ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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 「スポーツが好き」にもいろいろある。

 もちろん僕はクィディッチが好きで、パパもそうなんだけど、プロの試合を見に行くとなると……ポッター家はそこまで熱心ではない。どっちかといえば試合を楽しむほうに重点を置きがちで、パパも僕もゴドリックの谷にあるマグル避けの魔法をかけた空き地でちょくちょく箒を乗り回していたけれど、毎週末に贔屓のチームの試合に詰めかける、ということはなかった。

 なんでそんなことを急に考え始めたかと言うと……同じクィディッチ好きではあるけれど、ロンとはスタンスの違いでいろいろ温度差を感じることがある。ディーンとロン。好むスポーツは違えど、似たような人間だよなあ、とふと思ったからだ。 

 

「冬休みの間にシェーマスとプレミアリーグを見に行ってたなんて……僕に黙ってずるいぞ、ロン!」

 

 グリフィンドール寮の談話室で、ロンがシェーマスと冬休みの間にマグル・フットボールを再び見に行ったことを僕に話していたところ……耳ざといディーンに捕まってしまった。ロンもまったく脇が甘いなあ。

 

「だってディーンに頼むと応援してるチームのところにしかいかないだろうし。やっぱり1部の試合を一回ぐらいは見てみたいなって」

「失礼な! 今シーズンは昇格間違いなしだぞ! しかし……それにしてもよりによってマンチェスター・ユナイテッドの試合なんて! このミーハー! 百歩譲ってシティだろ!」

 

 よくわからないけど、そのチームを応援するとミーハー呼ばわりされるらしい。クィディッチで言うとタッツヒル・トルネードみたいなものかな?

 

「今一番強いチームを見に行きたいんだけど! って聞いたら快く連れて行ってくれたよ」

「シェーマスは割とミーハーだからなあ。フットボールをそんな熱心に応援してるタイプじゃないし」

 

 シェーマスはマグル生まれではないけれど、マグルのお父さんに合わせて生活してるそうでマグル文化について造詣が深い。ディーンともよくつるんでいるけれど、スポーツ観に関しては合わないようだ。 

 

「でも楽しかったしエキサイティングだったよ!」

「ユナイテッドか。それだったらポール・インスはどうだった?」

「うーん、選手の名前までは覚えてないなあ。どんな人?」

「アフリカ系のミッドフィルダー……コートの真ん中の辺りでプレイしてる選手だよ。ウエストハムでデビューしたのにそこを出て活躍してる裏切り者なんだ。でもクラブでもイングランド代表でも活躍してるからウエストハムサポーターとしては鼻が高いね」

「裏切り者なのに鼻が高いって、フットボールファンの情緒ってどうなってるの?」

「でも正直、言いたいことは僕もわかる」

 

 あまりにもディーンが胡乱なことを話はじめたので思わずツッコミを入れたのだが、熱狂的なチャドリー・キャノンズのサポーターであるロンは頷いているので、スポーツを観るファンにとっては共有できる心情なのだろう。理解しがたいなあ。

 

「それに、選手の人に握手もしてもらったんだ」

「えっ、いいなあ! なんて人?」

「ベッカムって選手だったよ。有名なの?」

「うーん……? 全然知らないな。たぶん新人だと思うよ」

 

 そう言って二人がああだこうだ言い始めたので、若干距離をとって談話室全体の様子を見ていたところ……寮談話室への入り口が開き、ハーマイオニーが勢いよく駆け込んできた。

 

「皆さん! ハッフルパフから代表としてセドリック・ディゴリーさんがロックハートと対談に向かいました! ほどなくしてラジオで放送が始まるはずです。みんなで応援しましょう!」

 

 キラキラとした笑顔を振りまきながら一切の邪気なく言い放った。

 グリフィンドール生はスリザリン生ほどじゃないけど(スリザリン生からすると、グリフィンドール生ほどではないそうだが)、斜に構えた天邪鬼気質な人間が多い。

 案の定、ディーンは皮肉を飛ばした。

 

「ラジオを通して応援したって向こうに届くわけはないじゃないのに。熱心だねえ」

「ディーン! 水を差すのはやめてちょうだい! みんなで念じればきっと届くはずよ!」

「念じたぐらいでなにか届いてたらウエストハムは降格しないはずなんだけどなあ」

 

 そう呟いたディーンにジロリとハーマイオニーが睨むと流石に少したじろいで口をつぐんだ。

 寝たドラゴンを起こすな。ハーマイオニーの気質にすっかり慣れている僕とロンは何も言わずに素直にラジオを取り出し、周波数をあわせた。

 

「……ロックハートのロッキン・マイハート! 今日ははるばる母校から特別ゲストが来てくれた! 闇の魔術に対する防衛術教授の……おっと、こちらは引率でした、ハハハ! 今日のゲストはハッフルパフの美青年! 私がすべて言ってしまうのも申し訳ないね! 自己紹介してもらおう!」

 

 ラジオをつけたタイミングはばっちりだったようだ。

 ロックハートの調子外れの声がラジオから鳴り始めた。

 

「はい……ロックハート氏にご紹介預かりました、ハッフルパフ所属の4年、セドリック・ディゴリーです」

「ありがとう。なにか趣味はあるかな?」

「そうですね……クィディッチは好きです。ハッフルパフチームにも所属させてもらってまして、今年からシーカーをやらせてもらってます」

「素晴らしい! 私も在学時代はレイブンクローのシーカーでした。さて、彼とこうしてクィディッチ談義に興じてもいいのですが……今日は彼らと私で討論を行うということになっております! テーマはこちら、ジャジャン! 『マグル生まれと治安』です!」

 

 ロックハートがそう言うと……ハーマイオニーが目を剥いた。

 

「卑怯よ!」

「えっ、どのあたりが?」

「向こうがテーマを予め決めてるなんて聞いてないわよ! そもそも自由討論なんだから、これは露骨な話題の誘導だわ!」

「ああ、言われてみれば確かに……」

 

 なるほど。ハーマイオニーの指摘はラジオ越しには頷ける。

 ただ、向こうのホームグラウンドに呼び出されたディゴリーさんが感じる雰囲気はホグワーツの中とはまったく違うだろう。

 案の定、そのままテーマを受け入れてしまった。

 

「さて、セドリック君はどうお考えかな?」

「そうですね……ハッフルパフ生にもマグル生まれの人は数多くいて、卒業生の中には軽犯罪を犯してしまった人もいます。ですが、マグル生まれ全体から見るとごくわずかで――」

 

 ロックハートはディゴリーさんの会話を途中で遮った。

 

「おーっと、そこでストップ。実はこちらに魔法法執行部の統計局が作成した人種別のデータがあります。このデータによりますと、マグル生まれの犯罪率は純血の魔法使いに比べて十倍以上も高いのです!」

「ええ、ですがそれは彼らの生活面での苦境を反映したもので、彼らの性質を表したものでは――」

「ノン、ノン! ええ、言いたいことはわかりますよ。私だってもちろんマグル生まれの皆さん全員が悪人なんて言いませんよ。大半は善良な人間です。しかし、しかしですよ! 6年前のマグル生まれの秘書による横領事件を始め、重大な影響を及ぼした事例がいくつもあります! 彼らが一部の職につく際に、厳格な審査を設けるというトム・リドル氏の提案は合理的なものでしょう、違いますか!」

「いや、それが省で働くマグル生まれを締め出すということなら、なんら合理的とは言えないと思う。実際、僕の父は魔法省で働いているのだけれども、父の同僚にはとても良いマグル生まれの魔法使いが大勢いて――」

 

 傍目から見ても、ディゴリーさんがロックハートに押されているのがわかる。

 ハッフルパフの代表として肩入れして聞いている僕達でさえそう思うのだから、大多数のリスナーはまず間違いなくロックハートに軍配を上げるだろう。

 

「おっと、それは違いますよ、セドリック君! チッチッチ、締め出すというのは事実と異なります。このあたり、しっかりと正しいことをリスナーにお伝えしませんとね。既に何年も魔法省に務めていて、勤勉であることを自ら証明している魔法使いや魔女を締め出す、ということは絶対にありえませんよ!」

「締め出す、と言ったことは訂正します。しかし、マグル生まれにだけ厳格な審査を設けるというのは、間違いなのではないでしょうか? 重要な役職というのならば、公平のため全員に審査を課すべきだ。同じ基準で」

 

 ハーマイオニーが「そうよ! そこを突きなさい!」とラジオに向かって叫んでいる。確かにここまで感情豊かにラジオを握りしめて叫べば、向こうまで届くのかもしれない。なにせ魔法界のラジオだし。

 

「なるほど。貴重なご意見ありがとう。しかし……おっと、ここで一旦コマーシャルだ。CM明けもロッキン・マイハートはまだまだ続きます! チャンネルを変えることのないよう!」

 

 しかし、ロックハートはそれに答えずコマーシャルが入る旨を伝えた。そして、コマーシャルが明けて……

 

「いやあ、『アベリーのミニチュア・馬熊(ウマグマ)』は素晴らしい商品のようですな! 家の中の失せ物を運んでくれる馬と、害獣を駆除する熊をあわせた役割を果たすマジックアイテムとはね! アベリー家といえば伝統的に我がレイブンクロー寮の人間が多いそうですが、この商品もレイブンクローらしい独特な発想です。広告を聞いているだけで私も購入してみたくなりましたよ! ……さて、今日はホグワーツからハッフルパフ4年のセドリック君をお招きしての公開討論中だ。次のテーマはこちら! 『ダンブルドアとその疑惑』についてです!」

 

 あっさりとそのまま話題を変えてしまった。

 

「ちょっと! さっきのディゴリーさんの批判に対する回答はどこいったのよ!」

「あー。ぼーっと聞いてたから気づかなかった。そうか、さっきの答えをスルーしたんだな」

「しっかり聞きなさいよロン! コマーシャルを入れるタイミングをコントロールして不都合な流れになったら入れ替える戦術ね、卑劣にもほどがあるわ」

 

 ハーマイオニーは歯噛みしている。

 なるほど、真剣に聞いているハーマイオニーの解説があるからロックハートがやっている手がわかるけど、特に何も考えずに耳を傾けてるだけ、って状況だとこういう手をロックハートが使ってるのはわからないだろうなあ。

 そして、討論はロックハートペースのまま進み……そのまま番組は終わってしまった。

 

「ぬぐぐぐぐぐ」

「誰がどう聞いても完敗だね。公開討論、受けたの失敗なんじゃないの?」

 

 ハーマイオニーはロックハートの喋りは非整合的だから、しっかりと準備して行けば簡単にやりこめられるはず! と楽観視していたけれど、現実はそうも行かなかったようだ。

 こちらはロックハートの著書に矛盾が数多くあることを強く追求する予定であったのに、実際は向こうに主導権を握られてしまい、追求するどころか話すことさえできなかった。

 

「次は……どこが行くんだい、これ?」

「事前に決めた流れではスリザリンかな。その次はレイブンクロー。最後にハーマイオニーが乗り込む算段だったんだけど……」

「改めます! ディゴリーさんが戻ってき次第作戦会議よ! 今回得た教訓をもとに新たな討論のためのストラテジーを用意して来月の討論では必ず討ち取ってやるわ!」

 

 ハーマイオニーはそう気炎を上げたが、周辺の生徒の雰囲気はかなり沈み気味だ。

 数年間、魔法界のポップスターであり続けたロックハート。

 もしかしたら、手強すぎる相手なのかも。

 

 

 ─────

 

 

 はっはっは。なんのことはない、彼らは大人をナメすぎですね。

 私が本を書いたときも、出版するまでにしっかりと下調べに時間をかけ、作中の設定を頭に叩き込んでいます。 

 会場はこちらのホームグラウンド。

 時間も場所もテーマもこちらが選べるのですから、当然こちらが有利な形で予めデータなどを揃えておくのが当然です。

 もちろん、私は話のプロですから……そのあたりはリドル氏が快く預けてくれました魔法省の官僚の皆様にお任せしております。

 つまり、彼らを控室に配置して、手元にある両面鏡を通してカンニングペーパーを掲げて私に指示を出してもらうというわけです。

 私だってやってやれないことはありませんが、専門家に任せる賢明さもまた知恵と言えましょう!

 

 ホグワーツのラジオも事前にチェックしており、主だった生徒はおおよそ把握しています。ハッフルパフのセドリックくんは率直に言って一番手強い相手と予想していました。

 なにせ彼は私ほどではありませんが笑顔がチャーミングですからね! 彼らのバックについてる『週刊魔女』でビジュアル込みでキャンペーンを打つなどしっかりと準備をされたら、なかなか手強かったかもしれません。

 だから、どの寮の代表が来るかを事前に伝えてもらい、しっかりと初見殺しができたのは幸運といえましょう。

 ラジオを聞く限り、グリフィンドールのマグル生まれの女の子など頭と口が回る子はいますから、こちらが有利なテーマを示してそれに沿って話すような雰囲気を作った、ということは見抜かれると思いますが……それをセドリックくん相手にぶつけられたのはラッキーでしたね!

 

 さて、あと残るはグリフィンドール、スリザリン、そして我がレイブンクロー。

 スリザリンはどう動くかわからないのは懸念ですが、バックヤードはともかく表に出る人材に関してはかなり不足しているように見えます。端的に言って華がない! 口が回ってウケもいいのはせいぜいがフリントくんぐらいでしょうか? 取るに足らない相手です。

 レイブンクローも、我が出身寮を悪く言うのは胸が痛いのですが……そもそもラジオ放送なんていう共同作業はレイブンクローの本分から大いに外れています! 率直に言って怖い相手はおりません。麗しいチョウ・チャンさんなんかはビジュアル面では男性ウケがよろしいでしょうが、私の相手ではありませんな。

 となると……本命はグリフィンドールの代表でしょう。マグル生まれのハーマイオニーさんか、はたまたウィーズリー家の優等生くんか。弁が立って華がある人材がなかなか豊富です。

 

 実際、在学中もレイブンクロー寮で私を理解しない人間は少なくありませんでした。

 一方で、私の内心の深遠さまでに思い至る人間は皆無だったとは言え、グリフィンドール生は目立ちたがることについて大いに理解を示す人間が多々いましたから、そういった人材が揃うのは理解できますね。

 

 とはいえ、所詮は学生のお遊び。私の相手として足るような人間はいません。

 華やかさで競う勝負は私の本領がまさに発揮できる場面と言っていいでしょう。

 かといって、ガチガチの理屈倒れの人間がラジオという場でウケるわけもなく。この舞台を選んだ時点で、私の勝ちは決まっているのです!

 

 

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