ヴォルデモートなんていない   作:taku1531

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71.ラジオスターの悲劇(2)

 楽しいわけではない話など、この世にいっぱいあります。

 そんなものは……忘れてしまうか、楽しく脚色してしまうか。どちらかに限るでしょうね!

 

 私には二人の姉妹がいました。

 彼女らはスクイブでした。以上、話は終わり! これ以上どう振っても楽しい話にはなりません!

 ……もう少し聞いてみたい? 仕方ありませんね。

 

 私は両親からとても愛されて育ちました。今でも彼らには感謝していますよ、ええ!

 特に母は……私のことが大好きでした。自分で言うのは少しばかり恥ずかしいですがね!

 姉も妹も、私が魔法を披露してみると目を輝かせて手を叩いて喜んでくれました。

 

 しかし、それ以上に喜ばれたのは魔法界のお話をすることです。もちろん、年に数回行く程度のダイアゴン横丁で立ち読みした程度では、話の種はすぐに尽きてしまいます。

 でも心配ご無用! 私は話すたびに手を変え品を変え、ほんの少しずつ話を変えることで、彼らを飽きさせずに話し続けることができるのです!

 正義に尽くし、最後はそれに殉じ死を迎えた女騎士の話……いけません。ちょっと暗すぎますね。きっと彼女は栄光を得て、お金をいっぱいもらったのでしょう。私のようなイケメンの花婿を貰ったかもしれません。

 正直に話すことで王様からの報酬をフイにした冒険家の話も私にかかれば一転! 素晴らしい話しぶりで王宮付きの吟遊詩人になった彼は、街の人々に毎日、褒めそやされる日々を送りました!

 

 こんな風にして……魔法界の本の話を少しばかり脚色して話して聞かせてあげれば……彼女たちもつかの間は、自分たちが魔法を使えないことを忘れてくれましたから。

 母は私に何度も言いました。一家で魔法が使えるのは私とあなただけだ、あなたは特別な存在だ、と。

 ええ! その通り! 今もそう思っていますよ。私は特別な存在です。

 

 

 

 もちろん、ホグワーツに入学したときも変わりありません。私は組み分け帽子に語りかけました。

 

「やあ! 素敵な帽子さん! 僕はたぶん、ホグワーツの歴史に残る素晴らしい人物になると思う。ぜひ、ふさわしい寮に入れてくれたまえ!」

「なるほどなるほど。これは野心かな? いや……もっと素朴なもののようだ。とはいえ、狡猾さは十分に兼ね備えている。スリザリンは悪くなさそうだ」

「スリザリン? そこが一番偉大な寮なのかい?」

「ホグワーツの寮はどこも偉大だ、ギルデロイ。しかし、偉大さにも種類はある。君はなにをもって偉大だと考えるのかな?」

「そりゃ……やはり人気だ! 人に愛されるというのは、特別な才能が必要ですからね! ホグワーツで一番人気を集めている者がいる寮に入れて欲しい!」

「それならば……君は必ず彼に出会うだろう。レイブンクロー!」

 

 寮に案内された私は、さっそく上級生に尋ねてみました。「組み分け帽子が最も人気のある者がここにいる。いったい誰なんだ?」と。

 返答は意外なものでした。「人気? レイブンクロー生はあまりそういうのにこだわらないな。それよりも自分の人生の目標というものを重く考える。人気なんて薄っぺらなものより、大事なのはそちらじゃないかい?」

 その見解はレイブンクロー寮の中では一般的なもののようで。近くの上級生もその回答に対して首肯していました。私は少なからず落胆したものです。

 

 組み分け帽子の発言の意味はすぐにはわかりませんでした。なにせ、目立とうなどと考えるのはもっぱら他の寮の領分で、レイブンクロー寮の上級生を探し回っても『ホグワーツで一番人気を集めている人』と言えそうな生徒は見当たりませんでしたから。

 生来の目立ちたがり屋のグリフィンドール生。否が応でも影響力を持ってしまう名家のスリザリン生。人と人のハブとして繋がりを強めるハッフルパフ生。

 華やかな他の寮の人気者の彼らと比べると、レイブンクロー寮ときたら……ホグズミードに行くときでさえ年がら年中同じ服の人間。吃音症にあがり症。顔に痣のある人間も少なくありませんでした。

 

 ホグワーツに入学して数年経った頃には私は組み分け帽子の言葉を疑問視し、レイブンクロー寮の人間を疑いの目で見るようになりました。 

 私は内心、大いに嘆いていたものです。いくらあなた方の業績が素晴らしかろうと論文のタイトルさえどもらずに話せないのでは、誰も話を聞きはしないでしょう! と。社会に出てから痛い目を見るどころか、ホグワーツ内でさえ容姿で損をしているのは明白だと言うのに努力しない人も少なくありませんでした。ああいった人間ほど、外面より内面だと私に繰り返し説教してくるのです。

 

 その最たる人間は……我らが寮監でした。4フィートにも満たない背丈のハーフゴブリン! はっきりいって、呪文学のたびに皆が笑って指差さないのが不思議でした。

 しかし。フリットウィック教授を……笑う人は誰もいませんでした。ホグワーツに一人も。

 

「ギルデロイ、私は君が愚かとは思いません。しかし……あまりにも関心の幅が狭いように見えます。呪文学と闇の魔術に対する防衛術(DADA)の成績は良好ですが、天文学や魔法薬学の授業態度はかなり悪いと報告が入っています。どうにか改善できませんか? このままでは、あなたを受け入れる就職先は見つからないでしょう」

「ああ! フリットウィック教授。お手を煩わせてしまい申し訳ない。しかしですね、私は特別な人間なのです! 特別な人間の学び方というのはしばしば一般の人と異なるものです。大魔術師マーリンしかり、英雄アレクサンダーしかり! 彼らは幼少期から普通の人とは異なる世界の学び方をしましたからね!」

「その持論は否定しません。しかし、人は研鑽を積んで特別になるのです」

「ええ! ですから私に必要な研鑽を積んでおります、しっかりとね!」

 

 フリットウィック教授は実におせっかいでした。

 就職だのなんだの、そんな世話は結構! 私は特別なのです。そんな凡人が考えることに振り回される必要はありません。

 「人は研鑽を積んで特別になるのです」……ははは! 笑わせてくれます。私と姉妹は生まれた瞬間にはもう大きな差がありました。呪文学の教授という立場なのですから、魔法の有無というものがどれだけ大きい差なのかよくご存知のはず!

 努力などで埋められない差はいくらでもあるのです。そんなもの、忘れてしまったほうが得だと思いませんか?

 差別階級であるハーフゴブリン。

 なるほど、我が恩師に並々ならぬ才能があることは認めましょう。しかし、しかしですよ。彼であってもなお、諦めてきたことというのは山ほどあったのではないでしょうか? 独身なのもそうでしょうし、教授職も名誉ではありますが……腰掛けならともかく、キャリアをホグワーツだけで終えるなんて私からしてみればゾッとするような選択です! まっとうなヒトであれば、決闘のチャンピオンなど引く手あまたであったはずなのに。

 

 

 そうして私はホグワーツを卒業しました。就職先だのなんだのは決まっていませんでしたが、才人には充電期間というのも必要なのです。

 卒業し、家に戻った私を迎えたのは家族による大歓迎!

 

 ……ではありませんでした。

 魔法は解けました。大きくなった妹も姉も、もはや私の語る物語に耳を傾けることはなく。むしろ、マグルの友人や恋人から見て明らかな変人にしか見えない存在が親族にいることを嫌がるようになりました。

 

「やめてよ! そんな杖なんて出さないで! 実家の人間が頭おかしいなんて思われたらどうするのよ!」

「ハハハ、頭おかしいなんて随分ないいようですな。魔法はこんな便利なものなのに!」

 

 そう言って杖を振って手近にあった腕時計をかわいらしいリスに変えてみせました。さあ拍手喝采! ……とはならず、姉は理不尽にも激昂し始めました。

 

「ああああ! カレからのプレゼントだったのよ、それ! 信じられない!」

「おや、それは申し訳ない。すぐに戻しますよ……おっと、ちょっと秒針がリスの尻尾のまま。まあ差し支えはないでしょう」

「ふざけないでよ! あんた、ママに可愛がられてるからっていい気になりすぎよ! そんな手品でなにやるつもりなの? どうせ食えないから実家に逃げ帰ってきたんでしょ!?」

「……いくら姉さんでも、それは理不尽な言い様でありませんか?」

「なにが理不尽よ! あんたの存在のほうがよっぽど理不尽よ! あんたのことも魔法とかいうバカみたいなものも、みんな忘れてしまいたいわ!」

「よろしい、それでしたら……お望み通りに!」

 

 買い言葉に売り言葉。私は杖を引き抜き、姉に忘却呪文(オブリビエイト)をかけました。糸の切れた人形のようにへたり込む姉と私を……廊下の奥から、父はしっかりと見ていました。

 

「ギルデロイ……今、何をした?」

「やあ、お父上。何をしたって……姉さんに言われた通りです。私のことも魔法のことも忘れてしまいたいというから、その通りにしてあげたまでです!」

「……もう我慢ならん」

「父上?」

「よくも自分の姉に怪しげなまじないを掛けてそんなことが言えるものだ! 出ていけ、二度と戻るな!」

 

 私はショックで口をパクパクと開け閉めしました。

 そんな。

 私はこの家で特別な存在だったのではないのですか? そんな私が追い出されるなんてことあっていいのでしょうか?

 

 とはいえ、寡黙で私に無関心だったはずの父の怒りに衝撃を受けた私は、そのまま逃げるようにイギリスを去りました。

 親族とはいえ忘却呪文を人に向けるのはれっきとした犯罪です。魔女である母ならば魔法省に訴えを出すことも可能なはずでしたが……母はなにもしなかったようです。罪を問われることもなく、なにごともなかったようにイギリスを出国できました。

 

 

 少しばかり不本意な成り行きではありますが、卒業旅行と割り切りグランドツアーと洒落込むことにしました。

 まずフランスに入った私は一つ目的を立てました。この経験を元に一冊本を出して見ようと! 手記を書きながら魔法使いのための街を訪れ、売り込みをしてみようと考えたのです! 我ながら冴えていました。

 フランスの古都ストラスブール。

 そこからドイツへ入り、魔法使いのための印刷業のメッカであるマインツへ。

 次は大都市、フランクフルトのメルヘン通り。

 再び国境を超え、デンマークの童話の街、オーデンセ。

 

 私の提案は……どこでも受け入れられませんでした。

 箸にも棒にもかからないわけではないのです。むしろ、関心を持ってもらうことに関しては、自分で言うのもなんですが私の右に出るものはいませんからね!

 ですが……面談を終え、好印象を与え、上の人間に実際に手記に目を通してもらう段まで行くと……断られてしまうのです。

 

 ストラスブールのカビの生えた書店では「文章には魅力を感じなくもないが中身がなにもない」。

 マインツの著名な印刷屋の管理職からは「もう少し経験を積んでみてはどうか」。

 フランクフルトの成金の一代社長からは「すぐ飽きられるだろう。投資する価値がない」。

 

 どいつもこいつも、見る目がありません!

 私は世の中に憤りながら、グランドツアーを続けました。デンマークの街オーデンセから更に北上し、たどり着いた場所はノルウェーの首都、オスロでした。

 確かにそこはマグル側の街並みは非常に活気があり、なかなか興味深い場所でしたが……魔法使い側の街は別です。もちろん、活気が無いわけではありません。マグルから影響を受けた新しいファッション、音楽……あるいはゾンコのようないたずらグッズや菓子類など若者文化を扱う店は、にぎやかに立ち並んでいました。

 しかし印刷業といった伝統的な事業に関しては、古都ベルゲンの魔法使いコミュニティに未だ集中していました。

 私もオスロに置かれたグリンゴッツの支店に寄ってお金をおろしたあと、予定としてはすぐにベルゲンに向かう予定でした。

 

 

 しかし……意外なところに、ウマがあう相手というのはいるものです。思わぬ足止めを喰らいました。

 

「おう……俺の酒代もあるな! どこからそんなカネが出てくるんだ? 落とすなよ」

「ハハハ! 奢りませんよ。私ぐらいになると、本国から報酬金が毎月入るのですよ」

 

 私も認めましょう……当時のこれは嘘っぱちで、報酬金などありはしませんでした。

 母はなお律儀に私に仕送りを送っていました。私がグリンゴッツの支店で受け取っていたのはそのお金です。

 しかし、こんな愚にもつかない嘘であっても、彼は真に受けて喜んで驚いてくれました。

 バーズムと名乗った彼はマグルに紛れて住む存在でした。スカンジナビアにもダームストラングという名門校が存在していますが、彼は魔法学校教育などとは無縁のまま育ったようです。週末にだけ山奥の小屋から降り、山奥の素材を魔法界で金に替え、得た金はそのまま全部蒸留酒(アクアビット)に換えて飲む。そんな男でした。

 

「そりゃ、魔法は知ってるよ。けどなあ、俺っちが知ってる呪文はたかが一つ。ほとんどスクイブみてえなもんだあ。この前杖を便所に置き忘れてえらいことになりかけたぜ」

 

 彼は懐から半ば朽ちている杖を取り出しました。

 相当年季が入っているように見えます。

 

「先祖から伝わるその呪文用の杖だ。使う機会なんてそうはないけどな」

「ほう! そんなあなたが知る唯一の呪文! 興味ありますな!」

「よせよ。ロックハートさんは魔法を1000でも2000でも知ってんだろ?」

「いえいえ、魔法を多少知っている程度のことは……自慢になど、なりませんよ。それよりも大事なのは人との調和! 魔法界と非魔法界のハーモニーの象徴のようなあなたもまた、素晴らしい人物だ!」

「良いことを言うなあ、魔法界と非魔法界のハーモニーか。気に入ったよ」

「かくいう私もその調和への調和を試みている人間でして、フランクフルトを訪れた際には……」

 

 彼は私のほら話やでまかせを真に受け、手を叩いて喜んでくれました。そう、幼少期の姉と妹のように。

 実際のところ……私が使える魔法など、ごく限られたものでした。在学中ですら真面目とは言えなかった私の魔法の腕は今や錆びついてしまい……1つしか使えないと話す彼を笑えないような有様でした。

 

「俺っちの呪文なんて見せても笑われちまう。それに一族でない者に見せちゃならねえって決まってんだ」

「どのような呪文なのですか?」

「そりゃ……あれだよ。トロールだ。ここらの山にはたまに出るんだよ。俺みてえな学のない魔法使いでもデカブツを追い払えるようにな」

 

 私はそれを聞いたとき、吹き出さないのが精一杯でした。

 確かに北欧といえばトロールの本場です。彼らが今なおノルウェーの奥地で眠っているのは皆知っていました。

 強力な魔法生物です。率直に言って、彼らのホームグラウンドである雪山で出逢って生還できる魔法使いは多くはないでしょう。

 そんなトロールをたった一つの呪文で追い払える。そんなウマい話あるわけがありません!

 

「まあ、んなことはおいといてだ。ロックハートさんの話はすげえおもしれえ。よかったら一晩うちに来ねえか? 自家製の蒸留酒(アクアビット)もある、マグルのやつにも負けない出来だぜ」

「そりゃあ是非とも! お邪魔させてもらいましょう」

 

 その日は彼の山小屋で、ノルウェー名物のブラウンチーズをつまみに酒盛り。

 私の舌も冴えに冴え、回りに回り。実に楽しい一夜でした。

 しかし好事魔多し。そんなときほど邪魔が入るものです。

 私が3杯目の蒸留酒(アクアビット)に手をつけたところで雪山すべてを揺るがすようなズシン、ズシンという音が山小屋に響きました。

 

「ちっ。こいつは出たかな」

「なに……なんですか? おしっこ?」

「ロックハートさんは絶対にここから出ないでくれ……酒をもうちょい飲んで、寝てりゃあいい。そうすりゃ俺にとっても都合がいいってもんだ」

 

 そう言い残し、彼は杖を掴んで慌てて外へ出ていきました。

 私もそう察しが悪い人間ではありません。もしかしたら、先ほど話していた門外不出のトロール退治の呪文とやらを披露するつもりなのでしょう。そんな呪文であればぜひ見てみたいですし、不発であればなんとか連れて逃げるなりする必要があるでしょう。

 私も杖を抜いて追いかけました。

 

 そこにいたのは、4メートルにも及びそうな巨体のトロール。

 教科書でしか見たことがないような存在をその目で見た私は、あっけにとられました。

 私が追いかけてきたことに彼は気付いていないようで、今にも襲いかからんとするトロールに対して、彼は噂の呪文を唱えました。

 

フラ・ホルベルク・ティド(Fra Holbergs Tid)!」

 

 その呪文に派手さは一切なく……実際のところ、私はそのときやはりほら話だったのだ、と思いかけたところでした。

 ところが……トロールは錯乱したかのように頭を振り、ふらふらと引き返し始めました。

 彼は安堵した様子で家に引き返そうとして……当然のように私と目が合いました。

 

「見ちまったか……さっきも言った通り、こいつは秘密なんだ。黙っててくれるよな?」

「そんな、とんでもない! バーズムさん、これは革新的な呪文ですよ! 『呪文の挑戦』に投稿すれば一躍時の人間違いなしです!」

 

 呪文理論の"り"も知らないような彼でも使えたのですから、しっかりと練習すればホグワーツ1年生でも使えるでしょう。これを広めるだけでも私の名声は上がるに違いありません。いや、もちろんこれでトロールに殺される人間が減るのも良いことですが……

 ですが、彼は私の申し出を意外にも断りました。

 

「ロックハートさん。トロールは山林に必要だ。俺ら魔法使いがこの呪文を至るところで使い始めたらあいつらはどこいったらいいかわからなくなっちまう」

 

 それは困ります。雑誌への投稿で得られる名声など一時的なものですが、このエピソードを本に書き、私個人と紐付けて発表すれば……いや、呪文の内容そのものは触れなくていいのです。プロからみて不自然のないようにいざというとき私だけができるようにしておけばいい。なにせ、実在するのですから、理論の裏付けは不要です!

 

「……わかりました。しかし、私はしばらくノルウェーを旅する予定です。またどこかで、今日のようにトロールに襲われるかもしれません。どうか、私にだけその呪文を教えてはくれませんか? あまりにも印象的で見事でしたから、呪文に関してはもう頭に焼き付いてしまいましたからね」

「だめだ。忘れてくれ」

「ああ。そうですか……では、あなたが忘れるといいでしょう! 忘却せよ(オブリビエイト)!」

 

 私の得意呪文はしっかりと彼に刺さり、トロール避けの呪文も私のことも頭からすっぽりと抜け落ちました。彼はこの呪文しか知らないと言っていましたから、魔法を一つも知らない魔法使いが誕生したわけです。ハハハ!

 あとは御存知の通り。この顛末を「トロールとのとろい旅」に記しました。トロール避けの呪文の難易度は非常に高く、私にも教えられないと書くことで手柄を独占しました。

 これが大当たり。同じ手筈で他の著書も発表し……天才的な魔法の発明家にして実践者として私の名声は留まることを知らなくなったのです!

 

 これが私の半生です。トム・リドルさん、お気に召しましたかな?

 楽しんでもらえた? よかった! できるかぎりユーモラスな語り口を心がけましたが、それでも愉快なエピソードばかりとは言えませんからね! 少し心配していたのです。

 そう……私ですら、世の中に忘れたいことがいくつもあります。

 父が私を見るときの怯えた視線。母の私にかける大きな期待。姉と妹の輝かせた瞳の奥にある虚無。

 越えられないほどの才能の輝き。持たざるはずの者が集めている羨望。

 杖を振りかざした瞬間の恨みがましく私を見つめる目。そして、次の瞬間には私の存在すら忘れてしまった呆けた視線。

 

 楽しいわけではない話など、この世にいっぱいあります。

 そんなものは……忘れてしまうか、楽しく脚色してしまうか。どちらかに限るでしょうね!

 

 開き直ってすべてを話してみましたが、案外気分がいいものです。まあ、知られたくないことはほとんどすべてもうご存知だったようですが。ところで、私の秘密をどうやって知ったんです? その手筈、教えてはもらえませんか?

 

 

 ─────

 

 

 おっと……少しうとうとしてしまいました。もう初夏です。ロンドンの日差しは貴重ですから、リスナーから頂いた手紙を窓際で読んでいましたが、さすがに量が量ですね! 私でさえも集中力を保つことができませんでした。

 さて、ここで少し反省しなければいけません。どうやら、私はホグワーツの子どもたちに対して本気を出しすぎてしまったようです! 子供相手に大人気ない、などという手紙も頂いてしまいました!

 確かに……ホグワーツに関しては少し心がざわつくところがありました。在学時代の私は教員皆に認められた好成績の生徒というわけではありませんでしたから、見返してやりたいという欲求があったのでしょうか?

 いえいえ、そんなはずはありません。今や私は大成功した作家にしてラジオスター、ギルデロイ・ロックハートです。そんな幼稚な願望を抱くはずが……

 

「よう。ロックハートさん。泣いても笑っても今日で最後だな」

「やあ! ポッター教授、引率おつかれさまです。ねぎらいのサインなどいかがですか?」

 

 どうやら、ホグワーツから最後のメンバーが到着したようです。

 向こうの本命は明らかにグリフィンドールの代表でした。ミス・グレンジャーの様子を見るに、最後に来ると見せかけてあえて順番をズラし、こちらの思惑をくじこうとしたようでしたが……省に顔の聞く人間と両面鏡を通してつながっていたのが幸いでした。彼らは私の入出国記録を……迅速に誤魔化してくれましたからね。

 

「サインはいらねえかな。んでもって、今日の俺は引率じゃない」

「ほう。というと?」

「特等席で観戦しに来たんだ。決闘チャンプのお手並みをな」

「ミスター・ロックハート!」

 

 私とポッター教授が話しているところを割り込むようにして、廊下からスタッフが駆け出してきた。

 何事でしょうか。

 

「最後のレイブンクロー代表は、生徒ではありませんでした」

「ほう。どなたがいらっしゃったのですか?」

「フリットウィック教授がいらしています!」

 

 

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