魔術に対する防衛術の授業に顔を出すのはここ2ヶ月、臨時で講師を勤めていたアラスター・ムーディさんではない。ハリーのお父さん、ジェームズ・ポッター教授だ。
わたしたちグリフィンドールとスリザリンの2年生にとっては今年初めてのポッター教授の授業となる。
「おーっす。くーっ……2ヶ月長かった! お前ら待望の俺の授業だぞ! まずは教科書の……」
「
「
「うおう! 何しやがる!」
教室に入って教卓についた途端、ポッター教授に呪いが何発か飛ぶ。ハリーとロンね。
ハリーの呪文は鋭い一撃。間違いなくこの教室の生徒の中で一番堂に入った
ロンの呪いはハリーのほど鋭いものではないけれど、相手が嫌がるタイミングに気付いて直感的に放ったようだった。
挨拶のような一撃はあっさりと防がれたが、教授は結構面食らっている。
「もしかして……お前らにも局長がなんか吹き込んだのか。一年だけだと思ってたが」
「はい。最初の授業でポッター先生を無力化したら、その年の闇の魔術に対する防衛術の単位免除だと」
「あのジジイにそんな権限ねえだろ……うおっ、詠唱なしかと思えば魔法薬飛ばしてきやがったな、グリーングラス!」
今度はダフネさんが素早く袖に隠し持っていたアンプルを振り、中身を教授に向けて飛ばす。
家業でよく扱うから、と話していたけれどダフネさんの調合技術は非常に高い。どうやら、ポッター教授にふりかけたアンプル以外にも複数携えているようだ。
呪いと違って広い範囲でふりかかる液体を
「あのジジイめ。杖呪文以外のやり口も教えてるとは。ずいぶん真面目に仕込みやがったな」
「はい。『ふくれ薬』です。よく水滴を全部弾きましたね」
「
「グリフィンドールどもと協力するのは癪だけど、一年生相手にあと一歩まで行ったらしいじゃない! 全員単位免除で休講に追い込んでやるわ!」
「はっはっは、パーキンソン。あれは一年生向けの『油断した優しいジェームズ・ポッター教授』初級コースだ。よろしい、お前らは中級コース『突然襲撃を受けたが華麗に対応するカッチョいい元闇祓いジェームズ・ポッター教授』で行ってやる。見てろよ……
そう言ってポッター教授が杖を振ると、後方の席にいたスリザリン生の呪いを杖から出た束縛呪文がはたき落としながら、そのまま術者の杖に巻き付き奪っていった。
「
今度はディーンと、その親友のフィネガンくん。ポッター教授が後ろの席に杖を向けた隙をついて呪いを放ったようだ。タイミングはぴったりの同時射撃。一つの盾では防げない。
だが、ポッター教授は杖から飛び出したままの束縛呪文で机を縛り、振り上げることで飛んでくる呪いを防いだ。
そしてそのまま二人をノックアウト。効率がいい。
「周囲の物を使うこともできる。日常生活でも詰め込みすぎて入らない鞄を縛ったり、調合中に鍋にうっかり入れすぎたイモリの尻尾を3秒ルールで取り出したりと用途は様々だ。あ、最後のはスネイプには見つからないようにやれよ」
「うおお! 食らえグリフィンドール!」
今度はゴイルくんが先頭を切って走ってきた。この教室でまず間違いなく一番ガタイがいい生徒だ。
その後ろにはマルフォイくん、クラッブくん、パーキンソンさん。どうやら一番タフなゴイルくんを先頭にして距離を詰めて押し切るつもりらしい。
それを察したネビルが盾の呪文をゴイルくんとポッター教授の間に貼って援護する。さすがネビル、こういう鉄火場でも周囲を見ながらしっかりと呪文を使いこなすものね。
「む? それは結構厄介だぞ。さすがネビルだな、確かに今そっちを潰す余裕はない。だが……」
ポッター教授は冷静に
「やるな、ミスター・マルフォイ。だがこれはどうだ? 木を紙に変えてみよう」
突然、ゴイルくんの体が倒れる。マルフォイくんも同じようにつんのめる。どうやら……床が抜けたようだ。変身術だ。
動けなくなったため、作戦を切り替えてマルフォイくんは呪いを放つが、動けない状態から腕だけで杖を振っても軌道は読めている。あっさりとかわされる。
その間にネビルくんを有声呪文の
こうして、教室の生徒はあらかた無力化された。うーん、もう少し保ってくれたほうが都合がよかったんだけど……
でも、そろそろ来るはずだ。
ガラッ、と一度閉めた教室の入口が開かれる。
「ジェームズ・ポッター! これはいったい何事なのですか!」
「マ、マクゴナガル先生!? い、いや。これは授業の一環でして。というか悪いのはアラスターで……」
「あなたから呼ばれたとミス・グレンジャーから聞いて来てみたら……復帰後早々この騒ぎですか!」
「ミス・グレンジャーが? おっと、そういや姿が見えな……」
どうやら、マクゴナガル教授が突然訪れたのは私の策略だと見抜かれたらしい。マクゴナガル教授が顔を出した瞬間はほんの少し油断しているようだったけれど、簡単には行かなそうだ。しかし、視線は確実に横に行っている。今がチャンスなのは間違いない。
ハリーから借りた透明マントを脱いで、杖を振る。
「
「ずいぶん凝った作戦だな!
ポッター教授は教卓の横で杖を構えた。よし、狙い通りだ。
私は二の矢の魔法を構える。ただし呪いではない、変身術だ。
さっと杖を振ると……教卓の底部分がガラスの板から藁に戻る。予め教卓に穴を開け、藁を貼って変身術でガラスに変え、上から穴を開けて液体を注いで、
当然、藁は……液体を素通しする。
「冷たっ!」
「しっかりかかったみたいね、教授!」
「み、ミス・グレンジャー。この液体はなんだ?」
「えっとですね先生。私の家は歯科医っていって、治療に訪れた人の歯をドリルで削ったりするんですけど」
「ひっ!」
ポッター教授だけではなく、マグルに詳しくない(主にスリザリン生)生徒からも悲鳴のような声があがった。
マクゴナガル教授はそんな教室の様子を疑わしげに見つめている。
「そのとき、麻酔薬を使うこともあるんですよね。なので、ちょっと借りてきました。もうろれつが回らなくなってきてると思います。そろそろ体も動かなくなるかと」
「そんにゃことにゃ……ミャジか!」
「うわ……ハーマイオニーえっぐいな……」
「麻酔? グレンジャーったらマジ?」
魔法界にも麻酔薬はある。ただし非常に調合が難しいタイプの魔法薬で、もちろん2年生の技術では手の届かないものだ。
とはいえ、強力さは知られている。麻酔と聞けば大いに怯えることだろう。
「解毒の仕方は私が知っています。先生、降参でいいですか?」
「わかっひゃ! 俺のみゃけだ!」
「やったわ、みんな! あと、ポッター教授。今かかったのは単なる『混乱薬』です。マグルの麻酔薬も管理はすごい難しいですし、ちょっとかけただけで効果が回るものなんてありません」
正常な状態ならこんなブラフには流石に引っかからなかっただろう。混乱薬がどっぷりかかっていたからこそだ。とはいえ、言質をしっかり引き出した。私の勝ちは揺るがないだろう。
私も調合は得意だけれども、ダフネさんほどじゃない。さすがに魔法の麻酔薬クラスを作り出すことはできない。呪いもハリーやネビルの威力にはかなわない。
でも……こうやって組み合わせることで、問題を解くことが出来た。
「マクゴナガル教授。嘘の呼び出ししてすみませんでした。ごめんなさい」
「まだ状況をはっきりと掴めてはいませんが……まあいいでしょう。減点はなしとします。
そう言ってマクゴナガル教授は杖を振ってポッター教授の足を洗い流す。飲んだならともかく、外からかかった程度の混乱薬の効果など大したことはない。
洗い流し、精神を再活性化させる呪文をかけるといつものポッター教授に戻ったようだ。バツは悪そうにしているが。
「マジかよ……負けると思ってなかった。よし、男に二言はない。ミス・グレンジャー、今年の単位は免除だ!」
「どうせ授業は全部受けるつもりなので、それはいりません」
「そんなバカな! 単位免除が不要とかありえないだろ! ホグワーツにそんな生徒はいない!」
ポッター教授は私を信じられないような目で見ている。他の生徒たちも同じような目をしている人は少なくない。うーん、そんな変なこと言ったつもりはないんだけれど……
「代わりに、授業が終わった後とかに教えてほしいことがあるんです。この前うちに仕掛けてもらった『
「げげげ。あー、ああいう魔法具はな。確かに変身術がメインで俺もその部分は教えられるがそれに加えて素材の知識、およびそこそこ高度なルーン文字学と数秘術が使われててな。フリットウィック先生とか、あるいは回復次第ベクトル先生あたりに頼むのが適当で……」
「できないんですか?」
「できるが?」
「じゃあ、よろしくお願いします!」
よし。これで私の家を守るための算段はついた。
あとは、今夜ハロウィンパーティが中止になった代替として、大広間で食事会がある。
ここで一つ、お披露目だ。