ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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63.誰だ!

「医務室入れなかったわね、アストリア。残念だわ」

「面会謝絶かー。マダム・ポンフリーはおっかないから強行突破するわけにもいかないしね。でも花は渡せてよかった」

 

 ホグワーツ、医務室の前でわたしたち3人は立ちつくしていた。ベクトル教授のお見舞いに行きたい、といったのはわたしだけで、ジニーもルーナもほとんど接点なんかないはずだけれどもわたしにあわせて残念そうにしてくれていた。

 いい友達だ。

 

「うん。元気になったらベクトル先生は『のんびりデイジー(レイジー・デイジー)』の花、気にいると思うよ。ポンフリーさんも丁寧にお世話してくれそうだったし」

「あれ、ルーナはベクトル教授のことご存知なの? 出不精だから、数占い学を受講しない限りスリザリン生以外と絡むことないと思ってたよ」

「ほんのちょっと話したことがあるだけだよ。でも、面白い人だった」

 

 確かに。ルーナとは相性がよさそうな気もする。

 ベクトル教授は新しい発想とかそういうの大好きだし。

 

「それにしてもひどい事件よね。マクゴナガル先生から少し話を聞いたけれど、まだ犯人もなにもわかってないらしいわ」

「怖いよね。好きな先生がたとかが狙われたりしてると思うと……ポッター教授とかならいいけど」

「またアストリアはそういうことを言う! スリザリン生はみなそういうけれど、教授だっていいところがあるのよ! 例えば……ポッターさんのお父さんであることとか!」

「それ本人の資質じゃなくない?」

「それだったら、わたしたちで探してみる? もしかしたら、そのついでにブリバリング・ハムディンガーが見つかるかも」

「ルーナ、なにを探すの?」

「犯人? とブリバリング・ハムディンガー」

 

 そう言ってすたすたと歩き始めた。ルーナお得意の「あっちだよー」だ。

 それに従ってあわててジニーと私はついていく。

 

「ちょっと! どこ行く気なのよルーナ!」

「うーんとね。ベクトル先生は食事に毒を入れられたんだよね? だから、それに詳しい生き物に聞いてみようと思って」

「それって誰よ!」

「こっちだよー」

 

 ルーナはジニーの質問にしっかりと答えることもせずそのまま階段を降りていく。こっちは……確か、ハッフルパフ寮があるあたりだ。入り口までは知らないけれど。

 そう言って案内されたのは……果物を描いた静物画が飾られている廊下だ。あっ! そういえばここの噂、私も前に聞いたかも!

 

「ルーナ、もしかしてキッチンに入ろうとしてるの?」

「そうだよ。アストリアも知ってたんだ」

「うん。梨をくすぐればいい……って言われたんだけど、試しに来てみたら絵の中に梨なんてなかったんだよね。デマ掴まされたと思ってた」

「絵は毎日変わってるらしいよ。たまに梨がない日もある」

 

 そして、今日は……白いクロスが敷かれた上にリンゴとオレンジ。梨は相変わらずない。

 

「さすがあんたら、変な道に詳しいわね。それでこの絵はどうするの?」

「えっとね……ここだったかな……」

 

 ルーナが絵に近づいて、つんつんと指を伸ばして探っている。

 そのうちに、皿のところに(よく見ると、その部分だけ全体の視点と見え方が一致していない)なにか感触が違うポイントがあったようだ。何度もつついているうちに……絵の中の皿はくるくると回って、緑色のドアハンドルとなった。

 出てきたハンドルをルーナが掴み、回すと……

 

「お嬢さまがた、ようこそいらっしゃいました」

「わ! 屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)だ!」

 

 出迎えてくれたのは屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)。ジニーは驚いている。

 私も知識としてはホグワーツにいるってのは知ってたけど、実際こうやって話すのははじめてだ。

 

「ホグワーツにはいっぱいいるよ。目を凝らすとわかるんだ」

「さすがラブグッド嬢。我々の目くらまし術も形無しですな」

「えっへん!」

「さて、今日はどのようなご用向ですか? エクルズ・ケーキなどいかがでしょう。ランカシャーで食べられている香ばしいレーズン入りのパイで、しっかり焼き上がっておりますよ。もう少しボリューミーなものがよければ、キャロット・ケーキも自信作です。ニンジン風味の生地に、くるみを混ぜ込んでしっとりしたクリームチーズを乗せております」

 

 うわー……聞くだけでよだれが出そう……じゃなかった!

 今日はおやつを貰いにきたわけじゃない。

 

「それは後で貰うとして……」

「まあ、最終的には貰うよね」

「いいじゃん! えーと、ベクトル教授が倒れちゃった原因を調べてて」

「ああ……それは我々としても慙愧にたえぬ出来事でした。我々の供したカップケーキが狙われたのですから……」

「えーと、例えばここの屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)が毒を入れた可能性はあるの? 誰かに命令されたとか」

「ちょっとジニー! ありえないよ、そんなの!」

 

 ジニーがとんでもないことを言い出す。

 目の前の屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)さんも心なしか顔が青ざめているように見える。

 

「ちっちゃい頃、わたしの家にも屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)はいたけど……頼んでもできないことはあったよ。例えばキッチンにしまわれてる食品を全部『ハニーデュークスの害虫ゴソゴソ豆板シリーズ』に入れ替えてって頼んだけれど、だめだったし」

「あんた、とんでもないイタズラ思いつくわね……」

「グ、グリーングラス嬢、おそろしいことを言われるものですな……はい。おっしゃる通りです。我々は屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)の名の通り、家事を妨げるということは契約者に逆らうことができないという以上に、どなたかが成し遂げた仕事の成果を台無しにする、というのは我々の性質上非常に強い嫌悪感を抱くものなのです。そうしたことへの抵抗が比較的薄いものでなければどれだけ強制されてもできないでしょうし、そういったものであっても非常に強い使命を抱くか、よほど厳しい訓練でも積ませない限り難しいでしょう」

「なるほどね。というかアストリア、あんたの家は屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)いるんだ。いいなー。隠れ穴にも欲しいわ、家にいるあいだは手伝いばっかりやらされてたし」

「まあ、もういないんだけどね。ポロジーって名前のお爺ちゃんだったんだけど、数年前に亡くなっちゃって……」

「お前たち、なにをやっている」

 

 キッチンの隅の椅子に座ってティーカップに注がれた紅茶を飲みながら屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)さんの話を聞いていたところ……後ろから現れた人影がわたしたちを覆った。

 

 

 ―――

 

 

「ピューター。生徒たちが迷惑をかけていないか? いや、聞くまでもなかったか」

「む。なにもしてませんよ。そんな言い方よくないと思いませんか?」

「そんなことないよ! 今日はイタズラしてないし」

「スネイプ先生も紅茶淹れるの得意そう。見てみたいなー」

 

 ホグワーツのキッチンの隅に備え付けられた、来客用の席に我が物顔で座っているのは一年の問題児ども、ミス・ウィーズリー、ミス・グリーングラス、ミス・ラブグッドだ。

 

「そこのピューターは屋敷しもべ妖精を束ねるチーフ役だ。多忙極まる彼の邪魔はしないように」

「いえいえ、スネイプ教授。とても手のかからない生徒たちでしたよ。私にとってもよい気晴らしになりました」

「って屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)さんも言ってますよ」

「ちっ。反省してまーす」

「見てみたいなー」

 

 三者三様の反応だが、一つとして教授に対して適切な敬意を払った反応はない。

 これで入学して2ヶ月というのだから、末恐ろしい。悪い意味で。

 

「まあいい。その紅茶と茶菓子を食べ終わったら寮に帰るように」

「えー! そんなんじゃベクトル教授に毒を盛ったやつが捕まえられないよ!」

「ちょっとアストリア、馬鹿正直に言ったら止められるわよ!」

「もしかしてスネイプ先生も同じことを調べにきたのかな? なら、手間がはぶけるね」

 

 ……どうやら、また余計なことに首を突っ込んでいるらしい。

 まったく。小人閑居して不善をなすだな。ホグワーツはこの手の問題児どもに暇とフリーハンドを与える傾向にあるが、間違いなく教育上悪い影響しかないだろう。

 

「犯人は今のところ生徒まで狙っている様子はないが、それでも危険がないわけではない。大人しく寮で爆発スナップにでも興じていろ」

「先生も爆発スナップするの? 横で見てたらすっごく面白そう」

「ミス・ラブグッド。私は爆発スナップをしないし紅茶も入れない。君らがしていろという意味だ」

「でも先に来たのはわたしたち! なんと、ホグワーツの屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)じゃ毒を盛れないって証言も得られたのよ!」

「そんなことは聞くまでもない。その程度の話は、お前の家の屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)に聞けばよかろう」

「さっきも言おうとしたんだけれど、もうグリーングラス家にも屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)はいないんだよね。省が屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)の導入や保有に規制をかけて、しかも取引価格も高騰してるからやめることにした、みたいなことをパパが言ってた」

 

 確かに、その話は自分も耳に挟んでいる。

 先日、レギュラスと医務室で同席し、ダンブルドアの出馬表明を並んで聞いたときも……トム・リドルを支持する理由として挙げていた。

 彼は法律を通して屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)の保有に制限をかけることで、保護や契約している魔法使いの品位の維持にも務めている、と。

 事実、一度ホグワーツにも査察が入った……が、流石にホグワーツを「伝統的な屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)の雇用先」から外すのは無理があったようだ。

 しかし、今ミス・グリーングラスが言っていた話はなんとなく違和感がある。いったいなんだ?

 

 まあいい。少なくともこれは人死にが起きうる重大ごとだ。一年生の生徒たちに首を突っ込ませる話ではない。追い払うべきだろう。

 

「カップは空になったな? よろしい、寮に帰りたまえ。これ以上彼らの仕事を邪魔するなら罰則を言い渡すことになる」

「ぶーぶー」

「スネイプ先生も調査頑張ってねー」

 

 外に放り出すのはピューターに任せ、調査に戻る。

 私がキッチンまで足を運んだのは証言を聞くためではない。結局のところヒトに限らず亜人、それが忠実な屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)であっても、利害や強制を伴わぬ証言を頭から信じることはできない。物証こそが確実な証拠であり、私は仕込まれた毒の検出のために動いていた。

 結果は……キッチン内では検出はなし。ただし、配膳台においてはわずかに認められた。

 

 よって、毒は調理過程ではなく……その後。完成した料理を大広間に(屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)たちが彼ら独自の姿あらわしを使って)運搬する段階で仕込まれた可能性が高い。

 

 大した発見ではないが……もしかしたら他の情報と組み合わせることでなにか得られるかもしれない。

 キッチンを出て、ヤックスリーを拘束している地下牢へ向けて階段を降りていく。

 

「スネイプか。キッチンの調査はどうだった?」

「配膳台でわずかに毒が検出されました」

 

 地下牢にいたのはアラスター・ムーディ。新設されたホグワーツ警備局の局長というポストについている。

 

「そうか。となると何者かが侵入しているというのは間違いなさそうだな。とはいえ、ジェームズの例の地図にはなにも映っていないという話だったが」

「所詮、学生のときの奴らが作ったものです。穴もあるでしょう」

「まあな。そういうケースも考慮せねばならん。油断大敵だ」

 

 檻の中にいるコーバン・ヤックスリーはぐったりとしている。ずいぶんと絞られたのだろう。

 

「お前にも一応、共有しておこうか。肝心なところの記憶はなかった。リドルが消したか、はたまたこの任務につく前に何らかの魔法具で記憶を外に取り出したか。ともかく、儂らに捕らえられて尋問されるケースを考慮していたようだ。だが……一つ面白い話を聞けた。どうも、こいつはそれほど忠実な手下というわけではなかったらしい」

「ほう?」

「リドルに違法行為を命令された旨を、しっかりと証拠に残していたらしい。そいつの在り処はグリンゴッツの隠し口座にあるそうだ」

 

 まあ、意外すぎるという話ではない。

 スリザリン生にとっては面従腹背など日常茶飯。たとえ言い様に使われるとしても、反撃の機会を伺うというのはごくごく初歩的なスタンスだろう。

 

「グリンゴッツですか。いっそ忍び込んでしまいましょうか」

「ひとまずはやめておけ。グリンゴッツの警備は決して緩くはない。お前ならばポリジュース薬でもなんでも使ってある程度は侵入できるかもしれんが、『盗人落としの滝』だのなんだの対策があるのは儂も断片的だが知っとる。それに、トム・リドルが胡散臭い手口でグリンゴッツに手を突っ込んだ。なにか、新たな警戒措置を敷いているかもしれん。ゴブリンとトム・リドルを同時に相手するのは得策とは言えん、せめて片方の気を引くなりなんなりせねばな」

 

 ロンドンのグリンゴッツは堅牢な護りで知られているが、侵入を試みた盗人も少なくはない。もっとも、我々がそれを知っているのは干からびた不届き者の死体としてゴブリンの宣伝材料として使われたからだが。

 ゴブリン曰く、一度も侵入はされたことはないそうだが……結局のところ、ゴブリンの発言ほど信用のおけないものはない。裏社会では「不可能ではない」「侵入してきた者がいる」とまことしやかに言われていた。

 だが、おそらくその手の捜査に携わった経験もあるであろうアラスター・ムーディによると、やはり楽観視できるほど警備が薄いわけではないようだ。

 

「それで、栄養ポーションは持ってきたか?」

「ええ。飲ませます」

 

 ぐったりしているヤックスリーに近づき、私が手ずから調合した栄養ポーションを口に放り込んだ。

 

「……ゲホッ、ゲホッ。畜生、死ぬほど不味いぞ。もっとマシな食事はないのか?」

「我慢しろ。お前も毒殺されたくはなかろう。危機感ぐらいは抱いているのだろう? リドル閣下はお前を消しにくるぞ」

「ふん。お前のような惨めな半純血に言われずともわかっている。いいから俺を解放しろ。マッドアイに伝えた証拠があれば話は違ってくる」

「冗談を言え」

 

 解放などするわけはない。

 こいつが証拠を取りに戻るなどありえない。よくて海外逃亡、悪ければトム・リドルに捕まり拷問だろう。トム・リドルの目が行き届いているグリンゴッツに同行するのも拙い。

 しばらく飼い殺しにするしかないのだ。

 即座に断ると、ジロリとこちらを睨んだが、すぐさまそっぽを向いて牢屋のベッドに寝転んだ。

 

「もう、絞り出せる情報はなさそうでしょうか?」

「フン。若造め。この手の連中は我々にそう思わせるのが狙いだ。悪党というのは叩けば叩くほど埃が出る。まだまだ搾り取ってやる」

 

 ムーディは意気揚々としながら、ヤックスリーに背を向けて一旦、義眼を外し呪文で掃除を始めた。私が去ったあと、また尋問を行うのだろう。

 

「……ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ」

「いつまで咳をしている? それほど不味いものではないはずだ」

 

 ヤックスリーは恨みがましく咳をしている。まあ、あの栄養ポーションは美味とはいえないが……それでも死ぬほど不味いというわけではない。百味ビーンズ・石油味程度のものだ。

 などと余計なことを考えていたが……事態は急変した。

 

「ゲホッ! ゲホゲホッ!」

 

 ……いや、突然コーバンがひどく咳き込みはじめた。激しく吐血もしている。これは明らかに異常だ。

 まずい。なにか見逃したか。先ほど与えたポーションか!? なにか仕込まれていたというのか!?

 

「スネイプの坊主! 余計な考えに気を取られるな、そこになにかいるぞ! 麻痺せよ(ステューピファイ)!」

 

 ムーディの呪いを……その小さな影はかわした。馬鹿な。短距離姿くらましか!? ホグワーツの中では使えないはずだぞ!

 しかし、実際その人影は短い距離の姿くらましを繰り返しており、ヤックスリーの牢から離れて地下から逃げようとしている。

 

逆さ吊り(レビコーパス)

 

 杖を取り出して振り、その人影に向かって呪いを放つが……その人影が指先から放った別の魔法で弾かれる。明らかに杖なしだ。

 その人影は我々を短距離姿くらましで飛び越え、階段へと近づいた。壁にかけられた灯がその人影を照らす。

 

 その瞬間、さきほどキッチンにいたときに生じた違和感の正体に気付いた。

 法律を通して屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)の保有に制限がかかった。一方で、私のような立場の人間が屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)の取引市場にアクセスすることはなく知る機会はなかったが……ミス・グリーングラス曰く、「取引価格も高騰している」と。

 

 当たり前だが、どのようなモノの市場であっても手放す人が増え、買い手が減れば取引価格は下がる。

 つまり、高騰しているということは……その需要を満たすほどの買い手がいるということだ。

 そして、おそらくそれは……トム・リドル。

 

 その小さな人影の照らされた顔が私の目に映った。そこにいたのは屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)。そして……その顔には見覚えがある。

 ホグワーツに在学していたとき、ルシウスに招かれ、マルフォイ家の屋敷に足を運んだときに目にする機会があった。

 

「ドビーはよい屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)! ご主人様のために仕事を果たした!」

 

 ドビー。マルフォイ家が所有していた屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)は、屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)独自の姿くらましを使い、ホグワーツの「姿くらまし防止呪文」をくぐりぬけて消え去った。

 

 

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